メルカトルさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1835 | 5点 | 悪童日記 アゴタ・クリストフ |
(2024/11/20 22:25登録) 相変わらずAmazonの評価の高さが信じられない作品の一つ。おそらく私の感性が本作と合わなかったか、或いは自身の読解力の無さに起因すると思われますが。 物語は第二次世界大戦の影が色濃く感じられるヨーロッパのどこかの国が舞台。一切固有名詞が使われていないので、これは解説からの受け売りです。父親を知らず祖母に預けられた幼い兄弟が主人公で、一人称はぼくら。つまり双子のうちどちらでも良いわけで、これが又感情を殺した筆致で描かれ、喜怒哀楽が全く見えません。何を考えているのかは解らない訳ではないですが、どう感じているのかは全く書く気がないのか、故意にそうする事で何かをぼやかそうとしているのか、私には理解出来ません。 一方、双子をこき使い乱暴な言葉で叱責したりするおばあちゃんは実によく描かれています。この人の魅力で支えられている部分が大きく、その意味では準主役と言って良いでしょう。 しかし、私には一つだけ腑に落ちない謎が残されていて、それが気になって仕方ありません。何故なんだと、どうしてなんだと。まあ書かれていないのだからどうしようもありません。最後の章は面白かったです。と言っても各章が2ページくらいですけど。 |
No.1834 | 6点 | 幽霊詐欺師ミチヲ 黒史郎 |
(2024/11/18 22:35登録) 未練を残す幽霊をだまし、財産を巻き上げる集団がいた――その名は幽霊詐欺師。多額の借金から自殺を図ろうとしていた青年ミチヲは、苦悩から解放される代わりに、「幽霊を騙しきる」謎の仕事をもちかけられるが!? Amazon内容紹介より。 主人公のミチヲはどこにでも居そうな普通の青年ですが、結婚詐欺に遭い多額の借金を抱え首吊り自殺をしようとするシーンから始まります。そこに現れたのは一匹の大型犬。自殺を邪魔しようとするような仕草でミチヲを一瞬思いとどまらせます。更にカタリと云う謎の男が出てきて・・・。という、なかなか吸引力を持った二人と一匹の邂逅から始まり、物語は悲惨な自殺を遂げた女性の幽霊を騙す仕事の代わりに借金の肩代わりをしてもらう、というのが第一話。 上記の様に普通のホラー感覚で読むのはちょっと違うかなと思います。 登場人物が極端に少ない為、すんなりとこの異様な世界観に入って行けるでしょう。第一話では主にミチヲと女性の幽霊との駆け引きが読みどころとなっています。 第二話も非業の死を遂げた少年の悲しい物語です。こちらでもミチヲは少年の幽霊に感情移入しながらも何とか仕事を全うする事が出来ます。幽霊を騙すというより、幽霊の感情を理解し、納得させて事を収める感じです。まずまず評判通りの良作だったと思いますね。 |
No.1833 | 5点 | おがみむし 遠藤徹 |
(2024/11/15 22:42登録) 「これが恋というものなのだ」。男は私の心臓を丸呑みにして、そう言った。虜になった私は、11名の女と共に僕となった。ところが13番目の少女だけは違っていた。なぜなら彼女は……。名手が放つ耽美なるホラー! Amazon内容紹介より。 表題作は上記の通りですが、短いです。まあこれはホラーと言えばホラーでしょう。解説によれば「メタファーが現実に転化する世界」。正に言い得て妙です。さらに問題作とも言える本命の長編『くくしがるば』に関しても、この解説者は的確にカオス状態の作品を丁寧に解きほぐしてくれています。大したものだと思いました。 単行本で刊行された時のタイトルは『くくしがるば』でしたが、文庫化の際にどちらかと言えば分かり易い『おがみむし』としたそうです。その方が売りやすいという理由でしょうが、本来なら逆でしょう。飽くまでメインは『くくしがるば』の方ですので。