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ミステリの祭典

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案山子の村の殺人

作家 楠谷佑
出版日2023年11月
平均点7.25点
書評数4人

No.4 7点 まさむね
(2024/02/20 23:01登録)
 従兄弟で合作推理小説を書いている大学生コンビが、秩父の山奥の村で遭遇した殺人事件。奇をてらわないクラシック・スタイルの本格モノで、好感を持たれる同志の方も多いと思います。登場人物の造詣も上手く、ストレスなく読み進められます。密室の謎は小粒かもしれませんが、ミスディレクションには感心。ぜひとも続編を書いてほしい。

No.3 7点 人並由真
(2024/02/09 15:53登録)
(ネタバレなし)
 2022年の初め。「僕」こと創桜大学の学生・宇月理久は、同い年の従兄弟、そして学友でもある篠倉真舟と合作し、高校時代からミステリ作家「楠谷佑」として商業出版で活躍していた。そんな二人は同じ大学の友人・秀月旅路の誘いで、彼の実家である秩父の「宵待村」にある温泉宿「宵待荘」に2月4日から8日まで投宿することにする。宵待村は秩父の山奥にあり、吊り橋のみで外界と繋がる、案山子製作で知られた場だ。そしてそんな山村で理久と真舟を待っていたのは、世にも不可解な<密室殺人>だった。

 たまたま作中の物語の大筋と、ほぼ同じ日付で読んだ(笑)。こーゆーことも、タマにはあるもんである。

 SRの会でのウワサで、クイーン(ロジック)、カー(密室殺人)、さらにクリスティーを思わせる趣向「あの(中略)の意味は?」まで全乗せというので楽しみにしていたが、さすがにもう著作も多い書き慣れた作者ゆえ、それなりに厚めの話をスラスラ読ませる。登場人物も紙幅に比例してちょっと多めだが、各キャラクターのくっきり感がかなり明快なので、読者的にもストーリーへの密着感がかなり高い。

 トリックは昭和30年代の旧「宝石」の新人作家を思わせるようなもの(具体的に前例のあるものに類似とかじゃなく、センスの意味合いで)だったが、被害者を誘導するあたりの手際にからむロジックとかはなかなか面白かった。前述のクリスティーっぽいところもそこそこうまくいっているとは思うが、一番の得点部分はその辺の名探偵コンビの思考のありようだろう。
 最後に明かされるホワイダニットの真相は思う所も多く、それこそ三大巨匠の一角にも通じて余韻も大きい。まああれこれ語るのは控えるが、ここも本作の勝負ポイントのひとつであったろう。

 弱点……といえるか、気になったのは、結局は(中略)の件など、要はただの偶然? めいたものだったこととかな。まあミスディレクションの仕込みとしてアリか。作者もお約束を自嘲する余裕もあったみたいだし。

 作中の随所で出て来るミステリのトリヴィアも楽しく、まずは良作。SRのベストで昨年の5位までには入らなくてもいいが、10位までには入ってほしい、そんな一冊。シリーズ化ももちろん希望。

No.2 8点 HORNET
(2024/01/13 21:04登録)
 合作推理作家の大学生コンビ・宇月理久と篠倉真舟は、取材旅行も兼ねて同級生の地元「宵待村」への帰省に同行することにした。宵待村は、別名「案山子の村」とも呼ばれるほど、町興しも兼ねて案山子が林立している村。だが2人が着く早々、村にある看板に毒の矢が射込まれ、ついに殺人事件が勃発する。現場はいわゆる雪の密室の様相を呈していた――。

 定期的に読みたくなる、純粋な本格推理モノ。〈読者への挑戦状〉も挿入され、往年の本格ファンには堪らない一作では。
 始めの謎として立ち現れた「雪の足跡」に関する真相はちょっとチープではあったが、犯人の動機、真相を絞り込むまでの過程、クローズド・サークルにふさわしい舞台演出など、本格推理欲に十分応えてくれた満足感。
 堪能しました。

No.1 7点 silver cloud
(2024/01/08 18:57登録)
案山子がある山の奥の村にしては地味すぎるんじゃないかと思うほど、地に足をつけたまま話が進む。
こういう書き方は嫌いではない。吹けばど飛ぶほど軽いミステリーが多い中、こういうミステリーもなければならないと思う。
ただ、地に足をつけているだけに、トリックがちょっとチップに感じられる。でもそこで終わるのではなく、後半の展開で楽しませる。
まあ、動機も個人的にはありだと思う。
有栖川有栖が好きなら読んでみても損はないと思う。

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