メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1395 | 6点 | 踊り子の死 ジル・マゴーン |
(2022/01/09 22:54登録) 寄宿学校での舞踏会の夜、副校長の妻が殺された。暴行された形跡があったと聞いた教師たちは、一様に驚きを見せた。男と見れば誰彼構わぬ彼女の色情狂ぶりは、学校の悩みの種だったのだ。では、レイプ目的の犯行ではありえないのか? ならば、動機は?すべてが見せかけにすぎないとしたら、その夜、本当は何が起きたのか? Amazon内容紹介より。 精神的に不安定な状態で読みましたので、細かい点まで読み切れているかどうか分かりません。それにしても、全体の半分位を占めるロマンス要素は必要だったのでしょうか。取って付けた様な印象がどうしても拭えません。ほんのアクセント程度ならまだしも、肝心の殺人事件の捜査をそっちのけで恋愛沙汰の描写は如何なものかと。どうも海外の作品は印税欲しさなのか知りませんが、話を無駄に長くし過ぎるきらいがありますね。上下巻も国内に比べると非常に多いですし。 まあそんな事はどうでも良いですが、殺人事件の検死や事情聴取などを見る限り、結構よく書けていると思えるだけに、それを御座なりにしてしまっているのは返す返すも残念です。よって、解決編が唐突に出現してしまうように感じられる訳です。真相に関しては最後まで犯人像を読者に掴ませず、よく辛抱して仕上げたとは思います。 色々惜しい作品との印象を受けました。文章は何ら問題なくむしろ達者な方だと感じました。ただ多視点なのとプロットに難がありそうで、個人的にはなんとなくスッキリしませんでした。 |
No.1394 | 6点 | 無気力探偵 面倒な事件、お断り 楠谷佑 |
(2022/01/06 23:02登録) 高2の霧島智鶴はどんな難題も解決できる天才だが、最大の欠点は究極に無気力なこと。そろそろ進路も考えねばならず、労力を使わず頭脳だけで稼げる仕事はないか?と考える日々。そんな彼のもとに、失敗で現場捜査を外された落ちこぼれ刑事や同級生の揚羽、柚季らが次々と事件を持ち込む。ダイイングメッセージの謎、誘拐、脱出ゲームでの事故などに挑み…?やがて彼の隠された過去が明らかになり―。 『BOOK』データベースより。 全体的に小粒な感は否定できません。それでも読者を飽きさせない様に目先を変え、ダイイングメッセージ、密室、誘拐などをテーマにし、ロジックに特化したフーダニット主体の連作短編集。個人的には第三話(第三章)の『限りなく無意味に近い誘拐』が一番のお気に入り。ちょっと吃驚しました、情けないことに。読む人が読めばすぐに真相は想像が付くかもしれませんけど、私は見事に騙されました。 主人公で探偵役の高校生桐島千鶴はタイトルの様に無気力ではない様に見受けられます。積極的に事件に関わろうとはしませんが、かと言って面倒がって嫌々探偵する訳ではなく、似たようなキャラの裏染天馬よりはやる気があると思います。 若干ラノベ要素も含まれています。しかし、あとがきでクイーンが好きと書いているように、論理で攻めるやや地味目の本格ミステリであるのは間違いないでしょう。決して悪くはないと思います、もっと世間に知れても良いのではないかな。 |
No.1393 | 7点 | 愚者(あほ)が出てくる、城塞(おしろ)が見える ジャン=パトリック・マンシェット |
(2022/01/03 22:27登録) 精神を病み入院していたジュリーは、企業家アルトグに雇われ、彼の甥であるペテールの世話係となる。しかし凶悪な4人組のギャングにペテールともども誘拐されてしまう。ふたりはギャングのアジトから命からがら脱出。殺人と破壊の限りを尽くす、逃亡と追跡劇が始まる。 『BOOK』データベースより。 正直、訳者あとがきにあるような、こんなすごい作品がこの世にあったのかというほどの傑作とは思いません。それでも、キャラが立っているのが良いですね。アルトグや悪役達はアクが強く一癖ある連中ばかりで、それをクールに描いているのがいかにも暗黒小説といった雰囲気を醸し出しています。そしてジュリーとペテールの二人は反目し合いながらも、どこか気持ちが通じていると思わせる辺り上手いなと。直截的な描写はなくても行間に滲み出ている感じがします。 何となく読んでしまうと飽き足らない思いがするかも知れませんが、よくよく読んでみるとなかなか良く描かれているし、計算されている作品だと云う気がします。ストーリー自体は至ってシンプルですが、その中にも一捻りしてあり、乾いた暴力や殺戮がぴったりとフィットしています。 |
