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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.735 6点 カササギの計略
才羽楽
(2017/05/07 21:58登録)
終盤までは正真正銘の恋愛小説です。恋愛ミステリとも違います。いったいこの小説のどの辺りがミステリなのかしらと、終始疑問を抱きながら読み進めましたが、終盤でやられました。計略とはよく言ったもので、まさしくある策略というか、陰謀といえば大げさでしょうか、そういった黒い影が突如差し込みます。
まあしかしながら、道中はとても読み心地のよい流れるような文章で、しかも何気ない仕草や細かな情景、背景などにも神経が行き届いており、非常に手慣れた書き手との印象を受けます。
ベビーカーに人形を乗せて歩く「ベビーさん」やアパートのドアの前で遅くまで母親を待ち続ける少年のサイドストーリーなども単なるエピソードとしてではなく、しっかりと描き切っています。この辺りも高評価ですね。
ただ、先述のようにある計略が裏では進行しているわけですが、私には少々納得のいかない点があったのが、どうもすっきりしない後味となってしこりのように残り続けています。そこが感動の名作、涙なくして読めないというわけにはいかないところなのです。期待通りの展開にならないからと言って、作者を責めることはできませんが、やはり想像の斜め上を行くのも一概に意外性があってよろしいとは言いがたいってことでしょうかね。


No.734 5点 密室の鎮魂歌
岸田るり子
(2017/05/04 22:14登録)
過去現在含めて四件もの密室事件が起こる、豪華?な一冊です。が、いささかタイトル負けしていますね。いえ、個人的な感想ですが。
全編無味乾燥な文体で綴られる、一見複雑そうな、事件てんこ盛りな本作ですが、意外と単純な構造をしていると思います。デビュー作らしく、完成度が高くありません。京都が舞台なのですが、全然そんな感じがしないのは、情景が浮かんでこないせいなのか、まあ描写不足なのでしょう。やたら地名が出てくるだけで、土地勘がある私でも、あああの辺りか~程度にしか思えません。
最後の最後まで誰が探偵役なのか判然としないのは、逆に興味を惹かれますし、多分この人が探偵役なんだろうと思わせて被害者にするところなどは、なかなか面白いです。(すみません、ややネタバレ気味ですかね)ただ、この解決の仕方は個人的にあまり好みではないです。
密室も第一の事件は一捻りしてあり、好感が持てますが、あとはどうということのない平凡な事件です。密室は最早物理トリックのみでは物足りませんね。何か新味を感じさせるトリックや意外な動機でもない限り、密室そのものの存在意義はないと思います。


No.733 6点 烏に単は似合わない
阿部智里
(2017/04/30 22:20登録)
第十九回松本清張賞受賞作。ですが、社会派推理小説ではありません。基本はファンタジーでミステリの要素が幾分含まれている感じです。
時代はおそらく平安時代辺りだと思います。ストーリーは簡単に言うと、四人の姫が妃争いを演じるのですが、道中、陰謀あり裏切りあり丁々発止のやり取りありの、なかなか過激な女の争いです。それぞれ訳ありの事情を抱えた姫たちの中から、いったい誰が妃に選ばれるのかが、一応話の中心ですが、そんな興味を忘れるほど姫たちの裏に隠された秘密に心中を持っていかれます。
八咫烏とは三本足の大烏のことで、日本書紀に記されているとも、古代中国で瑞鳥とも言われているらしいです。この八咫烏が物語の中で重要なポイントとなっており、そこが最もファンタジーらしい部分ではあると思います。ただし、ファンタジーでありながら、それ程のスケール感を感じさせないのは、まあ物語に見合ったものなのかもしれません。
時代ファンタジーが好きな人には堪えられない逸品でしょうし、ちょっと風変わりな少女漫画ファンなどにも受けそうな気がしますね。ミステリ好きには物足りないかもしれませんし、あまり一般受けするとも思えません。
作者はまだ25歳?の才媛で、松本清張賞を受賞したのは20歳で、まだ学生だったそうです。いずれにしても今後の活躍が期待される大型新人のようです。私にはあまりピンときませんでしたが。
尚、八咫烏シリーズは累計65万部の大ヒットを記録しているそうです。あまりピンときませんが。


