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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:1195件

プロフィール| 書評

No.655 6点 ヒポクラテスの誓い
中山七里
(2017/04/08 21:25登録)
 連作短編として綺麗にまとまっていますし、読ませる筆力もあります。さすがに巧いなぁ、と認めつつも、何となく化学調味料を使った味付けと言うか、どこかで食べたような味付けと言うか、そんな印象も受けました。勿論、巧いからこそ受ける印象なのであって、小説自体は楽しく読ませてもらったのですが。(E-BANKERさんの書評に同意です。)ちなみに、私も海堂尊氏のバチスタシリーズを想い起しましたねぇ。Aiも出てくるし。


No.654 6点 人魚の眠る家
東野圭吾
(2017/03/20 23:39登録)
 脳死と臓器移植という、非常に重く、難しい問題と真正面から対峙した作品です。
 読者によって読後の感想に相当の幅があるであろうな、というのが率直な印象。個人的には、両親の行動に相当の違和感を抱きつつも、これを自分らに置き換えて考えてみると、実際にどう判断するのか全く判らないという、何とも情けない状態にあります。かなり考えさせられましたね。
 ちなみに、ミステリの手法を使っている部分も一部ございますが、全体とすればミステリとは言い難いでしょう。無論、この作品は「ミステリか否か」などとは無関係に読まれるべき作品であると思うので、この段落は蛇足以外の何物でもないのですが。


No.653 5点 暗闇の殺意
中町信
(2017/03/15 22:16登録)
 「これは!」と膝を打つ作品は見当たらなかったものの、「これは…」と首をかしげる作品も見当たらないなぁ…といった印象の短編集。でも、こういう、決して派手ではない(地味と言ってもいい)けれども安定感のある短編集って、結構好きです。
 内容としては「裸の密室」がベストで、次点が「動く密室」か。ダイイングメッセージとしてはかなり判りやすいし、現実的にそんな残し方はしないだろ…と突っ込みつつ、真相に意外性のあった「濁った殺意」も印象には残りそうかな。


No.652 2点 おやすみ人面瘡
白井智之
(2017/03/05 18:25登録)
 理論的な面にだけ着目すれば、純粋な本格ミステリでありましょう。ミステリランキングで高評価であることも頷けます。
 でも、私はこの採点。作者の特異的な環境設定は、三作目で幾分慣れたと思っていたのですが、本作品はかなり不快でありました。嫌悪感と言ってもいい。いや、内容じゃなくて、個人的な感覚としてなのですがね。
 というのも、本作の舞台の一つ「海晴市」って、宮城県の海岸部の設定なのですよね。作品世界とは直接関係ないけれど、6年前の大災害を思い浮かべたのは私だけ?いくら架空の都市名としても、宮城県の海岸部って設定に敢えてしているのはなぜ?そして、その扱い方が、かなり酷いよね。無意識なの?わざとなの?
 多分、作者にとっては震災とか過去の話になっているのだろうね。仙台の大学を卒業したらしいのにね。想像力が豊かなのか、貧困なのか、紙一重だよね。この作家さん、大丈夫か。
 …といった、嫌悪感を持ってしまったら、本格度も何もないですよね。よって、この点数になりますな。


No.651 5点 遠い唇
北村薫
(2017/03/02 22:38登録)
 7篇で構成される、ノンシリーズの短編集。
 パンチ力という点では消極的な評価となりますが、作者もソコは狙っていないでしょうし、全体としてはいかにもこの作者らしい、しみじみとした短編集に仕上がっていると思います。
 一方、完全に私個人の嗜好の問題なのですが、ダイイングメッセージや暗号モノにはあまり興味がありません。このタイプの短編も複数ありまして、これらの個々の短編自体の雰囲気は決して嫌いではなかったのですが、採点としてはこの辺りといたします。


No.650 5点 愚行録
貫井徳郎
(2017/02/26 17:55登録)
 長らく我が家で積読状態になっていた本書。映画化され、公開されるとのことで本棚から引っ張り出してきた次第です。相変わらずミーハー気質ですみません。(私は誰に謝っているのだろう?)
 エリートサラリーマン一家4人の惨殺事件について、ある週刊誌記者が行なった、複数の関係者らへのインタビューが物語の基軸となります。インタビュー形式の各話の間に、ある女性の独白が小出しにされ…という構成。まぁ、タイトルどおり、様々に「愚か」です。そして哀しくなります。どうにもやるせない。
 ミステリとしてはこの位の採点としますが、確かに映画向きのような気がします。(凄く暗くなりそうな予感もありますが。)監督がどう料理するのか、映画も観たくなりましたね。


No.649 5点 偽りの殺意
中町信
(2017/02/21 19:25登録)
 アリバイ崩しをメインとした、作者にとっては最初期における3短中篇が収録されています。
 全体的に地味であります。アリバイものが苦手な方にとっては、ちょっと辛いかも。万人向けとは言い難いような気がしますねぇ。
 しかし、そもそもアリバイ崩しが嫌いではないワタクシとしては、刑事が足で稼ぐ姿も含め、何とも言えない「懐かしさ」を感じました。特に最終話「愛と死の映像」は、今となってはトリビア的な知識も盛り込まれているし、なかなかの読み応えで好印象。


