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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1924件

プロフィール| 書評

No.244 6点 死ねばいいのに
京極夏彦
(2012/11/27 21:37登録)
プロットと言うか構成は宮部女史のような。
それでも文章のしつこさ、或いは粘着質な感じはやはり京極氏ならではのものだと思う。
確かに、フーダニット&ホワイダニットものと言えるのかも知れないが、これだけの手掛かりでそれらを推理するのは無理というもの。
がしかし、犯人の正体にはやはり驚きを隠せなかった。
それは良いのだが、動機は理解しがたいし、全体的にすっきりしない、後味の悪さを覚えた。


No.243 8点 バトル・ロワイアル
高見広春
(2012/11/22 22:14登録)
再読です。
私は不思議だった。なぜこれまで、映画化され劇画にもなったこの有名な作品が書評どころか、登録さえされなかったのか。
確かにミステリではないし、そうした意味で誰も書かなかったのかもしれないが、例えば『イニシエーション・ラブ』のような作品に多くの書評が寄せられているのだから、本作にも一人くらい書評があってもいいだろう。
もう既にみなさんご存知だと思うが、概要を簡単に紹介しよう。
極東の島国、大東亜共和国では今年も“プログラム”が実施されようとしていた。
城岩中学3年B組の生徒達は修学旅行に向かう途中で、催眠ガスにより眠らされ、瀬戸内海の沖木島に運び込まれる。
そして彼らは目が覚めた時、自分たちが“プログラム”の対象クラスに選ばれた事を知る。
そのプログラムとは生徒同士で最後の一人になるまで殺し合う、といういたって簡単なもの。
勿論反則はない、決められた時間内に禁止エリアに残っていた者は強制的にはめられた首輪が爆発し、死亡する。
また、24時間誰も死ななかった場合もすべての生徒の首輪が爆発し全員死亡する。
よって、優勝者はなしということになる。
この究極の緊張状態の中で、その気になる者、自殺する者、仲間同士で集まって篭城する者、拡声器で呼びかけて殺し合いをやめさせようとする者など様々。
本作は著者が三年の年月をかけて描かれた、究極のサバイバル・ゲームであり、それぞれの青春模様を浮き彫りにした力作だ。
とにかく面白く、読者は余計な雑念を忘れてそれこそ夢中でその世界に入り込める、得がたい経験をすることになるだろう。
大部分の生徒のプロフィールが紹介されている辺りも、考えてみれば凄いことだと思うし、一体誰が誰を狙うのか、最後まで生き残るのは誰なのか、興味は尽きないところだ。
このタイプの小説が好きで未読の方は、是非読まれることをお勧めする。
尚、映画はかなり脚色されているので、映画を観た人も原作を読む価値は大いにあると言いたい。


No.242 5点 さまよえる脳髄
逢坂剛
(2012/11/16 21:43登録)
再読です。
昔読んだ時はなかなか面白かった記憶があるのだが、改めて読み返してみるとそれほどでもなかった。
歳のせいか、若かった頃に比べて感性が磨り減ってしまったのだろうか・・・
本作はいわゆるサイコ・サスペンスと呼ばれる作品だが、脳神経に関する薀蓄や、それに付随する殺人事件など、あれもこれもと詰め込みすぎて、まとまりがなくなっている感じを受けた。
面白いエピソードもあるにはあるが、全体として今ひとつ盛り上がらず、意外な真相なども皆無に等しく、期待したような仕上がりではなかった。
残念ながら再読するほどの作品とは言えないだろう。


No.241 7点 三匹のおっさん
有川浩
(2012/11/12 22:27登録)
還暦を迎えた三人のおっさんが自警団を結成し、ご近所の悪を懲らしめるという、典型的な勧善懲悪の物語。
彼らは時に暗躍し、時に真正面から婦女暴行犯や動物虐待犯らを懲罰するのだが、犯人をばっさりとぶった切るというところまでは行かず、多少消化不良気味に終わってしまうので、若干もやもやしたわだかまりの様なものが残る。
とは言うものの、剣道の達人のキヨさん、柔道家のシゲさん、頭脳派のノリさんの三人に加えて、キヨさんの孫の祐希やノリさんの娘の早苗が活躍する、笑いあり涙ありのエンターテインメントに仕上がっている。
ところどころに女性作家らしい柔らかい表現が差し挟まれており、ハードな面もあるわりに年齢層を問わず楽しめる作品となっている辺り、さすが人気作家と言ったところか。
ちなみに、連作短編の形式を採っており、内容もバラエティに富んでいて飽きが来ないよう工夫されているのも好感が持てる。


