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ミステリの祭典

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聞かなかった場所

作家 松本清張
出版日1975年01月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2023/09/09 17:04登録)
(ネタバレなし)
 昭和40年代の半ば。その年の3月。出世のために腐心する、農林省食糧課の係長で42歳の浅井恒雄は、最近赴任したばかりの上司・白石局長とともに神戸に出張し、土地の食品会社の接待を受けていた。そんな宴のさなか、妻・英子の妹の美弥子から突然の電話があり、その英子が急死したという。あわてて東京に戻った浅井が事情を探ると、英子は代々木の一角にある化粧品店の店舗内で心筋梗塞で死亡らしい。だが代々木の該当の町は生前の英子との接点もなく、話題になったこともない場所で、浅井はさらに細かい情報の積み重ねから、妻の死の状況に不審を募らせていく。

 「週刊朝日」に昭和45年12月~翌年4月にかけて連載された長編で、「黒の図説」シリーズの第7話。評者は今回、角川文庫版で読了。

 タイトルの含意はまさに文字通りのもので、そこから浅井は普通に愛し合っていたはずのやや年の離れた妻・英子(享年34歳)が秘密の逢瀬の場に通い、密通を働いていたのではと観測。するとその仮説を支えるように、細かい事実の数々が、予想以上の情報をはらむようになってくる。ホームズの推理を思わせるような、些事から伏在する真実をひとつひとつ探り当てる浅井の思考はなかなか面白い。まあいわゆる官僚イメージの役人にしては、あまりに柔軟に自在に浅井の頭が回りすぎる感覚はあるが。

 物語の前半は亡き妻の不倫事実の確認といるのならその相手の探索でページが費やされ、狭義での謎解きミステリの要素は薄い(それでも前述のような、主人公の推理的な思索と事実の調査の経緯の叙述で、その意味ではちゃんとミステリらしいが)。
 
 どの辺でどう、もっとミステリっぽくなるのかな? と思っていたら、やがて中盤以降で大きく舵が切られた。なるほど、こういう構造の作品だったのね。
 俯瞰して見れば、確かに清張っぽい一編である。

 後半~終盤の展開はなかなかスリリングだが、話の方向を露見させてしまいそうなので、ここでは詳しいことはカット。とはいえ、さすがにグイグイは読ませる。
 清張の長編カテゴリーの作品としては比較的薄目で、読みやすいこともあってリーダビリティは吉。佳作~秀作の中。

No.2 6点 斎藤警部
(2015/09/01 12:06登録)
サクサク読めちゃう本ですね、短く、軽く。 高校生の私にはずいぶん大人さんの物語でしたが、それでもあっという間に読了でした。 詳しい内容は憶えてないなあ。。 名作として人に薦める程じゃあないけど、一人でこっそり愉しむ分にはそりゃやっぱ悪くないですよ。良い意味でサスペンスドラマにぴったり。 実際何度かドラマ化されり(清張にはいつもの事だが)。 略称は「キカナカ」で決まり!

No.1 6点
(2011/12/29 14:53登録)
浅井が出張先で妻の突然の死の報せを受ける。死因は心臓発作だが、死んだ場所が妻には縁のないはずの「聞かなかった場所」だった。疑惑を抱いた浅井は独自で調査を行う。そして真相を突き止めた浅井は・・・・・。
清張ならではの、どこにでもいそうな小心者の転落を描いた小説です。
全体的に暗く、じめじめしていて、後味もイマイチ良くない。それでも、ほどほどに感情移入できるのは、さすがです。誰でもこんな状況に陥るかもしれないということが暗示してあります。

清張ミステリは、犯罪者や悪意あるひとたちの心理描写は抜群なんだけど、捜査者がわがもうひとつ印象に残らない。『時間の習俗』に再登場させた刑事が登場する『点と線』でさえも、テレビドラマを鑑賞したからこそ人物像が記憶に残っているが、小説の中の刑事の記憶はおぼろげでしかない。だから清張ミステリーはエンタテイメント小説として万人には推薦できない。これはシリーズ探偵(刑事)をつくらなかったことの功罪なのでしょう。

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