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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1836件

プロフィール| 書評

No.516 6点 僕と『彼女』の首なし死体
白石かおる
(2014/09/08 21:50登録)
愚かなことに、最近まで私はこの作品の存在を知らなかった。だが知ってしまったからには、そしてそのタイトルを目にしたからには読まない選択肢はなくなった。
本作は第二十九回横溝正史賞優秀賞受賞作である。意外なことに、選考委員の中で最も評価が高かったのは北村薫氏だったそうだ。読んでみれば分かるが、この作風やストーリーから氏の称賛を受けるとは考えにくいのである。私は少しだけ北村氏を見直した、と同時にちょっぴり好きになった。
物語は「ぼく」こと白石かおるが女性の生首を、ハチ公の銅像の前にひっそりと置き去るところから始まる。実にセンセーショナルな出だしで、その後の展開を期待させるが、全くミステリらしいところはなく、「ぼく」の会社での活躍ぶりや人間関係が乾いた筆致で描かれるばかりである。これは果たしてミステリなのか、という疑問が頭をよぎる頃、ようやくらしさを発揮し始める。
「ぼく」は実に冷静で物に動じない、浮世離れした人間性を持っており、そこに違和感や嫌悪感を覚える人は読まないほうが賢明だ。逆にそれが許容できるのであれば、一度読んでみるのも面白いと思う。
取り敢えず、終始一貫して興味の的はなぜ彼は冒頭のような異様な行為を行ったかというホワイダニットである。それは、あっと驚くような理由ではなく、うーむと思わず唸ってしまうようなものであり、それだけに余計に腹に響く感がある。
いずれにしても、本作は他のどの作品にも全く似ていない、独自のオリジナリティを持った作品と言えそうだ。少なくとも、私の乏しい読書経験からは本作を彷彿とさせるようなものは見当たらないと言ってよいだろう。なかなか面白い作家となりそうな予感もする。


No.515 4点 キマイラの新しい城
殊能将之
(2014/09/04 21:45登録)
残念ながら、どこが面白いのかさっぱり分からなかった。私の読者としての読解力が足らないのか、総合的に評価の高い書評家のみなさんの鋭い批評が的を射ているのか、多分両方だと思うが、いずれにしても私のレベルの低さが露呈した結果になったようだ。
エドガーが憑いた江里が、自動車やバイク、テレビ、六本木ヒルズを目の当たりにして、とんでもない感慨を抱く辺りはかろうじて面白かったが、ミステリとしての魅力にいささか欠ける気がしてならない。どうでもいい描写が長くて、肝心の殺人事件に関する記述があまり詳述されていなかったりして、肝の部分がおろそかになってはいないだろうか。
迷探偵の石動も相変わらずのらりくらりの推理を繰り返すばかりで、どうにも本格ミステリとして、締まりがなさすぎる気がする。
私も一書評家として、この作品はミステリ読みの方々にお薦めできない。それはわずかに残っている己の矜持が許さないのである。本作が絶版になっているのも、それなりの理由があってのことのような気がしてならない。


No.514 5点 デッドマン
河合莞爾
(2014/08/31 21:27登録)
良くも悪くもデビュー作らしく、初々しい印象を受けた。とは言うものの文章はかなりの熟練ぶりを見せ、とても読みやすいのは褒められるべき点だと思う。一方警察小説として、序盤は専門知識などを駆使しての書きっぷりは素晴らしいが、中盤以降は捜査状況を含めてやや端折り気味な点が気になるところである。
それよりもむしろデッドマンが蘇るパートのほうにより惹かれるのは、人情というものだろう。少ないページ数とは言え、少女とのふれあいや介助猿カプとの交流はなぜかしら心に残る。
だが、かの『占星術殺人事件』に真っ向から挑んだと言われるアゾート殺人に関しては、正直あまり感心しない。どうせネタは割れているのだから、信憑性も乏しく、その背景にある動機もいかにも弱い。当然、歴史に残る名作とは比較するのもおこがましいと言えるだろう。
特捜班の面々はアクの強さこそないものの、いずれも個性的で続編が書かれるのも理解できる。勿論、今後期待できる新人には違いないと思うが、例によって妙な方向へ進まないことを祈っている。また、この人には警察小説ばかりでなく、名探偵が活躍する物語も書いて欲しいものである。


