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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1655 7点 友が消えた夏
門前典之
(2023/07/17 22:28登録)
断崖絶壁の館に並んだ首なし白骨死体!
「まさか!」のつるべ打ちに驚愕必至
三冊分のトリックが詰めこまれた奇想の本格推理!
Amazon内容紹介より。

このプロットは・・・折原一を彷彿とさせる構成ですねえ。しかもこちらは本格ミステリとサスペンスのハイブリッドと来ている。面白くない訳がありません。と言いたいところですが、本筋の鶴扇閣の殺人事件の方の序盤がイマイチ楽しくないです。若者達のやり取りがさり気なさ過ぎて、何ら事件の前触れが感じられなくて、一体どうしたらこの後陰惨な事件に発展するのだろうという気掛かりしかありません。一方、タクシー拉致事件の方も、最初こそハラハラさせられますが、その後延々拉致された仕事へ向かうはずの三十過ぎの女は、過去を回想するばかりで、なかなか進展しません。

一応蜘蛛手シリーズなので、探偵役として出ては来ますが、一点を除いて彼が探偵である必要性が感じられないのが残念。それでも、トリックは意表を突くもので、まあ密室はおまけとしても、事件の全容は思っても見なかった様相を呈して来ます。動機は・・・分かった様で分からない様な微妙なエンディング。いや、そんな事より、これ続編があるんでしょうねえ。なかったら怒りますよ。


No.1654 8点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/07/15 22:41登録)
 大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。
 女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、そのうちの一人とは子供までつくっていた。
それが僕だ。

 宮内の死後、彼の長男から僕に連絡が入る。
「親父は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を死ぬ間際に書いていたらしい。遺作として出版したいが、原稿が見つからない。なにか知らないか」
Amazon内容紹介より。

ラノベを多く書いてる作者だけあって、どうにもラノベ臭が漂う文体に正直うーむとなりました。まあそれはそれとして、なるべく予備知識なしで読もうと臨み、それが結果的に奏功したと思います。ただ早い段階で違和感を覚え、しかしそれが物語にどう関わってくるのかが全く分からない状態でした。
中盤までは主人公で語り手の「僕」が只管亡き父の遺稿を探し求めて、様々な相手に接触していく姿を描いており、余り抑揚は感じません。その時点では何ら事件の予感もしませんでした。

しかし、終盤第十二章から俄かにストーリーが動き始め、そのまま解決へと雪崩れ込んでいきます。成程確かに色々と伏線を回収しているし、これは紛う事なき本格ミステリだとかなり見直しました。お見それしましたと、作者に頭を下げたくなる心境です。ところがそれを遥かに超える衝撃が待ち受けていました。比喩ではなく本当に鳥肌が立ちました。もうこうなってはこの作品の前に、只々ひれ伏すしかありません。この人の努力と苦労に、最大の敬意と惜しみない拍手を送ります。
多くの人に読んで欲しいです、そして果たしてこれをどう評価するのか知りたいですね。


No.1653 6点 ただしい人類滅亡計画
品田遊
(2023/07/13 22:36登録)
全能の魔王が現れ、10人の人間に「人類を滅ぼすか否か」の議論を強要する。結論が“理"を伴う場合、それが実現されるという。人類存続が前提になると思いきや、1人が「人類は滅亡すべきだ」と主張しはじめ……!?
Amazon内容紹介より。

集められた10人の人間には名前はなく、ブラック、レッドなど色で呼ばれており、その中の二人(イエロー、ホワイト)だけが女性らしい。というのは、終始議論で埋め尽くされていて、性別などには全く触れられていない為、口調で判断するしかありませんので。
人類は存続すべきとする者が大勢を占める中、ブラックが絶滅論を繰り広げ、次第にどちらに傾くかが混沌とし始めます。特に悲観論者のブルーは自分を卑下しており滅亡の道に向かい、更にゴールドは自分以外の人間が幸福になる事を良しとしない利己主義者なので、こちらも自分の死後なら存続を断っても良いと考えるようになります。

