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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1923件

プロフィール| 書評

No.463 6点 ピース
樋口有介
(2014/04/30 22:24登録)
『ピース』洒落たいいタイトルだねえ、まあ誰が考えてもそれ以外ないんだけど。それと装丁(文庫版)も実にいい味出している、読後思わず見返してしまったよ。
肝心の中身は、秩父での連続バラバラ殺人事件を追う刑事と、被害者がピアノを弾いていたスナックのマスターやバーテン、そこに通う常連たちの物語が入り乱れての人間模様が中心に描かれており、若干本格ミステリとは言い難い。しかし社会派ではないと思うね。一応、その中に伏線が張られてはいるのだが、それらを頼りに真相にたどり着くのは無理だろう。なにせ、何の前触れもなしに、いきなりある人物が犯人を指摘し、真相を語りだすのだから。その段になって、やっとあの時のあれはそういうことだったのか、などと考えが至るのみで、さすがにここまではたどり着けないと思う。
そしてラスト、刑事のセリフが回りくどすぎて、なんだか締まりのない終わり方になってしまっている気がする。もう少し、ズバリと切り込まないと、せっかくの作者の狙いがぼやけてしまって、後味の悪さに繋がっているのではないだろうか。
しかしまあ、全般的に重苦しい雰囲気ではあるものの、特にホワイダニットについては、なるほどと首肯させられるだけのものはあった。ただ、いくつかの謎が謎のまま回収されていないものがあり、やや気持ち悪さが残ってしまっている点は残念。


No.462 7点 僕はお父さんを訴えます
友井羊
(2014/04/28 22:28登録)
タイトルの通り、13歳の少年が民事訴訟を父親相手に起こす物語。訴えの理由は愛犬を殴り殺されたというもの。子供に何ができるのかと、疑問に思っている方も多いだろうが、周りの大人たちの助けを借りて、立派に書類作成から出廷にいたるまでをこなしている。本作はなんとなく頼りないタイトルとは裏腹に、しっかりとした本格法廷ミステリである。
主人公の光一はごく普通の中学生で、ある日クラスメートの沙紗に愛犬のリクを瀕死の状態で見つけたことを知らされる。急いで駆け付け病院に連れて行くが、犬はやがて死んでしまう。二人は協力してリクを殺した犯人を突き止めようと、探偵の真似事を始め、行き当たったのが光一の実の父親だった・・・という出だしである。
これだけでは、いかにも単純なストーリーに思えるが、実は序盤からは想像もつかない、作者のたくらみが隠されているのである。
やや地味な作風ではあるが、実に面白い。はっきり言ってお薦めだ。まあこんなこと書いても、誰も読まないんだろうけど、読んで後悔することはおそらくないだろう。
登場人物もとてもよく描き込まれていて、キャラが立っているので、飽きるということがまずない。だから安心して読み進められるのも美点の一つだと思う。前述の二人に加え、光一が裁判を始めるに当たっていろいろ相談に乗ってくれる司法浪人の敦や、離婚裁判中の義理の母真季など、個性的な面々が顔を揃えて、作中で生き生きと躍動している。


No.461 5点 編集長連続殺人
吉村達也
(2014/04/26 23:29登録)
再読です。
雑誌『週刊A』の編集長が、就任13日目に事故死するという事件が立て続けに起こる。当然次の編集長は気が気ではない。そこで彼はサイコ・セラピストの氷室想介に助けを求め、一方、動き出した警視庁も氷室と共に捜査に乗り出すのだが・・・というストーリー。
比較的登場人物が多く、やや複雑になりそうな人間関係を上手く整理し、プロットの妙でスッキリとした流れを作り出しているのは相変わらずの手練ぶりである。それに対してトリックのほうは、かなり偶然に頼り過ぎの感が強く、そんなにうまくいくのか、という疑問が持たれるのはやむを得ないのではないだろうか。
ラストの氷室による謎解きのシーンは、本作最大の見せ場で、なかなか盛り上がりを見せており、それなりに読み応えもある。
しかし、個人的には推理を披露する氷室よりも、本職のサイコ・セラピストとして活躍するエピソードのほうにより惹かれる。作者としてはそちらはあくまで読者サービスなのかもしれないが、結構力が入っている気がしてならない。
まあ取り敢えず、本作は吉村氏の軽妙さと程々のトリックという持ち味を遺憾なく発揮した作品だと思う。


