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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2929件

プロフィール| 書評

No.1169 9点 曲った蝶番
ジョン・ディクスン・カー
(2016/05/11 11:24登録)
(ネタバレなしです) カーの作品を読んで現場見取り図が欲しい、と要求不満になったことが何度あることか。1938年発表のフェル博士シリーズ第9作の本書は庭にいる被害者に誰も近づけなかったという不可能犯罪ものなのですが、文章だけでは庭の間取りや登場人物の位置関係がわかりにくく、せっかくの不可能性がぴんときませんでした(私の読解力が平均レベルを大きく下回っているのも要因ですが)。ただそれを差し引いても本書は本格派推理小説の傑作だと思います。このとんでもないトリックは成立条件が極めて特殊なので、そんなの見破れるわけないじゃないかと拒否反応を示す読者も少なくないでしょうけど。二人の財産相続人候補の静かな対決も読み応えありますし、自動人形(現代のロボットとは全然異なります)の演出も巧妙です。もしも本書を映像化したらあの場面やこの場面はどう再現するのかと想像するだけでもわくわくします。


No.1168 6点 魔法人形
マックス・アフォード
(2016/05/10 19:23登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のジェフリー・ブラックバーンシリーズ第3作の本格派推理小説で怪奇色が濃くしたのが特長です。こういう作品を書いているからか作者のことをオーストラリアのカーと評価するむきもあるようですがminiさんのご講評に私も賛同で、カーよりはエラリー・クイーンの某作品を連想しました。確かに死を予告するかのように人形が登場するプロットですが、人形の描写は最低限に留まっているし人形と呪いの薀蓄(うんちく)が語られるわけでもありません。不可能犯罪や怪奇趣味よりもむしろ謎解き小説のツボを心得ていることを評価すべきだと思います。伏線や手掛かりがきちんと配置されて論理的に謎が解かれる本格派推理小説です。


No.1167 6点 月長石
ウィルキー・コリンズ
(2016/05/10 19:08登録)
(ネタバレなしです) 英国のウィリアム・ウィルキー・コリンズ(1824-1889)が1868年に発表された本書は友人であったチャールズ・ディケンズに献呈され、ディケンズが「エドウィン・ドルードの謎」(1870年)を書くきっかけになったとされる、英国最初の長編ミステリーと言われています。名探偵の風格を持ったカッフ部長刑事による捜査と推理があり、ちゃんと謎解きがなされます。但しカッフが一人で真相の全てを見抜くのではなく、幾人かの登場人物がそれぞれ真相の一部を解き明かして最後に全体が見えてくる展開になっているのが特長で、そこはシャーロック・ホームズ型の名探偵による謎解きとは異質です。第一部はやたらと話が脇道にそれて退屈ですが、第二部になると俄然面白くなり一気に読み通せました。階級社会的な言動があったり、事件の再構成に人体実験を行うなど古臭い個所も散見されますが、今読んでも十分に面白い作品です。


No.1166 5点 ポンスン事件
F・W・クロフツ
(2016/05/10 18:49登録)
(ネタバレなしです) 1921年発表の第2長編のアリバイ崩し本格派推理小説です。プロの捜査官であるタナー警部の捜査に対抗させるかのようにアマチュア探偵を登場させているのがいい意味でのアクセントになっています。それでも物語のテンポはゆっくりですが、終盤の追跡劇はなかなかスピーディーでサスペンスに富んでいます(ある意味クロフツらしくない)。デビュー作の「樽」(1920年)にはない工夫を色々織り込んだ意欲作だと思いますが、問題は真相でしょう。堅実な作風のクロフツですが本書では実に大胆なことをやっています。しかしマニア読者なら評価するかもしれませんが、一般的な読者はどちらかといえばお粗末と感じてしまうかもしれません。


No.1165 6点 ゴミと罰
ジル・チャーチル
(2016/05/08 15:24登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ジル・チャーチル(1943-2023)の主婦探偵ジェーン・ジェフリイシリーズ(全16作)は著名な文学作品をもじったタイトルを付けているのが特徴で、1989年のデビュー作である本書(英語原題は「Grime and Punishment」)の場合はドフトエフスキーの「罪と罰」(1866年)を流用しています。但し作品の中身は全く関連がないのでドストエフスキーを未読でも全く支障はありません。ジェーンのアマチュア探偵ぶりがまだ板についておらず、いくら容疑者(顔見知りの近所の主婦一同です)が知り合いだからって「おいおい、そんなことまで尋ねちゃって大丈夫か?」とハラハラさせます。まあそこが新鮮で一番面白いんですけど。コージー派に属する作品ですが謎解き伏線もちゃんと張ってあるし、どんでん返しもあって本格派推理小説の水準は十分保たれています。単にデビュー作として重要なだけでなく、シリーズ全体の中でも良く出来た作品です。


