臣さんの登録情報 | |
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平均点:5.90点 | 書評数:660件 |
No.260 | 7点 | バラ迷宮 二階堂黎人 |
(2011/12/29 14:39登録) バラバラ死体が舞い降りる『サーカスの殺人』をはじめ、提示される不可能犯罪の謎がみな魅力的で、しかも怪奇風味を味わえる、趣向が種々異なる6編を集めた名探偵・二階堂蘭子シリーズ作品集です。 トリックは、多くが理系専門知識モノや推理クイズもので好みとはいえませんが、それ以外のミステリ要素は気に入り、予想以上に楽しめました。 なかでも、やや長めの『薔薇の家の殺人』は謎、真相、トリック、伏線、ストーリー、語り口のバランスがとれていて、編中ベストだと思います。トリックは計画的であるものの咄嗟の判断を必要とするもので、犯人の巧妙さに驚かされます。この真相を解明した蘭子はもっとすごい。最後のひとひねりも、ラストの結び方も決まっています。 『サーカスの殺人』は、派手さはいいが、このトリックはちょっとね? 『変装の家』は最も地味。トリックは類似モノがいくらでもありそうです。手馴れた読者なら見破れるとは思いますが、最後までわからなかったので自分にとっては良作です。 『喰顔鬼』はサスペンスフルで怪奇趣味が濃く、怖さを堪能できます。 『ある蒐集家の死』はダイイング・メッセージ物ですが、ダイイング・メッセージ自体はたいしたことがありません。でも小トリックを絡めて全体トリックを完成させたところは見事です。 『火炎の魔』。周りから監視された状態の密室内の人体自然発火という謎自体が、なんとも魅力的です。でもトリックの実現可能性はどうなんでしょうね? 6編すべて、平均以上の満足度が得られました。カーの短編とくらべても遜色がないと思います。大時代的でスマートさには欠けますが、むしろそこは横溝的で好ましいです。 ところでなぜ、みなさんの評価は高くないのでしょうか?ほんとうにたいしたことがないのか、二階堂氏の実力からして物足らないということなのでしょうか? 新本格作家のわりに、このサイトでの登録件数がすくないのも意外です。なにか理由があるのでしょうか?本格直球勝負ではなく叙述トリックなどの味付けが必要なのでしょうか?(すみません、疑問符ばかりで) とにかく、氏の作品をほとんど読んでいないので研究する必要はありそうです。 |
No.259 | 6点 | モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編- エドガー・アラン・ポー |
(2011/12/26 11:13登録) 『モルグ街の殺人』・・・こんな古典ミステリーでもネタバレされていると面白みが半減してしまうことが、今回の初読でよくわかった。ネタに触れていなければ、おそらく驚愕(お笑い半分)だったのだろう。 この作品と、『盗まれた手紙』と、『おまえが犯人だ』とはいかにもミステリーの原型といった感じ。それだけで高い評価が得られるだろう。 『群集の人』・・・日常の謎の原型なのかと思いながら読んだ。私も身の回りでよく出くわすんですよね、同じようなことに。毎日すれちがうが名も職業もわからない人。その人が一体何者なのか、好奇心から調べたくなる。結局推理するだけで終わるけど、その推理がまた楽しい。本編は結末になにかあるのかと期待していたが、ラストはよくわからなかった。不思議な小説だった。 『ホップフロッグ』と『黄金虫』は、少年少女向け作品といったところか。前者は復讐モノだが童話(寓話)のスタイルとなっている。後者は暗号モノ冒険小説。いずれもワクワク感が十分にあり、広義のミステリーといえるだろう。『黄金虫』の暗号ミステリーとしての評価はどうだろうか、むずかしいなぁ・・・。たしかに歴史的価値はあるのだが。 本書は新訳だそうですが、こういう作品集は古臭い日本語文体で読んだほうが雰囲気が出るのでは、という気がしました。 |
No.258 | 6点 | 刺客請負人 森村誠一 |
