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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.280 5点 ボビーZの気怠く優雅な人生
ドン・ウィンズロウ
(2012/03/15 10:25登録)
ボビーZの替え玉となった冴えないコソ泥・ティムがボビーの子どもを連れて、命を狙う悪党たちに立ち向かうハラハラ、ドキドキの冒険アクション・ストーリーです。アクション映画そのものといった感じで、とにかく痛快。スピード感たっぷりだし、描写もいい。場面がころころ変わるけど読みにくさはない。むしろとても読みやすい。ラストにはちょっとしたサプライズもある。
でも物語に厚みがないんですよね。なんとなく先が読めてしまうのも欠点。まあそのあたりに期待はしないほうがいいでしょう。頭の中を空っぽにして何も考えずに刹那々々を興奮しながら楽しむべし、といった作品です。


No.279 5点 杉下右京に学ぶ「謎解きの発想術」
評論・エッセイ
(2012/03/10 13:08登録)
ビジネスをミステリーの謎解きに照らして研究することは突飛で斬新な考え方のようにも思われますが、歴史書や歴史小説から学ぶことよりもむしろ一般向けであり、合理的でもあり、ごく自然な発想だと思います。
とはいえ、そんな発想を『相棒』のエピソードごとの事例形式でチャート入りの1冊の本にまとめてしまうことはやはり賞賛に値します。
とくにドラマを鑑賞した人にとっては、エピソードに沿って事例形式でビジネスへの展開術が紹介されているので内容を理解しやすく、しかも同時にドラマの内容が思い出されるため、予想以上に楽しめるはずです。


No.278 4点 相棒 警視庁ふたりだけの特命係
碇卯人
(2012/03/06 13:34登録)
江守森江さんの数多くのレビューの影響を受けて1年ほど前からドラマを多数(放映中のものも、過去のものも)鑑賞するようになり、ついにノベライズ作品に手を出すまでになりました。

本書には2時間もの3編が収録されています。
うち2編はドラマ鑑賞済みとはいえ、伏線の確認などネタを知ったうえでの楽しみ方ができるはずなのに満足のいくものではありませんでした。未鑑賞の1編を含めみな同レベルに感じたので、根本的に何かが足らないのでしょう。軽く流すように読めますが、ただそれだけという感じです。
それに、そもそも複数の殺人が起こる2時間ものを80ページ程度に活字化するには無理があるようです。1作を2時間もかからず読めてしまいますからね。
キャラクタの描き方もよくありません。最初期の作品なので、碇さんもそのあたりをまだ掴めていなかったのでしょうか。
この1冊(3作品)を読むかぎりだと、映像のほうが優れていると感じます。ノベライズ担当の碇卯人さんが手抜きしたような印象です。輿水泰弘氏らドラマ脚本家のシナリオ集を読んだほうがよさそうです。

「コンビ誕生」・・・ドラマでは地味だが意外性があって楽しめた。映像のほうが重みがあり、力作との印象あり。でも小説ではねぇ。。。
「華麗なる殺人鬼」・・・ドラマでは楽しめたが小説ではちときびしい。
「神々の巣窟」・・・社会派なのに、終わり方を含めあっさりしすぎ。

10年ほど前の連続ドラマ化以降、名作が多く登場しますが、小説のほうはどうなのでしょうか。すこし不安ながらも次を楽しみにしましょう。


No.277 7点 赤の調査ファイル
今野敏
(2012/03/02 10:18登録)
STメンバーのリーダー格である法医学担当の赤城を主人公に据えた作品です。
赤城という男は正義感が強く、他のメンバーや刑事たちからも一目置かれ、しかも慕われる存在です。それだけなら面白くもなんともないのですが、対人恐怖症(特に女性恐怖症)でもあるところは、探偵は変人であるべし、といったホームズ時代より継承されるルールに則った感があり、今野氏のキャラクタ設定のうまさを感じます。ただ、女性恐怖症を示す行動、言動があまりなかったのは残念です。

