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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1977件

プロフィール| 書評

No.1977 5点 虎よ、虎よ!
アルフレッド・ベスター
(2026/02/16 22:07登録)
“ジョウント”と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!
Amazon内容紹介より。

本サイトでの評価が高かったので読んでみましたが、正直期待通りとは行きませんでした。解説にある様な十年に一度の傑作とはとても思えません。私には合わなかったとしか言えないですね。「これだから素人は」という声があちらこちらから聞こえてきそうですねえ。そうです、私は本を読む事に関しては元々素人だと思っていますので、どうしようもありません。

本作はジョウントありきの作品なので、冒頭でジョウントが詳細に説明され、その時点ではかなり高得点が期待できると感じました。なかなか面白い発想だと思いました。その後もメインストーリーに関しては楽しめましたが、所々で説明不足で情景が浮かんできません。冗長だったのも気になるところ。ラストははっきり言って訳が分かりませんでしたね。残念な結果に終わりましたが、これはひとえに私の読解力の無さから来るものだと思いますので、この感想は気にせず他の方の書評を参考にされますようお願いします。


No.1976 6点 ゾンビ3.0
石川智健
(2026/02/14 22:23登録)
香月百合は新宿区戸山の予防感染研究所に休日出勤する。研究熱心で優秀な下村翔太や、医学博士で女性所員憧れの加瀬祐司も出勤していた。日曜なのに全所員の8%ほどの計40人が研究所にいるようだ。席に着いてWHOのサイトに接続すると、気になる報告があった。アフガニスタンやシリアなどの紛争地域で人が突然気絶し、1分前後経つと狂暴になって人を襲い始めるという。しばらくすると研究所内の大型テレビに、現実とは思えないニュース映像が映った。人が人を襲う暴動が日本各地で起こっているというのだ。いや、世界中で。WHOの報告と関係があるのだろうか。研究所は2メートルの塀で囲われているが、外が騒がしくなってきた。テレビ画面に向かって所員が呟いた。「これゾンビでしょ」。
Amazon内容紹介より。

まあ面白かったけれど、終盤までテレビ越しにゾンビが増殖しているのを目の当たりにしているのに、イマイチ切迫した空気が感じられなかったのが残念。それと最後まで、何故世界中で同時多発的にゾンビが現れたのかが描かれていなかったのも、スッキリしませんでした。しかし、終盤になってゾンビが出現した原因を突き止めていく過程は、目を瞠るものがあり、それまでと打って変わって生き生きとしてきます。
予防感染研究所の面々も、途中で参戦した現役警察官の一条やゾンビオタクの城田もそれぞれ個性的で良かったと思います。終盤ではゾンビと無関係の意外な展開が待っており、その意味でも楽しめます。





【ネタバレ】





結局そもそもの原因はモジホコリという粘菌であり、脳がないにも拘らず記憶能力を持っているというものだった訳ですが、これは実在します。読み終わってから気になって検索せずにはいられませんでした。興味のある方はググってみて下さい。尚コロナに関する記述はほんの僅かでした。同じ感染症と云う事でもっとスポットが当てられるかと思いましたけどね。まあゾンビとは関係ないから仕方ないでしょうか。


No.1975 7点 うたかたの娘
綿原芹
(2026/02/10 22:44登録)
道に佇む不気味な人物をきっかけにしてナンパに成功した「僕」。相手の女性と雑談をするうちに故郷の話になる。そこは若狭のとある港町で、奇妙な人魚伝説があるのだ。そのまま「僕」は高校時代を思い出し、並外れた美しさで目立っていた水嶋という女子生徒のことを語る。彼女はある日、秘密を「僕」に明かした。「私、人魚かもしれん」幼い頃に〈何か〉の血を飲んだことで、大病が治り、さらには顔の造りが美しく変化したのだと――。
Amazon内容紹介より。

第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。
連作短編形式の長編小説で、大作ではないものの、読み応えは十分ありました。読後、これは綾辻行人のホラーに通じるものがあるなと思ったら、選考委員の一人である綾辻氏は本作を推していたと書いていて、ああやっぱりなと思いました。