No.648 6点 暗い越流
若竹七海
(2017/02/19 20:17登録)
 5篇で構成される短編集。
 うち2篇には葉村晶が登場しますが、短編自体の出来栄えとしては他の3篇の方が良かったかな。個人的なベストは日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した表題作で、最後の最後まで企みに満ちたプロット。
 結構読み得な短編集と言えるのではないでしょうか。


No.647 6点 悪いうさぎ
若竹七海
(2017/02/11 22:35登録)
 葉村晶シリーズの長編。葉村自身、また周りを囲む登場人物も魅力的で、話も次々に展開していくので、どんどんとページをめくらされました。その意味では、確かに楽しめたと言えます。
 一方で、「ああ、そのまま終わっちゃうのね」といった印象も。それと、それを言っちゃあオシマイと言われるかもしれませんが、現実味が薄すぎるかなぁ。


No.646 7点 闇に香る嘘
下村敦史
(2017/02/07 21:17登録)
 第60回江戸川乱歩賞受賞作で、2014年末の各種ミステリランキングでも上位に位置付けられた作品。
 正直、中盤までの雰囲気は万人向けとは言い難く、個人的にも多少重苦しい心持ちの中で読み進めたところです。しかし、終盤における構図の転換はお見事で、社会派ミステリとしての流麗さに感服いたしました。トリック自体はいたってシンプル。だからこそ、真相が判明した後に見える各々の人生の深さが際立つ気がします。
 中国残留孤児や視覚障害の点でも、大変勉強になり、考えさせられました。そしてそれらの(語弊はあるかもしれませんが)活かし方も巧い。
 デビュー作としては出色で、各種ランキングで高評価であったことも頷けます。


No.645 7点 許されようとは思いません
芦沢央
(2017/02/02 23:26登録)
 短編5編を収録。総じてブラックな色彩ではありますが、巧みな筆致でスッと物語に引き込まれ、反転までもっていかれます。
1「許されようとは思いません」
 日本推理作家協会賞短編部門の候補作となった作品。ホワイとしての独創性が印象に残りそう。
2「目撃者はいなかった」
 サラリーマンとしては身につまされるサスペンス的展開の中での終盤の転換がお見事。
3「ありがとう、ばあば」
 読後、非常に怖くなりました。深い。
4「姉のように」
 育児ノイローゼに至る過程が怖い…のだけれども、これまた反転が見事で、読後に読み返したほど。
5「絵の中の男」
 重層的なホワイ作品で、連城ミステリを思い起こさずにはいられない雰囲気。


No.644 5点 いまさら翼といわれても
米澤穂信
(2017/01/29 21:37登録)
 古典部シリーズ第6作目(だと思う)。
 いやー、小市民シリーズほどではないけれども、結構久しぶりですねぇ。折木奉太郎、千反田える、伊原摩耶花、福部里志の4人組に会えた懐かしさはあるけれども、ミステリとしては相当に弱めだし、表題作などは「そんなに悩むことか?」って思ってしまう面もございました。「いまさら青春といわれても」って感じか。それは単に私のおじさん度が増したからではと突っ込まれれば、何ら言い返せないのだけれども。
 とは言え、結構次が気になる終わり方なので、きっと次作も読むことになるのだろうなぁ。次作をいつ読めるのかは別として。でも、その時には彼らの設定年齢と私の年齢のギャップがさらに広がっているんだよねぇ…。


No.643 4点 白衣の嘘
長岡弘樹
(2017/01/26 22:04登録)
 タイトルから想像できるように、全て医師が登場する短編集。
 「珠玉のミステリ六編」的に紹介されている本書ですが、珠玉かどうかはかなり疑問。決してイイ話ばかりではないのだけれども、何というか綺麗に纏めようとし過ぎているというか、綺麗にしようという努力感が出過ぎているような…。結果的に、登場人物の種々の行動に対して「いやいや、やらんでしょ、普通は」と感じてしまい、人間性を描こうとして、逆に人間性が滲み出ない、作りモノ感を強めている気がします。
 スマッシュヒットとなった「傍聞き」の印象が強く、個人的に期待値を高めに設定し過ぎているのかもしれませんが、採点としては4~5点レベル。同じような印象を前作「赤い刻印」の書評でも述べた記憶があるので、ちょっと厳しいかもしれないけれども、今回は端数切捨てのこの点数で。


