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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.220 5点 白鳥殺人事件
内田康夫
(2011/05/21 13:27登録)
グリコ・森永事件がテーマになっていますが、タイトルの「白鳥」とはあまりにもアンマッチな感じがします。好きなタイプのミステリーではありませんが、それでも実際の事件を題材にしてリアリティーを出し、しかもうまくまとめてあるので、読み物としては楽しめました。
旅情も、推理の程度もほどほど良く、浅見光彦モノとしては意欲的な作品かと思いますが、シリーズ作品があまりにも多すぎて、浅見ファンでなければ、ほとんど目にも留まらず記憶にも残らない作品であるとも言えます。


No.219 7点 完全なる首長竜の日
乾緑郎
(2011/05/20 18:17登録)
第9回『このミス!』大賞受賞。
終盤までは、主人公の女性がSCインターフェースなる医療技術を用いて、自殺未遂を図り意識不明となった弟と対話をするという非現実でSF的な話と、読者がすぐにでも話の中に入っていけそうなリアリティのある描写との乖離に違和感を感じながら読み進めていきました。意外な真相に到達して、なるほどと納得しました。
この真相は比較的予想がつきそうですが(アマゾンのレビューではそんな意見が多かった)、僕は完全にはたどり着けず騙されてしまったので、心地よい満足感が得られました。しかも、かつて観た、同種のテクニックを用いた、女性の近視眼的視点の洋画(タイトルを忘れましたが)のラストの興奮がよみがえり、読後しばらく余韻に浸ることができました。
殺人などの事件もなく、さほどのサスペンスもなく、中盤は淡白すぎる嫌いもあり、現実と夢とが入り乱れ読者を混乱に導くような描写もあるから、おそらく好き嫌いの分かれる作品だろうと思いますが、僕はこの作品のアイデアと文章力を高く評価しています。ただし、最後の1ページは僕自身の本来の嗜好からいえば○、本作に限れば△です(感動的に結んでほしかった!)。


No.218 6点 花盗人
乃南アサ
(2011/05/13 17:05登録)
長短種々10短編が収録してあります。ほとんどが男女がらみ物で、ラストはみな驚愕のオチが待ち受けています。
ひとことで言えば「奇妙な味」系ですが、中途は乃南さんらしく、純文学を読んでいるような気分にさせてくれます。会話文はいきいきしていて、これにはいつも感心させられます。
解説にもあるように、どの短編も登場人物の説明がほとんどないので、会話文や心境描写からその人物の職業や性別などの人物設定や背景を想像しながら読むことができます。これこそが小説の醍醐味ではないでしょうか。乃南さんは案外、叙述トリックの名手になれるのではという気がします。
10編中、掌編の『薬缶』、やや短めの『今夜も笑っている』、『他人の背広』、長めの『最後の花束』が好みです。『最後の花束』の第3章は本当に強烈でした。あのオチは全く想像できませんでした。
また解説が「ミステリー作家養成講座」となっているのが面白く、その内容にも満足しました。この解説を含めて予想以上の充実感が得られました。


No.217 4点 御堂筋殺人事件
内田康夫
(2011/05/06 11:10登録)
幕開けは御堂筋パレードでの転落死。発端は派手だし、ファッションモデルが登場し、一見華やかそうな感じでもあるが、特許が絡んで、企業物・社会派ミステリとして意外に地味な展開となっていく。舞台が関西なので興味を持って読んだが、近場だけに旅情はほとんど感じられず、社会性も、謎解き推理も、ラストもイマイチな作品だった。浅見光彦シリーズの中では平均以下。多作なだけに仕方なし。


No.216 4点 鎌倉釈迦堂殺人事件
木谷恭介
(2011/05/06 10:58登録)
トリックもなく、主人公の宮之原警部には特段のクセもなく(もちろん一応の推理力はあるが)、旅情や薀蓄も控えめで、ストーリーもわりに平坦です。取り立てて言うほどの魅力も特徴もありませんが、宮之原警部シリーズを1作読んだだけなので、主人公を取り巻く環境、背景についてはまだ何もわかっていません。同シリーズ作品が多数あることから判断すれば、宮之原警部というキャラクタは案外人気があるのかもしれません。
本書だけでいえば、読みやすさを除くと、やや物足りないですし、大企業やヤクザが絡んでくる展開は嗜好からもずれていました。