No.460 5点 そして扉が閉ざされた
岡嶋二人
(2014/04/23 22:30登録)
再読です。
男女4人が核シェルターに閉じ込められるというシチュエーションには、どうしても緊迫した状況や差し迫った人間のむき出しの感情など、生臭いシーンが期待されるが、そうした要素はこの作品には無関係であった。だからこその本格ミステリということになるのかもしれないが、個人的にはいま一つ臨場感や圧迫感がなく物足りなさを覚えてしまった。
全体的に評価が高いが、私はそれ程までとは思えない。むしろ他にも岡嶋氏の代表作と言える作品はあるので、本作に関してはあまり思い入れとかはないのである。ただ、男女の微妙な恋愛感情やデリケートな言葉の遣り取りに関しては、非常に上手いと感心した。その部分についてはとても共感できるし、特に女性のセリフ回しなど、実際に使われていそうで、なるほどなと感嘆しきりである。そんなところばかりに目が行って、肝心のミステリとしての観点からはあまり感心出来なかったのが自分の情けないところなのかもしれない。
謎解きの論理的な点は評価されるべきだとは思うが、かなり絶望的な閉鎖状況なのに、4人とも比較的平静を保っているのは、私としてはちょっと違うんじゃないかと感じてしまった。だから、みなさんの評価よりは低くせざるを得ないのが、私の偽わざる現実なのである。


No.459 4点 親指さがし
山田悠介
(2014/04/21 22:21登録)
再読です。
7年前の「親指さがし」というゲームの最中に突然失踪した由美、20年前山梨で起こったバラバラ殺人事件、この二件の出来事に果たして関係はあるのか、二十歳の武はかつてゲームを一緒に行った3人の仲間と共に山梨の別荘に向かい、事件の真相を探るが・・・というストーリー。
無駄を排した、読みやすい文章はいいが、まるで子供向けのような噛んで含めるような文体は、やや稚拙な感じを与えてしまうので、かなり損をしている気がする。それも手伝ってか、いかにも内容が空疎でスカスカな印象を受ける。プロットやストーリー自体は決して悪くないと思うのだが、何と言うか、濃密さに欠けるため、ホラーなのにあまりにサラッとしすぎていて、怖さが伝わってこないのが残念である。それが作者の持ち味と言ってしまえばそれまでだが。もし書き手がもっと熟練した作家であれば、かなりの傑作になったのかもしれない、そんな素材の良さは伺える。
まあしかし、ホラーやミステリ読みの手練れには受けないだろうが、一般の読者にとってはこれくらいの低刺激が程よくていいのかもしれないとも思う。


No.458 5点 貸しボート十三号
横溝正史
(2014/04/20 22:24登録)
再読です。
『湖泥』『貸しボート十三号』『堕ちたる天女』の中編からなる作品集。
『湖泥』は岡山が舞台で、二つの旧家が対立する中、それぞれの家の息子が一人の女性を巡っての諍いを繰り広げ、遂にはその女性の殺害という悲劇を迎える。横溝ワールド全開とまではいかないが、それに近いものが味わえる。また、女性の左目がくり抜かれているという猟奇的な一面も見られ、読者サービスにも余念がない。
個人的に最も気に入っている表題作は、貸しボートの中で男女の死体が発見されるのだが、それぞれ中途半端に首がのこぎり様のもので切られているという、一見意味不明な事件がメインとなっている。しかも男性のほうは下着一枚といういでたちなのだが、それぞれにちゃんとした意味があり、半端な首切りとほぼ全裸状態の理由が犯人を特定する手がかりとなっている。奇妙な事件の割には後味がよく、意外な展開を見せる佳作となっているのではないだろうか。
『堕ちたる天女』はトラックから落下した、石膏の中に塗り込められた女性の死体から端を発して、複雑なストーリーを展開する。ちょっとややこし過ぎて、全体像が掴みにくいのが難点で、多分すぐに忘れてしまうのではないかと思われる。


