倫敦から来た男 |
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作家 | ジョルジュ・シムノン |
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出版日 | 2009年10月 |
平均点 | 6.40点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2024/05/12 18:36登録) 奪った金をめぐる仲間割れを目撃した主人公の転轍手。ふと手に入ったその大金。そして片割れの犯人との神経戦....でも、シムノンって「説明」しないんだ。主人公の心理は日常の出テールに霧散して「何をどう」が極めて曖昧なままに最後まで走り抜く。 言い換えるとシムノンの登場人物は「その場に生きている」。プロットの綾に(それは大金の誘惑でもあるが)翻弄されるのを、自ら拒んでもいる。あくまで頑固に「自己の運命」と信じるものに忠実に、ロバのように頑固に従う。 一瞬だけ「運命」の前に歩み出た男の姿を描いた小説と呼ぶべきだろう。 (そういえば同じくディエップを舞台とする「メグレの退職旅行」=「海峡のメグレ」なんだなあ。近々やろう) |
No.4 | 7点 | レッドキング | |
(2024/02/07 21:53登録) 江戸川乱歩は正しい。短気で横柄、気分屋で人好きしない主人公の鉄道員は、一見、ラスコーリニコフとは似ても似つかない・・あんな美形でも若くもなく、天使の如き恋人も男気溢れる友もいない・・。それでも、この作品は、何故に男が罪びとにならざるを得なかったのか、そして、それを告白せざるを得なかったのかを、解明としてではなく、小説として描いている。「罪と罰」同様にミステリとは言えんが、目をつぶってオマケしたく。 |
No.3 | 4点 | あびびび | |
(2018/06/04 15:20登録) (ネタバレかも知れないが、元々はそういう小説?) うまく行くのか?いや、それは絶対ない。あとは破滅だけと言う、先行きの見える物語はどうも自分には合わない。その間の苦悩、後悔先に立たずという流れは、多分自分でもそうなったという思いはあるが、倫敦から来た男というミステリアスな題名にひかれてしまった感がある。 |
No.2 | 8点 | 臣 | |
(2011/03/28 09:56登録) マロワンが物置で男と対峙する場面や、事件のことを刑事に打ち明ける場面の緊張感は読み手もいっしょに味わえる、すさまじいほどの感覚です。 転轍手という孤独な職を持つ男がある事件に遭遇し、破滅へと向かっていく、哀しい悲しい物語です。たんなる犯罪文学、サスペンス小説という括りでは捉えられない文学性ゆたかなミステリーでした。 事件を目撃しなかったら、そして大金を手にしなかったら、貧しいながらも平穏な日々を送れたのに、と心の底から同情してしまいます。運命の歯車が狂うというのは、まさにこういうことを言うのでしょう。主人公・マロワンの揺れ動く心境に、港町デイエップの潮の香りが漂ってきそうな情景描写が妙に合っていました。 訳者あとがきには、著者のドストエフスキー文学との関わりあいについて触れてあり、この解説も含め読み応え十分な一冊でした。シムノンが文豪と呼ばれる意味がわかってきたような気がします。 |
No.1 | 7点 | 空 | |
(2010/08/16 20:40登録) 50年以上前に雑誌掲載されて以来絶版のままだったのが、昨年たしか3度目の映画化にあわせて、やっと新訳が出たシムノンの「本格小説」初期を代表する作品です。 港で起こった殺人事件を目撃した男、というとメグレもの『港の酒場で』との共通点も感じますが、本作はその目撃者の立場から描かれます。この目撃者マロワンが夜勤の港湾線路切替手であるという設定が、うまくできています。殺人と言っても、殺意があったかどうか明確ではありませんが。争いの動機となった鞄からマロワンが見つけたものは大金…それをどうするか決断のつかないままに、大金を持っているという意識だけ奇妙にふくらんでくるあたり、シムノンらしいタッチです。 警察が見張りを続ける港町で、目撃者と殺人者どちらもお互い疑心暗鬼、その状況が破局に向かっていくさまが描かれます。 20年ぶりぐらいに再読してみて、最後の事件が起こった後のエピローグとも言える最終章がこんなに長かったっけ、という感じでした。 |