こちらは言葉遊びが過ぎる様で、真面に書けばもっとスッキリしたのではと思います。講談の様でもあり落語の様でもあり、作風とマッチしているのは確かなので、一概に読み難いなどとは言えませんが。 ストーリーとしてはラノベ風で、それを妙な言い回しで撹乱しながら悟らせない様な無駄な力を使っているのが見えてしまった読者は、作者の罠に嵌っているのでしょう。そのような事態は想定内だったのだろうと思います。取り敢えず、一度読んだだけでは十分に理解が及ばない面がありつつも、謎解き小説としても成立している所は評価できると思います。 |
No.1832 | 7点 | 私はチクワに殺されます 五条紀夫 |
(2024/11/11 22:20登録) チクワの穴を通して人の姿を見ると、その人物の死に様が見える――。巷に溢れるチクワの秘めたる怖ろしい力に気付いたトラック運転手の男は、気づいてしまった事実の重さに苛まれ、やがて身を滅ぼしていく。 荒唐無稽な設定から始まる奇妙な物語は、複数の視点から語られることで全く異なる側面を見せる。ラストには予想不可能な結末が待ち受ける、前代未聞・驚天動地のチクワ・サスペンスここに開幕! Amazon内容紹介より。 本日11月11日はちくわの日(本当です)。その日に本作を読み終え、こうして書評を書いている事に、多少の感慨を覚えます。 私はこのようなぶっ飛んだ作品が大好きです。決してふざけているとか、色物的なミステリではありません。真面目なというか、不真面目ではない真っ当なミステリだと思います。チクワの穴から覗いた人の死に様が見えるという、圧倒的に馬鹿馬鹿しい設定が、何を書いているんだと最初は思いました。しかし、読んでいくうちに何故そんな馬鹿らしいことが現実に起こってしまうのか、不思議でなりませんでした。 勿論その裏には隠れた真実がある訳で、それを実に上手く料理している手際の良さは、この作者只者ではないなと思わせます。荒唐無稽な設定に現実味を持たせる見事な逆転劇が目の前で繰り広げられます。 ラストは意見が分かれるところでしょう、そこで評価が割れる可能性も否定できません。私自身はどちらとも言えないとする立場を取りたいと思います。ただもう少しスッキリした幕切れなら8点もあり得たかも知れません。しかし、これを読んで興味を持ったとしても安易に読まないで下さい。くだらないと思われるのも本意ではないですし、出来ればこのまま誰も読まず、密かに私の心の中だけで輝いていて欲しい気持ちも大いにありますので。 |
No.1831 | 5点 | 神に愛されていた 木爾チレン |
(2024/11/09 22:06登録) 若くして小説家デビューを果たし、その美貌と才能で一躍人気作家となった東山冴理。 しかし冴理は人気絶頂のさなか、突然、筆を断った――。 やがて三十年の時が経ち、冴理のもとに、ひとりの女性編集者が執筆依頼に訪れる。 「私には書く権利がないの」そう断る冴理に、 「それは三十年前——白川天音先生が亡くなったことに関係があるのでしょうか」編集者は問う。 「あなたは、誰かを殺したいと思うほどの絶望を味わったことってあるかしら」 ――そして、この時を待っていたというように、冴理は語り始める。 高校文芸部の後輩、白川天音が「天才小説家」として目の前に現れてから、 全ての運命の歯車が狂ってしまった過去と、その真実を……。 Amazon内容紹介より。 一言で表現するなら浅い。内容が薄っぺらいってことですかね。これはミステリと呼べるのでしょうか、敢えてジャンル分けすればイヤミスなのでしょうが。サラッと読めて後に何も残らない感じです。日頃から苛烈なミステリを読んでいる身としては、いささか物足りませんでした。 一応、最終章でどんでん返しを目論んだ訳ですが、主人公の冴理が目の前の相手の心理状態や雰囲気、空気を読めなさすぎな気がします。女性同士で、それくらいは分かるだろうと思わず突っ込んでしまいそうでした。 まあ些細な誤解が悲劇を生んでしまった物語なんですが、その代償が余りに重く、読んでいて辛くなりました。それでも生ぬるい印象が拭えないのは、文章が上手くないからでしょうね。表現力が拙いと思いました。 |