No.732 7点 時鐘館の殺人
今邑彩
(2017/04/26 22:53登録)
一定水準を維持した良作揃いの短編集です。
『生ける屍の殺人』は島田荘司氏に直接依頼を受け、アンソロジー『奇想の復活』に寄せられた短編です。新本格の作家をはじめ、若手のミステリ作家の競作とあって、なかなか力の入った味のある作品に仕上がっていると思いますよ。山口雅也氏の某作品とタイトルが似ていますが、全く関係ありません。ラストは好みが分かれるかもしれませんが、個人的には許容範囲内です。
表題作は凝りに凝った構成で読ませる本格ミステリです。まるで新本格のお手本のような作風ですね。ちなみに史上初?前代未聞の「読者からの挑戦状」入りです。もしかしたらこの作品は短編でありながら、今邑女史の代表作に挙げられてもおかしくはないんじゃないでしょうか。
これは作者がアマチュア時代に書いたものが元ネタらしいですが、今邑女史も考えてみればデビュー当時は本格志向の強い作家だったんですよね。その後、ホラーやサスペンスに移行していったようですが、ご存命なら更なる傑作を読めたはずなのに、本当に残念なことです。
とにかく、一読の価値ありの短編集だと思います。色々な趣向の作品が楽しめます。


No.731 7点 かくも水深き不在
竹本健治
(2017/04/22 22:30登録)
ホラーあり、サスペンスあり、誘拐ありの連作短編集です。
各短編ともいかにも竹本健治らしい作品と言えると思います。竹本自身はある古い作品を意識しているらしいですが、似て非なるものに仕上がっているようです。が、ある意味ではそれを超えているかもしれません。まさに竹本にしか書けないような奇妙な味わいの異色作です。
探偵役は名脇役の精神科医・天野不巳彦。
とにかく氏の本領を発揮しているのは間違いないと思いますよ。


【ネタバレ】


多くの方の予想通り、単なる短編集ではありません。衝撃的なラストを迎えますので、覚悟が必要ですよ。多くは語れません、本当にネタバレしてしまいますので。
読むのを迷っている人はすぐに読んだ方がいいと思います。特に竹本ファンは必読ですね。


No.730 4点 愚者のスプーンは曲がる
桐山徹也
(2017/04/18 22:49登録)
まずタイトルについてですが、主人公で大学一年の瞬は超能力を無効化する超能力を持っています。ですので、彼の前ではスプーンは曲がらないはず、なのに曲がったらそれは愚者(偽者)という意味です。
上記のように、本作は多彩な超能力を持った人物が多数登場しますが、無効化によりアクションシーンは全くありません。超能力を駆使した対決のないサイキックミステリなど面白いのか?結論は面白いはずがありません。
ストーリーは、命を狙われた瞬が超能力ばかりでなくその代償をも無効化する力を有していることから命拾いし、仲間となったキイチとマキが所属する「超現象調査機構」で働くことになる。ある日事務所に血まみれの男が転がり込み、プラスティックプレートを託すとともに、「アヤカには絶対近づくな」という言葉を残し絶命する。謎の女アヤカを追い、三人の調査が始まるというもの。
文体はあくまで平板でほとんど印象に残らないです。次々と現れる超能力者たちも個性はあるものの、描き方が中途半端で誰が誰だかよく分からないといった感じで感心しません。さしたる読みどころもなく、淡々とストーリーは進行し、最後の最後でややこれは、と思うようなシーンが現れますが、それもわずかで終了。結局終始盛り上がらないまま終わってしまったという印象しか残りません。
大体、「このミス」大賞の最終選考に残らなかった作品を書籍化するというのもいかがなものかと思いますよ。正直、そこまでの価値がある作品とは言えないですね。


