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ミステリの祭典

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一角獣殺人事件
HM卿シリーズ/別題『一角獣の怪』『一角獣の殺人』

作家 カーター・ディクスン
出版日1958年01月
平均点5.00点
書評数11人

No.11 6点 クリスティ再読
(2023/03/27 19:20登録)
そういえば手元に別冊宝石63号があるので確認してみたのだが、1957年の訳者も国書刊行会が1995年に新訳で出した訳者も、田中潤司である。38年ぶりの旧訳者による改訳。訳文を対照してみたが、まったく新たに訳し直した訳文になっている。藤原編集室が企画した国書刊行会「世界探偵小説全集」の目玉だった作品。「こんなクラシック出して大丈夫?...でもね、マニア根性としては...」というあたりを突いた企画で、ギョーカイを動かしちゃったわけだが、こんな「仕掛け」も潜んでいたことが面白い。

「スパイとか怪盗とか大時代的な作品」で一般評価の低い作品なんだけども、いや、悪くないよ。人の出し入れがごちゃごちゃしている欠点はあるけども、導入のファース風味活劇がしっかりとした伏線になっているので、そういうあたりを肯定的に評価したい。
というかさ、今の読者が嫌がる理由って、「ありえないくらいの偶然から、話がもつれている」というあたりじゃないのかな。けどこれ「不可能」を解くためにはそうでないといけないから、十分推理可能だと思う。まあカーの独特の掟破りな傾向から「当てにくい!」という声があるのはわかるのだが。

まあ怪奇趣味にポイントはなくて、どっちかいえばケン&イヴリンのラブコメ冒険が軸の作品だと思うといいのかも。これも日本のマニアが嫌がる要素ではあるか。

そうしてみるとマニア向けなのかそうでないのか、ビミョーなあたりも妙に評者は面白い。
(あ、あと凶器の英語名称に評者は興趣を感じる。調べてみて)

No.10 6点
(2019/11/29 11:46登録)
 「ライオンと一角獣が王位を狙って闘った。
  ライオンは一角獣を打ち負かし、街の中じゅう追い回す」

 ロワイヤル通りのルモアンの店でパリの気だるさに浸かりこんでいた元情報部員ケンウッド・ブレイクは、歩み寄ってきた元同僚イヴリン・チェインの謎かけに応えたことからとんだトラブルに巻き込まれた。歌は任務の合い言葉で、彼らは謎の「一角獣」を運んでくる外交官ジョージ・ラムズデン卿を追って、これからホテル『盲人館』へ行かねばならぬのだという。「一角獣」は神出鬼没の怪盗フラマンドに盗難を予告されており、フランス政府は彼を逮捕するため名探偵ガストン・ガスケを派遣したのだった。
 イヴリンと共に嵐の中一路オルレアンに向かうケンだったが、シャルトル近郊で赤いボアザンに乗った男に逮捕されかける。ケンはルモアンで彼のパスポートを奪ったその男を殴り倒し、警官と大立ち回りをした末その場から逃げ出すが、増水したロアール河に足止めされてとうとう車から降りざるを得なくなる。さらに彼らを追いかけて情報部長ヘンリー・メリヴェール卿までやって来た。ついでにフラマンドを自分の手で捕まえるのだと息巻くH・M卿。だが嵐も洪水も熄まない。そうこうするうち近くの平地にラムズデン卿の乗る飛行機が不時着した。
 修理が終わるまで機の乗客たちと中州の城館『島の城』に緊急避難するH・M一行。だが館の主ダンドリュー伯爵は彼らの到着を待っていたのだと語る。そして彼はH・Mに、フラマンドから来たという予告状を見せるのだった――
 1935年発表のH・M卿シリーズ第4作。「パンチとジュディ」の前作で、上記のとおり冒頭からわやくちゃな展開。ケン・ブレイクは常識家ぶっていますが、本作での行動はどう見てもH・Mの同類です。
 フラマンドとガスケ、変装の名人が二人も登場。物語はここから更に混乱の度を増し、最後はケンとイヴリンの二人がガスケに犯人扱いされるとんでもない展開に。難解さは続編を超え、カー/ディクスン全作品中でも指折りの悪辣さを誇ります。偶然に偶然が重なり、H・Mの推理も仮説と仮定の積み重ね。これを当てられる人間は相当なものでしょう。
 ただ解説にもあるように失敗作と切って捨てるには惜しい。犯人隠蔽と密接に結びついた不可能犯罪のトリックはなかなか。一進一退の推理に加えて趣向もてんこもり。ゴチャゴチャした構成とアンフェア臭が低評価の理由でしょうか。どことなくインチキ臭いけど、ファンなのでそれも面白く感じてしまいます。6.5点。