No.1830 | 7点 | 九尾の猫 エラリイ・クイーン |
(2024/11/06 22:39登録) 次から次へと殺人を犯し、ニューヨークを震撼させた連続絞殺魔〈猫〉事件。すでに五人の犠牲者が出ているにもかかわらず、その正体は依然としてつかめずにいた。指紋も動機もなく、目撃者も容疑者もまったくいない。〈猫〉が風のように町を通りすぎた後に残るものはただ二つ――死体とその首に巻きついたタッサーシルクの紐だけだった。過去の呪縛に苦しみながらも、エラリイと〈猫〉の頭脳戦が展開される! Amazon内容紹介より。 いわゆる劇場型犯罪に挑むエラリイ。一応本格ミステリではありますが、色んな要素が詰まった大作であり、またもや苦悩する探偵像が印象的な作品でもあります。途中ちょっとダレる部分があったり、個人的に余計なパニックシーンなどがあり、評価が難しいところですね。ニューヨーク全域での無差別殺人事件なのですが、登場人物の中に犯人がいるのは間違いないので、あまりスケールの大きさは感じません。それよりもサスペンス色が濃いミステリと感じました。 しかし流石クイーンと思わせるに十分な論理と心理的動機の追及、ミッシングリンクの解明シーンの素晴らしさ、粋な捻り具合など、各所にその手腕を見せ付けています。 まだまだ未読の作品があり、今後も楽しませてもらえそうです。 |
No.1829 | 6点 | 誘拐 アンソロジー(出版社編) |
(2024/11/01 23:36登録) 誘拐、誘拐、また誘拐。これでは流石に飽きるのではないかとの不安を、本書は吹き飛ばしてくれました。誘拐のみに特化したこの作品集は多少の瑕疵はあるものの、様々なバリエーションを見せており、それぞれが一捻りしてあり、尺は短いけれど各々違う楽しさを味わわせてもらえます。 どの短編が突き抜けている訳ではなく、平均的によく出来ていると思います。印象深いのは、五十嵐均、折原一辺りでしょうか。有栖川有栖は懐かしい面々が登場しますが、ストーリーとしては小粒で期待通りとはいきませんでした。あと香納諒一の逆転の発想が面白かったですね。 読む前はそれ程とは思いませんでしたが、想像以上に良作揃いでした。 |
No.1828 | 5点 | 転売ヤー殺人事件 松澤くれは |
(2024/10/29 22:40登録) プロとして、誇り高く転売行為を続ける「俺」。しかし巷では転売ヤーを狙った連続殺人事件が発生、現場の動画がSNSで拡散され、転売が社会問題として連日ワイドショーでも話題となる。 身の危険を感じつつ転売を続けている中、「俺」は人気中学生配信者の凸を受けてしまったことから自宅を特定され、転売ヤーの元締め「転売王」だという事実無根の噂を流されるなど、とんでもない状況に陥り……。 Amazon内容紹介より。 第一章は文句なく面白いです。これは期待出来ると思ったのもつかの間、物語が進む程にトーンダウンしていくのが遣る瀬無いと云うか、残念でした。 タイトルに堂々と殺人事件と謳っていますが、内容的には転売屋の実情を浮き彫りにするばかりで、ミステリとはほとんど無関係のストーリーとなっています。転売という世間的には余り好ましからぬ行為を生業としている主人公に、感情移入が出来ません。作者も立ち位置として、どちらかと言えば突き放した様な書きっぷりで、主人公を好意的に描こうとしていないのが文章から伝わってきます。 犯人もおよそ想像の範囲内で意外性も何もありません。一応サスペンスで登録しましたが、それ程サスペンスフルではなく、その意味では読む価値はありません。ただエピローグで、所詮転売行為は不正ではないものの、決して真似してはいけないものだと語っている気がして、何となく納得できましたね。 |
