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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:667件

プロフィール| 書評

No.227 7点 夜よ鼠たちのために
連城三紀彦
(2011/07/07 16:23登録)
ハルキ文庫版。9短編を所収。
1)「二つの顔」・・・兄弟が強い絆で結ばれたのですね。よかったのか悪かったのか?トップバッターは怖いというより、なぜか笑える内容だった。
2)「過去からの声」・・・退職した青年刑事が一年前の誘拐事件の真相を、その事件をともに追った先輩刑事に手紙で告白する。子供のころ誘拐された経験があるからこそ分かる誘拐犯のこと。意外な真相だが、驚きよりも爽やかさを感じた。
3)「化石の鍵」・・・体の不自由な10歳の子の首を絞めたのは誰?
4)「奇妙な依頼」・・・タイトルどおり、奇妙な依頼だ。この依頼人、相当頭がいい。事実が明かされれば不思議な依頼の謎はすべて解明する。実に分かりやすい。
5)「夜よ鼠たちのために」・・・なるほど、たしかに復讐にはちがいない。隠すテクニックは抜群。こんな話が現実にあったら怖いなぁ。いやもしかしたらあるかもしれない。ネーミングも素晴らしい。
6)「二重生活」・・・これも反転ミステリの傑作。
7)「代役」・・・たしかに代役。話の中で騙された××は本当にお気の毒。可笑しな話だった。
8)「ベイ・シティに死す」・・・9編のなかではシンプルなほう。それでも騙されてしまった。
9)「ひらかれた闇」・・・短編にしては人物がわかりやすく、物語性もあり、青春ミステリっぽくもある。長編につながりそうな作品だった。

爽やかに括った「過去からの声」が、連城らしくなく、そういった意外性があって、いちばん良かった。爽やかさを求めるなんて、自分も案外俗っぽい人間なんだな、と思った。
ほとんどの作品は、奇術のような鮮やかな騙しのテクニックが駆使されている。そんな連城マジック・ミステリを十分に堪能できた。外れはないのだが、9編を続けて読むとちょっと疲れてしまう。暑さのせいかもしれない。


No.226 4点 一角獣殺人事件
カーター・ディクスン
(2011/07/04 10:32登録)
不可能犯罪&クローズド・サークル物。これほど魅惑的なキーワードで形容できる作品なのだが、出来はそれほどでもないように思う。
そもそもCCという設定は場面があまり変わらず単調になりやすいから、サスペンスをふんだんに盛り込むか、事件を複数発生させないと読者は最後まで息が続かない。HM卿が最後に明かす真相は、なるほどなるほどと感心しないわけでもないが、寄り道が多いし、時すでに遅しという感もあった。それにあの凶器もいただけない。ロマンもなければ面白みもない。お笑いバカミスの失敗作という感じ。本作のような怪盗捕獲ドタバタCC劇も、書きようによれば面白くなるはずなのだが。。。
でも犯人当てについては、こういう謎の提起の仕方もあるんだな、とそれだけには感心した。


No.225 6点 スコッチに涙を託して
デニス・ルヘイン
(2011/06/21 13:32登録)
男女ペアの私立探偵・パトリック&アンジー・シリーズ第1作です。
「スコッチに涙を託して」というタイトルからは、男のハーレクインと呼ばれても仕方がないような内容を連想しますが、洒落た会話や仕草はあまりなく、男の美学のようなものは感じられませんでした。どちらかといえば老若男女に受けるハードボイルドというか、想像以上に俗っぽいというか。。。原題 “A drink before the war” のほうが合っているようです。
シリーズ第1作ということもあって、主人公の人物造形は十分すぎます。しつこいほどの軽口会話と、車をローンで買ったとか、筋に関係のない主人公の独白(パトリックの一人称の地の文)とがやたらと目立ちます。とはいえ、パトリックの生い立ちと、事件の背景とには共通点があって、デビュー作とは思われないような構成の巧さを感じられます。ただ主人公の身辺の話が多い分、メインの事件の描写が不十分かなという気がしました。
ストーリーはギャングの抗争、政界とギャングの癒着が物語の根幹をなし、激しい銃撃戦もあり、ごく普通のヤクザ物といった感じがしました。嗜好からは少しずれてはいましたが、後半には痛快な場面もけっこうあって、万人受けしそうなエンタテイメントに仕上がっているように思います。ただ、こういうのは映像のほうがもっと楽しめそうです。