(2011/12/23 10:27登録) 必殺仕掛人・藤枝梅安と同種の人斬り稼業モノ・連作短編集。 主人公は松葉刑部という人斬り浪人。別名は病葉(わくらば)刑部。この名前からはいかにも暗そうな人物を連想しますが、そうでもありません。たしかに病葉刑部には暗い陰と過去があり、物語の雰囲気も暗く、ハードボイルド風でもありますが、主人公の性格がゴルゴ13の東郷とはちがって、意外に人情味溢れるお人好しであるところは万人受けしそうです。 ストーリーは、刺客を請け負った主人公自らが対象の人物やその周辺を調べていくうちに、実は別の奴がワルだったというような話の流れになるのがほとんど。ワンパターンですが、そういうところにスリルやサスペンスがあり、ミステリー的にも楽しめました。 タイトルや表紙のイメージからだけだと幅広く読者に受けるとは思われませんが、テレビドラマ化もされていて、すくなくとも時代小説好きなおば様連中には人気があるのでは思います。 |
No.257 | 5点 | 東京空港殺人事件 森村誠一 |
(2011/12/17 15:02登録) 二重密室という本格要素に、企業の争いを中心とした社会派要素を付加した読み応え十分な社会派本格ミステリーです。 本書を読めば、当時の森村氏は社会派の雄である松本清張に倣いつつも、本格要素を多く取り入れて自分流の本格ミステリを突き進もうとしていたのでは、という気がします。 いろいろとアラもあるのですが、『高層の死角』の後ということなのか、勢いのある本格ミステリという感じがします。企業がらみの社会派ミステリーは嗜好からずれていますが、最初に読んだ森村作品ということで思い出深く、懐かしいです。 |
No.256 | 7点 | 妖魔の森の家 ジョン・ディクスン・カー |
(2011/12/17 14:59登録) 表題作は、20年前の消失事件の当事者であるヴィッキーが、現代になってまた消えてしまうという内容。しかも消失は、H.M卿らとのピクニック中に発生する。 巻頭ページで、この表題作が白眉であるとの説明文があります。奇抜な謎やその謎発生の場面設定、手がかり伏線を評価して「白眉」と褒めたのでしょうが、古典だからといってそれはすこし褒めすぎなのではと思います。たしかに良く出来てはいますが、どちらかといえば、短編本格ミステリーの教科書、お手本という程度です。 それにH.M卿が現場にいながら何故すぐにわからないのかという点もひっかかります。まあ短編なので、そのへんはよしとしましょう。 「赤いカツラの手がかり」はちょっとユニークで、楽しい作品。物語の面白さでは編中ナンバーワンかと思います。 「第三の銃弾」は提示される謎の深さが特徴。謎は読み進むごとにさらに深まっていく。手の込んだ犯行計画に突発的な条件を加味して真相を上手く隠蔽した精緻な作りは、秀逸だと思います。ミステリーとしての凝り方はピカイチです。万人のミステリー・ファンが楽しめるかというと疑問ですが、よく考え抜かれた作品だとは思います。 本作は早川の完全版を少し前に読みましたが、今回のものは簡約版で、復習するのにはちょうどよかったです。 これら3作は趣が異なり、それぞれの楽しみ方ができました。他の2作も悪くはなく、1冊まるごと飽きることなく楽しめました。 |
No.255 | 7点 | 第三の銃弾<完全版> カーター・ディクスン |
(2011/12/09 10:01登録) 提示される謎は、それ自体はわかりやすいのですが、どう考えても解けそうにないほど難解です。しかも、読み進むごとにいろんな証拠や証言、手がかりなどが加味されて、謎はさらに深まっていきます。 この真相の隠蔽の仕方やミステリーとしての精緻な作り、凝り方は秀逸だと思います。 犯人による犯行自体が完璧かというと全くそうではありません。犯行計画は立派ですが、実行にはミスもあり、突発的な行動もあり、そんな種々の条件が合わさったからこそ、事件が難解になったようです。もちろん、それはそれで上手いとは思いますが…。 犯人は、こんな手の込んだ犯行計画を立てるのなら、微細にいたるまでもっと完璧に仕上げることもできたのでは、という気もしました。 トリックは突発的にそうせざるを得なかったという状況の中でのものとはいえ、よく出来ています。 |
