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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:663件

プロフィール| 書評

No.83 5点 エッジウェア卿の死
アガサ・クリスティー
(2009/10/27 14:04登録)
ポアロとヘイスティングズのコンビ作品で、ヘイスティングズの一人称で語られている、典型的な捜査中心の探偵小説です。
ポアロは犯人の知恵と知性に翻弄されるし(ポアロが犯人に振り回されるのはけっこう面白いですね)、ヘイスティングズもへまをやらかすなど、ミスディレクション要素はたっぷりあって、読者もいっしょに寄り道をしてしまいますが、肝心のトリックは大掛かりで緻密なわりには、解けてしまえばやや大味かなという気がします。犯人の意外性は楽しめますが、全体としては、ごく平均的なミステリだと思います。でも、クリスティーの場合、異色作が多いせいか、こんな王道的な作品であっても十分に興味をそそられることも事実です。
また、プロットはさすがに良くできていると思うのですが、私が読んだ新潮版は翻訳がイマイチ合わず、読んでいて何度もつまづいてしまいました。ハヤカワか創元推理にすれば良かったかな、と後悔しています。


No.82 7点 ブラジル蝶の謎
有栖川有栖
(2009/10/17 09:08登録)
初めて読む作家で、それほど期待せずに読み始めました。2,3編読み進んだところでは、みな探偵があっけなく解決してしまうのでイマイチだなとの印象でしたが、尻上がりに良くなってきました。トリックが良いとか、謎解きが論理的だとかいうのではなく、感性にマッチしているといった感じです。読みやすさや、関西のなじみの地名がよく出てくることも良く感じたことの一因なのですが、それだけではないようです。
作品としては、『人喰いの滝』の馬鹿げたトリックが気に入っています。『鍵』のオチも良かったですね。それから、『蝶々がはばたく』はなんだかジーンときました。この『蝶々』は短編のラストを飾るにふさわしい作品だと思います。


No.81 6点 ミステリーのおきて102条
評論・エッセイ
(2009/10/17 08:57登録)
「小説はみなミステリーだ」。北村薫も阿刀田高と同じことを考えているのだなと思っていたら、よく見ると読みたかった北村の評論ではなく阿刀田高を借りてしまっていた。しかも、中身は評論というより週刊誌連載のエッセーだった。失敗したかなと思いながら、軽く斜め読みし始めたが、これが意外に面白かった。
乱歩、清張、ポー、クイーン、クリスティーなど、古今東西の有名作家と、著名作品が続々登場する。「おきて」や「書き方」というほどではなく、裏話的で、著名作品を絡めながら趣のあるエピソード話をしてくれるのが、ミステリー情報収集家?である私にとってはうれしい。著者は映画通でもあるため「シャレード」や「太陽がいっぱい」などのサスペンス映画の話もあれば、傍点は推理小説では使ってはいけないとかの書き方の工夫話もある。それから、書評済みの山本周五郎の『五瓣の椿』がコーネル・ウールリッチの『黒衣の花嫁』を下敷きにしたものである等々の種々の新たな情報が得られた点も良かった。


No.80 6点 火と汐
松本清張
(2009/10/11 09:57登録)
表題作と、『証言の森』『種族同盟』『山』の4篇からなる短編集です。
表題作は、刑事二人がアリバイ崩しに挑む、「点と線」の簡易版といった謎解き本格モノです。ただ、かなり確実性の低いアリバイトリックなので、感動はありません。
その他の作品はアリバイ崩しモノではなく本格性は低いのですが、謎をうまく積み重ねて読者を引き込んでくれます。『証言の森』は時代設定が戦前で古めかしすぎて抵抗がありましたが、実はその古さにもわけがありました。これと他2作は、それなりに楽しめました。
4作の共通点は女性が被害者であること、それから雰囲気がみな陰鬱なことです。すこし陰鬱すぎるとも思いましたが(だいたい清張作品は暗いですね)、結果的には、いつものようにぐいぐいと引き込まれていきました。


