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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.1359 6点 嗤う闇
乃南アサ
(2017/06/28 21:19登録)
ということで続編。“女刑事 音道貴子シリーズ”の作品集第三弾。
警視庁刑事部第三機動捜査隊立川分署(長い!)から、隅田川東署(架空?)へ異動となった音道貴子の活躍を描く。
2004年発表。

①「その夜の二人」=誰に聞いても「あの人が他人に恨まれるなんて有り得ない」という被害者。しかし、こういう人でも、だからこそ、恨む人間はいるということで、世の中って捻れてるよねぇと思う一編。結局は“甘えてる”ということなんだろうけど・・・
②「残りの春」=これは・・・超高齢化社会を迎える日本にとって、避けては通れない問題なのか? いくら有名人であろうと、だからこそ、実は心の奥は寂しいということなのかな・・・。何だか哀しくなってきた。今回初登場のキャリア刑事と貴子のコンビ。彼女が「やれやれ・・・」と感じてる様子がありありと分かって面白い。
③「木綿の部屋」=『凍える牙』以来、各所でシリーズに登場する滝沢刑事が再び登場。今回は本当の事件ではなく、嫁いだ娘と旦那とのイザコザに滝沢と貴子が巻き込まれる・・・というお話。いやいや、娘を持つ男親、しかも妻のいない男親の心中、お察しします! でも男と女って不思議だよねぇ・・・。こういうのを愛憎渦巻くっていうのかな。
④「嗤う闇」=今回は貴子の恋人・羽場昴一がレイプの現行犯で捕まってしまうというショッキングな幕開け。貴子の唯一の拠り所となっていた昴一まで作者はこんな目に合わすのか、と憤慨していたが、事件は予期せぬ方向へ進む。結局、これも男の捻れた心が引き起こした事件ということで、男のジェラシーも結構根深いんだね・・・

以上4編。
冒頭に触れたとおり、本作から下町・隅田川東署へ転勤となった貴子。
これまでの重大犯罪とは少し趣が変わり、いかにも下町っぽい、実に人間臭い犯罪にスポットライトが当てられる。
彼女自身も、前作「鎖」で負ってしまった心の傷を若干引き摺りながらも、犯罪と向き合っている感じだ。

シリーズファンとしては、心の傷に負けまいと必死に頑張る彼女の姿を見ることができて、まずは一安心!
でも、そろそろ三十路も半ばを過ぎてしまった彼女の今後について、まるで親か親戚のように心配してしまう。
警察という男性社会のなかで、肩肘張って必死に努力している女性。
そりゃー応援するしかないよなぁー
(私が上司なら、絶対頻繁に飲みに誘うだろうなぁ・・・。断られそうだけど・・・)


No.1358 6点
乃南アサ
(2017/06/28 21:18登録)
最近、妙に気になる“音道貴子”である。
長編としては、直木賞受賞作「凍える牙」以来の登場となる本作。
2002年の発表。

~東京都下、武蔵村山市で占い師夫婦と信者が惨殺された。刑事・音道貴子は警視庁の星野警部補とコンビを組み、捜査に当たる。ところが、この星野はエリート意識の強い、鼻持ちならぬ刑事で、貴子と常に衝突。とうとうふたりは別々に捜査する険悪な事態に。占い師には架空名義で多額の預金をしていた疑いが浮上、貴子は銀行関係者を調べ始めた。しかし、ある退職者の家で意識を失い、何者かに連れ去られる!~

今回は刑事として、女性として、人生を左右するピンチに陥る音道貴子。
文庫版では上下巻分冊というボリュームなのだが、下巻は犯人グループに捕らえられた貴子の葛藤と恐怖、そして彼女を救う警視庁特殊班の救出劇が順に描かれる。
ライフルを複数所持する犯人グループに対し、慎重に慎重を重ねて捜査に当たる特殊班なのだが、時間を重ねるごとに貴子は徐々に疲弊していく・・・
読者としては、彼女の心理とシンクロし、「まだか、まだか・・・」と焦燥感を抱くことになる。
物語を大詰めを迎え、ラストも近いなか、ようやく解放される貴子は果たして今後刑事を続けていけるのか・・・

彼女の他にもうひとり、クローズアップされるのが犯人グループ紅一点の女性。
彼女が実に不幸なのだ。
ふたりの女性の運命が果たしてどうなっていくのかも本作の読みどころ。

まっ、いずれにせよ本作は完全にキャラ小説だな。
作者の彼女に対する思い入れが忍ばれるし、シリーズもののヒロインとしては、ミステリー界でも屈指なのかもしれない。
刑事ドラマのようなカッコ良さは一切なく、捕らえられ、レイプや死の恐怖でおののく、ひとりの女性、ひとりの人間として描かれる彼女。
やはり、どうしても気になってしまう存在だ。
ということで続編へつづく・・・
(「鎖」とは、まさに監禁された貴子を拘束していた存在であり、もうひとりの女性が失くしたくなかったものの象徴なのだろう・・・)


No.1357 6点 トレント最後の事件
E・C・ベントリー
(2017/06/28 21:15登録)
江戸川乱歩が激賞したことでも著名な歴史的作品。
今回、創元文庫からの復刻版にて読了。
1913年の発表。

~アメリカ実業界の巨人マンダースンが、イギリスにある別邸で頭を撃たれ殺害された。突然の死を受け、ウォール街をはじめ世界の投機市場は大混乱に陥る。画家にして名探偵のトレントは懇意の新聞社主に依頼され、特派員として現地に赴いた。そこで彼は最重要容疑者である美しき妻メイベルと出会うのだった。推理小説を旧来の型より大きく前進させ、黄金時代の黎明を告げた記念碑的名作~