四作の短編はそれぞれ少しずつテイストを変えていますが、特に人物像を鋭い刃物で抉る様に描いている点は共通しています。中でも男に関しては誰も彼もろくでなしばかりで、読んでいて男ってのは駄目だよなあと思わせられました。この作者はその他にも構成やストーリーの流れ、控えめながら時にハッとさせられるグロいシーンなどに見られる様に、天賦の才を与えらえた逸材なのではないかと思います。書けそうで書けない、誰にも真似できない自身の確固としたスタイルを貫いていて好感が持てました。ただし読んで気持ちの良いものではありません、逆に気持ち悪いのが癖になるのです。ホラーですから、これくらいで丁度良いのではないですかね。


No.1974 7点 消失村の殺戮理論
森晶麿
(2026/02/08 22:19登録)
帝旺大学人文学部文化人類学科の若き准教授・岩井戸泰巳率いる岩井戸研が赴いたのは、噂として存在が囁かれる地図にない村ーー網花村。
文科省が隠匿するその村では、双頭の鯢(はんざき)ーー巨大な大山椒魚の神に生贄を捧げる〈花匣の儀〉を執り行っていた。
捧げた生贄の消失を受け入れている彼らの閉鎖世界で発生する人々の大量消失……これは人間の策謀か、人智を超えた神の仕業か?
尋常の推理は体を成さず、異形の真実が剥き出しにされるーー!
Amazon内容紹介より。

特殊設定の複雑系トンデモミステリ。私は本作を本格と言い切る事が出来ません。ジャンルミックス的な、根幹は本格ミステリですが、ホラー、SF、ファンタジーなどの要素が入り混じった新感覚のミステリだと考えます。前作程の衝撃はないものの、入り組んだ人間関係や一見単純に見える大量人間消失事件の数々の裏に隠された○○には、唸るしかありません。

本作にはトリックと言うより様々な絡繰りが潜んでおり、最早ハチャメチャとしか思えない何でもアリの特異なミステリになってしまっています。私の様な荒唐無稽な話が好きな読者には持って来いの小説だと思います。多分それ程多くないファンの中でも賛否両論を呼びそうな内容だけに、私は勿論是としますが、今後の評価を待ちたいと思います。一応ミステリとしての体裁は取れていますし、破綻している訳ではありませんので、それだけは念のため申し上げておきます。


No.1973 7点 阿佐田哲也麻雀小説自選集
阿佐田哲也
(2026/02/04 22:08登録)
『麻雀放浪記 青春編』と自選の短編16作を収録。阿佐田哲也の麻雀小説の短編にハズレがないのは解っていましたから安心して読めました。何作かは角川文庫に収められているので重複していますが、取り敢えず全部読みました。『麻雀放浪記』は読みたいところだけ抜粋して。過去に五回ほど読んでいますので、今更全編読む気にはなれませんでした。

流石に阿佐田哲也、何を書いても凄みが違いますね。主人公の私(著者自身を投影したもの)が強敵のバイニン達と対決するという話が殆どですが、迫力とちょっとしたユーモアと人情とがない交ぜになった、独自の文学を披露しています。個人的には、麻雀劇画『哲也』に登場していたダンチというオヒキ(相棒)とガン牌の印南の二人の正体が判明したのが嬉しい誤算でした。それこそ今更ですがね。再読作品も結末を忘れていたりして、改めてそんな話だったんだと腑に落ちる場面もあり、全作楽しめました。


No.1972 7点 狼少年ABC
梓崎優
(2026/02/02 22:25登録)
「俺、昔、喋る狼に会ったことがあるんだよ」カナダの温帯雨林にやってきた三人の日本人大学生。狼の生態に関するフィールドワークのかたわら、ひとりが不思議なことを言い出して──(表題作)。
大人になる前の特別な時間を鮮やかに切り出した、四つの中編を収録。『叫びと祈り』『リバーサイド・チルドレン』の著者が贈る、ミステリ仕立てのエモーショナルな青春小説。
Amazon内容紹介より。

『放課後探偵団』を読んだのが12年前の事。その最後に載っていたのが本作品集の掉尾に収録されている『スプリング・ハズ・カム』でした。それを知ったのは第三話を読んでいた途中で、あれ?読んだっけとなりました。そしてそれを読み始めても内容が全く思い出せませんでした。いけませんね、年のせいでしょうか、一昔前の短編を忘れてしまっているとは情けない。