No.9 6点 レッドキング
(2019/08/09 21:49登録)
絶対に銃弾ではありえない死体の額の穴。だが状況的に刺殺もありえない不可能殺人。まるで見えないユニコーンの角に突き刺されたような・・。 人間と人間、人間と死体のすり替わりという大技手品。魔術師カー(「カーターディクスン」名義だが)の面目躍如たる一篇。

No.8 4点 弾十六
(2019/01/15 21:06登録)
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.卿第4作。1935年出版。国書刊行会の単行本で読みました。
1935年5月4日土曜日 ジョージ王在位25周年(Silver Jubilee celebrations for King George V)の2日前の事件。ケン ブレイク38歳。(ということは1897年か1898年生まれなんですね) 変装自在な謎の怪盗という幼児的世界が好きならワクワクする話ですが、馬鹿馬鹿しい!と感じる人なら全く向きません。(もちろん私は大好き派)
いつものように途中まで素晴らしいのですが、中だるみが著しい。なんとも無駄な会話が続きます。そして解決篇、これが結構面白そうなネタをちりばめてるのですが、いかんせん小説自体が全く面白くない。もー少し工夫が出来れば良い作品になったのでは?と感じました。
以下トリビア、原文は参照できませんでした。
p12 ジャズの歌詞の一節: Yes, We Have No Bananasはブロードウェイ レヴューMake it Snappy(初演1922)中の曲。 (この曲の初紹介はブロードウェイ公演終了後の地方巡業のフィラデルフィア1923?) Frank Silver & Irving Cohn作。1923年の大ヒット曲。(Wiki)
p17 ライオンと一角獣: The lion and the unicorn (Roud Folk Song Index #20170)
p24 百フラン: 1935年の交換レート(金基準)は1Franc=0.0135Pound、英国消費者物価指数基準1935/2019は70.61倍、現在価値13401円。お礼としては結構高い。(成功すればさらに百フラン追加の約束)
p24 馬力のあるS.S. 社製の二人乗りの車: S.S. Cars Limitedはのちのジャガー社。エンジンを強化したSS 90(1935年3月)の可能性あり?(限定生産ですが…)
p72 シャンパンはルードレの21年: Roedererのことか。
p90 ポケットからブローニングを取り出すと: 小型サイズのBrowningは数種ありますが一番ポピュラーなのはFN M1910ですね。当時の日本でも単に「ブローニング」と言えばそれ。ラムスデン卿なら9mm(38口径)仕様では?と勝手に想像しました。
p116 バルザックの『風流滑稽談』: Contes drolatiques (1832-1837)
p188 アナトール フランスの『ペンギン島』: L'île des Pingouins (1908)
p188 モーリス ルブランの『怪盗紳士アルセーヌ ルパン』: Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur (1907)
p119 『ロビンソン クルーソー』のフランス語訳: 英初版1719年、最初の仏訳は1720年(Thémiseul de Saint-Hyacinthe & Justus Van Effen)、よく知られた版は1836年のPetrus Borel(!)訳。狼狂さん何のつもりでしょうね。是非読んでみたいです。(Wiki)
p132 あんた方は『殺人ごっこ』というゲームをやったことがあるだろうな。: Murder Mystery Gameは19世紀前半ごろから余興として行われるようになったらしい。ボードゲームのCluedoは1948年ごろ。(Wiki) 探偵小説の流行があって余興の探偵ゲームだと思っていました。19世紀前半の発祥が正しいなら、順番は逆で余興から小説へ、ということなのでしょうか。
p154 バルベー ドールヴィイの『魔性の女たち』: Jules Barbey d'Aurevilly, Les Diaboliques (1874) JDC/CDさんも好きねぇ、というラインナップ。
p187 六ペンス賭けてもいい: 前述の換算で現在価値248円。取るに足らない金額ですが…
p222 古い民謡の『マギンティーは海の底』: DOWN WENT McGINTY(1889)のこと?Down went McGinty to the bottom of the seaという歌詞あり。
p225 ブローニングの自動拳銃: p38に出てきたピストル。p90のピストルとは違います。ハイパワー(1935)はまだ流通してなさそうなのでFN M1910なのか。コルトM1911もブローニング設計による拳銃ですが「ブローニング」とは呼ばれないと思います。

