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ミステリの祭典

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邪馬台国の秘密
神津恭介シリーズ

作家 高木彬光
出版日1973年01月
平均点5.88点
書評数8人

No.8 5点 クリスティ再読
(2025/05/21 10:38登録)
さてこれも懐かしいなあ。子供の頃読んだときに、最終章での、石棺から「真赤な一線が、まるで定規でもあててひいたような真直ぐな感じが、すーっと走っていたのが」まさに目の奥に焼きついたように印象に残っていたよ。

まあだけど、大人になると冷静な見方もできるようになる。結局のところ、魏志倭人伝を素直に受け取ると、内容が矛盾しているわけで、「矛盾した前提からは、どんな結論でも導き出せる」と懐疑的になるのも当然かな。いやだから、畿内説の場合には、魏志倭人伝の記述に拘泥せずに考古学的な見地を主体に論証しようという傾向が強いわけだ。魏志倭人伝の記述にこだわって論証するのが九州説の特徴だと言ってもいいだろう。だから高木説はまさに「九州説」であるともいえる。

とくにこの本の場合には、魏志倭人伝の記述にこと細かに依拠して推理していく。ここまでこだわると、逆に「オカルト?」という悪い印象も出てきてしまう。いやオカルトって「表面的な記述ではなく、その奥に秘められた『真の意味』を見出すこと」にこだわる「ものの見方」だと思うのだ。高木彬光といえば、まあオカルトへの親近感が強い作家(作中でも「神がかり」と自虐)であることは否定できない。これって「歴史推理」が抱える大きな問題点じゃないかな。ミステリの場合には伏線によって「見過ごされてきたデテールが、実は重大な真相を暗示していた」ことから快感めいたものを引き出すのが正当なのだが、歴史のデテールに過剰な意味を与えて空中楼閣を築いてしまうのも「エンタメ」の一つとして許容するべきなのだろうか。

考えてみれば、今の「邪馬台国ブーム」というものは、1967年の宮崎康平「まぼろしの邪馬台国」によって「大衆化」したわけである。この本もその流れに乗って書かれたものだが、この時期というのは「造反有理」な学園紛争の時代でもある。本書でも随所で「学問の権威打破」が叫ばれるわけだが、このような時代のコンテキストの中で「歴史のエンタメ化」を捉えることの方が、面白いかもしれないなあ。そう考えたら本書とたとえば「神曲地獄篇」「ノストラダムス大予言の秘密」といった高木彬光70年代の作品ともうまく結びつけることができるかもしれないや。

うんまあだけど、この本がやってみた議論などは、神津恭介の「俺スゲー」に「まぼろしの邪馬台国」で一世を風靡した古田武彦から「既出の論だよ」と散々に嫌味を言われるとか、「議論のひとつ」として一般化しているものもあるし、初出で書いてツッコまれて「新装版」で撤回したものとか、いろいろでもある。この本は神津と松下研三の二人だけのダイアローグ小説だけど、「巫女と審神者」みたいに見えることもあるよ...

「成吉思汗」や「追跡」と比べたら、実在人物への誹謗中傷となるような部分はないので、これは「エンタメとしてアリ」だとも思う。ただし退屈な部分やどうか?と思う推理も多いし、文章も雑だから、このくらいの評価としたい。

No.7 5点 ボナンザ
(2020/10/18 19:58登録)
話に起伏がないので成吉思汗に比べるとちょっと。
推理の仕方は面白い。

No.6 6点 E-BANKER
(2017/05/22 21:21登録)
ノベルズ版は1973年の発表。
「成吉思汗の秘密」と並び、作者の歴史ミステリーの双璧とも言える大作。

~邪馬台国はどこにあったのか? 君臨した女王・卑弥呼とは何者か? この日本史最大の謎に入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。いっさいの詭弁、妥協を許さず、ふたりが辿りつく「真の邪馬台国」とは? 発表当時、さまざまな論争を巻き起こした歴史推理の一大野心作!~

歴史ミステリーとしては、もはや語り尽くされた感のあるテーマ。
それが「邪馬台国」の謎・・・ということ。
私が中高生の頃から、畿内説と九州説があって、東大VS京大で・・・と教えられてきた。
結局は「魏志倭人伝」の解釈に帰結する問題で、これが100%正解ということが難しいテーマなのだろう。
だからこそ、専門家だけに限らず素人も巻き込んで喧々諤々の説が飛び交うことになる。

ということで、神津恭介=作者の推理なのだが・・・
学問的に正しいかどうかという点は置いといて、なかなか面白いアプローチだとは思った。
確かに、あの場所に意味ありげにあの建物がたっているわけだしね・・・
ただ、個人的には、邪馬台国がどこにあったかという問題よりは、「卑弥呼」という存在そのものの謎、その方が断然興味を惹かれるし、応神天皇や神功皇后について、古事記や日本書紀の記述などから深く掘り下げて分析している内容は、割と新鮮に読めた。
(歴史好きの方には今さらなのかもしれませんが・・・)

まぁ、作者の説が正しいのかどうかは神のみぞ知るということだろうけど、
読み物としてなら、「成吉思汗の秘密」の方が好みかな。
今回は、神津も完全に安楽椅子探偵に徹していて、作品のすべてが病室内での会話で終始している点もやや割引。
いくら神津恭介とはいえ、わずか3~4日で何十年も論争を続ける大いなる謎が解かれてしまっては、本職の方もつらいだろうね。
評価としては水準級+α。
(結局、最新の説ではどうなっているのか? ネットで調べてもよく分からないのだが・・・)

No.5 6点 TON2
(2013/01/03 21:30登録)
角川文庫
 神津恭介の歴史ベッドディテクティブ。
(ネタバレ)
 邪馬台国宇佐説です。魏志倭人伝の問題の「水行十日、陸行一月」を、出発点の帯方郡からの距離として新たな放射説を提示しています。
 成吉思汗の秘密と比べると、問題が魏志倭人伝の記述だけなので、ロマンの入り込む余地がないため、小説としての面白さは今一つでした。 

No.4 7点 江守森江
(2011/02/18 08:13登録)
高木彬光・歴史推理シリーズ第二弾で神津恭介が邪馬台国の場所特定に迫る。
邪馬台国の場所特定は未だに完全解明されていない最上級な歴史テーマであり、諸説を読めて楽しめる。
しかもネット検索すれば、松本清張との論争や論説パクリ疑惑まで読め(歴史学者以外の立場なら)より楽しめる一粒で二度おいしい作品。
※余談
作者が今でも生きていたなら「大相撲(八百長)の秘密」を神津シリーズで書いて欲しかった。
誰が八百長していて誰がガチンコだったのか、名探偵が取り組みや時代背景を検証した推理を読んでみたかった。
千代の富士は汚れた国民栄誉賞なのだろうか!

No.3 5点 seiryuu
(2011/01/12 23:26登録)
古代史ミステリー+神津恭介で読むのがとても楽しかったです。

No.2 7点 測量ボ-イ
(2009/05/27 19:51登録)
これも楽しめました。「成吉思汗の秘密」とほぼ同じ評価
です。高木氏個人の意見だけではなく、世の中の邪馬台国
論争の主な諸説を勉強できる良い機会でした。

No.1 6点
(2009/02/25 08:04登録)
日本の歴史ミステリの先駆けとでも云うべき作品。
「義経=ジンギスカン」説をさまざまな方角から捉えていて飽きさせない。少々こじつけ感の否めない部分もあることはあるが、「へえ、そういう考えもあるのか」とうなづかされる推理もあった。

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