しかしながら再読して良かったと心から思いました。これは間違いなく傑作です。他の作品も水準をクリアしており、第一話の『美しい雪の物語』はミステリ色が薄いです。『重力と飛翔』に似たトリックは読んだ事があります。それでも表題作と共に佳作だと思います。これだけの実力を持っているのなら、もっと書けば良いのにと勝手な願望を抱く私なのでした。


No.1971 4点 BOXBOXBOXBOX
坂本湾
(2026/01/30 22:18登録)
デビュー作にして第174回芥川賞候補作! 第62回文藝賞受賞作。
宅配所に流れる箱を仕分ける安(あん)。ある箱の中身を見た瞬間から次々に箱が消えていって――顔なき作業員たちの倦怠と衝動を描き、新時代の〈労働〉を暴くベルトコンベア・サスペンス。
「私」であることを必要とされない労働において、「私」を保ち続けることはいかにして可能か?時代の閉塞感をこれでもかと執拗に抉りだす圧巻のデビュー作。
Amazon内容紹介より。

確かに窃盗という犯罪を描いていますが、サスペンスでもなければミステリでもありません。文藝賞受賞だか芥川賞候補だかか知りませんが、どこが面白いんだろうと言うのが私の率直な感想です。舞台は宅配所に固定されており、ストーリー性等は全くありません。起承転結的なものはありますが、紆余曲折もなく一向に盛り上がらないですね。粘着質な文章でそこは独特ですが、慣れないとどうにも馴染めません。

人間が描かれていないとは言いませんが、個性が足りない為折角の人物描写も中途半端で、褒められたものではありません。どういう感性を持っていればこれを十全に理解できるのでしょうかね。後味も悪く、一体自分は何を読まされたのかさえ曖昧になってきます。興味本位や好奇心で読む小説ではありませんね。


No.1970 5点 吾輩が猫ですか!?
小山洋典
(2026/01/28 22:17登録)
度重なる激務に耐えかね、ついに倒れてしまったアラサーのサラリーマン・明智正五郎は、『神』による理不尽な気まぐれ(?)によって、一匹の猫に憑依させられてしまう。
そして、突如として始まった、猫の飼い主のひきこもり女子高生・柊との共同生活。
猫になった明智には、神から次々と柊を救うための試練が与えられ……?
Amazon内容紹介より。

ファンタジーで登録しようかと思いましたが、テーマは其処ではないのでその他にしました。ミステリでもないのに何故明智正五郎なのかは不明。別に作者がミステリファンという訳ではなさそうです。とにもかくにも猫に憑依された明智は悪戦苦闘の連続です。そりゃそうでしょう、猫には言葉が話せないし、ニャーとかフニャンとか鳴くか、誰かに纏わり付くとか、ドアをカリカリと爪で引っ掻くくらいしかコミュニケーションを取る方法がないですから。

しかし、ししゃも(猫の名前)になってしまった明智は神からの試練を達成しない限り人間には戻れないのですから必死です。何とか柊が抱える問題を少しずつ解決していきます。その過程は女子高生柊の成長物語でもあります。そう、当事者は柊の方であり、明智はそれを支えながら、時に人間に戻ってアドバイスを与える脇役なのです。ストーリーとしては当然ながらあくまで予定調和的であり、意外性はありません。しかし、引き籠っていた柊が登校を始め、人間関係を構築していきながら過去のトラウマを克服していく姿を描いた本作は王道の青春小説と言えるでしょう。心が汚れていない純粋な人ほど感動しやすい作品だと思います。


No.1969 5点 爬虫館事件 新青年傑作選
アンソロジー(ミステリー文学資料館編)
(2026/01/26 22:15登録)
19篇の短編から成る『新青年』の傑作選。という事でどれだけ探偵小説を楽しめるかと思ったら、殆どがホラーで、他は純文学だったりギャンブル小説であったり様々。大体名前くらいは知っている作家でしたが、お初にお目に掛かるのは瀬下耽、南沢十七、三橋一夫、橘外男の四人でした。新青年と言っても色々書かれていたんですね。考えてみれば角川ホラー文庫なのでホラー主体なのは事前に確認できた訳ですが、全然頭になかったですね。

