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ミステリの祭典

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あるびれおさんの登録情報
平均点:6.39点 書評数:124件

プロフィール| 書評

No.64 9点 ローカル線に紅い血が散る
辻真先
(2009/06/23 06:27登録)
辻真先の代表作を挙げろ、と言われたら、ポテト&スーパーのシリーズに加え、この作品の印象が強い。
他人から見れば「乗り鉄」と言われても仕方ないわたしとしては、廃線になったローカル線で轢死体が見つかるという謎も良かったけれど、素人探偵がみんなを集めて謎解きをするのが「山手線」の中、というのも楽しかった。旅を、ローカル線を愛する作者だけのことはある。


No.63 7点 玻璃の天
北村薫
(2009/06/23 06:22登録)
読んでいて安心できる、決して破綻がない、心地よいリズムの文章は相変わらずである。さすが、元国語教師!語り手となっている主人公の自己主張が、前作(「街の灯」)よりも強くなってきていて、好感を持てた(前作は、他者への依存が強すぎるように感じて、読んでいて感情移入があまりできなかった)。
どんどん悪い方向に時流が向かっている頃が舞台であり、時が進むにつれて、主人公たちの境遇にも影が差し、切なさがつのっていくのかな、という印象を持つ。


No.62 6点 乱鴉の島
有栖川有栖
(2009/06/23 06:20登録)
論理的に犯行時間を絞り込んでいく過程は、この作者ならではのもので、やっぱり上手い。でも、同じ孤島モノだったら、「孤島パズル」(学生アリス)の方に高い点をつけたくなる。背景にある動機が、あまりにも「とって着けた」感じで、バランスが悪い。どうせ全てを謎解きに奉仕させるなら、動機はもっとチープでも構わない。法月綸太郎なんて、そのあたりはだいぶ諦観しているような気がする(短編では特に、男女の痴情のもつれってやつが多用されている)。有栖川さんは、諦めが悪いのかな?


No.61 8点 木曜組曲
恩田陸
(2009/06/23 06:17登録)
推理をこねくり回した挙句、最後にどんでん返しを複数持ってくる、というミステリの王道に沿っていて、恩田ミステリにしては珍しく、「割り切れる」結末であることも気に入った。「蛇行する川のほとり」や「象と耳鳴り」も好きな作品ではあるが、こちらの方がさらに好みかな。


No.60 4点 赤い夢の迷宮
はやみねかおる
(2009/06/23 06:12登録)
はやみねかおるではなく、勇嶺薫名義である。すなわち、「ジュブナイルではない」、ということの表明なのだが、大人の読み物としては、決して成功しているとは言えないだろう。最大のトリックにしてみても、簡単に想像がつくものであり、これがミスディレクションだろうと思いながら読んでいたので、物足りなさを感じた。はやみねかおるの作品は嫌いではないので、中学生程度を対象にしたミステリということで理解しておこうかと思う。


No.59 7点 御手洗潔対シャーロック・ホームズ
柄刀一
(2009/06/23 06:10登録)
柄刀一は、島田荘司の直系の後継者の一人といってもいいだろう。冒頭の不可思議な謎、奇想といってもいいような論理の飛躍、それから、豪腕でもかまわないから論理に則った結末といったものがとりあえず揃っている。本編も楽しかったが、解説の代わりに島田荘司が寄せた巻末の一文もまた、島田らしい稚気に富んだもので楽しい。
柄刀の文章に対しては、批判的な記述をいくつか見たことがあるが、少なくともこの本については、そこまで酷いことはない、と感じた。


No.58 5点 晩夏に捧ぐ
大崎梢
(2009/06/23 06:07登録)
書店員が出会った謎を解明していく、という形式の物語第二弾である。作者本人が書店勤務ということもあって、さすがにその部分の記述は細かいし、読んでいて楽しい。
でも、そこまで、と言っては作者に失礼だろうか。


