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ミステリの祭典

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アキラとあきら

作家 池井戸潤
出版日2017年05月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点
(2017/12/25 10:06登録)
タイトルからすぐに想像したのは、ジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」。
そういえば池井戸作品は、長編、短編、連作短編などスタイルも雑多で、ミステリー、クライム・ノヴェル、サスペンスなどジャンルもいろいろ。もしかしてアーチャーを目指しているのだろうか?
実際に読んでみると・・・
二人の生まれ育ちに差がありすぎること、接点が少ないことはたしかに似ている。でも対決という姿勢はほとんどない。やはり違うかな。
勝手に想像しすぎたか。それでも楽しい読書だった。

700ページの大長編ということもあってか、作者得意の連作短編技術をうまく生かし、クライマックスを数多く提供してくれている。章ごとに見せ場があるといってもよいぐらい。
中でも、新人社員研修や追加融資、遺言、M&Aには、特に夢中になれた。

ただ読み終えてみれば、二人以外の出来が悪すぎるんじゃないのと首をかしげたくなる。
追加融資の際のあきら(階堂彬)の提案なんて、銀行員でなくても気づくレベル。
M&Aで見せるアキラ(山崎瑛)の一発逆転の稟議だって、私自身はダメだったけど、想像できる読者は多くいるだろう。でもこの提案、普通はやらないだろう。

結局のところ、やはり、主人公だけを際立たせて活躍させた、スーパー・ヒーロー物ということでしょうか。
ただ楽しむだけの読書。これを求めたいときには最適の作品です。

No.1 7点 E-BANKER
(2017/08/01 22:51登録)
池井戸潤の文庫オリジナル最新作。
名付けて『アキラとあきら』。もちろん人の名前です。
すでにWOWWOWでドラマ化され好評を博した(という噂)・・・。(もはや絶対にドラマ化されるよねぇ・・・)

~零細工場の息子・山崎瑛(アキラ)と大手海運会社・東海郵船の御曹司・階堂彬(あきら)。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった・・・。感動の青春巨編!~

これは・・・言うならば、「池井戸版・大河ドラマ」かな?
まるで一連の山崎豊子作品(「華麗なる一族」とか「日はまた昇る」とか)を思わせる大作だった。
本作。最新作とは言ったものの、実は『問題小説』誌に2006年から2009年にかけて足掛け三年間連載された作品の文庫化となる。
つまり、例の「半沢直樹」でブレークし、その後数々のヒット作を手がけることとなった作者が、まだ燻ってた時代の作品ということ。
初期作品では、「銀行総務特命」や「銀行狐」など、あくまでも銀行を主軸としたプロットが目に付いたが、本作では銀行が主要な舞台とはなるものの、銀行と相対する取引先企業にも同等にスポットライトを当て、重厚で深みのある人間ドラマに仕立てている。
巻末解説にも触れられているけど、稀代のヒットメーカーとなる池井戸潤の“萌芽的作品”に当たるのかもしれない。

ということで本筋なのだが・・・
「勧善懲悪」ストーリーはいつものとおり。むしろ本作ではいつも以上に「いい人」と「悪い、醜い人」の区別が明確。
これじゃまるで子供が見る特撮ヒーローものみたいで、そこまでデフォルメしなくても・・・という感想を持つ方も多いかも知れない。
でも、この「正義は勝つ!」っていうのを徹底しているのが、やっぱり作者のいいところなんだろうな・・・
『こんな奴やっつけちゃえ!』って思う読者の心情に応えるかのように、主人公が熱いハートでギャフン(死語!)と言わせるのだ。
まぁでも、人間って弱い存在だよねぇ・・・
特に「金」が絡むと、人間っていう奴はこんなにも卑屈になれるのかと思う。
人間の「欲望」が結集したものが「金」ということなんだろうな・・・なんて今さら思ってしまう。

ただ、全体的な評価としては、手放しで褒められるというレベルではない。
連載もののためか、置き去りにされた脇道も結構目に付くし、分量もここまでいるか?というほどのボリュームだ。
でも、そこそこ楽しい読書になるのは、やっぱり池井戸潤が好きだ、ってことなんだろうなぁー。

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