No.457 6点 砂漠の薔薇
飛鳥部勝則
(2014/04/17 22:37登録)
再読です。
これは面白い。登場する人物が皆ネジが一本緩んでいるか、足らないか、それぞれ特異な性格をしているため、なかなか一筋縄では行かない変態的ミステリとなっている。
最初の事件は、二人の体型や顔立ちが似た少女が、一方は首なし死体となって発見され、片方は失踪するという、まるで横溝ワールドのような筋書きである。勿論、アプローチは横溝とは大きくかけ離れたものになっているが、骨組みは意外としっかりとしたミステリと言えそうである。しかしながら、妻が一瞬のうちに消えたり現れたりするなどの経験をする、精神病院に入院歴のある男の挿話が盛り込まれたり、或いは異端的な絵画の薀蓄が語られる等、独自の世界観を表出させる異色の作品でもある。
ラストの二転三転する展開は、個人的に好ましく読ませてもらった。ただ、最初の事件の頭部切断の理由が私にはいま一つ理解できなかったのが気になると言えなくもない。いや、理解できないというより、納得がいかないのであろうか。そんな理由で?って感じでね。だが、違和感を覚えた個所がほとんどが伏線となっている点や、紆余曲折するストーリーも、全体の雰囲気も決して悪くない。なかなかの作品だと思う。


No.456 5点 愛国殺人
アガサ・クリスティー
(2014/04/14 22:38登録)
再読です。
翻訳物独特のしゃちほこばった文体が自分にはやはり合わないと、再認識させられた。とは言うものの、こなれた文章ではないにしても、決して読み難いわけではないと思う。ただ、なんとなく上滑りして、内容が頭の中にすんなりと入ってこない感覚を覚える。相当昔に翻訳されたというのも一つにはあるだろう。これを面白がって、感心しながら読んだ幼少期の自分を褒めてやりたい。既に私の灰色の脳細胞も老化現象が始まっていると思われる。
さて、事件は自殺か他殺か判然としない歯科医師の死体に始まり、かなり複雑な人間模様が繰り広げられる。途中まではさすがのポアロもお手上げ状態だが、ふとしたことから天啓を受け、そこからは一気に事件解決へとなだれ込む。途中顔を潰された死体も登場し、一見単純な入れ替わりかと思わせて実は・・・という、ミステリ読みの達人をも唸らせるようなさすがのトリックを弄したりして、クリスティの名に恥じない作品に仕上がっているとは思う。
やや真相が複雑なだけに、あまりインパクトがなくカタルシスも生まれてこなかったのは心残りだが、犯人の「愛国」心とポアロの信念がもたらす、表裏の心理を上手く表現するラストは印象深いものがある。


No.455 6点 火蛾
古泉迦十
(2014/04/12 22:11登録)
再読です。
難解な言語、イスラム世界の宗教観、貧しい修行者の連続殺人、これは激しく読者を選ぶ作品である。また、これほど書評が難しいものも珍しいのではないだろうか。とても気軽に読めるミステリではない、本作を読もうとする者はかなりの覚悟が必要になってくるだろう。
とは言うものの、文体はむしろ明快であり、なんら引っ掛かるような表現はないと思う。ただ、見たことも聞いたこともない単語が散見されるのみである。これがちょっとだけ厄介だが。
まあいずれにしても、これまで誰も読んだことのない類の超異色作ということが言えるのではないだろうか。謎も不可思議だが、謎解きがまた圧巻である。最終章も余韻を残しながら、良い雰囲気で締めくくられている。


No.454 5点 公開処刑人 森のくまさん
堀内公太郎
(2014/04/10 22:34登録)
ふざけたタイトルに多くの方は「どうせロクなもんじゃないだろう」と思われているか、或いは無関心かのどちらかだろう。しかし、これが案外悪くない。私自身も、怖いもの見たさで読んでみただけだが、意外な拾い物をした気分である。
ストーリーはB級の匂いがプンプンする、どこか勘違いした正義の味方を気取った殺人鬼が、ネットを通じて「処刑」の対象を選び、次々と残虐な方法で殺害していくというもの。ありがちなパターンで、これといって新味はないものの、まずまずツボを押さえた力作に仕上がっているのではないだろうか。
無論、問題点もある。最も気になるのは、ところどころ三人称の文章なのに、視点が一人称になっている部分である。どちらとも取れる文体は、ややもすればミステリの作法に則っていないとのそしりを免れないのではあるまいか。これが本作最大の瑕疵だと思う。読者によってはルール違反であるとか、アンフェアと言われかねない。他にも、イマイチ登場人物に魅力がないとか、描写が足りないとか、背景などがほとんど無視されている、文章が素人っぽくプロの域に達していないなどが挙げられる。
だが、そんな欠点を考慮しても、一読の価値はあると思う。B級サスペンスがお好きな方は読んで損はないのではないだろうか。