No.729 6点 眼球堂の殺人~The Book~
周木律
(2017/04/15 22:17登録)
長尺が気にならない、平易な文体でスムースに読み進めることができ、ストレスフリーな読書となりましたが。早い段階でこの異様な建造物のトリックには気づきます。これはおそらく誰もがそうなのではないかと思います。第一の殺人?のトリックも過去に前例がありますので、勘の良い読者には早々に見破られる可能性が高いでしょう。
登場人物のほとんどが天才という割には、それらしい人はいません。むしろごく普通の人の印象が強く、あまり場全体がいきり立ったような雰囲気にはなっていません。これは作者の計算通りかもしれません、言ってみればありきたりな館ミステリに落ち着いているのではないかと思います。
意外性はないものの、堅実なストーリー展開や眼球堂のスケールの大きさには好印象を受けました。作者の静かなる意気込みのようなものを肌で感じることができますね。ただし、動機に関しては?な部分もありました。


【ネタバレ】


意外性はないと書きましたが、実はエピローグでとんでもない真相が明らかになります。これにはやられたと素直に思わずにはいられませんでした。
ここに至り、1点加点しようかと考えましたが、やはりトリックの目新しさがないため、この点数が妥当かという結論に達しました。


No.728 6点 スマホを落としただけなのに
志駕晃
(2017/04/10 22:12登録)
まず最初に書いておきたいのは、解説に関して。解説は五十嵐貴久氏が担当していますが、氏は本作をとんでもなく絶賛しています。そして革新的な、あるいは画期的な傑作と断言します。読者はこれを真に受けないほうが賢明だと私は思います。
構成はよくあるパターンを踏襲しており、これは過去のミステリ作品群を参考にしているのは明らかです。目新しいと言えるのは、フェイスブックからある人物を特定していく過程ですかね。それ以外は既視感ありありの使い古された手法で描かれた、むしろよくありがちな普通のサスペンスだと思います。
「志駕以前、志駕以降」というのは、あまりに過度な賞賛ではないでしょうか。本が売れれば何を書いてもいいというものでもないですよね。これではまるで志駕氏が綾辻や京極のような存在になると言っているようなもの。流石にそれはないでしょうよ。
まあしかし、それなりに面白い作品であるのは間違いないです。そこは認めますが、色んな意味でまだまだ未熟さが目立ちます。誤字が二か所、日本語の文法が間違っているのが何か所かありますし、文章も上手とは言えません。また、捜査陣の描き方が杜撰であったり、おかしな発言が見受けられたりします。
期待度マックスだっただけに、拍子抜けというか、やや残念な思いは拭えません。


No.727 6点 河原町ルヴォワール
円居挽
(2017/04/06 21:54登録)
なかなか面白かったですよ。少なくともシリーズ最終作として掉尾を飾るにふさわしい作品といえるでしょう。
『烏丸』などのように焦らすことなく、双龍会にすんなり突入するので、イライラすることもなくストレスを感じません。そこからの加速ぶりは、ややもすると目まぐるしく変化する展開についていくのがやっとという感覚を覚えるかもしれません。
果たして本当の敵は誰なのか、誰と誰が結託しているのか、そして裏ではいったい何が起こっているのかと興味は尽きません。大技小技を織り交ぜての攻防戦は、実に読みごたえがあり、第一作以来の興奮を味わえるのは間違いないと思います。よくこれだけややこしい話を考え付くものだと感心しますね。
ただシリーズを追うごとに書評数が減っているのは、いい加減同じシステムに飽きてくるからでしょうかね。


【ネタバレ】 


冒頭でシリーズ中最重要人物が死亡します。これはその犯人を巡っての物語であり、意外な事実が次々と明らかになります。
反則スレスレの記述が多々ありますが、そこは大目に見るとしてほぼ全員が騙されるのではないでしょうか。


No.726 4点 烏丸ルヴォワール
円居挽
(2017/04/01 21:53登録)
とにかく双龍会に至るまでが長いです。しかもかなり退屈だし、キャラも前作と比べると個性が際立っていないですね。小手先の表現力でもってなんとか描き分けしようというのがみえみえで、それがいちいち鼻についたりします。
なんだか大仰な立役者たちが何人か登場しますが、あまり大物感が感じられず、この人そんなに偉いの?と思ってしまいます。まあ、それほど掘り下げられていないから当然ですかね。
で、ようやく待ちに待った双龍会ですが、期待したほどではなく。まったく盛り上がりません。龍師という偉そうな資格?を持っているはずの流など、これで仕事を全うできているのかと疑いたくなるほど無能さを晒したりして、高揚感が少しも味わえません。臨場感もないし、これは最早作者の力量の問題なのではないかと思ってしまいます。
取り敢えず内容に見合った長さとは言いがたいですね。もっとコンパクトにしていいと思います。採点数が少ないのも解る気がしました。


