メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.595 | 4点 | 究極の純愛小説を、君に 浦賀和宏 |
(2015/07/24 21:47登録) なるほど、これが浦賀流メタミステリなのか、このように書くとどれだけ凄い作品かしらと思われるかもしれないが、実際大したことはない。 作品の性質上、ストーリー展開などは紹介すべきではないと思うので、ここでは書かない。まあ興味があるなら読んでみても悪くはないが、無論私にはその出来に対して責任はとれないのであしからず。 二点だけ、気になる個所があったので、少しだけ触れて終えようと思う。 一点目。アメリカン・ニューシネマとして『俺たちに明日はない』『イージーライダー』『タクシードライバー』が挙げられているが、『タクシードライバー』は除外されるべきであろう。確かに内容的にはそれに近いものがあるが、年代が違うし同じ俎上で語られるのは間違いである。 二点目。『スターウォーズ』と『エヴァンゲリオン』を比較検証されているのは、なかなか面白い試みだと感じた。ただ、本作自体がこれらの論点を踏襲していたならもっといい作品に仕上がったのではないかと思うと、少々残念である。 |
No.594 | 4点 | [映]アムリタ 野崎まど |
(2015/07/09 22:04登録) 再読です。 これは激しく読者を選ぶ作品であろう。そのひとつは、最原の天才性を肌で感じることができるか、或はそれに共感できるかどうかで決まるとも言えそうである。ちなみに私は選ばれなかった者だ。 どれだけ最原が映画で何でもできる天才だとしても、実際作品の中ではその具体性が全く描かれていない。ただただ表層をなぞるのみで、その現象の一部をさらりと表現しているに過ぎないではないか。これでは、驚愕に値するような天才と認めるわけにはいかないし、彼女をどうとらえていいのか判断できない。 一方、本作は映画製作にかかわる若者たちの群像劇の面も持ち合わせているが、誰も彼も中途半端にしか描かれていないし、映画に関連するコアな部分を鋭く抉っているわけでもない。いずれにしても、個人的には褒められた出来ではないなと思う。また、贔屓目に見てもミステリではないだろう。 |
No.593 | 6点 | 雪の花 秋吉理香子 |
(2015/07/06 21:37登録) いずれもミステリとは言えないが、なかなかの佳作ぞろいの短編集ではないかと。 あとがきにあるように、作者は早稲田の文学部で習作を何度も書いていたり、小説の作法など学んだだけあって、その実力は折り紙付きと言えよう。とにかく分かりやすい文章と、情景が浮かんでくる描写力を兼ね備えた、隠れた筆達者なのかもしれないと個人的には思っている。 どれも及第点は越えていると思うが、中でも『秘蹟』は最も印象深い作品である。キリスト教色が濃いが、特段教義を押し付けるでもなく、人間の奥深いところにある機微を抉りながらも、老人介護などの社会問題や夫婦問題を描く、ある意味社会派ミステリと言えるかもしれない。 書店では見つからない可能性が高いだろうが、目にした際には手に取ってみることをお勧めする。 |
No.592 | 7点 | 封印再度 森博嗣 |
(2015/07/03 21:22登録) 再読です。 好きか嫌いかと問われたら、好きな部類。これはワン・アイディアを骨として肉付けし、ストーリーの最後まで引っ張っていく作品である。しかもその肝となるトリックが骨太なため、最終章まで興味を持って読み終えることができる。 事件そのものは、再現性も含めて意外に単純だが、意表を突くトリックによって後味の良いものとなっていると思う。ただ動機だけは、相変わらず理解しづらい。 萌絵のある行動で意見が分かれているようだが、確かにちょっとやりすぎの感はあるが、これも作者のサービス精神からくるものと考えられなくもない。個人的には鼻持ちならないと感じるが、まあこういった強引な駆け引きをもって、二人の心理状態を明らかにする意味はあったのではないだろうか。 タイトルに関しては、大方の意見通り秀逸だと素直に思う。 |
No.591 | 4点 | CUT 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 内藤了 |
(2015/06/23 22:02登録) 身体の一部を持ち去られた女性の死体が、幽霊屋敷と呼ばれる古い館で、次々と発見される。主人公の比奈子ら刑事は捜査を行うが、遅々として進まない。果たして犯人の目的とは、そして真犯人は誰なのか・・・ 死体発見の描写はいささか気分が悪くなるようなもので、それが却って引き込まれる要因となっているが、それ以外はダラダラとした文章が綴られるばかりで、一向に盛り上がらない。 目くらましのミスリードが目立つが、あざとさしか感じられない。その割には伏線と言えるようなものは存在せず、結局唐突に犯人が登場するのみで、終始がっかりの連続であった。死体を損壊する目的もありきたりで、まさしく凡作としか呼べないような代物だった。 |
