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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1715 6点 ステーションの奥の奥
山口雅也
(2023/12/07 22:49登録)
小学六年生の陽太は吸血鬼に憧れていること以外はごく普通の小学生。そんな陽太には一風変わった叔父がいる。名前は夜之介。陽太の家の屋根裏部屋に居候している物書きだ。そんな叔父と甥が、ある日テレビで「東京駅」が大改築されることを知り、夏休みの自由研究のテーマに選ぶことになる。取材のためさっそく「東京駅」に向かったふたりだったが、迷宮のような駅構内の霊安室で無残な死体を発見してしまう!さらに、その日の夜中、宿泊していた東京ステーション・ホテルの夜之介叔父の部屋で密室殺人事件が発生!しかも叔父の姿は消失していた。連続殺人事件なのだろうか?夜之介叔父はいったい?陽太は名探偵志望の級友留美花と、事件の謎を解くべく奔走する…。
『BOOK』データベースより。

面白かったですよ。ミステリーランド叢書の一冊ですが、それにしては小学六年生の男女二人が大人びて見えますが。ジュブナイルとは言え、そこは「キッド・ピストルズシリーズ」の作者だけあって、一筋縄では行きません。猟奇殺人に密室と、大人が読んでも十分納得の行く内容だと思います。まあ、ガチガチの本格ミステリを期待すると、拍子抜けするかもしれませんが。

それにしても、流石に伏線は張り巡らされていて、後で考えるとああそうだったのかと思わず膝を叩く場面も多くありました。しかし、真っ当なミステリではないので、好き嫌いが分かれる作品ではあるでしょうね。何だか歯切れの悪い感想になってしまいましたが、読めばその訳も分かると思います。何か書こうにも即ネタバレになる可能性が高いですからね。


No.1714 6点 深泥丘奇談・続々
綾辻行人
(2023/12/04 22:32登録)
さまざまな怪異が日常に潜む、“もうひとつの京都”―妖しい神社の「奇面祭」、「減らない謎」の不可解、自宅に見つかる秘密の地下室、深夜のプールで迫りくる異形の影、十二年に一度の「ねこしずめ」の日…恐怖と忘却の繰り返しの果てに、何が「私」を待ち受けるのか?本格ミステリの旗手が新境地に挑んだ無類の奇想怪談連作、ここに終幕。
『BOOK』データベースより。

ホラーと言うか独特な世界観を持った、不可思議な怪談に近い連作短編集。
前二作同様、所謂信頼できない語り手であるミステリ作家の「私」が主人公で、頻繁に眩暈を起こしたり、「のような気がする」が決まり文句となっていることからも分かるように、記憶にいささかの問題を抱えた「私」。この人は綾辻の分身であるようにも思えるし、全くの別人のようにも思えます。その辺りを曖昧にする事で現実と非現実の狭間を行き交う物語に仕上げています。ですので、一般的なホラーとは一線を画している気がします。それに加えて、京都という「架空」の土地、土壌がそれらしい雰囲気を醸し出すのに一役買っています。

今回もちょっと怪しげなうぐいす色の眼帯を左目に付けた精神科医の石倉と、同じく深泥ヶ丘病院に勤め、左手首に分厚い包帯を巻いた看護師の咲谷も健在で、怪しさに拍車を掛けています。そして最後に咲谷の秘密が・・・。
印象深いのは本格推理作家としての一面を見せる『猫密室』。本格ミステリの短編を依頼された主人公が、そのプロットやトリック、犯人像等を練るシーンはこれまでにない種類のものです。そして最後の『ねこしずめ』は言ってみれば言葉遊びの趣向で驚かせてくれます。その凄まじい猫の姿は読者の想像力を逞しくさせて、まるで目の前で起こっている様な感覚を呼び覚まします。


No.1713 7点 冬のスフィンクス
飛鳥部勝則
(2023/12/02 22:27登録)
眠りに就く前に絵画を見ると、その中の世界に入り込める男が、夢の中で遭遇した連続殺人の顛末は。これは夢か現か――幾重もの〈夢〉と〈探偵小説〉とがせめぎ合い、読者を幻惑する異端の書。鮎川賞作家の書き下ろし。
Amazon内容紹介より。

