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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:1161件

プロフィール| 書評

No.1121 5点 モップの精と二匹のアルマジロ
近藤史恵
(2023/11/25 14:38登録)
 シリーズ第4弾で初の長編。
 キリコはある女性から夫の行動を探ってほしいとの依頼を受ける。その夫は、キリコの夫・大介と同じオフィスビルで働いていたが、大介の目の前で車に撥ねられ、直近3年間の記憶を喪失してしまう…。
 謎の一部は中盤で何となく予想がつくのですが、それは別として次々に読み進めたくなった作品。読みやすいし、キリコと大介の関係も微笑ましい。人の心の脆弱性に触れるのは、整体師探偵シリーズに通じるものがあります。一方で、もうワンパンチ欲しかったような気も。ちなみに、アルマジロ自体は登場しませんので、動物好きの方はご注意を(そういった観点で手に取る人はいないか…)。


No.1120 6点 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1
高木彬光
(2023/11/18 22:42登録)
 よく言えば、昭和の薫り溢れる短編集。雰囲気が堪らないですね。一方で、言い方を変えると「古い」ということにも…。
 個人的には「妖婦の宿」がベスト。犯人当て短編として誉れ高いことも頷けます。次点が「影なき女」の階層性か。「白雪姫」も嫌いではないけれど、他の短編は…といった印象。
①白雪姫:「雪密室」だけに着目するとアレだけど、トリッキーな短編ではある。
②月世界の女:人間消失モノ。雰囲気は嫌いじゃないけど真相は見えやすい。
③鏡の部屋:これも人間消失モノ。鏡の部屋だからねぇ…ってタイトルどおりか。
④黄金の刃:密室というよりアリバイ系?正直、ちょっと評価できない。
⑤影なき女:トリック自体は別として、なるほどよく考えられている。
⑥妖婦の宿:「犯人当て」の名作。


No.1119 6点 素敵な圧迫
呉勝浩
(2023/11/12 17:52登録)
 ノンシリーズの短編集。ミステリとしての評価が難しい短編もありますし、全体としてもミステリの味付けが強いとは言えませんが、何だろう、ひっそりと心に残りそうな短編もございました。個人的には、⑤と表題作の①、さらに当時の閉塞感を上質に伝えていた⑥を評価。
①素敵な圧迫:隙間に体を滑り込ませることによる圧迫を愛する女性の物語。
②ミリオンダラー・レイン:3億円事件がモチーフ。当時の時代背景もポイント。
③論リー・チャップリン:10万円渡さないとコンビニ強盗すると息子から脅迫される親。論破って何だろう。
④パノラマ・マシン:所謂パラレルワールドに行き来できる機械を拾った二人組。あちらの世界ではどんな悪事も可能だが…。
⑤ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について:無敗の天才ボクサーを語る。
⑥Vに捧げる行進:新型コロナウイルスが猛威を振るう中で…。


No.1118 6点 クローズドサスペンスヘブン
五条紀夫
(2023/11/07 20:28登録)
 現世で惨殺された6人が、ほぼ記憶をなくした状態で天国に返り咲く。自分は間違いなく誰かに殺された。自分は誰で誰に殺されたのか?「全員もう死んでる系ミステリー」との触れ込み。
 軽快な語り口の中で、あまり深く考えずにスイスイと読み進めてしまいましたが、読後に振り返ってみると、構成はしっかりと考えられていると思います。
 一方で、個人的に乗り切れなかった部分があったのも事実。特殊設定の必然性があまり感じられず、ご都合主義的に見えたからかな。勿論、楽しく読ませていただいたのですが。


No.1117 6点 ダイヤル7をまわす時
泡坂妻夫
(2023/11/01 21:26登録)
 ノンシリーズの短編集。作者の他の短編集と比較すれば一段落ちるという印象はありますが、十分に楽しめる作品が揃っています。
①ダイヤル7:懸賞つき犯人あて小説として発表された作品。犯人あて小説としてもしっかりしているが、小説全体の仕掛けも見事。
②芍薬に孔雀:作者らしい作品で楽しく読ませてもらったものの、犯人の行動には合理性がない。
③飛んでくる声:この短編集の中では目立たないかも。
④可愛い動機:松本清張の「疑惑」と同じ題材を扱いながらも、結末の違いにニヤリ。
⑤金津の切符:倒叙もの。ラストが洒落ている。
⑥広重好み:唯一、殺人が起きない作品。お洒落な好編。
⑦青泉さん:謎の転換の妙。


No.1116 7点 ヨモツイクサ
知念実希人
(2023/10/28 00:19登録)
 序盤からグイグイ引き込まれる展開。緊張感もあって、期待も高まりましたね。ホラーとしても秀逸。力作だと思います。
 一方で、結末というか、「肝」となる部分は結構早めに想像することができます。それこそ、伏線が蒼く光って見えるようです。逆にミスリードに嵌っているのかぁ、くらいの感覚。後半のバトルシーンも素晴らしかったのだけれど、「早く答え合わせしたい」という気持ちの方が勝ったりして。最後の最後の一捻りも想定の範囲内と言えます。
 …などと書きつつも、楽しく読ませていただいたことは事実。医療の知識や経験をベースとしながら、この作者さんの裾野は相当に広そうで、今後も楽しみに新作を待つことになると思います。