やはり最も印象に残るのは横溝正史の『面影双紙』で、これは別格です。怪しい雰囲気の中にもミステリ要素があり、さすがの面目躍如と云ったところです。他に良かったのは、大阪圭吉の奇想が光る『灯台鬼』、海野十三のシリーズ探偵帆村壮六が出て来る『爬虫館事件』、角田喜久雄の『狂水病患者』、三橋一夫の『猫柳の下にて』、橘外男の名作『逗子物語』辺りですかねえ。流石に戦前の作品なので、どれも時代を感じさせるのはやむを得ませんが、今読んでみて現在のミステリシーンの作品群と比較してしまうとやはりレベル的に劣る感は否めませんね。


No.1968 8点 放課後にはうってつけの殺人
佐藤友哉
(2026/01/23 22:34登録)
1988年北海道千歳市。クリスマスイブの夜、13歳の浅葉悟は、父の机から「血のついたコート」を発見する。テレビは白いワゴン車が絡む女児殺害事件を報じ、警察は町を巡回していた。父の乗る車もまた白いワゴン車だったのだ。平穏な日常を守るために、悟は少し離れた林に行き、「血のついたコート」を焼くのだが、その一部始終をクラスメイトの見船美和に見られてしまう。見船は悟に「私といっしょに、犯人をさがしませんか?」と意外な提案を持ちかけるのだった。
Amazon内容紹介より。

私は本作が大好きです。本来なら人に薦められる様な作品ではないでしょうが、個人的に非常に気に入っています。青春ミステリと言うより思春期ミステリと言うべきかなと感じます。所謂中二病的な要素をたっぷりと含んだ、異形の小説であり、主人公の浅葉悟に対するアンチテーゼ的存在として探偵が立ちはだかる歪さが特徴であります。

中盤までは不穏な空気と平和な雰囲気が混在した、仄かにメフィスト臭が匂う青春小説ですが、第四章で様相が一変します。一体何が起こっているのか、小説として破綻しているのではないかとさえ思いました。勿論それも作者の計算通り。
尚Amazonのレビューには若干ネタバレが含まれている部分がありますので、読まれる方は注意していただきたいと思います。一部には気持ち悪いとの感想もあるようですが、それを承知の上で私はこの作品を愛して止みません。コスパも悪いし図書館ででも借りて読むのも良いかなと思いますよ。ただし、これを許容できるかどうかの責任は持てませんので悪しからず。


No.1967 5点 謀殺のチェス・ゲーム
山田正紀
(2026/01/19 22:29登録)
プロローグで男女二人がある事件を起こしたことに始まるこの物語には、かなり期待していました。これは面白そうだと思っていたら、本筋は全く違ったものであったのでややテンションが下がりました。本作は作者が27歳の時に書かれたもので、若書きにありがちなぎこちなさが感じられます。ここは表現を変えたほうが良いのではないかと思える箇所が幾度か見られたり、くどい程同じ単語が頻出するのにもちょっと疲れました。

物語自体は面白い場面もあり、特に佐伯絡みの戦闘シーンなどはなかなか迫力もので、佐伯自身の魅力も相まってストーリー全体を支える重要なパーツになっていると思われます。主に対決する立花の方ももう少し人物像が描かれていると、もっと映えたのにねえ。
私はハルキ文庫で読みました。解説の西澤保彦は山田正紀LOVEを前面に押し出して、自分は山田正紀になりたかったと書いています。その西澤氏も亡くなり、時の無常を感じずにはいられません。思えばデビュー作の『解体諸因』にときめき、『神のロジック人のマジック』で唸らされたものでしたが。


No.1966 7点 もつれ星は最果ての夢を見る
市川憂人
(2026/01/16 22:24登録)
量子テレポーテーション通信の開発によって、遠く離れた星同士でも通信が可能になった時代。宇宙開発コンペに参加するため、地球から十光年離れた星に降り立ったエンジニアの零司と相棒のAI・ディセンバーは、別の区域にいるはずの競合相手、ピエールが何者かに銃殺されているのを発見する。
ほかの参加者に事態打開の協力を求めるも拒絶され、さらにコンペ運営本部との通信も途絶えてしまい、零司とディセンバーは孤立無援に陥るが――
Amazon内容紹介より。

