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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1922件

プロフィール| 書評

No.602 7点 掲載禁止
長江俊和
(2015/08/31 21:36登録)
なかなかの力作ぞろいの短編集、十分楽しめた。
殺人や自殺など、人の死の瞬間を目の当たりにできるバスツアー、別れた恋人に未練を持つ女が、ひそかに作っていた男のマンションの合鍵で留守中に侵入し、それがやがてエスカレートしていく物語など、相変わらずいかがわしさ満載の作品ばかりである。そうしたちょっと風変わりなストーリーが好きな読者には堪らない短編ばかりなので、嗜好が合えば嵌ること請け合いである。
臨場感、緊迫感も申し分なく、多分誰も読まないと思うけど、結構お薦め作品だと個人的には思っている。いずれもちょっとした反転を味わえるし。


No.601 6点 こわれもの
浦賀和宏
(2015/08/26 22:02登録)
これは本格なのかサスペンスなのか。どちらとも取れる不思議な作品である。
これほど登場人物がうまく配置され、バランス感覚が優れているミステリはあまりお目にかかれない。必要最低限に抑えて、最大限の効果を狙う作者の姿勢は見事としか言いようがない。
また先の見えない展開に振り回されて、無心で読める優れものである。それだけにとどまらず、ツボを押さえた逆転劇やひねりの効いたオチも読み応えがある。小ネタだがトリックもよく考えられていると思う。


No.600 5点 ぼくは明日、昨日のきみとデートする
七月隆文
(2015/08/22 21:33登録)
ストーリーとしてはごく普通の恋愛小説で、特筆すべき点はない。だが、大胆なSF的仕掛けにより、読者を日常と非日常の狭間に追い込み、これまで体験したことのない世界に誘う。
情感あふれる文体と上品な文章は私好みではあるし、色んな意味で良質の恋愛小説と言えよう。ジャンルとしてはミステリではないと思う。ファンタジー寄りの恋愛小説ってところじゃないだろうか。まあ『イニシエーション・ラブ』が堂々と本格ミステリとして登録されているのだから、本作がひっそりとここにいても悪くはないのかもしれない。
でも、涙腺の緩い私だが、これは泣けなかったなー。もっと泣かせてくれてもいいような内容だっただけに、やや物足りなかった。と言うか、ちょっと薄味すぎて刺激が足りない気がした。


No.599 5点 涼宮ハルヒの消失
谷川流
(2015/08/19 21:50登録)
なかなかの大風呂敷を広げて、どう着地させるのかと思いきや、ごくありふれたもので全く新味がなかったのはどうなのか。これは最早ミステリですらない。少なくとも「日本最高峰のミステリ」でないことは断言できる。本来なら4点以下だろうが、キャラ立ちを考慮し青春小説として評価してこの点数とした。もし本作に9点或いは10点を付けたら、私の平均採点数は8点以上になってしまうからね。


No.598 5点 涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流
(2015/08/15 21:56登録)
ラノベ事情に疎い私でもタイトルくらいは知っている、巷で評判の超有名作。なのだが、正直いまいちピンと来なかった。
序盤はよくある学園ドラマかと思ったら、途中からとんでもない展開になる。想像するに、なんだか絵的には凄いことになっているのだが、文章がこなれていないためか、どうにも伝わってくるというか迫ってくるものが足りない感じである。
各所に萌え要素がてんこ盛りで、その意味では読者を満足させるのは間違いあるまい。ただ、それを楽しめるかどうかは、各々の嗜好によるだろう。しかしこれだけは言える、私にとっては噂にたがわぬ名作とは思えないと。まあそれも、シリーズ全作を読破しなければ断定はできないのかもしれない。だが私もそこまで暇ではないので、無理というものである。


No.597 5点 ようするに、怪異ではない
皆藤黒助
(2015/08/10 22:06登録)
鳥取県は境港市、主人公の「俺」皆人はこの街に引っ越してきた、新高校一年生。「俺」は特に望まずして妖怪研究同好会に入会することになった。二年生の部長である春道兎鳥はささやかではあるが不可思議な事件を、ことあるごとに妖怪の仕業と断言するが、「俺」は勿論犯人は登場人物の中にいると推理し、これらの事件を怪異などではないことを証明する。
というのが大筋のストーリーで、連作短編なのだが、どれもパターンとしては似通っている。事件そのものはそれほど魅力的なものではないが、どことなく現実離れしていて不思議さが漂う。
文体としてはライトノベルに近く、軽いノリのミステリである。まあ最近流行りの、と言ってもいいだろう。おそらく続編も書かれるのだろうが、そちらを読んでみてもいいかなと思わせるだけの何かを持っているとは思う。