No.1164 7点 螺鈿の四季
ロバート・ファン・ヒューリック
(2016/05/08 15:12登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のディー判事シリーズ第8作で、私は「四季屏風殺人事件」という邦題の中公文庫版で本書を読みました。一つの長編で三つの事件が絡み合うのがシリーズでよく見られる特徴ですが、本書でもディー判事は、「謎の自殺事件」、「漆の四季屏風事件」、そして「だまされやすい商人事件」を鮮やかに解決します(中公文庫版の登場人物リストでは「謎の自殺事件」の替わりに「偽りの弁明事件」と紹介されていますが、どうもぴんと来ません)。しかし本当のクライマックスは三つの事件が解決した後の最終章で、実に強烈な印象を残します。


No.1163 6点 断崖は見ていた
ジョセフィン・ベル
(2016/05/08 15:01登録)
(ネタバレなしです) ジョセフィン・ベル(1897-1987)はニコラス・ブレイクやマイケル・イネスとほぼ同時代に活躍した英国の女性作家で、ウィントリンガム医師とミッチェル警部を探偵役にしたシリーズを中心に40冊以上のミステリーを書いています。CWA(英国推理作家協会)の会長を務めたこともあり、当時の英国ミステリー界ではそれなりの重鎮だったようです。ベルには純粋なサスペンス小説の作品も多いようですが、1938年に書かれたシリーズ第3作の本書は本格派推理小説の代表作とされています。途中はやや単調でサスペンスに乏しいし謎解きとしてもそれほど凝ってはいませんが、最終章ではちょっとした驚きの結末が用意してあります(クリスティーの某作品を先取りしたようなアイデア)。ウィントリンガムとミッチェル警部双方に花を持たせるプロットも上手く処理されています。ウィントリンガムと家族との交流シーンが多く描かれているのが本格派黄金時代の作品としては珍しいように思えます。


No.1162 6点 牧師館の死
ジル・マゴーン
(2016/05/08 14:42登録)
(ネタバレなしです) デビュー作の「パーフェクト・マッチ」(1983年)以来5年振りに書かれたロイド主任警部&ヒル部長刑事シリーズ第2作です。アリバイ捜査が中心なので展開は地味だし、容疑者がわずか4人なので意外な結末もありません。単純な事件ですが容疑者全員が嘘をつくことによって紛糾していきます。嘘は誰かをかばうためなのか、それとも自分をかばうためなのか...。なかなか奥の深いミステリーです。古典的な犯人当て推理小説としての基本を守りながらも家庭内暴力や不倫の愛が描かれているところはまぎれもなく現代的な作品です。牧師館で死体が発見されることからクリスティーの「牧師館の殺人」(1930年)の現代版と評されているようですが、比較することはあまり意味がないように思います。


No.1161 5点 暗い鏡の中に
ヘレン・マクロイ
(2016/05/08 14:00登録)
(ネタバレなしです) 初期作品では正当な本格派推理小説を書いていたマクロイですが、米国での本格派の人気凋落を意識したのかベイジル・ウィリングシリーズであってもサスペンス小説の雰囲気が漂うようになり、中期の代表作として名高い1950年発表のシリーズ第8作はその典型だと思います。ジョン・ディクスン・カーを髣髴させるような怪奇演出が特色で、本格派とサスペンス小説のジャンルミックスとしてはそれなりによく出来ていると思います。ただ解決の付け方はすっきりしないというか、読者によってはベイジル・ウィリングの失敗と解釈する人もいるのではないでしょうか。異色ぶりを高く評価する人もいるでしょうが、ビギナー読者には勧めにくい作品だと思います。


No.1160 8点 メリー・ウィドウの航海
ニコラス・ブレイク
(2016/05/08 10:33登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第13作で、初心者からベテランまで全ての本格派推理小説好き読者にお勧めできる作品です。エーゲ海周遊旅行の観光船で起きた殺人事件を扱った船上ミステリーという珍しい舞台、多彩な人物描写、適度なサスペンス、論理的な推理にちょっとしたどんでん返しと伝統的な犯人当てミステリーのお手本のような作品です。