自分のいない世界、自分の死後、生まれる以前、他種族との共存、生まれ来る者の幸福と災厄などを真面目に語っており、色々考えさせられます。ただ、何と言うか、堂々巡りの様な感覚にも陥ります。似たようなテーマが延々と議論されるため、どうしても変化に乏しく、あまり白熱した論戦となっている様には思えません。もっと地域猫活動や宗教論を例に挙げている様に話題を広げて行って方が、読者にとっては更に楽しめたのではないかという気がしました。そして、もう少し捻りがあるともっと良かったと思いますね。


No.1652 6点 ローズマリーのあまき香り
島田荘司
(2023/07/12 22:40登録)
世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。
1977年10月、ニューヨークのバレエシアターで上演された「スカボロゥの祭り」で主役を務めたクレスパン。
警察の調べによると、彼女は2幕と3幕の間の休憩時間の最中に、専用の控室で撲殺されたという。
しかし3幕以降も舞台は続行された。
さらに観客たちは、最後までクレスパンの踊りを見ていた、と言っていてーー?
Amazon内容紹介より。

『暗闇坂の人喰いの木』以降の、年一回ペースで刊行されたいた頃のシリーズ作品と比べると、やはり随分見劣りしてしまう感は否めません。ただその構成は相変わらず読み応えがあり、長いけれど冗長とは感じませんでした。
冒頭の謎の提示は強烈で、文句なく読書欲を掻き立て、難なく惹き込まれます。一体何が起こって、どうすればこの様な不可解な謎を合理的に解決できるのか、いやでも期待は高まります。

しかし、真相は余りに貧弱でそれはないんじゃないの?と思わずにはいられませんでした。それに解決編があまりにあっさりし過ぎでしょう。何だかフィンランドの教授とかになって偉くなった御手洗はそれに見合った人格者で、かつての変人ではなくなってしまって往年の作品のファンからするとちょっと淋しいかなと思います。
まあ、Amazonの評価はあまり参考にしない方が賢明ですね。彼らは懐かしさのあまり過剰評価している気がします。いずれにせよ、定価で買って読む程の作品ではなかったです。ミステリとしては残念でしたが、それ以外の所での読み物、社会派の一面やメルヘンの世界に飛び込んだような記述、ユダヤ人と日本人のくだりは面白く読めました。


No.1651 6点 歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理
三津田信三
(2023/07/07 22:44登録)
瀬戸内にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらと歩く亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」についての忌まわしい出来事について話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民俗学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながらとても怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのか――(「第一話 歩く亡者」)。ホラー×ミステリの名手による戦慄の新シリーズ始動!
Amazon内容紹介より。

刀城言耶の助手天弓馬人が様々な怪異を恐れながら謎を解く、刀城言耶シリーズのスピンオフ短編集。取り敢えず見た目はシリーズ本編のミニ版で、因習や伝説の描き方は流石によく似ており、不気味さを際立たせています。しかし、本作にはそれらの要素が真相やトリックと上手く噛み合っていないのが気になるところ。要するに、折角の怪異譚だというのに、トリックが浮いてしまっているのです。

竜頭蛇尾というか、あり得ない現象や不可能犯罪は確かに魅力的ではありますが、真相はバカミスだったり脱力系だったりと、やや肩透かしを喰らいます。それでも第四話の『目貼りされる座敷婆』は個人的には最も不可解な謎に対して納得の行く解決で、面白かったですかね。
シリーズ本編の固有名詞が何度も繰り返されるのは、ファンには嬉しいところでしょう。又、馬人と語り手の愛のキャラが立っているのも好ましい点ではないかと思います。


No.1650 6点 名無しの十字架
郷一郎
(2023/07/04 22:16登録)
虎と戦った人間がいる。そのフィルムを探し出せ―アンダーグラウンドフィルムの手配師・三上哲平に持ち込まれた怪しい依頼。莫大な報酬につられ、引き受けることにした三上は、瀕死の重傷を負いながら、今もどこかで生きていると噂される伝説の男を追うが…!?渦巻く欲望、交錯する男と女、顔も名前も失った哀しき男の復讐―退廃的空気漂う横浜で燃え上がる陰謀劇の行方は!?衝撃の都市伝説ノワールミステリー。
『BOOK』データベースより。