No.596 6点 大幽霊烏賊 名探偵 面鏡真澄
首藤瓜於
(2015/08/04 21:44登録)
昭和初期、舞台は愛宕市(おたぎ)の精神病院。この設定がのちのち効いてくるのだが、詳細はネタバレになるため控えたい。
主人公の使降はまだ建てられて年数の浅い精神病院、葦沢病院に赴任してくる。だが、医師たちばかりか看護婦たちまでも、一癖も二癖もある人物ばかり。更に入院患者の中には「三狂人」と使降が呼んでいる一風変わった人たちがいる上、「黙狂」という彫像のように動かない患者もいた。いったい彼の正体は?というのが、全編を通じての大きな謎になっている。
他にも、巨大鯨を襲う超巨大烏賊、漁船に一人取り残された漁師の異常な行動、クラシック音楽の薀蓄、周りの男たちを籠絡しようとする美人看護婦、後頭部に穴の開いた男などなどの要素が絡み合って、一種異様な世界観を作り出している。しかし、全体的な雰囲気は決して暗いものではなく、何事にも前向きに対処していこうとする主人公に引きずられて、最後まで飽きずに読むことができる。
なんだか小難しそうな内容に感じるかもしれないが、そんなことはなく、言ってみれば総合小説としてのエンターテインメントと呼んでもよいのかもしれない。無論、ミステリとしての体裁も整っている。
やや残念なのは、名探偵と謳われている面鏡真澄の出番が少なすぎることだろう。


No.595 4点 究極の純愛小説を、君に
浦賀和宏
(2015/07/24 21:47登録)
なるほど、これが浦賀流メタミステリなのか、このように書くとどれだけ凄い作品かしらと思われるかもしれないが、実際大したことはない。
作品の性質上、ストーリー展開などは紹介すべきではないと思うので、ここでは書かない。まあ興味があるなら読んでみても悪くはないが、無論私にはその出来に対して責任はとれないのであしからず。
二点だけ、気になる個所があったので、少しだけ触れて終えようと思う。
一点目。アメリカン・ニューシネマとして『俺たちに明日はない』『イージーライダー』『タクシードライバー』が挙げられているが、『タクシードライバー』は除外されるべきであろう。確かに内容的にはそれに近いものがあるが、年代が違うし同じ俎上で語られるのは間違いである。
二点目。『スターウォーズ』と『エヴァンゲリオン』を比較検証されているのは、なかなか面白い試みだと感じた。ただ、本作自体がこれらの論点を踏襲していたならもっといい作品に仕上がったのではないかと思うと、少々残念である。


No.594 4点 [映]アムリタ
野﨑まど
(2015/07/09 22:04登録)
再読です。
これは激しく読者を選ぶ作品であろう。そのひとつは、最原の天才性を肌で感じることができるか、或はそれに共感できるかどうかで決まるとも言えそうである。ちなみに私は選ばれなかった者だ。
どれだけ最原が映画で何でもできる天才だとしても、実際作品の中ではその具体性が全く描かれていない。ただただ表層をなぞるのみで、その現象の一部をさらりと表現しているに過ぎないではないか。これでは、驚愕に値するような天才と認めるわけにはいかないし、彼女をどうとらえていいのか判断できない。
一方、本作は映画製作にかかわる若者たちの群像劇の面も持ち合わせているが、誰も彼も中途半端にしか描かれていないし、映画に関連するコアな部分を鋭く抉っているわけでもない。いずれにしても、個人的には褒められた出来ではないなと思う。また、贔屓目に見てもミステリではないだろう。


No.593 6点 雪の花
秋吉理香子
(2015/07/06 21:37登録)
いずれもミステリとは言えないが、なかなかの佳作ぞろいの短編集ではないかと。
あとがきにあるように、作者は早稲田の文学部で習作を何度も書いていたり、小説の作法など学んだだけあって、その実力は折り紙付きと言えよう。とにかく分かりやすい文章と、情景が浮かんでくる描写力を兼ね備えた、隠れた筆達者なのかもしれないと個人的には思っている。
どれも及第点は越えていると思うが、中でも『秘蹟』は最も印象深い作品である。キリスト教色が濃いが、特段教義を押し付けるでもなく、人間の奥深いところにある機微を抉りながらも、老人介護などの社会問題や夫婦問題を描く、ある意味社会派ミステリと言えるかもしれない。
書店では見つからない可能性が高いだろうが、目にした際には手に取ってみることをお勧めする。