紹介文のとおり、いろいろと“冠”や“形容詞”の付く作品ということで、心して読書にかかった今回。
読む前は、『赤毛のレドメイン家』と同じくらい“恋愛要素”が混じっているのかなという予想だったのだが、結果は「思ったほどではなかったな・・・」
『赤毛・・・』では探偵がヒロインに振り回される役所だったけど、本作のトレントはそこまでではなく、冷静な推理を展開する。
そういう意味でも、ごく普通のオーソドックスなミステリーとも言えるだろう。

若干違和感があるのは「構成」。
巻末解説で杉江松恋氏も触れられているが、全十六章から成る本作において、半分に達しない時点でほぼ全ての手掛かりは提出され、登場人物への事情聴衆も終了してしまう。後の半分の章について、冒頭からトレントの推理が披露されるのだが、それ以降、物語は迷走を始める。
迷いや離脱、そしてメイベルとの恋愛模様など、ミステリーの本筋からは些か脱線という具合に・・・
そして、ラストに、まさに、唐突に知らされる本当の銃撃犯!
これは現代風にいえば、「大どんでん返し」或いは「サプライズ」になるのだろうか?
(終章のタイトルが「完敗」であり、ラストシーンが「乾杯」なのはダブルミーニングなんだろうな・・・)

割と辛口に書いてるけど、別段レベルが低いわけではない。
評論家的にいえば、黄金期への橋渡しとしての役割を担った作品だろうし、楽しめる作品には仕上がっていると思う。
何より、第一次大戦前という時代に、ここまで洗練された物語を書けること自体、さすがは大英帝国ということだろう。


No.1356 5点 どこかでベートーヴェン
中山七里
(2017/06/22 21:05登録)
『ドビュッシー』『ラフマニノフ』『ショパン』のつぎは、いよいよ『ベートーヴェン』というわけで・・・
“音楽ミステリー”シリーズと名付けられたシリーズの第三弾(他に番外編あり)。
文庫版には、検事であり岬洋介の父親が探偵役となる短編(「コンチェルト」)も併録。

~加茂北高校音楽科に転入した岬洋介は、その卓越したピアノ演奏でたちまちクラスの面々を魅了する。しかし、その才能は羨望と妬みをも集め、クラスメイトの岩倉にいじめられていた岬は、岩倉が他殺体で見つかったことで殺人の容疑をかけられる。憎悪を向けられる岬は、自らの嫌疑を晴らすため級友の鷹村とともに、“最初の事件”に立ち向かう。その最中、岬のピアニスト人生を左右する悲運が・・・~

紹介文のとおり、本作は高校時代の岬洋介が主人公で、シリーズでいうところの「エピソード・ゼロ」という位置付けとなる。
既読の方ならご存知のとおり、初っ端の「ドビュッシー」から、ミステリー要素よりは音楽シーンの描写の迫力が話題となったのが本シリーズ。
もちろん、本作も例外ではない。
作中で洋介が披露するベートーヴェンの著名な交響曲「月光」と「悲愴」。
どちらも迫力満点で、文字を追いながらも、まるで本当に音を聞いているような錯覚すら覚える。
(ちょっと言い過ぎか)
ストーリーの山場となる文化祭での洋介のピアノ独奏シーン。
そこで訪れることになるある悲劇! 
これが、その後の洋介の運命につながっていくのだ(「ドビュッシー」や「ラフマニノフ」へね)。

あとは、途中、クラス担任の棚橋が、洋介の才能を妬みいじめを繰り返す生徒たちに放つ言葉!
高校生たちには残酷すぎる一面、世の中の真理を突き、ひとりひとりの心を抉るような言葉の数々が、中年を迎えた私自身へも深く深く突き刺さった!(何のことやら・・・)

で、本筋は、って?
うーん。特に語るほどのものはないなぁ。
最初からトリックは見え見えだったし、ミステリー要素は付け足しのようなもの。
やっぱり、シリーズファンでなければ、本作は面白くないってことだな。


No.1355 4点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅳ〉
エドワード・D・ホック
(2017/06/22 21:03登録)
~まだ見ぬ人知を超えた存在と巡り合うため、二千年の歳月を生きる謎の男サイモン・アークの旅は続く~
ということで、シリーズ四作目となる本作。
四作目ともなると、二番煎じやネタの焼き直しが気になるところですが・・・

①「悪魔の蹄跡」=いわゆる“雪密室もの”かと思いきや、別段たいしたトリックがあるわけではなかった。まさにタイトル倒れの一編。
②「黄泉の国の判事たち」=どちらかというと“Why done it”(動機)がテーマとなるのだが、それってここまでの事件を引き起こすほどのことか?っていう気はした。
③「悪魔がやって来るまでの時間」=そんなこと!?っていうようなトリック。やっぱり欧米人にとっての中国人ってそういう存在なんだねぇ・・・。
④「ドラゴンに殺された女」=“ドラゴン”が住むという湖で起こる殺人事件。“ドラゴン”も正体は脱力ものだし、何より作品に切れ味が感じられない。動機もマンネリだしね。
⑤「切り裂きジャックの秘宝」=英国伝説の殺人鬼「切り裂きジャック」にまつわる一編なんだけど、これもなぁー正直よく分からないままラストを迎えてしまった。
⑥「一角獣の娘」=これが個人的ベストかな。高層ビルから飛び降り自殺を図るという衝撃的な冒頭シーンから始まる一編。前フリで出てきた人物が実はすべて関係者っていうのはホックの短編ではよくある手。
⑦「ロビン・フッドの幽霊」=“ロビン・フッド”といえば、当然弓矢の名手ということで、弓で射殺される事件が発生する本作。弓とアレではだいぶ違うと思うんだけどね・・・。
⑧「死なないボクサー」=年齢百歳とも二百歳とも噂される謎のボクサー”ムーア”。彼は本当に“死なない”ボクサーなのか、というのがメインテーマのはずだが、かなりアッサリ片付けられてしまう。殺人事件の方も相当アッサリ・・・