No.725 7点 ぼくのミステリな日常
若竹七海
(2017/03/27 22:00登録)
再読です。
凝った構成の、創元社の伝統を踏襲した連作短編集。と言うか、もはやこれは短編集の枠を超越しているので、トータルで長編とすべきなのかもしれません。或いは変形の作中作か。
それにしても若竹七海がこの路線で本格ミステリを書き続けていたなら、今頃違った意味で人気のミステリ作家の大家になっていたのではないかと思うと、残念でなりません。
各短編はそれぞれ趣が違っており、読んでいて楽しいものではないかもしれませんが、抑揚があっていいんじゃないかと思います。よく注意して読まないと、最後の種明かしには驚かされるばかりです。小さな伏線をかき集めた「編集後記」は圧巻の騙りで、只々なるほどと唸るしかありませんでした。
とにかく本作は個人的に作者の最高傑作で、別格の扱いとなります。
蛇足ですが、ハードカバーの装丁と挿絵は誠に素晴らしい出来で、絵心のない私ですら感心してしまうほどでした。これだけでも1点プラスしたいくらいですが、7点は勿論純粋に作品の評価点ですよ。


No.724 6点 太陽黒点
山田風太郎
(2017/03/23 22:07登録)
かなりの高評価ですが、私はnukkamさんに近い感想を抱きました。最後に真相が明かされるまでは、全く青春小説そのものではないでしょうか。謎解き要素が一向に感じられません。何をどう仕掛けられているのか、それすらも隠ぺいされているため、ミステリとしての体裁が微塵もありません。
やっと終盤も終盤、あと残り何ページかというところでおもむろに事件の全貌が明らかになります。ここに至ってようやく「そうだったのか」と唖然としながら納得する感じですね。しかもその動機はいったい何なのでしょう。いや、気持ちはわかりますが、結局誰でもよかったのか、とならないですかねえ。確かに、「天下泰平、家庭の幸福、それだけじゃつまらない」このセリフが許せないのは、○○を経験した人間にしか理解できないものかも知れません。しかし、それではまるで逆恨みのようなものではありませんか。
観念的な動機・・・つまりはこれも『虚無への供物』に繋がっているのでしょうか。
傑作とは思いません、ですがミステリ分布図があるとすれば、間違いなく特異点に属する奇妙な作品とはいえるかもしれません。


No.723 6点 猫の時間
柄刀一
(2017/03/18 21:59登録)
猫好きのために編まれた短編集には違いありませんが、そこはミステリ作家が書いた作品のこと、日常の謎として広義のミステリと捉えることは決して間違いではないと思います。勿論、ミステリと断言するわけではありません。一般読者の方の多くは文芸作品として読まれると思います、それはそれで問題ないですね。
本作品集は、人間と猫が一生懸命繋がろうとする、触れ合おうとする、心を通わせようとする、そんな心温まる物語の数々です。大げさに言えば、その一つひとつに謎解きの要素が多少なりとも含まれています。
自分は犬派だから関係ないと思っている方もちょっと待っていただきたい、中には忠犬が活躍するお話もありますので、敬遠する必要はありません。
個人的には『ネコの時間』『旅するトパーズ』が好きです。また、ネタバレになりそうなので詳しくは書けませんが、最終話には作者の粋な計らいが見られ、心洗われる気分のまま読み終われると思います。