No.254 | 6点 | 日経おとなのOFF 9月号 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2011/12/06 09:42登録) 歴史・時代小説特集なら年に一度はビジネス誌に取り上げられるが、ミステリの場合、かつて「ダ・カーポ」に取り上げられていた程度で、すくなくともビジネス誌での特集は見たことがない。本誌は趣味系の雑誌だから、さもありなんだが、ビジネス誌寄りな雑誌なので目新しい気がする。 内容的には、内外ミステリが全般的に網羅してあるし、「名探偵30人のプロファイリング」や「ミステリの中の犯罪心理学」など凝ったものもあり、初心者にも上級者にも役に立つ永久保存版という感じだ。ただ、どの記事にも宮部みゆきが登場していないのが意外だった。編者の嗜好なのかな。 「プレジデント」などのビジネス誌に歴史・時代小説特集が組まれた場合、著名な経営者による「仕事で行き詰ったときに『宮本武蔵』を読み返す」とか、「『三国志』で人心掌握術を習得した」なんてコメント記事が載るが、ありきたりすぎて面白くない。むしろ、ビジネス誌にミステリ特集を掲載し、「ミステリの謎解きで論理的思考力を身に付けた」「ミステリで子どもの読解力がアップした」なんてコメントを載せれば、ミステリの社会的地位の向上につながるのではないか。 書店の文庫コーナーの大半がミステリか時代小説という今となっても、世間的にはミステリはいまだ低俗でマニアックな趣味なのではという強迫観念がある(偏見なのかもしれないが)。ビジネス誌もつまらん記事ばかり載せずに、ミステリの地位向上のために一役買ってほしい。 |
No.253 | 4点 | ハマースミスのうじ虫 ウィリアム・モール |
(2011/12/01 10:18登録) ラストはピンときませんでした。こんな解決方法もあるのですね。後半の殺人事件からこのラストまでは、印象に残るといえばいえますが、主人公のキャソンと、恐喝者ペリーとの心理対決の構図にはそれほどのサスペンスを感じられず、全体としては退屈なプロットに思えました。 キャラクタについてもやや不満です。 キャソンは、刑事でもないのに、趣味とはいえ、正義感に燃えて恐喝者にしつこく立ち向かっていくタイプです。エンタメ小説の主人公に向いているのか、向いていないのか、すこしは好感が持てたところもありますが、微妙な印象です。ペリーがそれほど悪いやつではなかった(というかあまりよくわからなかった)ことにも違和感を覚えました。 『罪と罰』の判事とラスコーリニコフ、『男の首』のメグレと犯人、『刑事コロンボ』のコロンボと犯人などの心理闘争を想像していましたが、予想とは違っていました。心理サスペンスというのは読者がうまくはまれば作中人物と同じ気分に浸れるのですが、ちょっとずれると退屈このうえなしです。出来、不出来というよりは、感性の問題なのかもしれません。 |
No.252 | 3点 | 哲学探偵 鯨統一郎 |
(2011/11/24 10:34登録) 二人の刑事が、事件に出会い、情報収集し、最終的に競馬場に向かい、そこで藍色のスーツを着た謎の男性が登場する。その男の登場が手掛かりはすべて出そろったという合図になる。そういうパターン化された連作本格モノ。 一話ごとに哲学、短歌、競馬の薀蓄が盛り込んである。一編が2段組ノベルズ版の30ページ弱で、全8話。薀蓄がなければ、一話20ページぐらいで済みそう。薀蓄も興味がもてればいいが、そうでなければじゃまな存在でしかない。 じゃまな話を盛り込むよりは、本格部分を厚くするか、人物をもうすこし面白おかしく描いたほうがよかったのでは、と思います。 |
No.251 | 9点 | シャーロック・ホームズの冒険 アーサー・コナン・ドイル |