今回の事件は大学病院の医療に関わる小粒なものです。というのが読み始めの印象ですが、最終的には実は・・・と、ミステリ的にも意外におもしろい作品でした(本格というほどではありませんが)。でもこの犯人、ちょっとやりすぎなのでは?
そして、そんなミステリ要素よりももっと楽しめたのが、久々に読書で興奮できたこと。気持ちよかったですね。溜飲が下がるってこういうことなんでしょうか。


No.276 6点 野性の証明
森村誠一
(2012/02/27 10:31登録)
森村氏の代表作とされる「人間の証明」が心を打つ作品だっただけに、本書のほうが一般的には人気が少し落ちるのかもしれませんが、個人的にはこっちのほうが好きです。
大量虐殺の生き残りの少女が自衛隊員と、巨悪とに立ち向かうというとんでもない設定で、驚愕のラストあり、サスペンス(アクションかな)ありの強烈なエンタテイメント・ミステリー作品です。ストーリーは素晴らしくかつ馬鹿げてもいますが、ここまでやってくれれば思う存分に楽しめます。もしかしたら海外でも通用するのでは、という気さえします。

証明シリーズ第1作「人間の証明」で新境地を切り拓き、第2作の「青春の証明」が普通っぽすぎたためか、3作目の本書ではまた決めてくれました。
「青春の証明」が普通っぽいと思い込んでいますが、実際どうだったか、実はまったく記憶にありません。ゴメンナサイ。。。


No.275 7点 ビッグ・ボウの殺人
イズレイル・ザングウィル
(2012/02/23 10:20登録)
うわさに違わぬ凄い作品だった。
ただ、本作には多くの瑕疵があります。

(1)短すぎること、さらに中盤を飛ばして読んでもけっこう楽しめること
プロット(というか物語の構成?)があまり上手くないということか?
まあ、ミスディレクション重視ということなのでしょうか。
(2)who how why のすべてが揃っていること
動機が理解しがたいことや、(空さんも指摘されている)トリックが読者に悟られにくくするためにきわめて危うくなっていることなど、現代の視点でみれば、もろさがあります。でも、すべてのミステリ要素が絡み合って結果的にうまく仕上がっていることも事実です。
(3)アンフェアそうにみえてそれほどアンフェアではないこと
もっともっとアンフェアに仕上げていたら、「アクロイド」「そして」ぐらいの超有名作になったのでは?

以上はもちろん長所でもあるのですがね。

実は上記以外にも多くの欠点があり(たくさんあって挙げきれません)、総合的に判断すれば6点ぐらいが妥当ですが、100年以上も前に書かれた元祖密室トリックの代表作に敬意を表して、この点数です。


No.274 7点 15のわけあり小説
ジェフリー・アーチャー
(2012/02/18 13:20登録)
小気味のよい、落語のオチのような、いたずらっぽく捻りのあるオチが待ち受けている数々の掌編群をはじめ、男の意地を描いたドラマ、紆余曲折のロマンスなど、収められた短編は種々雑多。傷ものという意味のわけありではなく、面白いのにはわけがあるという意味のようだ。
うち10話は実話にもとづくもので、これらはオチよりも途中の変遷あるドラマが楽しめる。
特に、「メンバーズ・オンリー」は小気味よく爽やかに締めくくるラストを含め、サーガにも匹敵する男の半生を描いたストーリーが素晴らしい。この主人公の執念と意地には感服。
「女王陛下からの祝電」も爽やか系で良かった。「遺書と意志があるところに」は、編中ではミステリー度高し。手口はなかなか巧妙。これも実話なのか。
創作5話の中では、意外なオチで心地よい後味を残してくれた超掌編の「ブラインド・デート」が良かった。わくわく感たっぷりの「満室?」も楽しめた。

平均的には、切れ味鋭い創作短編よりも実話にもとづく短編のほうが良かった。事実は小説より奇なりということなのでしょうか。
かつて、「十二本の毒矢」などの短編集も読んだはずなのだが、筋や読後感の記憶がほとんど残っていない。アーチャーは長編でこそ活きる作家だと感じていたが、本書を読んで短編も決して悪くはないと思った。短編テクニック的には文句のつけようがなかった。

