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ミステリの祭典

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偽りの殺意
本格ミステリー集

作家 中町信
出版日2014年10月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 7点 斎藤警部
(2021/12/24 15:45登録)
初期中篇三つ。小味な良さが光る二つと、ちょっと凄いの一つ。
「殺意」シリーズブレイクを受けての、光文社文庫オリジナル編集版。

偽りの群像 6.2点
安心のスリルをぬくぬくと味わうアリバイ好篇。仄かな旅情なくはなし。偽装が崩れる最初の齟齬案件が、小さなコトながら秀逸。駅の荷物トリックも同様。そこは謎じゃないのかよ、って斜め肩透かし?のポイントもあったが、こんだけ適度に知的好奇心揺さぶってくれたらそれで結構。まだ謎が膨らむかと思わせぶり上手の末、終わってみれば意外とシンプルな真相、こりゃつまり物語の偽装が巧いんだね。呆気ないラストは残酷! 英訳の場合は、まして仏訳はどうすんだろ、あの部分、、と一瞬だけ大いなる勘違いしたりなんかしたね。

急行しろやま 6.4点
こりゃ新幹線で読みたい。逆に、読んでると新幹線に乗ってる気分が味わえる(急行の話なのに)というこの倒錯読者ぶり(笑)。 人は、いかなる場合に心理が一変するのか。。? 容疑者がやたら次々わいてくる圧力の妙。新聞記事の手掛かりはちょっと見え透いてましたが(◯ゃ◯か..)、更にその先でバレるアレの手掛かりの唄?は滑稽でわらいました。アリバイ偽装トリックに於ける二種の数字絡み案件は、どちらも流石にリスキー過ぎる上にミステリ的に陳腐とは感じただども、二つ一緒くたになると、そこに絶妙な煙幕が張られちまうんだな。。音でバレたアレの件は、不運だったのか、それともハナっから気にしていなかったのか。。(どうやら後者くさい?) ま、全体通して、前の「偽りの殺意」にほど近い安定の良さがありますな。 そして皮肉を最高度に効かせたラスト、たまらんですなあ。

愛と死の映像 8.3点 
ちょっとやそっとじゃ底を見せない、深い深いアリバイ偽装トリック。ダミートリックさえ有機的、物語の中枢で華麗に舞った。アリバイのみならず殺意の構造(!)までが鮮烈に錯綜。何気にちょいセコい手掛かりと、そこから導き出される奥深い真相との、快いギャップ(笑)。やはり、大の警察相手にリスキー過ぎる感はあるが、勢いと熱に押し切られる。チンピラだかキンピラだかカピパラだか。。メモが妙に◯◯なってるの、におったんだよなあ、、案の定よ。。あと、時刻表のぱっと見違和感とか、いいよね。 急転直下に残酷過ぎる結末は、言い方は合わないがちょっとした「考え落ち」抱え込んだ、ぐっと来るオープンエンディング(特に或る人物について)。。最後の一文も強烈。。

巻末の「編者解説」(山前譲)、中町氏作家デビュー前後の熱い意気込みが自然と伝わって来て良いですな。
かの代表作については、「新人賞殺人事件」より「模倣の殺意」のほうが題名として先に付いていたんですね。。(更にも一つ前のオリジナルタイトルがあるのだが)

しかしこの表紙絵、ちょっと凄い。本の中身とは微妙に?ズレますがミステリの雰囲気満点です。私の実家の階段にそっくりです。嘘だけど。

No.3 5点 まさむね
(2017/02/21 19:25登録)
 アリバイ崩しをメインとした、作者にとっては最初期における3短中篇が収録されています。
 全体的に地味であります。アリバイものが苦手な方にとっては、ちょっと辛いかも。万人向けとは言い難いような気がしますねぇ。
 しかし、そもそもアリバイ崩しが嫌いではないワタクシとしては、刑事が足で稼ぐ姿も含め、何とも言えない「懐かしさ」を感じました。特に最終話「愛と死の映像」は、今となってはトリビア的な知識も盛り込まれているし、なかなかの読み応えで好印象。

No.2 5点 E-BANKER
(2014/12/20 21:17登録)
「模倣の殺意」のヒットを受け光文社で編まれた作品集第二弾。
寄せ集め的だった前作(「暗闇の殺意」)に比べ、作者最初期の「アリバイ崩し」を集めているのが特徴。

①「偽りの群像」=鮎川哲也の作品に感銘を受けミステリー作家を志した作者が、繰り返し賞に応募し続けた作品。メインのアリバイトリックについては2014年の現在から見ると正直陳腐化しているのが難。時刻表トリックよりは○○の錯誤をうまく使っているのがミソか。
②「急行しろやま」=タイトルは発表当時大阪~鹿児島間を走っていた寝台急行。作者得意の時刻表+電話を組み合わせたアリバイトリック。問題は○○の錯誤を利用したメイントリックなのだが、成る程だから福山~笠岡間なのかぁ・・・。広島県には○○町もあるけどねぇー。
③「愛と死の映像」=中編と呼ぶに十分な分量の作品。それだけ読み応えも十分で、①②よりも更に堅牢なアリバイが刑事たちの前に立ち塞がる。羽田~福井~金沢(小松)間の飛行機を使ったアリバイトリックは、当時の航空事情を知ることができ非常に興味深かった(現在ではまず考えられないが・・・)。最終的に解明されるトリックは時刻表トリックの“王道”とでも言うべきもの。動機にもひと工夫がなされており佳作の評価に相応しい一編。

以上3編。
よく言えば「渋い」、悪く言えば「地味」な作品が並んでいる・・・という印象。
全てが時刻表トリックなので、この手の作品を好まない方には不向きかもしれない。
軽妙さと“気付き”の要素を前面に押し出した鬼貫警部シリーズよりも、とにかく名も無き刑事たちが靴底すり減らし重い雰囲気をまとっているのが特徴。

なお、三編すべてに登場する「津村刑事」は作者の知友・津村秀介氏がモデルとのこと。
津村氏は作者の作風を引き継ぐかのようにトラベルミステリーを量産したが、作者はその後叙述ミステリーへと傾倒していった点が興味深い・・・
評価はまぁこんなものでしょうか。
(③がダントツ。②も面白いといえば面白い)

No.1 6点 kanamori
(2014/10/31 23:27登録)
光文社文庫オリジナルの本格ミステリ作品集、第2弾。前作とは趣が若干違って、アリバイ崩しがメイン、それも時刻表トリックを主軸にした最初期の中短編が3編収録されている。

どの作品も教科書出版会社がからむという設定が似ており、内容も地味ですが、しっかりと構築されたプロットが評価できる。
刑事たちが靴底をすり減らして聞き込み捜査を繰返す展開は、現在ではあまり人気がないのではと思いますが、作者が強く影響を受けたという鮎川哲也の鬼貫警部シリーズを髣髴とさせる作風が個人的には非常に好ましい。
収録作のなかでは、今回初めて書籍化となった中編の「愛と死の映像」が読み応えのある力作で、これが読めただけで満足。仮説とトライアル&エラーを何度も繰り返し、読者をとことん翻弄するアリバイ崩しの過程にはゾクゾクさせられた。
再読の「偽りの群像」と「急行しろやま」は、トリックが今では新味がないかもしれませんが、後者は鮎哲の某作を思い起こさせる誤導の趣向がうれしい。

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