No.453 6点 八ヶ岳「雪密室」の謎
アンソロジー(国内編集者)
(2014/04/09 22:43登録)
再読です。
スキー好きのミステリ作家と編集者を集い、作家の笠井潔が主宰する第4回スキーツアーで遭遇した密室(殺人ではない)事件。
手記によると1998年1月17日、この日は記録的な大雪で都内でも20cm以上積もったそうだ。車3台と列車に分かれて八ケ岳に向かった一行だが、道中ちょっとしたアクシデントに見舞われながらも、何とかロッジに到着。その後鍵を部屋に置いたまま施錠せずに買い物に出かけ、帰ってきたら鍵がかかっていたという。勿論、鍵は部屋に置かれたままだった・・・。
問題編となるメインの手記は笠井潔、二階堂黎人、編集者の布施謙一が、それを補う形で、我孫子武丸、桐野夏生、貫井徳郎がそれぞれの立場で手記を載せている。また回答編に挑んでいるのは、鯨統一郎、柄刀一、霞流一(一が多いな)、斎藤肇、喜国雅彦(漫画家)の錚々たる面々。喜国以外の解答者は、ツアーとは関係ない人々である。
しかし、この問題編がどこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションなのか全く分からないのである。上手く読者を煙に巻いている感じだが、それぞれの手記に矛盾はなく、キッチリと整合性は取れている。おそらくは大半が実際に起こったことを元に話は綴られているのだとは思うので、妙にリアリティがある。しかも、ご丁寧に何枚もの現場の写真を掲載しており、とても作り話とは思えない。
気になったのは、回答編の密室トリックが同じようなパターンに偏ってしまったこと。致し方ないとは言え、もう少しいろんなバリエーションがあっても良かったのでは、と思った。って言うか、誰かこれ読んでる?埋もれちゃって。


No.452 4点 消えた探偵
秋月涼介
(2014/04/07 22:27登録)
再読です。
様々な神経系の病状を持った患者たちが集まる診療所が舞台。主人公のスティーヴは、例えば部屋の入り口から入って窓から出るといったように、入口と出口が違うとパラレルワールドに陥ってしまうという、強迫観念を持っている。実際過去に、二度それを経験していると自分では信じている。
他の患者たちの症状は様々で、あらゆる強迫観念を持つ者、ほぼ5分で過去の記憶を失くしてしまう者、多重人格、自分がエクソシストで悪魔と戦っていると信じる少女など。
そんな中でスティーヴは死体らしきものを目撃し、誰かに3階から突き落とされるが、九死に一生を得る。しかし、例のパターンでパラレルワールドに落とし込まれてしまい、死体は勿論、犯人も有耶無耶になってしまう。そこで自ら探偵として行動するという、かなり風変わりなミステリである。
正直、ラスト10ページ余りの真相の為に、実に地味な聞き込みや張り込みといった捜査活動を延々と読まされ、いささか退屈を覚える。確かに、その真相は首肯させられるものではあるのだが、そこにいたるまでがあまりにも長かったため、さしたるカタルシスも得られず。
今まで誰も書評を書かなかったのも分かる気がする。というより、誰も読んでないんだろうな。


No.451 6点 地獄のババぬき
上甲宣之
(2014/04/05 23:44登録)
前作の主要メンバー総出演の上、さらにアクの強い新キャラ達が登場し、にぎやかな作品に仕上がっている。
名神高速を走るバスがジャックされ、トランプのババ抜きで生き残る人質を順番に決めていくという、犯人の意味不明な要求に加え、それをTVで全国放送の生中継をするという前代未聞の事態に突入する。果たして犯人の真の目的は何か、という一見単純なストーリーのように思われるが、実はそこに至るまでにホラーやミステリの要素を盛り込んで、読者を飽きさせない工夫がなされている。
しかも、スピード感やスリルが効いているので、物語が盛り上がるのは間違いない。だが、残念ながら、肝心のババぬきの試合の模様が、やや冗長になってしまっているため、手に汗握るというわけにはいかない。ただ、マジックの技や心理戦、裏ワザなど様々な仕掛けが施されており、読み応えは十分である。単純なゲームだからこそ、読者を引き込む力を持っているのではないだろうか。
勿論、漫画のような設定に馬鹿馬鹿しさが先に立ってしまう読者にとっては許容できないかもしれない。私のような悪食、面白ければ何でもOKな読者には格好の暇つぶしになるであろう。