ミステリーと広言できるのは2,3編だけで、トリック付きとなると1編ぐらいか。出来については平均すると5,6点というところが妥当だが、「ブラインド・デート」「女王陛下からの祝電」「メンバーズ・オンリー」がお気に入りなので、それらに免じて、評点は7点。


No.273 5点 青の調査ファイル
今野敏
(2012/02/15 09:31登録)
ST警視庁科学特捜班シリーズの中の、色シリーズです。
STメンバーの一人、美青年、青山が主人公ですが、翠(の耳)、黒崎(の巨体)など、他の個性派メンバーも大活躍します。
30ページ(ノベルズ版)ごろにSTメンバーや他の警察官たちが続々と登場してきて、ふつうなら混乱しそうになるところですが、そのようなことはなく、あっという間に頭の中に人物像と人物相関図が出来上がってしまいました。さすが今野氏、人物描写の上手さには感心します。

事件は科学的手法で徐々に解決へと導かれていきますが、それほど難解なものではなく、しかも最終的な決め手は、いたって非科学的です。初めて読むシリーズなのでよくわかりませんが、科学捜査といっても小難しいものではないようです。むしろキャラクタ小説として肩の力を抜いて楽しめればそれでよし、というコンセプトで書かれたのではと想像します。


No.272 6点 タイムスリップ森鴎外
鯨統一郎
(2012/02/09 09:42登録)
タイムスリップ・シリーズ第1作。
1作目ということからだろうか、かなり気合が入った様子。最近の作品、「タイムスリップ忠臣蔵」にくらべて内容がはるかに充実していました。どう締めくくるのかが全く読めない、素晴らしい作品でした。結末は、この種のミステリーだから、この程度が精一杯でしょう。

(以下ネタバレ)
見どころのひとつは、モリリンの変貌ぶり。現代社会への適応はほんとうに早かった。ワープロ、パソコン、携帯を使いこなし、ラップまで楽しむ。さすが鴎外さん。
そしてもうひとつの見どころが、うららや七海らを交えての謎解き推理。太宰治、松本清張、西村京太郎、赤川次郎など、候補はたくさん挙がったけど、行き着くところは大御所だった。たしかに時代も合ってるし、いろんな面で整合性もとれているし、しかも面白い。よく考えたものと感心しました。


No.271 3点 タイムスリップ忠臣蔵
鯨統一郎
(2012/02/06 11:39登録)
(馬鹿馬鹿しすぎて、ネタバレというほどのことではないですが、いちおう以下はネタバレです)

時は22世紀。イヌが人を支配する時代になっていた。それを是正するために、麓うらら達はタイムプレーンで元禄時代へタイムスリップする。生類憐みの令が400年続いたことがイヌ社会を作った一因であり、それを廃止させるのがタイムスリップの目的。具体的には、大石内蔵助ら赤穂浪士に吉良を討たせるようにすればその目的が叶う。

赤穂浪士に討ち入りを果たさせ、吉良が死んで、それによって生類憐みの令が廃止となれば、その後、現代の人、イヌの正しい序列の世の中になる、というだけの話であるらしいことが、30ページほど読んだあたりで予想できた。裏表紙の解説を見ると、同じような説明があったので、もしかして、解説からは想像できないようなとんでもないラストが待ち受けているのでは、とわずかな期待を抱いたのだが、やはり予想どおりの結末だった。

忠臣蔵のエピソードも上っ面だけ。人物の面白みもなし。ヒト対イヌの闘いもあっけなし。アイデアだけの作品だった。
よって評点は1,2点でもいいのだが、馬鹿馬鹿しくも暫しの間、意外なほど読書に没頭することができたので、この点数。


No.270 5点 猿来たりなば
エリザベス・フェラーズ
(2012/02/02 15:50登録)
殺猿事件の真相と動機にはなるほどと納得しました。このアイデアはなかなかのものです。
でも、察しのいい読者ならなんとなく想像がつくように思います。そもそも猿が殺されるという不自然さはどうしようもありません。それに、警察ならすぐに解決できるではずですしね。たしかに警察の出番を少なくしたところは上手いといえるのかもしれません。作者の隠し方も問題です。トビー&ジョージは事件の状況を把握していたのだから、もっと早く解決できていたのではとも思います。