No.240 8点 フリークス
綾辻行人
(2012/11/07 21:50登録)
再読です。
幻想とホラー、ミステリの融合の見事さ、綾辻氏にしか書けないであろう点、異形への畏怖と憧憬、これらの要素を評価して、悩んだ挙句8点とした。
中編3作から成る作品集だが、どれも異様な雰囲気を醸しだしており、舞台が精神病院ならではのトリックが上手く取り入れられているのも評価が高い。
『四〇九号室の患者』は無論オチが分かっているのを承知の上で読んだので、やや長く感じたが、それでも面白かった。
最後の『五六四号室の患者』が最高である。これこそ綾辻氏の真骨頂と言えるのではないだろうか。
幻想小説としても本格ミステリとしても一級品だと思う、ちょっと甘いかもしれないが。
とにかくこれはお気に入りの一作である。


No.239 6点 タイムカプセル
折原一
(2012/11/03 21:51登録)
栗橋北中3年A組の有志で卒業式の日に埋められたタイムカプセル。
その中には誰も会ったことのない不登校の不破勇の小説も入れられた。
そして10年後、謎の郵便配達人から「選ばれ死君たち」宛の不気味な案内状がメンバー達に次々に届く。
そこから様々な出来事を経てついにタイムカプセルが開かれるのだが・・・。
タイムカプセルが開かれるシーンは例によって袋とじになっており、興奮を盛り上げるのに一役買っているが、これはあってもなくてもどちらでも良かったような気がする。
全体的にスピード感は感じられないものの、サスペンスはそこそこ効いており、最後まで飽きることなく読めるように工夫されている。
メイン・トリックは手垢塗れのものだが、まんまと騙された。このトリックは注意深く読んでいれば、比較的簡単に見破れると思う。
ジュブナイルだが、大人の読者でも普通に楽しめる作品ではないだろうか。


No.238 7点
麻耶雄嵩
(2012/10/29 21:33登録)
再読です。
みなさんの書評を拝読して、自分はこの小説の表層しか読み取れていないのではないかという危惧を感じた。
淡々と物語が進行していく中、結構なペースで殺人が発生したり過去の事件が絡んでくるが、それに相応しい緊迫感が全くないのはどうにも。
しかし、忘れた頃に登場するメルカトルがやけに格好良い。
本当に久しぶりに読んだわけだが、真相を含めて全く憶えていなかった自分が情けなかったりもしたが、新作を読んだかのような感覚はなんだか得した気分にもなったりして。
トリックに関しては新味はないかもしれないが、演出が上手いので、思わず唸らされる。
とにかく、まったりとしたストーリーと裏腹に、真相が暴かれるシーンはいきなり緊迫の度合いを高め、再読して本当によかったと思わせてくれ、大きな収穫であった。


No.237 7点 こどもの一生
中島らも
(2012/10/22 21:37登録)
11月にパルコ劇場他で舞台公演されるということで、9年ぶりくらいに再読。
やはり面白い、これはB級ホラーの傑作である。
瀬戸内海の孤島に集められた5人の男女。年齢も性別もバラバラの彼らは精神科の治療を受けるため、はるばるこの地を訪れたのである。
彼らは催眠療法と薬剤により、10歳の子供に精神年齢が退化していく。子供になった彼らは無邪気に振舞いながら、様々な出来事や事件に遭遇していき、そしてついに・・・。
といったストーリーで、前半から中盤にかけてはまったりとした感じで進行していきながらも、笑いのツボは外さない。
しかし後半は一転、サバイバル・ゲームの様相を呈していく。
一気に加速するので、同じ小説とは思えないほどの急展開である。
しかも、かなりエグイシーンもありながら、尚も笑わせる辺りは凄いというか、作者の力量を認めざるを得ない。
意外と知られていないようだが、一読の価値ありと言わせていただこう。


