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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:1228件

プロフィール| 書評

No.1128 8点 十戒
夕木春央
(2023/12/30 09:24登録)
 衝撃度という点だけで見れば昨年の「方舟」に及ばないものの、この作品も相当に良質な本格作品。犯人とコミュニケーションがとれる「孤島モノ」の設定が秀逸だし、足跡のロジックも好印象。ラストも、最初は〝違和感〟レベルであったけれど、気づけばなるほど、なるほど。これも印象深い。


No.1127 8点 可燃物
米澤穂信
(2023/12/23 09:51登録)
 作者の力量を再確認いたしました。どの短編も無駄のない流れですが、決して無機質ではなく、グイグイ読ませます。その中での転換が実にお見事。
 マイベストは思わず唸った「命の恩」。次点はタイトルも秀逸「本物か」。凶器は何か「崖の下」も良作で、いずれも盲点を突く転換がポイント。その後に「ねむけ」「可燃物」と続く印象。
 良質な警察小説短編集と言えるのではないかな。


No.1126 7点 臨場
横山秀夫
(2023/12/17 22:54登録)
 作者の短編集の中でも上位に位置付けたくなる、高水準の短編集。
 検視官を主人公として、事件の意外な結末を見抜くという基本線は勿論のこと、それに事件の関係者の心情もキッチリと噛ませつつ反転させていく構成力には感服いたします。ちょっと無理筋な点もなくはないけれども、とにかく読ませます。さすがは短編の名手。


No.1125 7点 女が死んでいる
貫井徳郎
(2023/12/12 23:07登録)
 文庫版の解説でも触れられていたのですが、実は貫井さんの短編集って少ないのですよねぇ。実際、私は「被害者は誰?」しか読んだことがないし。短編も巧い作家なのに勿体ない…ということで、現時点での最新短編集(実は四半世紀前の短編も多く収録されているのだけれどね)を手にした次第。
 作者らしい反転系が中心なのですが、短編自体のバラエティは豊かで、次の短編はどうなんだろう…と期待しながら読むことができます。「殺意のかたち」や「憎悪」、「母性という名の狂気」あたりで作者の技巧を堪能しつつも、個人的には「レッツゴー」の軽み&深みも好み。この短編、好きだな。
 ちなみに、「殺人は難しい」の答えは、多くの方が気づくのではないかな。


No.1124 5点 モップの精は旅に出る
近藤史恵
(2023/12/07 22:27登録)
 シリーズ第5弾、そしてシリーズ最終巻。前作は長編だったのだけれど、今回は短編集に戻っています。
 ミステリとして特段目立つ部分はない(むしろ犯人は分かりやすい)のですが、キリコと大介の夫婦関係も好ましく、読み心地が良いです。ミステリ的な側面は別としても、安心して読める、結構好きなシリーズだっただけに、これ以上読めないのは残念。


No.1123 8点 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック
鴨崎暖炉
(2023/12/05 20:18登録)
 前作も良かったのだけれど、続編はそれに輪をかけて楽しかったですねぇ。軽快でコミカルな語り口もフィットしてましたね。
 今回の密室では特に「十字架の塔の密室」の振り切れ具合が印象的。こういうの、嫌いになれない。というか、本当は大好き。また、密室推しの流れの中での最終盤のネタも嫌いじゃない。結構驚いちゃったりして。
 ちなみに、他の豪快系ネタも含めて「いやいや、犯行時に誰かしら気づいちゃうだろ、普通!」等々の考えは、楽しい読書の妨げになるので早々に捨て去りました。そういった考えこそ楽しいのだ、という説もあるのですが。


No.1122 7点 青き犠牲
連城三紀彦
(2023/11/28 19:10登録)
 ボリューム的にはコンパクトだけれど、中身は濃縮しています。ギリシャ悲劇に絡めながら二転三転させていく展開がお見事。伏線も含めて、そこかしこに「連城らしさ」が表れています。数ある連城作品の中では目立った位置づけではないのかもしれませんが、個人的には評価したい作品。


No.1121 5点 モップの精と二匹のアルマジロ
近藤史恵
(2023/11/25 14:38登録)
 シリーズ第4弾で初の長編。
 キリコはある女性から夫の行動を探ってほしいとの依頼を受ける。その夫は、キリコの夫・大介と同じオフィスビルで働いていたが、大介の目の前で車に撥ねられ、直近3年間の記憶を喪失してしまう…。
 謎の一部は中盤で何となく予想がつくのですが、それは別として次々に読み進めたくなった作品。読みやすいし、キリコと大介の関係も微笑ましい。人の心の脆弱性に触れるのは、整体師探偵シリーズに通じるものがあります。一方で、もうワンパンチ欲しかったような気も。ちなみに、アルマジロ自体は登場しませんので、動物好きの方はご注意を(そういった観点で手に取る人はいないか…)。