『自殺の殺人』でも感じたことですが、中盤にメリハリが感じられないのはこのシリーズの特徴なのでしょうか。読者が物語に嵌まり込むことなく、冷静に推理できるのはメリットでもあるのですが…。かならずしもストーリー・テラーである必要はないとは思いますが、もうちょっとなんとかなりそうな気もします。
それに、トビー&ジョージという凡人型コンビ探偵のスタイルも、天才型探偵に慣れ親しんだ読者にとっては物足りないですね。いっそのことお笑い中心のユーモア本格にしてしまえばよかったのにと思います。

褒める点もおおいにありますが、基本的にこの作家には、あまり合わないのかもしれません。3作目にして気がつきました。でももうちょっと読むつもりです(笑)。


No.269 5点 ミステリが読みたい! 2012年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2012/02/02 09:37登録)
要素別の配点方式なので、それぞれの点数を見て読みたいものを判別することができる。
ストーリー、サプライズ、キャラクター、ナラティヴという要素別ランキングに加え、サスペンス、本格、青春、ユーモアなどのジャンル別ランキングがあるのも特徴。これも使い勝手がよい。
しかし、このスタイルを初めて見た2年前ほどの感動はない。しかも、たとえば国内篇では、投票人数5人、得点86点(1人あたりの満点は、5点×4要素=20点)で10位にランクインするほどで、投票規模は小さすぎる。詳細な採点方法がよくわからないため、ランキングの信頼性は低い。3位ぐらいまでしか参考にならないのでは。

評価できる点は、100作品の内容紹介がされていることと、旬の海外作家30人の丁寧な紹介があること。


No.268 5点 グッバイ・ヒーロー
横関大
(2012/01/31 09:52登録)
主人公の亮太は、面倒見のよい、行動力とリーダシップを備えたビザ配達人。一方のおっさんは、お人よしで、沈着冷静で思慮深く、それでいて大胆な行動もとる運び屋稼業。でもなぜか見た目は冴えないおっさん。
本書は、そんな二人が偶然にも立てこもり事件で知り合って、そこから派生するさらなる事件に立ち向かっていく、友情あり、アクションありの予定調和・ご都合主義エンタテイメント作品です。

本書の魅力は、亮太とおっさんのキャラクタに尽きます。こんな二人のヒーローが組めばおそらく向かうところ敵なしなのでしょう。予定調和も、ご都合主義も止む無しといったところでしょうか。滑らかで厭味のない文章も手伝って、変転多きプロットを気持ちよく、楽しむことができました。

それにしても、横関氏がデビュー第2作でこんなテイストの小説を書くとは驚きです。乱歩賞受賞後第1作だからミステリー的にもっと気合いの入ったものを想像していましたが、早々と箸休めという感じがします。ベテランの推理作家が肩の力を抜いて、老若男女に受けるようにさらりと書いたような作品のように思われました。もちろん、こんな気楽に読める作品でも当然に苦労があるとは思いますが・・・。


No.267 4点 『クロック城』殺人事件
北山猛邦
(2012/01/24 09:51登録)
近未来小説の形式をとった謎解きミステリー。
メイントリックはけっこう好みだったりする。首切りの理由には納得もし、感心もした。
が、中盤がすこし単調なのが難点。館物なので止むを得ない面もあるが、作者はもっと手を変え品を変え、読者を惹き付けておく努力は必要だと思う。
それに、城での連続殺人に、SEEMや十一人委員会などのわけのわからん組織を絡ませて話を大きくするのは、謎解きミステリーに政界や企業、ヤクザが絡んでくる、陳腐な社会派本格ミステリーみたいに見えて、ついてゆけなかった。だから、ラストを少しひねったところで、稚拙に見えるだけで面白みはなかった。