No.215 7点 サイコ
ロバート・ブロック
(2011/05/02 09:46登録)
究極のマザコン&○重○○のホラー・ストーリーです。
あの驚愕の真相を映画で観て知っているので読む必要なし、と思いつつも手にとってしまいました。でも真相を知っていても楽しめました。再読(読むのは初めてですが)でも、サイコサスペンスならではの最高の緊迫感を味わえましたし、どういう伏線があるのかな、と探りながら読めたのも収穫です。
映画では隠す工夫がされていましたが、原作のほうは、ノーマン・ベイツの視点の描写さえあれば、文章でなんとでもなるんだなという印象を受けました。その点は映画のほうが優れています。しかし、あのオチがある限り、映画のヒットはヒッチコックだけの手柄ではなく、やはり原作があればこそだという感じがします。原作小説を賞賛すべきでしょう。

小説のノーマン・ベイツって太っていたんですね。巻末の賛辞にも名を連ねていたように、サイコといえばアンソニー・パーキンス。スリムなトニ・パキのイメージが強すぎますが、ベイツのようなタイプって本当は太めのほうが合っているのかもしれません。


No.214 7点 十二人の怒れる男
レジナルド・ローズ
(2011/04/28 11:41登録)
シドニー・ルメット監督の追悼読書です。

映画を数回観ているし、巻頭の映像写真や陪審員の説明文を見ながらの読書だったので、読み進むうちに映像も筋も思い浮かんできました。感情を露わにした陪審員たちの討論は、シナリオでも十分に読み応えがあります。残念なことは、あっけないほど短いことと、大好きな裁判所前のラストシーンがなかったことです。たしかにシナリオだけではたよりないですね。未読の方は、映画を観てから読むことをお薦めします。

この映画、ミステリとしてよりも感動のシリアスドラマとして記憶に刻まれています。今回はミステリ目線で読み、ミステリとして楽しませてもらいましたが、リーガル物ならではの無罪解明のロジックは、フーダニット物とは違った心地よい安堵感を与えてくれました。最初に映画を観たときも、そんなところに感動したのかもしれません。
ただ、話の中にも出てくるように、これだけ疑問だらけなら裁判官が再審理したほうがいいのでは、とも思いましたが。

子供の頃、それまでアメリカ映画の主人公といえば、逞しく行動的な正義派という印象しか持っていなかったのですが、この映画を観て、なかには誠実で真面目で物静かな主人公たちもいるんだなと認識したものです。映画の影響で、第八号を演じたヘンリー・フォンダを長い間、善良で、不器用なほど誠実で真面目なアメリカ人の代表格だと思い込んでいました(私生活はどうだったのかは知りませんが)。
(もうひとつ余談ですが)子供の頃、この映画を「十二人のイカレタ男たち」と言って家族に笑われたのを思い出しました。国内のパロディ版にありそうです(笑)。


No.213 7点 再会
横関大
(2011/04/22 19:28登録)
<第56回江戸川乱歩賞受賞作>
23年前、小学生の仲間四人で校庭に埋めたタイムカプセル。幼なじみの四人は、封印すべき秘密を共有していたはずだった。しかし、そのうちの誰かが...

息をつくひまもないほどスピード感のあるサスペンス展開。視点は四人。交錯しすぎる感もあるが、映画を観ているようで意外にわかりやすい。
犯人当て要素も、驚愕の真相もあるのだが、基本的には緊迫感が継続するストーリー展開がもっとも楽しめる点だ。
飛躍しすぎの論理と、ご都合主義と、アンフェア感とで、本格ミステリとは言えないような内容となっているし、過去の事件について、終盤に真相を匂わせる記述があったがあまりにも唐突だったことなど、気になる点もあった。でも、それらを十分に補うものがあり、すべてを許容できた。それほど楽しませてくれるストーリーだった。
キャラクタは、四人については分散しすぎだが概ねよく描かれている。探偵役の刑事・南良の存在も最後まで光っていた。よって人物描写についても申し分なしだった。