No.590 | 5点 | なないろ金平糖 いろりの事件帖 伽古屋圭市 |
(2015/06/17 21:56登録) 大正ロマンミステリ第三弾。 主人公のいろりは家業の金平糖屋の店番などをして暮らしている18歳の少女。彼女は金平糖を口に含むことによって千里眼を発揮できる能力を持っている。他にも、飼い猫のジロと会話も出来たりする。そんな彼女が遭遇する事件に、妹分の絹と猫のジロと共に立ち向かって行くというストーリー。 語り口、ストーリー展開共にどことなく平板で、変化に乏しい。どちらかと言うと、彼女らの個性で読ませるミステリとなっているが、ミステリ度はあまり高くなく、エンターテインメント小説の意味合いが強い。 最終話などは本格推理というより、いろり、絹、ジロの冒険譚といった趣だ。 この大正シリーズ、段々レベルが下がっているのがやや気になる。 |
No.589 | 5点 | 彼女は存在しない 浦賀和宏 |
(2015/06/10 21:52登録) 面白いか、面白くないかと聞かれれば、どちらとも言えない。やりたいことは分かるが、ストレートに伝わってこない。せいぜい「そうだったのか」程度にしか思えず、あっと驚くような、なるほどと膝を打つような、そんな感じがなかったのは残念な限り。 私も内容の割に長かった気がする。冗長とは言えないかも知れないが、緊迫感に欠け、なんとなくだらだらとした感触が否めない。なんだろう、プロットの問題なのか、文体の問題なのか分からないが、上等な材料を上手く料理できなかったような、というのが本音かな。 中身については触れないのが大人の対応だろう。未読の方には多分わけわからないと思うが、許されたい。 |
No.588 | 3点 | 罪の余白 芦沢央 |
(2015/06/05 22:00登録) いじめを受けて、自殺なのか事故死なのか判然としないが転落死した女子高生。その父親が、いじめられていた相手に復讐を計画する物語。ストーリーは四人の視点から描かれるが、被害者側の心理状態はそれなりに描写されているが、加害者のほうはそれほど深くえぐられていない感じを受ける。物語に新味はなく平凡であるし、オチも捻りもなく、これと言って特筆すべき点が見当たらない。 本作は第三回野生時代フロンティア文学賞を受賞したらしいが、にわかには信じがたい。そこまでの価値があるのかどうか。 お世辞にも文章がうまいとは言い難く、プロの作家に手によるこなれた作品というより、作家志望の習作というのがいいところだろう。賢明なる本サイトの読者はくれぐれも読まれないことを強くお勧めする。 |
No.587 | 6点 | ナポレオン狂 阿刀田高 |
(2015/05/26 22:14登録) 直木賞受賞作『ナポレオン狂』日本推理作家協会賞受賞作『訪問者』収録の短編集。 いずれもブラックなオチが持ち味の、キレのある短編で、ボリュームもちょうどいい感じに収まっている。中にはやや意味不明の、オチのないのも含まれているが、大方好印象。 さすがに文章も慣れたもので、30年以上過ぎた今でも色褪せない輝きを保っている。と同時に古臭さを感じさせない辺りは見事と言って良いだろう。 どこにでもいそうな主人公のごく当たり前の日常の中に、じわじわと或は突如として異常が出現し、彼らの精神の中に侵食していく物語が多い。派手さはないものの、再読に耐えうる逸品が散見される。ほかの作品集も読んでみたくなるような気にさせられる良作である。 |
No.586 | 6点 | この闇と光 服部まゆみ |
(2015/05/22 21:58登録) 解説の皆川博子氏は、この作品についてはほぼ触れていない。何を書いてもネタバレにつながるから、という理由だが、それももっともであると感じる。それだけ特異な小説であるという証左であると同時に、なかなかお目にかかれない希少価値の高いものであると思われる。 作風としては綾辻行人のホラーに若干類似しているような気がする。作風というか、雰囲気か。確かにサスペンスではあるが、その純度は低い。とにかく、これは読まなければその真価は理解できない。誰がどう感想を書こうとも、真実はうまく伝わらないだろう。 ついでに言うと、帯の謳い文句も必要ない。ネタバレ禁止と書きながら、禁句が堂々と載せられているのはどうかと思う。 尚、本作が直木賞にノミネートされたのは、私にとって意外な事実であった。 |
No.585 | 5点 | ようこそ、わが家へ 池井戸潤 |