No.1827 | 6点 | 絶海ジェイル Kの悲劇’94 古野まほろ |
(2024/10/26 23:02登録) 先の大戦中、赤化華族の疑いをかけられ、獄死したはずの祖父が生きている。そう聞かされた「イエ先輩」こと八重洲家康は絶海の孤島・古尊島を訪れる。しかし、そこにあったものとは……! 隠された孤島。鉄壁の監獄。一望監視獄舎。そして、「ここから脱獄してみろ」という悪意に満ちた挑戦状。空前絶後の脱出劇が開演する! Amazon内容紹介より。 過去に起こった、絶海の孤島での脱獄劇を再現し、その中で如何に主人公の八重洲家康は解答を得られるのかという物語。 まず、謎自体が地味で事件も起こりますが、面白さは半減しているようです。その原因の一つには、クセの強すぎる文体にあります。細々した小技を積み上げて、それを解決に導く為ロジックを組み立てる過程に、重きを置いている様ですが、いささかくどい印象は拭えません。 アッと驚くべきシーンもありましたが、その見せ方に問題があり、素直に驚けませんでした。 まあ力作だとは思いますが、チマチマして小粒な感が抜けきれません。もう少し砕けた文章を書いて貰えたら、全体の評価や印象も変わったかも知れませんが、せいぜい6点が精一杯でしょう。 「読者への挑戦状」が二つも挟まれています。しかし、残念ながら余程の専門知識を有した人でないと、全容は掴めないと思いますね。あとバカミスっぽいというか、リアリティゼロのトリックもちょっと呆れました。 |
No.1826 | 6点 | ドッペルゲンガー奇譚集 アンソロジー(出版社編) |
(2024/10/22 23:03登録) ミステリ作家ら10人によるドッペルゲンガーをテーマにした短編集。 作風は真正面から取り組んだもの、変化球、SFに重きを置いたもの等様々でそれなりに楽しめます。一応角川ホラー文庫ではありますが、あまり怖いとか驚かされる印象はありません。 誰か一人でもドッペルゲンガーに対する正当な解答を科学的見地から書いてくれているかと期待していましたが、やはりそれは難しいようで、はぐらかされている様な感じの作品が多かったですね。ただ、辻褄を合せようと苦労の後は見られます。 最も短いながら面白かったのは、名前も知らなかった増田すず子という作家の『分身』であり、次点は生島治郎の『誰……?』でしょうか。しかし、全体的にそれぞれの持ち味を出してまずまずの佳作が揃っているので、合格点だと思います。それにしても、読んでみてドッペルゲンガーという超常現象の不可解さ、それを扱う難しさを思い知りました。 |
No.1825 | 5点 | 最後の忠臣蔵 池宮彰一郎 |
(2024/10/19 22:57登録) 血戦の吉良屋敷から高輪泉岳寺に引き揚げる途次、足軽・寺坂吉右衛門は内蔵助に重大な役目を与えられる。生き延びて戦の生き証人となれ。死出の旅に向かう四十六人を後に、一人きりの逃避行が始まった。 Amazon内容紹介より。 吉良邸討ち入り、その後の物語。四十七士の中で唯一生き残った男、足軽の寺坂吉右衛門に命じられた使命とは。 身寄りのない天涯孤独の吉右衛門は、赤穂浪士の家族に討ち入りの様子を伝達すべく西に東に奔走します。そんな中にも色んなドラマがあり、情景が浮かんでくるような描写が窺えます。しかし、余りにも本格時代小説な為、時代性を重んじた言い回しや難読漢字がチラホラ見られ、かなり難航しました。 忠臣蔵物としては異色で、討ち入りまでの経緯などは全く描かれていません。浪士も名前だけ出て来るだけだったりして、そちらにフォーカスされている訳でもありません。その代わり、切腹した赤穂浪士達に関係する人々の人生の在り様が人間性共にじっくりと描かれています。 読み難いのは仕方ない、それでも時代小説ファンには受け入れられると思いますね。 |
No.1824 | 7点 | 死んだ石井の大群 金子玲介 |