No.450 2点 歪んだ創世記
積木鏡介
(2014/04/02 22:14登録)
再読です。
これはいけません。読むほうも読むほうだけど、書くほうも書くほうだよね。メフィスト賞の選考委員は何を見て選んだんだろう。それにしてもこんな作品再読するなんて、最低。
出だしはまあまあ面白い感じがしないでもないが、途中からメタな展開になり、その辺りからもう目茶苦茶というかボロボロ。こんなのがありなら、どんな不可能犯罪でも可能になるわ。
細かいことを言うと、当て字が多すぎ。動悸(どきっ)としたとか、獅噛みつく(しがみつく)とか、いちいち目障りなのだ。それとユニットバスやクロゼットなどわざわざ日本語にしなくてもいいんじゃないかな。
もうね、最後の方なんか読んでいて眠くて仕方なかった、正直どうでもよくなってしまってね。それでも意地で最後まで読んだけど、読む価値なしってのが本音。


No.449 6点 暗黒童話
乙一
(2014/03/31 22:18登録)
再読です。
帯に惹かれて読んでみたのが約十年前だろうか。あまりピンと来なかったが、今回読み直してみても似たようなものだった。無駄な描写が目立つので、どうしても冗長になりがちだし、テンポもあまりよくない。面白いのは面白いのだが、やや文章が読みづらいところや稚拙な表現があるため、手放しで喜んでもいられない感じである。
グロイとの評価が多いようだが、決してグロくはないと私は思う。この程度なら大したことはない、もっとエグイのがホラー小説にはいくらでもある。個人的にはメイン・ストーリーよりも、このグロイと評される挿話のほうが作者が生き生きしているというか、輝いている気がしてならない。
瞳がソファで腹筋を使って体を弾ませて遊んでいるシーンや、真一と幸恵が瞳の体を撫でて森へ去っていくシーンなどが印象深い。このように心に残っているシーンがいくつかあるということは、やはり良作なのだなと思う。


No.448 3点 異説 夢見館
霞田志郎
(2014/03/29 23:40登録)
再読です。
太田忠司が自作のキャラ霞田志郎名義で書き上げた、幻想的なミステリ作品。
主人公の純はひきこもりの高校生。毎日自分の部屋でゲームばかりしているのだが、あることからそのゲーム『真説・夢見館』(セガ・サターンから実際に発売された)にそっくりのアネモネ荘に迷い込み、その後も頻繁に訪れるようになる。そして、その後自分と一人の住人を残して、管理人を含むアネモネ荘の住人が皆殺しにされてしまう、というストーリー。
全般にごくごく薄味、というより薄っぺらで、微塵も奥深さが感じられない。最後に実は叙述トリックもありました的なのも明かされ、やや意外性があるものの、まあ評価に値しない駄作と言ってもいいんじゃないだろうか。
結局最後は夢オチのようで、正直よく分からないが、作者は何を書きたかったのかも私には理解できなかった。
賢明なる本サイトの書評家達は、まさか本作を読まれてはいないとは思うが、今後ももし古書店で見かけられても本書を手に取らないように。良い子のみんなは決して読まないでください、ってことですね。ごめんなさい、太田さん。でもいいよね、もう絶版だから。


No.447 7点 白い部屋で月の歌を
朱川湊人
(2014/03/28 22:43登録)
再読です。
第10回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品の表題作と、中編の『鉄柱』を併録する朱川氏初期の代表作。
表題作はいわゆるゴーストバスターズの3人組の話で、霊能者である中年女性が悪霊を封じ込め、その依代として車椅子の「ぼく」が悪霊を憑依させる。もう一人霊能者の弟は、営業マン的な役目をしている。どこにでも転がっていそうな話ではあるが、朱川氏の腕にかかると、これがなんとも言えない独特の世界観を醸し出す。
ホラーなのに、叙述トリックまで仕掛けられていて、いかにも選考委員受けしそうな作風である。直木賞受賞者の実力を遺憾なく発揮した傑作であろう。
個人的に表題作よりも気に入っているのが『鉄柱』(クロガネノミハシラ)である。
女性関係の失敗(妻は事情を知らない)で小さな町に左遷になった主人公の雅彦とその妻は、引っ越し先の小高い丘の上にある広場で逆L字型の鉄柱を見つけるが、一体何の目的でそれが建っているのかが分からない。
町の人達はみな一様にいい人ばかりで、夫妻は内心喜んでいたのだが、次第にその町にしかない異様な慣習が明らかになっていくにつれ、じわじわと精神的に追い詰められていき、最後にはとんでもない破局を迎えることになるというストーリー。
死という概念を逆説的に捉えた、普通の感覚では発想すら難しい怪異を、流麗な文体で描いた佳作である。