なかなかのハードSFだと思います。難解な表現や専門用語が頻出する場面もあり、頭の弱い私は話に付いて行くのに精一杯で、何とか想像で補って読みましたが、全容を把握できたとはお世辞にも言えないですね。再読すればそれなりに納得行くシーンもあったでしょうが、いずれにしても頭の中がぐちゃぐちゃにされるでしょう。悪い意味ではありませんよ。

ハードな割りにはライトな文体で、会話文が多くて助かりました。終盤は圧巻でこれは間違いなく本格ミステリだと思いました。外見はSFそのものではありますが、要約すればやはり作者らしいミステリだなと。様々な問題を孕んだ本作は一般読者向けではないものの、SFファンもミステリファンも十分納得の出来であり、読んで損はないと断言できるだけのものは持っている作品だと思います。


No.1965 6点 巫女は月夜に殺される
月原渉
(2026/01/12 22:41登録)
巫女修行中の姫菜子と環希は、「相似巫女」と呼ばれるほどうり二つ。ある特別な夜、二人は伝統的な神事に参加した。それは閉ざされた村の秘められた祭祀。灯影ゆらめく神託のとき、絶叫が響く。密室と化した本殿で、首と右腕が無い巫女が、祭壇の前に鎮座していた――。謎めいた六人の巫女、二つの家系、禍々しい惨劇の真相とは。〈巫女探偵〉姫菜子と環希の推理が冴えるミステリー!
Amazon内容紹介より。

首と右腕がない巫女の死体が密室化した本殿で発見される、と来ればこれは読まない訳にはいかないという事で読みましたが、期待通りとは行かなかったもののそれなりに楽しめました。しかし、被害者の正体はすぐに判明してしまうのが、私にとっては残念でした。まあ誰が殺されるかはある程度読めば簡単に分るので仕方ありませんが。それでも首と右腕を切断する理由は今までになかった動機ではないのかなと思います。それだけでも評価されるべきでしょう。

全てが解決した後に示される真実にはちょっと驚かされました。成程そうだったのか、おまけ程度とは言えこんなところでそんなトリックを?って感じで良い意味で騙されました。姫菜子と環希という瓜二つの巫女探偵の意味があまり感じられず、何か裏があるのではと疑った私はやはり凡人の発想しか持てなかった訳ですね。


No.1964 6点 右園死児報告
真島文吉
(2026/01/10 22:23登録)
右園死児案件が引き起こした現象の非公式調査報告書である

明治二十五年から続く政府、軍、捜査機関、探偵、一般人による非公式調査報告体系。右園死児という名の人物あるいは動物、無機物が規格外の現象の発端となることから、その原理の解明と対策を目的に発足した。
Amazon内容紹介より。

読み始めて違和感を覚えたのは、作者がラノベ出身の作家だったからですね。Amazonレビューには読み易いという意見がいくつか見られますが、私は逆に若干読みづらさを感じました。右園死児(うぞのしにこ)とは一体何なのか。人間でもあり、男でもあり、女でもあり、臓器の一部でもあり、無機物でもあり、動物でもあり。その正体は全く断定出来ないばかりか、右園死児化現象、右園死児に極めて近しい何かみたいな表現も散見されます。

前半の報告は謎に満ちていて私好みでしたが、報告者や登場人物が後の話に次々と登場して来て、何の説明のないままエツランシャというこれまた正体不明のものと戦ったり死んだりしていきます。誰も彼も、いかなる組織もその出自がはっきりせず、皮肉にもそれも読者の不安を煽る結果となっている様に思います。結論を述べれば本作は新しいホラーの形という事になるのでしょうか。これまで私が読んで来たホラーのどれとも似ていないし、最早異形の文学の異端児と言っても過言ではないと思いました。


No.1963 4点 騙し絵の檻
ジル・マゴーン
(2026/01/08 22:06登録)
無実の主張もむなしく、二人を殺めた冷酷な犯罪者として投獄されたビル・ホルト。そして十六年が過ぎ、仮釈放された彼は推理の鬼となる──自分を罠に嵌めた真犯人を突き止め、殺すために。疑惑を追い、仮説を検討しつくした果てに、明らかになる驚愕の真相! 識者により、2000年代の十年間に翻訳された海外本格ミステリの頂点に選ばれた、犯人当ての大傑作。解説=法月綸太郎
Amazon内容紹介より。