No.592 7点 封印再度
森博嗣
(2015/07/03 21:22登録)
再読です。
好きか嫌いかと問われたら、好きな部類。これはワン・アイディアを骨として肉付けし、ストーリーの最後まで引っ張っていく作品である。しかもその肝となるトリックが骨太なため、最終章まで興味を持って読み終えることができる。
事件そのものは、再現性も含めて意外に単純だが、意表を突くトリックによって後味の良いものとなっていると思う。ただ動機だけは、相変わらず理解しづらい。
萌絵のある行動で意見が分かれているようだが、確かにちょっとやりすぎの感はあるが、これも作者のサービス精神からくるものと考えられなくもない。個人的には鼻持ちならないと感じるが、まあこういった強引な駆け引きをもって、二人の心理状態を明らかにする意味はあったのではないだろうか。
タイトルに関しては、大方の意見通り秀逸だと素直に思う。


No.591 4点 CUT 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子
内藤了
(2015/06/23 22:02登録)
身体の一部を持ち去られた女性の死体が、幽霊屋敷と呼ばれる古い館で、次々と発見される。主人公の比奈子ら刑事は捜査を行うが、遅々として進まない。果たして犯人の目的とは、そして真犯人は誰なのか・・・
死体発見の描写はいささか気分が悪くなるようなもので、それが却って引き込まれる要因となっているが、それ以外はダラダラとした文章が綴られるばかりで、一向に盛り上がらない。
目くらましのミスリードが目立つが、あざとさしか感じられない。その割には伏線と言えるようなものは存在せず、結局唐突に犯人が登場するのみで、終始がっかりの連続であった。死体を損壊する目的もありきたりで、まさしく凡作としか呼べないような代物だった。


No.590 5点 なないろ金平糖 いろりの事件帖
伽古屋圭市
(2015/06/17 21:56登録)
大正ロマンミステリ第三弾。
主人公のいろりは家業の金平糖屋の店番などをして暮らしている18歳の少女。彼女は金平糖を口に含むことによって千里眼を発揮できる能力を持っている。他にも、飼い猫のジロと会話も出来たりする。そんな彼女が遭遇する事件に、妹分の絹と猫のジロと共に立ち向かって行くというストーリー。
語り口、ストーリー展開共にどことなく平板で、変化に乏しい。どちらかと言うと、彼女らの個性で読ませるミステリとなっているが、ミステリ度はあまり高くなく、エンターテインメント小説の意味合いが強い。
最終話などは本格推理というより、いろり、絹、ジロの冒険譚といった趣だ。
この大正シリーズ、段々レベルが下がっているのがやや気になる。


No.589 5点 彼女は存在しない
浦賀和宏
(2015/06/10 21:52登録)
面白いか、面白くないかと聞かれれば、どちらとも言えない。やりたいことは分かるが、ストレートに伝わってこない。せいぜい「そうだったのか」程度にしか思えず、あっと驚くような、なるほどと膝を打つような、そんな感じがなかったのは残念な限り。
私も内容の割に長かった気がする。冗長とは言えないかも知れないが、緊迫感に欠け、なんとなくだらだらとした感触が否めない。なんだろう、プロットの問題なのか、文体の問題なのか分からないが、上等な材料を上手く料理できなかったような、というのが本音かな。
中身については触れないのが大人の対応だろう。未読の方には多分わけわからないと思うが、許されたい。


No.588 3点 罪の余白
芦沢央
(2015/06/05 22:00登録)
いじめを受けて、自殺なのか事故死なのか判然としないが転落死した女子高生。その父親が、いじめられていた相手に復讐を計画する物語。ストーリーは四人の視点から描かれるが、被害者側の心理状態はそれなりに描写されているが、加害者のほうはそれほど深くえぐられていない感じを受ける。物語に新味はなく平凡であるし、オチも捻りもなく、これと言って特筆すべき点が見当たらない。
本作は第三回野生時代フロンティア文学賞を受賞したらしいが、にわかには信じがたい。そこまでの価値があるのかどうか。
お世辞にも文章がうまいとは言い難く、プロの作家に手によるこなれた作品というより、作家志望の習作というのがいいところだろう。賢明なる本サイトの読者はくれぐれも読まれないことを強くお勧めする。


