第三の銃弾<完全版> |
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作家 | カーター・ディクスン |
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出版日 | 2001年09月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 8人 |
No.8 | 7点 | レッドキング | |
(2020/07/01 18:18登録) 「密室状態」の室内に射殺された被害者と銃弾を発射した容疑者の二人。だが、被害者を殺した弾丸は、容疑者が撃った銃Aの銃弾aでも、室内で発見された別の銃Bの銃弾bでもなく、第三の銃弾cであり、銃Cは室内のどこにも無かった。トリックテーマ以外の余剰部分を極力そぎ落とした無駄のない長編ミステリ。 おそろしく手の込んだ、無意味で非現実的な「密室のための密室」「トリックのためのトリック」・・・素晴らしい! |
No.7 | 7点 | 弾十六 | |
(2019/08/03 01:54登録) JDC/CDファン評価★★★★☆ 単行本はCarter Dickson名義で1937出版(Hodder&StoughtonのNew-At-Ninepenceシリーズ)、短縮版はJohn Dickson Carr名義でEQMM 1948-1掲載。短篇集(1954)収録時には短縮版が採用されました。(創元『カー短編集2』はこちらを翻訳) 英米版の出版経緯は森英俊さんの解説に詳しく書かれています。 タイトルはバークリーのThe Second Shot(1930)を意識? (先にそっちを読みたいと思ってるのですが、何故か本が見つかりません…) 本作の探偵は痩せて背の高いマーキス大佐。不可能興味の入り組んだ筋で、かなり上手く出来た構成。でも説明がスッと頭に入ってこないところが残念。足跡発見後の見取り図も欲しいところです。人間関係もなかなか上手に配置されてるのですが、ペイジ警部の主観で感情を込めて再構成したら小説的にも面白いのに…と思いました。(そこに興味が薄いのがJDC/CDらしいところ) 私は先に短縮版を読んで、非常に良かったので[完全版]を発注しました。本当は先にこっちを読むべき良作ですね。 以下、トリビア。原文は入手できませんでした。 銃が沢山登場するのでマニアには楽しい話。一挺は「アイヴァー ジョンソンの三八口径リヴォルヴァー」Iver Johnson Safety Hammer DA又はSafety Hammerless DAが候補。いずれも1909-1950製作、トップブレイクの拳銃で38S&W弾使用。二挺目は「ベルギー製ブローニング型三二口径のオートマチック」多分FN M1910(32ACP弾)です。(同じFNのM1900やM1922という可能性もありますが…) 山田維史さんの表紙絵は、銃弾は上が38S&W(実物30.5mm)、下が32ACP(実物25.0mm)のつもり?サイズが変で、形もひょろ長すぎです。描かれた拳銃も小説には登場しないFNブローニングハイパワー(9mm=38口径。絵にある正面バレル下の丸いパーツは間違い。そしてフロント周りのシャープさが足りない!) 表紙絵には内容に沿ったものをカッコよく描いて欲しいところです。 ところで「エルクマン」というドイツの銃器メーカーが見つかりません。「戦時中、銃を大量生産し、今でもイギリスではいくらか出まわっています。」とあるので有名な会社だと思うのですが… 架空名だとしたら候補はBergmann, Mauser(モーゼル), Waltherあたりでしょうか。 p9 一ポンド札: 英国消費者物価指数基準(1937/2019)で67.56倍、現在価値9097円。当時の1ポンド紙幣は緑色のBritannia series(1928-1948)、151x85mm。 p33 非常の世界とも現代主義とも: 創元『カー短編集2』で「ハードボイルド、モダン」と訳されてるところ。戦間期はドライな時代になった、という自覚が世間にあったのでしょう。 p75 ほぼ十フィート離れたところから撃たれて: この推定は無理筋だと思います。(至近なら身体や服の火薬跡などから推定出来そうですが…) p84 乱暴に帽子をかぶるので… ガイ フォークスのような風貌: Guy Fawkesに訳注がついてるのですが、ここは案山子人形のイメージだと思います。 p99 意外とロマンチックなところがあり… 推理小説を年じゅう読んでいて: メタ探偵小説であるのはラストではっきりします。 p115 ふたりとも手に拳銃を持って… 何年もまえの写真… いわゆる軍用銃: Service Revolverが原文か。だとしたらWebley拳銃だと思います。 p126 五百ポンド: 現在価値455万円。 p127 ヴォクスホール社の大型セダン: Vauxhall Sedan、背の高い車です。 p134 死刑囚のエズモンドは言った。“見たままの世界を受け容れるしかない。”: 調べつかず。 p160 頭の足りない少年が、いなくなった馬を見つける… “おいらが馬だったら、行きたい場所はどこかな…”: どこかで見たような… 出典が思い出せません。 p162 セブンリーグブーツ(訳注: おとぎ話『一寸法師』に出てくる): Hop-o'-My-Thumbはペロー童話(1697)で有名。 p167 私には犯人はもうわかっている。: マーキス大佐がこんな爆弾発言をしてるのにペイジは無関心。JDC/CDは小説を盛り上げるのが下手だと思います。 森さんの解説の最後にあった戯曲Inspector Silence on the Air(1942)[ヴァル ギールグッドとの共同執筆]がとても面白そう。ぜひ翻訳して欲しい! |
No.6 | 6点 | 雪 | |