No.57 5点 ヘビイチゴ・サナトリウム
ほしおさなえ
(2009/06/23 06:03登録)
正直なところ、あまり期待していなかった。でも、いい意味で裏切られた。細かなところを指摘すれば、「そりゃないだろう?」っていうところも何箇所かあるのだけれど、フェア・アンフェアについても不満は感じたけれど、それを許せるだけのものだった。
現実とフィクションが同じ時間軸に中で混在していて、それを読者に気づかせずに物語が進行していき、最後の最後にオープンにする。そこまでメタな構造のミステリだとは思わなかった。なにせ、作者は純文学出身だっていう先入観があり、そんな凝ったことをやってくるとは予想外であった(この「予想外」こそが、ミステリを楽しく感じるエッセンスなんだけれど)。
ただ、この人の文章の特徴なのかもしれないが、三人称と一人称の視点がぶれる(三人称の文章の地の文に、いきなり一人称の心情が入ったりする)のはイマイチかな。


No.56 5点 ルピナス探偵団の当惑
津原泰水
(2009/06/23 06:01登録)
初期の頃のメフィスト賞作品とでも言ったらいいだろうか。きっちり本格している。ただ、それぞれのキャラクタが個性的であるくせに、踏み込んで書けていないように感じられた。もっと、生き生きとした感じが出てもおかしくない設定なのに...トリック自体も、作品全体としてのデキも、どちらも及第点だけれど、突き抜ける何か、というものが足りない。


No.55 5点 レイニー・レイニー・ブルー
柄刀一
(2009/06/23 05:59登録)
この作者は、ストイックに本格を追及していて好感が持てる。短編それぞれに奇想があり、さすがと思わされる。論理の飛躍についてもOKだ。でも、法月の短編と比較してちょっと足りない気がする。正直なところ、それが何なのかよく判らない。ただ、論理の美しさに重きを置いて読んでいる私の立ち位置によるものなのかもしれない。


No.54 6点 ソロモンの犬
道尾秀介
(2009/06/23 05:55登録)
自分の中では「シャドウ」のイメージが強すぎて、その幻影を追いかけすぎているのかもしれないが、「片目の猿」といいこの「ソロモンの犬」といい、「シャドウ」で感じた鋭い、澄んだ雰囲気を味わうことができなかったところに不満を感じている。“一捻り効いた伊坂幸太郎”といった印象の作家であるが、伊坂と同じ方向には向かわないでほしいな、というのが希望である。


No.53 6点 新本格もどき
霧舎巧
(2009/06/23 05:53登録)
これはもう、笑うしかない。「もどき」の基になっている7つの(本当はもっとたくさんの)作品全て読了済みであっただけに、終始ニヤニヤしながら読むことになった。「もどき」はさておき、作品としてのデキはどうか、ということになると、一作ごとのバラツキがかなり大きく感じた。いちばん笑わせてもらったのは、やっぱり「一発ギャグ」が炸裂した山口雅也もどきだろうか...


No.52 7点 ぐるぐる猿と歌う鳥
加納朋子
(2009/06/23 05:51登録)
さすがに手堅いなあ。「モノレール猫」がちょっと期待はずれだったこともあって不安を感じていたのだけれど杞憂でした。子どもたちはとっても活き活きしていて楽しいし、作中の謎も加納さんらしい(他に適切な形容詞が思い浮かばない)もので、満足感はとても高い一冊だった。
このミステリーランドのシリーズ、日本を舞台にした作品の多くは、そのベースは各作家の子ども時代なんだろうな、と思う。そして、現在の本格ミステリの書き手の多くは、わたし自身と同世代か少し上といったところなので、妙に自分の子ども時代とシンクロするところがあったりして、それで余計に懐かしさや親近感を感じるのかもしれない。