No.722 6点 衣更月家の一族
深木章子
(2017/03/16 21:42登録)
最初、短編集かと思いました。あれ?でもプロローグから始まっているから、そんなわけないかって具合で最初から躓いた感じでした。
それぞれの事件がそれなりに面白い、特に「楠原家の殺人」の発端となる宝くじの三億円が当選してしまうというくだりが、偶然過ぎるとはいえ、いかにも作り物めいていて逆にこれもアリかと思ってしまいました。作者の遊び心というか、意外な盲点を突かれたような気分ですね。
ただ、探偵の榊原が真相を暴いていくわけですが、どうにもすっきりしないです。そうだったのかっというような、思わず膝を打つみたいな衝撃がないんですよ。よく練られたプロットとトリックだとは思いますが、唸るほどではなかったと言いますか、そんなに上手くいくのかねえ、というのが正直なところです。
ですが、三件の殺人事件の関連性が全く無関係に見えるあたりの作者の手腕は認めざるを得ないでしょうね。


No.721 6点 迫りくる自分
似鳥鶏
(2017/03/10 22:11登録)
タイトルからくるファンタジー感はこの作品とは無縁でした。また、ホラーでもありませんので念のため。
迫りくるのは自分ではなく、○○です。たまたま主人公の本田が自分と同じ顔の男と知り合ったばかりに、とんでもない災厄を経験することになるお話です。とにかく逃げて逃げて逃げまくる、それだけの小説ですので、ややこしい人間関係とか同じ顔の男の背後関係などは完全に端折ってあります。それだけにストレートに面白さが伝わってくるのは確かですね。
少ない登場人物の中でも、私が興味を惹かれたのは佐伯という男で、いわゆるギャップ萌えというやつでしょうか。こんな境遇なのにこんな人なの?という、いい意味での裏切りがいい感じです。
結末も味のある締めくくりで、少なくとも悲劇的ではなく、救いも余韻もあるまあハッピーエンドと言えると思います。ちょっぴり意外性というか、反転もありますし、その意味でも後味は悪くありません。
尚、あとがきも面白いですよ。これだけでも立ち読みしてみるといいんじゃないですかね。


No.720 7点 鳴風荘事件
綾辻行人
(2017/03/07 22:04登録)
再読です。
あとがきに前作のまっとうな続編とあります。本作は前作のような外連味こそありませんが、大変生真面目に描かれているのがよく分かります。あまりの丹念な仕事ぶりにややもすると冗長に感じられるかもしれませんが、決して無駄な描写が目立つというわけではなく、きっちりと伏線が紛れ込ませてあるわけです。
理詰めで真犯人を絞り込んでいく過程は、この作品の真骨頂と言えるでしょう。そこには綾辻の愚直なまでの本格へのこだわりが感じられます。トリックに関しては全然大したことないんですが、それまでも一つの推理するための道具立てとして使い捨てされており、意地とか執念のようなものすら感じます。
個人的には前作のほうが好みですが、こうしたまともなパズラーも悪くありません。真犯人へのアプローチ(結局消去法ですが)も納得、動機にも納得。注意深く読めば必ず犯人が指摘できるように作り上げられた、本格推理の結晶と思います。


No.719 6点 探偵映画
我孫子武丸
(2017/03/03 22:18登録)
再読です。
まあちょっと地味ですね。しかし、映像上での叙述トリックを文章で著すという功妙なテクニックを駆使しているところが新しいとは言えると思います。
監督を失って完成まであとわずかながら締め切りが迫る状況で、助監督三人をはじめスタッフがクランクアップに向けて悪戦苦闘する様が読みどころの中心となっています。また、すべてのキャストが我こそが犯人であると主張し、犯人探しではなく、犯人たる資格探しをするシーンなどは、明らかに推理合戦ですね。ある有名な海外作品を意識していると解説の新保博久は書いていますが、そこまで大げさではありません。
なぜ監督は撮影終盤まで来た段階で失踪したのか、なぜ主人公立原に対して美奈子は突然冷たい態度をとるようになったのか、これらの謎をはらみつつ進行していく物語は、一種の青春群像劇とも呼べるような、爽やかな印象を残す異色作だと思います。


