home

ミステリの祭典

login
QJKJQ

作家 佐藤究
出版日2016年08月
平均点5.44点
書評数9人

No.9 6点 みりん
(2024/11/12 01:20登録)
純文学で勝負した『サージウスの死神』にはなかったエンタメ性・ミステリ要素が付与されて、それでもミエミエな展開なのはハナから織り込み済みか、最後はやはり純文学に終わる。どうもこの作者の作品には薬物中毒者のような世界観が広がっていて、読んでいると誇張抜きで頭痛や眩暈に襲われているような感覚になる。いや、たまたま体調不良だっただけか?ともかく、楽しい読書ではない…が…今まで読んできた優等生の権化のような江戸川乱歩賞作品とは一線を画す。ミステリの賞を与えるべきかどうかはともかく、この作者が新人離れした(当然か)とんでもない作家であることは間違いなさそう。

No.8 7点 E-BANKER
(2021/08/23 21:53登録)
第62回江戸川乱歩賞受賞作。
作者はつい最近、「テスカトリポカ」で第165回の直木賞を受賞したことでも話題に。ということで本作を手に取った次第。単行本は2016年の発表。

~猟奇殺人鬼一家の長女として育った、17歳の亜李亜。一家は秘密を共有しながらひっそりと暮らしていたが、ある日、兄の惨殺死体を発見してしまう。直後に母も姿を消し、亜李亜は父と取り残される。何が起こったのか探るうちに、亜李亜は自身の周りに違和感を覚え始め・・・~

こういう作品って、「合う人は合う。合わない人は合わない。」んだろうな(当たり前だ!)
個人的に読了後まず感じたのは、「乱歩賞っぽくない」。どなたかがメフィスト賞かと思った的なことを書かれてますが、確かにそういうテイストを感じた。
巻末の乱歩賞選評では今野敏氏が「・・・あり得ない設定だが、それを力づくで読ませる筆力がある」と称されている。その言葉にも頷けるところはある。(ここにも直木賞を受賞されるだけの片鱗はあるということだ)

好みでいえば「決して嫌いではない」。目の前の景色が徐々に歪んでいくと言えばいいのか、はたまた世界観が次々と移り変わっていくといえばいいのか。とにかく、こういうプロットの作品をうまく着地或いは収束させるのは難しい。
本作がうまい具合に収束させているのかと言えば、やや疑問符ではある。リアリティとは真反対の物語を紡いできたのだから、現実的な収束をつけるのか、ただそうするとサプライズ感が薄いことになる・・・
そういう意味では処女作としてはまずは合格点ではないかな。(審査員の辻村深月氏はこの辺りを「物足りない」と評されてますが・・・)

いずれにしても、本作で「物語を紡げる力」、「読者を引きつける腕」については稀有な水準を見せていたということだと思う。文学作品は小説であれ、童話であれ、現実逃避できる仮想世界を描けることに大きな魅力があるのは確かなのだし、是非これからもミステリー(寄り)の作品を書いて欲しい。

No.7 5点 じきる
(2021/05/23 17:31登録)
正直、私が好きなタイプの読み物ではなかった。
それでも、ぐいぐい読ませる筆力は流石だ。

No.6 8点 虫暮部
(2018/11/19 10:57登録)
 設定は西尾維新、キャラクターは辻村深月、スピード感は舞城王太郎で結末はいつのまにか浦賀和宏? 真似と言うことではなく、新しいヴィジョンのピースとして方法論を巧みに使い回して組み上げている。その結果浮かび上がる風景は確かに新しい。やけに冷静な章題が効果的。いかにもメフィスト賞、なんだけど江戸川乱歩賞受賞作なんだなこれが。

No.5 6点 名探偵ジャパン
(2018/10/20 12:18登録)
いかにも一般の読者よりもプロ作家のほうが喜びそう、絶賛しそうな作品だなと思いました。
これは有栖川がよく言っていることですが、「公募作品にはとにかく斬新さを求める。普通にできの良いミステリを書くプロ作家など掃いて捨てるほどいるから」この言葉に照らし合わせてみれば、本作は、どストライクといえます。公募賞(江戸川乱歩賞)受賞も納得の出来映えです。
ただ、それはあくまでプロ作家の目を通してのことであって、ごく普通のミステリファンの私としては、「何だかうまいこと煙に巻かれたなぁ」という印象だけが残りました。
主人公の一人称記述でこういうことをやられると、「そりゃ何でもありでしょ」となってしまいます。どんな不可解、不可能に思える状況、事件も(とりあえずは)成立してしまいます。ちょっとズルイ。
とはいえ、6点付けたということは私自身、本作を「楽しめた」というのも事実で、たまにはこういうのもありかなと思ったりするのです。毎回だと勘弁して欲しいですけれど。