No.1392 | 7点 | メルカトル悪人狩り 麻耶雄嵩 |
(2022/01/01 23:00登録) 悪徳銘探偵メルカトル鮎に持ち込まれた「命を狙われているかもしれない」という有名作家からの調査依頼。“殺人へのカウントダウン”を匂わせるように毎日届く謎のトランプが意味するものとは? 助手の作家、美袋三条との推理が冴えわたる「メルカトル・ナイト」をはじめ、不可解な殺人事件を独自の論理で切り崩す「メルカトル式捜査法」など、驚愕の結末が待ち受ける傑作短篇集! Amazon内容紹介より。 これは言わばメルカトルファンのための一冊ではないかと思います。彼にしか解決できない事件、彼ならではの推理法、偶然をも必然に変えてしまう銘探偵の宿命などを楽しめばそれで良いのではないかと。確かにメルカトル鮎が見ている世界が我々凡人には見えないのかも知れません、だからと言って本シリーズを突き放してしまうのは、如何にも勿体ない気がします。 個人的に好きなのは想像の斜め上を行く反転が味わえる『メルカトル・ナイト』、シンプルながらよく考えられている上に解り易い『愛護精神』が好きです。『水曜日と金曜日が嫌い』は『7人の名探偵』で既読であったにもかかわらず、初出一覧を見るまで気付かなかった自分の記憶力の無さにつくづく嫌気が差した作品。でも意外と面白かったですよ、残念な事に。こんなのを忘れているとは麻耶ファン失格ですね。 まあしかし、得体の知れない怪人メルカトル鮎の人間らしいところがささやか乍ら見え隠れしている、好編が揃った作品集だと思います。最後の『メルカトル式操作法』はメルの疲れ切った姿が見れてラッキーでしたし。どちらかと言えば読者を選ぶ一冊でしょうが、シリーズ入門編としては格好の短編集ではないでしょうか。しかし、美袋君も並みの人物じゃないなあ。 |
No.1391 | 6点 | 書楼弔堂 炎昼 京極夏彦 |
(2021/12/30 23:21登録) 明治三十年代初頭。人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた女学生の塔子は、道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは幻の書店を探していて―。迷える人々を導く書舗、書楼弔堂。田山花袋、平塚らいてう、乃木希典など、後の世に名を残す人々は、出会った本の中に何を見出すのか?移ろいゆく時代を生きる人々の姿、文化模様を浮かび上がらせる、シリーズ待望の第二弾! 『BOOK』データベースより。 力強い言葉、優しい言葉、そしてそれらを組み合わせ繋ぐ文章の、なんと素晴らしい事か。そこはかとなく漂う香気すら感じさせる筆力は見事の一言に尽きます。並みの作家が書いたならこんな作品にはならなかったと思います。逆に言えばそれだけ内容は人の心の中に踏み込んではいるものの、決して派手なものでは無いという事になります。 前作同様明治の苦悩を抱えた偉人、著名人が次々と風景の中に紛れ込んでうっかりすると見逃してしまいそうな灯台に似た書楼弔堂に訪れ、其処の主人と対峙します。今回の語り手は現実から逃避したい女学生の塔子の連作短編集。遂に明かされる書楼の主人の名前、どこかしら京極堂を彷彿とさせるこの人物の一言一言の重みは恐ろしい程の凄みがあり、ラストの長広舌は正に読み応え十分で、色々考えさせられるものがありました。 点数は6点ですが、気持ちは7点です。私が文学に通じていればもっと評価は高かったかも知れませんね。 |
No.1390 | 7点 | ブルーローズは眠らない 市川憂人 |