No.266 2点 推理小説
秦建日子
(2012/01/18 16:08登録)
犯人が書いたと思しき推理小説のストーリーに沿って、人が殺されていく。そして、その後の殺人が起こらないようにするために、その小説の続きを3000万円で落札せよとの犯人からの要求。犯人のねらいは、いったい何?
こんなとんでもない謎が示されるので、もしや新型の推理作家の登場かと思わせる感もあります。
しかし、場面と視点がころころ変わるのには辟易します。テンポがよいというよりは支離滅裂感のほうが強すぎて、ついていけません。シナリオ的ということなのでしょうか。しかも、肝心のラストにミステリー的に感動することはありません。
一言で云えば、映像化がすぐにでき、若い人を中心にノリだけで読ませるように書いたケイタイ小説的なミステリー。いいかえれば商業ベースでの成功だけを狙って書いた作品という感じです。
奇をてらいすぎという印象しか残らないから、真のミステリーファンはまず満足しないでしょう。下手クソなのを隠すためにこんな書き方をしたのでは、と勘ぐってしまいます。それに、下手なくせにミステリーへの造詣の深さを披露しようとする態度も感心しません。

シナリオ作家として一人立ちしているとしても、ミステリー作家として、小説家として、もうちょっと修行してから書いたほうがよかったのではと思います。あるいは、下手は下手なりに、新人作家らしく、本格などに絞り込んで真っ向勝負したほうがよかったのではという気もします。
「乱歩賞を狙ったわけじゃない、人の勝手だろ、ほっといてくれ!」と言われそうですね。
(全然関係ない作家さんの話ですが)
まさむねさんが早くも、そのデビュー作から3作目までを読破された横関大氏は、乱歩賞を獲るまでずいぶん時間がかかったようですが、それだけに小説修行も十分にされているようで、デビュー作「再会」はミステリー読者を満足させる文章、プロットになっているように思います。最近読んだ、文章経験が十分にある新人推理作家が書いたデビュー作品同士ということで比較すると(唐突に比較というのも変ですが)、ずいぶん差があるなぁという気がします。

以上、独善的に批評しましたが、もう1作ぐらいは読んでもいいかなという気にもなっています。


No.265 7点 空中ブランコ
奥田英朗
(2012/01/13 14:52登録)
伊良部シリーズ名作短編集。
「空中ブランコ」「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」の全5編。
前短編集「イン・ザ・プール」にくらべると、サーカス団員、ヤクザ、医師、プロ野球選手、作家と、主人公の職種自体が特徴的。お笑い度、感動度(?)は前作以上、ミステリー度は???で同程度。とくに「義父のヅラ」のお笑い度は前代未聞。
新幹線の中で読んだので笑いと涙をこらえるのが大変だった。
しかもラストはクサくなく、実にうまい。
注射するときに伊良部医師が鼻の穴を広げて覗き込む描写が少ないのが、ちょっと物足りなかったかな。伊良部の変態的な表情が目に浮かぶあのシーンが、いちばんのお気に入りです。


No.264 5点 このミステリーがすごい!2012年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2012/01/10 10:12登録)
読書傾向を考えれば本書より祭典サイトのほうが役立つことはまちがいないが、500円とお手ごろだし、雑多なミステリーが紹介されているし、なんといてっても最新情報を仕入れるには最適なので、結局今年も購入しました。
長年続いている隠し玉や我が社の隠し玉、私のベスト6などは、本家の風格が感じられました。でも新たな注目点はなかったですね。

海外ランキングで目を引いたのは、新聞でも書評を読んだ1位の『二流小説家』。ちょっと気になったのが店頭でちらっと見た『犯罪』。翻訳モノはたまにしか読まないので、これらに手を出すのはいつになるかわかりませんが。
国内ランキングで気になったのは、いずれも未読だが、1位の『ジェノサイド』と、22位の『マスカレード・ホテル』。よく行く書店のほとんどで、同時期に新刊コーナーに平積みで並んでいたが、しばらくすると『マスカレード』だけが後方へ追いやられてしまっていた。この現象が『このミス』の順位を物語っているようです。一時期はハードカバーを買う気満々だったが、順位が発表されてしまうと、ランキングが高くても低くてもやめとこうっていう気にもなりますね。なお、文春では『マスカレード』ももっと上位でした。