No.79 6点 第四の扉
ポール・アルテ
(2009/10/03 09:21登録)
アルテはフランスのディクスン・カーと呼ばれている密室の得意な作家だそうです。海外版新本格といったところでしょうか。
本書には、もちろん密室殺人が含まれていますが、そのほかにこれでもかというほどの多くの事件が盛り込まれています。しかも、幽霊屋敷、交霊会などの怪奇的要素も十分にあります。そして、後半には展開にひと捻りあり、最後には衝撃もあります。しかし、詰め込みすぎのせいか、ツイスト博士によって解明された真相にはすこし無理があります。得意の密室トリックも私にとってはイマイチでした。それから、後半の展開はアイデアとしてはよかったのですが、さんざん無理のある真相を読まされたあとなので、驚愕もさほどではありませんでした。良かったのは、不気味な雰囲気を楽しめたことと、ストーリーに無駄がなかったことぐらいでしょうか。


No.78 5点 氷菓
米澤穂信
(2009/09/29 10:27登録)
推理対象となる事件は殺人ではないが、学校の33年前の封印された事件なのでそれなりに重みがある。その謎に対して古典部の4人の推理合戦が繰り広げられる。謎が過去の事件のものであり、また学校という閉鎖空間での出来事なので、謎解きとしては深みがあり、真相解明の過程は読んでいておもしろい。それに、事件や真相による物悲しさが学園物の爽やかさにほどよく調和していて、良い雰囲気が出ている。ただ、真相も、「氷菓」の意味もさほど驚くほどではなかった。
主人公の折木奉太郎の性格の描写にも問題がある。主人公は自らの性格をなにごとにもかかわらない省エネ主義だと一人称の地の文で語っているが、実際の行動はそれとはかけ離れている。一人称小説なのにそれはおかしいのでは、と違和感を感じた。だから、あまり感情移入はできなかった。年の差もありすぎるけどね(笑)。
「氷菓」だけに「評価」しにくい作品であった。


No.77 7点 死が招く
ポール・アルテ
(2009/09/24 12:25登録)
著者は、フランスミステリには似つかわしくない本格派のミステリ作家です。しかも小説の舞台はイギリス、時代設定は1920年台で、ディクスン・カーを意識したものとなっています。
長編とはいえ、やや短めで、短いわりに詰め込みすぎとの印象もありますが、むしろ短いことで、スピーディーでサスペンスフルなストーリー展開を楽しむことができます。もちろん、不気味な密室殺人、双子の兄弟、死者の怨念など魅力的な要素が備わっているので、おどろおどろしさも十分に味わえます。
読み終わってしまえばいえることですが、短めサイズに応じて贅肉がほとんどないため、丹念に読めば犯人当ては意外に簡単かもしれません。さいわいにも私は解けなかったので、ツイスト博士が真犯人を名指ししたときには、快感にひたることができました。


No.76 7点 ベスト・ミステリ論18
評論・エッセイ
(2009/09/24 12:15登録)
北村薫、坂口安吾、都筑道夫、瀬戸川猛資、法月ら著名批評家13人による18のミステリ評論を集めたアンソロジーです。若島正の評論が目的で図書館で借りましたが、都筑道夫、坂口安吾の評論も楽しく読ませてもらいました。評論というよりエッセイという感じです。

若島正の「明るい館の秘密」では、クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」を「アクロイド」と比較しながら、その心理描写を徹底分析し、叙述トリックを解析し、そして致命的な誤訳を指摘しています。この内容については予備知識があったので、どちらかというと裏づけがとれたという感じで、これですっきりとしました。章ごと登場人物ごとに詳細に分析していることには本当に驚かされます。「そして」を既読の方には絶対にお勧めです。「そして」の本格物としての面白さが倍増し、クリスティーの緻密さと文章力の豊かさを理解できると思います。若島正の著書には「乱視読者」シリーズもあるので、そちらも読んでみたいです。

また、都筑道夫の「トリック無用は暴論か」では、フィリップ・マクドナルドを例に挙げ、また森村誠一氏の「高層の死角」や斉藤栄氏の「奥の細道殺人事件」を槍玉に挙げながら、アリバイつくりや密室構成は従であり、解決にいたる論理が主であることを説いています。たしかに論理さえしっかりしていれば、少々無理のある真相、動機でも納得させられることがあるのは事実ですね。この評論が書かれたのが国内で新本格が登場するずっと前(1970年ごろ)の社会派全盛の時代ですから、時代に合った、国内本格を悲嘆したような内容といえますが、いま発表されたとすれば新本格ファンから反感を買うかもしれません(笑)。でも、論理が多少無茶でも、綾辻氏の「十角館」などのように、文章(叙述トリックなど)で驚かされるのも個人的には好きなほうなので、論理が全てではないと思いますが。。。