(2021/12/26 22:49登録) ジェリーフィッシュ事件後、閑職に回されたフラッグスタッフ署の刑事・マリアと漣。ふたりは不可能と言われた青いバラを同時期に作出したという、テニエル博士とクリーヴランド牧師を捜査することに。ところが両者と面談したのち、施錠されバラの蔓が壁と窓を覆った密室状態の温室の中で、切断された首が見つかり…。『ジェリーフィッシュは凍らない』に続くシリーズ第二弾! 『BOOK』データベースより。 本作は構成の妙の勝利でしょうね。薔薇の密室の中で発見された首と拘束された被害者の助手。この事件には多分に奇妙な要素があり、非常に惹き付けられる魅力を有しています。その後見つかる他の場所に埋められた首なし死体、謎又謎にトリック云々よりもどうしてこんな事になってしまったのかが気になって仕方ありません。犯人の狙いは一体どこにあるのか、動機は?二人が完成させた青い薔薇はどう関係しているのかなど、頭の中に?が一杯になりそうなところに、またしても新たなる殺人事件が起こり、何が何だか分からないまま読み進める事になりました。それは悪い意味ではなく、パズラーとしての妙味が存分に味わえる訳なのです。 ただ個人的に動機が弱い、と云うか何故そんな事をと思ってしまいました。その意味でやや残念な気持ちはあります。それでもよくこんな事を考え付いたものだと感心することしきりです。新本格を意識したのかも知れませんが、それよりも正統派の本格ミステリと呼んだ方が適当だと思います。うーん、でも真相は正統派とは呼べないですかね、相当ぶっ飛んでますから。 |
No.1389 | 5点 | 麻雀幻想曲 ルーンの秘宝 逢瀬藍 |
(2021/12/23 22:55登録) 突然の侵攻に王国を追われた、オルトリープ姫と騎士クリス。わがまま勝手なお姫さまの行動に右往左往しながらも、ルーンの秘宝と理想郷を求める苦難の旅がはじまった。迫りくる敵軍とのバトル・モードは魔法マージャン。勝てば極楽、負ければ凌辱!!妖しくエッチたっぷりな冒険ステージをこなし、新しい仲間を加えながら、一行はまぼろしの都をめざす。愛と勇気と官能にいろどられたエンタテインメント小説の超傑作、ここに完成。 『BOOK』データベースより。 偉そうなタイトルから、志村裕次原作の麻雀劇画の様なファンタジー要素を含んだ娯楽作かと勝手に想像していたら、全然違いました。ストーリーは上記にある通り。しかしそれは有って無い様なもので、言ってみれば最早ライトな官能小説の如き代物であります。 旅の途中で出会った敵と何故か麻雀バトルをして、その度に仲間が増え秘宝を求めて更なる旅を続けるのですが、ほぼその相手が美女で勝負の後にお約束の折檻が待っているというワンパターン。その描写がエロ過ぎて苦手な人、特に女性は放り投げたくなるかもしれません。 肝心の闘牌シーンはショボいので、全く期待できません。和了までの経緯さえ描かれず、いきなり「ロン」で終わり、役名さえ明かされなかったりします。ただ相手のクセや性格を捨て牌から読んで和了るのみ。これは到底納得いきません。 一々挟まれるイラストは、『エヴァンゲリヲン』の惣流・アスカ・ラングレーをちょっと下手にしたようなお顔ばかりでありますが、興奮を煽ります。まあ、何も考えずにいやらしい妄想を膨らませながら読むしかないですね。 |
No.1388 | 6点 | パイルドライバー 長崎尚志 |
(2021/12/22 22:57登録) 神奈川県の閑静な住宅街で起きた一家惨殺事件。奇しくも、15年前に同様の未解決事件があった。イマドキの刑事・中戸川俊介が現場に向かうと、長身痩躯の老年の男が現れた。彼―久井重吾は現役時代に“パイルドライバー”の異名を持つ伝説の元刑事で、15年前の事件を捜査していた。アドバイザーとなった久井と共に俊介は捜査を開始するが、直後、新たな殺人が…。同一犯の犯行なのか?予測不能の新警察ミステリー! 『BOOK』データベースより。 かなり複雑な構造になっているし、警察関係者が多すぎて消化不良気味でした。久井と中戸川の二人の主人公はともかく、それ以外は布勢が辛うじて目立つくらいで他は没個性で誰が誰だか分からない感じでしたね。序盤は15年前の未解決事件とその摸倣犯罪に見られる事件でとても興味を惹かれ、物語に入り込むことが出来ましたが、中盤ややダレて私の望んでいない方向へ向かっているようで、危惧を感じました。しかし、ラストで真相が語られる件に関しては予想外の展開に驚きを隠せませんでしたね。 全般的に惹きつけられる面と退屈な面を持ち合わせており、何とも微妙な読後感となりました。結局最初から最後まで久井の人間性や個性で引っ張っている印象で、彼が居なければこの警察小説の魅力が半減したのは間違いないと思います。 後から考えると、事件そのものよりもその背後関係に重きを置いている感じもありました。それともう少し読者を混乱させないように斟酌するような配慮が欲しかったとも思います。もう一つ言えば、タイトルで損をしている気はします。どうしてもプロレスの関連する話かと思われてしまいそうで。 |