作者は乱歩賞に長年応募し続けたそうだ。受賞を狙うだけあって、ずいぶん推敲を重ねたのではと思うぐらい文章、プロットともに完成しているように思う。読者を楽しませるテクニックを持ち合わせているようにも思う。荒削りな「プリズン・トリック」(第55回受賞作)とは正反対だった。選者の評を読むと、瑕疵や欠点を指摘しながらも(今野敏以外は)概ね絶賛だった。ただ、今回はみな出来がよかったようだ。


No.212 7点 卒業−雪月花殺人ゲーム
東野圭吾
(2011/04/20 10:17登録)
(ちょっとネタバレ)
密室トリックはまったく好みではない。雪月花ゲーム・トリックはまだましだが、種明かしでは、実は○○がカードを準備したとか、××が隠し持っていたとか、パズルとしてはフェアじゃない気がした。それとも、与えられた図面や説明だけでパズルを解こうとした読み手側に問題があったのか。あくまでもミステリ小説なので、全体を読むべきなのでしょうね。

トリックには多少批判的ですが、青春ミステリ好きにはたまらない内容です。6人の学生の役割分担もよくできているし、人物描写もなかなかのものです。6人という人数も多すぎず適度です。
それにしてもこのサイトでは、どうしてこんなに点数が低いのでしょうか。本格ミステリに対しては、厳格にミステリ要素のみで判断している方が多いということでしょうか。なんとも哀しく切ない青春群像におおいに惹かれたので、得点は高めです。


No.211 2点 塩原殺人行
草野唯雄
(2011/04/13 13:34登録)
2中編が所収されていました。

「塩原殺人行」・・・いちおう謎解きミステリですが、トリック(物理トリック、アリバイトリックなど色々とあるのですが)を含むミステリ要素、語り口、プロットと、三拍子そろってひどく、褒めるところがありません。ご都合主義のオンパレード。タイトルにはなんとなく憶えがあり、著名な作品かと思い込んで借りましたが、まさかこんな内容だとは…
行間たっぷりの120ページなので、短編といってもよく、その短い中に長編のプロットをむりやり詰め込んで雑にまとめた、という感じがします。

「大東京午前二時」・・・江戸川乱歩賞候補作。危険が迫る夜間のビルの密室に取り残された女性を救うべく、関係者や警察が夜の街を奔走するタイムリミット・サスペンス。表題作にくらべれば、だいぶましです。なんとかサスペンスを保ちながら最後まで読んでいけますが、文章が悪いのか、それともネタが小粒すぎるからなのか、やはり及第点にはとどきません。東京の街中を走り回る話なので、東京の(40年前の)地理に詳しければもっと楽しめたのかもしれません。

伏線のない小説なんてありませんが、両作品にはなかったような気がします。読み飛ばしただけなのかもしれません。
著者作品にはまともなやつもあるはずです。今回は大失敗でしたが、今後も懲りずに当たってみます。


No.210 6点 スペイドという男 ハメット短編全集2
ダシール・ハメット
(2011/04/08 10:40登録)
スペイドもの、コンチネンタル社もの、一般小説風のもの、謎解き度合いの高いもの、低いもの、長めのもの、超短編もの等々、種々(10編)そろっていて、なかなか楽しめた。これだけそろっていれば、どんな読者でも、どれかが嗜好に合うのではと思った。
かなり軽めでオチもあるショートストーリーの「夜陰」と、プロットが楽しめる「ああ、兄貴」がとくに印象に残ったが、その他も概ね基準点をクリアしている。
「ああ、兄貴」は、伏線はわかりやすいがミステリ性は十分にあるし、兄を崇拝する主人公の描写もよかった。
全体としては中の上程度の小品集だった。
分析すると、みな凝ったつくりではないし、いかにもハードボイルドという作り物っぽさもない。そのへんがチャンドラーとは違うところなのかな?どちらの作家も既読作品はすくなく、まだまだ比較評価する域には達してはいないが。


