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ミステリの祭典

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許されようとは思いません

作家 芦沢央
出版日2016年06月
平均点6.82点
書評数11人

No.11 7点 ミステリーオタク
(2021/10/06 21:53登録)
自分にとって初の芦沢作品。5編からなる短編集。

《目撃者はいなかった》
ちょっと無理がある感は否めない(ミステリなんてみんなそうだが)が、実に面白いし、巧いとも思う。でもこの展開ならもっと話を最後まで書いてほしかった。

《ありがとう、ばあば》
これは捻りもあることはあるが、ミステリというよりは心理サスペンスだろう。また途中、ばあばと娘の口論などはちょっとダラダラした印象が拭えない。
   
   (ネタバレ小言)


   いくら人が少ないとは言え、それなりのホテルなんだし、高々7階なんだからバルコニーで大声で騒げば誰か気づくだろう。

   
   (ネタバレ小言終わり)

《絵の中の男》
凄惨な話でありながら前2作同様よみやすいが、やはり長い気がする。
一人称語りのストーリーだが(演出として故意にであることはわかるが)語り手の話し方のまわりくどさもだんだん鼻につき気味になってくる。ミステリ要素も悪くはないが、斬新とも思えない。

《姉のように》
姉の犯罪という異常事態、そして育児ノイローゼに陥っていく心理を生々しく描いていく陰鬱な心理小説かと思いきや・・・・・・「仕掛け」はこれがベストかな。ただし長崎弁は苦手。

《許されようとは思いません》
陰惨な話でありながら引き込まれるが、この「仕掛け」はチョットね・・・
タイトルのミーニングも含めて真相は意外ではあるが、自分には心情的に少し理解困難。エンディングは面白い。


全て非常に読みやすいが、どの話も途中間延びして無駄に長いと感じる部分があったことは否定できない。
ドロドロと書き連ねられる心情描写の奥に「企み」が隠されている。そしてストーリー構成のテクニックにも際立つものがある。
ふと米澤穂信の短編集に似たテイストだと感じた。

No.10 6点
(2021/06/19 14:15登録)
比較的似たような趣向の5編ではあるが、じつは少しずつ違っていて種々楽しめる。
だからこそ好みも分かれそうで、本サイトや他のサイトのレビューを見ても、どれが一番なのか読む前には想像はできない。
解説の池上冬樹氏によれば、『姉のように』が傑作とのことだが、個人的には全くそうとは思わなかった。
読後感もいろいろだが表題作をラストに据えて、最後に気持ちよく終わらせてくれたのはよかった。

個別具体的には、
『許されようとは思いません』が一番、『目撃者はいなかった』『ありがとう、ばあば』が次点クラス、『絵の中の男』『姉のように』がその次、というところか。
点にこそ差はあれ、共通する持ち味は、読者を惹きつける中途の展開。
読書中はこの中途段階だけで、ラストなんてどうでもいい、と思えてしまった。

No.9 7点 パンやん
(2021/05/28 03:33登録)
それぞれ異なったテイストが嬉しい短編集で、ひとつひとつの切れ味が良くて、一気に読ませる手腕は相当なもの、芦沢央恐るべし!九州弁の味付けながら、痛々しくて息が詰まりそうになる『姉のように』、サイコパス感溢れる不気味な『ありがとう、ばあば』、何とも言えない土着性風味の表題作『許されようとは思いません』が忘れがたい。

No.8 6点 パメル
(2020/08/22 09:22登録)
タイプの異なる気味の悪いどんでん返しが楽しめる5編からなる短篇集。
丁寧な心理描写で登場人物に共感を持って読んでいると、いつの間にか心の中に闇が入り込んできたり、おぞましくも温かったり優しいけどやはり怖かったり。人の愚かさ、本性をじっくり描いており、一編一編密度が濃い。
ラストの締め方も、予想外の方向に一気にひっくり返したり、じわじわと意味が分かってくる恐怖を味わえたりとさまざま。そして、どの編も鍵となる女性たちを端正な筆致で描き、深みと恐怖をより一層際立たせている。恐るべき動機、構図の反転で破壊力抜群のイヤミスが楽しめる。
ひとつ気になった点(おかしな記述と思った)...文庫版でP54の13行目...警察はこんなこと言わないのでは?