私は本作を幻想ミステリとは捉えておらず、「まとも」な本格ミステリだと思っています。それは著者が所詮ミステリとは飽くまでフィクションであり作り物だし、全ての鍵はその作者が握っているというスタンスを、ここでは取っていると思うからです。結局、夢も現実も同じ事で、書かれてしまえばどこまでも小説なのです。
とは言え、この物語に関しては、例えば竹本健治の『匣の中の失楽』の様な酩酊感は存在しません。夢と現実が交錯するのは確かですが、どちらも足が地に付いているので、浮遊する様な感覚はありません。

そんな中で亜久直人の扱いが気の毒に思います。折角の探偵役が犯罪を際立たせる存在として機能しているに過ぎないのは、何とも惜しまれます。探偵さえも絶対ではないとする飛鳥部の異端的な思考が、アリかナシか、難しいところですね。それは夢の中だから良いんじゃないのかと断定してしまえば、先に述べた私の意見は却下されることになりますが。

それはそうと、飛鳥部勝則は今のところ私にとってハズレがありません。長編を全制覇したいと考えています。なかなか入手し難い作品が多いですが、何とかしたいですね。ハマっていますので、いつかプロフィールの好きな作家欄に名を連ねられると良いなと思っています。


No.1712 7点 仮面幻双曲
大山誠一郎
(2023/11/29 22:33登録)
時は戦後まもなく。ある地方都市での出来事。占部製糸は紡績会社としては名の売れた企業だった。占部製糸では、双子がトップにつくと栄えるという歴史があり、社長は、かつて仲違いをした弟の双子の息子たちに会社を継がせた。しかし、その双子の兄弟は、あることから諍いを起こし、弟は家を出た。弟は東京で整形手術を受け、行方をくらませた。そして、その弟から兄への殺人予告が届く。社長である兄からボディーガードを依頼された川宮兄妹だったが、寝ずの番に就いたその夜に兄は殺されてしまった。弟が殺したのか……。容疑者にはアリバイがあり、捜査は遅々として進まない。そして、第二の殺人が起こった。
Amazon内容紹介より。

双子トリックを限界まで駆使した、パズラーの傑作だと思います。一方で疵の多い、それでいて面白ポイントも多いという厄介な作品でもあります。
第一第二の事件が起こって、過去にも何やら遺恨が色々ありそうな雰囲気があり、なかなか謎めいている割りには、読み進める程に何だか単純そうな事件という印象が残るのは、小説としてはかなり損をしている気がします。書き様によってはもっとサスペンスフルに描けたのになあと、そこは残念に思いました。

その辺りと特に第二の殺人事件に於ける瑕疵を改稿された文庫版で修正されていれば、更に輝きを増したのではないでしょうか。自分が読んだのは単行本の方だったので、文庫本を読むべきだったかと、若干後悔しています。それでも素材としては一級品だと思うので、この点数にしました。ハウダニット、フーダニットとしては完璧だけに、大きな傷が目立ってしまい、読み手によってはあり得ないと思わせてしまうところが、如何にも悔やまれますね。


No.1711 6点 牛の首
小松左京
(2023/11/28 22:47登録)
「あんな恐ろしい話はきいたことがない」と皆が口々に言いながらも、誰も肝心の内容を教えてくれない怪談「牛の首」。一体何がそんなに恐ろしいのかと躍起になって尋ね回った私は、話の出所である作家を突き止めるが――。話を聞くと必ず不幸が訪れると言われ、都市伝説としても未だ語り継がれる名作「牛の首」のほか、「白い部屋」「安置所の碁打ち」など、恐ろしくも味わい深い作品を厳選して収録した珠玉のホラー短編集。
Amazon内容紹介より。

SF小説の巨匠小松左京のホラー短編集。
一概にホラーと言っても、ジャンルは多岐に亘ります。怪談、不条理、SF、都市伝説、寓話、パニック等々。作者の抽斗の多さがこれだけでも分かります。まだまだ他にも書籍に纏められていないものもあるらしく、SF作家のイメージを払拭されます。『日本沈没』や『復活の日』すら読んでいないと言うか、そもそも初小松左京な訳で、私の感想など当てにはなりませんけどね。

収められている短編、ショートショート全て佳作の範疇に入るもので、どれが頭抜けて素晴らしいとも言えません。敢えて挙げれば、最初の『ツウ・ペア』が手が込んでいて、ミステリ的趣向もあり一番好みですかね。他に表題作はそう来たかと思いました。『空飛ぶ窓』は牧歌的で何とも言えない後味が良いですね。
全体的に衝撃の結末とはならず、どちらかと言うと洒落の効いたオチの付いた作品がほとんどで、怖さの点ではそれ程でもなかったのがやや拍子抜け、しかしそれが持ち味とも言えそうです。