No.75 7点 吉原手引草
松井今朝子
(2009/09/17 09:51登録)
聞き込みにより花魁葛城の失踪の謎を追う、吉原の遊郭を舞台とした新しいスタイルの時代ミステリで、各氏絶賛の直木賞受賞作品です。
聞き込み役である男は人物像が明らかにされておらず、その会話文すらなく、その男の質問内容は、16人の関係者ごとに章立てされた各章の一人語りの会話文(独白風の会話文)の中で復誦される程度でしかわかりません。この一人語りの会話文は語り口調を職種により変えて興趣豊な文章となっており、著者の工夫が感じられます。主人公である葛城は関係者たちの一人語りの中でしか登場しませんが、それによって人柄がおぼろげながら見えてきます。一人語りの中に仕掛けが隠されていて、何人かの語りを読み進めば謎が見えてくるはずなのですが、私の場合、中盤でも謎の影すら見い出せませんでした。すらすらと読めてしまうので、描かれた人間模様の中に隠された伏線も見逃してしまいます。でも、結果的にはそれでも十分に楽しむことができます。推理に必死になるよりもむしろ、吉原という江戸の中でも特殊な空間での花魁を取り巻く様々な人たちの人間模様を楽しみながら読んだほうがいいようです。いちど読んだ後に、解説、再読による復習も楽しめると思います。
実は読書の中盤ごろ、直木賞のサイトを覗き見ていたら、ネタバレに触れてしまいました。大失敗です。それでもショックから立ち直りがんばって読破し、まずまずの満足感を得ましたが、やはりミステリとしての楽しみは半減しましたね。ネタバレショックは無視して採点したつもりですが、無意識に減点してしまっているかも。。。

(以下ネタバレ要注意!)
要注意というほどでもありませんが。。。
ラストに明かされる真相は誰もが好む内容です。冷静に考えれば誰でも想像できることです。多くの楽しみ方があるのは確かですが、ミステリとしては、その種明かしに驚かされるのが楽しいでしょう(ぼくはミスしましたが)。ぼくとしては、この種の真相が好きなので、真相開示のあとに、葛城視点の経過を動機編として加えてほしかったな、とも思います。

(2010年4月追記)
読書中にネタバレ情報に触れたため評点を控えめにしていたが、冷静に考え直せばもう少し評価は高い。よってプラス1点。


No.74 6点 グリーン・マイル
スティーヴン・キング
(2009/09/16 19:23登録)
ネタバレを防止するために6分冊を毎月順次発刊していました。
ストーリーは、アメリカの刑務所で、死刑囚の大男、コーフィが不思議な力で何人かの命を救っていくという奇妙な内容です。死刑囚と看守たちとの触れ合いもあり、全体として心温まるファンタジー作品となっていますが、ホラー的要素もあり、作者らしさが表れています。
話としては面白いのですが、映画まで観てしまうと、もうこれ以上はいらないといった感じで、だいたいのストーリーも覚えているので再読したいとも思いません。その程度の作品だったのでしょうね。本格ミステリなどミステリ色の強い作品に疲れてきたときに読むのにはおススメです。


No.73 5点 パラサイト・イヴ
瀬名秀明
(2009/09/16 18:42登録)
著者のデビュー作で、ハードSF系(理系)バイオホラーの先駆的な作品です。つまり本書は理系色とホラー色の両方を備えていて、さらにミステリ色も加味され、エンターテイメントとしてぜいたくな作りとなっています。が、すべての要素が満足できるかというと、そうではないようです。どうしても、どれかひとつを期待してしまいますから、期待はずれな面も出てくるかもしれません。むしろこの種の作品は、期待はずれな面があっても、じっくりと再読すれば良さが理解できるような気がします。
著者である瀬名氏は、薬学系の学者ということもあって、理系色をより強く出したかったのではと感じられます。その後の作品も、タイトルだけで判断すればハードSF色が強くなっているようですね。


No.72 5点 黄金を抱いて翔べ
高村薫
(2009/09/16 18:37登録)
読みづらいほど精緻な描き方をしている。おまけに読んでいて緊張感を覚える。そんな作品でしたね。こういった男の世界を女流作家が、しかもデビュー作で描いたってことが最大の驚きです。もういちど、じっくりと読みたくなる作品です。


