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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.560 7点 幽霊の2/3
ヘレン・マクロイ
(2018/04/04 13:57登録)
人気作家エイモスが、仲間内のパーティーの席上、「幽霊の2/3」というゲームの最中に毒殺される。
ベイジルが刑事さながらに捜査をする、といった典型的な推理小説ではない。
もちろんある程度の聞き込みはする。しかしどちらかといえば少ない関係者の行動や会話などから、読者が謎の世界にはまっていけるところが、この小説のうまいところです。

文庫裏の解説から、エイモスが殺害されることは読む前から知っていましたが、事件が起こるまでも、事件後、彼の過去がわかってきてからも、殺される理由がわかりませんでした。
真相がわかれば、なるほど!
こんなことを想像もしなかったとは、まだまだあまい!
タイトルは絶賛です。多くの作家さんにも見習ってほしい。

本格派ミステリーを期待すると裏切られ感があります。そこをどう評価するかは読み手次第でしょう。個人的には、中途半端なトリックなら、むしろない方がましなのではとも思います。
また女流作家らしい、柔らかいタッチは読みやすさに貢献していますが、全体的に視点が入り乱れているのには抵抗を感じます。これは外国小説の欠点なのでしょうか?
まあでも今作は、そんなところがうまく作用しているのかもしれません。

この作家はまだ3作目ですが、いまのところベストです。


No.559 7点 屍人荘の殺人
今村昌弘
(2018/03/08 09:57登録)
2017年鮎川哲也賞受賞作。
有栖川作品やクイーン作品のように本格中の本格と思い込んでいましたが、実はちょっと違っていました。
かといって、「そして誰もいなくなった」「十角館の殺人」のサスペンス風味とも違う。
ジャンルミックスには違いないのですが・・・
すごい手を使ったものです。奇抜です。

内容を全く知らなかったため、読み始めでは、そのホラー要素で期待を裏切られた感がしたのですが、読み終えてみれば、よくぞそれを盛り込んで書いてくれたと大絶賛。
そもそも恐怖要素と謎解き要素と青春要素があるミステリですから、ジャンル的に見て個人的には嗜好のど真ん中で、さもありなんなのですが。

映像化も期待できそうです。間違いなく映えるでしょう。


No.558 5点 宮辻薬東宮
アンソロジー(出版社編)
(2018/03/01 13:07登録)
宮部、辻村、薬丸、東山、宮内、豪華5人によるリレー形式のホラーアンソロジー。
リレーといっても話のつながりは希薄。

ホラーとして楽しめるのは、宮部、辻村の2作品ぐらいかな。薬丸はその次ぐらいか。
最も期待したのが東山氏だったがこれはイマイチ。初ホラーなので気負いがあったのか?
宮内作品は、他と違ってホラーらしさはない。でもそれがよかった。

慣れていないのか、現実感のないホラーにはなかなか入り込めない。それは宮部さんの短編を何作か読んでわかっていたはずだが・・・
新津きよみ氏みたいな、サイコホラー的な作品のほうが自分には合っていることを再認識した。


No.557 5点 007号の冒険
イアン・フレミング
(2018/02/19 17:08登録)
「薔薇と拳銃」「読後焼却すべし」「危険」「珍魚ヒルデブラント」「ナッソーの夜」の5短編が収録されている。
長編のようなボンドの大活躍はない。わずかにアクションはあるが、大活劇といった感じはしない。オチらしいオチもなく、エンタテイメント・ミステリー短編らしさを求めるファンには、まずダメだろう。
「珍魚ヒルデブラント」は少しミステリー色があるが、ラストがはっきりせず、もやもや感が残る。「ナッソーの夜は」は、ボンドは聞き役でボンドでなくてもいいような作品だが、なんとなく引きこまれる。
これらには、アクション場面は一切ない。
なお、各編の各部が映画に採用されているようだ。

個人的には、「珍魚」と「ナッソー」がベストだが、全5作とも、ミステリーファンにひろくお奨めできるような短編小説ではない。長編を何作か読み、ボンド物をもっと楽しみたいというファン向きだろうか。


No.556 6点 女王はかえらない
降田天
(2018/01/23 10:12登録)
第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

前例の有無に関係なく、不自然さが漂っている。第三部のはじめで1つのトリックが明らかにされるが、当たらずといえど遠からず、だった。なんかぎこちないなあ。
第一部と第二部の構成については、とにかく書き方次第でなんとでもなるので、あまり褒められない。とんでもなく乖離したような、していないような2つの話でも、仕掛けをいくつか仕込んでおけば、ミステリーの複数章として成立させることができる、という典型的な手法なのでしょうね。