読まなければならない本があまりに多すぎて、どれから読んで良いのか迷いながら家中の本の群れからたまたま目に付いて手に取った一冊でした。いつ買ったのかも何故買ったのかも最早思い出せません・・・。

これはジャンル分けが難しい。ミステリの様でもありそうでない様でもあり、感触がハードボイルドっぽいのでそちらに投票しましたが、あまり拘らないで下さい。
それにしても、この人の文章は群を抜いて上手いです。言葉のチョイスが絶妙だし、情景描写も情緒的で素晴らしく、全く淀みの無い文体の流れも非常に心地よいものがあります。私はこの文章力に憧れに似た気持ちを抱きました。書けそうで書けないと云うね。しかし、これ一作で終わるのは如何にも勿体ないです。大物プロデュ―サーによるものではないにせよ、映画化されている訳だし。

最後まで7点にしようか迷いましたが、結局公平に見てそこまで突出したところがないと判断し、6点としました。ただ、エンターテインメントとして非常に優れており、その点では評価できます。無名の作家による無名の作品ではありますが、一部のマニア向けという訳では決してなく、一般大衆に広くお薦め出来る佳作だと思います。読んでみればとても丁寧に書かれたのが実感されるはずです。


No.1649 6点 呪い
ボアロー&ナルスジャック
(2023/07/02 22:16登録)
獣医ローシェルが知り合ったアフリカ帰りの女ミリアンには、どこか謎めいたところがあった。ふと見せる残酷な性格、事故死した夫にまつわる無気味な噂。女の虜になるにつれて、ローシェルの生活は暗い影に包まれてゆく。やがて妻の身に、恐ろしい災厄が……! 明晰な悲哀と詐術に心うたれ、魔術師たちの手腕を堪能する名作。
Amazon内容紹介より。

いや、名作って、そうなんですかねえ。それ程でもなかった気がします。
文章は問題ありません、訳も悪くない。しかし雰囲気が陰気でただでさえ眠いのに益々拍車がかかり寝そうになりました。ストーリー性は皆無でほぼ主人公の獣医の一人称で語られ、妻と愛人の間を行ったり来たり、ああでもないこうでもないと心情が詳らかになります。つまり、そうした心理サスペンスなのでしょう。劇的な展開がある訳でもないし、細かい字で改行無しにびっしり書かれていて、読み進める推進力に欠けるというのか・・・。どうにも面白味がありません。

そもそも私はこの作者の『私のすべては一人の男』が読みたくて、しかし簡単には入手出来そうにもないので、取り敢えず本作を先に読んでみようと思ったに過ぎません。少しは期待していたのですが、まあ期待通りとは行かなかったようでして。ただ、読み終わってみれば悪くはなかったと思わせてはくれました。特にラストは良かったです。この作品の肝とも言える記述に救われました。


No.1648 6点 笑殺魔
黒田研二
(2023/06/30 22:54登録)
「私の笑顔は呪われているんです」。過去の悲劇に囚われたまま、笑顔を封印した一人の女。保母でありながら子供たちに笑みを見せられない彼女にまたしても事件が…。ハーフリース保育園を舞台にした園児誘拐事件。犯人から現金運搬役に指名された彼女は、幼児図書の営業マン・次郎丸諒、保母の桜沢みどりらの助けを借りて、すべての悲しみの源に突きあたる。
『BOOK』データベースより。

サスペンスかと思っていたら本格ミステリでした。最初の章だけでも謎だらけで、それらが果たして合理的に説明されるのか心配でしたが、結局有耶無耶に。その辺りは改善点かも知れません。舞台が保育園という事で、意外にコメディタッチでメインの事件もどこか作り物めいた印象を受けます。それは作中でも語られているでの、そこに何かがあるのは間違いありません。

ある程度のミステリ読みなら犯人を当てる事は難しくはないと思います。が、その先の隠された真実には辿り着けないのではないでしょうか。想像以上にプロットがよく練られていて、あまり期待していなかった割には楽しめました。
各キャラの強めの個性もバランスよく描かれているし、最初からシリーズ化する事を前提としているのも納得です。