No.446 6点 灰色の仮面
折原一
(2014/03/26 22:11登録)
再読です。
初期の作品だけに、活きの良さが際立っている。勿論叙述トリックも然りだし、プロットもらしくていいんじゃないかな。私はノベルズを読んだので、改訂版ということになるらしいが、単行本とは違った結末というか構成になっているとのこと。そちらの方は知らないが、改訂版はスッキリして分かりやすいので、その辺りに筆を入れ直したということだろうか。
また、本作は折原流のラブ・ストーリーとも言えると思う。それもあまり恋愛に免疫がない若者同士の感じがよく出ていて、初々しさがなかなか微笑ましい。そんなにうまくいくものか、という気がしないでもないが、気の合った二人ならまあアリなのかもね。
突出したものがないだけに高得点とはならなかったが、いかにも折原氏らしさが出ていて、初期の代表作の一つと言ってもいいかもしれない。


No.445 5点 白ゆき姫殺人事件
湊かなえ
(2014/03/25 22:30登録)
どことなくダサいタイトルだけど、意外に面白かったりします。全編、証言と独白、そして巻末にドーンと控える参考資料から成り立っている、独特の構成。湊女史ならではのアイディアが光っているとは思うが、ミステリとしてどうだろう。一応、フーダニットとホワイダニットが興味の中心だが、一級品の文章とテクニックにはぐらかされた感じで、正直ミステリとしての評価は低い。
しかし、ほぼ証言だけで構成されているにしては、ぶつ切り感もないし、スムースなストーリー展開になっているのは、この作者にしかできない芸当かも知れない。
また、近日映画公開されるわけだが、確かに映像化には向いている作品だと思う。観に行く予定はないけれど、かなり難しい役柄を井上真央ならやってくれそうな気がする。
それにしても、ほとんど伏線らしきものが見当たらないまま、いきなり犯人が明らかになる辺りは、やはり本作がミステリとしての体裁を有していないことを物語るものである気がしてならない。私は湊女史をミステリ作家とは思っていないので、それは当然なのかもしれないけれど。だからこの人に本格ミステリを望んでも土台無理な相談なのだろう。


No.444 4点 喜嶋先生の静かな世界
森博嗣
(2014/03/23 22:06登録)
本作は、森博嗣をこよなく愛する人に捧げられるべき作品であって、私のように大学生活をパチンコと麻雀に明け暮れていた下衆が読む小説ではないね。まあ真面目で真っ当な学生生活を過ごしている人、或いは過ごした人にとっては有意義な読書体験になるかもしれないけれど。特に理系の人間にはね。要するにこれは内容こそ難解ではないが、それだけ私にとって敷居の高い作品なのだ。
そして敢えて苦言を呈するならば、森博嗣という作家は執筆作業から得られる代償を単なる労働の対価と考えており、それを公言してはばからない人だ。ならば尚のこと、読者を裏切るような作品を書いてはいけないだろう。また、私はすべての小説は広義でのエンターテインメントでなければならないという持論ももっていて、その意味で本作は全くその条件を満たしていないのも不満の一つである。これを読まれた多くの方は「何を寝ぼけたことを言っているんだ」と憤慨されるかもしれないが、あくまで個人の意見なので大目に見てもらいたい。
ただ、終盤の数ページだけは少しばかり意外性もあり、考えさせられるものではあった。
蛇足だが、中学生の頃、近所の女子大だか女子短大だかの学園祭に、友人に誘われて遊びに行ったことがあるが、招いてくれた女子大生たちは一様に楽しそうだった。大学というのはそんなに楽しいところなのかとその時思ったものだが、それが幻想だと気付くのにはまだ数年の時を必要とするのであった。

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