No.1710 5点 赤き死の炎馬
霞流一
(2023/11/25 22:34登録)
奇蹟や怪奇現象が真実であるか否かを鑑定する「奇蹟鑑定人」魚間岳士のもとへ、ある依頼がきた。「はぐれ平家と首のない馬」という不気味な伝説の残された岡山県のとある田舎町の旅館で、テレポーテーション(瞬間移動)としか考えられない怪異現象が起きたのだ。ところが調査をつづける彼は、不可思議な連続殺人に巻き込まれてしまう。密室のポルターガイスト現象、足跡のない全裸死体…。
『BOOK』データベースより。

相変わらず読み難い。相性が悪いのか文章が下手なのか分かりませんが、油断すると内容が全く頭に入ってこない現象が度々起こりました。冒頭のテレポーテーションの謎は結構いい感じでしたし、その後の展開に期待が持てるなとは思いました。結局その期待は儚く消えましたが。

リアリティのなさはバカミスの特徴でしょう。しかし、本作は余りにツッコミどころが多すぎて本当に馬鹿馬鹿しくなりました。発想としてはアリかも知れませんが、どうしてもそんな訳ないだろうと思えてきます。度が過ぎたバカトリックは白けるだけで、苦笑しか生まれません。そんな作品ながら、事件の背後には色んな裏事情が絡み合っており、その辺りの因果関係はよく描かれていると思います。その点を考慮して若干の評価がアップした私の心情を察していただきたい。


No.1709 7点 狂乱家族日記 拾弐さつめ
日日日
(2023/11/22 22:26登録)
驚愕の展開となった「世界会議」が終了し、大日本帝国は新たに帝位に就いた不解宮の「正義」の下、急激に変わりつつあった。乱崎家も、凰火が超常現象対策局に復帰し、凶華様も働き始める!?など、家族それぞれが新しい世の中での生き方を模索していた。そんな中、蘇った黄桜乱命は、排除されていく「悪」を結集し帝都の正夢町に巨大カジノを作りあげ、不解宮の「正義」に対して真っ向から反旗を翻すのだった!!新エピソード「裏社会編」開幕。
『BOOK』データベースより。

約一年ぶりの拾弐さつめ。記憶の問題といつもより長尺の為、若干の不安を抱きながらの読書となりました。新たな出発点となるので、これまでのキャラを交えつつ新キャラも少々登場しますが、読み進めるのに支障はありませんでした。と言うか、すぐに物語にのめり込んでいく事が出来、久しぶりに血沸き肉躍る戦いの連続に好感触です。かつて勝負の世界に身を置いていた私(今ではただのおっさん)としては、この様な命懸けの博打は願ってもない展開となりました。

今回は実直で誰にでも丁寧語で話す、メガネが特徴的(それしかない)な父親凰火と、あまり目立たなかった感のある長男でオカマの銀夏が主役です。
中盤で活躍するのは凰火で、どこまであるのかイマイチ掴めなかった戦闘力を遺憾なく発揮し、囚われた凶華を取り戻すため本気を出します。今までで一番カッコよかった、そして見たかった父親の戦いを存分に堪能出来ます。
そして終盤は銀夏の出番で、あとがきにも書かれている様に、これまで持て余していた彼の扱い方を漸く見出すことが出来たらしく、こちらは頭脳を駆使した作戦で、カジノ最大の敵に挑みます。千花との微妙な関係性や銀夏の出自も見逃せません。


No.1708 4点 町でいちばんの美女
チャールズ・ブコウスキー
(2023/11/19 22:30登録)
酔っぱらうのが私の仕事だった。救いのない日々、私は悲しみの中に溺れながら性愛に耽っていた。倦怠や愚劣さから免れるために。私にとっての生とは、なにものも求めないことなのだ。卑猥で好色で下品な売女どもと酒を飲んで○○○○する、カリフォルニア1の狂人作家……それが私である。バーで、路地で、競馬場で絡まる淫靡な視線と刹那的な愛。伝説となったカルト作家の名短編集!
Amazon内容紹介より。