No.1647 6点 クルイタイ
二宮敦人
(2023/06/28 22:38登録)
美しいからこそ壊してしまいたくなる衝動、自分の記憶が信用できなくなる恐怖、見方ひとつで、すべてが死骸に見える錯覚、そして呪詛の思いが自らを追い込んでいく戦慄――。4人の狂気に触れたとき、<男>に待ち受ける壮絶な運命とは!? 『!』シリーズなどのヒット作を連発し、ホラー小説界で今最も注目を集める著者が、温め続けた恐怖を炸裂させた新世代サイコホラーの傑作!
Amazon内容紹介より。

惜しい、もう少しで7点だったのに。何か少し足りない、自分でもよく分かりませんが・・・残念です。本書は自己崩壊型のホラー四編とあとがきという名の短編を加えた作品集。色は違いますが、いずれも狂った思考が招く男女の破滅の物語であり、単なるホラーとは一線を画すものばかりです。

出来としてはどれが突出している訳でもなく、平均して楽しめる作品ばかりです。短いのが物足りなさの原因かもしれませんが、その割には異常な心理描写を淡々とした筆致で描いているのが逆に怖さを増幅させます。この人の書くものはハズレがありませんので安心して読めます。
本作に関しては言葉を慎重に選びながら、時折ハッとするような記述を見せ、上手いなあと感心させられます。特に女の子の描き方が何とも言えず良いんですよ。


No.1646 6点 断頭台/疫病
山村正夫
(2023/06/26 22:43登録)
過去より甦る怪奇と幻想の淵。彼らはその境目を歩み、やがて呑みこまれていく―。死刑執行人サンソンの役を与えられた売れない役者が、役にとり憑かれ、やがて自分を失っていく「断頭台」。古代マヤの短剣に魅かれる男がその理由を知る「ノスタルジア」。さらに女神アフロディーテの求愛を無視し、娼婦の少女に恋をしたゆえに苛烈な神罰を下される天才彫刻家の物語「疫病」のほか、日本探偵作家クラブの犯人当て企画のために書かれた「獅子」や単行本未収録の「暴君ネロ」といった、古代ローマに材を取った作品も収録。憎しみだけが惨劇を起こすのではない。ときには純愛や慈愛が引き金となるのだ。妖しい輝きを閉じ込めた、珠玉の異常心理ミステリー集。
『BOOK』データベースより。

ちょっとややこしいですが、角川のカイガイ・ノベルスに収録された六短編のうちの『免罪符』を削除し代わりに『暗い独房』を新たに加えたのが角川文庫の『断頭台』。それに新芸術社の中短編集『異端の神話』の『疫病』『獅子』と単行本未収録の『暴君ネロ』を加えた全九編を収録したのが本書となっています。
第一部として『断頭台』『女雛』『ノスタルジア』『短剣』『天使』『暗い独房』、第二部が『獅子』『暴君ネロ』『疫病』のラインナップ。そして巻末に森村誠一との対談が載っています。

対談で度々出て来る乱歩の存在がやはり大きいようです。第一部を読む限り山村氏は大っぴらに影響を受けたとは言っていませんが、私感では乱歩の時代性を作品に投影させているのは否定できません。特に『女雛』『短剣』『暗い独房』の作風ははっきりその色が出ていると思います。確かに森村氏が絶賛している様に『断頭台』は表題作に相応しい一作でしょう。第一部のテーマである異常心理を最も如実に表していると思います。しかし、私としてはミステリ的趣向が盛り込まれた『女雛』や『天使』に惹かれます。

また第二部に関しては古代ローマが舞台の『獅子』『暴君ネロ』はやや取っ付き難さはありますが、ミステリとして評価したいと思います。表題作の『疫病』はギリシャ神話の神々が何十人も登場し、正直猥雑で何がな何だかさっぱり分からないというのが本音。それでも最後に漸く本題に入ってからはスピード感も出て、何とか付いて行くことが出来ました。

山村正夫と言えば子供の頃に読んだネタバレ満載の推理クイズと『湯殿山麓呪い村』の印象しかなく、この様な異形の短編も書いていたのだと認識を新たにしました。本書には他にも多くの怪奇幻想をテーマにした作品が紹介されており、そうだったのかと更に首肯せざるを得ませんでした。