(2019/04/03 13:22登録) 高等法院判事チャールズ・モートレイクは画家と名乗る男ゲイブリエル・ホワイトに、老婆を殴りつけ数ポンドを奪った罪で、十五回の鞭打ちと十八カ月の重労働を言い渡した。ホワイトはその場で、判事を脅す言葉を口にする。彼は模範囚として六分の一の刑期を減刑され釈放されたが、モートレイクへの復讐は忘れていなかった。 出獄したホワイトに脅されたチャールズの娘アイダは「殺してやる」という彼の言葉に怯え、すぐさまロンドン警視庁に連絡する。判事宅の門から人影を追って離れにたどり着き、二度の銃声を聞きつけ窓から飛び込んだペイジ警部が見たのは、机に突っ伏したモートレイク判事と、銃を突き出し呆けたような顔をして突っ立つゲイブリエル・ホワイトだった。 状況は明白と思われたが、次々と意外な事実が判明する。ホワイトが持っていた銃は一発しか撃たれていないアイヴァー・ジョンソンの三八口径リヴォルヴァー。そして窓ぎわの花瓶からは、これも一発しか発射されていないブローニングの三二口径オートマティックが発見された。 そして判事の体内から発見された弾丸は、そのどれでもない二二口径エルクマンの空気銃だったのだ。室内からは、壁にめり込んだ三八口径の弾丸しか見つからなかった。 三つの銃に二発の銃声、そして発見されぬブローニングの弾丸。事態に窮したペイジ警部は、上司である警視監マーキス大佐の助けを求める。 1937年発表。出版社の要請に応えて執筆された短めの長編で、最高傑作「火刑法廷」と同年に発表された作品。いやが上にも期待が高まりますが、内容もそれに恥じません。 複雑な謎に加えて釣瓶撃ちに新事実が提示され、読者は五里夢中の状態。ある発想に至れば一気に真相に迫れるのですが、それを思いつくのは簡単ではないでしょう。 読んだのはハヤカワの完全版ですが、探偵役のマーキス大佐がいい雰囲気を出していて、これ一作で退場というのはちょっと残念。このアイデアもここで使い捨てるのは少々もったいない気がします。細かい配慮も行き届いていますが、佳作というにはいかんせん短く物足りないので、7点には至らず6.5点。 |
No.5 | 6点 | nukkam | |
(2016/09/12 01:40登録) (ネタバレなしです) 探偵役に本書のみ登場のマーキス大佐を配した1937年発表の本格派推理小説です。もともとはEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン)に投稿されましたがその際には約20%がカットされたそうです(原作者の了解済みです)。ハヤカワ文庫版はカットされる前の完全版でこれから読む人にはこちらがお勧めです。完全版でもかなり短めの長編ですが謎解きの密度は大変濃く、新事実が発見されるたびにかえって謎が深まっていく展開はさすがこの作者ならではです。ただ読者の謎解き参加意欲をかきたてる作品だけに登場人物リストから事件の鍵を握る重要人物(犯人ではありません)の名前が欠落していたのはちょっと残念な気がしました。 |
No.4 | 7点 | ボナンザ | |
(2016/03/13 15:37登録) 完全版で読了。 アシモフが作中で語らせていたように技巧的なイメージはあるが、それを考慮しても流石全盛期というべき良作である。 |
No.3 | 5点 | 蟷螂の斧 | |
(2015/08/25 18:59登録) 裏表紙より~『密室で射殺された元判事の死体の傍らには、拳銃を握りしめた青年がたたずんでいた。しかし、被害者を襲った凶弾は青年の銃から発射されたものではなかった…。この不可解で錯綜した事件に挑むマーキス大佐は、不可能犯罪の巨匠が創造したシリーズ探偵マーチ大佐のプロトタイプ。従来の簡約版では、エラリイ・クイーンのひとりフレデリック・ダネイにより大幅に削除されていた部分を、完全復元した待望のオリジナル版。』~ 謎は複雑で魅力的です。真相もよく考えられています。しかし、好みでない点があり辛目の採点となりました。 |
No.2 | 7点 | 臣 | |
(2011/12/09 10:01登録) 提示される謎は、それ自体はわかりやすいのですが、どう考えても解けそうにないほど難解です。しかも、読み進むごとにいろんな証拠や証言、手がかりなどが加味されて、謎はさらに深まっていきます。 この真相の隠蔽の仕方やミステリーとしての精緻な作り、凝り方は秀逸だと思います。 犯人による犯行自体が完璧かというと全くそうではありません。犯行計画は立派ですが、実行にはミスもあり、突発的な行動もあり、そんな種々の条件が合わさったからこそ、事件が難解になったようです。もちろん、それはそれで上手いとは思いますが…。 犯人は、こんな手の込んだ犯行計画を立てるのなら、微細にいたるまでもっと完璧に仕上げることもできたのでは、という気もしました。 トリックは突発的にそうせざるを得なかったという状況の中でのものとはいえ、よく出来ています。 |
No.1 | 7点 | Tetchy | |
(2008/08/23 21:40登録) 登場人物たちがそれぞれ何らかの嘘をついていることで殺人計画が予想外の方向転換を余儀なくされた結果、2発の銃声に3種類の銃弾が発生するという奇妙な事件を招く。 この、どうにもすわりが悪い状況設定を最後に論理で解き明かしていくのは素晴らしい。 今回の作品の特徴として、新たな事実が発覚するにつれ、また新たな謎が生まれる畳み掛け方が絶妙だった。 銃声2発に対し、犯人から発射された銃弾は1発→現場で発見された別の銃の意外な持ち主→遺体から摘出された銃弾がその2丁の拳銃のどれでもない第3の銃弾だった→第3の銃の意外な発見場所→奇妙な窓の足跡→第2の殺人の発生、と謎また謎の連続である。 犯人も意外で、云う事ないのだが、窓の足跡については蛇足であると感じた。他者へ疑惑の目を向けるための工作だったが、開かない窓から脱出する足跡という謎は魅力的だったものの、その存在を十分に納得させるだけの論理性は薄弱だと感じた。 これさえなければ私の中でカーの代表作となる作品になっただろう。 |