No.1387 | 7点 | 超老伝 カポエラをする人 中島らも |
(2021/12/19 23:26登録) わしが菅原法斎じゃ。かれこれ十六年前に発狂してから、この道ひとすじでキメておる。趣味はカポエラじゃ。今のところまだ負けたことはない。なにせ珍しい格闘技なので誰もやっとらんのだよ。こんど、うちに住み込んでおる世界一の大男ミゲールにかわって「格闘技世界一決定戦」に出場することにしたんで、せいぜい大暴れしようと思っとる。待っとれよ、宿敵ダラ・シン。―類稀なる傑作瘋癲老人奮戦記。 『BOOK』データベースより。 楽しい、面白い、笑える、痛快、為になる小説を読みたい人にお薦め。菅原法斎78歳はブラジル発祥の格闘技カポエラの達人で、自ら瘋癲と名乗る老人です。しかし、読めば分かりますが、作中にあるような○気では全然なく、普通の矍鑠とした爺さんで、やたら強くなかなかの論客です。ただ、時々変な言葉を口走ったり何か勘違いしているところがあるくらいですよ。 物語はこの老人を打ちのめしてやろうとする、様々な敵と対決していくものです。もっと派手なバトル系の話かと思っていたら、色々趣向を変えて誰でも説得してしまう相手やオカルト詐欺親父らとの対戦を繰り広げます。 そして最強の敵プロレスラー、タイガー・バーム・シンの長兄で身長2メートル越えのカラリパヤットの達人が現れ、その後格闘技世界一決定戦が開催されることに。果たして歴戦の勇者達が居並ぶ戦いで法斎を師事するミーゲルはシンに勝つことが出来るのか。 結末は書きませんが、個人的には非常に微妙でしたね。ここでもう少しカタルシスが得られれば、8点でも良かったかなと思う位の素晴らしい作品でした。流石らも、こんなんも書いていたのね。 |
No.1386 | 7点 | 小説スパイラル 推理の絆4 幸福の終わり、終わりの幸福 城平京 |
(2021/12/17 23:05登録) 小日向くるみは鳴海清隆との推理対決に勝てずじまい。そこに羽丘まどかや清隆の弟・歩の想いもからまり、新たな事件へ!折り紙と競馬による鉄壁のアリバイを崩しにかかるくるみだが、思いもよらない難題にぶつかり、歩のサポートを得ることに…。歩の推理は?くるみの勝敗は?そして清隆が最後にみせる切り札とは?ガンガンNET掲載の前哨戦二編も収録し、「スパイラル」外伝、ここに完結。 『BOOK』データベースより。 短編二作、特に『近況報告』は頭部四肢を切断された死体の胃の中から電話番号が書かれた紙片が発見されるという、なかなかの謎めいた滑り出しですが、意外とあっさり解決してしまう、ちょっと残念な作品です。もう少し引っ張ってもいいのにと思わないでもありません。 そして外伝最後の作品は三人の探偵が激突する魅惑的な内容。警視庁捜査一課の名探偵と言われる鳴海清隆、鳴海の弟で本編で探偵役として活躍してきた歩12歳、清隆と婚約するように祖父からゴリ押しされて、それに必死に抵抗して推理合戦に勝とうと躍起な16歳のお嬢様くるみ。果たして彼らの勝負の行方とは?というとても楽しみな謎解き合戦が繰り広げられます。 シリーズの終幕としては、アリバイ崩しをロジックで攻めまくるというちょっと地味な展開ではありますが、それなりに読み応えはあります。要するに手品の種明かし的な印象で、やや拍子抜けの感は否めませんが、意外な盲点を突いてきてなるほどと納得。 三人の対決は結局誰が最も優れていたのかとの命題よりも、それぞれの個性を発揮して丁度良い具合に収束させて、これで良かったんだなと思える結末ではありました。 |
No.1385 | 8点 | 死にたい夜にかぎって 爪切男 |