No.7 5点 ボナンザ
(2018/03/18 12:37登録)
展開もトリックも馬鹿馬鹿しいさすがはカーとしかいいようのない一作。

No.6 5点 青い車
(2016/08/24 23:00登録)
 題名になっている「一角獣」が、ほとんど内容に必然性を持たせていないのが残念です。そんな凶器普通は知らない上に明らかに不合理ですし、単なるハッタリで終わってしまっています。それを抜いてしまえばアイディアはすり替わりのみで、クローズド・サークルの情緒も引き出せていません。カーター・ディクスンにしては不出来な部類の作品だと思います。成功すれば、荒唐無稽でも爆発力がそれを上回るのが魅力の作家なのですが。

No.5 4点
(2011/07/04 10:32登録)
不可能犯罪&クローズド・サークル物。これほど魅惑的なキーワードで形容できる作品なのだが、出来はそれほどでもないように思う。
そもそもCCという設定は場面があまり変わらず単調になりやすいから、サスペンスをふんだんに盛り込むか、事件を複数発生させないと読者は最後まで息が続かない。HM卿が最後に明かす真相は、なるほどなるほどと感心しないわけでもないが、寄り道が多いし、時すでに遅しという感もあった。それにあの凶器もいただけない。ロマンもなければ面白みもない。お笑いバカミスの失敗作という感じ。本作のような怪盗捕獲ドタバタCC劇も、書きようによれば面白くなるはずなのだが。。。
でも犯人当てについては、こういう謎の提起の仕方もあるんだな、とそれだけには感心した。

No.4 5点 kanamori
(2010/06/25 21:09登録)
H・M卿ものの第4作は、陸軍情報部とか怪盗が出てくるなど冒険スリラー風の幕開けで、これまでの作品とはテイストがちょっと異なります。
監視下の殺人という不可能トリックもありますが、その不可能状況が読んでイマイチ分かりずらいのと、小道具が特殊なので、スッキリしない出来です。

No.3 4点 Tetchy
(2010/01/17 08:50登録)
長らく絶版しており、95年に国書刊行会から数十年ぶりの新訳再販となっていた幻の作品だが、メインに謳われている一角獣に殺されたとしか思えない傷に関する真相は正直肩透かし。日本人には馴染みのない凶器ゆえに長らく絶版だったのかと独断で納得。

しかも作品紹介は一角獣という実在しない怪物をモチーフにした事を前面に押し出し、一見カーの最たる特徴であるオカルト趣味を纏ったものだと思わせるが、蓋を開けてみればフランスを賑わす怪盗を捕らえる事が主眼の、HM卿の国際犯罪に携わる情報部の長という諜報活動の一面が色濃く反映された作品である。確かに原題も“The Unicorn Murders”と一角獣と名を冠しているが、やはりこの紹介は間違いだろう。この罪は大きい。

No.2 6点
(2009/04/29 14:03登録)
そんな大げさなかさばる凶器をわざわざ何のために用意してきたのか、犯人の立場に立ってみればあほらしいような話ではあります。作者の側からすれば、飛び道具を使ったのではないことが明白な傷を負わせられる凶器ということなのでしょうが、それは単なるご都合主義というものです。
しかし、その凶器を利用しての不可能としか思えない殺人のトリックはさすがによくできています。犯人の意外性も(名前だけは最初からわかっているのですが、それが実際に誰かが問題なのです)なかなかのもので、H・M卿の悪ノリぶりや冒険的要素など、楽しめる作品になっています。

No.1 4点 ElderMizuho
(2008/01/28 20:05登録)
おいおい何だよその凶器は頭の捻り損かよ。
ていうかタイトルに反してロマンがなさすぎです。
・・まあ凶器の事は忘れてください。
その後の事件や犯人当ては意外性もありそれなりの出来ではないかと思います。

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