No.71 5点 このミステリーがすごい!2009年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2009/09/16 18:34登録)
10年ぶりに購入しました。買ったのは年末でしたが夏に読み終えたので、季節はずれですが、いまごろの評価になります。
形式的には昔とほぼ同じですね。ぼくが好きだった私のベスト6も残っていました。そもそも、このミスはミステリを本格だけではなく広めに捉えているようですが、私のベスト6はさらに広く感じます。ミステリとはとても思えない、とんでもないのを選んでいる人たちもいて、それがまた面白かったという記憶があります。でも今年のは普通でしたね。
当然ですが、ランクインの作家たちは昔とずいぶん変わりましたね。ついでにWikiで20年分のベスト10ランキングを見ましたが、海外編の常連だった、スティーヴン・キングやトマス・H・クックなど売れっ子作家たちはもう消えています。2009年度では、名前すら知らない作家たちのオンパレードで、恥ずかしながら唯一名前を知っているのがジェフリー・ディーヴァーぐらいです。取り残されたって感じです(笑)。
どちらかというと、このミスは読み物として楽しんだほうですが、もちろん参考にした作品もあり、これからも頼りになるガイド本となりそうです。(祭典サイトの情報には遠くおよびませんが...)
こんな感じで感慨にふけっていましたが、2009年版は、短編ミステリなど不要なものもあるので、点数としてはこの程度です。


No.70 6点 飢えて狼
志水辰夫
(2009/09/09 12:11登録)
冒険小説三部作の最初の作品で、デビュー作でもある。残りの2作は、「裂けて海峡」、「背いて故郷」。
ひさしぶりの一人称小説に冒頭から心がときめいた。文章はたしかに巧い。情景描写がとくに良い。体言止めを多用(濫用)することが、著者の文体の特徴なのだろうか。とにかくテクニックは抜群である。文章の歯切れ、テンポともに良く、一般のハードボイルド文体とちがって断然読みやすく感じた。文章が良いので、場面が流れるように映像として浮かんでくる。物語自体もスピード感のある部分と、じっくり読ませる部分との両方が適度に交じり合っていて、ぐいぐいと惹き込まれる。第二部の中ほどでの、択捉島の案内人・蛭間との別れのシーンでは、巧い文章表現があいまって、ジーンときた。この場面が本書の前半のクライマックスではないだろうか。しかし、蛭間と別れてからの主人公の単独サバイバル場面では、この種の冒険小説に不慣れなせいもあって、集中が途切れ、すこし停滞してしまった。本来なら、この場面こそが圧巻シーンなのかもしれないのだが。また、解決編である第三部は、序盤で真相を直感的に予想してしまったので、結末にはそれほど驚きはなく、活劇を文章で楽しむ程度だった。
初めての国内冒険小説に面食らった感もあるが、点数(6点)はともかくとして、既読の2作品「花ならアザミ」、「行きずりの街」にくらべ、これからも読んでいこうという気にさせてくれる作品であった。


No.69 8点 Xの悲劇
エラリイ・クイーン
(2009/08/31 12:09登録)
犯人の名と、詳細な犯罪手段とを知った時、驚きというより、そんな馬鹿なというのが第一印象でしたが、ページ数を割いた大団円でのレーンの解説を読み進むうちに、なるほどと納得させられました。それほど犯人には意外性があり、なおかつ謎解きがしっかりとした作品です。レーンの謎解きは、本当に心地よい読後感を与えてくれます。この謎解き解説は、殺人事件の推理はこうやってやるものですよ、と教えてくれる「推理」のお手本といえます。でも、私の好みからして、「推理小説」のお手本とまではいかないところもあるので、その分減点しました。
ミステリファンになって数十年、あまのじゃくという性格から、熱狂的クイーンマニアを横目でにらんで、すこし馬鹿にもしていたため(失礼)、しかも既読の「Yの悲劇」と比較して国内では人気がやや劣るとも聞いていたので、初読が先送りになっていましたが、このサイトの評価を見て、長年の積ん読を解禁しました。解禁して大正解。悔しいですが、この年になってクイーンにも傾倒しそうです。
「Y」の内容を忘れてしまっているので、どちらが上かは今すぐ判断できませんが、再読してから、じっくりと比較して楽しみたいですね。とにかく作品の作りや雰囲気には相当な差があるので、ミステリファンであれば、すくなくとも一方には肌が合うと思いますよ。