(2021/12/15 23:33登録) 「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」―憧れのクラスメイトに指摘された少年は、その日を境にうまく笑えなくなった。“悲劇のようで喜劇な人生”を切なくもユーモア溢れる筆致で綴る作家・爪切男のデビュー作。出会い系サイトに生きる車椅子の女、カルト宗教を信仰する女、新宿で唾を売る女etc.幼くして母に捨てられた少年は、さまざまな女性たちとの出会いを通じ、少しずつ笑顔を取り戻していく。 『BOOK』データベースより。 すみません、ミステリではありません。しかし女はいつの時代もミステリーという事でお許し願いたい。尚これに対して異議申し立てのある方は、掲示板にてお願いします。 さて本作はリビドーと下ネタ満載の、恋愛小説の問題作です。ですが、エロくはありません。それでも生々しいのが何とも言えない魅力です。どうやら私小説らしいのですが、完全なノンフィクションではないと思います。これが実際の起こったとしたら余りにも波乱万丈過ぎますからね。ちなみに堀ちえみ、神谷沙織、岩崎恭子、松任谷由実、ポール・マッカートニー、江戸川乱歩、本田美奈子、大仁田厚ら多彩な顔触れの名前が出てきます。一体どのような描写が成されているのかは、ここでは書けません。更に、本サイトで必ず禁止ワードであろう単語も平然と現れます。 まあそれにしても、主人公の「私」(最後まで名前が公表されていません)は、冴えない男の様であって、女心だけは分かっているイケてる奴です。格好良くなくても女心が理解できる男はモテますからね。出会いと別れを繰り返す主人公には共感出来なくても、気持ちは痛いほど分かります。又、所々で心に突き刺さるフレーズが出てきたりして、凄まじい筆力を備えた人だと思いました。サッと読んでしまえば案外こんなものかとなるかも知れませんが、おそらく二回読めばその良さが分かると思います。正直、中身が濃すぎていまだに自分の中で消化し切れていない部分がある気がしています。その分何度も読み返せて、その度にクスッと笑えて切なくなる作品ではないかと感じます。 |
No.1384 | 7点 | 恐怖の誕生パーティー ウィリアム・カッツ |
(2021/12/13 23:01登録) 前半、サマンサが夫のマーティが何者かを探る段階を踏みすぎていて、やや長すぎるきらいがあるのと、それと並行して語られる警察が毎年12月5日に鳶色の髪の女を殺すシリアルキラーの捜査の描写が淡白でアンバランスな気がしました。それ以外は申し分のないサスペンスフルな傑作だと思います。特にサマンサの心理描写はよく書けており、一人で夫の正体を見極めようと奮闘する姿は痛々しい程でした。 そしてやはりエピローグが良いです。ネタバレになりそうなので詳しくは書けませんが、私は開いた口が塞がらない状態でしたね。勿論、そこに至るまでの徐々に盛り上げていく文章力と構成の上手さも読みどころではあると思います。 その後どうなったか知りませんが、あの傑作『ジョーズ』の二人の名プロデューサー、ザナックとブラウンが映画化権を買ったとの事なので、作品の出来は推して知るべしでしょう。 |
No.1383 | 5点 | 狂乱家族日記 伍さつめ 日日日 |
(2021/12/10 22:59登録) 不可思議な結末を迎えた「半獣化事件」は、超常現象対策局局長となった平塚雷蝶の謎めいた言葉「来るべき災厄」と共に、凰火の危機感を否が応にも高めたのだが、そんな凰火の不安など毛ほども気にせず、凶華様は、能天気に「動物園に行きたいのだが」と宣うのだった。しかし、動物園で久々の休日を楽しむ乱崎家が帝架の同胞マダラと出会ったとき、すでに次なる危機は目前に迫っていたのだ―。馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語ついに佳境に突入。 『BOOK』データベースより。 今回は乱崎家の一員である百獣の王帝架とその幼馴染みであり、動物園で飼育されているライオンのマダラの物語を中心とした、小ネタ集的作品です。そしてあとがきにもあるように、前後編の前編という立ち位置となっています。ですので、後半敵か味方か分からない平塚雷蝶や死んだと思われていたDr.ゲボックが登場してさあこれからというところで終わっていて、次巻に期待させはするものの、本書としてはこの程度の評価にならざるを得ません。 ラノベとしてのぶっ飛び具合は相変わらずですが、家族愛という点に於いてこれまでよりも描かれていない為、全体の印象としては今一歩と感じてしまいます。しかし、次に繋げるための序奏としては盛り上がりに若干欠けるけれど、その役割を十分果たしているのではないかと思います。 |