(2011/11/17 09:41登録) 本短編シリーズの魅力は、奇想天外で不気味な謎が提起されることと、そこからとんでもない方向へと発展してゆく、変化とスリルのある展開とにあると思う。 本格黄金時代作家の作品では時代性をほとんど感じられないが、ホームズ物はヴィクトリア朝の時代性を垣間見ることができ、古めかしさも存分に楽しめる。 キャラクタはもちろん良い。ホームズの独善的ともいえる行動や言動は嫌味ではなく、奇抜な謎の中にあっては不思議なほど映えている。 テンポのよい語り口も申し分なし。 尻すぼみな作品もあるが、そんな作品でも中途は十分に楽しめる。とにかく名編ぞろいで、みな心をときめかせてくれた。 小学生のときジュニア版を読んで以来だから、なにもかも忘れているはずだけど、その後、ジェレミー・ブレット主演のドラマも見たし、数多の似非ホームズにも触れてきたから、今回の再読では何十年もの間読んでいなかったわりには、ホームズ&ワトソンを驚くほど身近に感じることができた。 あらすじについて記憶していたのは、映像が頭に焼き付いている「まだらの紐」と「唇の捩れた男」ぐらいだった。 一般的にはミステリ初心者向きなのだろうが、奇想な物語を好む人なら、いくつになっても、初読でも再読でも楽しめると思う。だからシャーロキアンが存在するのでしょう。 ホームズとワトソンによる階段の段数問答がどの話の中に入っていたのか、このサイトを初めて訪れて以来ずっと気になっていたが、このたび本書を読み始めてすぐに解決した。実は、長編「恐怖の谷」の中だと思っていた。 |
No.250 | 10点 | 炎に絵を 陳舜臣 |
(2011/11/10 13:32登録) 今回は、E-BANKERさんに倣った、初の節目(250番目)書評です。 父の生前の汚名をそそいでくれとの病床の兄からの依頼を主人公の葉村省吾が受けるところから、物語が始まります。葉村家の歴史を背負って動き出す省吾。でも当の本人は明るく能天気なほどの好青年で、全く気負いはありません。前半では、この青年が探偵ごっこのように調査をしながら、読者を飽きさせない程度に話が進んでいきます。 ところが後半にさしかかるころ発生する突然の事件をきっかけに、省吾は葉村家にまつわる謎の渦の中に飲み込まれていき、最後は驚愕の真相へたどり着きます。 巻き込まれ型の素人探偵が真相へとひた進む、サスペンス性ゆたかな、この壮大な推理ドラマには興奮を覚えます。 陳氏の出世作『枯草の根』とくらべると、今までは、わずかな記憶だけをたよりに、かなりいい加減に、本書がすこし上と判断していましたが、今回の再読で結着を見ました。 本書に関し記憶しているのは、興奮して読んだことと、読後数年間、余韻がつづいたことだけ。筋については、主人公が必死にもがきながら謎を追う情景が記憶にあるだけでした。 でも興奮と余韻は記憶どおり、本物でした。 2年ほど前、ディヴァインの『兄の殺人者』を読んだとき、本書と似ているような気がしたのですが、実際はかなり違います。家族愛が背景にあり、兄が登場するという点では一致しますが、筋も、興奮の程度も全然違っていました。 主人公とその恋人の性格は記憶とは違ってとても明るく、意外な気がしました。彼らの性格と、謎の重苦しさや悲劇性とのギャップが本書の魅力の一つなのかもしれません。現代風な主人公や、柔和でゆったりとした物語の雰囲気は、陳ミステリーの特徴のようです。 |
No.249 | 6点 | 堕ちた山脈 森村誠一 |
(2011/11/10 10:54登録) 「堕ちた山脈」・・・ベテラン・グループと初心者グループの山での対決。どちらも甲乙つけがたいほど陰湿で卑劣。上手いと思った。 「虚偽の雪渓」・・・被疑者は少ないが手掛かりが後出しなため容易には犯人を特定できない。短編だからこのぐらいは止む無しか。 「失われた岩壁」・・・ワルも命がけ。ここまでリスクをかけることもないのにと思うが…。必死な状況はよくわかる。ラストは想定内。 「憎悪渓谷」・・・短編CC物。本格ミステリで添付図といえば間取り図などの平面図が一般的だが、本作には人間関係図が載せてあった。これには驚いた(笑)。 「犯意の落丁」・・・よくあるミステリ・パターン。雰囲気は楽しめるので、短編だから許せるという感じかな。 以上、5編。 森村氏の山岳モノは初めて。解説によれば、森村氏の山岳短編は、山も俗界の延長にある、だから山好きだからといって高潔ではない、という考え方にもとづいているらしい。5編ともそんな感じがよく出ている。 「堕ちた山脈」「虚偽の雪淫」「失われた岸壁」、これら3編は山ならではの話で、シンプルながらも引き込まれ、楽しめた。一方、「憎悪渓谷」と、「犯意の落丁」とは山を舞台にするほどでもないと思うのだが…。そう思いながら読むと面白さも半減した。 |