とはいうものの、最後で明らかにされる真相はすさまじい。その真相開示後、どうやって締めくくるのだろう、とそれを期待(心配)していたら、最後はそれなりに、うまくまとめてあったので、そっちのほうに感心した。
真相や、真相と歌との関係や、子どもどうしの秘めた恋の話のほうが、メイントリックよりもはるかに強烈だった。


No.555 6点 二度のお別れ
黒川博行
(2017/12/29 10:17登録)
黒川氏のデビュー作。
サントリーミステリー大賞第1回の佳作賞を受賞しています。

黒マメの大阪弁のやりとりや、黒田(私)の上司村橋に対する心情表現は、本作の軽妙・お笑い要素の根幹をなすものです。
そんなお笑い度が注目されがちですが、本作の最大の特徴はむしろサプライズな真相とトリックです。短くもうまく作り込んでいます。
解説によれば、著者は若いころミステリーにかなりはまっていたとのことで、なるほどと納得。

それにタイトルが良い。だいたいこのシリーズは、洒落たネーミングが多いのも特徴です。
大阪弁モノ、近年映画化された「後妻業」、そして著者の風貌からは泥臭いイメージしか浮かんできませんが、本書を読めばミステリー的な繊細な印象を受けることもたしかです。
個人的には後者のほうが好みですが、前者を前面に出したほうが売れるのでしょうね。


No.554 6点 アキラとあきら
池井戸潤
(2017/12/25 10:06登録)
タイトルからすぐに想像したのは、ジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」。
そういえば池井戸作品は、長編、短編、連作短編などスタイルも雑多で、ミステリー、クライム・ノヴェル、サスペンスなどジャンルもいろいろ。もしかしてアーチャーを目指しているのだろうか?
実際に読んでみると・・・
二人の生まれ育ちに差がありすぎること、接点が少ないことはたしかに似ている。でも対決という姿勢はほとんどない。やはり違うかな。
勝手に想像しすぎたか。それでも楽しい読書だった。

700ページの大長編ということもあってか、作者得意の連作短編技術をうまく生かし、クライマックスを数多く提供してくれている。章ごとに見せ場があるといってもよいぐらい。
中でも、新人社員研修や追加融資、遺言、M&Aには、特に夢中になれた。

ただ読み終えてみれば、二人以外の出来が悪すぎるんじゃないのと首をかしげたくなる。
追加融資の際のあきら(階堂彬)の提案なんて、銀行員でなくても気づくレベル。
M&Aで見せるアキラ(山崎瑛)の一発逆転の稟議だって、私自身はダメだったけど、想像できる読者は多くいるだろう。でもこの提案、普通はやらないだろう。

結局のところ、やはり、主人公だけを際立たせて活躍させた、スーパー・ヒーロー物ということでしょうか。
ただ楽しむだけの読書。これを求めたいときには最適の作品です。


No.553 6点 さよならドビュッシー
中山七里
(2017/11/26 19:45登録)
今を時めく、大どんでん返し推理作家。
といっても、初めてなので、よくは知らない。

クラシックやピアノの蘊蓄が多いのは本書の大きな特徴。でもしつこく感じることはない。
それよりも気になる点がいくつかある。
(以下、ネタバレ)

途中、長科白が気になった。登場人物の主張、意見なのだが、結果的に謎解きには関係なかった。作者が登場人物の言葉を借りて何かを訴えたいだけなのか?
とにかくこういうのは好きにはなれない。

それと肝心なことが一つ。
この人物設定だと、ミステリー慣れした読者なら、真相にはピンとくるだろう。
それに一人称視点だから限界もあれば無理もある。だから岬洋介の謎解きは無理やり感がある。

と、問題ばかりを指摘したが、じつはこの種の青春ミステリーは好きな分野。雰囲気もいいし、締め方もいい。
だから、総評としては絶賛とまではいかないが、新人ながらよく頑張ったなあとも思うし、これからも読み続けたいとも思わせてくれたことには違いない。


No.552 6点 猿の惑星
ピエール・ブール
(2017/11/08 09:35登録)
映画にくらべればかなり落ちるが、発想やオチを考慮して冷静に判断すれば、まずまずの出来かと思う。
足りないのは起伏が少ないこと。この薄さだから仕方ないが、最後のサプライズだけにたよらず、テーマをもっと生かして、多くのクライマックスを作ればよかったのに。

