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ミステリの祭典

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おやすみ人面瘡

作家 白井智之
出版日2016年10月
平均点6.22点
書評数9人

No.9 9点 斎藤警部
(2026/04/29 18:28登録)
“人間” だとよ 笑

十七年前、事件があった。
それを踏まえて… 仙台市と、近郊の腐った街とを中心に、実写映像化は控えるべき “特殊異形風俗店” を巡る企みと、腐った環境なりにポップな中学生たち(と腐った教師たち)の生活とが、微妙につながったカットバックで描かれる。
その背景には、タイトルからぼんやりと想像は付くが、その想像を大きく超えるであろうオッヅォマシイ医学的特殊設定がある。 まっことゲロ吐き注意である。

「商売のコツっていうのは、みんなが欲しいものを、楽に仕入れて売るってことなんだ」

心のメモを取る暇も許されない謎/暴力/疫病の重戦車進行。 箍と書いてタガが外れた暴走リーダビリティ。
ギラギラ多重解決の嵐がいったん過ぎ去ったあと、むしろ一呼吸置くような熱い物思いと行動、からの、、 ここは書かないでおきますね。

「すげえ根性だな。 おれだったらそこまでして生き延びる気にならねえよ」

正直、もう誰が何で何を誰に何処のドイツで西ドイツなんだかモミクチャ判別不可の袋小路に追い込まれる流れもありました。 危うく脱出しました。
正々堂々の後出しドッチ向いてホイに文句が付けられない要所要所もありました。 褒めています。

「お客さんのためにも、女の子たちのためにもね」

異常まみれの叙述の森にあからさまな手掛かりの木片をシレッと置いといて全く気付かせないやり口にはもうお腹いっぱいのようで別腹がいくらでも列をなして待っているようです。
諸々のネーミングセンスも相変わらず絶妙。 「ロコリン」 には笑かしてもらったとです。

「メメタロウは●●の●●じゃなくて、●●を入れ替えたんだ」 (← 全体に傍点) ← これにはたまげた

特殊設定の底力に突き上げられて、ラスト数十ページ解決篇の濃密最恐なことと言ったら!
大中小トリック/ロジックの噛み合わせも、スイス高級時計のように手に手を取って精緻に輝いています!
“双子” の斬新なミステリ調理、来たーーー!!(これは凄かった)
目からウロコが何枚、イクラが何粒、オカラが何百グラム、イルカが何十頭落ちたことか。 ← ほんのちょっとだけ言い過ぎ
多重解決、最終解決、探偵役配置の、複雑だが何故だかスッキリ見渡せる(ような気になる?)工夫と閃きに満ちた、知的暴れ馬のような奇跡の黄金設計構造にはガッツリ肩をつかまれました。
人並由真さんおっしゃる “手数の多さ” に私も感服です。 作者はミステリ界のフランク・ザッパかテリー・ボッジオではないかと思います。
何にせよ、ブラウン神父スピリットがドックドックと脈打つ様子が聞こえて来るわけです。

「気宇壮大なことを考えましたね」

普通だったら充分に叙述トリックの衝撃となるであろうアノ要素さえ、この小説のミステリ暴力の前にはほとんど意識の外。 むしろ、いくつかの(しっかり伏線込みの)叙述欺瞞小(?)ネタのほうが記憶に鮮やかなほど。

グロは次元を一つ突き抜けた。 エロなんざ霧の彼方に置き去りだ。 ナンセンスは追い縋ったかも知れん。
ルッキズムと反ルッキズムとが相対して睨み合った挙句、バチンと裂けて、美しいミントブルーの膿が飛び出し、次の瞬間には虚空に消えてしまいそうだ。
にしても、結局は純愛だの兄弟愛だのがしゃしゃり出て来るわけだ。 それがまた実に泣かせるのだ。

“雲の切れ目から月明かりが差し、ツムギの目尻に涙が浮かんでいるのが見えた。”

“喋りながら陰茎を弄る癖は四か月経っても直らなかった。”

参りました。
エピローグにて、またしても、複数回にわたる恒星大爆発が観測されたんですよ。
そして全てを受けて、締めの一文ですよ。 この前のめりの余韻たるや。

ところで、みりんさん
> 意外な犯人
って、誰なんでしたっけ? それ以前に、いったい何に対しての。。

おっと、すっかり忘れていたが、プロローグってやつがあったじゃないか! 今すぐ読み返すんだ!!


