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ミステリの祭典

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大はずれ殺人事件
マローンシリーズ

作家 クレイグ・ライス
出版日1955年08月
平均点6.00点
書評数7人

No.7 7点 クリスティ再読
(2023/05/26 21:43登録)
ライスの作品を「ユーモア・ミステリ」と呼ぶと、時代の違いもあってその美質を捉え損ねることもあるのではないかと危惧する。「何を笑うかによって、その人の人柄がわかる」って言うじゃない?訳者の小泉喜美子が

結局、彼女のミステリは本当の意味での成熟した大人のための娯楽なのだと思います。

と書いているのがまさにそう。読んでいて、ジェーク=アステア、ヘレン=ロジャース、マローン=E.G.ロビンソンあたりの配役がアタマに浮かんでしょうがない。そう「ザッツ・エンタテイメント!」なんだよ。アステア映画もそうだが、いわゆる「スクリューボール・コメディ」のシナリオの「ユーモア感」というものは、極めて知的で技巧的なものであり、現実離れして「砂糖菓子みたい」と言われながらも洗練の頂点を示している。これをそのままミステリに導入したのがライスの作品だと言っていい(第二期クイーンもやっているが、ライスには遠く及ばない...)

しかし、公然と「絶対つかまらない方法で人を殺してみせる」という賭けをする女モーラと、それを受ける主人公ジェークという枠組みは、「ミステリの構成」として考えてみたらやたらと難しいことをしている。ジェイクがモーラの殺人の証拠を見つけたら、ストーリーは一貫するがミステリとしてはつまらない。モーラが実は殺していないのなら賭けは不成立で話の辻褄が合わないが、ミステリとしてはノーマル....いやいや、どうするんだ、これ。
しかしモーラの動機を巡る推理は、

犯人の正体を指摘するためには、動機の発見ではなく、動機が欠如していることを発見することだった

という逆説があったりね。と、実はミステリとしてはいろいろと論点があって「ミステリ論的」に興味深い作品だと思う。まあ必ずしもこの「仕掛け」が真相に関して効いているとまでは言えないので、評価はこのくらい。これを完璧にこなしたらミステリ史上の大名作でしょ。