No.248 | 5点 | 暗い森 アーロン・エルキンズ |
(2011/11/10 10:40登録) スケルトン探偵シリーズ第2作です。米国現代本格と聞き初めて読んでみました。 本書は本格色が濃いとはいえないし、プロットも平板に感じますが、会話や人物描写が生き生きとしていて好もしく、テーマに似合わず親近感を覚えます。民族学的なペダンチックな内容をやさしく解説する語り口が読者を惹き付けてくれるようです。 物語は後半、『インディー・ジョーンズ』『ナイルの宝石』ばりの探検モノの様相を呈してきて俄然楽しくなります。この程度の見せ場が中盤にもあれば、もっと起伏に富んだ楽しい小説になっていたのにという気もしますが…。 こんな本格以外の要素があるからこそ、骨から推理するという特殊な設定でも長年にわたり人気シリーズになったのでしょう。 主人公の学者探偵・ギデオンが、その周りを取り巻くFBI捜査官・ジョン、公園保護官・ジュリー、恩師・エイブたちとどのように関わりあっていくのか、どんな難事件を解決するのか、初心者にとって興味深いですね。 謎解き物としては物足りませんが、評点は今後の期待を込めてこんなところです。 |
No.247 | 5点 | 超特急燕号誘拐事件 辻真先 |
(2011/10/21 11:44登録) 時代は昭和10年、舞台は超特急燕号の中。主人公でもありワトソン役でもある四条杉彦が現代において、その回想を語るというスタイルです。そして事件を解決するのは女性探偵・亀谷ユーカリ。 機関車と一等車の消失、列車内の密室殺人、と謎はたっぷり。しかもwho,how,whyのすべてがそろっています。ちょっとした逆転の発想ができれば真相解明はたやすいかもしれませんが、まあそれでも面白い着想だとは思います。動機についてもいちおう筋は通っています。ただ、そうは言うもののメイントリックについては、いくらなんでもそれはないだろうという感じがしますし、読後感ももうひとつすっきりしません。結局、アイデアだけの作品だったということなのでしょうか。 |
No.246 | 6点 | 十津川警部の抵抗 西村京太郎 |
(2011/10/14 10:27登録) 連続殺人モノです。十津川警部シリーズを読むのは本当に久しぶりです。実は全く期待しなかったのですが拾い物でしたね。 後半、謎のほとんどが解明されつつあるのに最初の事件の真相だけがうやむやなので、もしかして放置かと心配しましたが、最後の大捕物の前に種明かしされました。この真相は驚きですし、その隠し方は実に巧妙です。隠し方といっても叙述トリックではなく、犯人による手段なのですが、この最初の事件の真相を包み込んだミステリー構造には納得もし、感心もしました。とにかくこの巧妙で残忍な最初の殺人が最も重要です。作者もこの事件に重点を置いたのでしょう。ただ、十津川&亀井が登場するまで警察はいったいなにを捜査していたのと突っ込みたくはなりますが… なお、タイトルの「抵抗」は上司に対する些細な抵抗のことで、事件の内容とはあまり関係ありませんでした。こういうメグレ風のタイトルを付けてしまうと、ファン以外は寄り付かないように思うのですが…まあ、佐伯泰英氏の時代小説のように熱狂的なファンが多くいれば、作者にとっては十分なのかもしれません。 |
No.245 | 6点 | しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 泡坂妻夫 |
(2011/10/09 13:30登録) 本の仕掛けは倉阪氏の小説で経験済み。でも本書が本家だし、マジックとして使えるので、その分評価は高い。早速、家族に披露しました。これからも使えるので、本のコストパフォーマンスはきわめて高いということですね。 ただし、ミステリとして、小説としては平均か、平均以下でしょう。 |
No.244 | 5点 | メグレと無愛想な刑事 ジョルジュ・シムノン |