結果的には明るく楽しめたのですが、「ミスティック・リバー」(映画)や「コーパスへの道」(犯罪モノ短編集)の暗い雰囲気が頭に焼き付いていたため、途中までは、陰鬱でメランコリックな印象しか持てず、それを拭い取ることがなかなかできませんでした。偏見、先入観を持った読書はいかんということですね。


No.224 6点 看守眼
横山秀夫
(2011/06/13 09:59登録)
表題作を含め全6編。
「口癖」が面白かった。逆転したかと思えばラストでまた逆転を喰らう。でもこんな話はないだろう。「秘書課の男」はもっとも現実感があり、主人公の男の切実な思いが伝わってきた。この作品以外は、いかにも作り物という感じがしたが、結果的にはどの作品にも時間を忘れるほど夢中になれた。
主人公がみな、ちょっとしたことに慌てたり、些細なことに喜んだりと、どこにでもいそうなタイプなので、はっきりいってあまりカッコよくない。そんな主人公たちを身近に感じられてうれしい気分にもなるが、人の失敗を見てニンマリしているようで、複雑な心境にもなる。まあ、それだけ巧く表現できているということはたしかだ。


No.223 6点 燃えた花嫁
山村美紗
(2011/06/05 08:23登録)
殺人が6件も発生する派手な展開です。タイトルどおり花嫁が燃え、しかもその同じ手口は2度つづきます。ダイイング・メッセージめいた謎、死体移動、密室トリックなど仕掛けられた謎は多数あります。
新素材を巡る繊維業界の企業間競争の中での連続殺人。当時としては人気のスタイルだったのでしょう。社会派全盛時代では、こういう2時間ドラマ的お手軽本格ミステリが受けていたということの証しであるようなミステリです。
密室トリックは解けそうにないほど実現性が低いのに、キャサリンがいとも簡単に解いてしまうし、ダイイング・メッセージは謎解き容易なのに後半まで引っ張るし、とにかくメチャクチャ。キャサリンの超人的な推理は瞬間芸のようで笑えました。都筑道夫ならおそらく酷評していたでしょう。
と、マイナス要素もおおいに目立ちましたが、それ以上に派手な道具立ての芝居を堪能できたことも事実です。普段ならマイナス要素を加味して4点ぐらいを付けるところですが、これだけ楽しめれば合格点でしょう。nukkamさんの推薦に、なるほどと納得しました。


No.222 6点 ゴミと罰
ジル・チャーチル
(2011/06/01 10:12登録)
旦那と死に別れた子持ち主婦が探偵役を務めるユーモア本格ミステリ。危なっかしく立ち回りながらも殺人事件を解決へと導いていきます。
殺人は近所の友人の家の中で起こり、登場人物のほとんどが隣近所の主婦たちという、生活密着型のいたって軽めのミステリですが、本格要素はほどほどにあり、その謎解きヒントも適度に散りばめてあります。まあでも、しっかりと読めばこれしかないな、という感じはしましたが。
本書の特徴はそんなミステリ部分よりも、主婦の生活感のある会話や行動描写にあります。米国には仕事でしか行ったことがないので生活環境のことはよくわかりませんが、現地の生活ってこんな感じなのかな、とちょっと意外に思いました。主婦たちの濃密な近所づきあいもあれば、嫁姑の問題もあり、まるで日本のホームドラマを見ているようです。もしかしたら公園デビューもあったりするのでしょうか。
文章は読みやすく、内容的にも退屈な箇所はありませんでした。猛烈な勢いで読み進むのですが、スピードを上げすぎてヒントを逃したんじゃないかと後戻りすることもしばしばありました。読みやすいのも考えものです。
原題は Grime and Punishment 、それを『ゴミと罰』に。うまく訳しますね。シリーズを通じてこんな調子のタイトルを付け続けた原作者のアイデアには(翻訳者にも)感心します。


