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ミステリの祭典

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死体は散歩する
マローンシリーズ/別邦題『マローン勝負に出る』

作家 クレイグ・ライス
出版日1989年12月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 5点 メルカトル
(2024/01/28 22:02登録)
「ジェイク、あたし脅迫されてるの」そう言って、ラジオのスター歌手ネルは姿を消した。彼女の元恋人を訪ねてみると、出くわしたのは何と相手の射殺体。おまけに、追い討ちをかけるように当の死体が失踪し、ジェイクの困惑は頂点へ…。1930年代のラジオ界を舞台にお馴染みマローン、ジェイク、ヘレンが活躍するユーモア・ミステリ、待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

コンディション不良のせいか、これまで多くの国内産の手の込んだミステリを読んで来たせいか、本作にはほぼ心が動きませんでした。人並由真さんには申し訳ないですが、とても高評価を下す気にはなれません。一年後には中身をすっぱり忘れている自信がありますね。
第一に謎めいた事件がなく、惹かれる部分がありません。長々と読まされて、推理や議論されるでもなく、最後の最後に僅かなページ数で明かされる真相に意外性が全くありませんし、非常に貧弱に思えました。

探偵のマローンは魅力に乏しく、大した活躍をしていません。ただ何故死体が移動したのか位しかピックアップされず、ミステリとしての骨格が弱々しいです。それを登場人物の関係性で補おうとしている様ですが、そっち方面には興味がないので、私としてはそこを評価する訳にはいきませんし。点数としては5点の最下層に相当すると思っています。
まあ正直どこが面白いのかよく分からないというか、楽しみ方を誰か教えて欲しいと感じた次第です。