正直に言うとイマイチでした。まあ読解力の無い私ですからいつもの事と思って流していただきたい。まず登場人物に個性がないので、というか描かれていないので、誰が誰だかよく理解出来ませんでした。何度も主な登場人物一覧を見返しながら読んだのでストレスが溜まりました。解説の法月綸太郎もべた褒めで何だか鼻白みました。

ホルトの推理は単なる推測にしか過ぎず、説得力を感じませんでした。衝撃の展開か何か知りませんが、最後の最後まで盛り上がらず終わった感じでしたね。これが最高と思う読者は優れた読者かも知れません。私の様に翻訳物に慣れていない者には、どこが面白いの?としか言えません。地味な上に状況が説明されていない殺人事件、情景が描かれない文体、伏線の無い本格派・・・。本当に本格ミステリですか、これ。


No.1962 6点 ザ・クーデター
砧大蔵
(2026/01/05 22:32登録)
~フィリピン動乱収拾のため米軍を中心とした多国籍軍が派遣される。その後方支援として自衛隊も派遣されるが、憲法を初めとした法律にがんじがらめにされ、満足な反撃も出来ず戦死者を出してしまう。政府はのらりくらりとあいまいな態度で責任を全部自衛隊に被せてしまうが、現場の自衛官達の怒りは爆発する。日本にとって自衛隊とは何なのか?根源的テーマを~~問い、時代を挑発するポリティカルフィクション!~
Amazon内容紹介より。

本作は日本国憲法第九条、集団的自衛権の行使、憲法改正などの言語が出て来ます。つまり自衛隊は果たして軍隊たり得るのかを読者に問う内容となっています。ふぬけた戦記物よりもよほど迫力があります。特に第3章の、内閣総理大臣を始めとする閣僚たちの議論は目を瞠るものがありますが、結局憲法が立ちはだかっていてその先には進めません。

一方、陸上自衛隊の一佐の主人公二人は、政府の命令の前に小銃しか持たされず敵地フィリピンに赴任します。アメリカの後方支援とは言え、どこから攻撃されるのか分からない状況で、戦闘は許されません。戦争の最中真面な武器も装備しないで防弾チョッキさえ許されない自分たちの立場に激しい疑問を覚えます。自衛隊ですら一枚岩でない実情を考えると、正義とは何か政治とは何か、そして憲法とは何かと云う命題を突き付けられたような気がしました。
戦闘シーンの派手さは少ないものの、その分リアリティと男たちの苦悩が感じられる力作だと思います。


No.1961 5点 パチプロ・コード
伽古屋圭市
(2026/01/03 22:20登録)
全選考委員が絶賛した極上の犯罪コメディ。痴漢冤罪事件で会社をクビになって以来、パチプロとしてなんとなく日々を送る主人公。ある日、パチンコに興じている最中に謎の美女に見込まれ、大当りを引くための違法なセットロム“ゴト”を使って一儲けすることになってしまった。さらに仲間に引き合わされ、暗号の解読を求められる。それは、二人に裏ロム販売を指示していた黒幕が売上金を独り占めして姿を消し、金庫に残していったものだった……。パチンコ攻略法の裏にちらつく謎の美女、暗号トリック、殺人。裏ゴト師が仕掛けた暗号を解け!
Amazon内容紹介より。

パチンコと暗号がメインかと思いきや、それは通過点に過ぎずストーリーは二転三転して出来はそれなりかと。最初に攻略される裏ロム台のフルーツ王国4は明らかに海物語シリーズをパクったもので、魚群の代わりにココヤシ群、マリンちゃんの代わりにパインちゃんが出て来ます。ちょっと笑えます。暗号の方はかなりややこしく、コンピューターのある特徴を切り取って、更に捻った末に漸く解かれますが、そんな簡単には答えに辿り着けません。

犯罪コメディという程可笑しさはなく、普通のクライムサスペンスにちょっとした人情物を加えたような物語です。人間はそこそこ描かれていて飽きる様な事はありませんが、これと言った盛り上がりもなく淡々とした印象が強かったですね。個人的にはもう少しパチンコに特化したものを期待していたので、その意味では裏切られました、まあ可もなく不可もない感じでした。