酒と女と競馬が大好きなアメリカの無頼派作家ブコウスキーの自伝的短編集。
半分以上が自身が主人公の自伝的短編であり、作風はほぼ同じでストーリー性の全くないのが特徴です。内容は先に挙げた、酒に溺れ女と行為に及び、たまに競馬場での馬券の買い方等を扱った作品ばかりです。遠慮会釈なく描くというより書く、書きたい事を兎に角書くのがこの人のスタイルと言えるでしょう。特に下ネタのストレートな表現多し。どこが面白いのかAmazonでは結構好評で、満点を付けているレビュアーの心境がよく理解できませんね。まあマンネリズムが好きな人もいますから・・・世の中分からないものです。

個人的に『15センチ』は凄いと思いました。これは昭和初期の変格探偵小説と呼ばれたものに属する短編で、ひと際目立っており、これだけでちょっと救われた気がしたものです。それと『卍』は奇想とオチがこの作品群の中で毛色が全く違ったものとして印象に残りました。あと『気力調整機』辺りが発想が面白かったですかね。それ位です。
こんなの読むのは余程の物好きだと思いますよ、本当に。


No.1707 5点 爆発的 七つの箱の死
鳥飼否宇
(2023/11/17 22:09登録)
綾鹿市の大物実業家・日暮百人は、引退生活を送るにあたり、奇妙な私設美術館を建てさせた。
館内に気鋭の現代芸術家六人がそれぞれのアトリエを構え、その美術館に展示する作品を創作する。
日暮と、その友人であり美術評論家の樒木侃だけが作品を鑑賞できるのだ。
しかし、最先端をいくあまり、狂気すら漂わす彼らの芸術に触発されたのか、美術館では、奇想天外な殺人が次々と起こる。
Amazon内容紹介より。

美術館に集められた奇矯な芸術家達が巻き起こす奇妙な殺人事件と、その先鋭的な芸術論に裏打ちされた不可思議な言動と作品。綾鹿市の刑事コンビと普通の探偵星野万太郎がそれらの謎に挑む連作短編集。
ですが、はっきり言って芸術やその制作に関する記述は全く面白味がありません。文章があまり上手くないせいなのか、私がそうしたものに対して興味がないせいか分かりませんが、判りづらく退屈です。

そんな中にあって第三話の、捻りの効いた双子トリックが光りますし、短編で終わらせるのが勿体ない様な逸品だと感じました。
他は全体的に事件が起こるまで、いや事件が起こってもそれ程面白くありませんが、何故か真相が明らかになるシーンだけは生き生きしていますね。そこまで奇を衒ったトリックがある訳でもなく、動機も説得力がありませんけれど、終わってみれば何となく納得させられるのが癪に障ります。まあまあですね、それ以外に感想はありません。


No.1706 6点 堕天使拷問刑
飛鳥部勝則
(2023/11/15 22:13登録)
両親を事故で亡くした中学1年生の如月タクマは、母方の実家に引き取られるが、そこでは魔術崇拝者の祖父が密室の蔵で怪死していた。さらに数年前、祖父と町長の座をめぐり争っていた一族の女三人を襲った斬首事件。二つの異常な死は、祖父が召喚した悪魔の仕業だと囁かれていた。そんな呪われた町で、タクマは「月へ行きたい」と呟く少女、江留美麗に惹かれた。残虐な斬首事件が再び起こるとも知らず…。
『BOOK』データベースより。

期待度が高かった分やや厳しい採点となりました。ボーイミーツガール?そんな生易しいものではありません。兎に角色々起こり過ぎて、様々な要素を詰め込み過ぎて。その中に埋もれた伏線を見破る事は至難の業と言えるでしょう。勿論犯人の見当も付きません。しかし、猥雑とも取れるパーツの数々を取り除いてみれば、意外にも単純な事件の様相が見えてきます。

だから、1000枚を超える大作の割に謎解きのページ数はあまりに短く、呆気なく感じられました。諸々の出来事に隠れた殺人事件の真相は貧弱で、動機も突飛なものではありません。ただ偶然性の強いアリバイの中には目を瞠るものも含まれており、油断なりません。
ラストは作者らしく一捻りしてあり、個人的には成程と思わざるを得ませんでした。
何故飛鳥部勝則の作品の中で他に比べて本作が突出して人気があるのか、それはタイトルと表紙画によるところが大きいのだと思います。でも一つ言わせてもらえれば、表紙の少女は長身に見受けられますが、実際は小柄なはずです。お間違えの無いように。