No.68 6点 桜宵
北森鴻
(2009/08/22 13:52登録)
香菜里屋シリーズ2作目。
「十五周年」は予想通りの結末だった。きれいな終わり方はあまり好きじゃないけど、予想が当たったので満足できた。でも、他はまずまずかな。複雑なロジックには慣れてきたけど、常連の登場人物が善人すぎるし、なんか堅苦しいし、大満足とはいえなかったな。料理はよかったけどね。


No.67 6点 11文字の殺人
東野圭吾
(2009/08/19 10:03登録)
たしかに火サスそのものですね。(長年、火サスで培われた)直感によって、早々と犯人も分かってしまいました。真相はチープすぎます。余韻も残りませんでした。でも、ページを繰る手が止まらないほど楽しめたことも事実です。アリバイトリックもシンプルで良かったです。とにかく、あっという間に読めたってことが、素晴らしいエンターテイメント小説の証拠だと思いますよ。買って読むのは勿体ないかもしれませんけどね(笑)。


No.66 6点 花の下にて春死なむ
北森鴻
(2009/08/13 10:21登録)
謎解きロジックはしっかりしているし、安楽椅子探偵のマスターの推理は冴えてるし、格調も高く、料理も美味しそう。ところが、ぐいぐい引き込まれるという感じではなく、なにか欠けているように思えます。いや欠けているのではなく、逆に詰め込みすぎなのでしょう。謎解きがくどすぎて、わずか50ページの短編なのにストーリーが歪んでしまってるように思いました。短編の安楽椅子探偵ものの宿命かもしれませんね。それと、会話文にぎこちなさが感じられました。ある意味、純文学的なのかもしれませんが、慣れていないので抵抗がありましたね(笑)。
でも、「殺人者の赤い手」のラストの少し前ではホロリとさせられたし、連作のラストつまり最終話「魚の交わり」も展開が良かったので、満足はしました。それに、食事の場面のある小説は基本的に好きですね。


No.65 7点 閉鎖病棟
帚木蓬生
(2009/08/12 14:37登録)
精神科病棟での人間模様が、患者側の視点で、緻密で丹念に描かれています。静かに流れるストーリーと緻密な描写によって、かつて体験したことのない、途轍もなく不可思議な閉鎖空間に誘われていきます。残念ながらサスペンスは感じられませんが、むしろそれがこの作品の持ち味なのかもしれません。そして、普通の推理小説では味わえない読後感を得ることができます。
この作品は「感動」のドラマで、ミステリではないとの評価が一般的です。ミステリの定義をかなり広義で捉える私にとっても、ボーダーぎりぎりかもしれません。でも、「罪と罰」を登録したぐらいだから、同レベルだと思って、登録してみました。それに、冒頭の引き込みは間違いなくミステリだし、途中にもその要素は十分にあると思います。


No.64 8点 わらの女
カトリーヌ・アルレー
(2009/08/08 08:55登録)
悪女にしては知恵が浅すぎるという感じがするし、主人公の行動や、物語の設定、文章など、あらゆる面で稚拙さが感じられます。でも、物語の展開は実に巧みで、サスペンス作品としては上級品です。死体を見つけられるまでは、ハラハラどきどきで、すらすらとページが進む一方、その後は一転して、これから先どうなるのだろうか、と推理しながら楽しむことができます。ラストは想定内とはいえ凄いですね。後に残ります。
話題になった本作がサイト登録されていないことは、本当に意外でした。たしかに今なら、リアリティがなさすぎて敬遠されるかもしれませんし、悪漢小説というのも敬遠の要素になりそうです。でも、悪女ヒルデカルデには意外に感情移入できると思いますよ。再燃して、再映像化されることを期待しています。

本書は、かつて映画化され、その主役であるショーン・コネリーとジーナ・ロロブリジーダの映画スナップが、創元推理文庫のカバーを飾っていたことは印象的でした。国内でも2度ドラマ化されています。特に古いほうの連続ドラマで、大空真弓、高橋幸治、加藤嘉が好演していたことが、いまだに鮮明に記憶に残っています。

(同日追記)ネットで調べると、2006年にも、「美しい罠」というタイトルで、昼の連ドラで放映されていたようです。
(2010年6月追記)若いころに強い印象を残した作品なので、思い入れもある。よって、1点プラスして8点。

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