No.1382 | 5点 | 雪花嫁の殺人 阿井渉介 |
(2021/12/08 23:02登録) 底知れぬ哀しみを抱く白無垢姿の殺人者 警察をも牛耳る政界の黒幕、壬生一族が次々と無残に殺されてゆく。 警察をも牛耳る政界の黒幕、壬生興之介。その息子で乱行を重ねる道安が殺された。雪の凶行現場には白無垢姿の「花嫁」がいた!私兵を用いて報復を図る興之介を嘲(あざけ)るように起こる第2、第3の犯行。美しき殺人者の向こうに浮かびあがる、6年前の悲惨な出来事とは?警視庁捜査一課シリーズ、渾身の第3弾。 Amazon内容紹介より。 可もなく不可もなくと云った感じですかね。足跡のない雪密室や、雪に足跡だけ残して去って行く影など魅力的な謎がてんこ盛りです。果たしてとんでもないトリックが待っているのか、それとも肩透かしを喰らうのか、微妙な心持で読み進めました。結局、第一の事件は×××だからアウトだし、他の不可能犯罪やアリバイトリックもショボいもので、やはりなと諦観の気持ちが強かったですね。正直、不可能性よりも不可解さが先立ってしまって、所詮大トリックなど期待できないだろうとどこかで思っていた部分があるせいでしょうね。 まあしかし、酒と博打大好きな刑事菱谷が魅力的だし、何より堀と菱谷の娘葉子の恋の行方が気になって気になって。個人的にはそちらの方が何だか読みどころみたいな感触でした。解説を読むと列車シリーズのスケールの大きな不可能犯罪のトリックが是非とも知りたくなりました。でも読まないかも知れませんけど。 |
No.1381 | 7点 | ≠の殺人 石崎幸二 |
(2021/12/05 23:13登録) 沖縄本島沖の孤島―水波照島にあるヒラモリ電器の保養所で開かれたクリスマスパーティー。大手企業の御曹司・平森英一が主催するとあって、会には有名スポーツ選手や俳優などの豪華な招待客が名を連ねていた。そんな宴の夜、惨劇が!人気プロ野球選手、井沢健司が無残な死体となり発見されたのだ。その後、連鎖し起こる不可能殺人。事件の背後にある深い闇に迫る。絶海の孤島に住む双子の姉妹、断崖の上の怪しげな建造物、連続殺人事件勃発率99.9…%。オヤジギャグを愛す女子高生コンビ(ミリア&ユリ)が難事件に挑む。 『BOOK』データベースより。 こんなんで良いんだよ、いやこんなんが良いんだよ。まさに私の好みにジャストミート、でした。 名探偵?石崎とミリア&ユリ+仁美の女子高生トリオのボケとツッコミのテンポの良さは相変わらずです。そんな中招待された孤島で、雰囲気にそぐわない惨劇が起こります。被害者に対する冒瀆的な行いと部屋の中に残された謎の痕跡。その魅力的過ぎる惨状のホワイに四人の探偵たちが挑みます。とことん何故その行為が行われたのかに拘った、ホワイダニットの佳作だと思います。 お笑いが先行する作風とは正反対の陰惨な事件。そのアンバランスさが何とも言えない独特な雰囲気を醸し出しているというか、漫才カルテットの軽さが事件の悲惨さを相殺させています。で結局いい塩梅の本格ミステリっぽく、図らずも仕上がった感じがします。取り敢えずこれまで読んだシリーズで最高の出来でした。真相の意外性や伏線の張り方などは堂に入っており、いやはやひどく感心させられました。 |
No.1380 | 4点 | 罪の声 塩田武士 |