No.1705 5点 マゾヒストたち 究極の変態18人の肖像
松沢呉一
(2023/11/11 22:37登録)
女王様の責め苦を受け、随喜の涙を流す男たち。マゾヒストである。彼らの悦びの源泉は何か。何がM性に火をつけたのか。燃えたぎるマゾ精神が今、語られる。日本のSMを黎明期から見続け2億円を使った重鎮、馬になりたい男、ヤプーズマーケットのエリート奴隷、身体改造マニア、盲目のマゾ…。十人寄れば倒錯も十色。貴方の知的好奇心と性的探究心を刺激する、奇想天外な当世マゾヒスト列伝!
『BOOK』データベースより。

『ぐろぐろ』で世間を震撼させた、かも知れない松沢呉一の四年前の作品。M男たちへのインタビューと著者の感想の合間にコラムを挟んだ構成になっています。所謂S&Mの世界に生きるマゾたちの実態が手に取る様に分かります。一般人が思うよりずっとその幅は広く、例えばマントフェチ、レインコートフェチなども取り上げられています。
衝撃的とまではいかないものの多分に刺激的ではあると思います。自分がある意味変態であるとの自覚のある方は必読と言えるでしょう。ただ、道を踏み外しても責任は負えませんが。

印象に残るのは『堂々と屁ができる社会を夢見るおならフェチ』。おならフェチの石原氏によると、裸ではなく衣服を着用でして欲しいとの事。又聖水や黄金等には興味がなく、ひたすら女性の大きなおならを欲しているのだと言う。
『肛門ブカブカ陰茎斬り』は身体改造の究極の形を示しています。グロいというより痛すぎる、しかしゴン太氏は何ら深い考えもなく、自分の局部を自身で改造していきます。完全に一線を越えてしまったM男の姿がここにあります。
コラムでは多くの場合、女王様の実態を描いており、それだけこの世界では女王様の存在が絶対的だという事を実感させられます。又、『死に至るプレイ』で紹介される「小口末吉事件」はミステリの題材としても十分通用する悲惨な事件です。興味のある方は検索してみて下さい。


No.1704 7点 兇人邸の殺人
今村昌弘
(2023/11/08 22:33登録)
『魔眼の匣の殺人』から数ヶ月後――。神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子が突然の依頼で連れて行かれた先は、“生ける廃墟"として人気を博す地方テーマパークだった。園内にそびえる異様な建物「兇人邸」に、比留子たちが追う班目機関の研究成果が隠されているという。深夜、依頼主たちとともに兇人邸に潜入した二人を、“異形の存在"による無慈悲な殺戮が待ち受けていた。待望のシリーズ第3弾、ついに刊行!
Amazon内容紹介より。

頭の悪い読者代表として言わせてもらうなら、ゴチャゴチャし過ぎ。この全容を完全に把握するのは到底無理です。頭の弱い私には、ドタバタ劇の合間にミステリの側面を覗かせている様にしか思えません。しかし、比留子の推理のキレは鋭く、どんな状況にあっても冷静で的確です。其処は認めなければなりません。まあその辺りを含めて考えると、本格ミステリの出来としては高水準であるのは間違いないとは思います。

もう少し整理してくれたらなあと、そう考えるのは贅沢と云うものでしょうか。みなさんは怒涛の展開と怪異の習性、ワトソン役の活躍、探偵の窮地、首切りの謎、人体実験等々に惹かれて平均点を押し上げたのだと私は解釈しています。それだけレベルの高い読者諸氏が集まった結果だと。
私でさえ7点を付けたのですから当然かも知れません、特に終盤の謎解きとラストのあれは凄かったと思いますよ、素直に。


No.1703 7点 レオナルドの沈黙
飛鳥部勝則
(2023/11/05 22:31登録)
「私は遠隔のこの地にいたまま、目的の人物を思念によって殺してみせる」降霊会の夜、霊媒師によって宣言された殺人予告と、その恐るべき達成。すべての家具が外に運び出された状態の家の中で首を吊って死んでいた男。密室状態の現場。踏み台にされたレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿本と鏡文字の考察。第二の不可能犯罪の勃発。そして読者への挑戦―。本当に犯人は霊媒師なのか、違うとすれば果たして犯人は誰なのか?“さかさま”尽くしの大胆不敵な事件に挑む美形の芸術家探偵・妹尾悠二の活躍を描いた、鮎川哲也賞受賞作家の鮮やかな本格探偵小説。
『BOOK』データベースより。