No.1120 6点 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1
高木彬光
(2023/11/18 22:42登録)
 よく言えば、昭和の薫り溢れる短編集。雰囲気が堪らないですね。一方で、言い方を変えると「古い」ということにも…。
 個人的には「妖婦の宿」がベスト。犯人当て短編として誉れ高いことも頷けます。次点が「影なき女」の階層性か。「白雪姫」も嫌いではないけれど、他の短編は…といった印象。
①白雪姫:「雪密室」だけに着目するとアレだけど、トリッキーな短編ではある。
②月世界の女:人間消失モノ。雰囲気は嫌いじゃないけど真相は見えやすい。
③鏡の部屋:これも人間消失モノ。鏡の部屋だからねぇ…ってタイトルどおりか。
④黄金の刃:密室というよりアリバイ系?正直、ちょっと評価できない。
⑤影なき女:トリック自体は別として、なるほどよく考えられている。
⑥妖婦の宿:「犯人当て」の名作。


No.1119 6点 素敵な圧迫
呉勝浩
(2023/11/12 17:52登録)
 ノンシリーズの短編集。ミステリとしての評価が難しい短編もありますし、全体としてもミステリの味付けが強いとは言えませんが、何だろう、ひっそりと心に残りそうな短編もございました。個人的には、⑤と表題作の①、さらに当時の閉塞感を上質に伝えていた⑥を評価。
①素敵な圧迫:隙間に体を滑り込ませることによる圧迫を愛する女性の物語。
②ミリオンダラー・レイン:3億円事件がモチーフ。当時の時代背景もポイント。
③論リー・チャップリン:10万円渡さないとコンビニ強盗すると息子から脅迫される親。論破って何だろう。
④パノラマ・マシン:所謂パラレルワールドに行き来できる機械を拾った二人組。あちらの世界ではどんな悪事も可能だが…。
⑤ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について:無敗の天才ボクサーを語る。
⑥Vに捧げる行進:新型コロナウイルスが猛威を振るう中で…。


No.1118 6点 クローズドサスペンスヘブン
五条紀夫
(2023/11/07 20:28登録)
 現世で惨殺された6人が、ほぼ記憶をなくした状態で天国に返り咲く。自分は間違いなく誰かに殺された。自分は誰で誰に殺されたのか?「全員もう死んでる系ミステリー」との触れ込み。
 軽快な語り口の中で、あまり深く考えずにスイスイと読み進めてしまいましたが、読後に振り返ってみると、構成はしっかりと考えられていると思います。
 一方で、個人的に乗り切れなかった部分があったのも事実。特殊設定の必然性があまり感じられず、ご都合主義的に見えたからかな。勿論、楽しく読ませていただいたのですが。


No.1117 6点 ダイヤル7をまわす時
泡坂妻夫
(2023/11/01 21:26登録)
 ノンシリーズの短編集。作者の他の短編集と比較すれば一段落ちるという印象はありますが、十分に楽しめる作品が揃っています。
①ダイヤル7:懸賞つき犯人あて小説として発表された作品。犯人あて小説としてもしっかりしているが、小説全体の仕掛けも見事。
②芍薬に孔雀:作者らしい作品で楽しく読ませてもらったものの、犯人の行動には合理性がない。
③飛んでくる声:この短編集の中では目立たないかも。
④可愛い動機:松本清張の「疑惑」と同じ題材を扱いながらも、結末の違いにニヤリ。
⑤金津の切符:倒叙もの。ラストが洒落ている。
⑥広重好み:唯一、殺人が起きない作品。お洒落な好編。
⑦青泉さん:謎の転換の妙。


No.1116 7点 ヨモツイクサ
知念実希人
(2023/10/28 00:19登録)
 序盤からグイグイ引き込まれる展開。緊張感もあって、期待も高まりましたね。ホラーとしても秀逸。力作だと思います。
 一方で、結末というか、「肝」となる部分は結構早めに想像することができます。それこそ、伏線が蒼く光って見えるようです。逆にミスリードに嵌っているのかぁ、くらいの感覚。後半のバトルシーンも素晴らしかったのだけれど、「早く答え合わせしたい」という気持ちの方が勝ったりして。最後の最後の一捻りも想定の範囲内と言えます。
 …などと書きつつも、楽しく読ませていただいたことは事実。医療の知識や経験をベースとしながら、この作者さんの裾野は相当に広そうで、今後も楽しみに新作を待つことになると思います。