(2024/10/15 22:34登録) 14歳の唯は死にたかった。理由なんてなかった。何度も死のうとした。死ねなかった。今、はじめて生きようと思った。この理不尽な遊びから抜け出すために。 探偵の伏見と蜂須賀の元に、石井有一という人物を探してほしいという依頼がきた。劇団の主宰が舞台での怪演を目の当たりにし、その才能にほれ込んだ矢先の失踪だった。 唯と有一の身に何が起きたのか、そして二人の生死の行方はーー。 Amazon内容紹介より。 意外とサスペンスが効いていて、デスゲームだけではない所を見せています。なかなかの力量を持っている作者だと思います。これが二作目とは思えません。ただ文句なしに面白いんですが、常にこの謎だらけの物語をどう着地させるのかが不安材料として存在し、頼むから最後でがっかりさせないでくれという気持ちはありましたね。 その願いが見事クリアされた時は何とも言えない安堵感がありました。良いエンディングだと思いました。生きる事への希望を読者に与える作者の優しさが心に刺さります。伏線回収がキッチリ出来ているのも好感が持てます。 こんな読み方しているのは私だけかも知れませんが、結構老若男女にウケそうな作品だとは思いますよ。評点は甘い気もしますが、どう考えてもこれ以下には出来ないなと個人的には感じます。 |
No.1823 | 7点 | 伯爵と三つの棺 潮谷験 |
(2024/10/13 22:21登録) フランス革命が起き、封建制度が崩壊するヨーロッパの小国で、元・吟遊詩人が射殺された。 容疑者は「四つ首城」の改修をまかされていた三兄弟。五人の関係者が襲撃者を目撃したが、犯人を特定することはできなかった。三兄弟は容姿が似通っている三つ子だったからだ。 DNA鑑定も指紋鑑定も存在しない時代に、探偵は、純粋な論理のみで犯人を特定することができるのか? Amazon内容紹介より。 読み始めて10分くらいで、これは私の苦手なタイプの作品ではないかと、お世辞にも読み易いとは言えない文章を読みながら思いました。 面白味のない文体に、一向に盛り上がらないストーリーに嫌気が差した辺りで事件は起こります。ここでやや盛り返し、あるシーンではなるほどこれは面白いとなりました。しかし、この殺人事件はあっけない形で解決を見ます。 まだかなり残りページ数があるのに、新たな事件が起こるのか?と思いましたが、そうではありませんでした。それよりももっと衝撃の展開が待っていました。 最初は読むんじゃなかったかとも思いましたが、最後まで読んでやっとそれまでの鬱憤が全て晴れました。なかなかやりますな、単純な事件と思わせておいて、最後で全部引っ繰り返す離れ業には少なからずカタルシスを得られました。 |
No.1822 | 5点 | ソフトタッチ・オペレーション 西澤保彦 |
(2024/10/09 22:25登録) 拉致女性が密閉空間にテレポートしてくる奇怪な監禁事件、男の手料理が招く連続怪死、辻褄があわないことだらけの豪邸内の殺人事件ほか5つの不思議な超常事件を、おなじみ神麻嗣子、神奈響子、保科匡緒が、異常な動機の犯罪を論理で解き明かす。 華麗な「論理の神業」が続出の〈チョーモンイン〉シリーズ。 Amazon内容紹介より。 まず最後に配された表題作(中編)は五人の女性と一人の男性が、密閉された空間に監禁される話です。誰がなぜそんな事をするのか・・・。一応伏線は張られているものの、長い割りには真相はあっけなく開陳されます。これはちょっと期待外れでした。 他の短編もインパクトに欠け、謎は魅力的ながら結局は拍子抜けで終わってしまい、超能力もトリックに直結している訳ではなく、背景として設定されているに過ぎません。 意外だったのは、自分の作った料理を食べた者が全て事故などで死んでしまう『捕食』の動機ですね。これは成程と思いました。他は全体的に薄味で妙味に欠けると言って良いでしょう。 |