No.7 8点 ボンボン
(2019/07/22 13:29登録)
どの話も「え?そっちか!そっちだったか!」という動機が楽しめる。本当に巧い。
『目撃者はいなかった』は、組織の中で働く者として、身につまされて冷や汗が出る。文庫になる際に作品の順が入れ換えられて、これが冒頭に回されたようだが、この緊張感が強いつかみとなっており、順番変更は正解だったのではないかと思う。
『姉のように』は、2度読み3度読みで味わった。大満足。

No.6 6点 E-BANKER
(2019/07/05 22:11登録)
イヤミス風味というか、背中がスーっとする感覚の作品が並ぶ短篇集。
文庫化に当たって読了(単行本とは収録作の並びが違う模様)。
2016年の発表。

①「目撃者はいなかった」=“ミスをなかったことにしたい”ってこと、サラリーマンなら誰しも身に覚えがあるはず。でも、そのちょっとした「出来心」が大きな不幸を導くことになる・・・。やっぱり報・連・相って大事なんだと身につまされる。
②「ありがとう ばあば」=“何をしてでも孫を子役として成功させたい!”。ばあばの願いはそれだけだった。孫も想いは同じはずだったのに、そこは幼い子供。やっぱり、意識のズレは当然ある。大人のエゴを押し付けてはいけない・・・ということ。最後は因果応報的ラスト。
③「絵の中の男」=夫婦そろって画家だが、その才能は妻が夫を遥かに凌駕している・・・。起こるべくして起こった事件なのか? しかし、動機には大きなサプライズが!
④「姉のように」=幼い頃から姉を頼ってきた妹。育児においてもお手本だったはずの姉が幼児虐待で逮捕されるというショッキングな出来事。それを境に妹の生活そして精神も大きく狂い出す・・・。徐々に追い込まれる妹の心の動きが非常に痛い。そしてラストにはサプライズが待ち受ける。
⑤「許されようとは思いません」=田舎の因習が背景にある話なのだが、これも「動機」が問題となる。人間の心ってここまで追い込まれるものなのか?という感覚。

以上5編。
確かに高評価なのも頷ける内容・・・かなと思っていた。
でも、どこか素直に従えない気分。
プロットも手馴れてるし、いわゆる“最後の一撃”も決まってる・・・なんだけど、どうも二番煎じっぽいんだよなー

作品名まで出てこないんだけど、どこかで読んだような気にさせられる・・・っていう感じ。
こういう手の短篇はどうしても似たようなプロットになりがちなんだろうけど、どうにもそういう感想になった。
でも、旨いのは確かだし、一定以上の満足感は得られると思う。
・・・と一応フォローしておく。(美人作家だしね)

No.5 6点 sophia
(2018/11/15 17:56登録)
●許されようとは思いません 8点・・・表題作だけのことはあります。
●目撃者はいなかった 7点・・・「死刑台のエレベーター」ですね。でもこれは結局のところ真実を証言してやる義理はないのではないですか?その後の駆け引き次第でしょうかね。
●ありがとう、ばあば 7点・・・これはミスディレクションが上手かった。動機はそっちの方ですか。
●姉のように 5点・・・単純な叙述トリックですが、ネット掲示板の書き込みの「人間、自分が育てられたようにしか育てられないからね。」云々の部分がアンフェアだと思うのですが。
●絵の中の男 6点・・・悪くないプロットですが、独白というスタイルを採ったことがあまり成功していない気がしました。

全体的に米澤穂信っぽい毒だと思いました。しかしながら米澤作品と比べると何か物足りない(表題作除く)。ストーリーテリングの差でしょうか。オチ以外印象に残らない話が多いですからね。それとタイトルの付け方がどうも上手くない気がするんですよね。後でタイトルを聞いて中身を思い出せるのは「ありがとう、ばあば」だけだろうなと思います。