以上8編。
これは・・・シリーズものの典型的な「末期症状」。
平たく言えば“ネタぎれ”ということだろう。
“オカルト探偵”サイモン・アークという惹句も、看板倒れが甚だしい。

もともとシリーズ当初から、「サム・ホーソーン医師」シリーズに比べるとかなり落ちるという感想だったのだが、版を重ねるごとにレベルダウンしてしまったということだろう。
短編の名手としては、かなり寂しい中身&レベルに思えた。


No.1354 5点 春から夏、やがて冬
歌野晶午
(2017/06/22 21:02登録)
2011年発表のノンシリーズ長編。
他の方の書評を見ても、「叙述」がどうしても気になる作品のようだが・・・

~スーパーの保安責任者・平田誠は万引き犯の末永ますみを捕まえた。いつもは容赦なく警察に突き出すのだが、ますみの免許証を見て気が変わった。昭和60年生まれ。それは平田にとって特別な意味があったのだ・・・。偶然の出会いは神の導きか、悪魔の罠か? 動き始めた運命の歯車がふたりを究極の結末へと導く!~

冒頭で触れたとおり、既読の皆さんは「葉桜・・・」的な叙述トリックではないかと身構えていたようである。
私も「もしかして・・・」と考えないではなかった。
でもまぁ、さすがに二番煎じはしないよねぇ。
どちらかというと、「葉桜・・・」よりは、「世界の終わり、あるいははじまり」に近いテイストの作品だった。

ただ、このトリックというか、仕掛けは既視感あるなぁー
「ミステリー寄りの文学」というジャンルならこれでいいのかもしれないけど、やっぱり歌野だもんなー
当然「文学寄りのミステリー」を書こうとしていたんだろうし、だとしたら決して成功とは言えないように思う。
この「仕掛けの拙さ」は、ある登場人物自身の「拙さ」とリンクしているのは分かるんだけど、これが本作のメインテーマなのだとしたら、膨らませがいのないテーマだったのではないか?
そんなことを感じてしまった。

平田とまゆみをめぐる人々とのやり取り、会話もどこかの地上波ドラマに出てきそうで、正直「パッとしない」と思う。
小瀬木医師もなぁー、結局傍観者だしなぁー
・・・なんてことを考えた次第。
まぁ今回は小品ってことだな。
(なんだか偉そうな書評になってスミマセン。まっ、期待の大きさの裏返しということで・・・)


No.1353 7点 ささやく真実
ヘレン・マクロイ
(2017/06/12 21:39登録)
1941年発表。
精神科医ベイジル・ウィリング博士シリーズでいうと第三長編に当たる作品。
原題“The Deadly Truth”

~奇抜なパーティーや悪趣味ないたずらで常に周囲に騒動をもたらす美女クローディア。彼女が知人の研究室から盗み出した開発中の新薬は、“真実の血清”なる仮称を持つ強力な自白剤だった。その晩、自宅で主催したパーティーでクローディアは飲み物に薬を混入させ、宴を暴露大会に変えてしまう。そしてついに、悪ふざけが過ぎたのか、彼女は何者かに殺害された! 発見者として事件に関わった精神科医ウィリング博士が意外な手がかりから指摘する真犯人とは?~

ウィリング博士シリーズもそれなりの作品を読んできたけど、その中でも1、2を争う傑作ではないかと思う。
巻末解説の若林氏もご指摘のとおり、フーダニットへの拘りはシリーズ中でも最右翼。
マクロイというと、「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」といったサスペンス色の強い作品の評価が高いし、私もどちらかというとそういう目線で見ていた作家だった。
ところがどっこい(←古い表現!)、これまた名作と評される「家蝿とカナリア」に負けず劣らずのド本格ミステリーが本作、というわけだ。

ストーリーは序盤から魅力的な展開を見せる。
毒婦クローディアに招待された5名の男女。自白剤により本心の暴露が始まり騒然となるパーティー。そして、ついに起こってしまう殺人事件。当然真犯人はパーティーの参加者のひとりと見られる・・・
冒頭から丹念に撒かれた伏線の数々も旨いし、作中に仕掛けられるレッド・ヘリングも読者を迷わせる。
特に今回は『耳』にスポットライトが当てられるのがポイント。
(ネタバレっぽいけど)てっきり「聞こえない」のが鍵なのかと思いきや、それを見事なまでに反転させるプロットの妙!

若干後出し気味の要素はあるものの、とにかく「端正」で「上品」なミステリーに仕上がっている。
さすがの完成度という評価で良いのではないか。
(サスペンス調より、こういう作品を評価してしまうのは好みかな・・・)


No.1352 6点 偽名
結城昌治
(2017/06/12 21:38登録)
表題作をはじめ、都会の片隅で何かしら暗い影を背負って生きる人間を描いたミステリー短篇集。
『喪中につき』など別の作品集からの転載もある模様。