No.1115 4点 死への招待状
西村京太郎
(2023/10/22 21:19登録)
 6作が収録された短編集。いずれも私立探偵が登場しますが、同一の探偵が登場するのは2作(危険な男・危険なヌード)の秋葉京介のみ。
 作者は、人事院を辞めて作家を志す過程で、探偵事務所に勤務していた時期(1963年頃)がございました。収録された各短編の初出が1964年から1976年までらしいので、おそらくは、自身の勤務経験も踏まえて書かれたものと思われます。
 短編集全体として見ると、結末があまりにも予測しやすい短編や、単に筋書きを読まされただけでは…といった短編もあって、積極的な評価はしにくいかなぁ…というのが正直な印象。その中でも、個人的には、作者の探偵事務所経験が新鮮であったであろう、1964年初出の「罠」という短編が、作者の初期作品を辿るという意味で興味深かったかな。


No.1114 6点 天久鷹央の推理カルテⅡ ファントムの病棟
知念実希人
(2023/10/20 22:25登録)
 シリーズの続編で、2つの短編のあとに中編が続く構成。
 2つの短編の「謎」自体は、いずれも疾病や医学の知識がないと解きようがないのですが、反転などの工夫は施されていて、印象は悪くなかったですね。
 中編については、医学の知識の有無は別として、ストーリーの流れや結末を容易に察することができますが、終盤のあるシーンには涙腺が緩みました。ベタと言えばベタ。でもこういう物語って、やっぱり沁みる。


No.1113 6点 W県警の悲劇
葉真中顕
(2023/10/15 21:52登録)
 架空の県警を舞台とした連作短編…なのだけれど、横山秀夫とは全然異なるテイスト。こっちもイイですねぇ。個人的には、「交換日記」のあざとさが好きです。
 ただし、後半になるとこちらも構えがとれてきて、特に「破戒」は序盤からの予想どおりの着地。最終話「消えた少女」の伏線も分かりやす過ぎたかも(別の角度での驚きはあったけどね)。
 総合的には、読み得な連作短編だったなぁ、という感想。


No.1112 6点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/10/13 22:23登録)
 売れているようですねぇ。今年最大の話題作と言ってもいいのかもしれません。こうなったからには(?)読まずにはいられない、ミーハー気質の私であります。
 正直、最大のポイントというか特徴については、途中で気づいてしまいます。タイトルからも…ねぇ。その必要性を追いかける展開になることも、想像がつきます。なので、“驚き”という面では、決して大きいものではなかったです。
 一方で、制約がある中での各種工夫は素直に評価したいと思いますし、その前提として、一定のページ数を書き上げた努力には敬意を表します。記憶に残りそうな作品ではあります。(この種の作品を1年以内に複数読むことになった点も記憶に残りそうです。)


No.1111 8点 女王国の城
有栖川有栖
(2023/10/08 19:04登録)
 世にも珍しい高価な食材などを使わなくても、一つ一つ丁寧に調理することで、多くの人の舌を満足させられる料理に仕上げられる…そんな印象。宗教団体「人類協会」の描き方に作者らしさを感じたりも。
 シリーズものとして楽しめるのもいい。このシリーズは長編5作で完結する予定とのことなのですが、いつになるのだろう。早く読みたいような、もう少し待ってほしいような…。


No.1110 7点 サクリファイス
近藤史恵
(2023/09/24 13:51登録)
 エースとアシストの役割、他チームとの駆け引き…サイクルロードレースの魅力が伝わってきました。ミステリとも巧く融合させていますし、スポーツ・ミステリとして極めて良質だと思います。グイグイ読まされました。
 一方で読後に振り返ってみると、ある人物の動機?には相当な違和感が。また、別のあの方の好み?がどうなっているのか、全く理解できない…等々気になる点があったことも事実。この作品の魅力を全て削ぐものではないけれどね。


No.1109 6点 思い出列車が駆けぬけてゆく
辻真先
(2023/09/18 20:32登録)
 鉄道好きで有名な辻御大の、鉄道ミステリ短編12編。発表順に掲載されており、1983年から2011年までの鉄道ミステリ短編からチョイスしたようです。印象的だった短編は1作目の「お座敷列車殺人号」と最終話「轢かれる」。つまり約30年の開きがあるわけで、その内容やタッチも対照的ということも興味深い。後半になるにつれて、〝人生〟を感じさせる作品が多くなっているような気がします。
 鉄分多めの私としては、旅情とか風景といった面だけではなく、鉄道をとりまく状況だとか「鉄道そのもの」を取り上げようとする作者の姿勢にも好感。作者らしい技巧とともに、感慨深く読ませていただきました。