No.263 5点 殺しの序曲
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2012/01/10 10:01登録)
いつもながらの倒叙ミステリー作品。
犯行手口は冒頭でさらっと開示され、最後で詳細に明かされる、典型的なコロンボ・パターンだった。その手口は緻密な物理トリックで、最後の説明はわかりやすく、なるほどと納得した。犯人はトップレベルのIQを保持する天才タイプで、この犯人とコロンボとの心理戦や、その他の推理合戦はなかなかの見ものだった。
とはいえ、枝葉に懲りすぎた感があり、全体バランスに欠けている。最近読んだ『サーカス殺人事件』のほうがむしろ、小説として味わい深いと思った。それに「傘」という『ロンドンの傘』と同じ小道具を使っているのにも手抜きの感がした。

(以下、原語版の小ネタのネタバレ)
本書(ノベライズ翻訳版)の翻訳者・円谷夏樹氏による解説で、原書(原語版ドラマ)において犯人が最後にコロンボに出したクイズが紹介されていました(ちなみに事件とは関係なし)。
  LEAVE  UNCLE  DELIGHT  ASPHALT
この4単語のうち、仲間はずれ(共通点のないもの)はどれ?

これは日本人には解けないだろうということで、原語ドラマ版の翻訳者・額田やえ子が、日本人向けに変更したということで、原語版のクイズが紹介されていました。ノベライズ翻訳版のクイズはいたって簡単でしたが、英語が苦手で博学でもない私には、この原語版のクイズは全くわかりませんでした。


No.262 6点 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁
島田荘司
(2012/01/05 11:13登録)
古来から継承される正統派アリバイ崩し・社会派風本格ミステリーです。
が、もちろんけっして陳腐ではなく、顔面が剥がされた死体の謎、難解なアリバイ崩しなど、魅力的な本格謎解き要素が含まれています。最後には捻りもあり、謎解き要素と抜群なストーリーテリングとがあいまって、満足感十分な作品に仕上がっています。

気になる点は…
(以下ややネタバレ)

かつて、悪名高き『世界の名探偵50人』(ちなみに私は7点と高得点)で「ノックスの十戒」を初めて知ったときから、十戒の一つである「犯人は物語の初めのほうで登場させておくこと」が、トラウマのごとく頭から離れません。実は、「初めのうちに登場し、かつ登場時間は多くなければならず、しかもキャラが立っていなければならない」と、勝手な拡大解釈もしていました。
その後の読書においても常にそのことを意識していたので、ラストにどんなにすごいサプライズがあっても、上記ルールが守られていなければ、ひっかかってしまい、興醒めすることさえあります。
本書は、興醒めするほどではなかったのですが、そのことが気になりました。最後に明かされるあの人は、比較的早めに登場しますが、登場するページ数も少なく、キャラが立っているとはいえず印象が薄い。短編ならどうってことないですが、長編、とくに本格フーダニット物と謳っているものでは、いまだにそういうことが気になります。
とはいっても、面白すぎて、そんなこと気にもならないってこともあるのですが…


No.261 6点 聞かなかった場所
松本清張
(2011/12/29 14:53登録)
浅井が出張先で妻の突然の死の報せを受ける。死因は心臓発作だが、死んだ場所が妻には縁のないはずの「聞かなかった場所」だった。疑惑を抱いた浅井は独自で調査を行う。そして真相を突き止めた浅井は・・・・・。
清張ならではの、どこにでもいそうな小心者の転落を描いた小説です。
全体的に暗く、じめじめしていて、後味もイマイチ良くない。それでも、ほどほどに感情移入できるのは、さすがです。誰でもこんな状況に陥るかもしれないということが暗示してあります。

清張ミステリは、犯罪者や悪意あるひとたちの心理描写は抜群なんだけど、捜査者がわがもうひとつ印象に残らない。『時間の習俗』に再登場させた刑事が登場する『点と線』でさえも、テレビドラマを鑑賞したからこそ人物像が記憶に残っているが、小説の中の刑事の記憶はおぼろげでしかない。だから清張ミステリーはエンタテイメント小説として万人には推薦できない。これはシリーズ探偵(刑事)をつくらなかったことの功罪なのでしょう。

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