No.513 5点 地球平面委員会
浦賀和宏
(2014/08/27 22:07登録)
アイディア自体はまあ悪くはないとは思うが、「平面世界」の正体には正直唖然とするばかりで、どうも真実味に欠けるというのが率直な意見。確かに世の中様々な人間が生きて生活しているわけで、こうした一種異様な思想というか、観念を信奉している人も中にはいると思うので、あり得ないとは言わないが。だが、個人的にはやはり共感しかねるのである。ここまで書いて未読の方には理解できないだろうが、これはそうした抽象的な側面を持った作品なので、ある意味やむを得ないと考える。
冒頭は、大学のキャンパスの雰囲気も良く伝わってくるし、地球平面委員会という得体の知れない同好会?にも興味を惹かれるようにうまく誘導しているため、それなりにストーリーに入り込めるのだが、途中ダレるのがよろしくない。
なぜ主人公の大三郎にここまでしつこく入会を勧めるのか、最大の謎の正体には正直拍子抜けした。何だそんな事だったのかって感じ。まあ、このジャンルに強い人にはピンとくるのかもしれないけれど。
全体像がなんとなくぼんやりして、強烈なシーンも見当たらないし、どこと言って見るべき点もないため、素材は面白いだけに損をしている気がする。やはりこの作家は自分には合わないのかもしれないし、客観的にみて文章がこなれているとは言い難い。


No.512 7点 暗黒女子
秋吉理香子
(2014/08/25 21:51登録)
これは好き嫌いがはっきり分かれるタイプのミステリだろう。本格大好きマニアには総スカンを食らう可能性が高い。その点悪食の私は、面白ければジャンルを問わない質なので、十分許容範囲内である。しかし、イヤミスの中でも完成度の高い部類に入る作品だと思う。
カトリック系女子高の女王的存在の死をめぐって、彼女が主催した文学サークルのメンバーによる小説の形をとった犯人告発の朗読が始まる。それぞれの創作はすべて違った犯人が指摘されており、しかも、各々がなかなか良く描けていて面白い。いつみの死に際に手に握られていたすずらんに、いちいち違った意味を持たせている辺りも凝っていて興味深く読ませてもらった。一体犯人は誰なのか、それとも事故なのか・・・。
それにしてもなぜ闇鍋なのか、という疑問が湧くのは自然なことだろうが、これにも実はある狙いがあったのに気付くのは最後の最後だ。
最終章までは、イヤミス的な要素がちらほらと垣間見える程度だが、ラストにいたってイヤミス全開になる。しかもかなり意外な展開が待っていて、なるほどと唸らされることになるのも好印象である。この作者は基礎がしっかりしているようで、文章力は問題ないと断言できる。ラノベ風との意見もあるようだが、そんなことはあるまい。十分に読ませる作品と感じる。


No.511 5点 路地裏のあやかしたち
行田尚希
(2014/08/23 22:06登録)
何となく京極作品を彷彿とさせる作風を期待していたが、甘かった。だが、軽めながらこれはこれでそれなりの味わいを醸し出しており、好感が持てる。
登場人物のほとんどが妖怪だが、それぞれが人間に化けており、全く違和感がない。それだけに怪しい雰囲気はほぼゼロで、ただどことなく懐かしいような素朴な印象を受けるのが本作の特徴といえるだろうか。
本シリーズは表具師という相当マニアックな世界を描いており、他では得難い体験をさせてくれる。主に掛け軸に関しての怪異を扱っており、さして怖くはないが数多のホラーとは一線を画す作品に仕上げている。各キャラもきっちり描き分けができていて、特に猫又と雪女が化ける女子高生コンビは物語全体に花を添えている感じである。勿論、主役の400年生きている化け狐の環さんは、さすがの貫録と言えそうだ。見た目は二十歳そこそこの大人可愛い、和服が似合う楚々とした女性だというのだから、その魅力は妖怪といえどもバカにできないのである。