No.1821 | 7点 | 法廷占拠 爆弾2 呉勝浩 |
(2024/10/06 22:00登録) 未曾有の連続爆破事件から一年。 スズキタゴサクの裁判の最中、遺族席から拳銃を持った青年が立ち上がり法廷を制圧した。 「みなさんには、これからしばらくぼくのゲームに付き合ってもらいます」 生配信で全国民が見守るなか、警察は法廷に囚われた100人を救い出せるのか。 籠城犯vs.警察vs.スズキタゴサクが、三つ巴の騙し合い! Amazon内容紹介より。 『爆弾』の続編。これまたかなりの力作です。前作は警察対犯人の真正面からの対決で、ストレートな人間同士の頭脳戦がウリだったのに対し、今回は多方面からの描写とスピード感で勝負する感じで、サスペンス小説としては毛色が違います。それぞれの良さがあり、それは読む人の感性で評価が分かれそうです。 それにしてもスズキタゴサクの存在感は相変わらずで、一方迎え撃つ警察陣の顔ぶれにも懐かしさを覚えます。下手をすれば煩雑になりそうなストーリーを上手くコントロールして、読み易いエンタメ小説として仕上げており、作者の力量が伺えます。出来れば二作連続で読むのがベストだと思います。そうすれば面白さ倍増は請け合いですね。 |
No.1820 | 5点 | これが最後の仕事になる アンソロジー(出版社編) |
(2024/10/02 22:27登録) 最初の1行は全員一緒。 1編6ページ、24種の「最後の仕事」。 早起きした朝、昼の休憩、眠れない夜ーー。 ここではないどこか、今ではないいつかへ、あなたを連れ出す7分半の物語。 Amazon内容紹介より。 これが最後の仕事になる、から始まる24の掌編。 ミステリ作家が結構多い割りにはミステリっぽいのが少ないです。人情物、最後に一捻りしてくるもの、1ミリも理解できないもの、反転物、切ない話、犯罪小説など様々な作品が楽しめます。ああ、楽しめないものも何割かは混じっていて、正に玉石混交です。 まあ流石にプロの作家が書いているだけに、作風が被っているのはほぼありません。しかし、なかなか心に刺さる作品は少ないですね。すぐに忘れてしまいそうな話が多い印象です。その中でも異色と言えるのが呉勝浩でしょう、アイディア勝ちで二度読みさせられ、その瞬間唖然となりました。物語自体は他愛ないものですが・・・ここから先はネタバレになるので割愛します。詳しくは書店で立ち読みでもして下さい。 |
No.1819 | 8点 | ぼくは化け物きみは怪物 白井智之 |
(2024/09/30 22:22登録) クラスメイト襲撃事件を捜査する小学校の名探偵。 滅亡に瀕した人類に命運を託された〝怪物”。 郭町の連続毒殺事件に巻き込まれた遊女。 異星生物のバラバラ死体を掘り起こした三人組。 見世物小屋(フリークショー)の怪事件を予言した〝天使の子”。 凶暴な奇想に潜む、無垢な衝動があなたを突き刺す。 白井智之は容赦しない。 Amazon内容紹介より。 エログロが無くても十分面白い、最早白井智之は鬼才であり巨匠と呼んでも差し支えないのではないかと思います。それだけの風格すら漂っています。 これだけ時代や舞台が違い、SF的特異設定を含有する本格ミステリを書けるのはこの人を置いて他にいないでしょう。特に個人的に好みなのは『奈々子の中で死んだ男』で、意表を突く解決法は秀逸です。これだけでも読む価値は十分ありますし、他も秀作揃いで凡作は一つもありません。 しかし、書下ろしの最終話『天使と怪物』で全て吹っ飛ばされました。これは大傑作ですね。フリークスを用いた多重解決も見事で、単なる密室殺人では済まない凄みがあり、作者の脳みその中が想像も出来ない位、緻密に考えられています。 現在のミステリ界で唯一無二の存在に大きく成長し過ぎた白井智之、一体彼はどこまで本格ミステリの限界に挑戦しようと云うのでしょうか。今最も注目の作家であるのは間違いないと思います。今年も各ランキングの本命となるでしょう。 |