これは確かに超能力を疑いたくもなる様な、不可解過ぎる事件の連続です。関係者全員にアリバイのある遠隔殺人とも言える、家具の何もかもが家の外に出された密室状態での首吊り死体。それを霊媒師が予告していたとは、流石にやり過ぎの感があります。そんなのアリかと疑心暗鬼な心持で読み進めるも、更に起こる逆立ち殺人。こちらも全員にアリバイがあるという不可思議さ。

この強烈な謎をどう収めるのか、好奇心と不安とが絡み合い、真相に辿り着いた時は偶然に頼った感はあるものの、確かな手応えを感じました。
第十六章の途中で「読者への挑戦」が挟まれ、これは挑戦しない訳にはいかないと無い知恵を絞りました。第一の事件に関しては、結果的に予想が当たってしまいました。まあそれしかないだろう位の気持ちでしたが。ただ家具一式全てが放り出された理由はとても想像出来るものではありませんでした。第二の事件はまさかの真相に唖然。伏線の回収も見事なフーダニットとして完成された逸品だと思いました。又、終章で二度吃驚、やられたなあ。


No.1702 6点 華氏451度
レイ・ブラッドベリ
(2023/11/04 22:36登録)
華氏451度―この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく…。本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!
『BOOK』データベースより。

今回は虫暮部さんが「棺に入れて欲しい・・・」で紹介して下さった作品です。実はこれ随分前に中古を購入していまして、いつか読もうと思いながらもなかなか踏ん切りが付かなかった、半分忘れていたものでした。読む切っ掛けを作って下さりありがとうございました、虫暮部さん。

なるほど、おっしゃる通り、「最期のジョーク」ですね。
本作はかなり詩的に書かれており、行間を読むのが苦手な私は、おそらくその魅力の全てを体感する事は叶わなかったと思います。ですので、あらゆる書物を燃やし尽くす焚書官という仕事に就いているモンターグが、何故書籍に興味を惹かれていったのかという、心境の変化がいまひとつ理解出来ませんでした。それ程少女との出会いが劇的だったのかと云うと、そうでもなく、自分でも知らずのうちに焼き尽くす仕事に疑問を持ち始めたような気がします。その辺りをもう少し掘り下げても良かったのではないかと思いましたね。
それにしても、その少女が序盤で呆気なく退場してしまったのは、例えば日本の小説などにはあまり見られないものでした。どう考えても、キーパーソンの一人のはずなのに、そんなに簡単に切り捨てて良いものかと、私などは勿体ないなと感じました。

その後、二人の重要人物との邂逅で更に目覚めた彼は、どのような道を辿ろうとするのか、大変興味が持てます。自分では括目して読んだつもりです。終盤俄かに盛り上がって来て、増々面白くなってきて・・・。後は読んで下さい。先の評者のお二人が8点という高得点を付けておられるのは伊達ではないと思いますので、一読の価値はあるはずです。しかし読者を選ぶ作品であろう事は想像に難くないですね。


No.1701 5点 江川蘭子
リレー長編
(2023/11/01 22:34登録)
モボ・モガを父母として生まれてきた江川蘭子は、まだ物心もつかない二歳のとき、その両親を殺人事件の被害者として突如として失い、しかもその血みどろの惨劇の現場に放置されるという異常な状況の中に置かれたことから、その精神構造への影響が心配された…。世間はこの乱脈を極めた生活者である被害者に同情を寄せず、また犯人を挙げられない警察の無能を罵る者もなかった。が、蘭子は後年、みずから父母の仇討ちを目論んだ。『新青年』昭和五年九月号から六年二月号まで、江戸川乱歩の発端から横溝正史・甲賀三郎・大下宇陀児・夢野久作・森下雨村と書き継がれた合作探偵小説第二弾「江川蘭子」。妖艶江川蘭子の魔性の生涯に、血みどろの夢はいかに叶えられるか…。
『BOOK』データベースより。