とはいえ堅苦しいこと言わなくても、三人組の「映画みたいな」洒落た活躍を追っていけば、十分楽しめる小説になっている。

No.6 7点 弾十六
(2022/01/10 03:53登録)
1940年出版。マローン&ヘレン&ジェイクもの第三作。ハヤカワ文庫(1977)で読了。翻訳は快調。
内容はいつものクレイグ流で登場するキャラの描き方が良い。残念ながら今回はジェイクを駆り立てるものが切実さを欠いてるので、ストーリーを進める力が弱く、サスペンスが盛り上がらない。マローンの巻き込まれも止むなし感が不足。全体的に寝不足と酔っ払った頭でぼんやり眺める空騒ぎの印象。パズルは素晴らしく上手にまとまっていて、ラストも非常に効いてるのだが… まあ私はトリオのファンなので、とても楽しめました。
登場する拳銃は「醜悪な、性能のよさそうな小型の拳銃(an ugly, efficient-looking little gun)」という記述以外手がかりは無いが、オートマチックっぽい印象なので、独断でFNモデル1910(.32口径)としておこう。全然uglyじゃ無いけどね。
以下トリビア。
作中年代は1938年以降、冒頭はクリスマスの一週間前のシーン。p197から計算すると1939年12月とわかる。
いつものようにシカゴの街路名がたくさん登場するが今回はパス。
p13 前二作への言及あり。
p20 実験♠️これは有名な事件(1924)を連想させるので、なんかイヤ。
p43 北部では“ご機嫌よう(アップ・ノース)”と(Here’s how, as you say up No’th)♠️北部では乾杯する時何て言うの?みたいに感じました。
p51 因果応報、悪事千里を♠️ここのくだりは私が参照した原文(Open Road/Mysterious Press 2018)に無し。他にも色々抜けてるところが若干あった。
p51 すてきな漢字で印刷(in fine Chinese print)
p56 ベット・タイム・ストーリー♠️Bedtime Stories(親が子供の寝るときに聞かせる話)とかけているのだろう。参照原文は欠。
p63 小額紙幣で五万ドル(Fifty thousand dollars in small bills)♠️米国消費者物価指数基準1939/2022(20倍)で$1=2280円。
p69 自動エレヴェーター(the self-service elevator)♠️操作する人が乗っていない、という意味。
p69 『孤独な狼』(The Lone Wolf)♠️ポーランドの画家Alfred Jan Maksymilian Kowalski (1849–1915)の(特に米国では)有名な作品。
p95 硬貨の裏表を賭けて40セントすり(to lose forty cents matching coins)
p95 私、人妻じゃないのよ。結婚はしたけれど、妻にはなってないの(I’m not a matron. Wedded but not a wife)♠️同衾しないと、という趣旨?
p109 ラミー(rummy)♠️特に1941-46の米国で映画界やラジオ界を中心に流行したようだ。
p121 十セントの靴下(a pair of ten-cent socks)♠️安物のようだ。
p132 ジーン・クルーパ(Gene Krupa)♠️Benny Goodman楽団"Sing, Sing, Sing"(1937-7-6録音)で一躍有名になったドラマー。The Famous 1938 Carnegie Hall Jazz Concert (1938-1-16)での熱演も名高い。
p139 日本人の執事(a Japanese butler)♠️なぜ日本人?
p140 アン・シェリダンのサイン入りブロマイド(Ann Sheridan’s autograph)♠️ハリウッド女優(1915-1967)、1936年に芸名を変え『汚れた顔の天使』(1938)で人気となる。
p147 ソルジャース・フィールド(Soldiers’ Field)♠️シカゴ・ベアーズ(アメフト)のホームグラウンド。1924年開場。正しくはSoldier Fieldという。
p185 レジスターに赤い星が出たら、次の一杯は無料です(IF RED STAR SHOWS ON REGISTER, YOUR NEXT DRINK FREE)♠️飲み屋の掲示。
p194 古い灰色の帽子をおかぶり(Put on your old gray bonnet)♠️詞Stanley Murphy、曲Percy Weinrichの1909年のヒット曲。Haydn Quartet創唱。
p211 洗練(refinement)♠️そういうものですか…
p226 マギー(Maggie)♠️これが初登場のようだ。
p233 一糸もまとっていない状態(in a completely unclad condition)♠️ラジオニュースなら、もっと上品に行きたいところ。試訳: 全く衣服を着ていない状態
p234 まったくのすっぱだか(It was as naked as a worm)
p240 マフル(muffle)

No.5 4点 E-BANKER
(2017/05/12 23:38登録)
1940年発表。
姉妹篇である「大あたり殺人事件」とともに、作者の代表作と言える長編。
原題は“The Wrong Murder”、小泉喜美子訳。

~ようやくの思いでジェークがヘレンと結婚したパーティの席上、社交界の花形であるモーナが「絶対捕まらない方法で人を殺してみせる」と公言した。よせばいいのにジェークはその賭けにのった・・・。なにしろ彼女が失敗したらナイトクラブがそっくり手に入るのだ。そして翌日、群衆の中でひとりの男が殺された・・・。弁護士マローンとジェーク、ヘレンのトリオが織り成す第一級のユーモア・ミステリー~

なぜか「大あたり・・・」の方を先に読んでしまった後の本作。
まぁ別に関係なかったといえばなかった。
(ジェークとヘレンが新婚旅行へなかなか行けなかった訳が分かったくらいか・・・)

「大あたり・・・」の時にも感じたけど、どうもライスとは相性が悪いようだ。
まず“ユーモア・ミステリー”という惹句。これがいけない!
本作も三人のドタバタ劇に割かれてるページ数が多すぎないか?
本筋としてはそれほど複雑とは思わないんだけど、寄り道や行ったり来たりのせいで、何とも締まらない読書になってしまう。
(これがもし映像化されたら、昔のドリフのコントみたいに、会場からの笑いが挿入されそうな雰囲気・・・)

