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ミステリの祭典

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製材所の秘密

作家 F・W・クロフツ
出版日1957年01月
平均点5.22点
書評数9人

No.9 4点 レッドキング
(2022/07/14 20:42登録)
川沿い林地の製材所で行われている「秘密」。偶然に通りかかったトラックに不審を覚え、真相を探る二人の素人探偵。
曖昧な不審は明確な殺人へと発展し、主役もプロの警部へ引き継がれ・・・そりゃ、違法行為だが、あの殺しなければ大した秘密でもないじゃん。きっかけの不審の真相は皮肉効いててgood。ラストの捕り物大立ち回りも、なかなか。

No.8 6点 弾十六
(2020/03/21 19:24登録)
1922年出版。原題The Pit Prop Syndicate(坑内支柱材組合) 創元文庫で読了。
クロフツさんの長篇第三作。レギュラー探偵のフレンチ警部はまだ登場しませんが、登場するヤードの警部の捜査法は前二作同様、コツコツしつこく確認する方式で、キャラ描写にも工夫がないので名前が違うだけの存在です。『樽』の逆で、まずアマチュアが探り、続いてプロの刑事が捜査する、という構成。冒頭の掴みは素晴らしく、アマチュアが捜査に至る流れも上々なのですが、謎がぼんやりしてて、探る手段も行き当たりばったりで推理味に乏しい。ここでのジャンルが「冒険」になってるのもうなずけます。プロ篇もクライマックスの持ってき方が間違ってる感じ。話の展開はそこそこ面白いんですけどね。(多分誤魔化して配るアイディアを思いついて小説に仕立てたのだろうと思います)
ところで物凄く気になったのが、探索中に一晩中隠れるやり方なんですが、トイレどうするの?って心配で… (欧米人はアジア人に比べて膀胱がデカいという噂だが…)
以下トリビア。原文はGutenbergから入手しました。
現在価値は英国消費者物価指数基準1922/2020(57.20倍)、£1=8116円で換算。
p23 砲弾ショックを受けて(shell-shocked): 当時はそういう若者が多かったのでしょうね。
p26 弱音ペダルの巧みな使用が夢幻的なオルガンの調べにいっそう趣きを添えるように(as the holding down of a soft pedal fills in and supports dreamy organ music): ピアノのペダルには弱音効果があるが、オルガンのペダルは最低音部の鍵盤なので、soft pedalとは言わないはず。
p33 まがい亀(モック・タートル)の物語を聞いたときのアリスの心境:『不思議の国のアリス』より。仔牛肉を使い、青海亀スープ(Green turtle soup)の味を真似たものをMock turtle soupというらしい。(なのでテニエル画では仔牛と亀の合いの子) モック・タートルは物語をちょっと話し始めるが、あとは沈黙ばかりでなかなか先に進まない。柳瀬尚紀訳(1987)では「海亀フー」
p93 色の黒い、角張った顔をしたほう(That's the dark, square-faced one):「黒髪の」
p95 ちっぽけな船に乗り組んで… 月に二十ポンドぽっきり(working a little coaster at twenty quid a month!): 16万円。安月給と考えているようだ。
p112 ロイド船級協会の船名簿(Lloyd's Register): 世界中の100トン以上の船が登録されている本。1764年から毎年刊行されているようだ。クォート版(250x200mm)、一巻2000ページくらい。
p117 ドイツ軍の機関銃陣地(German pill-box): 原文pill-boxはトーチカのこと。第一次大戦時のドイツ軍の機関銃はMG08(1884製マキシム機関銃のちょこっと改良版)
p149 フランスではブランデー1杯が6ペンス、イギリスでは半クラウンだ(A glass of brandy in France costs you sixpence; in England it costs you half-a-crown.): 6ペンス=203円。半クラウンは2.5シリング=30ペンス=1015円。随分と英仏で価格差があるのですね。
p153 支柱材の売値は7000本で四、五千ポンドらしいので、1本0.7ポンド=14シリング(=5681円)。
p197 小型のまがまがしい連発式拳銃(a small deadly-looking repeating pistol): 後の方でリヴォルヴァー(p199, revolver)、自動拳銃(p202, automatic pistol)とあります。多分、自動拳銃が正解でしょうか。32口径かなあ。
p229 自転車用のアセチレン・ランプ(an acetylene bicycle lamp): 1922年の広告で12個$72(=121824円)というのを見つけました。ネジ装具で取り付けるタイプなので外して懐中電灯としても使えるようです。
p221 伝声管(tube): 当時のタクシー写真を探しましたが、残念ながら伝声管が写ってるのは見つかりませんでした。当時は運転席と客席がガラス戸で仕切られており、客が声を掛けるにはガラス戸を開けるか伝声管を使ったものと思われます。1950年代後半までは運転席の左側が荷台になっている面白いデザインです。(左ドアがないので何コレ?と思いました)
p221 一シリング: 406円。運転手へのチップ。やや多めな書きぶり。ピカデリーとポンド・ストリートの角からキングズ・クロス駅までなら現在だと£15.89=2254円。
p226 イングランド銀行発行の5ポンド紙幣2枚、法定紙幣で1ポンド札が9枚と10シリング札が3枚(two five pound Bank of England notes, nine one pound and three ten shilling Treasury notes): 当時英国ではイングランド銀行紙幣と大蔵省(H. M. Treasury)紙幣の二種類が流通していた。Bank of England noteは証券みたいなデザイン(別名White Note、1725-1961)、Treasury noteの方は戦時中の貨幣不足を補うために臨時的に発行(1914-1928)したもので、普通にイメージする紙幣のデザイン。
p229 きわめて小型の自動拳銃(an exceedingly small automatic pistol): 多分25口径。
p232 有名な探偵小説『二輪馬車の秘密』(well-known detective novel The Mystery of the Hansom Cab): ニュージーランド育ちのヒューム作(1886)。現在、私は読書中ですが、これを読んでなくても全く問題ありません。
p252 十シリング: 4058円。大事な頼み事の手間賃。
p255 警部の妙技: この本では大活躍。まあ世間がその程度のレベルだった、という事でしょう。
p367 公衆電話室(telephone call office): 当時は電話が行き渡っておらず、電話ボックスの普及も不十分。(有名な赤い電話ボックスは1926年から) 当時、鉄道駅や大きな商店などの施設に公共用として設置されていたのがtelephone call office。電話はダイヤル無しのキャンドル・スティック型でしょうね。