①「偽名」=過去殺人を犯し逃亡した男。偽名を使って、ひっそりと生きてきた男が、時効寸前に昔の部下に秘密を嗅ぎつけられそうになったとき・・・。よくある手ではあるけど、味わい深い一編。
②「蜜の終わり」=タクシー運転手に浮気を嗅ぎつけられた男。ゆすりを続けられるうちに・・・。まぁ「因果応報」っていうか、男の方が自分勝手ってことかな。
③「影の歳月」=戦争時代の上下関係。暗い時代が後々まで人間関係に響いてくる・・・。そういう時代だったんだなぁーっていう感想。暗いし重い話。
④「夏の記憶」=電車で刑事に連行される冒頭シーンから始まる一編。カットバック手法で徐々に話の中身が顕になってくる・・・。よくまとまってる。
⑤「失踪」=これが個人的ベストかな。あちこちに借金を作ったどうしようもない男。事故死で得た保険金で借財のすべてをきれいにしたのだが、実は・・・。なんか・・・悲しいっていうか、オスの“さが”を感じる。
⑥「寒い夜明け」=これはラストが切ない・・・。昔の刑事ドラマでよく見たストーリーではあるけど。
⑦「雪の降る夜」=これもラストが切ない・・・。昔の刑事ドラマでよく見たストーリーではあるけど(×2)

以上7編。
実にしぶい、シブイ、渋~い作品集。
ひと昔もふた昔の前の日本、っていう舞台設定なのだが、時代を超えて人の心に訴えてくる何かがある。

やっぱりいつの時代でも、男は女を好きになるし、けど女は結婚すると人が変わるし、結局は金がものを言うし・・・っていうことなのかな。
読んでて暗く、重い気持ちになってしまったけど、軽い作品ばかり読んでると、こういう作品もたまにはいいかもしれない。
作者の力量は十分に発揮されている作品集でしょう。
評価はこんなもの。
(⑤→①→④かな。あとは一線)


No.1351 7点 長い長い殺人
宮部みゆき
(2017/06/12 21:37登録)
1992年発表の長編。
連作形式をとりながらも、作者の企みに満ちた技巧が光る作品。

~金は天下の回りもの。財布のなかで現金はきれいな金も汚い金も、みな同じ顔をして収まっている。しかし、財布の気持ちになれば話は別だ。刑事の財布、ゆすり屋の財布、死者の財布から犯人の財布まで、十個の財布が物語る持ち主の行動、現金の動きが、意表を突いた重大事件をあぶり出す。読者を驚嘆させずにはおかない、前代未聞、驚天動地の話題作~

本作の特徴といえば、もちろん「財布視点」でしょう。
デビュー長編となる「パーフェクトブルー」では、「犬」が視点人物(?)という変化球を出してきたが、本作では更にその上をいく超変化球で挑戦!ということだ。
これが成功しているかどうかというと、他の方も触れられているとおり「やや微妙」ではある。
でも、考えてみると確かに、「財布」ほど誰もが肌身離さず身に付けているものはないわけで(衣服だったら毎日同じもの、っていう訳にはいかないからね)、そういう意味では持ち主の心情を一番分かっている存在っていうことになるんだろうな・・・。

で、本筋なんだけど、これはよくできてると思う。
さすがのストーリテラーというか、こういうプロットを思い付けるだけでも、作者の力量が分かろうというものだ。
複数の登場人物たちの目(財布だけど)を通して、必然的にスポットが当てられるひとりの男。
その男の周りでつぎつぎと毒牙にかかってしまう被害者たち・・・
これは・・・何がプロットの軸なんだろう?って考えてるうち、第九章「部下の財布」で物語は急展開を見せる。
そして終章。やや唐突にやって来る刹那。なるほど、こういうオチだったのか・・・という具合。

もちろん、純粋な謎解きミステリーではないし、そういうものを求める読者には合わない(だろう)。
でも、これはこれで、実によくできたミステリーだと思う。
もともと連作形式好きのせいかもしれないけど、こういう「企み」の深い作品にこそ、ミステリーの真髄があると感じてしまう。
まっ、いろいろ突っ込みどころはあるし、評点としてはこの程度になるんだけどね。
(雅樹少年をラストに再び登場させる辺りが、女流作家らしい愛情を感じさせる)


No.1350 5点 消失グラデーション
長沢樹
(2017/06/03 22:00登録)
第三十一回横溝正史ミステリ大賞の受賞作。
もちろん作者のデビュー作品。2011年発表。

~私立藤野学院高校のバスケ部員・椎名康は、ある日、校舎の屋上から転落し、痛々しく横たわる“少女”に遭遇する。康は血を流すその少女を助けようとするが、何者かに襲われ、一瞬意識を失ってしまう。ほどなくして目を覚ますと、少女は現場から跡形もなく消えていた! 開かれた空間で起こった目撃者不在の被害者消失事件。複雑に絡み合う青春の傷と謎に多感な若き探偵たちが挑む~

これは・・・中年のオッサンが読むものじゃないな。
高校のバスケ部員たちが巻き込まれる消失事件と、複雑な恋愛模様!(←表現が古い)
しかも、出てくる奴がいちいち美少女か美少年ってどういうこと? そんなのありえる?
などと邪念たっぷりに読み進めていった・・・

紹介文のとおり、謎の焦点は「(ほぼ)密室状態からの被害者消失」。
ただ、これについては他の方々もご指摘のとおり、決して褒められた解法ではない。
(ほぼ)密室状態を成立させるピースがあまりにも偶然すぎるということは明らかだし、トリックがラフすぎる。正直、途中までは「これで横溝正史賞?」っていうレベルと思っていた。

で、終章近くになって炸裂するのが「例のミスリード」だ!
こりゃ確かに大技なんだけど・・・強引すぎないか?
これを成立させるため、作者が冒頭から相当気を使っているのは分かる。伏線もそこかしこに撒かれているのも後で気付いた。
でも、アンフェアな表現が結構多いように思うし、それ以上に、これをプロットの軸に据えること自体、作者のセンスっていうか方向性に相容れないものを感じた。

まぁこういう切り口もないではないんだろうけど、それよりは消失事件のトリックを煮詰めて欲しかったなというのが偽らざる感想。
そうは言いながらも、普通に騙されていた自分がいたりして・・・
(こんなドロドロした複雑な学園&部活なんて嫌だ!)