No.1159 10点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2016/05/08 04:21登録)
(ネタバレなしです) ドアも窓も施錠された部屋で被害者と一緒だった唯一人の容疑者。普通ならこの人が犯人でしょうが、そうでないならこれは密室殺人事件ということになるという、1938年発表のH・M卿シリーズ第7作です。物語のかなりの部分を裁判シーンが占める異色の本格派推理小説ですが、実に見事な出来映えです。H・M卿が弁護士の資格を持っていることは過去の作品でも紹介されていますが、実際に法廷で活躍しているのは本書ぐらいです。密室トリックはトリック紹介本などでネタバラシされるぐらい有名ですが決してトリックだけに頼った作品でなく、法廷シーンがとにかくスリリングで面白いです。法廷で次々に出てくる爆弾証言にある時はハラハラし、ある時は思わず喝采したくなります。密室の謎解きだけでなく、アリバイ表を使った分析などもあってこれぞまさに本格派の謎解きの見本と言える作品です。なおハヤカワミステリ文庫版と創元推理文庫版では添付されている現場見取り図が異なっていますが断然後者の方がわかりやすくてよいです。


No.1158 8点 レイトン・コートの謎
アントニイ・バークリー
(2016/05/08 04:09登録)
(ネタバレなしです) 本格派黄金時代に活躍した作家の中でもひときわ異彩を放っていた英国のアントニイ・バークリー(1893-1971)の1925年発表のデビュー作です。ほぼ同時代に書かれたA・A・ミルンの「赤い館の秘密」(1922年)と似たような展開の物語で、読み比べてみるのも一興かと思います。作風はかなりの違いがあり、ミルンの作品では探偵コンビが協力し合っていますが、本書では時に消極的だったり非協力的だったりと何とも心もとないのが印象的です。密室トリックは大したことありませんがこの時代の作品としては非常に大胆なプロットで、技巧派ぶりを早くも発揮しています。


No.1157 5点 鏡よ、鏡
スタンリイ・エリン
(2016/05/08 02:44登録)
(ネタバレなしです) 米国のスタンリイ・エリン(1916-1986)はジャンル的にはサスペンス小説の書き手、「奇妙な味」のミステリーの書き手として有名です。1972年出版の本書はエリン唯一の本格派推理小説とも言われていますが、クリスティーやカーやクイーンのような本格派を期待してはいけません。物語は「わたし」の視点で描かれていて、この一人称形式というのは本来なら読者が一番感情移入しやすいはずなのに、読むほどに読者は眩暈を感じるでしょう。まるで悪夢か幻想の中のような物語は最後には衝撃的結末へとなだれこみます。そして謎は全て解かれます。犯人も、どうやって誰も入れないはずのアパートに死体が転がっていたのかも、女の素性も、そして不思議なメッセージの意味も。そういう意味では本格派の要素もありますが、謎が解けても悪夢は終わりません。


No.1156 5点 灰王家の怪人
門前典之
(2016/05/08 01:45登録)
(ネタバレなしです) 2011年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。物語の大半は鈴木慶四郎という男の視点(1人称形式)で描かれますが、この描写がしばしば不自然さを伴って回りくどく、読者を混沌に陥れるところは綾辻行人の「人形館の殺人」(1989年)や京極夏彦の「姑獲鳥の夏」(1994年)に通じるところがあるように思います。そのためか(トリックの成立条件がかなり特殊なこともあって)謎解きのすっきり感を得られにくい印象を受けました。


No.1155 7点 お楽しみの埋葬
エドマンド・クリスピン
(2016/05/06 15:41登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表のフェン教授シリーズ第6作となる本書では、クリスピンのユーモアぶりが最大限発揮されています。なぜか議員に立候補したフェンの選挙戦ぶりもユーモアに拍車をかけています。そして終盤の犯人追跡も、スリリングでありながらどこかユーモラス。犯人と警察&フェンだけでなく、人間、倒木、動物、妖精(?)などが入れ替わり立ち替わり追跡劇に巻き込まれて豪華絢爛!本格派推理小説としてもよく出来ていて、第22章の冒頭でフェンが語った解決への糸口が、からみ合った謎を一気に解きほぐしてくれます。