No.2 7点 弾十六
(2021/08/24 19:56登録)
1940年出版。弁護士マローン第2作。ジェイクとヘレンも登場するトリオ第2作でもある。人並由真さんのゴキゲンな紹介で一気に読みたくなった本作。期待にそぐわぬ出来栄え!(人並由真さん、ありがとうございました!) 創元文庫で読了。
私としては、このトリオのシリーズだと、もっとヘレンが魅力的に描かれなければならない、と考えていて、そういう意味ではこれは最高傑作では無いはず(続く『大はずれ』と『大当たり』が楽しみ)。確かにプロットが素晴らしい。夢の展開(つまり緩い連想で次々と場面が変わるもの)が好きな人にはたまらない、と思う一方、厳密な方々には、ちょっとアホくさ、と思われてしまうかも。
クレイグさん(これ、苗字から採用したペンネームだったんだね。どうりであんまり聞かないと思った)の良さは、気イつかいのところ。人への対応、眼差しが、繊細な心遣いに溢れてて、そのくせ「おれは誰も信じない(I never believe anybody、「決して」を入れて欲しい)なんて、ハードボイルドに振る舞うわけ。よっぽど実人生で悲しい思いをしたんじゃなかろか、と邪推してしまう。
今回はシカゴの名所が活躍し、通りの名前もほぼ全部実在のもの。(メルヴィア通りとマークウィス街は探せなかったが、Melvina Avenueがあった。)
以下、トリビア。
作中年代は「スタインベック(p69)」が話題になってるから1937年以降。
p9 きみはもうだれの恋人でもない♦️歌詞は原文では“It just don’t seem right, somehow, / That you’re nobody’s sweetheart now”となっている。Nobody's Sweetheart Nowはミュージカル・レヴューThe Passing Show of 1923のために作られた曲。詞Gus Kahn & Ernie Erdman、曲Billy Meyers。正しい歌詞は“it all seems wrong somehow”なんだが…
p10 オルガン形の机(the imitation spinet desk)♦️ちょっと勘違い。スピネット(小型チェンバロ)を模した形のアンティーク机、ということだろう。多分、必ず引き出しあり。英wikiに”spinet desk”で項目あり。
p16 二十ドル札(twenty-dollar bills)♦️1928年の紙幣サイズ小型化(156x66.3mm)以降、表はAndrew Jackson、裏はWhite House。米国消費者物価指数基準1938/2021(19.36倍)で$1=2134円。$20札だと42680円の高額紙幣。当時は$10000札まであり、1945年になって$100札を超える紙幣の発行を停止した。
p18 輝く月… 真夜中の空に映え…(Golden Moon … over the midnight sky.…)♦️この歌詞の歌は調べつかず。架空?
p41 中国人がふたりも私の口の中で自殺(you never should have allowed those two Chinamen to commit suicide in my mouth)♦️口の中がヒドイ状況を言ってるのだろうけど、現代では使えないジョーク… もしかしてニンニク臭いってこと?
p42 ヨーロッパの重大時局… 第一面の記事♦️本篇中に出てくる数少ない時事ネタ。
p46 ビーチ・ローブ… テニスや水遊び♦️多分、作中の季節は夏? シカゴの平均気温は6月23度、7-8月28度、9月23度くらいのようだ。
p59 まるでエドガー・アラン・ポオの小説みたいに聞こえる(You sound like something by the late Edgar A. Poe)♦️わざわざ「故」付けが可笑しい。念頭にあるのはどの作品だろう。(ポオ全集を読んでる方には自明?) わかっていないのに言うのは愚の骨頂だが、詩の可能性もある、と思うので「小説」という限定は不要だと思う。
p66 宝石店からダイヤモンド・リルをひっぱり出す♦️ 前歯にダイヤモンドを植え込んだ女性がいてDiamond Tooth Lilと呼ばれたようだ。Diamond Lilはメエ・ウエストが書いた劇(1928)及びその主人公の名前。
p85 デイ・ベッド(a day bed)… 小型机(a spinet desk)♦️前者はソファーベッド、後者は前出(p10)と同じ机だろう。
p92 ドアの上にブザー… 三回鳴ったら、あなたにお電話が入ってる、という意味(there’s a buzzer over your door. Three rings means you’re wanted on the telephone)♦️アパートの仕組み。まだ各部屋に電話は引かれていない。
p105 ミシガン・アヴェニュー橋(the Michigan Avenue Bridge)♦️可動橋(1928年完成)。シカゴの名所。勝鬨橋みたいなヤツ。まだ現役のようだ。羨ましい。現在はDuSable Bridgeというらしい。
p127 ボーイがデスクで『アメージング・ストーリーズ』を読みふけり(A page boy sat at the desk, absorbed in a copy of Amazing Stories)♦️1926年創刊のSFパルプ雑誌の草分け。不況のためか1935年8月号〜1938年10月号は隔月刊になっている。Eando Binder, Stanley G. Weinbaum, Frederic Arnold Kummer, Jr.が当時の主力か。
p139 火星人の襲来(the little men were landing from Mars)♦️1938-10-31のオーソン・ウエルズのラジオドラマによる騒ぎでlittle green men from Marsが冗談記事になったようだ。
p192 まったく異なる二つの問題の、それぞれ独立した一部分(different parts of two entirely different things)♦️この翻訳だと、何か元ネタがありそうな感じ。だが私にはピンとこない。調べつかず。似たような事をマローンが167ページで言っているが…
p208 黒人の喋りのマネ♦️現代では完全にアウト?(でも、そうなら現実をどうやって表現すれば良いのだろうか)。一応、原文をあげておく。“Scuse me fo’ disturbin’ you, Mist’ St. John, but they’s a daid man in the kitchen”
p210 スワミ(swami)♦️ヒンズー語で学者・聖者・権威のこと。続く「はーるかなる」はアル・ジョルスンの大ヒット曲の歌い出し。(原文: Way down upon the 〜) (2021-8-25追記: アル・ジョルスンじゃなくてStephen Fosterの名曲”Old Folks at Home”(1851年作)ですね。良く確認しないで勢いで書くからこうなる。単なる勘違いを誤訳だ!と騒ぎ立てる(←お前のことだよ)のはやめましょう…)
p218 二セントくれれば(for two cents)♦️最後の藁の重み、みたいな感じではないか。試訳: あと二セント分のトラブルで
p241 『ザ・ラスト・ラウンドアップ』の一節を口笛で(whistling a bar of “The Last Round-Up”)♦️JDC『死時計』(1935)でハドリーが歌ってた1933年の大ヒットC&W。
p252 石の根(leaving no turn unstoned)… 虫の根(leaving no worm unturned)♦️正しくは”leave no stone unturned” 草の根わけても、全部の石をひっくり返して徹底的に探す。 試訳: 「全部の裏を石かえして」… 「全部の虫を裏返して、でしょ?」
p285 屋台引きからアメリカ有数のキャンディ会社の社長に(had risen from his pushcart to become head of the Candy Company)♦️シカゴのガム会社社長リグリー(William Mills Wrigley Jr. 1861-1932)のイメージなのか。最初13歳の時、フィラデルフィアで父の会社製の石けんをバスケットに入れ、手売りしていた、というエピソードあり。
p286 リグリー・ビルディング(the Wrigley Building)♦️これもシカゴに現存するランドマーク。1921年建造、1924年北館完成。