古いほうの映画シリーズ第1作は、ラストを含めほんとうに素晴らしい。
とくにあのオチには度肝を抜かれた。
<<以下すこしネタバレ>>

ただあの映画のオチも原作があったればこそ。
ティム・バートン版のラストは原作に倣ったものだが、あれを先に観ていれば、あるいは原作を先に読んでいれば、おそらく絶賛していただろう。


No.551 2点 QJKJQ
佐藤究
(2017/10/19 12:43登録)
直近(2016年度。ちなみに2017年度は受賞作なし)の乱歩賞作品なのに、図書館であまり待たずに借りられたので喜び勇んで読んでみたが・・・
正直、良さがわからない。たしかに文章は読みやすい。が、ただそれだけ。
文章についても、倒置や、体言止めが多すぎる点は気に入らない。

家族全員が殺人鬼という設定を明かした導入部を含む100ページぐらいまでは、これはいけると感じたが、そこまでだった。そのあとは全然ダメ。こうなると続かず、字面を追うだけの読書になってしまった。
審査員が評価するのはわからないでもないが、世間でも評価が高いのには驚く。好き嫌いは分かれるはずと思うのだがなあ。
「平成のドグラ・マグラ」と言われているらしい。もしそうなら、これも楽しめないだろうなあ。いつかは読もうと楽しみにしていたのに。
ミステリー的には、悪くはないが使い古された技じゃないのかなあ。こんなところが評価されるはずはないしなあ。

文章もミステリー性もまずまず、猟奇殺人のオンパレードも悪くはない、なのになぜこんなにひどく感じるのか?
結局、物語性がひどいってことなのだろう。文芸作品じゃないのだから、もう少し読ませるストーリーにしないとね。

以上、嗜好だけで評したが、もしかしたら読解力に問題があったのかも。何年か後に、もういちど読んでみよう。
なお、同著者の次作「Ank」のほうが面白いという噂はある。


No.550 7点 ヴァン・ショーをあなたに
近藤史恵
(2017/10/10 13:47登録)
「ビストロ・パ・マル」シリーズ第2集。
前半は第1集と同様、ビストロでの高築の語りによる話。一方、後半3作は三船シェフのフランス修業時代の話です。どちらも推理担当は変わり者シェフの三船。

彼の推理は、ホームズが初対面でワトソンの手を見てその職業を当てるような、鋭い観察力、洞察力によるものの組み合わせ技で現実味は乏しいが、あっという間に解決するので読んでいて気持ちがいい。
しかも温かみのある内容ばかりで、読後、ほんわかとする。

過去の話を含めても三船の正体は謎だらけ。こういう設定にするのが短編連作推理物を継続させるためのテクニックなのか。
過去の話を織り込んで変化をもたせたのも、もちろん料理もグッドでした。


No.549 7点 体育館の殺人
青崎有吾
(2017/10/02 10:26登録)
鮎川賞作品。
作者は好きなだけでなく、クイーン作品をかなり読み込んでいると思われる。若いのに、ようやるなぁ。

小道具がたくさん登場し、みなうまく使ってある。
読み終わればわかりやすいのだが、ほとんど解けなかった。
密室も結果的にはたいしたことないのに、やられてしまった。ショボすぎるわりに密室、密室と騒ぎすぎる感があったからかな。
傘は重要なキーであることはわかったが、作中でこれほど議論されるとはね。これには驚いたし、ようがんばってると感心もした。
エピローグはどんでん返しというほどではなく、ちょっとした味付けのオマケ。いま風でこれも悪くはない。
とにもかくにも総合的にみれば、デビュー作品として上出来すぎる謎解きミステリーだった。
キャラクタ的には高校生たちのユーモアのある会話がおもしろいが、物語性については楽しめる要素はほとんどない。まあ本格重視だからこんなものだろうか。

こういうのが今の時代、喜ばれるかどうかは甚だ疑問ではあるが、今後ぜひともがんばってほしい。


No.548 6点 東京ダモイ
鏑木蓮
(2017/09/16 17:03登録)
謎解き対象とされる事件は、シベリア抑留中での殺人と、その60年後に国内で起こるロシア人女性殺人の2つ。
先の戦争が背景にあり、話の大部分に、ある関係者の句集(俳句に随筆、手記を組み入れたようたもの)が開示されるから、ミステリーとしては重くて地味なものとなっている。
いわゆる社会派推理小説だから、地味なテーマに合うようサプライズもなく、トリックも期待するほどではないだろうと想像する反面、この著者の他作品「時限」からすれば、かならず何かあるだろうという期待を抱きながらの読書だった。
結果的には、中途は十分にわくわくしながら読めたが、ラストはそれほどでもなかった。
でもまちがいなく力作です。

