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ミステリの祭典

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対怪異アンドロイド開発研究室

作家 饗庭淵
出版日2023年12月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 8点 文生
(2024/05/14 11:11登録)
心霊現象を調査するのに人間が現地に赴くと精神がもたず、かといって、機械にまかせると心霊現象が発現しないということで、それなら人間に近い存在ながら心を持たないアンドロイドに調査をさせようという発想がユニーク。
心霊ホラーというと普通、登場人物が精神的に追い込まれていくのが見どころののひとつなのですが、本作の場合、アンドロイドのアリサが表情一つ変えずに淡々と調査を続けていくさまがシュールで逆に面白い。人間の研究員が悪霊に襲われて助けを求めているのに、研究員の安全確保より調査を優先しようとするシーンなどは笑いました。また、心霊現象を科学的アプローチで解明しようとするSFとしての側面も興味深く、SFホラーとして非常によくできた作品です。

No.1 6点 人並由真
(2024/05/13 04:15登録)
(ネタバレなし)
 近城(きんじょう)大学の女性工学者・白川教授が、外部の企業のスポンサードのもとに生み出した超高性能アンドロイド「アリサ」。若い美女の姿をした全重量130㎏の彼女は、複数の超科学機能を備えた高性能AIのアンドロイドだった。その活動目的は、すでにこの世に実在が前提視されているさまざまな「怪異」を探求し、その真偽のほどを数値化して分析しながら、データを持ち帰ることだが。

 怪談ホラー連作(本書には全7話収録)の物語世界に、高性能アンドロイドのスーパーヒロインを放り込むという趣向というか発想が面白そうで、まったくのフリで読んでみる。
 当然、初めて読む作家だが、webで検索して調べてみると、この作者の人(饗庭淵=あえば ふち)は、ちょっと興味深そうなR15ゲームの原作も手掛けていた。まあ本作は、そっちの方向とはまるで関係ないが。

 アクションホラーではないので、アンドロイドヒロインのアリサが科学パワーで怪異(妖怪やモンスターなど)を次々と一刀両断していく話ではなく、むしろ怪異が結局は人外のものという現実を際立たせるために、アリサと彼女をバックアップする面々の背骨となる科学性は、その相対化の便法となる(こともある)。そこら辺のグレイゾーンのバランス感は、なかなか趣深い。
(ネットでは『裏世界ピクニック』シリーズと似てるといった趣旨の感想も見かけたが、個人的には、まあわかるような、なんかそれは違うような? という感じ。)

 合理思考の高性能アンドロイドとして、冷徹な判断や言動をとるのが基調のアリサだが、製作者の意向的なもので「人間らしく」ジョークも言うようにプログラミングされており、その辺もあって、かなりすっとぼけた、しかし妙にかっこいいヒロイン像が確立。この辺のキャラクター造形はとても良い。良い意味で古典的なロボットテーマのSF、その21世紀版を読む楽しさもあった。
 
 日常モダンホラーとして何ともいえない味わいの話が続き、心に澱(おり)が溜まっていった頃合いに最後のエピソードを迎え、本書はそこでいったんのマトメとなる。
 とはいえ続編は間違いなく書かれそうなクロージング。今回は連作の形で設定篇~世界観のありようを消化したので、たぶん次回はこってりした長編が上梓されるのじゃないか? と予期する。
 今後のシリーズの展開を見守りましょう。

 評点は受け手の評者が中身を読み切れていない感じがあるので6点にとどめておくが、実質7点。悪い数字ではない、ということで。

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