No.1 9点 人並由真
(2021/08/14 04:09登録)
(ネタバレなし)
 1930年代のシカゴ。以前は新聞記者だった青年ジェイク・ジャスタスは、現在、23歳の人気ラジオ・スター女優ネル・ブラウンの広報スタッフかつマネージャーとして、多忙な日々を送っていた。そんなジェイクはある夜、ネルに連絡をとろうとするが掴まらず、彼女の元彼氏の俳優兼プロデューサー、ポール・マーチのアパートを訪ねる。だがそこでジェイクが出くわしたのは射殺されたポールの死体だった。ジェイクは状況からネルがポールを殺したのではと疑うが、彼女は否認。ジェイクはネルへの疑惑をぬぐい切れないまま、とりあえずネルの周辺にスキャンダルが生じないように図るが、やがて殺人現場からポールの死体が消えうせた!

 1940年のアメリカ作品。ジェイク&ヘレン、マローントリオものの第二長編で、前作『マローン売り出す』(別題『時計は三時に止まる』)の事件から、劇中で一年半の月日を経た時勢での物語。

 前作で知り合ったジェイクと大金持ちの相続人である令嬢ヘレン・ブランドは互いに好意を抱きあっていたが、勤め人のジェイクは社交界の花形ヘレンとは住む世界が違うのだと、距離を置いていた。
 今回は1930年代当時の花形マスメディアだったラジオ界を舞台にした殺人事件に、再会したジェイクとヘレンのラブコメ模様が密接にからむ構成。さらにマローンシリーズのレギュラーキャラの一角となるダニエル・フォン・フラナガン刑事(本作での階級は警部補)がこの作品でデビューする。

 それで、以前に、本サイトでの『素晴らしき犯罪』のレビューで書いたとおり、評者はマローンシリーズの長編は『幸運な死体』も『マローン売り出す』もどこかで楽しみそこねてしまっていたため、こないだの『素晴らしき~』で、ついにようやっと初めて、本シリーズの長編の面白さが本当にわかってきた、という手ごたえがあったばかりだった。

 それで本作だが、これは1930年代のラジオ界が舞台という一種の業界もの、戦前のノスタルジックな空気を感じさせる風俗ミステリとして楽しめそうだという予見があり、そんな気分のまま、とりあえずページをめくり始めたが……。
 ……なにこれ、メチャクチャ、面白い!

 前述のように話の主軸は、ラジオ界の人気若手女優ネルを柱に多様な登場人物を巻き込んだ殺人事件(期待どおりにドタバタの大騒ぎとなる)、そして再会後、あっという間に婚約関係となったジェイクとヘレンの恋愛ドラマだが、当然のごとく二人の関係の進展を邪魔するように事件が深化。ジェイクが奔走する一方で、じゃじゃ馬のお嬢様ヘレン自身もみずから進んで事件に介入して時に話をややこしくし、いろんな意味で見せ場また見せ場の連続。
 特に、詳しくは書かないが、ヘレンをネタにしたとあるジェイクのジョークに、やがて思わぬところで火がついて一大事になるところなど爆笑した。
 作者ライス、本当にノリノリである。かなり出来のいいときの、フランク・グルーバーみたいな感じだ。

 ミステリとしても、本作の題名(創元推理文庫版の方の)の通り、出没する被害者の死体が中盤以降も騒動の引き金となるが、さらにそこからまた、事件が次のステージに新展開。最後までハイテンポな都会派コメディミステリを満喫できる。
 フーダニットとしてもなかなか意外な犯人で(予測がつく人はいるかもしれないが)、その真相に至る伏線もさりげなく? 張られている。
 そんな真犯人の正体が判明したあとに、読み手のこちらの心をよぎったのは……(以下略)。

 冷静に一歩引いてみると、大事な情報を遅めに出しているところもないではない……とも思うのだが、まあその辺の瑕疵は、作品総体の楽しさ~得点であまり気にならない。

 あとこの作品に関しては、70年代(もっと前からか?)の頃からミステリマガジン誌上などで、ライスの未訳作を追いかけて機会を見て語っていた小鷹信光による愛情にあふれた翻訳が、作品の楽しさに大きく反映していると確信。しかし同じ翻訳者で、オレはどうして前作『売り出す』をスベってしまったんだろう、ナゾだ……。
(機会を見て、いつかそっちも読み直してみた方がいいな、きっと。)
 
 というわけで、いずれ手にとる『大はずれ』も『大あたり』も、ほかのマローンシリーズ諸作も楽しみだけど、しかしもしかしたら、やっぱりこの作品『死体は散歩する』が一番楽しかった、ということになるかもね? いや、それはそれで全然かまわないのだけれど(笑)。

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