No.209 6点 ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利
ロバート・バー
(2011/04/02 16:01登録)
著者はコナン・ドイルと同時代作家です。
「ダイヤモンドのネックレスの謎」「シャム双生児の爆弾魔」「銀のスプーンの手がかり」「チゼルリック卿の失われた遺産」「うっかり屋協同組合」「幽霊の足音」「ワイオミング・エドの釈放」「レディ・アリシアのエメラルド」の8編。
「うっかり屋」は名編だそうですが、個人的には「チゼリック」と「ワイオミング」が好み。「レディ・アリシア」もよかったけど、私でもラストを予想できたので筋としては陳腐なのかもしれません。
主人公の迷探偵ウジェーヌ・ヴァルモンはイギリスで活躍するフランス人探偵。この主人公が「我輩」という一人称で8つの事件の顛末を語ります。
ミステリ性は物足らず、ラストにひとひねりあればなぁ、と思うような作品ばかりです。ホームズと同時代の作家ですから、そのへんは致し方なしでしょうか。
主人公の堅苦しくもとぼけた語り口と、迷探偵のキャラクタを楽しめたことが最大の収穫です。依頼人に対してすぐに好き嫌いを表わすところや、ちょっとうっかりな性格は、とても好ましい感じがします。
ミステリ性はともかくも概ね良好な作品ばかりで、いつも書斎の机に置いておき、ときたま息抜きに一編読みたくなるような作品集でした。今回は図書館で借りましたが買ってもよかったような気がします。


No.208 8点 倫敦から来た男
ジョルジュ・シムノン
(2011/03/28 09:56登録)
マロワンが物置で男と対峙する場面や、事件のことを刑事に打ち明ける場面の緊張感は読み手もいっしょに味わえる、すさまじいほどの感覚です。
転轍手という孤独な職を持つ男がある事件に遭遇し、破滅へと向かっていく、哀しい悲しい物語です。たんなる犯罪文学、サスペンス小説という括りでは捉えられない文学性ゆたかなミステリーでした。
事件を目撃しなかったら、そして大金を手にしなかったら、貧しいながらも平穏な日々を送れたのに、と心の底から同情してしまいます。運命の歯車が狂うというのは、まさにこういうことを言うのでしょう。主人公・マロワンの揺れ動く心境に、港町デイエップの潮の香りが漂ってきそうな情景描写が妙に合っていました。
訳者あとがきには、著者のドストエフスキー文学との関わりあいについて触れてあり、この解説も含め読み応え十分な一冊でした。シムノンが文豪と呼ばれる意味がわかってきたような気がします。


No.207 6点 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2011/03/19 15:51登録)
漫画的キャラクタと、ユーモアと、連作によるワンパターンにより安っぽさ満載だが、本格ミステリとしての骨格は意外にしっかりしている。
キャラクタはまるでアニメの登場人物のようだが、読み進めると、財閥グループの令嬢でもある主人公の新米刑事・宝生麗子、影の主人公であり安楽椅子探偵の執事・影山など、設定に絶妙のうまさを感じる。
多少の出来、不出来はあるが、6話とも、読みなれた読者でもほどほどに満足できるだろう。私的ベストは、第四話「花嫁は密室の中でございます」。

本格推理小説の入門書として最適かもしれない。本格ミステリである本書が何十万部も売れているのは意外だが、おそらくふだんミステリを読まない人たちが、ミステリなのかラノベなのか訳も判らずに装丁につられて買ったのだろう。売れるといっても「告白」ほどではないが、「告白」よりもむしろ万人受けするはず。本格ミステリファンにとっては、期待しすぎは禁物だが、気軽に読めば得した気分になることまちがいなし。

これだけ売れれば映像化の可能性もあるだろう。影山は阿部寛がベスト。
「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか」とぼけた表情の阿部にこの毒舌が似合いそう。


No.206 7点 ガラスの鍵
ダシール・ハメット
(2011/03/19 11:13登録)
主人公の賭博師ネッド・ボーモンドは、敵にさんざん痛めつけられ、肉体的にも精神的にも窮地に追いやられるほどだから、それほどタフでもなく強くもない人物のようにも見えます。でも、弱さをほとんど感じられないのは、博打で鍛えた持ち前の深い洞察力と、冷静沈着なる精神力とが弱さを打ち消しているからなのかもしれません。そもそも派手な立ち回りもすくなく総じて地味な話だから、弱い面が目立たないということもあるようですが。

