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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:1195件

プロフィール| 書評

No.575 7点 夕萩心中
連城三紀彦
(2016/02/22 00:00登録)
 光文社文庫版で読了。花葬シリーズ(全8編)のうち、「花紋文字」・「夕萩心中」・「菊の塵」の3編と、連作短編「陽だまり課事件簿」が収録されています。
 花葬シリーズは文句なし。特に表題作「夕萩心中」の流麗なタッチで描かれる三者三様の想いが印象的です。「菊の塵」の、まさに“歴史的”反転にも驚きで、ある意味でハウとホワイの絶妙な組み合わせ。花葬シリーズ、素晴らしい。
 なお、後半の「陽だまり課事件簿」は、完全にユーモアタッチで、花葬シリーズとは一変。舞台も、花葬シリーズの明治・大正・昭和初期から、戦後の現代へ一気にジャンプ(と、言っても昭和後期なのでしょうから、今と比すれば相当に古いのですがね。携帯とか無いし。)これらのギャップは面白いし、単なるキャラ短編ではない発想も流石だとは思うのですが、花葬シリーズと比べると、どうしても落ちますねぇ。
 総合して、この採点とします。


No.574 4点 夕暮れ密室
村崎友
(2016/02/14 11:47登録)
 正統派の密室ハウダニット作品ではあります。青春モノとしても、ありがちな展開とは言え、決して悪くありません。が、何点かの疑問が。

(以下、ネタバレ要注意)
 まず、この密室は本当に完成するのか。換気扇から本当に漏れないのか。ポスターで塞がれた程度で、ソコまで可能なものか…。うーん、素人目で見ると、相当に無理っぽいのだが…。それと、ソレで空かない扉について、本当に鍵が閉まっていたことと誤認するでしょうかねぇ。感触が全然違うと思うのですが…。
 また、各々の生徒の独自の推理って必要だったのかなぁ?あまりにも杜撰というか、訳のわからないロジックもあって、何とも…。


No.573 6点 星読島に星は流れた
久住四季
(2016/02/11 10:52登録)
 典型的な孤島系クローズドサークルもの。とはいえ、サスペンス的な要素は少なく、軽妙なキャラ設定も相まって、殺伐とした雰囲気はありません。「閉じた」島の中で、「開かれた」宇宙(から来た隕石)をモチーフにしたコントラストも、なかなかに美しい。個人的にはど真ん中の設定です。
 真相自体は正直「いかにも」といったモノで、パンチ不足は否めないのですが、このご時世(?)に、正面切って孤島モノに挑んだ姿勢は買います。コッチ系に目がない方は、一読してみては?


No.572 6点 透明カメレオン
道尾秀介
(2016/02/06 18:53登録)
 ラジオパーソナリティ「恭太郎」は、声は抜群、容姿はイマイチ。ある日、行きつけのバーで不可思議な女性「恵」に出会う。バー常連の仲間たちも彼女に巻き込まれ…という展開。
 流石と言いますか、飽きさせることなく適度な転換がなされ、心地よいドキドキ感を持って読み進めることができました。各々の部分では、ちょっと先が読めてしまう面もあるのですが、全体像からすれば、それもまぁ小さな問題なのかな。読後感も良く、(ミステリ的観点に拘らない)小説としては、好きなタイプですね。


No.571 6点 死と砂時計
鳥飼否宇
(2016/01/31 19:42登録)
 国家戦略として、世界各国から死刑囚を引き取り、処刑を行うジャリーミスタン首長国。その終末監獄がこの連作短編の舞台。実母と義父を殺害したとして収監されたアラン青年が助手となり、監獄内で一目置かれる探偵役シュルツ老人とともに、監獄での事件を解決していく…というストーリー。
 収録されている6短編のうちの最初の5つは、なかなか魅力的な謎ではあるのですが、結構わかり易いモノもあったりして、標準的といったところでしょうか。
 ポイントは最終話でして、連作短編としての味を堪能できます。それなりに振り回された挙句に、あのラスト。いやはや、そう来ましたか。


No.570 5点 どんでん返し
笹沢左保
(2016/01/21 23:54登録)
 二者間の会話のみで構成される短編集。3名が発言する短編もありますが、いずれも、それぞれ「二者間」の会話で構成されています。
 軽快で読みやすいのですが、全短編に期待するレベルの反転があるのかと問われれば、ちょっと苦しいかな。まぁ、タイトルが「どんでん返し」っていう時点で、あれこれ想定しながら読んでしまいますし、ハードルも上がってしまうのでしょうが。