No.1645 7点 殉教カテリナ車輪
飛鳥部勝則
(2023/06/22 22:51登録)
憑かれたように描き続け、やがて自殺を遂げた画家・東条寺桂。彼が遺した二枚の絵、“殉教”“車輪”に込められた主題とは何だったのか?彼に興味を持って調べ始めた学芸員・矢部直樹の前に現れたのは、二十年前の聖夜に起きた不可解な二重密室殺人の謎だった―緻密な構成に加え、図像学と本格ミステリを結びつけるという新鮮な着想が話題を呼んだ、第九回鮎川哲也賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

何だか変なタイトルだなという印象しかなく、予備知識なしで読みました。いきなりカラーの絵画が載っていて、それも何やら意味ありげな感じだけど、とは思いましたが、そこから図像解釈学(イコノロジー)が展開される辺り、正に純文学の香りがプンプン漂います。後で考えればそれも意味のある記述ではあります、しかしそこまで画家は意識して描いたのだろうかと、あまりに深い掘り下げ方にかなり執拗さを感じました。それがどうとか云うつもりはありません、ただこれまで味わったことの無い異様な世界観を繰り広げており、これがただのミステリではないというのは伝わってきます。

問題の手記ではなかなかお目に掛かれない、同じ凶器によるほぼ同時に行われた二つの密室殺人事件の謎が描かれており、うーむとなりました。途中、ある二人の人物のぎこちない会話に違和感を覚え、んん?って感じでしたが、それも作者の計算の上だったとは、恐れ入りました。どこに伏線が張られているか分かりませんね、全く油断も隙もあったものじゃない。
尚、作中の洋画は作者自身が描いたもので、洋画家としても才能を発揮されています。個人的には『殉教』の中の少女の表情が素敵でした。作中での誰かの発言と全く同じ意見なのが、如何にも素人の感想だなと情けなくなりました。


No.1644 7点 みんな誰かを殺したい
射逆裕二
(2023/06/20 22:43登録)
峠で殺された小太りの中年男。そして、その殺人事件を目撃した男。緻密なプロットが交錯し、物語の糸は思いも寄らぬ方向に収斂していく--。新人離れした完成度の超本格ミステリ。
Amazon内容紹介より。

途中までは例のあのトリックねと思いながら読みましたが、終わってみればそれどころではなく、かなり込み入った話だという事を思い知らされました。中盤でええーっとなり、終盤でまたええーっとなって、最後にまたまたええーってなります。しかし、読み終わった後の達成感みたいなものは得られます。非常によく考えられた物語で、やや煩雑さを感じる方もいると思いますが、じっくり読み込めばそれほど気にはならないんじゃないでしょうか。

本書は第24回横溝正史ミステリ大賞優秀作です。その際の選考委員は綾辻行人、内田康夫、北村薫、坂東眞砂子の各氏でしたが、それぞれの選評を読んでみると、たった四人なのにこれだけ意見が分かれるものかとちょっと驚きました。個人的には内田康夫の「横溝正史ミステリ大賞に最も相応しい作品」として推されていたのに同感でした。他に作品を読んでいないので何とも言えませんが、本作が大賞でも良かったんじゃないのかと思いました。それくらいのレベルの高さは保持した作品だと感じます。


No.1643 7点 ベスト本格ミステリ2018
アンソロジー(出版社編)
(2023/06/18 22:33登録)
本格ミステリ作家クラブが選んだ2017年のベスト本格ミステリ短編&評論のすべて!

小説◎
夜半のちぎり 岡崎琢磨
透明人間は密室に潜む 阿津川辰海
顔のない死体はなぜ顔がないのか 大山誠一郎
首無館の殺人 白井智之
袋小路の猫探偵 松尾由美
葬式がえり 法月綸太郎
カープレッドよりも真っ赤な嘘 東川篤哉
使い勝手のいい女 水生大海
山麓オーベルジュ『ゆきどけ』 西尾維新
ヌシの大蛇は聞いていた 城平京