No.1349 2点 迷宮課事件簿Ⅰ
ロイ・ヴィカーズ
(2017/06/03 21:58登録)
紹介文によると、『倒叙ミステリーの伝統を守る短篇集』と書かれている。
スコットランドヤードが誇る(?)迷宮課の活躍を描く作品集。

①「ゴムのラッパ」、②「笑った夫人」、③ボートの青髭、④「失われた二個のダイヤ」、⑤「オックスフォード街のカウボーイ」、⑥「赤いカーネーション」、⑦「黄色いジャンパー」、⑧「社交界の野心家」、⑨「恐妻家の殺人」、⑩「盲人の妄執」

以上10編。
ということで・・・
実に退屈な読書だった。
もしかしたら、私の読解力が足りないのだろうか?
はたまた古めかしい訳のせいなのだろうか?
序文で本作(特に①「ゴムのラッパ」)を激賞されているE.クイーンには申し訳ないけど、これは・・・2017年の現在からすると、どうにもこうにも・・・ね?

倒叙ものはどちらかというと好きなジャンルなんだけど、ただ只管に事件の顛末を犯人目線で書かれても、「それで?」という感想にしかならない。
当時はこういうジャンル、切り口自体が目新しかったのかもしれないけど、これはもう陳腐化したということだろう。

途中まで我慢して読んでたけど、ラスト前でギブアップ!
ギブアップは久しぶりだな・・・
そういう意味では貴重かも。


No.1348 5点 星籠の海
島田荘司
(2017/06/03 21:57登録)
単行本として2013年に発表された本作。文庫版上下分冊にて読了。
作品の時代設定としては、『ロシア幽霊軍艦事件』の後に位置するとのことで、御手洗が海外に旅立ってしまうちょっと前という記念碑的作品(らしい)

~瀬戸内海に浮かぶ小島に、死体がつぎつぎと流れ着く。奇怪な相談を受けた御手洗潔は石岡和己とともに現地・興居島へ赴き、事件の鍵がいにしえから栄えた港町・鞆の浦にあることを見抜く。その鞆では、運命の糸に操られるように一見無関係な複数の事件が同時進行で発生していた! 伝説の名探偵が複雑に絡み合った難事件に挑む~

福山市かぁー
実際に数年間住んでいた街だけに思いもひとしお、っていう感覚。作中で福山の刑事たちがしゃべる方言も今では新鮮に感じる。(「・・・しちゃった」とか)
特に鞆の町は名所や建物(「鴎風亭」などなど)がそのまま登場していて、潮の香りまでも思い出してしまうようだった。

福山市が島田荘司の故郷ということは、「福山ばらの街ミステリー文学新人賞」を持ち出すまでもなく、いまや有名な話。
本作は「映画化」ありきで始まった企画のようで、それを意識したプロットなのだろう。
ただし、そのため何とも居心地が悪いというか、ムズムズしたような読後感になった。
それは多分に御手洗に対する違和感に違いない。
過去の著名作では、常に“人を喰ったような”、それでいて、底辺には博愛心を感じるような、最後には心が温かくなる・・・そんな存在だったはず。
対して本作の御手洗はどうだ?
冷徹な探偵ロボットのような存在として書かれているようにしか見えない。悪くいえば「血が通ってない」ように思える。
ミステリー書評としてこんなこと書くのもどうかとは思うけど、特別な存在であるだけにどうにも首肯できないというか、「昔がよかった!」という感覚になってしまう。

まぁ、私自身も島田氏も年を取ったということなのかな?
とっくに円熟期に入った作者だし、今さら若き頃の作風にしろと言われても困るよねぇ・・・
今回は脇筋の視点人物多すぎだし、御手洗・石岡の捜査行(?)的なシーンが少なすぎたのも原因なのだろう。
これだけの大作なのに心躍る読書には遠かったかな。
(まさか常石造船の会長がこんな大活躍をするとは・・・。当然本人も公認なんだろうな)


No.1347 7点 自覚
今野敏
(2017/05/22 21:24登録)
「隠蔽捜査5.5」というサブタイトルが付いているとおり、竜崎伸也署長を取り巻く“名脇役”たちにスポットライトを当てたスピンオフ短篇集。
同じく「隠蔽捜査3.5」と名付けられた作品集『初陣』は、盟友(?)伊丹刑事部長が主役だったが、本作は一編ごとに主役が変わっていくスタイル。

①「漏洩」=大森署の貝沼副署長が主役。竜崎赴任までは影の署長として辣腕を振るっていた貝沼が竜崎赴任後は一変、竜崎へ報告できない自分に不安になりイライラする姿が微笑ましい。まさに「組織」だねぇ・・・
②「訓練」=パート3『疑心』で、あの竜崎に恋心を抱かせた畠山警視が主役。男だらけのスカイマーシャルの訓練で自信を失ってしまった彼女に、竜崎の「檄(?)」が心に染みる。でもこれって、あくまで男目線からの女性心理なわけで、本当の女性からするとどうなんだろう?
③「人事」=“憎まれ役”野間崎管理官が主役。まぁ、まさに「中間管理職」ってやつだね。偉そうに振る舞いたいんだけど、あっち立てれば、こっちが立たず、とでも言うべきなのか・・・。組織内にはこんな奴多いんだけどね・・・。気が小さいだけなんだろう。
④「自覚」=大森署・関本刑事課長が主役。これまた名物キャラクターの戸高刑事が起こした発砲事件。それを問題視して右往左往する関本と、一刀両断する竜崎。「器の違い」といえばそれまでだが・・・
⑤「実地」=大森署・久米地域課長が主役。交番に配属された新配(新入社員のこと)が引き起こした大きなミス! 野間崎も巻き込んで大騒ぎとなるが、竜崎の英断により一変!
⑥「検挙」=大森署・小松強行犯係長が主役。検挙率を上げろという「上」からのお達し。この「お達し」ってやつは、どこの世界でもやっかりなのは同じ、ってことだろう。これはもう竜崎の言うとおり。「無視」するに限る。
⑦「送検」=ラストはお馴染み、伊丹刑事部長が主役を張る。相変わらず、竜崎に頼り切る(?)伊丹は優秀なのか愚鈍なのか? いずれにしても、こういう奴が組織では生き残る。