本書には、ハードボイルドにありがちな小気味のよいセリフはあまりありません。むしろ含蓄のあるセリフが目立ちます。徹底した客観描写も特徴の1つで、これにより読みにくさを感じますが、それも魅力だと思います。読み手は文章を追いながら行間も楽しむことができます。おそらく二度三度、再読するうちに、さらに深い味わいが得られるのでしょう。
とにかく地味は地味なりの格調をそなえた小説でした。本書を二十歳ごろに読んでいても、たぶん良さはわからなかっただろうなと思います。

かつて観た、ボガードの「マルタの鷹」(評判の名作ですが私にはイマイチでした)や、少し前に読んだ「デイン家の呪い」とは打って変わっての好印象。もうハメットはやめておこうと思っていましたが、今回は読んでほんとうに良かったです。やはり代表作、人気作には当たるべきだということを痛感しました。
長編が5作しかなく残念ですが、でもその程度なら全作読めそうです。


No.205 7点 本陣殺人事件
横溝正史
(2011/03/07 12:38登録)
金田一初登場の歴史的作品。国内本格ミステリの指針となる作品でもあります。
でも理解できない箇所も多くあります。金田一の謎解き解説は、全体の短さに比べれば長めにページを割いていて、作者の意気込みが感じられますが、これを論理的解明というのでしょうか。やや飛躍ぎみかなとも感じました。

(以下ややネタバレ気味)
犯人と三本指の男との関わり方については、偶然性にたよったところがあり不満が残ります。機械トリックはまずまずといったところでしょうか。一方、三本指の男の例のセリフは申し分なし。動機については、「獄門島」と似たようなもので、この程度ならOKかなという印象です。まあ、両作品とも名作であることにちがいありません。

都筑道夫は、「黄色い部屋はいかに改装されたか?」の中で、本書について面白いことを述べています。三本指の男を登場させたことを大きな欠点として評した白石潔に対して、「論理で解明されれば、荒唐無稽な犯罪もそうでなくなると言ったところで、パズラー嫌いの人には通じないでしょうけど、パズラーを批評するひとが、うわべのグロテスクだけで、ものを言っては困ります。」と批判しています。
三本指の男の登場が重要なのはもちろん紛れもないことですが、パズラーは論理で解明できればそれでよしという考え方には賛同できません(なお私は決してパズラー嫌いではありません)。

近年、ミステリファンが論理、論理と叫ぶ風潮は都筑がきっかけなのでしょうか。論理って、そんなに大事なのでしょうか?
荒唐無稽な事件やトリックはなんら問題もありませんが、むしろ荒唐無稽な理由付け(飛躍しすぎの論理、無理やりの論理、くどすぎる論理)は、帳尻合わせをしているみたい(著者の言い訳を聞いているみたい)で興醒めしてしまい、マイナス評価になってしまいます。
「黄色い部屋はいかに」を読んでから本書や「獄門島」を読んだせいか、天邪鬼なため、大好きな横溝なのにちょっと批判的になってしまいました。
ただ、たんに自分の読解力が欠けているだけのことなのかなという気もしますが(笑)。


No.204 5点 シンデレラの罠
セバスチアン・ジャプリゾ
(2011/03/01 10:10登録)
10代のころ、翻訳アレルギーに陥れた憎き作品です。当時ずっと持ち歩いていましたが、結局読み通せませんでした。
今読んでみると、文章はいたって読みやすいし、薄っぺらだし、なぜこの程度の本に振り回されたのか、という疑問を感じます。ただ、話が時間軸を行ったり来たりしながら進むし、人称も章ごとに代わるし、読みにくくする要因が物語構成にありそうです。まあ、逆にそれが本書の面白みなのかもしれません。読者がわけが分からなくなるようにすることが、この作者のねらいなのでしょう。とにかく、「私はいったい誰?」という謎を楽しむのがいちばんです。
名作というほどではありませんが、うまい作家が脚本を書けば名作映画に仕上がるように思います。