(2021/12/03 22:33登録) 京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼いころの自分の声が。それは日本を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、この未解決事件を追い始め―。圧倒的リアリティで衝撃の「真実」を捉えた傑作。 『BOOK』データベースより。 昭和のあのグリコ森永事件という大事件を題材にした大作とあって、さぞかし骨太でサスペンスフルな傑作だと思っていたら、大きく裏切られました。何が原因なのかと考えてみましたが、結局やはり文章ではないかとの結論に達しました。其処でそういう言い回し或いは言葉を持ってくるのかというチョイスに対する違和感や、中途半端な関西弁、ストーリーに沿った文脈がスムースに出来ていない事、余分な描写が目立つ点、人間が描けていないなど各所に欠陥が見られます。要するに文章に魂が篭っていないのではないかと感じた訳です。結果、主人公の二人以外誰が誰だか分からなかったり、情景が浮かんで来なかったり、いつの間にか舞台が変わっていると思ってしまったりの連続で、読み切るのがやっとでした。私だけかと思ってAmazonのレビューを見たら、目に付くだけで二人が途中で挫折していました。自分ばかりが異端だった訳ではないようで、少し安心しました。 まあそういう事で、話が一向に盛り上がりません。やや興味を惹かれたのは実際の事件での、実行犯と警察との対決シーンくらいで、それ以外のフィクション部分にはほぼ魅力を感じませんでした。畢竟作者と評者の相性が悪かったとしか言いようがありません。無理やり5点付けようかとも思いましたが、自分に正直にこの点数にしました。 |
No.1379 | 6点 | 白墨人形 C・J・チューダー |
(2021/11/30 22:58登録) スティーヴン・キング強力推薦! 少年時代の美しい思い出と、そこに隠された忌まわしい秘密。 最終ページに待ち受けるおそるべき真相。 世界36か国で刊行決定、叙情とたくらみに満ちた新鋭の傑作サスペンス。 あの日、僕たちが見つけた死体。そのはじまりは何だったのか。僕たちにもわからない。みんなで遊園地に出かけ、悲惨な事故を目撃したときか。白墨のように真っ白なハローラン先生が町にやってきたときか。それとも僕たちがチョークで描いた人形の絵で秘密のやりとりをはじめたときか――。 Amazon内容紹介より。 ホラー寄りのミステリともミステリ寄りのホラーとも言える微妙な作品。キングが推薦しているようですが、確かに作風は似ているかも知れません。特に読んでいませんが『スタンドバイミー』辺りか。 さて本作、やたら事件事故が起き過ぎて、内容がとっ散らかった印象が否めません。私にはどこに焦点を置いて読んで良いのか正直分かりませんでした。途中でそれまでの経緯を整理するとか、もう少し工夫して読者に理解しやすくした方が親しみが持てたのではないかと思います。 しかし、よくよく考えてみると様々な事件はそれぞれ解明されているし、怪奇色はあるもののミステリとしてちゃんと成立してはいます。残念なのはその真相を纏めて最後に披露するべきではなかったかという点です。本格ミステリの手法を倣って。そうすればホラーではなくミステリとしてもっと評価されたでしょう。個人的には何故か以前から気になっていた本だったので読めて良かったですが、なんだかスッキリしない曖昧さが残りました。ラストのオチはなかなかだと思います。 |
No.1378 | 7点 | 半落ち 横山秀夫 |
(2021/11/26 22:50登録) 「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは―。日本中が震えた、ベストセラー作家の代表作。 『BOOK』データベースより。 構成は凝っているものの、基本的に単純なストーリーです。現職警察官が妻を殺害したと自首してきたが、空白の二日間に一体どこで何をしていたのかという謎が残る。その謎を、刑事、検察官、新聞記者、弁護士、裁判官、看守がそれぞれの立場から追うという物語。 たった一つの謎で、ここまでの長編に仕上げる手腕は流石だと思います。これは一種の群像劇とも言えそうです。先に挙げた6人の仕事現場の実情や生活がさり気なく語られると共に、それぞれの個性も確りと浮き彫りにされています。 所謂半落ちの状態で裁判を迎え、最後の最後まで空白の二日間に何が起こったのか読者に悟らせません。そしてラスト数頁で漸く真実が語られる時、なぜか私の頬を伝う一粒の涙をどうする事も出来ませんでした。何とも言いようのない読後感と世の無常と一握りの希望を残す結末が印象的です。 |