以上7編。
もう、これは、安定感たっぷりの作品集。
シリーズファンなら必読でしょう。
これまでのシリーズで馴染みとなった脇役たちが、ここぞとばかり大活躍!

みんなが組織の中で、誰かに気を使って右往左往する中、竜崎だけは微動だにしない。そんな竜崎の言動にみんなが惹かれてしまう・・・。
誰もがこんな上司になりたい、って思うんだけど、なかなかそうはいかないよねぇ・・・
ついつい余計なことを考えてしまうし、これってやっぱり「器」なのかな?
まっ、自分は自分で頑張るしかないってことで・・・


No.1346 5点 ハイキャッスル屋敷の死
レオ・ブルース
(2017/05/22 21:22登録)
キャロラス・ディーンシリーズの第五長編となる本作。
1958年発表。

~キャロラス・ディーンはゴリンジャー校長から直々に事件捜査の依頼を受ける。校長の友人である貴族のロード・ベンジが謎の脅迫者に命を狙われているというのだ。さらに数日後の夜、ロード・ベンジの住むハイキャッスル屋敷で、主人のオーヴァーを着けて森を歩いていた秘書が射殺される事件が発生。不承不承、現地に赴くキャロラスだったが・・・。捜査の進捗につれて次第に懊悩を深める探偵がやがて指摘する事件の驚くべき真相とは?~

このシリーズも「死の扉」「ミンコット荘に死す」に続いて三冊目。
他の方も書かれているとおり、端正な英国本格の香りを残したシリーズとして好ましいことは好ましい。
それは確かだろう。

本作は、「お屋敷」を舞台に、不穏な空気感や“間違い殺人”、外部にいる謎の人物など、いかにもというレッド・ヘリングがそこかしこに撒かれている。
終章では、犯人足り得る「十三の条件」なるものまで登場し、消去法による鮮やかな真犯人解明!
これぞ本格ファン垂涎のミステリー! となるはずなのだが・・・
そうはいかなかった。

クイーンを意識したかどうかよく分からないけど、真犯人特定のプロセスはロジックというよりは直感に頼ったものっぽい。
その辺りは、巻末解説の真田氏も「ミステリーとしての出来栄えを手放しで賞賛するわけにはいかない」と指摘されているとおりだろう。
(手放しで褒める解説者が多いけど、なかなか正直なお方!)
意外な真犯人を狙ったであろうフーダニットについても、中盤あたりからその臭いがプンプンしていたと感じる読者も多いに違いない。

というわけで、やや肩透かしという読後感になってしまったけど、雰囲気自体は決して嫌いではない。
キャロラスが真相解明を渋った理由が今ひとつ分からないけど、この頃の探偵役ってもったいぶる奴が多かったからね。
英国人らしい奥ゆかしさっていうことかも。


No.1345 6点 邪馬台国の秘密
高木彬光
(2017/05/22 21:21登録)
ノベルズ版は1973年の発表。
「成吉思汗の秘密」と並び、作者の歴史ミステリーの双璧とも言える大作。

~邪馬台国はどこにあったのか? 君臨した女王・卑弥呼とは何者か? この日本史最大の謎に入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。いっさいの詭弁、妥協を許さず、ふたりが辿りつく「真の邪馬台国」とは? 発表当時、さまざまな論争を巻き起こした歴史推理の一大野心作!~

歴史ミステリーとしては、もはや語り尽くされた感のあるテーマ。
それが「邪馬台国」の謎・・・ということ。
私が中高生の頃から、畿内説と九州説があって、東大VS京大で・・・と教えられてきた。
結局は「魏志倭人伝」の解釈に帰結する問題で、これが100%正解ということが難しいテーマなのだろう。
だからこそ、専門家だけに限らず素人も巻き込んで喧々諤々の説が飛び交うことになる。

ということで、神津恭介=作者の推理なのだが・・・
学問的に正しいかどうかという点は置いといて、なかなか面白いアプローチだとは思った。
確かに、あの場所に意味ありげにあの建物がたっているわけだしね・・・
ただ、個人的には、邪馬台国がどこにあったかという問題よりは、「卑弥呼」という存在そのものの謎、その方が断然興味を惹かれるし、応神天皇や神功皇后について、古事記や日本書紀の記述などから深く掘り下げて分析している内容は、割と新鮮に読めた。
(歴史好きの方には今さらなのかもしれませんが・・・)

まぁ、作者の説が正しいのかどうかは神のみぞ知るということだろうけど、
読み物としてなら、「成吉思汗の秘密」の方が好みかな。
今回は、神津も完全に安楽椅子探偵に徹していて、作品のすべてが病室内での会話で終始している点もやや割引。
いくら神津恭介とはいえ、わずか3~4日で何十年も論争を続ける大いなる謎が解かれてしまっては、本職の方もつらいだろうね。
評価としては水準級+α。
(結局、最新の説ではどうなっているのか? ネットで調べてもよく分からないのだが・・・)