No.510 2点 キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人
森川智喜
(2014/08/20 22:05登録)
何これ。小学生の作文かい?
ラストの捻りがちょっと効いているので2点だが、本来なら1点。
こんなもの出版しちゃいけないよなあ、講談社も落ちたもんだ。


No.509 5点 ホーンテッド・キャンパス 桜の宵の満開の下
櫛木理宇
(2014/08/19 22:12登録)
シリーズ第3弾、連作短編集。前作と比べて質が落ちたとかいうわけでは決してない。本シリーズはホラーと青春物という一見ミスマッチな組み合わせが、ことのほか特に若年層に受けているのだろう。意外なヒットとなっているようだ。だが、やはり己の情緒不安定な精神状態を反映してか、前作よりも楽しめなかった。どこか物足りないのである。ホラーと青春が絶妙なバランスで配されているのだが、どちらも中途半端という意地悪な見方もできるわけで、要するに飽きがきてしまいやすい質の作品なのかもしれない。
本作を読んで感じたのは、しっかりとした因果律が作品の底辺に根付いていることだ。それゆえ、物語は落ち着くべきところに落ち着くので、安心感を持って読み進められる。だが、一方では不安感をあおるべきホラーのあるべき姿とは若干異なる気もするわけである。怖さも程々、青春物としてもそれなり、いかにも一般読者受けしそうな作品であるのは間違いないし、良心的であるとも言えるだろう。
それにしても、相変わらず表層のみの書評で、本質を鋭くえぐるには程遠いねえ。我ながら情けないが仕方あるまい。


No.508 6点 まもなく電車が出現します
似鳥鶏
(2014/08/16 21:44登録)
日常の謎を扱った連作短編集。コミカルな学園ミステリと銘打たれているが、際立ってコミカルな点は見当たらない。むしろ、ライトでありながらシリアスな重箱の隅をつつくがごときミステリではないだろうか。
全般的にそこそこ面白いが、ドラマティックな要素が不足しているため、その意味では一般受けしない気もする。その中でも別格と言えるのはやはり最終話の『今日から彼氏』だろう。この作品ばかりは探偵役の伊神さんも出番はないと思っていたら、良い意味で期待を裏切ってくれた。だが、kanamoriさんもご指摘の通り、主人公の葉山と柳瀬さんの関係が他の作品を読んでいないため、イマイチはっきり理解できていないのは痛い。シリーズ物は順番に読め、ということなのか。
まあしかし、この作家の他作品も読んでみようかという気にはなった。意外と評価が低いのでどうすればいいのか・・・。


No.507 6点 我が家の問題
奥田英朗
(2014/08/13 22:28登録)
必要最小限の文章で最大限の情報を読者に提供する、これはなかなかできそうでできないことではないだろうか。それをいとも簡単そうにやってのけるのが氏の才能だと思う。そっけないほど簡潔な文章なのに、登場人物のその時々の感情の揺れ具合が手に取るように解る、素晴らしいことではないか。
これはどこにでもいそうな夫婦の、特別ドラマティックでもない日常から持ち上がる様々な問題を、それぞれの思惑の元、結局最後には夫婦が協力しながら解決していく物語を綴った短編集である。
本当にどこにでも転がっていそうなものから、やや深刻な様相を呈するものもまで、解決すべき問題は色々だが、それぞれに共通するのは、やはり夫婦愛なのだろう。その辺りの実に微妙な人情の機微や夫婦間、親子間の絆をサラリとしたタッチで描いており、大変好感が持てる。これはもう一種の名人芸と言っても過言ではないかもしれない。文章が上手すぎて、何も言えない。