鮎川哲也賞でもなく、『このミステリーがすごい!』大賞でもなく、メフィスト賞でもなく、なんといっても天下の江戸川乱歩賞だから、こんな優等生的力作なのも当然といえば当然。
すごいと思うのは多視点描写。公募の新人ミステリー賞でこんなにむつかしく書いて、よく賞が取れたなぁと。さすが乱歩賞。でも選考委員はいやがるだろうなw

(このサイトではあまり読まれていないので、応援するつもりで一言)ネタバレか??
俳句が鍵になっているが、面倒くさがらず、ゆっくりとじっくりと句を解釈しながら読めば(自分はやっていないが)、かならず楽しめるはず。


No.547 6点 寅申の刻
ロバート・ファン・ヒューリック
(2017/08/31 10:10登録)
「通臂猿の朝」
猿が残していった指輪に血が付いていた。その後、指を切り落とされた死体が見つかる。
と、事件の発端はなかなか魅力的です。
ディー判事の部下、陶侃が推理に参加して厚みのあるストーリーにしているところが好印象の作品でした。

「飛虎の夜」
緊迫感の演出が抜群の作。
ディー判事は現場にいながら、一人で屋敷を賊から守り、そして謎解きもする、部下を使わずいつも以上に自ら動き回る、サスペンスフルな館モノでした。
ただ真相は予想の範囲内。登場人物の少ない中編なので仕方ないか。

2編とも、いつもどおり伏線がさりげなく、うまい。
短編集「五色の雲」が印象的だったので、他を探してみたところ、中短編集は本書しかなかった。もうないのか、と残念な思いはあるが、今後は長編で我慢しよう。


No.546 5点 六つの希望
五十嵐貴久
(2017/08/21 16:01登録)
シリーズ第3作は、社会派タイムリミット・サスペンス。

主人公・川庄がアルバイトとして働いているコンビニで、立てこもり事件が発生する。
人質は客と川庄たち店員とで30名ほど。
川庄が事件の解決にどう関与するのだろうか。

物騒な小道具は登場するし、時限もあるしで、緊迫感はあるはずだが、本作はかなり変わっていてそうとはなっていない。
まず犯人たちがとんでもない人物たちであること。
その犯人たちの要望の意味がまったく読めないこと。
とにかくのんびりしていること。
結局、彼らの要望の意味を解く謎解きミステリーであるとはいえるのだが、解けてみればどうということはない。バカバカしいともいえる。
長く引っ張りすぎで、途中をぶっ飛ばして最後の20ページほどを読んでしまおうかと思ったが、ほんとうにそうすればよかったかな。

アイデアとしては面白いが、これは長編ではなく、連作短編にすればもっとよくなるはず。
途中には、長らく疎遠だった親子の喧嘩話や、50年ぶりの恋の告白話など、疲れるような部分があるが(謎解きに無関係とはいえないが)、連作短編の途中の一話ならまだしも、長編の中途に差し入れるエピソードとしてはちょっとね・・・。

つまらないはずだが、ちょっとだけ共感できたので、4点以下はつけなかった。


No.545 6点 双蛇密室
早坂吝
(2017/08/11 08:16登録)
過去に起きた蛇にまつわる2つの殺人事件の謎解きに、援交探偵・上木らいちと、その客であり事件関係者でもある藍川刑事が挑む。
トリックも、伏線もばっちり。物語性もよし。とにかく隙はない。
よくぞここまでやったもの。立派としか言いようがない。
さすがは京大推理研出身者。

で、読み終えて、気持ちよくスカッとしたかというと、全くそれはなし。
どうみてもやりすぎ。スッキリしたのは、自己満足の作者だけ。

ということで評価結果は、可もなく不可もなし。
おそらく相当頑張って書いただろう作品なのに、「可もなく不可もなし」だけの評価は失礼か?
デビュー作の「〇〇〇・・・」のほうが、小気味よかった。


No.544 7点 疫病神
黒川博行
(2017/07/29 11:14登録)
社会派ハードボイルド・大阪弁版・オモロイ系。

産業廃棄物処理場の建設計画をめぐり、やくざと、企業と、主人公の二宮、桑原の2人組とが絡み合う複雑な展開だが、そんなことは適当に流し読んで、テンポよい会話を楽しむほうがよい。
ストーリーは複雑とはいうものの、中盤ぐらいから自然に頭の中に入ってくる。
とにかくキャラが第一。二宮もすごい奴だが、桑原は輪をかけて強烈。
彼らのやりとりだけでエンタメとして成り立つ。
オモロサと、小気味よさと、パワフル感と、スピード感。
そんなところが魅力です。