No.1344 5点 今夜はパラシュート博物館へ
森博嗣
(2017/05/12 23:39登録)
「まどろみ消去」「地球儀のスライス」につづく第三短篇集。
2001年発表。

①「どちらかが魔女」=久々のS&Mシリーズというだけで心が弾む(?)。やっぱり、犀川先生のクールさは群を抜いているし、物事の捉え方はもはや職人芸だ。あと、諏訪野も職人芸?
②「双頭の鷲の旗の下に」=犀川&喜多が母校の文化祭に招かれて・・・という一編。そして、同時に進行する謎の事件・・・。現実と過去が入り混じってよく分からなくなってくる。
③「ぶるぶる人形にうってつけの夜」=とにかく“二倍男”がツボ! 途中まで「ぶるぶる」じゃなくて「ぷるぷる」だと思ってた。平面図の件は指摘されるまで気付かなかったな・・・
④「ゲームの国」=アンチ・ミステリ、ということでよいのでしょうか? アナグラムか・・・まっ、どうでもいいって言うか・・・
⑤「私の崖はこの夏のアウトライン」=ファンタジー? イメージの世界
⑥「卒業文集」=小学校の卒業文集をそのまま載せ、そこにミステリーのスパイスを盛り込むというセンスの高い作品。そんな仕掛けが?と思ってると、最後の最後で「うーん」となる。
⑦「恋之坂ナイトグライド」=一応、最後にオチがある。
⑧「素敵な模型屋さん」=児童文学のような、大人向けのような、ラストには心が温まる・・・そんなストーリー

以上8編。
いやいや・・・読んでて、途中あまりの「分からなさ」に投げ出したくなった。
「いったい何がいいたいのだろう?」って多くの読者は思うのではないか?
(特に私のような拙い読者は)

そこはさすがに森氏で、もちろん企みや仕掛けがそこかしこに用意されている。
普段のシリーズ長編とは違って、よい意味では「前衛的」で「遊び心たっぷり」。
でも分かりにくいよネ・・・それが狙いなのかもしれないけど、「分かる人には分かる」っていうのは罪だという気もした。
評価はちょっと辛め。
ところで「パラシュート博物館」とはどういう意味なんでしょうか?


No.1343 4点 大はずれ殺人事件
クレイグ・ライス
(2017/05/12 23:38登録)
1940年発表。
姉妹篇である「大あたり殺人事件」とともに、作者の代表作と言える長編。
原題は“The Wrong Murder”、小泉喜美子訳。

~ようやくの思いでジェークがヘレンと結婚したパーティの席上、社交界の花形であるモーナが「絶対捕まらない方法で人を殺してみせる」と公言した。よせばいいのにジェークはその賭けにのった・・・。なにしろ彼女が失敗したらナイトクラブがそっくり手に入るのだ。そして翌日、群衆の中でひとりの男が殺された・・・。弁護士マローンとジェーク、ヘレンのトリオが織り成す第一級のユーモア・ミステリー~

なぜか「大あたり・・・」の方を先に読んでしまった後の本作。
まぁ別に関係なかったといえばなかった。
(ジェークとヘレンが新婚旅行へなかなか行けなかった訳が分かったくらいか・・・)

「大あたり・・・」の時にも感じたけど、どうもライスとは相性が悪いようだ。
まず“ユーモア・ミステリー”という惹句。これがいけない!
本作も三人のドタバタ劇に割かれてるページ数が多すぎないか?
本筋としてはそれほど複雑とは思わないんだけど、寄り道や行ったり来たりのせいで、何とも締まらない読書になってしまう。
(これがもし映像化されたら、昔のドリフのコントみたいに、会場からの笑いが挿入されそうな雰囲気・・・)

本筋もどうかなぁー
途中でちょっとゲンナリしてきて、あまり身が入ってなかったんだけど、どうもプロットの核っていうか、肝がよく分からなかった。
解説等を読んでると、動機もプロットの中心というふうに書かれているけど、ピンとこなかったなー
フーダニットも「ふーん」としか感じられない。

ということで、どうにも煮え切らない感想になってしまった。
GWの比較的ヒマな時間に読んでしまったのが、逆にいけなかったのかな?
これ以上、作者の作品を手にしようとは思えない。


No.1342 6点 ○○○○○○○○殺人事件
早坂吝
(2017/05/12 23:37登録)
2014年発表の第五十回メフィスト賞受賞作。
いろんな意味で物議を醸したろう(?)作品を、今回文庫落ちに当たってようやく読了。

~アウトドアが趣味の公務員・沖健太郎らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での夏休み恒例のオフ会へ参加することに。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーのふたりが失踪、続いて殺人事件が起こる。さらには意図不明の密室が連続し・・・。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは?~

早坂吝(やぶさか)、1988年生まれかぁ・・・
若いとか、老いたとか、年齢のことをとやかく言うのはあまり好きではないけど、作家生活ウン十年という人には逆立ちしても書けないミステリーだろう。
文庫版の解説はあの麻耶雄嵩氏が書かれているのだが(後輩だしね)、氏の処女作であり問題作(?)「翼ある闇」が発表されてから、はや二十年以上が経つんだよね・・・
「翼・・・」初読時の際、作品全体に漂う“作り物感”や生意気な筆致(!)に何とも言えない妙な感覚に陥ったんだけど、今回、その麻耶氏から『世の中を舐めきった作品』と表現されてしまう本作。
本作がそれほどブッ飛んだ作品であると同時に、麻耶氏も『丸くなったもんだな・・・』という別の感慨も湧いてきてしまった。