「もし別の女を抱きたくなったら、仙台まで遊びに来いよ」  ← 泣かせた台詞

No.8 7点 虫暮部
(2024/03/16 12:54登録)
 丁寧に読めばきちんとロジックが張り巡らされている、のかもしれないが疫病パニック小説、て感じでそれどころじゃないぞ。多重解決が難易度の低い順に提示されていて、ちゃんと驚きがアップしているのが良い。脳瘤の悲鳴が妙に愛らしくて困る。
 最後の最後のサプライズが謎。入院したのだから機会はあったにせよ、誰が何の為にそんな鑑定を行ったのだろう。

No.7 8点 みりん
(2024/02/09 03:01登録)
うーん面白い。これ3作目なんだねぇ…
3作品続けてこんなに面白いと、作家に対する信頼みたいなものを感じはじめる頃だろうか。本作品まで読まずとも、『人間の顔は食べづらい』『東京結合人間』あたりで既にとんでもない作家が来たと期待感に溢れている当時のレビューを読むとニヤニヤしてしまう。本サイトの楽しみ方の1つ。

【ネタバレあります】






まず、人面瘡の設定は発症した"人間"の生涯を思うと精神的に辛くなるなあ。フィクションだけど、これだけで色々妄想してしまう… この設定が今回の謎解きにどう関わってくるのかはずっと不思議だった。
中学生パートは友情・青春・辛酸。キャラクターが中学生でも、この作者は容赦のない仕打ちを用意します。また、中学生4人が容疑者となって開かれた推理合戦では、意外な探偵役が場を引っ掻き回し、二転三転する真相。一見どれも筋が通っているように見えるのがこの作者の凄いところ。
意外な犯人と救われない結末に+2点

No.6 6点 レッドキング
(2023/07/26 18:43登録)
第三作目。これまた、トンデモSF設定・・体中に意識ある人面瘡(!)が繫茂する伝染病て(*_*;)・・を大道具に、緻密なロジックとイマイチな入代りトリックで展開される本格ミステリ。コミカルにしてグロい不快感を残す登場人物達、目を背けさせる程の残虐行為、吐き気を覚えさせる位のヘド描写・・飛鳥部勝則思い出す・・。宿主大脳の推理を否定する人面瘡A、人面瘡Aの別解推理を否定する人面瘡B、笑かしてくれるが、せっかく、意識ある人面瘡・・むしろ奇形多生児・・設定なんだから、二階堂黎人「幽霊マンモス」や門前典之「灰王家の怪人」を飛び越えた、超トンデモ密室トリックの大技一発もの・・麻耶雄嵩「翼ある闇」発展完成形・・こしらえてほしく・・

No.5 6点 名探偵ジャパン
(2019/09/10 10:54登録)
なんだかんだ言っても、他の作家にはない絶対的に独自の作風を確立していることは凄いなと思います。

ちょっとお近づきになりたくない……という奇天烈なキャラクターしか(相変わらず)出てきませんが、そんな人たちでも、推理パートになると理路整然と筋道立ったことを言い出して議論する(ミステリなので当たり前ですが)のが白井智之作品の奇妙な魅力で、いつも笑ってしまいます。

No.4 2点 まさむね
(2017/03/05 18:25登録)
 理論的な面にだけ着目すれば、純粋な本格ミステリでありましょう。ミステリランキングで高評価であることも頷けます。
 でも、私はこの採点。作者の特異的な環境設定は、三作目で幾分慣れたと思っていたのですが、本作品はかなり不快でありました。嫌悪感と言ってもいい。いや、内容じゃなくて、個人的な感覚としてなのですがね。
 というのも、本作の舞台の一つ「海晴市」って、宮城県の海岸部の設定なのですよね。作品世界とは直接関係ないけれど、6年前の大災害を思い浮かべたのは私だけ?いくら架空の都市名としても、宮城県の海岸部って設定に敢えてしているのはなぜ?そして、その扱い方が、かなり酷いよね。無意識なの?わざとなの?
 多分、作者にとっては震災とか過去の話になっているのだろうね。仙台の大学を卒業したらしいのにね。想像力が豊かなのか、貧困なのか、紙一重だよね。この作家さん、大丈夫か。
 …といった、嫌悪感を持ってしまったら、本格度も何もないですよね。よって、この点数になりますな。