No.236 6点 赤いべべ着せよ…
今邑彩
(2012/10/18 21:53登録)
良くも悪くも今邑女史らしい作品。
本格ミステリと言うより、サスペンス色の濃い仕上がりになっている。それにホラーがちょっぴり味付け程度に色をつけている感じ。
全体として悪くはない出来だとは思うが、確かに突出したものが感じられないので、強烈な印象は残らない。
今邑女史は長編より短編集のほうが楽しめるような気がするね。
それと一つ気になったのは、謎が謎のまま残されて置き去りにされているところがある点。
一応本筋に関係しているものなので、ちょっとどうかと思う。


No.235 7点 電氣人閒の虞
詠坂雄二
(2012/10/12 23:00登録)
これは問題作だろうね。
かなり好き嫌いがはっきり分かれるタイプの作品だし、最終章では賛否両論を呼びそうな気が大いにする。
個人的には評価の通り、全然アリだと思う、逆にこの衝撃がなければ単なる凡作に終わった可能性が高いだろう。
読み終えた後もしばらく呆然として、何も手に付かなかった。それほどラストの破壊力は凄まじいものがあるということ。
しかし、読後、本書を壁に叩きつけたくなる人の気持ちも分からないでもない。
だが、これもミステリのカタチのひとつだと解釈することはできないだろうか。
生真面目な読者ほど腹が立つのかもしれないが、ここはひとつ唖然とさせられる流れに身をまかせて、余韻を味わおうではないか。
それにしてもこのタイトル・・・虞か、なるほどねえ。


No.234 5点 萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ
吉永南央
(2012/10/07 22:35登録)
この作品は果たしてミステリと呼べるのだろうか、私の感覚では文芸作品のような気がするが。
小粋な下町のお婆ちゃんが安楽椅子探偵よろしく、日常の謎を鮮やかに解き明かす、みたいに思っていたら大いに肩透かしを喰らう。
確かに事件は起こるのだが、このお婆ちゃん探偵は自らの足を使って、まるでハードボイルドの探偵のように多分に危ない橋を渡りながら、最後には解決に導いていく、みたいな感じである。
自らの年齢から来る苦難や、苦労などを的確に描く作者の姿勢は容赦ない。
しかし、だからこそリアルな70歳を超える女性像を確実に捉える事に成功しているのではないだろうか。
文章もしっかりしているし、ミステリとしてよりも文学作品として読めばなかなかの良作なのかもしれない。


No.233 6点 浜村渚の計算ノート
青柳碧人
(2012/10/02 21:33登録)
日本はある事情により、数学を学校教育から排斥した。
その事実を憤りテロリストとして暗躍する天才数学者、そのテロリスト集団に対抗するため、警視庁が招聘したのは中学二年生の天才数学少女だった。
というのが、ストーリーの中軸をなしている。
この少女が特別美少女扱いされている訳ではないが、どことなく憎めない、愛嬌のある性格として描かれているのは好感が持てるし、なかなか細かい点まで描写されていて等身大の中学生らしさを感じさせる。
数学をテーマにしているため、小難しい定理や公式が横溢しているかと思いきや、そんなことはなく、思った以上に読やすい。
0個のりんごを4人で割ると1人分は0個、では4個のりんごを0人で割ると1人何個?
答えは読んでのお楽しみ。


No.232 6点 先生と僕
坂木司
(2012/09/24 21:31登録)
ゆるーい感じの日常の謎系連作短編集。
大学生の僕は秀才の中学生男子から声を掛けられ、彼の家庭教師を形の上だけ引き受けることになる。
つまり大学生の僕はあくまでワトソン役で、先生は中学生の彼、隼人であり、探偵役でもある。
彼ら二人はナイスなコンビネーションで、日常の謎を紆余曲折を経て解いていく。
とは言っても、それほどインパクトのある事件はあまりないので、どの物語もさして印象に残らない。
しかし、第四話だけは私の心に深く刻み込まれている。
どこか切なく、ちょっとほろ苦い、なんとも言えない余韻を残す佳作である。
これがなければ5点だったが、プラス1点とした。


No.231 6点 六つの手掛り
乾くるみ
(2012/09/19 21:41登録)
意外に評価が高いですね、読み手のレベルの高さが偲ばれます。
これは徹底的にロジックに拘った、本格ミステリの短編集である。
しかし、やや小難しく細部にまで神経を行き届かせないと、展開についていくのがやっとで、理解に苦しむ事になるケースも考えられる。
なので、ミステリ本来の楽しさを味わおうとする小説ではないと思う。
真剣に頭を使って読まないと、理解しづらいことは事前に覚悟しておいたほうがいいだろう。