(2015/05/18 22:10登録) ドラマ化されたのを観るともなく観ていて、そこそこ面白そうだったので読んでみた。ドラマのほうは登場人物を増やしていたり、エピソードを膨らませてみたりして、かなり脚色しているが、それが功を奏しているようである。個人的にはドラマのほうが面白そうな印象を受ける。 原作は思ったよりあっさりしていて、正直読み応えがあるとは思えない。ただ、主人公の倉田はどこにでもいそうな弱々しい、銀行からの出向組で、中年の悲哀が感じられたりして感情移入しやすいのは間違いない。 帰宅する電車への割り込みを注意したため、逆恨みで付け狙われるサスペンスのパートと、倉田が会社内で不正を暴いていくパートの、全く異なる二つの小説を交互に読んでいるような錯覚を受ける。どちらも均等に描かれているが、双方ともやや中途半端な感じがしないでもない。池井戸氏らしく堅実に描かれているが、個人的には面白みに欠けるきらいがあるのはマイナス点かも知れない。 |
No.584 | 7点 | 臓器賭博 両角長彦 |
(2015/05/14 22:14登録) ギャンブラー心に火を付ける(ギャンブラーじゃないけど)、本格ギャンブル小説。 主人公の古賀は普段はバーの雇われマスターだが、本来は生粋のギャンブラーである。物語は、彼がある大会社の御曹司が地下賭場で大金と臓器のいくつかをかたに取られており、その代打ちを依頼されるところから始まる。相手は4人で、勝負はポーカーの一手替え。古賀は果たして取られた臓器を取り戻すことができるのか、そして依頼通り5000万を手に入れられるのか・・・ できうる限り余分な描写をカットし、必要最低限の文章で仕上げられた、娯楽作品。だがそれだけではなく、サスペンスの要素や各登場人物の裏事情、日本の不安定な将来への展望などを盛り込んでおり、単に博打の実況のみが描かれているわけではない。 重い内容の割には、淡々とした文章で綴られていて、余計なストレスや重圧感を感じることはない。それでも、臨場感に溢れているので、最後までのめり込めるし楽しめること請け合いである。 ただ、1ページ目は衝撃的ではあるが、あまりに杜撰なやり口は臓器賭場とそぐわないのが気になる。それと、種目がポーカーなので、勝負が一瞬で決まってしまうため、ひりついた感じが薄いのは若干残念な点ではある。 |
No.583 | 5点 | 悪夢のエレベーター 木下半太 |
(2015/05/11 21:51登録) 本編より解説のほうが面白かった。いや、これもなかなかだとは思うが、コメディタッチというわりにはクスリともできなかった。まあそれよりも、パニックサスペンスとして、或いは反転ものとして読みどころありというべきか。 ただ、第一章から第二章へと繋がる展開はややくどい気がする。先が読めてしまうのはあまり感心しないね。 ラストは良い。思わず続きが気になってしまう心憎い締め方だ。と言うわけで、続編を読むべきかどうか思案中である。 |
No.582 | 6点 | 掟上今日子の推薦文 西尾維新 |
(2015/05/08 21:50登録) 前半のワクワク感と比べると、後半は若干トーンダウンの感がしないでもない。全体的にストーリーがあっさりしており、複雑系が好みの読者には物足りないかもしれないが、じっくり読み込むことによって、なかなかの味わい深さを堪能できる。 忘却の探偵、最速の探偵という特異なシチュエーションを物語に据えることにより、常に注意深さを要求されるので、作者側も丹念に描きこんでいる印象を受ける。 物語は登場人物が限られているため、自然予想される通りに進行するが、実はこれは織り込み済みで、そのためホワイダニット、ハウダニットに特化される。予定調和的な一面がかなり強いが、だからと言って本作が退屈であるとか、意外性に欠けるというわけでは決してない。 |
No.581 | 5点 | 地球儀のスライス 森博嗣 |
(2015/05/03 21:27登録) 『まどろみ消去』の時も思ったが、どうも森博嗣の短編集はらしくない。こちらの期待しているというか、想像しているものとは全く別の代物である。ジャンルはともかく面白ければそれでもいいが、正直面白みに欠けるため、どう考えても高評価は出来ない。 かろうじて『気さくなお人形、19歳』と『僕は秋子に借りがある』がなんとなくではあるが、心惹かれる部分がある以外、どれもこれも森博嗣にしか書けない作品とは程遠いと言わざるを得ない。残念ながら、私には凡作が並んでいるようにしか思えない。少なくとも、本書を高く評価するほどの読解力は持ち合わせていないのである。 勝手な意見だが、名前で高評価を得ているとすら感じてしまう。森氏のカリスマ性に惹かれる読者も少なくないだろうが、正当に見てこれはいただけない。 |
No.580 | 5点 | アルジャーノンに花束を ダニエル・キイス |