ミステリマニアなら一度は耳にした事があると思われる、「江川蘭子」。しかし、その正体となる原本を読んだ人は意外と少ないでしょう。三津田信三の代表作や他の本格ミステリにもその名を刻んだ蘭子とは?これらの作品には推理作家として登場しています。それはつまり、江戸川乱歩その人の化身として機能しているのではないでしょうか。本書を読んでそう思いました。ここでは江川蘭子を推理作家として成長させている訳ではないからです。

この物語は江川蘭子の血塗られた生い立ちを描きながら、紆余曲折を経て様々な人物との邂逅などの人間模様を中心に進められています。よって本格ミステリとは言い難く、何ですかね、一種の犯罪小説でしょうか。それぞれの作家がある程度自己完結させており、これは最後を担当した森下雨村も書きやすかったのではないかと思います。粋な締めくくりも本作を後味の良いものにしていますね。


No.1700 5点 五階の窓
リレー長編
(2023/10/31 22:29登録)
1990年代春陽文庫で反響を巻き起こし、復刊が望まれていたリレー式ミステリ・合作探偵小説がついに新版で復活! 昭和のミステリ黄金期を彩った豪華執筆陣・約80名による全64作品、全8巻。 1巻には江戸川乱歩が参加した初期4作品を収録。 「春陽文庫から出た計十冊の〈合作探偵小説シリーズ〉によって、江戸川乱歩が参加した「合作」「連作」の全貌に、容易に接することが出来るようになったのは、日本ミステリ界にとって大きな事件だったといっていい」
Amazon内容紹介より。

リレーミステリの正解って何だろうと考えると、そんなものはないのではないかと思ってしまいます。事前にある程度ストーリーやプロットを決めて、ルールを作って、協議の下スタートしたものであれば問題ないでしょうけれど。打ち合わせ無しに自分の書きたいものを書いてしまえば、後々収拾が付かなくなってしまう危険性が高いので、あまり例がないのでしょうね。

本作ではまず江戸川乱歩が、事故か事件か分からない墜落死を扱っていますが、イマイチ謎成分が不足している気がしてなりません。その分後続の作家の自由度が高くなるのは間違いではないと思いますが、結果それぞれの方向性が統一せず、纏まりに欠けてしまった感は否めません。
個人的には二話を書いた名前も知らなかった平林初之輔が最も本格らしいものと書いたと思います。その後は話を広げ過ぎたり、いきなり知らない人物が登場してきたりと、バラバラな印象を受けます。結局は細かい謎などはスルーして、事件の背景と動機、当然ながら犯人の正体を明らかにしただけで終わります。最後を受け持った小酒井不木はやり難かったでしょうが、意外とそうでもなかったと本人はエッセイで書いてますね。本当かなあ。


No.1699 6点 アムステルダム運河殺人事件
松本清張
(2023/10/30 22:04登録)
アムステルダムの運河に浮かぶトランクから死体が見つかった。首、両脚、両手首が切断された死体は日本人商社マンのものと判明するが、捜査は進まず迷宮入りに。そこで記者である「私」は友人の医者と共に調査に乗り出す。一九六五年に起きた実際の事件を著者が謎解く表題作。ゴルフの聖地を舞台とした日本人変死事件「セント・アンドリュースの事件」も併載。
『BOOK』データベースより。

空さん、先回はお世話になりました。今回も貴重な作品のご紹介、恐れ入ります。

社会派の巨匠だけに、飽くまでリアリズムを追求し、無駄のない文章と隙のない作品に仕上がっていると思います。あの松本清張がこの様なガチガチの本格ミステリを書いていたとは全くもって知りませんでした。やれば出来るじゃん、なんでもっとこういうのを書かなかったんだ、というか、書いていたのか他にも?

表題作はトランク詰めにされた、首と手首から先と下肢を切断された胴体だけの死体が、アムステルダム運河に浮かんでいたという、かなりショッキングなシーンから始まります。余計な前置きがないのが良いですね、早く事件が起きて欲しいタイプなので。現実味を増すために、探偵役さえも個性を抑えた作者の意気込みが伝わって来るようです。
そのクイーンばりの端正なロジックは繊細かつ大胆で、警察すら見落としていた一つの謎から論理を繰り広げ、犯人にまで辿り着く様はなかなかのカタルシスを与えてくれます。
併録の『セント・アンドリュースの事件』は、雰囲気ではなくプロットが横溝正史を思わせる作品で、トリックも小振り乍ら気が利いています。清張としては小品でしょうが、結構楽しめました。