No.4 6点 猫サーカス
(2018/01/27 15:13登録)
猟奇殺人鬼の一家で育った女子高生の一人称で物語られる。部屋で兄が殺され、母親が姿を消し、父親に疑いの目を向けるが、一家にはさらなる秘密があるというもの。記憶が検証されて逆に混沌を深める内容で、しかもそこに現代社会を透視する鋭い批評性があり、豊かな文脈をもつ。趣向に富む濃密な純文学風ミステリ。

No.3 2点
(2017/10/19 12:43登録)
直近(2016年度。ちなみに2017年度は受賞作なし)の乱歩賞作品なのに、図書館であまり待たずに借りられたので喜び勇んで読んでみたが・・・
正直、良さがわからない。たしかに文章は読みやすい。が、ただそれだけ。
文章についても、倒置や、体言止めが多すぎる点は気に入らない。

家族全員が殺人鬼という設定を明かした導入部を含む100ページぐらいまでは、これはいけると感じたが、そこまでだった。そのあとは全然ダメ。こうなると続かず、字面を追うだけの読書になってしまった。
審査員が評価するのはわからないでもないが、世間でも評価が高いのには驚く。好き嫌いは分かれるはずと思うのだがなあ。
「平成のドグラ・マグラ」と言われているらしい。もしそうなら、これも楽しめないだろうなあ。いつかは読もうと楽しみにしていたのに。
ミステリー的には、悪くはないが使い古された技じゃないのかなあ。こんなところが評価されるはずはないしなあ。

文章もミステリー性もまずまず、猟奇殺人のオンパレードも悪くはない、なのになぜこんなにひどく感じるのか?
結局、物語性がひどいってことなのだろう。文芸作品じゃないのだから、もう少し読ませるストーリーにしないとね。

以上、嗜好だけで評したが、もしかしたら読解力に問題があったのかも。何年か後に、もういちど読んでみよう。
なお、同著者の次作「Ank」のほうが面白いという噂はある。

No.2 7点 メルカトル
(2017/09/15 22:13登録)
「そいつはやめとけ、ヤバいやつだ」己の内なる声が囁く。しかし、私は自身の欲望に抗うことができず、書店の棚からそれをそっと引き抜く。本当にそれでいいのか、自分。これでいいんだ、買わずに後悔するより買って後悔しよう・・・。

そして私はこの本を読み始めました。両親と兄が殺人鬼で、高校生の主人公亜李亜自身も猟奇殺人鬼なのです。そんな設定のミステリが面白いわけがないじゃないかと思いつつも、なぜか引き込まれます。導入部から言いようのない緊張感を読む者に強います。ところが物語は予想外の展開に発展していきます。面白いとか面白くないとかの次元を超えた、秘められた何かがこの小説には息づいているように、私には思われて仕方ありません。平成の『ドグラ・マグラ』とかではなく、何かこれまでにない新機軸を目指しているというか。
本書を評価する人もしない人も、気持ちはなんとなくわかる気がします。選考委員の間でも意見が分かれたのも無理からぬものがあったようですし。私が思うに、本作を評価するにあたってこれを理解できるかどうかが問題なのではなく、容認できるかどうかで評価が決まる気がします。
奇書であるのは間違いないでしょう。私はこれが嫌いではないですし、その完成された文章や使い古されたと言ってもよい幻想と現実の狭間の物語を含めて、どうしても低い点を付けるわけにはいかない気分にさせてくれる作品なのです。

No.1 2点 HORNET
(2017/09/03 22:26登録)
 第62回江戸川乱歩賞受賞作。
 正直、よさがあまり理解できなかった。
 家族全員が猟奇殺人者、という設定で、主人公の市野亜李亜をはじめその母、兄、そして父の殺人者としての姿が描かれる序盤は確かに規格外で、その後への期待が高まる。しかしこんな展開は・・・私には合わなかった。簡単に言えば、「抽象的、観念的」。
 私の大好きな有栖川有栖、今野敏の両氏が絶賛しているのが釈然としなかった。池井戸潤の評に最も共感する(まぁ立場が同じなんだから当たり前か)。
 興味が沸いて諸サイトでの書評を見たが、絶賛といっていいぐらい評判がいいので、ますます自分の審美眼に自信がもてなくなった。

9レコード表示中です 書評