No.221 6点 造花の蜜
連城三紀彦
(2011/05/27 10:02登録)
上巻は誘拐サスペンスでノンストップ、下巻は一転心境描写でドップリと小説世界へ。そして真相がこれまた強烈。何を述べてもネタバレになりそうなので多くは語りませんが、ファンからすれば、これこそ連城マジック炸裂ということなんでしょう。
と絶賛したいところですが、いくらなんでもこんな壮大な事件はあり得ないでしょう。どんな文章力、表現力をもってしても、このストーリーに現実感は出し切れません。例えば時代設定を変えるなどすれば、気にならなかったのではと思うのですが...
でも楽しめたので点数はこんなところです。


No.220 5点 白鳥殺人事件
内田康夫
(2011/05/21 13:27登録)
グリコ・森永事件がテーマになっていますが、タイトルの「白鳥」とはあまりにもアンマッチな感じがします。好きなタイプのミステリーではありませんが、それでも実際の事件を題材にしてリアリティーを出し、しかもうまくまとめてあるので、読み物としては楽しめました。
旅情も、推理の程度もほどほど良く、浅見光彦モノとしては意欲的な作品かと思いますが、シリーズ作品があまりにも多すぎて、浅見ファンでなければ、ほとんど目にも留まらず記憶にも残らない作品であるとも言えます。


No.219 7点 完全なる首長竜の日
乾緑郎
(2011/05/20 18:17登録)
第9回『このミス!』大賞受賞。
終盤までは、主人公の女性がSCインターフェースなる医療技術を用いて、自殺未遂を図り意識不明となった弟と対話をするという非現実でSF的な話と、読者がすぐにでも話の中に入っていけそうなリアリティのある描写との乖離に違和感を感じながら読み進めていきました。意外な真相に到達して、なるほどと納得しました。
この真相は比較的予想がつきそうですが(アマゾンのレビューではそんな意見が多かった)、僕は完全にはたどり着けず騙されてしまったので、心地よい満足感が得られました。しかも、かつて観た、同種のテクニックを用いた、女性の近視眼的視点の洋画(タイトルを忘れましたが)のラストの興奮がよみがえり、読後しばらく余韻に浸ることができました。
殺人などの事件もなく、さほどのサスペンスもなく、中盤は淡白すぎる嫌いもあり、現実と夢とが入り乱れ読者を混乱に導くような描写もあるから、おそらく好き嫌いの分かれる作品だろうと思いますが、僕はこの作品のアイデアと文章力を高く評価しています。ただし、最後の1ページは僕自身の本来の嗜好からいえば○、本作に限れば△です(感動的に結んでほしかった!)。


No.218 6点 花盗人
乃南アサ
(2011/05/13 17:05登録)
長短種々10短編が収録してあります。ほとんどが男女がらみ物で、ラストはみな驚愕のオチが待ち受けています。
ひとことで言えば「奇妙な味」系ですが、中途は乃南さんらしく、純文学を読んでいるような気分にさせてくれます。会話文はいきいきしていて、これにはいつも感心させられます。
解説にもあるように、どの短編も登場人物の説明がほとんどないので、会話文や心境描写からその人物の職業や性別などの人物設定や背景を想像しながら読むことができます。これこそが小説の醍醐味ではないでしょうか。乃南さんは案外、叙述トリックの名手になれるのではという気がします。
10編中、掌編の『薬缶』、やや短めの『今夜も笑っている』、『他人の背広』、長めの『最後の花束』が好みです。『最後の花束』の第3章は本当に強烈でした。あのオチは全く想像できませんでした。
また解説が「ミステリー作家養成講座」となっているのが面白く、その内容にも満足しました。この解説を含めて予想以上の充実感が得られました。