No.569 5点 松谷警部と三ノ輪の鏡
平石貴樹
(2016/01/16 23:00登録)
 松谷警部シリーズ第3弾。
 白石イアイ巡査部長(昇進したのですね)による、伏線を丁寧に回収していく解明シーンが読みどころ。真相にも、(現実味は別として)意外性があります。
 一方で、どうしても警察の捜査過程をひたすら読みこむ…という時間帯が長くなり、特に中盤、読み進めるモチベーションの維持に苦労したことも事実。
 堅実かつ高精度の作品であることは確かで、さらに読者を引っ張る吸引力を求めるのは、欲張り過ぎなのかもしれませんが。


No.568 4点 ちょっと今から仕事やめてくる
北川恵海
(2016/01/09 22:13登録)
 まぁ、ミステリー的な側面が無いわけではないのですが、相当に軽め…というか、簡単すぎる。これをエサにして、どんなどんでん返しがあるのか…と、様々想定させておきつつ、捻りなしでそのまま終わらせるという、むしろ相当に高度なテクニックなのかもしれません(嘘)。このサイトでの採点としてはこのあたりか。
 とはいえ、あっという間に読み切れる分量だし、特に若手で企業社会に嫌気が差している方には読んでもらいたいかな。


No.567 6点 さよなら妖精
米澤穂信
(2016/01/09 22:02登録)
 昨年話題の「王とサーカス」、さらに連作短編集「真実の10メートル手前」を読む前に、これらの探偵役らしい「太刀洗万智」に触れておこう…という、ある意味で邪まな動機で手にした次第です。
 ミステリとしてはちょっと弱いというか、多少のこじつけ感もありますねぇ。しかし、印象は決して悪くない。ユーゴスラビアから来日した少女を中心に添えた意義は大きく、ラストは印象に残りそうです。同国についても、随分勉強になりましたしね。
 さて、この作品でも印象的であった「太刀洗万智」のその後について、「王とサーカス」、or「真実の10メートル手前」を読むことが楽しみになってきました。


No.566 6点 静おばあちゃんにおまかせ
中山七里
(2016/01/03 19:07登録)
 文庫版解説で佳多山大地氏も述べているのですが、いやはや、まずはタイトルと表紙に(勝手に)騙されましたね。静おばあちゃんが日常の謎を解く安楽椅子モノと思っていたところ、思いっきり人が死ぬ連作短編でしたね。
 正直、個々のトリックは既視感のあるものばかりでしたが、謎自体は非常に興味深く、本格指向は明確です。法とは何か、人を裁くとは何か等々、社会派的な側面も含めて、個人的には結構好きなタイプでしたね。静おばあちゃん、その孫娘「高遠寺円」、若手刑事「葛城公彦」のキャラも嫌いではなく、連作短編として上手く纏まっていると思います。ただし、ラストに関しては賛否が分かれるかも?


No.565 6点 陽気なギャングの日常と襲撃
伊坂幸太郎
(2015/12/31 15:13登録)
 素直に面白いエンタメ小説。伏線の仕込み&収斂の巧さ、憎めない登場人物と小粋な会話、読後の爽快感などなど、いかにも伊坂さんらしい。陽気なギャングシリーズは、色々考えずに、本に身を委ねてひたすら楽しむべし。
 さて、そのうち第3弾の続編も読んでみよう。


No.564 5点 化石少女
麻耶雄嵩
(2015/12/27 09:15登録)
 最初の30ページくらいまで、「これは、本当に麻耶作品なのか?」と表紙(作者名)を見返した程、いつものテイストとは異なります。
 まぁ、探偵とワトソン役との新機軸(推理はともかく変人扱いされる探偵+外形的に探偵の下僕的役割ながら最終的には探偵を操縦しているワトソン役)を示したあたりは、いかにもこの関係性を追求し続けてきた作者らしいと言えますし、これらの点での新鮮味はあります。
 一方で、各々のトリック自体は微妙な印象。普通、何らかの痕跡があるはずだから、警察も気付くよね、少なくとも調査はするよね…的なネタも多いかな。全体的に、スカッとしたい人には向かないかもしれませんね。


No.563 7点 赤い博物館
大山誠一郎
(2015/12/20 23:40登録)
 閑職である「警視庁付属犯罪資料館」の館長を務める美人キャリアと、凡ミスから捜査一課を追い出された巡査部長。このコンビが次々と過去の事件の真相を解明していく…と、超要約してしまえば、警察小説と言えなくもないのですが、中身は完全な本格ミステリ。どの作品も想定以上の着地を見せてくれましたし、ロジックも良。高水準な短編集と言えましょう。マイベストは、作中作の使い方が光る「復讐日記」か。


