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ミステリの祭典

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メグレと火曜の朝の訪問者
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1976年10月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 5点 クリスティ再読
(2019/12/28 00:59登録)
本作は結構変化球だ。初メグレで本作を読んだら??になるに違いない。
メグレの元を別々に踵を接して訪れた夫婦の話である。だから何がどうして...がはっきりしないこともあり、メグレも読者もどうもすっきりしない。メグレは気になりながらも、民事不介入というか、事件が起きているわけでもないので正面切っての介入もできず、不安な気持ちで事態を見守るばかりである。そして悲劇が起きる。メグレも犯人を推理するというよりも、なりゆきの結末をつけるために真相を引き出すだけのことだ。

責任と無責任の間には、あえて踏み込んでいくことが危険な領域、不分明で暗い領域があるものだ

とこの夫婦の「戦い」にメグレは踏み込むことができなかったのだ。ある意味、「メグレの失敗」を描いた、珍しい作品になるように思う。
なので事件の顛末以上にメグレの描写にウェイトがある。メグレ物というよりも同時期の一般小説側に近いテイストを感じる。
(ううん、評者どっちかいうと、男の方に問題が多いように感じるなあ...こういう男、結婚しちゃいけないような気がする。何となく、の思い出だけど、評者河出の50巻のメグレシリーズが出たときに、確か本作を真っ先に読んじゃって??になったような気がするんだ。そのせいか、実は手持ちにはビニールのかかった版が一冊もない。当時ハマらなかった責任は本作にあるのかも)

No.4 6点
(2018/08/17 16:36登録)
ある男がメグレを訪ね、その後、その妻がメグレを訪ねる。
序盤の二人の訪問で、その後、ホームズ物のように、事象や事件が飽きることなく発生し、とんでもない方向へと進んでいく、なんてことを希望的に想像したが、そうはいかないのがメグレ物。
これはどうみても私立探偵の仕事。それをメグレにやらせるのが、メグレ物らしさなのか。

後半になって、マイナス時間から、ゼロ時間(斎藤警部さんの用語を拝借)へと悪い方向に進むのは、メグレにとってはおもしろくないが、もちろん読者にとっては期待どおり。でも遅すぎる。まあそこまでの経過(人間関係の開示)が重要ではあるのだが。

主たる登場人物はメグレを除き3人。
たった3人なので、その人間関係におもしろみはないが、二人の訪問の趣旨と、3人が絡む事件との関係を容易には見抜けないような真相にしてあることと、その謎解きとは、それなりの出来のように感じた。
とはいっても、べた褒めというわけではありませんが。

最後にひとこと。
空さんとtider-tigerさんは、登場人物の女性に対し種々感想をお持ちのようですが、自分は特に何の感情も抱きませんでした。冷血なのか、鈍いのか、鷹揚なのか、それとも読みが浅いのか、シムノン作品を読む資格なしなのか、ちょっと考えてしまいました。

さらにもうひとこと。
最近、シムノン・コーナーは活気がありますね。私が参入したときは評者として二人目だったのに、いまは凄い人数です。うれしいです。
読む資格なしは撤回し、もう少し読んでみます。

No.3 7点 斎藤警部
(2016/01/15 13:39登録)
ストーリーの大半は、事件の起こる「ゼロ時間」に向かって進む「マイナス時間」のサスペンス。 警察にメグレを訪ねた夫曰く「妻が私を殺そうとしています。」別途、妻曰く「夫の精神状態がおかしいんです。」同居する妻の妹(わけありの淋しい女)は夫との慎ましやかな密会現場を見られ、妻は職場のボス(その妻は金持ち!)とただならぬ関係を匂わせるが。。 事件の萌芽を見せ付けられたメグレは「まだ起こっていない犯罪だから、もやもやする」と漏らす(本来の語義通りのサスペンスだ)。 果たして、本当に犯罪はまだ行われていないのか? と読者は暗い舞台裏に想いを馳せることも可能だが。。