No.1115 4点 死への招待状
西村京太郎
(2023/10/22 21:19登録)
 6作が収録された短編集。いずれも私立探偵が登場しますが、同一の探偵が登場するのは2作(危険な男・危険なヌード)の秋葉京介のみ。
 作者は、人事院を辞めて作家を志す過程で、探偵事務所に勤務していた時期(1963年頃)がございました。収録された各短編の初出が1964年から1976年までらしいので、おそらくは、自身の勤務経験も踏まえて書かれたものと思われます。
 短編集全体として見ると、結末があまりにも予測しやすい短編や、単に筋書きを読まされただけでは…といった短編もあって、積極的な評価はしにくいかなぁ…というのが正直な印象。その中でも、個人的には、作者の探偵事務所経験が新鮮であったであろう、1964年初出の「罠」という短編が、作者の初期作品を辿るという意味で興味深かったかな。


No.1114 6点 天久鷹央の推理カルテⅡ ファントムの病棟
知念実希人
(2023/10/20 22:25登録)
 シリーズの続編で、2つの短編のあとに中編が続く構成。
 2つの短編の「謎」自体は、いずれも疾病や医学の知識がないと解きようがないのですが、反転などの工夫は施されていて、印象は悪くなかったですね。
 中編については、医学の知識の有無は別として、ストーリーの流れや結末を容易に察することができますが、終盤のあるシーンには涙腺が緩みました。ベタと言えばベタ。でもこういう物語って、やっぱり沁みる。


No.1113 6点 W県警の悲劇
葉真中顕
(2023/10/15 21:52登録)
 架空の県警を舞台とした連作短編…なのだけれど、横山秀夫とは全然異なるテイスト。こっちもイイですねぇ。個人的には、「交換日記」のあざとさが好きです。
 ただし、後半になるとこちらも構えがとれてきて、特に「破戒」は序盤からの予想どおりの着地。最終話「消えた少女」の伏線も分かりやす過ぎたかも(別の角度での驚きはあったけどね)。
 総合的には、読み得な連作短編だったなぁ、という感想。


No.1112 6点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/10/13 22:23登録)
 売れているようですねぇ。今年最大の話題作と言ってもいいのかもしれません。こうなったからには(?)読まずにはいられない、ミーハー気質の私であります。
 正直、最大のポイントというか特徴については、途中で気づいてしまいます。タイトルからも…ねぇ。その必要性を追いかける展開になることも、想像がつきます。なので、“驚き”という面では、決して大きいものではなかったです。
 一方で、制約がある中での各種工夫は素直に評価したいと思いますし、その前提として、一定のページ数を書き上げた努力には敬意を表します。記憶に残りそうな作品ではあります。(この種の作品を1年以内に複数読むことになった点も記憶に残りそうです。)


No.1111 8点 女王国の城
有栖川有栖
(2023/10/08 19:04登録)
 世にも珍しい高価な食材などを使わなくても、一つ一つ丁寧に調理することで、多くの人の舌を満足させられる料理に仕上げられる…そんな印象。宗教団体「人類協会」の描き方に作者らしさを感じたりも。
 シリーズものとして楽しめるのもいい。このシリーズは長編5作で完結する予定とのことなのですが、いつになるのだろう。早く読みたいような、もう少し待ってほしいような…。


No.1110 7点 サクリファイス
近藤史恵
(2023/09/24 13:51登録)
 エースとアシストの役割、他チームとの駆け引き…サイクルロードレースの魅力が伝わってきました。ミステリとも巧く融合させていますし、スポーツ・ミステリとして極めて良質だと思います。グイグイ読まされました。
 一方で読後に振り返ってみると、ある人物の動機?には相当な違和感が。また、別のあの方の好み?がどうなっているのか、全く理解できない…等々気になる点があったことも事実。この作品の魅力を全て削ぐものではないけれどね。


No.1109 6点 思い出列車が駆けぬけてゆく
辻真先
(2023/09/18 20:32登録)
 鉄道好きで有名な辻御大の、鉄道ミステリ短編12編。発表順に掲載されており、1983年から2011年までの鉄道ミステリ短編からチョイスしたようです。印象的だった短編は1作目の「お座敷列車殺人号」と最終話「轢かれる」。つまり約30年の開きがあるわけで、その内容やタッチも対照的ということも興味深い。後半になるにつれて、〝人生〟を感じさせる作品が多くなっているような気がします。
 鉄分多めの私としては、旅情とか風景といった面だけではなく、鉄道をとりまく状況だとか「鉄道そのもの」を取り上げようとする作者の姿勢にも好感。作者らしい技巧とともに、感慨深く読ませていただきました。

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