No.1818 | 6点 | 天体の回転について 小林泰三 |
(2024/09/26 22:15登録) 宇宙に恋焦がれたことのあるすべての人々に捧ぐ―― 少年の初恋と大気圏離脱を描いた表題作をはじめ、全8篇を収録する傑作本格SF短篇集。 小飼弾氏(404 Blog Not Found)推薦! Amazon内容紹介より。 様々な奇想が炸裂するSF短編集。例えば表題作を見るとSFに見立てた恋愛小説の様にも感じるし、ある作品は叙述トリックが仕掛けられていたり、エログロ全開もありますし、王道ファンタジーかと思いきやどんでん返しでやられたり。兎に角、バラエティに富んだ佳作揃いと言えるでしょう。 取り敢えずあとがきによると、どれも背景にはSFの骨格が確りと根付いており、単なる虚仮脅しとは事を異にする様です。 作者の言葉の中には、デビュー作のホラー作品でもSFと捉える事が出来ると書かれています。もっと言えばこの人はSF作家と自認しているきらいがあります。 本作品集は本当は難しい理論が必要な部分も比較的優しく解説されており、SFを苦手にしている人も読み易いと思います。私のベストはひときわ異彩を放つ『性交体験者』です。このレベルが並んでいれば7点は堅かったでしょう。 |
No.1817 | 7点 | 非在 鳥飼否宇 |
(2024/09/22 22:07登録) 横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞第1作。南海に、人魚や朱雀、仙人がいる島を発見した大学の未確認生物観察サークルが失踪した!ネイチャー・アドベンチャー+本格ミステリー大作。 Amazon内容紹介より。 人魚や朱雀の正体はともかくとして、事件の真相には意表を突かれました。こんな所でこの様な世界が広がっているとは予想だにしませんでした。しかしそこに至るまでが話があちこちに飛び、纏まりに欠ける感じがしました。デビュー二作目にしては上出来だとは思いますが。 やはり肝心なのは手記を甘く見ない事でしょうね。何と言っても主な伏線はここに張られているのですから。しかし残念なのは、何が起きたのか、何が起こっているのかが茫洋として掴み所がなく、どこに焦点を置いて読み進めたら良いのかがはっきりしない事です。初期の作品だから、洗練された感が薄いのと、文章があまり上手くないのが欠陥とは言えるでしょう。それらをクリアしていれば更なる傑作に仕上がったかも知れませんね。 |
No.1816 | 8点 | 新麻雀放浪記 阿佐田哲也 |
(2024/09/18 22:31登録) かつてバクチの世界でならした私も、すっかり中年男になってしまった。が、ふとしたきっかけで年若い友人を得て、麻雀にバカラに久しぶりに燃えた。 Amazon内容紹介より。 私が読みたかったシーンが、いつまで経っても出て来ないのはどういう事なのか。確か冒頭に近い辺りだったはずだが、と思っていたら、私のとんでもない勘違いでした、多分。それはおそらく『小説・麻雀新撰組』にある記述で、本作ではなかったのでしょう。しかし、そちらは本の山に埋もれてどの辺りにあるのか、見当はついているものの、かなり厄介であります。どうしたものか。 さて前置きが長くなりましたが、この作品とても楽しめました。最低でも三回以上は読んでいる筈ですが、意外と闘牌シーンが多かったので、新鮮でした。又主要登場人物がそれぞれ個性的で生き生きと描かれているので、少しもダレルことなく緊迫感を維持しながらも、遊び心がそこここに表れている為、肩の力が入ることなく読めます。 話が進むごとに次第にスケールが大きくなっていく勝負にとことんのめり込めること間違いなしです。特に最後のカジノでのバカラのシーンでは作者の作品の中でも有数の興奮を味わえ、満足しました。このシーンだけを何度読んだか分かりませんが、読む度に感動しますね。 |