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ミステリの祭典

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七色の毒
刑事 犬養隼人シリーズ/改題『七色の毒 刑事犬養隼人』

作家 中山七里
出版日2013年07月
平均点6.14点
書評数7人

No.7 6点
(2018/08/29 14:58登録)
社会派本格短編・犬養編。
いつもなら各編の記憶は、次編を読み始めてすぐにぶっ飛ぶのに、おもいのほか長持ちしたのには驚いた。全編読了した後でも、おおむね記憶に残っていた。これはめったにないこと。
出来としてはとびきり上等というのはないが、けなすような作品もない。
みな、そつなくうまくまとめながらも記憶に残すような色が施してある、という印象。

それほど差はないが、いちおうマイベストは、第4話の「青い魚」。ただし本格ミステリーとして、描写において気になる点はあった。
それと、第7話の「紫の供花」を、第1話の「赤い水」に絡ませていることも気に入っている。別にどうということはないけど、連作のラストとしてまとめてあるのがいい。

No.6 7点 あびびび
(2018/06/28 22:40登録)
今乗っている作家さんって、すべてにおいてレベルが高いのかな。短編だが、どの作品も考えさせられた。犬養刑事はなくてはならないキャラだが、最後に明かす結末、さぞかし気持ちがいいだろう。女性の心理は全く読めないが、男性の心理、虚言は瞬く間に見抜けるという設定、そのスパイスが効いている。

No.5 5点 まさむね
(2016/02/28 18:09登録)
 タイトルどおり、色にまつわる7つの短編で構成されており、いずれも毒のある結末であります。探偵役は「切り裂きジャックの告白」の犬養隼人刑事。
 高速バス事故、いじめ自死、保険金目的殺人、アルツハイマー、性同一性障害・・・などなど、社会問題を扱った作品が多く、「社会派短編」とでも呼びたくなるテイスト。非常に読みやすく、入り込みやすい展開です。
 一方で、結末に毒が用意されていることが「お約束化」しているため、真相はかなり想像しやすいかな。そこを逆手にとるってのも、悪くなかったような気がしますね。
 ちなみに、最大の毒は、第3話の「白い原稿」。かなりストレートな設定だけど、いいのかなぁ、大丈夫なのかなぁ…、ってところが読みどころ。個人的には「へぇぇ、そうなのか、ならばソレを(今更だけど)一度読んでみようか…」って気になったから、まぁ、いいのかな。

No.4 7点 HORNET
(2016/01/11 16:25登録)
色を含んだ題名を冠した、「切り裂きジャック」の犬養刑事を探偵役にした連作短編集。短編でページ数が限られているため、真相に結び付く伏線もどうしてもわかりやすい示し方になってしまい、各編とも序盤から中盤にはもう大体の真相が見えてくるが、持ち味が謎解きだけではない話なので大丈夫。著者の筆力、無駄のない展開で十分に満足できる。出版に際して書き下ろされた最後の「紫の献花」は、短編集の締め方が堂に入っている。
 何よりも一番印象に残ったのは、E-BANKERさん、メルカトルさんも書かれているように「白い原稿」。主人公が「篠島タク」とか、出版社が被災地に文庫本を寄贈したとか、もうどう考えてもP社の文学賞事案への強烈な皮肉(批判)。ちなみにE-BANKERさん、私も「K〇〇〇OU」は読んでませんが、Amazonで¥1で1,000冊近く中古本として出品されていたところからも、推して知るべしです(笑)
 この「白い原稿」のことがあって「かなり楽しめた」かな。ただミステリ短編としてももちろん、十分平均以上のレヴェル。

No.3 6点 E-BANKER
(2015/03/19 21:09登録)
警視庁捜査一課所属・犬養刑事を探偵役に据えた連作短編集。
タイトルどおり「色」をモチーフとした七つの事件が犬養を待ち受ける・・・