No.217 4点 御堂筋殺人事件
内田康夫
(2011/05/06 11:10登録)
幕開けは御堂筋パレードでの転落死。発端は派手だし、ファッションモデルが登場し、一見華やかそうな感じでもあるが、特許が絡んで、企業物・社会派ミステリとして意外に地味な展開となっていく。舞台が関西なので興味を持って読んだが、近場だけに旅情はほとんど感じられず、社会性も、謎解き推理も、ラストもイマイチな作品だった。浅見光彦シリーズの中では平均以下。多作なだけに仕方なし。


No.216 4点 鎌倉釈迦堂殺人事件
木谷恭介
(2011/05/06 10:58登録)
トリックもなく、主人公の宮之原警部には特段のクセもなく(もちろん一応の推理力はあるが)、旅情や薀蓄も控えめで、ストーリーもわりに平坦です。取り立てて言うほどの魅力も特徴もありませんが、宮之原警部シリーズを1作読んだだけなので、主人公を取り巻く環境、背景についてはまだ何もわかっていません。同シリーズ作品が多数あることから判断すれば、宮之原警部というキャラクタは案外人気があるのかもしれません。
本書だけでいえば、読みやすさを除くと、やや物足りないですし、大企業やヤクザが絡んでくる展開は嗜好からもずれていました。


No.215 7点 サイコ
ロバート・ブロック
(2011/05/02 09:46登録)
究極のマザコン&○重○○のホラー・ストーリーです。
あの驚愕の真相を映画で観て知っているので読む必要なし、と思いつつも手にとってしまいました。でも真相を知っていても楽しめました。再読(読むのは初めてですが)でも、サイコサスペンスならではの最高の緊迫感を味わえましたし、どういう伏線があるのかな、と探りながら読めたのも収穫です。
映画では隠す工夫がされていましたが、原作のほうは、ノーマン・ベイツの視点の描写さえあれば、文章でなんとでもなるんだなという印象を受けました。その点は映画のほうが優れています。しかし、あのオチがある限り、映画のヒットはヒッチコックだけの手柄ではなく、やはり原作があればこそだという感じがします。原作小説を賞賛すべきでしょう。

小説のノーマン・ベイツって太っていたんですね。巻末の賛辞にも名を連ねていたように、サイコといえばアンソニー・パーキンス。スリムなトニ・パキのイメージが強すぎますが、ベイツのようなタイプって本当は太めのほうが合っているのかもしれません。


No.214 7点 十二人の怒れる男
レジナルド・ローズ
(2011/04/28 11:41登録)
シドニー・ルメット監督の追悼読書です。

映画を数回観ているし、巻頭の映像写真や陪審員の説明文を見ながらの読書だったので、読み進むうちに映像も筋も思い浮かんできました。感情を露わにした陪審員たちの討論は、シナリオでも十分に読み応えがあります。残念なことは、あっけないほど短いことと、大好きな裁判所前のラストシーンがなかったことです。たしかにシナリオだけではたよりないですね。未読の方は、映画を観てから読むことをお薦めします。

この映画、ミステリとしてよりも感動のシリアスドラマとして記憶に刻まれています。今回はミステリ目線で読み、ミステリとして楽しませてもらいましたが、リーガル物ならではの無罪解明のロジックは、フーダニット物とは違った心地よい安堵感を与えてくれました。最初に映画を観たときも、そんなところに感動したのかもしれません。
ただ、話の中にも出てくるように、これだけ疑問だらけなら裁判官が再審理したほうがいいのでは、とも思いましたが。

子供の頃、それまでアメリカ映画の主人公といえば、逞しく行動的な正義派という印象しか持っていなかったのですが、この映画を観て、なかには誠実で真面目で物静かな主人公たちもいるんだなと認識したものです。映画の影響で、第八号を演じたヘンリー・フォンダを長い間、善良で、不器用なほど誠実で真面目なアメリカ人の代表格だと思い込んでいました(私生活はどうだったのかは知りませんが)。
(もうひとつ余談ですが)子供の頃、この映画を「十二人のイカレタ男たち」と言って家族に笑われたのを思い出しました。国内のパロディ版にありそうです(笑)。


No.213 7点 再会
横関大
(2011/04/22 19:28登録)
<第56回江戸川乱歩賞受賞作>
23年前、小学生の仲間四人で校庭に埋めたタイムカプセル。幼なじみの四人は、封印すべき秘密を共有していたはずだった。しかし、そのうちの誰かが...