No.51 7点 サクリファイス
近藤史恵
(2009/06/23 05:48登録)
いろんなWebで大好評だったことから、普段はハードカバーを購入する作家ではないのだが試しに買ってみた。確かに面白かった。物語にぐいぐい引き込まれていくし、特殊な世界の人間関係やものの考え方も、概ねストンと腹に落ちる。ただ、自分としては手放しで褒めることができない。それは、ミステリの仕掛けとかそんなところじゃなくて、「なぜ主人公は、幼馴染で昔は恋人だった女の子が、犯罪に手を染めた男と結婚することに対して何のアクションも取らなかったのか」ということが引っかかっているから。そこだけがどうしても理解できず、不完全燃焼に終わってしまった。多分、こんな読み方は王道から外れているのだろうけれど...


No.50 7点 急行エトロフ殺人事件
辻真先
(2009/06/23 05:45登録)
有栖川&綾辻セレクションとして復刊されたわけだが、20年以上の時を経て読んでもほとんど違和感を抱かせない、というのは凄いことだと思う。そりゃ、急行エトロフの謎は、あの資料(時刻表)からだけでは推測するのは極めて難しいし、結局のところパラレルワールドを扱っているので「キワモノ」という見方もされるだろう。でも、いわゆる新本格が出てくるかなり前に、こんな作品を書いていた作家がいたっていうことは、もっと高く評価されてもいいんじゃないかな?


No.49 6点 心臓と左手 座間味くんの推理
石持浅海
(2009/06/23 05:43登録)
出世作の一つとなった「月の扉」の後日談的な短編も収録されているとのこともあって楽しみにして読み始めた。視点を変えると、一見単純に見えた事件が別の様相を呈してくる、という共通項があるが、それぞれのデキは様々である。それはちょっと動機としてムリムリじゃないの?というのもあったし、なるほど、そう来るかと感心させられたものもあった。ただ、個人的には「扉は閉ざされたまま」のようなガチガチの長編をこの作者には期待しているので、少し物足りなかったのも事実である。


No.48 7点 女王国の城
有栖川有栖
(2009/06/23 05:41登録)
江神の推理は例によって緻密だし、伏線はバシバシ張られているし、読みながらの推理が「届きそうで届かない」ところも上手い!好きな女の子のことを想う有栖の心象も、妙になつかしく切なかった。長編としては、このシリーズ、あと一作の予定だそうだが、果たしてどんな結末になるのだろう?それよりも、いったいいつ、次を読むことができるのだろう?


No.47 7点 硝子のハンマー
貴志祐介
(2009/06/23 05:39登録)
まさかこんなに本格色が強い作品だとは。うっかり見逃していた。優れた本格ミステリというのは、枝葉の推理もきちんと行ない、結局のところ真相意外には論理的な別解がないことが条件の一つである。その別解の検討に対して、まったく手を抜いていないところがすばらしい。不可能な密室をどうやって作り上げたのか...謎解きがなされると、作品のタイトルがまた、そういうことか!と思わせられてステキである。


No.46 8点 ゴールデンスランバー
伊坂幸太郎
(2009/06/23 05:36登録)
これぞ伊坂幸太郎!独特のテンポで進む文体に、これでもかというほど張り巡らされた伏線の数々。そして、この作品では終末に向かってその伏線がつぎつぎと回収されていくのが何より快感だった。事件発生から見た未来や過去が、実際の時の流れとは異なった並びで配置されているのも、ひとえに伏線の効果を際立たせたいためだろうな。ちなみに、どの伏線に一番のけぞったかといえば、やっぱり「書初め」だろうか...


No.45 6点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題
法月綸太郎
(2009/06/23 05:33登録)
正直な感想として、ちょっと物足りない。確かに、謎解きの王道ではあるのだが、講談社ノベルスのシリーズのような研ぎ澄まされたような切れ味はあまり感じられなかった。まあ、どれも及第点なのだが、論理の飛躍が小さい、いや、飛形点が低いというべきか。次はやはりガチガチの本格ミステリを期待したい。

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