No.642 8点 黒百合
多島斗志之
(2017/01/22 20:19登録)
 昭和27年、六甲の別荘地における14歳の少年少女たちのひと夏の恋模様。昭和10年、少年たちの父親がベルリンで出会った日本人女性との触れ合い。昭和15年から20年にかけて、私鉄車掌と女学生との交流。これら3つの時間軸の中で、さてどのような繋がりが…という辺りがポイント。
 六甲の景色や少年たちの心の動きを楽しみつつ、最終盤の数ページで物語は急展開。一瞬「ありがち…」と感じてしまったものの、しばし立ち止まって頭の整理が始まりました。序盤からの巧妙な伏線を探し出すのも一興で、読み終えた後の方が楽しめたりして。「青春ミステリ」として記憶に残りそうな作品であります。


No.641 5点 私情対談
藤崎翔
(2017/01/17 22:10登録)
 横溝正史ミステリ大賞受賞第一作。
 序盤は、様々な雑誌の誌上対談におけるやり取りを描いた連作短編的な感じ。お互い表と裏の顔が違う、しかも裏の顔は殺人経験まであるような…という、独創性という面では弱いけれども、まぁ、人物間の繋がりを含めて成り行きを想像しながら、一定は楽しめる展開。
 しかし終盤になってくると何かとゴチャゴチャしだし、ちょっと人物相関の把握が面倒に感じたりし、最終的には強引すぎるかなぁ…と感じざるを得ませんでした。設定の現実感が…とか無粋なことは言わないとしても、だって、終盤のとあるシーンは明らかに無理があると思うのですよねぇ。
 元お笑い芸人というだけあって、受賞作を含め、ノンストップの面白い話を紡ぐ才能があるのであろうなぁ、とは感じたのですが、単に人間の表裏の差異による面白さという観点ではなくて、純粋なミステリとしての面白さも見せてほしいなぁ…と今後を期待しつつ、この採点とします。


No.640 7点 ジェリーフィッシュは凍らない
市川憂人
(2017/01/15 14:09登録)
 昨年の鮎川哲也賞受賞作で、各種年間ミステリランキングでも評価が高かった作品。
 閉鎖空間での連続殺人という本格ど真ん中の設定の中に、気嚢式浮遊艇(通称ジェリーフィッシュ)というSF要素を持ち込んだセンス、さらには、その上で近未来を舞台とせず、時間軸を現在に合わせたセンス等々、評価の高さは素直に首肯した次第です。
 このサイトをご覧の皆様は、読書中にほぼ100%「十角館の殺人」を思い浮かべると思いますし、実際に一定の類似性はあるのですが、それは同じ「型」であるという意味であって、この作品としてのオリジナリティは出ていると思います。シンプルかつ大胆な仕掛けで、ここまでガッチリとした本格を読めるのも嬉しい。(勿論、気になる点はあったのだけれども…)続編もあり得そうなので、期待しましょう。


No.639 5点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2017/01/08 20:47登録)
 確かに、大胆な仕掛けではあるのですが、序盤から相当な違和感があり、読み進めながらも、あれ?といった点が複数ございましたので、最終的にはそれほどの驚きはありませんでしたねぇ。(勿論、全てを見通せたわけではないのだけれども。)
 ちなみに、読み返してみると、これはアンフェアでは…と思わずにはいられない記述もあるのですが、ソコは措きつつも、私の潜在的なある種の意識に気付かせてくれたことは、有難かったかな。色々な意味で、ギリギリの際を狙った作品ではありますね。


No.638 5点 仮題・中学殺人事件
辻真先
(2017/01/07 21:29登録)
 連作短編的な構造ですが、正直、小粒すぎて今だったら決して書かないだろうトリックも複数ございます。
 とは言え、全体のプロットとしては中々面白い。発表が昭和47年ということを踏まえれば、かなり先鋭的な作品と言えるでしょうね。昭和47年って、あさま山荘事件があった年ですからね。また、作者の“テツ”気質も存分に発揮されていて、その点は興味深かったかな。


No.637 7点 メルカトルと美袋のための殺人
麻耶雄嵩
(2017/01/06 22:38登録)
 銘探偵・メルカトル鮎の“やり口”は終始一貫しているものの、個々の短編は実にバラエティに富んでいます。意外にも(?)正統派の短編も多かったですね。
 そんな中、メルカトルが書いた犯人当て小説に美袋に挑む「ノスタルジア」が、設定の意外性もあって良かったかな。それと、これはアリなのか否かを含め、様々な点で考えさせられる「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」も印象には残りそうかな。(評価は相当に分かれると思いますが…)


No.636 6点 月輪先生の犯罪捜査学教室
岡田秀文
(2017/01/02 20:57登録)
 名探偵月輪シリーズのスピンオフ短編集。
 何と帝国大学で犯罪捜査学講座を受け持つことになった月輪龍太郎が、3人の教え子たちとともに4つの事件に挑みます。真相が見えやすい話もあったけれども、明治という舞台背景を巧く活かしているし、何よりも3人の帝大生の推理合戦が楽しかったので、全体的には良かったかな。
 月輪&帝大生は結構使い勝手のよい設定だと思うので、ぜひ続編を書いてほしいなぁ…。

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