No.1698 6点 四神金赤館銀青館不可能殺人
倉阪鬼一郎
(2023/10/28 22:46登録)
花輪家が所有する銀青館に招待されたミステリー作家屋形。嵐の夜、館主の部屋で起きた密室殺人、さらに連鎖する不可能殺人。対岸の四神家の金赤館では、女の「殺して!」という絶叫を合図に凄惨な連続殺人の幕が切って落される。両家の忌まわしい因縁が呼ぶ新たなる悲劇!鬼才が送る、驚天動地のトリック。
『BOOK』データベースより。

さて、これはSUさんに「衝撃のトリック!!」でお薦めされた作品です。ありがとうございます。

途中までは何となく既視感のある館ミステリでありました。そして何らかの仕掛けがあるのは想定の範囲内で、それはあからさまにヒントが与えられているおかげで容易に見破る事が可能です。「不可能殺人」と云う言葉はそれ自体自己矛盾していると常々思っていましたが、本作ではそれを論証してくれました。不可能ならば殺人できないはずで、殺人が起きた時点で不可能ではないという訳。そんなミステリならではの会話なども楽しめます。

結局事件は追い込まれた犯人の自白で解決します。しかし、どうしても理解不能な謎が、大きな謎が残されたままです。それが最後の最後で開示された時・・・笑いが暫く止まりませんでした。これがバカミス、これぞバカミスだ!間違いない。その後の仕掛けは、まあオマケ程度と考えましょう。その方が己の為だと思いますので。尚、メイントリックの伏線は意外な形で張られているのをここに示しておきます、作者の為に。


No.1697 7点 ジェゼベルの死
クリスチアナ・ブランド
(2023/10/27 22:38登録)
tider-tigerさん、見てますかー?今回は『みんな教えて』の「切断の理由」でtider-tigerさんに御紹介いただいた作品です。

何人かの方が書かれていますが、正直読み難い、と言うか一人の人物をファーストネーム、ファミリーネーム、ニックネームで書き分けるのは、非常に混乱します。何度も登場人物一覧を見直して、ああそうだったと、やっと納得したりしました。特に私の様に細切れで読む場合はそうなる可能性が高いのではないかと思いますね。しかし、それらの欠点を補って余りある魅力が本作にはあります。当時新本格と呼ばれた外連味ある事件の描写、カーを思わせる様な不可能犯罪に首なし死体の謎、送り届けられる生首等、どれもミステリマニアを惹きつけて離さないガジェットばかりです。

二つの事件の後に繰り返される検証から後半次第に盛り上がりを見せて、いよいよ本作の本領を発揮します。容疑者の告白、多重推理からの真相開示は正に圧巻でした。メイントリックがちょっと無理筋だなと感じましたが、そこを差し引いても十分楽しめる一冊だと思います。
流石に本サイトで高得点を得ているだけはあるなと。でもね、今どきの国産ミステリに慣れたファンの目にはどう映っているのか、やや疑問ではありますけど。


No.1696 6点 鸚鵡楼の惨劇
真梨幸子
(2023/10/24 22:15登録)
一九六二年、西新宿。十二社の花街に建つ洋館「鸚鵡楼」で惨殺事件が発生する。しかし、その記録は闇に葬られた。時は流れて、バブル全盛の一九九一年。鸚鵡楼の跡地に建った高級マンションでセレブライフを送る人気エッセイストの蜂塚沙保里は、強い恐怖にとらわれていた。「私は将来、息子に殺される」―それは、沙保里の人生唯一の汚点とも言える男の呪縛だった。二〇一三年まで半世にわたり、因縁の地で繰り返し起きる忌まわしき事件。その全貌が明らかになる時、驚愕と戦慄に襲われる!!
『BOOK』データベースより。

色々詰め込み過ぎて煩雑になるかと思いきや、年代順に追う様に構成されているので、混乱せずに済みました。勿論、作者のリーダビリティの高さもあるでしょう。これを本格と定義して良いのか、やや疑問に思いますが、混沌としながらも最後は関係者を集めて犯人を指摘するスタイルは、確かに本格です。

とにかく一言で語るのが難しい作品です。女性作家でありながら、ここまで踏み込んだ内容になっている辺りは流石イヤミスの女王の面目躍如と云ったところですね。
読後は何だかモヤモヤします。まだ終わり切っていない様な、もっとこの何とも言いようのないカオスに浸りたい様な、そんな感じがしました。

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