No.1960 7点 名探偵再び
潮谷験
(2025/12/31 22:20登録)
私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔(ときやしょう)には、学園の名探偵だった大叔母がいた。数々の難事件を解決し、警察からも助言を求められた存在だったが30年前、学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、ともに雷辺の滝に落ちて亡くなってしまった……。
悪意が去ったあとの学園に入学し、このままちやほやされて学園生活を送れると目論んでいた翔の元へ、事件解明の依頼が舞い込んだ。どうやってこのピンチを切り抜けるのか!?
Amazon内容紹介より。

第一章でそうだこれで良い、シンプル・イズ・ベストなんだと深く肯く私。決して複雑ではないけれど、推理がびしりと決まって実に綺麗な解決は見事としか言い様がありません。こう云うので良いんだよとテンションが上がりました。しかし第二章第三章は納得が行かない点が若干あり、微妙な感じになってしまいました。

そして第四章はまたまた好感度がアップ。タイトルや文体から演技なのかとも思えましたが、そうではありません、ちゃんと毒薬が入っていて安閑としていられない緊迫感が生まれます。更に終章で、キタ―――!これ又そうだったのかと、うんうんと頷く私。やられた爽快感に存分に浸れました。終わり良ければ総て良しと一概には思いませんが、着地が見事に決まってやはりエンディングは大事なんだなとひしひしと感じました。なかなかの良作だったと思います。


No.1959 6点 スカーフェイク 暗黒街の殺人
霞流一
(2025/12/28 22:37登録)
抗争渦巻く港町で発見されたある有名人の死体が暗黒街を揺るがした。名を上げようと次々と自白する「犯人」たち。これをことごとく論破する探偵。何かが転倒している「特殊設定ミステリ」にして「連続自白推理」の書き下ろし本格ミステリ!
Amazon内容紹介より。

ジャンヌの次はジャンゴかよ、偶然とは言え出来すぎじゃないか。そして『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』。カポネ、デリンジャー、バラキ、これまた出来すぎだと思いました。そう、これは暗黒街の世界で起こった密室殺人なのです。設定は逆多重推理物。メニューはフルコースですが、メインディッシュばかりで少々胃もたれがします。その割には小ネタ集な感じで大技が見られないので、小粒な印象が拭えません。しかし、暗黒街の雰囲気は十分に堪能出来ました。ある意味ハードボイルドです。

事が起こればまずは拳銃とナイフで解決するという掟が、名探偵の活躍を煽ります。探偵は次々に現れる自称犯人の自白をなんだかんだで否定していき、最後には互いに大袈裟ではなく死を賭ける対決を繰り広げるという、ワンパターンな筋道に段々飽きて来ます。最初はおお!成程等と思いながら楽しめましたが、段階を経るごとにその仮説が御座なりになっていくのも、もう少し工夫が欲しかったところです。まあ贅沢な悩みですけど。


No.1958 6点 ジャンヌ
河合莞爾
(2025/12/26 22:19登録)
警視庁第一機動捜査隊の相崎按人は、ありえない殺人現場に遭遇した。ジャンヌという女性型ロボットが主人を殺害、死体を洗浄していたのだ。尋問では犯行を認めたが、動機は守秘義務を盾に黙秘。そして人間に危害を加えてはならない「ロボット三原則」には抵触しないと主張する。製造元への移送を命じられた相崎だったが、武装集団に襲撃され……。衝撃の近未来SF×ミステリ。
Amazon内容紹介より。

物語は終始一貫してジャンヌが自律行動ロボットの三原則に背いてどう殺人を犯したのか、そして何故彼女は雇い主の主人を殺したのか、の二つの謎が根底にありきで進みます。ホワイの方は誰もが想像する通りだと思います。これは普段ミステリを読まない人でも簡単に解ります。そしてもう一つ三原則の問題は、理屈っぽくて煙に巻かれた様な感覚が過ぎりました。作者としては議論を尽くしたつもりだったとは思いますけどね。

それでも尚面白かったのは間違いありません。SFとミステリの融合が上手く嵌った良い例だと思います。ロボット三原則はアシモフの提唱からほとんどそのまま引用されています。その意味ではロボットが開発され始めた当時から、人間の為に利用されるように使われてきた訳です。本作はロボットはどこまで人間に近づけるのか、感情は持っているのか、人間に反逆し得るのかなどの問題を含有しています。しかし、この様に人の代わりに家事全般をまかせ、親代わりに子供の面倒を見る時代はまだまだ先になりそうですね。

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