評論◎
吠えた犬の問題 有栖川有栖
Amazon内容紹介より。

人気作家による、本格ミステリ作家クラブが厳選した2017年の短編アンソロジー。
全般的に高い水準を誇っており、それぞれが捻りの効いた、反転や意外な結末が味わえる本格ミステリに仕上がっていると思います。白井智之の『首無館の殺人』は荒さが目立つし、西尾維新の『山麓オーベルジュ「ゆきどけ」』はホワイダニットに拘っていますが、どうにも納得できない感があります。それ以外は特にこれといった欠点は見当たりません。各作家の特色がよく出ているのも好感が持てますし、十分満足のいくアンソロジーと言えると思います。

有栖川有栖の評論ははっきり言って余分だったですね。個人的にはいりませんでした。
尚、余談ですが読んだばかりの『バカミスの世界』に掲載されていた、霞流一の『わらう公家』が02に載っていたのはちょっと驚きました。しかし、この本格ミステリ作家クラブ、分かっているじゃないかと感心したのは確かです。


No.1642 6点 バカミスの世界 史上空前のミステリガイド
事典・ガイド
(2023/06/17 22:21登録)
本書は、小説でも映画でも、ユニークなミステリ群を総称して「バカミス」と呼んでいる。本書を読んで、あなたもご自身のバカミスを見つけてください。
『BOOK』データベースより。

マジすか、こんなもの(悪い意味ではなく)が書評されているとは。しかも三人も。流石ミステリオタクが集う「ミステリの祭典」ってところですね。
読む前は単行本で225ページだからサクッと読めるだろうと思っていました。すると通常のサイズより一回り大きいし、表紙の写真が多目とは言え、基本三段組みなのでかなり手こずりました。それでも結構参考にはなりました。
そもそもバカミスとは何なのかという定義がはっきりしないまま、次々に作品が紹介されていて、何でもかんでもバカミスみたいな扱いになっており、クリスティ、カー、クイーン、ヴァン・ダインがみんなバカミス作家の範疇に収まってしまっていて、ええっ?と思いましたが、考えてみればほとんどミステリがバカミスの要素を含んでいるとも言えるかも知れないのかと首を傾げておりました。

ガイドの他に、書下ろしバカミス、未訳本の翻訳、対談、エッセイなど内容盛りだくさんでお腹一杯です。霞流一の書下ろし短編はおまけ程度と思っていたら、これがなかなか面白くこれだけでも読む価値はありました。そして最後を飾るバカミスベスト100については、結構興味を惹かれる作品があり、その内の20冊以上を入手可能な範囲で読んでみたくなりました。
ただちょっと中身が偏り過ぎている印象はあります。99%海外の作品でその中でもバカハードボイルドと呼んでいるものが多かったですね。どの辺りがバカミスなの?という素朴な疑問を消し去ることが出来ないのも少なくありませんでした。


No.1641 5点 う○こ文学
アンソロジー(国内編集者)
(2023/06/15 22:54登録)
人間は、食べて、出します。しかし、食事と違い排泄は人に見られた場合ずっとトラウマになることもあります。漏らす悲しみを知る人のための17編。

「万人に共通する悲劇は排泄作用を行うことである」芥川龍之介
生きるかなしみとしての排泄を、漏らしたときのせつなさを、見事に描ききった文学作品を集めたアンソロジー!
Amazon内容紹介より。

タイトルの通り、飽くまで文学なのでグロくはありません。それどころか下品ですらありません、内容に比べて上品だと言っても良いでしょう。逆にそこが私にとってはやや物足りなかったりしますが。取り上げられている作家は本サイトでも登録されている山田風太郎や筒井康隆、他に谷崎潤一郎、阿川弘之、吉行淳之介、佐藤春夫、山田ルイ53世ら。

最初の尾辻克彦と山田風太郎は両者とも私小説で、シチュエーションなどよく似通っています。どちらも道中で我慢の限界を超えて遂に・・・そして切ない後始末をという物語。
個人的に印象深いのは、全然面白いと思ったこともないお笑いコンビ髭男爵の片割れ山田ルイ53世のエッセイというか、体験談。結構笑えて意外なセンスの持ち主だと気づきました。彼はこの事件以来暫くしてから六年間もひきこもりになったそうです。そして筒井康隆、発端は女性のお漏らしでありながら、その後ぐんぐんストーリーの広がりを見せ、地味にパニック小説に仕上がっていくのがらしいと思いました。