本筋もどうかなぁー
途中でちょっとゲンナリしてきて、あまり身が入ってなかったんだけど、どうもプロットの核っていうか、肝がよく分からなかった。
解説等を読んでると、動機もプロットの中心というふうに書かれているけど、ピンとこなかったなー
フーダニットも「ふーん」としか感じられない。

ということで、どうにも煮え切らない感想になってしまった。
GWの比較的ヒマな時間に読んでしまったのが、逆にいけなかったのかな?
これ以上、作者の作品を手にしようとは思えない。

No.4 7点 nukkam
(2016/09/05 00:43登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のマローン弁護士シリーズ第3作で「スイート・ホーム殺人事件」(1944年)と並ぶ代表作とされています。個人的にはこの2作以外にも読み落とせない作品がいくつもあると思いますけど。ただ本書はビギナー読者にも勧められるかというとためらいがあるのも事実です。社交界の花形モーナ・マクレーンが「絶対につかまらない方法で人を殺してみせる」と突如宣言し、殺人事件が起きると(被害者とモーナの関係もわかっていないのに)犯人はモーナと仮定して探偵活動しているところからして尋常でないプロットで、王道的なフーダニット本格派しか読んでない読者は面食らうかもしれません。とはいえ殺人予告、どんちゃん騒ぎ、ハードボイルド風銃撃戦、ギャング、酒、身だしなみのセンス、賭け事、不可能犯罪とおバカなトリック、カーチェイス、脅迫、人情物語、容疑者を一堂に集めての真相解明とよくもまあこれだけの要素を盛り沢山に詰め込み、しかもテンションを落とすことなく一気に読ませてしまうストーリーテリングはちょっと誰にも真似できないでしょう。

No.3 4点 ボナンザ
(2014/04/24 17:33登録)
某ミステリ作家が大学時代に選んだ海外ベスト作品らしいが・・・。
ユーモアのセンスがずれるとそれほど面白いとは思えない。
大当たりと合わせて読んでも大して感想に変化がないのは実証済み。

No.2 6点 蟷螂の斧
(2014/03/16 19:29登録)
裏表紙より『ジェークにとって、それはこよなく愉しい夢見心地の宵だった。以前から恋こがれていたヘレンとやっと結婚できたのだから。ところが、そのパーティの席上、シカゴ社交界のナンバー・ワン、モーナ・マクレーンが`「絶対つかまらない方法で人を殺してみせる」と公言したのである。よせばいいのにジェークはその賭けにのった。なにしろ、彼女が失敗したらナイト・クラブがそっくり手に入るのだ! その翌日、群衆の中で一人の男が殺された……。そもそもはたして、これはモーナ・マクレーンの仕組んだ犯罪なのか? 弁護士マローンとジェーク、ヘレンのトリオが織りなす第一級のユーモア本格ミステリ。       アメリカンユーモアはどうもピンときません。解説によると抱腹絶倒しない人は変な人らしい(苦笑)。ただし、時代の変化がユーモアの変化をもたらしているかもとはありますが・・・。内容の方は動機探しで楽しめました。ラストの会話が、題名、続編を暗示しておりセンスがいいと感じました。

No.1 7点 kanamori
(2011/06/09 18:20登録)
マローン弁護士&ジャスタス夫婦シリーズの3作目。
米国’40年代の都会派ミステリといえばウールリッチとクレイグ・ライス。サスペンスとユーモア、ニューヨークとシカゴという風に、ジャンルも作品舞台も違うけれど、ともに古き良き時代のアメリカへの憧憬のようなものを感じさせてくれる。

本書は、次作の姉妹編「大あたり」と併せて、シカゴ社交界の華モーナ・マクレーンの殺人予告を巡るドタバタを縦糸にしたユーモア本格ミステリ。謎解きもいいけれど、小泉喜美子女史の軽妙な翻訳と相まって主役・脇役のキャラクターが楽しい。とくに、「警官になんかなりたくなかったんだ」のフォン・フラナガン警部がお気に入り。

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