No.4 8点 HORNET
(2018/01/21 22:47登録)
 どの作品も押並べてクオリティが高く、非常に読み応えのある短編集。3作品はホワイダニット、2作品は倒叙型(?1つはそうでもないかもしれないが)といった体だが、2作品の方も仕掛けが施してあって、非常に面白い。
 追い詰められる緊張感を味わってしまう「目撃者はいなかった」、読者自身が自分の邪悪さに気付いてしまうようなダークさをもつ「ありがとう、ばあば」、そういうことか!と思わず読み返してしまう「姉のように」と、さまざまなアプローチで読者を楽しませてくれる。
 腕が立ち、カードを多く持つ作家の典型的な良質短編集。

No.3 7点 猫サーカス
(2017/11/13 18:14登録)
童話作家の姉を誇りにしていた妹の地獄を描く「姉のように」は、実に緊密で、サスペンスに満ちていて、どんでん返しも鮮やか。女性画家による夫殺しの真相「絵の中の男」は、芸術家の苦悩をスリリングンに描いていて、連城三起彦氏のある短編を思い出す。全体的に悪意と毒が目立つが、表題作は温かな余韻を残す。祖母の殺人行為の謎を解きつつ、苦悩と絶望に満ちた祖母の人生をわが身に引き付けて、ある選択をするのが感動をよぶ。

No.2 7点 まさむね
(2017/02/02 23:26登録)
 短編5編を収録。総じてブラックな色彩ではありますが、巧みな筆致でスッと物語に引き込まれ、反転までもっていかれます。
1「許されようとは思いません」
 日本推理作家協会賞短編部門の候補作となった作品。ホワイとしての独創性が印象に残りそう。
2「目撃者はいなかった」
 サラリーマンとしては身につまされるサスペンス的展開の中での終盤の転換がお見事。
3「ありがとう、ばあば」
 読後、非常に怖くなりました。深い。
4「姉のように」
 育児ノイローゼに至る過程が怖い…のだけれども、これまた反転が見事で、読後に読み返したほど。
5「絵の中の男」
 重層的なホワイ作品で、連城ミステリを思い起こさずにはいられない雰囲気。

No.1 7点 kanamori
(2016/08/19 20:34登録)
かつて祖母が暮らしていた村を訪れた”私”は、その地で祖母が起こした殺人事件について回想する。ある理由で村民から村八分の扱いを受けていたうえに、なぜ彼女は末期癌で余命わずかな曽祖父を敢えて惨殺してしまったのか?(表題作の「許されようとは思いません」)----------。

日常の中に潜む狂気をテーマにしたミステリ短編5編を収録。
イヤミス系とか暗黒ミステリという評もありますが、そのテーマ自体をミスリードの小道具に使っている作品もあり、連城三紀彦や米澤穂信の一部作品の系譜に連なるような”ホワイダニット”ものとして秀逸な作品集です。
表題作「許されようとは思いません」は、収録作の中でも隠された動機の異形ぶりが突出していて評価が分かれそうですが、女性読者のほうがより納得性が高いかもしれません。
営業マンが発注ミスを隠そうとしてドツボに嵌っていく様を倒叙形式で描く「目撃者はいなかった」は、終盤にある人物が投げかける一言が重く響く。
「ありがとう、ばあば」では、祖母が子役俳優に育て上げた孫娘から痛烈な一撃を喰らう。かなりブラックなオチは予想の斜め上をいくもの。好みでいえばこれがベストかな。
「姉のように」は、育児ノイローゼから幼児虐待に進むイヤミス系の話ですが、読者の先入観を利用したミスリードの仕掛けの部分が冴えている。
最後の「絵の中の男」は、芸術家の特異な思考形態からくる”ホワイダニット”ものということで、もっとも連城ミステリを想起させる作品ですが、これは落としどころが何となく予測できてしまった。

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