最後に書いておきたいのは、タイトルの事です。本サイトでは禁止ワードが存在し、それに引っ掛かるとペナルティが課されます。私はまだ出禁にはなりたくありませんので、あえて伏字を使っています。これをお読みの方はそこの処ご了承願います。それと親切心を起こしてタイトルを変更したりしないようご注意下さい。


No.1640 7点 合唱 岬洋介の帰還
中山七里
(2023/06/10 22:49登録)
幼稚園で幼児らを惨殺した直後、自らに覚醒剤を注射した“平成最悪の凶悪犯”仙街不比等。彼の担当検事になった天生は、刑法第39条によって仙街に無罪判決が下ることを恐れ、検事調べで仙街の殺意が立証できないかと苦慮する。しかし、取り調べ中に突如意識を失ってしまい、目を覚ましたとき、目の前には仙街の銃殺死体があった。指紋や硝煙反応が検出され、身に覚えのない殺害容疑で逮捕されてしまう天生。そんな彼を救うため、あの男が帰還する―!!
『BOOK』データベースより。

こういうのを読まされると、やっぱり中山七里とは離れられないなあと思いますね。サブタイトルとなっている岬洋介始め、各シリーズの主役が次々に登場。御子柴礼司、犬養隼人、古手川和也・・・。まるでオールスターの様です。ストーリーは勿論よく練られていて、堅実な文体で読者を魅了します。

ミステリとしては法廷劇がメインとなりますが、それまでのプロセスが見逃せません。やや急ぎ足な感は否めません、それでもこれだけのキャストを揃え乍ら纏まりよく、必要最低限の情報を開示し、それらのピースを巧みに組み立てて事件の真相を白日の下に晒す手腕は大したものでしょう。その見せ方も堂に入っており流石だと思いました。
特に最終章は一気に読めます。誰が探偵役となるのかは伏せますが、とにかく圧巻の一言に尽きます。


No.1639 7点 漂流都市
嶋戸悠祐
(2023/06/08 22:11登録)
家電量販店売上高ナンバー1を目指すR電器は、未開の地であったK市へ出店をすることとなった。
しかしK市は、轟家電という量販店が一強となり、R電器の参入を許さない状況だった。
轟家電はK市の人口の多くを占める老人に対して細やかな接客対応をするとともに、どうやら街全体で老人の生活サポートを行うことで客を逃がさないようにしているようだ。
轟電器、そしてK市に潜む壮絶な事実とは一体ーー!?
Amazon内容紹介より。

全編不穏な空気に覆われているのをひしひしと肌で感じる、異色のサスペンス長編です。東北のK市で大手チェーン店でもないのに、一人勝ちしている轟家電とは一体どの様な手法を用いて顧客を獲得しているのか、それは謎に満ちた存在で、そこを中心に物語は進行していきます。そして徐々にそのベールが剥されていくごとにキナ臭い匂いが漂います。轟家電の舞台裏で実際に行われている真実とは何か。

プロット、ストーリー、人物描写等申し分なく、地味ながら作者の力量が伺える佳作となっていると思います。文章も読み易いし、エンターテインメント性に優れている為、ひと時も飽きることなく最後まで楽しめました。万人受けするとは思いませんが、ちょっと変わった小説をお求めの方にお薦めです。


No.1638 4点 ミステリー中毒
評論・エッセイ
(2023/06/07 22:31登録)
ヨーロー先生はアメリカの推理小説を四十年間、読み続けた。文庫本を二冊買って新幹線に飛び乗ったら、両方とも下巻で、しかも違う小説だった。なんだか説明不足だと思いながら読んでいたら、下巻だったこともある。それでも、あるいは、だからこそ相変らず推理小説を読むのが止まらない。スティーヴン・キング、ジェイムス・エルロイ、馳星周からマイケル・ギルモアまで、多彩な作品が取り上げられる。傑作エッセイ集。
『BOOK』データベースより。