(2011/10/05 18:59登録) 今までに読んだ長編のメグレ物とはちょっと違って、早々と謎が提起され、短編ミステリーらしさが感じられます。もしやしてこれは謎解きミステリーなのではと思ってしまいます。でも、ストーリーの流れからすれば、本格ミステリーというよりは、やはり一般小説寄りなミステリーとして楽しむほうが正解でしょう。 『児童聖歌隊員の証言』では、メグレが39度の熱を出して、自宅で少年から真相を聞きだす場面があり、いくらなんでもこんな事情聴取はないだろうと思いながらも、なんともいえぬ可笑しな光景を頭に思い描いて、吹き出しそうになりました。 『誰も哀れな男を殺しはしない』は、ミステリー度の高さは編中随一です。物語の進行とともに徐々に被害者の謎めいた実態が明かされていくものの、謎はさらに深まります。はたして真相は?と少しだけ本格として期待したのですが・・・ |
No.243 | 3点 | 失踪 西村京太郎 |
(2011/10/02 13:00登録) 佐文字進の推理は空想のように発展していくので、話の展開はスピードアップしていきます。駆け足で駆け抜けていくような感じです。早く読めるということはいいのかもしれませんが、もっとじっくりと楽しみたいですね。それに、こんなとんでもない発想をする犯人がいるのだろうか、という疑問もあります。とにかく恐ろしい発想です。まあ、佐文字の犯人に対してとった行動も常人では考えられない発想によるものでしたが。 携帯やパソコン、メールも登場する現代の作品ですが、西村氏もまだまだ現役でがんばっているんだな、と妙なところに感心しました。 |
No.242 | 5点 | 五声のリチェルカーレ 深水黎一郎 |
(2011/09/28 11:15登録) 著者に関する予備知識はわずか、特に本作に関する情報はゼロでした。だから最初は、たんに薀蓄開示がくどいだけのミステリかと思っていましたが、徐々にこの手のミステリだということがわかってきた次第です。その薀蓄は物語の根幹とうまくリンクしています。 ただ、この種のミステリは書き方しだいでなんとでもなるし(そう言ってしまえば身も蓋もないが)、書き方自体も後半がかなりわかりやすくなってきていて、驚きも中程度だったので、結果的にはそれほどすごいミステリだとは思いませんでした。「告白」「向日葵の咲かない夏」「イニシエーションラブ」の強烈なパワーとテクニックがほしかったですね。まあ、だからこそマニアックだと言われるのですが。 総評すれば、一部のマニアには受けるけど、その受け方もベストとは言えないかなという感じでしょうか。 併録の短編「シンリガクの実験」は独立したものですよね。これについては、意味のない短編をいっしょにするはずがない、という意見もあるようですが、いくらなんでも考えすぎです。 深読みするのは自由だし、それができるのが小説の本当の醍醐味。そういう意味では2作品とも高評価できますが、エンタテイメントとして楽しめたかというと、微妙です。 |
No.241 | 6点 | 月光亭事件 太田忠司 |
(2011/09/22 11:09登録) 大技トリック付きのオーソドックスな本格派ミステリです。 中程度の満足度でした。 気になる点をいくつか挙げます。 (1つ目はトリック)トリックの手掛かり材料(伏線)について、他のサイト等で伏線とその回収をほめる書評を2,3見かけましたが、これぐらいならごく普通だと思うのですが・・・。それはさておき、このトリックをどう実現するのかを、添付図からは理解できませんでした。添付図の形状では実現できないような気がするのですが、理解力不足なのでしょうか。状況をもう少し詳しく説明してもらいたいですね。 (2つ目は登場人物欄)登場人物欄でミスリードするのってありですか?それとも逆に読者サービスなのでしょうか。 (そして最後に)初めて読む作家さんで、何も知らず、ラノベの延長ぐらいの作品だと思っていましたが、読んでみれば意外にも正当派の本格推理だったので驚いています。狩野俊介少年のキャラクタや、人間関係がドロドロしているところは好みだし、読みやすさも申し分なしなのですが、なんとなく物足らなさもあります。トリック以外にクセがなさすぎるからでしょうか。 本書にかぎらず太田作品全般にいえることですが、このサイトであまり読まれていない(同世代の森博嗣よりもはるかに少ない)のには、なにか理由があるのでしょうか。 |