翻訳アレルギーの素となった作品がもう1冊あり。
アリステア・マクリーンの「八点鐘が鳴る時」です。


No.203 7点 獄門島
横溝正史
(2011/02/23 13:11登録)
国内では絶大な人気を誇る横溝ミステリの代表作です。
何十年かぶりなので内容の記憶はほとんどなし。唯一憶えていたのが吊り鐘のシーン。他の横溝作品も似たようなものですが、本作は読後の感動すら忘れていました。というよりも、読後にあまり残らなかったのかもしれません。
今回の再読でも、傑作中の傑作だとは思われませんでした。トリックは映像的だが面白みなし、見立てはさほどの意味なし、動機は理解できず、横溝ならではの雰囲気も他の作品ほどではなく、ケレン味もわずか(横溝作品の中では地味)。良かったのは和尚のひとことだけ。これだけはすばらしい。
金田一が現場にいながら殺人を全く防げなかったのも不満の一つです。最後の種明かしは立派ですが、この程度なら並の探偵です。独自調査もなく、皆といっしょの行動をとり、しかも助手もなく、三人称で書かれているから仕方ないのでしょうか。逆に言えば、三人称で書くことで、読者への手掛かりサービスを十分にしたということでしょうか。それでも容易には解けないようにした会心の自信作ということなのでしょうか。ということはやはり傑作?
東西ベストミステリ100の堂々たる1位。これもうなずけません。
都筑道夫がどうして本作を「今日の本格」と呼んで褒めちぎるのか、そして「悪魔の手毬唄」「蝶々殺人事件」をなぜ「昨日の本格」と呼ぶのか?答えは「黄色い部屋はいかに改装されたか?」にあるのですが、これを読んでも納得しがたいです。とりあえず内容を忘れているのは再読しないとダメですね。


No.202 4点 コーパスへの道
デニス・ルヘイン
(2011/02/19 14:15登録)
映画化されたミスティック・リバーやシャッター・アイランドで有名なデニス・ルヘインの短編集です。ハヤカワの「現代短篇の名手たち」の一番手です。
ミスティックもシャッターも未読ですが、初めての作家はたいてい短篇から入るほうなので、まず本書を手にとってみました。
アマゾンなどで書評を見ると絶賛なのですが、オチの冴えない犯罪小説なので、普通のミステリファンや国内のミステリ短篇を読みなれた読者からすると、あまり好まれないのではないかと思います。やはり娯楽短篇小説なら、O・ヘンリーか星新一ぐらいのオチがないと面白くありません。

7編中、知人たちの間で起きた悲しい犯罪の背景と顛末が語られる「犬を撃つ」だけは、強烈な余韻を残してくれました。他は「グウェンに会うまで」と「コロナド」がわずかにミステリ性がある程度で、全体的にミステリとしては期待外れです。気になる作品は上記3作だけ。エンタテイメントとはとても思われない短編集でした。文芸作品として読めば少しはましだったのかもしれません。

(余談ですが)先日、芥川賞を獲った西村憲太の「苦役列車」は、久しく人気が低迷していた、日本の伝統小説である私小説だそうですが、テレビの紹介によれば、特定の読者にしか読まれない今までの私小説とは違って、多くの読者が楽しむことのできる「エンタテイメント私小説」になっているそうです。

我が国の純文学ですらこのようなエンタテイメント傾向なのに、娯楽小説が中心の欧米文学で本書のような、エンタテイメント要素の欠落した小説が本当に喜ばれるのかなと疑問を感じます。
と思う反面、本書のアマゾンでの評価を見ると、自分の読み方がまずかったのか、海外文学が向いていないのかと心配になり、翻訳アレルギーが何十年かぶりに再発しそうな気分です。

とにかく近いうちに、著者の長編代表作を読んでみようと思います。


No.201 5点 制服捜査
佐々木譲
(2011/02/12 13:10登録)
北海道の小さな町・志茂別町を舞台に、そこで起きた事件を駐在警察官が追う連作物語。
舞台となる町は田舎町だが、田舎独特のほのぼのとした雰囲気はなく、意外に荒んでいる。そんな沈鬱な町のイメージが、情景や人間関係の巧みな描写によって伝わってくる。物語自体も陰気だが、平坦、平板な文章と、主人公のキャラによって、それほど暗くは感じなかった。
ラストに衝撃はほとんどない。エンタテイメント、特に短篇には最後の一撃を期待してしまうが、この程度のラストも悪くはなく、ほどよく楽しめた。もう少し抜きん出た要素はほしかったが...

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