息をつくひまもないほどスピード感のあるサスペンス展開。視点は四人。交錯しすぎる感もあるが、映画を観ているようで意外にわかりやすい。
犯人当て要素も、驚愕の真相もあるのだが、基本的には緊迫感が継続するストーリー展開がもっとも楽しめる点だ。
飛躍しすぎの論理と、ご都合主義と、アンフェア感とで、本格ミステリとは言えないような内容となっているし、過去の事件について、終盤に真相を匂わせる記述があったがあまりにも唐突だったことなど、気になる点もあった。でも、それらを十分に補うものがあり、すべてを許容できた。それほど楽しませてくれるストーリーだった。
キャラクタは、四人については分散しすぎだが概ねよく描かれている。探偵役の刑事・南良の存在も最後まで光っていた。よって人物描写についても申し分なしだった。

作者は乱歩賞に長年応募し続けたそうだ。受賞を狙うだけあって、ずいぶん推敲を重ねたのではと思うぐらい文章、プロットともに完成しているように思う。読者を楽しませるテクニックを持ち合わせているようにも思う。荒削りな「プリズン・トリック」(第55回受賞作)とは正反対だった。選者の評を読むと、瑕疵や欠点を指摘しながらも(今野敏以外は)概ね絶賛だった。ただ、今回はみな出来がよかったようだ。


No.212 7点 卒業−雪月花殺人ゲーム
東野圭吾
(2011/04/20 10:17登録)
(ちょっとネタバレ)
密室トリックはまったく好みではない。雪月花ゲーム・トリックはまだましだが、種明かしでは、実は○○がカードを準備したとか、××が隠し持っていたとか、パズルとしてはフェアじゃない気がした。それとも、与えられた図面や説明だけでパズルを解こうとした読み手側に問題があったのか。あくまでもミステリ小説なので、全体を読むべきなのでしょうね。

トリックには多少批判的ですが、青春ミステリ好きにはたまらない内容です。6人の学生の役割分担もよくできているし、人物描写もなかなかのものです。6人という人数も多すぎず適度です。
それにしてもこのサイトでは、どうしてこんなに点数が低いのでしょうか。本格ミステリに対しては、厳格にミステリ要素のみで判断している方が多いということでしょうか。なんとも哀しく切ない青春群像におおいに惹かれたので、得点は高めです。


No.211 2点 塩原殺人行
草野唯雄
(2011/04/13 13:34登録)
2中編が所収されていました。

「塩原殺人行」・・・いちおう謎解きミステリですが、トリック(物理トリック、アリバイトリックなど色々とあるのですが)を含むミステリ要素、語り口、プロットと、三拍子そろってひどく、褒めるところがありません。ご都合主義のオンパレード。タイトルにはなんとなく憶えがあり、著名な作品かと思い込んで借りましたが、まさかこんな内容だとは…
行間たっぷりの120ページなので、短編といってもよく、その短い中に長編のプロットをむりやり詰め込んで雑にまとめた、という感じがします。

「大東京午前二時」・・・江戸川乱歩賞候補作。危険が迫る夜間のビルの密室に取り残された女性を救うべく、関係者や警察が夜の街を奔走するタイムリミット・サスペンス。表題作にくらべれば、だいぶましです。なんとかサスペンスを保ちながら最後まで読んでいけますが、文章が悪いのか、それともネタが小粒すぎるからなのか、やはり及第点にはとどきません。東京の街中を走り回る話なので、東京の(40年前の)地理に詳しければもっと楽しめたのかもしれません。