No.506 6点 依存
西澤保彦
(2014/08/11 22:29登録)
力作であることは認めるが、やはりくどい。何と言うか、シリーズの集大成的な位置を占める作品としての価値はあるかもしれないが、例えばこれが本シリーズを初めて読む人にとってはどうなんだろう。主要メンバー4人がほとんど何の説明もないまま、それぞれの個性をむき出しにして我が物顔で物語に溶け込んでいるのは、ちょっと不親切ではないのかと思う。こういった、シリーズを通して読まなければ理解できない作品も、問題ありと言えばそうなんだろう。
やや過激な日常の謎を登場人物が提起し、それに対して議論を戦わせる一方、タックが衝撃の過去をタカチ相手に激白していく構成は、目新しさはないものの、引き込まれるシーンもあるにはある。が、心身ともに弱っている今の私には、さすがに無理があったようで、かなり記憶が曖昧な部分も多々あるかと思う。600ページ越えは少々長かった、無駄な描写があったとは思わないが。
後半のケイコ連続誘拐事件の謎はなかなか面白かった。他にも世話をしない飼い犬、老婆の幽霊など、なるほどよく考えられた仮想解決ではないだろうか。
まあとにかく、シリーズのファンは必読、その他の読者はいきなり本作を読まないほうが無難だと思う。ある程度、シリーズキャラを理解したうえで臨まれることをお勧めしたい。


No.505 5点 スコッチ・ゲーム
西澤保彦
(2014/08/07 22:17登録)
回りくどすぎて、今の私には荷が重かった。それがこの作者の持ち味なので、ある程度は覚悟していたが、もう少しストレートに表現してもいいんじゃないかと思う。あまりにも迂遠な書きっぷりなので、内容を把握するのに精いっぱい、楽しむ余裕は生まれなかったのが、私の現状である。
それにしても、この連続殺人犯の動機は一般には理解しづらいのではなかろうか。作者自身がなんとなく有耶無耶にしてしまっているようで、どうにも気持ちが悪い。
私はこのシリーズのファンでも何でもないし、況してやタカチに対する思い入れなど全くないので、その意味では、これっぽっちも楽しめなかった。どうにも世界観がディープすぎて、理解不能な部分が多かった気がするなあ。これだけ地味な作品が、高得点を獲得しているのも私には正直不思議である。
わざわざ次の『依存』のために読むほどではなかったのかもしれない。しかし、今から『依存』に対する不安が募るばかりである。どうかそれが杞憂に終わってくれればいいのだが。


No.504 6点 空想オルガン
初野晴
(2014/08/03 22:00登録)
ハルチカシリーズ第三弾。相変わらず、学園ものの雰囲気を程よく醸しながら、各キャラの描き分けもきっちりできており、好感の持てる短編が並ぶ。今回はついに吹奏楽のコンクールに初出場し、しかしそちらに重心が傾くことなく、しっかりとミステリとしての体裁を保っている。
最終話ではこれまでにない構成が新味を出しており、さらにちょっとしたサプライズも用意されていて、素敵な佳作に仕上がっている。青春っていいもんだね、と再認識させられる。それも押しつけがましさがない辺りが、この作者の心憎いところじゃないかな。
『ヴァナキュラー・モダニズム』は一番のお気に入り。これは面白い、オチも最高。kanamoriさんと同じだね。