ミステリーとしては、地図でもつければ、読者参加型の謎解き物になったかも。
まあそれはどっちでもいいか。


No.543 6点 ミステリを書く!
事典・ガイド
(2017/07/15 12:07登録)
綾辻行人、法月綸太郎、山口雅也、大沢在昌、笠井潔、柴田よしき、馳星周、井上夢人、恩田陸、京極夏彦の10人の作家のインタビューをまとめたもの。聞き手は千街晶之。
インタビューといっても質問は2,3行で、あとは一人語り。ほとんどエッセイといってもいい。
ミステリ作家になるまでの読書経験と、作家になってからのミステリに対する考え方などの10ほどのテーマがある。作家ごとの最後に、わずかながら、これからミステリを書く人へ、という項目はあるが、ミステリの書き方指南書ではない。
10人いるが、ほとんどが子供のころから狂信的な読み手だったのに驚く。しかもクイーンマニアが多い。やはりミステリ作家(とくに本格系)になるような人は幼少時代からマニアックだったということか。
もともと読書好きでもないのに小峰元の「アルキメデスは手を汚さない」で目覚めた、という東野圭吾とは大違い。でも東野作品はストーリー性が抜群。上記10人が束になってかかっても、売り上げではかなわないだろう。まあ多作ということもあるが。
ただ、京極が、小説にストーリーは関係ないと言っている。やはり作家それぞれの考え方はある。でも小説で物語性がよくなければ途中で投げ出すのが通例だろう。
そういう京極の作品群も、レンガ本にもかかわらずバカ売れした。奨められ2,3冊買ったがあまりの厚さに敬遠し続け、長期間、積読状態となってしまった。かれこれ20年は経つだろうか。個人的には、物語性よりも厚さ(薄さ)ということか(笑)。

既読作家が少なく、借りるのをためらったが、読んでみると、この人たち(とくに京極、馳、山口)の作品をぜひ読んでみようという気になってくる。それほど夢中になれた。


No.542 7点 ペトロフ事件
鮎川哲也
(2017/07/11 11:26登録)
鮎川の処女長編です。

時刻表の小さい数字を追いながらの読書はスローテンポになります。
いまなら、時刻表アリバイトリックなんて古めかしすぎるし、面倒くさいしで、嫌がられそうですが、この精緻さは芸術品クラスです。
現代の隙がなく完璧な?推理作家でも、鮎川を読めば脱帽するはずです。

本格ミステリーとしては、少人数の容疑者たちを挙げ、そこから犯人を導き出す方式で、どちらかといえば短編ミステリーの設定です。でも、そんなシンプルさがかえってアリバイ崩しの楽しさを際立たせているようにも思います。
事件も、トリックも、容疑者もすべて小ぶりですが、測量ボーイさんが書かれているように、本書は推理過程を楽しむためのミステリーなのですね。
そして、極めつけはどんでん返しです。
時刻表を使った精緻なトリックはたしかにすばらしいが、作者の自己満足ともとられかねません。でも、それだけじゃあないぞ、と最後にビシっと決めてくれる。これぞ上級ミステリーです。


No.541 5点 らせん階段
エセル・リナ・ホワイト
(2017/07/03 09:40登録)
ヘレンが屋敷でひとり怯える心理サスペンスを想像していたが、読んでみるとまったくそんなことはなかった。弱々しく震えながら館で生活する、映画「レベッカ」(ダフネ・デュ・モーリア作)のヒロインとは、まるでちがっていた。
それに、ヘレンと他の登場人物との会話が意外にはずんでいて、なんだか楽しそうな感じもする。本著者の別作品、「バルカン超特急」からすれば、そんな作風も想像がつかぬわけではない。
ゴシック・サスペンスとはいうものの明るめの雰囲気や、ちょっと怖がりで、ちょっと愛らしく、ちょっと抜けているヘレンのキャラクタにも、拍子抜けした。
でも決して苦手なスタイルではない。

ただ、中だるみというか、ほとんどたるみっぱなしのストーリーはいただけない。殺人発覚後、屋敷から出ていけないし、入れないというルールを作って楽しめる要素を提供してくれるが、ドキドキ感は足らない。終盤に突然の恐怖感とクライマックス、そして真相の判明。なるほどそういうことか。ありがちかな。

「バルカン」がたいしたミステリーでもないのに、なぜかしら楽しめ、気に入っていたので、本書にも少し期待した。結果はまずまずだった。映画のほうがおもしろいだろうなぁ。

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