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ミステリの祭典

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死者に捧げるプロ野球
ラジオディレクター青木聡美シリーズ

作家 吉村達也
出版日1992年07月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 メルカトル
(2017/09/08 22:32登録)
のちに文庫化された際に『「巨人-阪神」殺人事件』と改題された実験的な作品です。アイディアマンの吉村氏はこれくらいのことは朝飯前だったんでしょうね。まず、作者はこの小説を一般的な読者が大体2時間30分前後で読み終わると想定し、物語全体がそれと同じ時間で推移し、ちょうど2時間30分でストーリー全体が完結するように描かれています。ですので、読者にそれくらいの時間で読了できるように、あらかじめ時間を取って読み終わることを作者は最初に勧告しています。それを読んだ読者は嫌でも挑戦するように仕向けられるという仕組みです。
時は1992年5月20日、物語の舞台は東京ドーム、まさに巨人対阪神の試合が行われている最中に事件は起きます。殺人が起こった場所は地下駐車場で、勿論メインはそちらの殺人事件なのですが、試合の実況が要所要所で差し込まれます。一見無関係に思える試合が、事件を解決する上での重要なポイントとなっていますので、要注意です。
実際事件のあらましは特筆すべき点はあまりなく、トリックも驚くようなものではありません。しかし、一気に読ませる文章力はさすがに読みやすさでは定評のある吉村氏です。こんな私でも一所懸命読んで2時間45分ほどで読み終えることができました。
ちなみにこの日の先発は巨人が桑田、阪神が湯舟でした。オールドファンには懐かしい名前ではないでしょうか。当然他にも有名どころの名前が続々登場しますので、プロ野球ファンにとっても楽しい一作だと思います。

今さらですが、吉村達也氏のご冥福を心よりお祈りいたします。

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