No.587 6点 ナポレオン狂
阿刀田高
(2015/05/26 22:14登録)
直木賞受賞作『ナポレオン狂』日本推理作家協会賞受賞作『訪問者』収録の短編集。
いずれもブラックなオチが持ち味の、キレのある短編で、ボリュームもちょうどいい感じに収まっている。中にはやや意味不明の、オチのないのも含まれているが、大方好印象。
さすがに文章も慣れたもので、30年以上過ぎた今でも色褪せない輝きを保っている。と同時に古臭さを感じさせない辺りは見事と言って良いだろう。
どこにでもいそうな主人公のごく当たり前の日常の中に、じわじわと或は突如として異常が出現し、彼らの精神の中に侵食していく物語が多い。派手さはないものの、再読に耐えうる逸品が散見される。ほかの作品集も読んでみたくなるような気にさせられる良作である。


No.586 6点 この闇と光
服部まゆみ
(2015/05/22 21:58登録)
解説の皆川博子氏は、この作品についてはほぼ触れていない。何を書いてもネタバレにつながるから、という理由だが、それももっともであると感じる。それだけ特異な小説であるという証左であると同時に、なかなかお目にかかれない希少価値の高いものであると思われる。
作風としては綾辻行人のホラーに若干類似しているような気がする。作風というか、雰囲気か。確かにサスペンスではあるが、その純度は低い。とにかく、これは読まなければその真価は理解できない。誰がどう感想を書こうとも、真実はうまく伝わらないだろう。
ついでに言うと、帯の謳い文句も必要ない。ネタバレ禁止と書きながら、禁句が堂々と載せられているのはどうかと思う。
尚、本作が直木賞にノミネートされたのは、私にとって意外な事実であった。


No.585 5点 ようこそ、わが家へ
池井戸潤
(2015/05/18 22:10登録)
ドラマ化されたのを観るともなく観ていて、そこそこ面白そうだったので読んでみた。ドラマのほうは登場人物を増やしていたり、エピソードを膨らませてみたりして、かなり脚色しているが、それが功を奏しているようである。個人的にはドラマのほうが面白そうな印象を受ける。
原作は思ったよりあっさりしていて、正直読み応えがあるとは思えない。ただ、主人公の倉田はどこにでもいそうな弱々しい、銀行からの出向組で、中年の悲哀が感じられたりして感情移入しやすいのは間違いない。
帰宅する電車への割り込みを注意したため、逆恨みで付け狙われるサスペンスのパートと、倉田が会社内で不正を暴いていくパートの、全く異なる二つの小説を交互に読んでいるような錯覚を受ける。どちらも均等に描かれているが、双方ともやや中途半端な感じがしないでもない。池井戸氏らしく堅実に描かれているが、個人的には面白みに欠けるきらいがあるのはマイナス点かも知れない。


No.584 7点 臓器賭博
両角長彦
(2015/05/14 22:14登録)
ギャンブラー心に火を付ける(ギャンブラーじゃないけど)、本格ギャンブル小説。
主人公の古賀は普段はバーの雇われマスターだが、本来は生粋のギャンブラーである。物語は、彼がある大会社の御曹司が地下賭場で大金と臓器のいくつかをかたに取られており、その代打ちを依頼されるところから始まる。相手は4人で、勝負はポーカーの一手替え。古賀は果たして取られた臓器を取り戻すことができるのか、そして依頼通り5000万を手に入れられるのか・・・
できうる限り余分な描写をカットし、必要最低限の文章で仕上げられた、娯楽作品。だがそれだけではなく、サスペンスの要素や各登場人物の裏事情、日本の不安定な将来への展望などを盛り込んでおり、単に博打の実況のみが描かれているわけではない。
重い内容の割には、淡々とした文章で綴られていて、余計なストレスや重圧感を感じることはない。それでも、臨場感に溢れているので、最後までのめり込めるし楽しめること請け合いである。
ただ、1ページ目は衝撃的ではあるが、あまりに杜撰なやり口は臓器賭場とそぐわないのが気になる。それと、種目がポーカーなので、勝負が一瞬で決まってしまうため、ひりついた感じが薄いのは若干残念な点ではある。


No.583 5点 悪夢のエレベーター
木下半太
(2015/05/11 21:51登録)
本編より解説のほうが面白かった。いや、これもなかなかだとは思うが、コメディタッチというわりにはクスリともできなかった。まあそれよりも、パニックサスペンスとして、或いは反転ものとして読みどころありというべきか。
ただ、第一章から第二章へと繋がる展開はややくどい気がする。先が読めてしまうのはあまり感心しないね。
ラストは良い。思わず続きが気になってしまう心憎い締め方だ。と言うわけで、続編を読むべきかどうか思案中である。

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