人並由真さんには申し訳ないですが、意見の相違がかなり見られます。私は翻訳物素人なのでご了承願います。
そもそも本著が海外作家による推理小説のエッセイとは知らずに読んだ私が間違っていたのです。知っていれば読まなかったのにと後悔しています。おそらく70年代以降の海外ミステリを取り上げて紹介しているのだと思いますが、それがなんとも分かりづらく、内容もあまり興味を惹かれるものがありませんでした。ほぼ全作未読というのも、余計に退屈にさせられました。私の知っている作家は、最も多く触れられているのがスティーヴン・キングで他にローレンス・ブロック、マイクル・コナリ―、ディック・フランシス、ジャック・ヒギンズ、ジェフリー・ディーヴァ―、マイケル・クライトン、ピーター・ラヴゼイくらいですかね。まあ、私ごときが読むのは百年早いですよ。でも、本格ミステリが全然取り上げられていないのは残念です。

東大名誉教授の肩書を持つ著者、養老孟司なので、本人が知らず知らずのうちに読み難い文章を書いていたのかも知れませんが、相手は一般大衆ですし、私のように頭の悪い人間にももう少し親切に書いて欲しかったですね。推理小説のエッセイなのに、いつの間にか脱線し自分の趣味や世事に関する記述になっている事も多く、逆にそちらの方が面白かったりします。特に昆虫採集で海外に出かけたことや、マチュピチュ、ピラミッド、ナスカの地上絵の違う意味でのミステリーなど興味深く読めました。
ふと思ったのですが、この人はやはり自身の守備範囲である人間の死に関するエッセイなどの方が向いているのではないかという気がしました。


No.1637 5点 奇妙におかしい話 わくわく編
アンソロジー(国内編集者)
(2023/06/06 22:39登録)
増え続けるウサギに手を焼く小学校。校長先生の雌雄別居の提案に始まり、次々に対策をくり出すが、なかなかうまくいかない。最後の策は成功したかに見えたのだが…(最優秀作)。大好評をいただいた『奇妙におかしい話』の第2弾。笑いを誘う話、不思議な話など、前回を上回る一般募集作のなかから、作家・阿刀田高が厳選した“わくわく”の31編を収録する。
『BOOK』データベースより。

老若男女(20代は少ないが)の募集作から選ばれた、体験談なのか創作なのか一読では判別不可能な、ちょっと風変わりなショートショート集。31編もあると流石に文章力の差がありありと伺えます。読み出してすぐに物語に没入していけるものから、なかなか集中できず印象に残らないもの、抑揚がなくオチもないものなど様々。

最優秀作は確かに読ませはしますが、その称号に相応しいかと言われると疑問に思わざるを得ません。他にもっと上位に来そうな作品があった気がします。
まずまず良かったのは内容は省略して、『二人のラブレター』『エネルギー不滅の法則』『クロのいた季節』『スーパーに並ぶということ』『夏の日の猫又』『息子がそちらでお世話になっています』。動物が出て来るとどうしても評価が甘くなるのは人情として仕方ないでしょう。


No.1636 6点 憂鬱探偵
田丸雅智
(2023/06/03 22:43登録)
月曜日は気分が沈む……
注文した料理がなかなかこない……
スマホの充電がすぐなくなる……

「そんな依頼はおれにまかせ――
ないでほしい。ぜったいに。」

「憂鬱な出来事」の裏にひそむ〝秘密″をイヤイヤ暴く!
どこか冴えない探偵のショートショート。
Amazon内容紹介より。

ショートショートを多数書いている作者の、日常の謎を扱ったユーモアミステリ。上記の他にも、足をよく踏まれる、じゃんけんでいつも負ける、靴下をよくなくす等、本人にとっては憂鬱な悩みを無償で解決したりしなかったり、取り敢えず調査して謎を追う探偵と助手の物語。助手の若菜のキャラが前向きで元気で行動力があり、それを容姿や体型を描写することなく言動ですぐに分かるように描かれている辺り、この作者の力量を窺い知れます。只者ではありませんね。しかも、どの短編(ショートショートではない)も笑える要素が満載で、成程と頷かされるものばかりです。

最初は何でもない様な悩み、ある意味日常の謎と呼んでも良いでしょう、それらの謎を追っていくうちに、とんでもない現実を目の当たりにする事になるというパターンは全ての短編に共通しています。辿り着く先はまさに奇想天外で、SFの要素を含んだバカミス的な真相だった、みたいなものです。最後の一行で気の利いたオチがあり、息抜きに最適な一冊だと思います。

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