No.1377 | 9点 | 硝子の塔の殺人 知念実希人 |
(2021/11/23 22:56登録) 雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。 地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。 ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、 刑事、霊能力者、小説家、料理人など、 一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。 この館で次々と惨劇が起こる。 館の主人が毒殺され、 ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。 さらに、血文字で記された十三年前の事件……。 謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。 散りばめられた伏線、読者への挑戦状、 圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。 著者初の本格ミステリ長編、大本命! Amazon内容紹介より。 帯の言葉。島田は褒め過ぎ、かと思いきやあながちそうでもなかった。綾辻の気持ちはよーく理解できる。私の感想に最も近いのは竹本健治です。 そもそもこの人はガチガチの本格ミステリを書かない、書けない?人だと思っていましたが、とんでもない、恐れ入りました。兎に角本格愛に満ち溢れた、知念渾身の一冊。個人的にはもっともっとマニアックにしても良かったと思えるくらいです。しかしそうすると、一般読者に受け入れられない可能性もあるので、これくらいで良かったのかも知れませんが。まあ、欠点らしき欠点はまず見当たりませんね。 それにしても大トリックもないのに、これ程の傑作を生みだすとは・・・。伏線は勿論、ほんの些細な出来事や過去の事件全てが解決に繋がっていて、最初から最後まで目を離せません。僅かな予断も許さず、少しの妥協もない究極まで拘り抜いた、新本格の総括と言っても過言ではないこの作品。 本年の『このミス』『本ミス』『文春ミス』の上位に食い込むのは間違いないと思います。でなければ嘘ですよ。 今こそこの言葉を声を大にして言いたい。「日本のミステリは世界一だ、日本人なら日本のミステリを読め!でも世界に目を向けるのも必要だと思います」。 |
No.1376 | 5点 | ロウフィールド館の惨劇 ルース・レンデル |
(2021/11/20 23:08登録) ユーニスは怯えていた。自分の秘密が暴露されることを。ついにその秘密があばかれたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転をはじめた! 犯罪者の異常な心理を描く名手、レンデルの会心作。 Amazon内容紹介より。 久しぶりにストレスに悩まされる読書でした。兎に角文章が下手。原文も原文なら翻訳も翻訳ですよ。30年以上前の作品だから仕方ないかあ、とはならないですね、私の場合。 登場人物も主要なキャスト以外誰が誰だか分からない始末です。ただユーニスの非人間性だけはある程度浮き彫りになっていると思います。 冒頭で犯人が明らかになっている以上、興味は当然犯人がどういった経緯で犯行に及んだかに尽きると思うのですが、その変容ぶりがほとんど語られていないのが特に気になりました。ユーニスの秘密が暴かれるのは、どう考えても時間の問題なのに、当人は死ぬまでそれを隠し通せるとでも思っていたのでしょうか。その辺りも疑問に思います。 意外だったのは、悲劇が起こって終わりかと想像していたのが、そこから警察が捜査に乗り出したことでした。しかし、最初に疑われるはずの人物が早々に容疑から外れたのは、一体どうしたことでしょう。実際そのような事はあり得ないはず。警視正とあろう者がボンクラで、あらぬ方向へ捜査が進んでしまうのはかなり滑稽でしたね。 とまあ、私の評価はこんなものですが、みなさんは私を信じないほうが良いかも知れません。何しろ世評が高いようですからね。 |