No.503 2点 公開処刑人 森のくまさん-お嬢さん、お逃げなさい-
堀内公太郎
(2014/07/31 22:15登録)
スマッシュヒットとなった前作をただ模倣しただけの、何の創意工夫もない駄作。
謎も仕掛けもトリックもない、そして何の面白みもない、文字を羅列したに過ぎない、箸にも棒にもかからない作品となってしまっている。シリーズ1作目のヒットに味を占めて、二匹目のドジョウを狙ったのだろうが、読者をバカにするのも程々にしたほうがよい。こんな内容ではこの作者も先が知れていると思える。デビュー4作目にして早くも自作の二番煎じでは、ネタ切れを自ら露呈していると思われても仕方ないだろう。
まあとにかく、本書を思わず手に取ってしまった自分を責めるしかあるまい。それと、相変わらず文章が下手、全然頭に入ってこない、心に沁み込まない。


No.502 6点 カラスの親指
道尾秀介
(2014/07/27 21:40登録)
我が人生最大の激動の前後に読んだという事実だけは、生涯忘れないかもしれない作品となった。
他の多くの方が絶賛されているほど、面白いとは思えなかった。特に種明かしの部分を、半分上の空で読んだが、それを差し引いてもさして楽しめなかったのは間違いない。だからと言って、その理由をくどくどと並べ立てるような心境にはなれないので、簡単ではあるが終わりたいと思う。
多分、本当に立ち直るのは、少なくとも一カ月先かもっと時間が掛かるだろう。それまでは、読書のペースもかなり落ちるはずだし、書評もあまり長々とは書けないだろう。


No.501 6点 向日葵の咲かない夏
道尾秀介
(2014/07/19 21:48登録)
面白かった。しかし、拒否される訳もなんとなく理解できた気がした。本格志向が高い人ほど「許せない」のではないかな。そうでない人でも生理的に受け付けないという理由で、自分には向かないと感じているのではないかと思う。
だが、私は圧倒的にとは言えないが、大方支持する立ち位置でいたい。なぜなら、まず小説としての完成度が高いから。ミステリとしても、しっかりと伏線が張られているし、真相も過不足なく明らかにされており、設定が特異なだけで決してホラーなどではないと個人的には信じているのである。
確かに、非常に際どい描写があるのは認める。しかしながら、必ずしもアンフェアとは言えない。
やや気になるのはS君の生まれ変わりの早さで、蜘蛛に生まれ変わるのはいいが、たったの7日間でというのはいかにも早いのではないだろうか。私の少ない知識では人間が生まれ変わるのには400年前後かかるはずだけど。まあ、仏教にはそのような教えもあるのかもしれないので、あまり偉そうなことは言えないね。
それと、同じトリックの多用が気に入らない人も多いんじゃないかな。またかって感じで、感覚が麻痺してしまい、驚きが次第に目減りするのはやむを得ないと思う。
蛇足だが、冒頭のプロローグに当たる部分は最後に持ってきた方が良かったのではなかろうか。或いは、同じ文章を最後に繰り返すのも一つの手だったのではないか。そのほうが余韻がいい感じで残ると思うのだが。


No.500 4点 ルピナス探偵団の当惑
津原泰水
(2014/07/16 22:16登録)
この程度か、というのが率直な感想。そもそも作者が津原氏だというんで、一抹の不安があったんだよね。その嫌な予感が当たってしまった。文章は読み難いわ、面白みはないわで、言っちゃ悪いが時間の無駄だった。解説にはチェスタートンの血族とか書かれているが、正直チェスタートンも好きじゃないし。
大体において、どの短編もロジックに偏り過ぎて、肝心のストーリー性がおろそかになってはいないだろうか。だから、ああでもないこうでもないと理屈っぽくて、物語の起伏がほとんど感じられないのは大きなマイナス点だと思う。さらには、各キャラは個性的ではあるものの、もう一歩踏み込めていないのである。これなら、昨今流行の易しい系ミステリやラノベ風ミステリのほうが余程キャラが立っている、早々比べるべくもない。
最大の問題は、それぞれメインとなるホワイダニットの真相がいかにも弱い。別にそんなことしなくてもいいんじゃないの?と素朴な疑問を抱いてしまうのである。そこにいたるまでのダミーの推理にいたってはまさに噴飯ものであろう。
最終話のラスト一行だけはちょっぴり良かったがそれだけ。他に見るべきところはない。とまあ素人が得手勝手な感想を述べているが、あくまで個人の感想なので、無視されても一向に構わない。