No.1154 7点 死の会計
エマ・レイサン
(2016/05/06 15:01登録)
(ネタバレなしです) 1964年に発表され、1965年のCWA(英国推理作家協会)のシルヴァー・ダガー賞を受賞したジョン・サッチャーシリーズ第3作の本書は企業ミステリーでもありますがそれほど難解ではなく、すがすがしささえ感じさせる結末が心地いいし、謎解きとしてもある種のどんでん返し(着想の逆転といった方がいいかも)が巧さを感じさせます。読みやすいといっても会社勤務を経験していない読者だとこういう作品舞台がなじめやすいかは微妙かもしれませんが、初期代表作と評されるのも納得の1冊だと思います。


No.1153 6点 熱く冷たいアリバイ
エラリイ・クイーン
(2016/05/01 21:54登録)
(ネタバレないです) 米国のフレッチャー・フローラ(1914-1968)はエラリー・クイーン名義での代作3冊を含めても長編ミステリー作品は10作に満たず、短編ミステリーの方は130作を超しています(非ミステリーの通俗小説なども書いているようです)。ミステリー作品は犯罪小説やハードボイルドが多いようですが、1964年にエラリー・クイーン名義で発表した本書は本格派推理小説です(探偵クイーンは登場しません)。原書房版の巻末解説で「思いつきがたまたま的中しただけであって、推理とほど遠い」部分は確かにありますが謎解き伏線はそれなりに張ってありますし、弱点を補ってあまりあるのが登場人物の内面描写と人間ドラマで、少々通俗的ではあるものの味気のないパズル・ストーリーに留まってはいません。アンソニー・バウチャーやF・M・ネヴィンズが好意的に評価したのも納得です。


No.1152 6点 去来氏曰く
島田一男
(2016/04/28 14:10登録)
(ネタバレなしです) 「去来氏曰く」というタイトルで1960年に発表された南郷弁護士シリーズ第7作で、後に「夜の指揮者」に改題されています。作者自身が「ガッチリ、本格物と取ッ組んでみたいと考えた」とコメントしており、このジャンルのシリーズ作品としては第2作の「その灯を消すな」(1957年)以来ということになります(シリーズ第6作の「黒い花束」(1959年)もまあ本格派ではありますが謎解きが結構強引で粗いです)。3つの事件にそれぞれトリックを凝らしてあり(但し光文社文庫版で第1の事件を「密室」と紹介しているのは間違い)、謎解き説明はあっさり気味ですが犯人の深遠謀慮は敢闘賞ものでしょう(しかし細工が過ぎて結局ぼろがでる)。それにしてもこのシリーズ、本格派の作品では南郷の1人称形式、軽ハードボイルドの作品では3人称形式ですが探偵役の1人称と犯人当て謎解きの両立とはなかなか珍しいですね。


No.1151 6点 向うみずな離婚者
E・S・ガードナー
(2016/04/25 02:39登録)
(ネタバレなしです) 1964年発表のペリー・メイスンシリーズ第72作で、メイスンの事務所で(さすがに殺人ではないけど)事件が起きたり、弁護士同士の対決があったりとプロットの工夫が光ります。ただ推理はやや中途半端で、メイスンは被告の無罪を証明はしますが犯人の正体については指摘するまでには至りません。弁護士としての役割はこれで十分果たしたとは言えるでしょうけど、ミステリーの探偵役としては物足りなかったです(ちゃんと最後には事件が解決されていますが)。


No.1150 5点 製材所の秘密
F・W・クロフツ
(2016/04/25 02:32登録)
(ネタバレなしです) 1959年に「サンデー・タイムズ紙」がベストミステリ99を選んだ時にクロフツの作品から選ばれたのが1922年発表の冒険スリラー小説である本書だったそうです。クロフツは1957年に死去しているので全作品が選考対象だったはずですが、なぜ本書がベスト作品として選ばれたのか不思議ですね。多分イギリスでは冒険スリラーの人気が日本人が想像している以上に高いのでしょう。前半はアマチュア探偵のシーモア、後半はプロの捜査官であるウィリス警部が活躍するのですが、それにしても悪役たちのひそひそ話を盗み聞きする場面の多いこと!多少の都合よい展開には目をつぶりますけど、こうも易々と情報筒抜けを許してしまうとは犯人たち、あまりにも杜撰(笑)。

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