No.1108 5点 フォトミステリー ―PHOTO・MYSTERY―
道尾秀介
(2023/09/16 20:22登録)
 写真と(超)ショートショートを組み合わせた作品を50編収録。「いけない」シリーズの発想を突き詰めるとこうなるのか?何となく某テレビ番組の「写真で一言」的なものかと思っていたのですが、ちょっと(かなり?)違っていて、瞬間的な面白みというよりも、一瞬考える“間”を楽しめるかどうか。
 作者のチャレンジ精神は買うのですが、「こういった解釈(楽しみ方)でいいんだよね?」と不安?になったり、ちょっと意図が掴み切れなかった作品も正直ございました。


No.1107 7点 南神威島
西村京太郎
(2023/09/14 22:59登録)
 作者が「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を受賞したのが昭和40年。しかし、活字となった作品を読み返して「自分の下手さ加減に呆れ、もう一度、勉強し直そうと考えた」そうです。その結果、当時長谷川伸氏が主宰していた新鷹会に加わり、その機関誌で発表した作品から選出した短編を収録したのが本書。そもそもは昭和45年に私費出版で刊行されました。「気取っていえば、推理小説もまた文学でなければならない」、「真のサスペンスは、現実の事件の表面を撫ぜることでは生まれない」。こう言い切る作者の熱意には、今更ながら素直に拍手を送りたいと思います。人間の内面に切り込む作品が揃っています。
①南神威島:人口400名に満たない離島に赴任した医師が遭遇した出来事。伝奇性と合理性。
②幻想の夏:ミステリ的な点は本短編集で最も高いか。愛と裏切り。
③手を拍く猿:北海道から東京に集団就職した青年の自殺。都会の孤独と故郷への想い。
④カードの城:動機は何であったか。挫折とプライド。
⑤刑事:捜査に執着する刑事の内面を描く。刑事の職務と刑事たる個人。


No.1106 7点 すべてはエマのために
月原渉
(2023/09/04 23:09登録)
 ツユリシズカシリーズ第6弾。タイトル(「九龍城の殺人」はシズカシリーズじゃないのね…)はもとより、第一次世界大戦中のルーマニアが舞台ということもあって、これまでのシリーズ作品とはちょっとテイストが異なるのかな?と思っていましたが、作者の変わらぬ本格愛を感じる作品でありました。
 決して斬新な大技が炸裂するものではないですが、複数のピースを巧みに組み合わせ、かつ、歴史的背景を絡めた展開には好感。切り上げてこの採点。
 このシリーズ、続けてほしいなぁ。


No.1105 7点 レモンと殺人鬼
くわがきあゆ
(2023/08/31 21:05登録)
 転がしまくりますねぇ。単なる反転ではなくソコに「歪み」を噛ませていることがポイントで、特に主人公のとあるシーンは記憶に残りそう。不安定さの中の安定さ(意味不明?)とでも言いましょうか、先が気になってグイグイ読まされました。切り上げてこの採点。売れているのも頷けます。
 一方で、最終盤の展開は、やや力技が過ぎるような気がしないでもありません。それと、173ページの、ある人物表記は明らかなミスですよねぇ。


No.1104 5点 怖ろしい夜
西村京太郎
(2023/08/27 17:36登録)
 タイトルに「夜」が含まれる6作品を収録した短編集。各短編の初出は1960年代から1970年代まで。トラベルミステリ偏重前の西村短編に以前から興味があり、手にした次第です。
 特筆すべき「何か」があるものではないのですが、スッと興味を引き付ける出だしの巧さは流石です。
 「見せ方は違うけど、確実に同じ発想の下で書いたよねぇ」と感じた2作品の初出を比べると1ヵ月しか違わなかったとか、色々と興味深かったです。


No.1103 5点 化石少女と七つの冒険
麻耶雄嵩
(2023/08/24 19:15登録)
 化石少女の続編。順番どおりに読んだ方がいいですね。
 前作同様、舞台は京都北部の名門私立高校・ペルム学園。学園内でこれだけ殺人事件が頻発すれば、マスコミとしては化石少女どころの話じゃないだろう、などと考えちゃいけないことが気になって仕方がなかったワタクシ。ダメな読者でしょうか。
 で、内容としては、麻耶雄嵩らしいとも言えるし、らしくないとも言えそう。最終的には作者の初期長編「あいにくの雨で」を思い起こしました。当該作品を読んだ時にも、同様の感想をもったものですから。パターンは両作品で異なるのですがね。


No.1102 5点 空想の海
深緑野分
(2023/08/19 23:37登録)
 デビュー10周年記念作品集ということで、児童文学や幻想ホラーも含め、バラエティ豊かな短編が収録されています。
 前半は非ミステリが続くこともあって、「ちょっと求めていたのと違う…」といった感想。きっと良作なのだろうと認識しつつも、私の感性が追いついていけなかった感じ。
 とは言え、最も印象に残った短編も非ミステリである最終話「緑の子どもたち」。児童文学という位置づけなのだろうと思いますが、結構沁みたなぁ。「本泥棒を呪う者は」も良かったのだけれど、これは多分、別長編「この本を盗む者は」を読んでいれば、もっと楽しめたのかな。「御倉館に収蔵された12のマイクロノベル」も同様(なのだと思う)。

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