No.499 6点 眠りの牢獄
浦賀和宏
(2014/07/13 22:23登録)
二つのまったく関連性のないごときストーリーが並走する構成は、好きな部類だし、面白いと思う。それらが一体どうつながっていくのか、興味深く最後まで読める。そして、いくつも驚愕ポイントが用意されているが、いちいちテンションが上がらない理由が、淡々とした文章にあるのではないかと思う。それが残念でならない。この作品は料理の仕方によっては、大傑作になった可能性が高いはずである。もっとこう、ねちっこい文体で書かれていたなら、或いはもっと上手い作家の手になったとしたら、それこそミステリマニアも大絶賛のヒット作となっていたかもしれないのだ。
だがまあ、そんなことを言っても詮無いことなので、諦めるしかあるまい。どこか既視感のあるメインストーリーではあるし、そして正直またかと思わざるを得ないトリックが用いられているが、全体として実に緻密に練られたプロットであり、隅々まで整合性が取れている点は評価されるべきであろう。
個人的には繰り返しになるが、もう少しこってりと描き込んでほしかったし、もっとボリュームがあってもよかったと思う。氏にしては小さくまとまり過ぎていたのではないだろうか。


No.498 5点 樒/榁
殊能将之
(2014/07/12 23:24登録)
やけに書評が多いと思ったら、『鏡の中は日曜日』の文庫版に併せて載せられていたのね。それにしてはあまりお得感を得られなかったのは気のせいだろうか。元ネタは密室本の一冊として、講談社ノベルズから出版されており、その薄さの割には値段はそこそこだったため、あまり売れなかったようだが、こうして収まるべきところに収まったのは喜ばしいことだとは思う。
さて本作、敢えて二部構成と言わせていただく。勿論、短編が二作という捉え方もできるが、その有機的な繋がりはやはり前半を第一部、後半を第二部と呼んだ方が据わりがいいのではないか。
まあしかし、いずれも小ぢんまりとまとまって、トリックもやや脱力系であり、天狗の正体なんかもなんだかバカバカしいとすら思えてしまう。第一部で幻の名探偵、水城優臣を読めるのは本書限りなので、その意味では貴重な作品なのだろうか。とは言うものの、作品そのものの出来はやはりあまりよろしくはない。付録的に引っ付いてきただけって感じが否めない。


No.497 7点 鏡の中は日曜日
殊能将之
(2014/07/10 22:20登録)
錯誤トリックを多用し、そちらに重点を置いているのに対して、肝心の殺人事件のほうがいかにもショボい。さらに、その動機にいたってはどう考えても無理があるとしか思えない。そんな理由で殺人を犯しますか?って感じでね。確かにそのための伏線は張られているが、正直そのくだりは退屈だったし。
石動は一応主役だと思うけど、なんか水城のほうが格好良くて、探偵としての格の違いを感じてしまう。まあ今回は狂言回し的な役どころに敢えてされているので、致し方ないのかもしれないが。
と、どうでもいいような、個人的に気になる点をあげつらったわけだけど、作風は私好みだ。最後まで読み終わったら、第一章をもう一度読み直すと、最初は霞がかかったように見えてこなかった部分が、スッキリとして納得できるので、試してみると面白い。
それにしてもエピローグに当たるエンドロール的な結末は、凄くいい味わいだと思う。年月を経ることの残酷さが、悲哀となって身に染みてくる。ある人物の言動がやけに痛々しくもあり、またいたいけにも感じる。
本作は本格でありながら、異色のミステリであり、また二人の探偵物語とでもいった趣がある。面白かったし、心に残る逸品じゃないだろうか。

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