しかし、とにもかくにも、京大推理研恐るべしだ。
綾辻氏から連綿とつながる、この新進気鋭の系譜。
どんな頭してたら、こんなプロットが思いつくのか? 興味はつきない。
因みに、文庫化に当たって、本作は大幅に改稿されていて、あろうことか○人○○までひとつ追加されている(とのこと)!!
(理由についても「作者あとがき」に触れられているのでご参照ください。)

で、本筋は?・・・って、まアいいじゃないですか。
他の方が的確な書評をすでに残されていますので、そちらをご参照ください。
まっ、敢えて書くとすれば、いくら○者とはいえ、自分で自分の○ン○の○○をするなんて、無理だろ!
あと、いくら何でも○イ○○ツ○が○○やお○の○に入るわけないだろう!(まさか、いないよね)
あと、そういう状況下だったら、男性の○ン○は常時○○してるのかな? というくらいかな。
(作者に倣って、○○多めの書評にしてみました)


No.1341 8点 猟犬探偵
稲見一良
(2017/05/03 22:56登録)
名作「セント・メリーのリボン」に登場した猟犬探偵こと竜門卓を主人公とした作品集。
1994年、作者の死後すぐに発表されたのが本作であり、作者最後の作品となる。

①「トカチン、カラチン」=“猟犬”の探偵であるはずの竜門が、クリスマスイブに探すことになったのは何と「トナカイ」と少年だった・・・。一年前のクリスマスイブには盲導犬を探していて(「セント・メリーのリボン」)、作中で竜門は何度も「なぜクリスマスイブに・・・」と嘆くことになる。とにかくラストが幻想的。何とファンタジックな光景なんだ!
②「ギターと猟犬」=今度はちゃんとした“猟犬”探しなのだが、探す場所が大阪のミナミ~キタというド繁華街! その猟犬は、なぜか「流しの艶歌師」と行動をともにしているのだ。猟犬を探し終えた竜門に待っていたのは、ひと組の心温まる家族の絆だった・・・。(ミナミの街中を狼連れて歩いてる男って・・・コワイよ!)
③「サイド・キック」=今回探すのは犬(シェパード)と「馬」、とおっさん!! しかも、この妙なトリオを追って、千葉~青森まで車を走らせることになる。この「おっさん」の行動が鍵となるのだけど、「そこまでするか!」という気にさせられる。あと、気になるのは赤いポルシェで竜門を追いかけてきた謎の美女。(因みにタイトルは「相棒」という意味だそうです)
④「悪役と鳩」=ラストは連続して発生した猟犬の“誘拐(盗難?)”事件がテーマ。竜門に捜索を依頼した大男・天童の男気にも惹かれるけど、やっぱり竜門のストイックさには脱帽! ラストの「詩」は染みるねぇ・・・

以上4編。
前作(「セント・メリーのリボン」)があまりにも良かったため、続編的な位置付けである本作にも手を伸ばすことに。

いやいや、このただならぬ香気は何だ!
他の作家、他の作品では決して味わうことのできない、唯一無二の作品世界。
とにかく、登場人物のひとりひとりが何とも言えないキャラクターというか、「匂い」を発しているのだ。

現代日本という国に、こんな「ハードボイルド真っ只中」みたいな奴なんているか?
っていうことを思わないでもないけど、それは野暮というもの。
とにかく夜更けの読書にはうってつけのシリーズ。世評の高さも十分に頷ける。そんな評価。
(どれがベストかな・・・? 敢えていえば②、いや④か・・・)


No.1340 6点 黒衣の花嫁
コーネル・ウールリッチ
(2017/05/03 22:55登録)
早川文庫版の訳者あとがきによると、「幻の女」「暁の死線」と並ぶ、アイリッシュ=ウールリッチの三大傑作のひとつ・・・とのこと。
1940年の発表。
原題は“The Bride Wore Black”で、いわゆる作者の「黒」シリーズの第一作目。

~ジュリーと呼ばれた女は、見送りの友人にシカゴへ行くと言いながら、途中で列車を降りてニューヨークへ舞い戻った。そして、ホテルに着くと自分の持ち物からイニシャルをすべて消していった。ジュリーはこの世から姿を消し、新しい女が生まれたのだ・・・。やがて、彼女はつぎつぎと五人の男の花嫁になった・・・。結婚式も挙げぬうちに喪服に身を包む冷酷な殺人鬼! 黒衣の花嫁。巨匠ウールリッチの黒のシリーズ冒頭を飾る名作~

独特のいい雰囲気を持つ作品。
時代性を勘案すれば、このプロットは斬新だし、当時の読者の心を惹きつけたに違いない。
五人の男が、黒の衣装をまとった謎の女に殺害されていく。ひとり、またひとりと・・・
なぜ、女は男たちを殺していくのか? 単なる殺人鬼なのか? それとも?
というわけで、一種のミッシング・リンクをテーマとした作品ともなっている本作。

第四部(四人目の男)=ファーガスンの章で、大凡の筋道は見えてくるのだが、このまま終了すると思いきや、ラストではなかなかの捻りが待ち構えている。
ここら辺は、ウールリッチ(アイリッシュ)らしいところなのだろう。
実に皮肉っていうか、悲劇的っていうか、因果応報っていうか・・・
結局、作者はこれが書きたかったのかな?
確かに、そのまま終わってたら、「結構単調だったなぁー」っていう感想になったと思う。

ただ、「幻の女」や「暁の死線」にしても、本作にしても、21世紀の現在からすると、「もうワンパンチあればなあー」っていう印象にはなるんだよねぇ。
もちろんオリジナルとしての希少性はあるにしても、どうしても「高すぎる」評価に対しては違和感を覚えてしまう。
あまり要領を得てないですが、作者の作品に対してはいつもそんな感じになる。

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