No.3 7点 人並由真
(2017/01/05 19:29登録)
(ネタバレなし)
 前作『東京結合人間』は、イカれたSF設定の枠内でのストーリーテリングそのものと、くだんの異常な設定に基づく最後の謎解きの強烈さ、その双方に呆然とした。
 それに比べると今回は途中まで(やはりぶっとんだ世界観ながら)真っ当なような(でもやっぱりタガの外れた)中学生たちを主人公に据えた等身大ジュブナイル風の部分も多い。
 まあ本作の場合は二つの別々の物語が後半の山場で交わるまでB・S・バリンジャー風の二部並行形式で語られるので、ジュブナイル調なのはその片っ方だけだが(もう一方のストーリーの主人公は、風俗店のスタッフを務める若者)。

 三作目でやや守りに入ったかな、しかしこの作者なら、この設定を活かした上でまたなんかあるんだろうな…と思っていたら、終盤は豪快なまでに正統派の、そしてクレイジーな謎解きミステリに転調または収束。冒頭からの数々の伏線もパワフルに回収される。特に顔を潰された死体~ダイイングメッセージ? の辺りはこの作者の面目約如だろう。
(ただ大ネタの中である一点、中学生側の叙述で無理筋めいた気もするが、そこは「いや、だから×××なのかな…」と思えば、腑に落ちないこともない。)
 一部の仕掛けは見破ることはできるだろうが、この手数の多さには、前回以上に参ったという感じの一冊。作者のこのテンションは、いつまで続くのだろう。

No.2 5点 HORNET
(2016/12/17 12:55登録)
 氏の作品は初読。帯に「綾辻行人&道尾修介がいま最も注目する」とあり、「東京結合人間」も気になってはいたので、かなりの期待を込めて読んだ。期待を高め過ぎたのか、正直思ったほどではなかった。
 物語中にちりばめられる各謎の筋道だった解明や、さりげない手がかりの置き方もうまいとは思う。が、いろいろなところに仕掛けすぎ、しかも人面瘤によって推理が二転三転するので(そこが売りでもあったらしいが)こんがらがってくる。大仰な舞台設定の割には、各過程で解き明かされるのがアリバイとか指紋とかいう通俗的な内容で、それぞれの推理に「なるほど」とは思うがそれ以上の感動はなかった。
 ただ言い換えればこれだけ複雑な仕掛けをよくも考えてまとめあげたものだ、とも思った。

No.1 6点 メルカトル
(2016/10/12 21:48登録)
白井智之の新作と聞いて黙っていられない私は、さっそく書店に出向き本書をゲットしたのである。読んでみると相変わらずの白井ワールド全開で、二十万人規模の人瘤病患者が日本中に蔓延しているという舞台設定となっている。
前二作に比べて、今回は纏まりとメリハリに欠けるきらいがあり、全体的にだらだらとした印象を受ける。だが、特殊な状況下における事件や解決にはそれなりの必然性があるので、その意味では体のいたるところに複数の人面蒼ができる病気を持つ人物が複数登場するが、その特異設定は生かされていると思う。
まあしかし、よくもこれだけ異常な物語を考えられるものだと感心させられる。さらに細かい部分まで神経が行き届いており、目立った瑕疵や矛盾は感じられない。ただ一部バカミス的な個所もあり読者を翻弄する辺りは、ご愛嬌といったところか。
エピローグではアッと驚く仕掛けも用意されていて、タイトルの意味も大いに納得できるものであった。尚、グロさは幾分抑え気味となっている。

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