エヴァが目ざめるとき |
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作家 | ピーター・ディキンスン |
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出版日 | 1994年08月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 4点 | メルカトル | |
(2023/12/17 22:33登録) 地上百数十階の都市に人々がひしめき、野生動物のほとんどが絶滅した近未来。チンパンジーを保護・研究する学者であるパパとでかけ、事故にあったとき、エヴァは十三歳の、黒く長い髪と青い目の女の子だった。だが二百日を越える昏睡からようやく目ざめたとき、エヴァが鏡のなかに見たものは…。人類衰亡の時代に、ただ一人の「新しい存在」として目ざめてゆく少女を描く、実力派作家の異色のSF。 『BOOK』データベースより。 第三部以外は平坦で退屈。第一に肝心のエヴァの事故の模様と、どのような経緯でチンパンジーにエヴァの脳を移植したのか、そしてその手術の全容が殆ど記されていないのはどういう訳でしょうか。日本の作家ならまずその辺りを入念に記述し、主人公に感情移入し易いようにするはずです。いきなり目覚めた時にはチンパンジーになっていたところから始まるのは問題ないですが、前述の様にその前の段階を説明する必要があると、個人的には思いますね。その事に付いてはAmazonのレビューを見てもどなたも触れられていないのは、禁忌だからですかね。それとも面倒だったから端折ったとか? まあそれにしても、全体的に何の盛り上がりもなく、さりとてエヴァの心情に鋭く切り込む事もなく、私の感情を揺さぶる要素が全くありませんでした。おそらく私の読み込みが足りないせいもあるとは思いますが、名作と言われる所以がイマイチ理解できません。どう考えてもそんなに凄い作品だとは思いません。エンターテインメントとしても中途半端だし、学術的に見ても深掘りされていない、子供が読んで喜ぶとはとても思えませんね。 |
No.1 | 10点 | クリスティ再読 | |
(2019/07/28 11:02登録) 夏休みこども劇場その3。 一応本書児童書になるのだけど、1988年の作品なので評者も初読。けどね、児童書なんて枠をはみ出してるし、SFのジャンルもはみ出した普遍的傑作である。本書を読んで感銘を受けたこどもが、どういうオトナになるのか興味深く思うくらいの、人によってはトラウマになるかもしれないくらいの傑作。児童書扱いが冗談としか思えない... 交通事故の遭った少女エヴァが目覚めたとき、その肉体はチンパンジーのものになっていた。ニューロン記憶理論に基づいて、エヴァの記憶も人格も、そっくりそのままチンパンジーの脳に移転されたのである。人類が地球に犇めきあうように暮らす未来社会。人類は科学技術の恩恵を享受しながらも、それがために徐々に衰亡の翳を深めていた時代だった。エヴァは自らの中にチンパンジーのケリーの無意識が生き延びていることを気づく...この二重のアイデンティティの中で、エヴァは未来の超管理社会から、チンパンジーの群れを率いて脱出しようとする。 人間はいろいろな動物を「家畜化」したわけだが、人間が最も強烈に家畜化した動物はほかならぬ「ヒト」なのである。家畜化=社会化することでヒトは文明を築き上げたのだが、その文明がヒトの「生きるチカラ」を奪っていったのもまた事実である。エヴァはチンパンジーになったというよりも、ヒトの知性とチンパンジーの野性を両立させた、新しい「始祖=イヴ」としての役割を割り振られることになる。 「人類全体がどんどん短絡的にものを考えるようになっている」とはまさに今の世相そのままのようにも感じる。人間は便利さにかまけて、どんどんとかつての能力を失ってきつつあるのだろう。しかし「文化」が悪いのか?というとそういうわけでもない。チンパンジーならば(ニホンザルだって芋洗いの話とかねえ)、獲得した行動を伝承していく「文化」というべき能力を見せるわけである。だからここにエヴァが期待を寄せる余地がある。エヴァは「文化」の再建者として、ヒトからの脱出を試みるのである。 最良の哲学書。ディキンスン最高傑作は本作で決まり。愛の10点を捧げる。 (そういえば本作のテーマはかなり「ドグラ・マグラ」とも重複するよ。だから評者、「ドグラ・マグラ」の科学理論が一回り回って異端奇説じゃない示唆的なものになってる、と言ったでしょ) |