①「赤い水」=一時期世間で物議を醸した“高速バスの事故”がテーマ。といっても、本作に登場する運転手は過剰労働をしていたわけではなく、死者も僅かにひとり済んだのだが、犬養の推理は事件の様相を反転させる。
②「黒いハト」=イジメが原因で発生したある生徒の飛び降り自殺。ひたすら責任逃れをする学校側に世間の非難は集中し、イジメた生徒にもついには司直の手が伸びる。一件落着と思った矢先に飛び出す、犬養の鋭い推理!
③「白い原稿」=こりゃ思いっきり「水嶋○ロ」のアノ件がモチーフだな。作家はともかく出版社までもかなり批判していて作者は大丈夫なのだろうか? (実際「か○ろ○」は読んでないけど、そんなにヒドイのか??)
④「青い魚」=四十代にして独身の男の家に転がり込んだ若く美しい女性とその兄(!)。三人で海釣りへ出掛けたとき、事件は起こった! この「毒」と「魚」は事実なのだろうか?
⑤「緑園の主」=ホームレス襲撃事件とある少年の殺人事件。近接して起こった二つの事件には当然つながりがあった。事件の鍵は「緑園の主」であるアルツハイマー病の老婆なのだが・・・
⑥「黄色いリボン」=“性同一性障害”がテーマの本作。女装の似合う細面の少年は自分の中にあった人格が、実は別に存在しているのではないかと疑いだす・・・。そこには思いもよらぬ「悪意」が潜んでいた!
⑦「紫の供花」=①の後日談的な作品。①で黒幕的な役割を果たした男性が今度は殺されることになるのだが、人格者として慕われた男性がなぜ殺されたのか? 岐阜県の田舎町にまで登場する犬養刑事・・・って神出鬼没。

以上7編。
「毒」っていうタイトルどおりのプロット。
どの作品にも直接の犯罪者以外に、裏で糸をひく黒幕が最後に明らかにされるのだが、その過程で読者は何とも言えない「悪意」を感じる仕掛けになっている。
特別派手なトリックがあるわけではないのだが、作者の“旨さ”は十分に発揮されていると思う。

超ハイペースで作品を量産できる作者って・・・やっぱ懐が深いってことだろう。
本作も水準級には仕上がっている。

No.2 6点 メルカトル
(2015/02/07 22:14登録)
異なる社会問題をテーマやテイストにした、中山氏らしい本格ミステリの連作短編集。主役となる刑事は犬養隼人で、前作『切り裂きジャックの告白』でも活躍している。シリーズ第二弾ということになる。
それぞれの短編が標準を超えており、お得意のどんでん返しが味わえるが、世界が反転するような派手なものではなく、ちょっと気の利いた切り返しと言えるだろう。中でも驚かされるのは『白い原稿』で、これはなんとあの出来レースと噂されたポ○○社が有名俳優に新人賞を与えて話題となった、あの作品をモチーフにしている。しかも、鋭く出版業界の内幕を暴いて、相当な問題作と思われる。
他の作品も、色合いがすべて異なっており、読者に飽きさせない努力が認められ、好印象である。
それにしても、この人の刊行ペースは驚くべきものがあるが、その割には質が落ちないのが素晴らしいところだと思う。すでに独自のワールドと呼んでも差し支えないような、登場人物の系図を展開しているのも、ポイントが高い。

No.1 6点 虫暮部
(2014/08/06 14:26登録)
 時事ネタをすかさず採り上げた笑っちゃうほどフットワークが軽い短編集。いわゆるパズラーではなく、ひとつのポイントを軸にして情景がガラッとひっくり返る類のものだが、なにぶん短編で登場人物が限られているせいもあり、比較的展開が読み易かったのは否めない。
 唯一一人称で書かれた「黄色いリボン」には驚かされた。 
「紫の献花」の、血族・姻戚ではないひとを相手が知らぬ間に受取人にするというのは、いまどき流石に保険会社が認めないと思う。

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