No.230 6点 悪の教典
貴志祐介
(2012/09/11 21:35登録)
前半はなかなか緻密で丁寧に書かれているが、後半がなあー。
別に倫理的にどうこう言うつもりは毛頭ないが、どうにも荒削りな印象が否めない。
蓮実くらいの切れ者なら、別にクラスの生徒全員皆殺しにする必然性は全くなく、自らの手を汚さずとも他に方法はいくらでもあるのではないかと思うのだが。
それとひとつ気になったのが、ある生徒の不可解な行動である。冷静に考えれば、それはないだろうと。
ある意味後半はあの『バトル・ロワイアル』に類似しているが、残念ながら遥かに及ばないと言わざるを得ないね。
それでも全体的には、読みやすく好感は持てる。
しかし、後味がスッキリしないのはマイナス要因であろう。


No.229 6点 蒼林堂古書店へようこそ
乾くるみ
(2012/08/24 21:35登録)
ほのぼのとした雰囲気が実に心地良い、それにさりげない季節感を時折漂わせている点も評価できる。
ただ、ミステリとしてはいかにも弱いところや、解決に強引さが感じられるケースが多々見られるのは少々残念。
それでも私はこの物語が好きだ、それはもう理屈抜きに。
そしてラストのサプライズも好ましい結末と言えよう。
それぞれの登場人物が生き生きと描かれているのも素晴らしく、紅一点のしのぶがまた魅力的である。
後味も良い。


No.228 5点 交渉人・爆弾魔
五十嵐貴久
(2012/08/17 21:17登録)
この手の作品は一気に読んでしまったほうがより楽しめるね。
内容としては所々に見せ場が用意されているが、その他のシーンは平板な印象を受ける。
登場人物も結構多いが、感情移入できるような人物造形がなされていないのは残念であった。
また、タイトルは「交渉人」となっているが、犯人側との交渉シーンは全くないので、期待外れの感は否めない。
前作と比較するとやはり数段落ちると思うのは自分だけではないだろう。


No.227 6点 煙突の上にハイヒール
小川一水
(2012/08/05 21:47登録)
近未来の世界を描いたSF&ファンタジー。
ミステリ度は薄いが、敢えて登録したのは、最終話の衝撃度が強烈だった為。
失恋して半分ヤケ気味になったOLは、少なくない預金を解約してあるものをすべてつぎ込んで購入するが・・・。
ペットの猫が最近太り気味になっているのを気にして、首輪にカメラを埋め込んで猫の動向を探ると、意外なシーンが映っていた・・・。
など、少し変わったシチュエーションが楽しめる、5編の短編から成る作品集である。
だがなんと言っても、特筆すべきは最終話、これだけでも一読の価値があると言っても言い過ぎではないと思う。


No.226 6点 奇談蒐集家
太田忠司
(2012/07/16 21:17登録)
奇談と言うわりには驚くようなものはあまり見当たらない、どちらかというと地味な連作短編集。
どの短編も奇談が語られた直後は、ちょっぴり不可思議な、或いは幻想味を帯びた余韻を残すが、蒐集家の助手?が一刀両断の下にオチを付けていく過程は、現実の味気なさにがっかりさせられるパターンが多い。
ちょっと意外な結末の短編も含まれているが、全体的に「ああ、なるほど」程度にしか感じられないのが少々残念。
でも、まずまず楽しめる。
最終話はもう少しまとまりのある結末が欲しかったかな。


No.225 6点 中途半端な密室
東川篤哉
(2012/07/06 21:49登録)
何だろう、この読み心地の良さは。
どの作品も臨場感があり、脳裏に情景が浮かんでくる辺りは、さすが売れっ子作家だと感心させられる。
突出した短編はこれといって見当たらないものの、どれも及第点をクリアしていると言って良いのではないだろうか。
まだ本格的にデビューする前の作品のわりには、なかなかの完成度の高さを誇っているし、肩の凝らない程よいユーモアも保たれていて、非常に読みやすい。
これは評価されるべき点であろう。
これだけ褒めておいて、この点数は低すぎるかもしれないが、全体的にやや物足りなさを感じるのは否定できないからやむを得まい。

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