No.718 4点 猿島館の殺人~モンキー・パズル~
折原一
(2017/03/01 22:05登録)
再読です。
最近面白そうな新刊がないなあと思いながら、何気なく本棚から引っ張り出してしまった一冊です。しかし、読み返す価値はなかったと言うしかありませんでした。
内容は全く忘れていたので、初読と変わらないにもかかわらず、あまりにも面白くなかった、折原一、こんな作家だったのか?残念です。
一応体裁は本格ミステリ、或いはユーモアミステリの形を取っていますが、正直バカミス以下の取るに足らない作品にしか、私には感じられません。連続殺人事件には違いありませんが、まあ何と言いますか、つぎはぎだらけでストーリーの流れというものが全く見受けられませんし。
「どくしゃへの挑戦」や古の海外ミステリなどのガジェットは、お遊び程度にしか思えず、また大して重要なポイントになっているわけでもありません。黒星警部は動物園から脱走したチンパンジーが犯人だと、本気で信じている様子だし、当然のごとく解決を担うのは一人しかいないことになります。その辺りの完全予定調和感もやや辟易してしまいます。


【ネタバレ】


やはり連続殺人事件というのは、単独犯に限りますね。4人もの死者を出しながら、いずれも違う人物による、殺意のない事故のようなものという真相は脱力ものですね。


No.717 7点 たけまる文庫 謎の巻
我孫子武丸
(2017/02/26 22:03登録)
みなさん、かなり点数高いですね。まあしかし、確かに高水準の短編が揃った感はあります。本格ミステリからSFっぽいもの、ホラーなど、我孫子武丸の力量を測るのには最適の短編集と言えそうです。
個人的に気になるのは、やはり速水三兄妹が久しぶりに読めた『裏庭の死体』。裏庭に埋められた、寝袋に収まり頭に玄関マットが乗った死体の謎を、兄妹が例のごとく掛け合いながら解決に導いていくという、お馴染みのパターンを踏襲した作品です。寝袋はともかく、玄関マットの発想はなかなか面白いです。
『夜のヒッチハイカー』『青い鳥を探せ』も佳作だと思います。
『夜のヒッチハイカー』はどこか既視感があるものの、一捻り加えてあるところが憎いですね。ヒッチハイクする側、される側両者の思惑が絡み合って生まれるサスペンスは、印象深いものがあります。
『青い鳥を探せ』は自分の出社から帰宅までを一週間に亘って調査してほしいという奇妙な依頼を受ける探偵の物語。途中から何となく先が読めてしまいますが、かなりの異色作ではあると思います。しかし、この依頼自体の必然性があまり感じられないのがやや残念です。そんな回りくどいことをする必要があったのだろうかという、ふとした疑問がわだかまります。私の読み込みが浅いんでしょうかね。


No.716 5点 複雑系ミステリを読む
評論・エッセイ
(2017/02/24 22:08登録)
冒頭で著者の野崎六助氏は複雑系ミステリをこう断定しています。
複雑に見えるほど単純
複雑に見えるけど単純
まるで禅問答のようですが。つまり複雑=単純ということのようです。全編を通しても頭の弱い私には理解しきれませんでしたが、とにかくそういう事のようです。
そして何を基準に選んだのか判然としませんが、複雑系として次のようなミステリを挙げて解説を加えています。
『占星術殺人事件』『すべてがFになる』『レベル7』『殺人鬼』『生者と死者』『哲学者の密室』『消失!』『密閉教室』『姑獲鳥の夏』『僕の殺人』『思いがけないアンコール』『人格転移の殺人』『リング』『暗色コメディ』『匣の中の失楽』などです。
どれも本質を衝いているようにも思えますが、なにしろ迂遠な言い回しや比喩的表現が多く、完全に納得できるというには程遠い結果になりました。
しかし、意外にも『占星術殺人事件』を褒め称えていたり、『姑獲鳥の夏』に関して京極堂、関口、榎木津、木場四兄弟説を唱えたり、『匣の中の失楽』と『殺人鬼』の相似性を指摘するなど、面白い論点もいくつかありました。
最終的には村上春樹の『アンダーグラウンド』を引き合いに出しながら、オウム真理教事件、M君事件、酒鬼薔薇聖斗事件などを熱く語っています、暴走しています。それと共にエヴァも・・・。
結局何が言いたいのか、迷子になりそうな私は、これらの事件はミステリに影響を受けたのではないという結論に達しました。
何だかんだで、複雑系だったのは本書の著者である野崎氏の頭の中だったようです。

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