No.562 5点 舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵
歌野晶午
(2015/12/13 22:46登録)
 14歳になった舞田ひとみ。今回は探偵役なのだけれども、相変わらずすっ呆けた言動が楽しい。でも、ミステリとしては緩いなぁ。イマイチな短編もあったなぁ。(そもそも暗号モノが好きではないのでね。)


No.561 5点 中野のお父さん
北村薫
(2015/12/08 22:48登録)
 出版社(文芸部)に勤務する体育会系女性編集者が出会った日常の謎を,定年間近の教師である父(中野在住)に相談してみると見事解決!…という、安楽椅子モノの連作短編集。探偵役が教師ってあたりは、作者自身をモチーフにしているのかな。8つの短編とも、分量は少なめなので、あっという間に読了できます。
 非常に読みやすいタッチで読み心地が良いです。出版社の楽屋ネタ?や、文芸・落語に関する薀蓄も楽しく、女性編集者にも好感が持てます。ただし、ミステリとしても軽めのタッチなので、多少物足りなかった印象も否定できないかな。


No.560 5点 舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵
歌野晶午
(2015/12/05 18:05登録)
 ノベルス版の「著者のことば」で、「本書を一言であらわすなら、『ゆるミス』、『やわらか本格』―まあそんなところです。」とありますが、まさにそんな感じ。人はガンガン死ぬのですが、何故かほのぼのとしています。これは舞田ひとみ(11歳)のキャラによるところ大なのですが、予想に反して探偵役ではないのですねぇ。勝手に女子版コナンかと思っていたのですが…。出番も叔父の歳三氏の方が圧倒的に多いですね。
 作者にしては変化級が少なく,ストレート中心のピッチングといった印象ですが,水準級には楽しめたかな。


No.559 5点 パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から
似鳥鶏
(2015/11/30 19:17登録)
 ストーリーとして敢えてスイーツにこじつける意義が少ないような気がするなぁ…、そもそも喫茶店・珈琲店・ビストロ系ミステリ(勝手に括ってみた)は食傷気味なんだよなぁ…ってのが、正直な感想。
 一方で、第3話「星空と死者と桃のタルト」における“放射線おばちゃん”の描き方など、「そうそう、いるいる!こういうタイプ!」と膝を打つ場面もございました(ミステリとしては直接関係ないですけどね…)。各短編自体は悪くなく、連作モノとしても無難にまとめていると思います。


No.558 10点 折れた竜骨
米澤穂信
(2015/11/28 20:52登録)
 当時、各種ミステリランキングで相当に評価が高かったことは、知っていたのです。しかし、表面だけで判断しがちな私は、「はぁ、剣と魔法の世界って言われましてもねぇ。しかも舞台は中世ヨーロッパときましたか。はぁ。」といった心の声に従い、決して手にしなかった訳であります。
 嗚呼、なんと浅はかだったのでしょう!ファンタジーとミステリの見事な融合。解決シーンは圧巻で、まさに本格の王道路線。(消去法による解決手法はベタすぎるとの意見もありましょうが、この手法もまた王道の一つと言えましょう。)伏線の配置と回収もお見事。さらに、登場人物の一人ひとりが実に魅力的で、ストーリーとしても美しい。
 特殊設定系ミステリの新たな可能性を体感させていただいたことに感謝申し上げ、思い切ってこの点数に。


No.557 7点 その時の教室
谷原秋桜子
(2015/11/20 21:22登録)
 構成としては、教諭を中心に据え、学校を舞台とした4つの短編に、その短編間に挿入されている幕間を繋ぎ合せて、プラス1短編といった構成。
 短編のうち、「その時」のラスト1行が心に突き刺ささりました。ミステリ云々という視点は別として、これまでに経験のない読後感。私の個人的な体験が深くかかわっていることは間違いないですが、かなり響きました。
 また、「幕間つなぎ短編」については、あざとすぎる面は否めないものの、最終的には、そのような視点では読んでいないし、前向きで巧くまとめてくれたな…という印象。私にとっては、相当に印象に残る読書となりました。


No.556 7点 ミステリー・アリーナ
深水黎一郎
(2015/11/15 19:10登録)
 叙述を重ねに重ねて、なお成り立たせる構成力に、まずは魅かれました。
 さらに、その前提として、よくもまあこれだけの伏線(正確には伏線のための伏線って感じか)を仕込んだものだなぁ…と、その努力にも感心。「はいはい、ここ注目ですよ~」といった判りやすいものから、「そこまでやっちまうのかい!」と突っ込みたくなるものもあって、なかなかに楽しめましたねぇ。
 作者の遊び心を楽しみつつ、読後には結構考えさせられる同志もいらっしゃるであろう、精緻な作品という印象かな。

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