伏線のない小説なんてありませんが、両作品にはなかったような気がします。読み飛ばしただけなのかもしれません。
著者作品にはまともなやつもあるはずです。今回は大失敗でしたが、今後も懲りずに当たってみます。


No.210 6点 スペイドという男 ハメット短編全集2
ダシール・ハメット
(2011/04/08 10:40登録)
スペイドもの、コンチネンタル社もの、一般小説風のもの、謎解き度合いの高いもの、低いもの、長めのもの、超短編もの等々、種々(10編)そろっていて、なかなか楽しめた。これだけそろっていれば、どんな読者でも、どれかが嗜好に合うのではと思った。
かなり軽めでオチもあるショートストーリーの「夜陰」と、プロットが楽しめる「ああ、兄貴」がとくに印象に残ったが、その他も概ね基準点をクリアしている。
「ああ、兄貴」は、伏線はわかりやすいがミステリ性は十分にあるし、兄を崇拝する主人公の描写もよかった。
全体としては中の上程度の小品集だった。
分析すると、みな凝ったつくりではないし、いかにもハードボイルドという作り物っぽさもない。そのへんがチャンドラーとは違うところなのかな?どちらの作家も既読作品はすくなく、まだまだ比較評価する域には達してはいないが。


No.209 6点 ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利
ロバート・バー
(2011/04/02 16:01登録)
著者はコナン・ドイルと同時代作家です。
「ダイヤモンドのネックレスの謎」「シャム双生児の爆弾魔」「銀のスプーンの手がかり」「チゼルリック卿の失われた遺産」「うっかり屋協同組合」「幽霊の足音」「ワイオミング・エドの釈放」「レディ・アリシアのエメラルド」の8編。
「うっかり屋」は名編だそうですが、個人的には「チゼリック」と「ワイオミング」が好み。「レディ・アリシア」もよかったけど、私でもラストを予想できたので筋としては陳腐なのかもしれません。
主人公の迷探偵ウジェーヌ・ヴァルモンはイギリスで活躍するフランス人探偵。この主人公が「我輩」という一人称で8つの事件の顛末を語ります。
ミステリ性は物足らず、ラストにひとひねりあればなぁ、と思うような作品ばかりです。ホームズと同時代の作家ですから、そのへんは致し方なしでしょうか。
主人公の堅苦しくもとぼけた語り口と、迷探偵のキャラクタを楽しめたことが最大の収穫です。依頼人に対してすぐに好き嫌いを表わすところや、ちょっとうっかりな性格は、とても好ましい感じがします。
ミステリ性はともかくも概ね良好な作品ばかりで、いつも書斎の机に置いておき、ときたま息抜きに一編読みたくなるような作品集でした。今回は図書館で借りましたが買ってもよかったような気がします。


No.208 8点 倫敦から来た男
ジョルジュ・シムノン
(2011/03/28 09:56登録)
マロワンが物置で男と対峙する場面や、事件のことを刑事に打ち明ける場面の緊張感は読み手もいっしょに味わえる、すさまじいほどの感覚です。
転轍手という孤独な職を持つ男がある事件に遭遇し、破滅へと向かっていく、哀しい悲しい物語です。たんなる犯罪文学、サスペンス小説という括りでは捉えられない文学性ゆたかなミステリーでした。
事件を目撃しなかったら、そして大金を手にしなかったら、貧しいながらも平穏な日々を送れたのに、と心の底から同情してしまいます。運命の歯車が狂うというのは、まさにこういうことを言うのでしょう。主人公・マロワンの揺れ動く心境に、港町デイエップの潮の香りが漂ってきそうな情景描写が妙に合っていました。
訳者あとがきには、著者のドストエフスキー文学との関わりあいについて触れてあり、この解説も含め読み応え十分な一冊でした。シムノンが文豪と呼ばれる意味がわかってきたような気がします。

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