(2015/04/28 21:52登録) 期待していたほどではなかった。全編手記による一人称で構成されているが、これにより、個人的にはあまり感動できなかったという残念な結果に終わってしまった。 現在ドラマが放映されているが、以前にもユースケ・サンタマリア主演でドラマ化されている。その際、ユースケの好演も相まって大変面白かったため、当然原作も落涙必至の感動の物語と信じていたが、意外にもストーリーの起伏に乏しく、ドラマティックな展開とは言い難い、チャーリィの内面を生真面目に描いた固い印象の小説であった。 SFとは言っても、小難しい専門知識などは皆無で、その意味では読みやすく、万人向きなのだと思う。唯一最後の二行はやや心動かされるものがあった。 世界に名を轟かせる名作に、この程度の書評しかできない、また5点という低評価を与えてしまう私は、ミステリ以外の小説に対しての審美眼を全く持っていないと言わざるを得ないだろう。 |
No.579 | 5点 | 交換殺人には向かない夜 東川篤哉 |
(2015/04/23 21:52登録) ある邦画に「笑いは心のバロメーターやねん」的な台詞がある。つまり、よく笑っていられる時は心が健康な証拠、という意味だ。これを信じるなら、本作を読んで一度も笑えなかった私の心は、やはり病んでいるのかもしれない。特別笑いの沸点が高いわけでもないと思うが・・・それともこの作品は寒いギャグのオンパレードってことなのか。 本書の核となるトリックは、ご承知の通り既存している。しかも、随分前から。さらには、私には何となくこの仕掛けが予測できた。このボンクラの私が、である。まあ見抜けたからと言って、偉くもなんともないのだが、ちょっと拍子抜けなのだ。 後味も全体的な流れもどうもすっきりしない。これだけの高評価を得ているからには、何かあるのだろうが、私にはそれが見えてこない。期待していただけに残念だ。なんとなくすべてにおいて不発に終わった感が拭えない。 |
No.578 | 6点 | 旅のラゴス 筒井康隆 |
(2015/04/18 21:29登録) 時代設定も場所も不明だが、主人公のラゴスが地球上のさまざまな国を、一風変わった方法で旅する連作長編。 文体に臨場感があふれ、実に適切な語彙を選択しているため、読者は自然異国を旅して周り、行く先々で個性的な人物と出会うような疑似体験をすることになる。一つ一つのエピソードは短いが、何とも言えない雰囲気を漂わせ異国情緒を味わえる。 ラゴスはナイス・ガイではあるが、実際学究肌で、何十年も旅する間に一国の王に祭り上げられたり、大学の教授になったりと、まさに波乱の人生を送るのだ。そして最後に向かう先は・・・。 『壁抜け芸人』『たまご道』など奇想たっぷりのエピソードも楽しい作品だ。 |
No.577 | 4点 | スタート! 中山七里 |
(2015/04/14 22:00登録) 自らの第三長編『災厄の季節』(のちに『連続殺人鬼カエル男』に改題し刊行)を原作として映画化、そのクランクインから一般公開までの、映画製作に賭ける男たちの真摯な格闘を描いたミステリ。 ミステリの要素は刺身のツマのようなものであり、おまけ程度で、ほぼ全編映画に携わる人々の姿を描いた娯楽作品と言える。したがって、あくまで映画マニアのための小説であり、ミステリファンが読むものではない。一応殺人も起こるが、若干意外な犯人以外はこれといったトリックもなく、ミステリとしてはとるに足らないものとなっているのは残念な限りであった。 かと言って、映画に関する薀蓄が披瀝されるわけでもなく、その意味でもいかにも物足りなさを感じる。 Amazonの評価はやはりあてにならないことを、改めて思い知らされた一作であった。 |
No.576 | 6点 | インディアン・サマー騒動記 沢村浩輔 |
(2015/04/09 21:37登録) 何とも不思議な短編集である。まずそのタイトル、何が『インディアン・サマー』なのか、理解不能だ。と同時に、売れそうにないタイトルでかなり損をしていると思う。今回、文庫化に際して『夜の床屋』と改題されたのは大正解だろう。 そして、一応連作短編集の形をとっているが、それぞれが独立しており、「僕」という登場人物が共通しているだけで、ほかに関連性はないように見える。よく解釈すれば様々な作風が読めてお得感があると言える。ところが、エピローグで思ってもみなかったK点越えの着地を見せ、読者を驚かせる。すべてを読み終えて、日常の謎かと思えば本格、本格かと思えばファンタジーというように、万華鏡のように景色が変わっていく様は、ある意味戸惑いさえ覚える。 短編をかき集めて、あとから無理矢理取って付けたように関連付けたとの誹りを受ける可能性も大いにあるが、逆にその据わりの悪い後味が何とも言えない妙味を与えているように思えてならない。 |