同じ家に住む「三人」の内、或る一人が、残りの二人を殺害しようとする、しかし、その結果は。。。 という構造なのか? または、一人が別の一人を? 或いは二人で残りの一人を?? まさか、そこに自殺も絡んで来るとか。。。 そんなつかみ所の無い疑心と最終章標題(目次は無い)の意味深さが溶け合う時、騙し絵の様にミステリはくるりと向きを変え。。事件が起こって「プラス時間」に移行した途端、ストーリーは急遽謎解きに転じる! 物語の主題である「三人の本当の人間関係」が、最後に、死人が出る事件の真相構造として露呈、解決される。メグレはそこで手を引く。司法の手に回ったら、気の滅入る事件には関わりたくないと。

*正直、最終章の切ない謎解き急展開に1点upです。

No.2 6点 tider-tiger
(2015/09/26 13:02登録)
とある夫婦が個別にメグレの元を訪れます。
夫は「妻が自分を殺そうとしている」と主張し、妻は「夫は頭がおかしい」と主張します。奇妙なことに二人ともメグレに警護やらなにやらを頼んだりはしない。だが、メグレは一抹の不安を感じて彼らの周辺を調べさせるのだが……事件は本当に起きるのか、どのような事件が起きるのか、意外というほどのことは起こりませんが、なかなかよく考えられている話だと思いました。
ちなみに夫の方がタイトルにある火曜の朝の訪問者であります。

シムノンは精神医学や精神分析にかなり関心があったようで、そうした知識を織り込んだ作品がいくつかあります(『メグレ罠を張る』など)。これもその中の一編です。精神異常者には精神異常者の論理に則った考え方があり、また、彼らは自分の考えを滅多なことでは変えない。
ただ、シムノンは精神医学に興味はあっても、そこにどっぷりと浸かりはしないでうまく距離を保っていたように思われます。

二人の女性が登場しますが、自分はそのうちの一人が大嫌いです。もっとも嫌いなタイプの女性かもしれません。
チャンドラーの『湖中の女』に登場した女性を想起させられました。
彼女らに対するメグレとマーロウの対応の違いが面白い。
「あんたみたいな冷たい女には会ったことがない」(自分の記憶ではこんなセリフでした)マーロウは本人にはっきりこう言いますが、メグレは大人なのでそういうことは言いません。
若い頃はマーロウに拍手したくなりましたが、年を取ったせいか今はメグレの対応の方が正解かなと感じます。まあ、メグレもかなり熱くなっておりましたが。
この冷たい女と対照させるべく もう一人の女性は温かい女?なわけですが、彼女にしても、温かい女というだけで終わらせないあたりはさすがシムノン。
主要登場人物のうち、誰か一人でももう少し違った性格であったり、行動を取っていたならば、もっと幸せな解決があったと思われ、それだけに酷く悲しい事件でした。
ラポワントは本当にメグレを尊敬しているのだなと感じさせて貰えたのが救いか。

No.1 6点
(2011/10/19 21:23登録)
火曜日の朝メグレを訪ねてきた男は、妻に殺されそうだと告げます。しかしこの訪問者、本当に正常なのか疑問があるのです。
事件が起こってからの捜査の話ではなく、事件が起こる前に関係者たちについて捜査を進めるということで、メグレも慎重な対応を迫られます。最終的にはその男の家で事件が起こることになるのですが、どんな事件になるのかが見どころと言えるでしょう。意外に謎解き的興味がある作品です。で、事件が発生してしまうと、そこから解決まではあっという間。コメリオ判事が事件現場に行っている間にメグレは関係者の尋問を済ませ、逮捕にまで至ってしまいます。
メグレは訪問者の妻に対して不快感を示していますが、個人的にはそれほどいやな人物とも思えません。この人物関係では、結局こうならざるを得なかったかなあと、とりあえず納得できる結末でした。
ミステリと関係ない部分では、メグレ夫人の体調を警視が気に掛けるところがちょっとした味付けになっています。

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