No.7 5点 クリスティ再読
(2020/01/05 14:47登録)
評者クロフツ苦手だ...黄金期作家なんだけどね、アリバイ崩し嫌いじゃないんだけどね、地味作品好きなんだけどね...
でサンデー・タイムズ紙ベスト99でクロフツで唯一選に入っているのが本作、しかも長いこと未訳(大昔に抄訳があるんだ!創元での完訳初版は1979年)というわけで、「ピット・プロップ・シンジケート」の原題そのままで「幻の名作」みたいな印象を持ってたから、訳がでたら期待して即刻購入した覚えがあるよ。でも本作パズラーじゃないし...
今回再読して思うのは、「ガーヴってクロフツの後継者だったんだね」ということである。ガーヴって一見奇想天外に見えるけど、実のところ健全なリアリズムに則った「小市民のスリラー」が大得意。本作の作品内容なんて、本当にガーヴっぽいんだな。実際の事件にヒントを得たんじゃないか、と思うようなデテールのエッジが効いた犯罪ビジネスが事件の背後にあって、それを恋愛感情に突き動かされた主人公が、ちょっとした違和感から出発して猪突猛進(少なくとも前半はね)。とシリーズ主人公なんて絶対立てないガーヴそのものな話なんだが....
うん、言いたいのはさ、本作の犯罪ビジネスは大変見事なもの(加点1)なんだけど、クロフツの小説技術が下手すぎる、ということになっちゃうんだ。語り口に工夫のあとなんてまったく見受けられないような、ただ叙述をダラダラ時系列で続けているだけ...デテール描写が重要な作品なんだから、細かく描写するのは必要なんだけど、本当にタダの描写で人物のアクションとかとうまく絡めて説明すればいいのに..とか思い続けで歯がゆいったらありゃしない。キャラ描写に生彩があればまだいいんだが、これがクロフツの大苦手で「類型的」という言葉しか当てはまらないキャラだらけ。メリマンの一人称で語らせるとか工夫するだけでも、ずっと印象の違う作品になると思うんだよ。
というわけで本作の最大の感想は「ガーヴ、偉い!」ということ。いかにガーヴが、クロフツやクリスティのイギリス伝統的なスリラーというものを、モダンに裁ち直したのかに、改めて感じ入ることになった。

No.6 5点 nukkam
(2016/04/25 02:32登録)
(ネタバレなしです) 1959年に「サンデー・タイムズ紙」がベストミステリ99を選んだ時にクロフツの作品から選ばれたのが1922年発表の冒険スリラー小説である本書だったそうです。クロフツは1957年に死去しているので全作品が選考対象だったはずですが、なぜ本書がベスト作品として選ばれたのか不思議ですね。多分イギリスでは冒険スリラーの人気が日本人が想像している以上に高いのでしょう。前半はアマチュア探偵のシーモア、後半はプロの捜査官であるウィリス警部が活躍するのですが、それにしても悪役たちのひそひそ話を盗み聞きする場面の多いこと!多少の都合よい展開には目をつぶりますけど、こうも易々と情報筒抜けを許してしまうとは犯人たち、あまりにも杜撰(笑)。

No.5 5点 了然和尚
(2016/01/10 11:16登録)
巻き込まれ主人公の一部と警部による捜査の2部立てになっていますが、捜査にキレがない感じがして、もう一つでした。クロフツは元鉄道技師ということで鉄道トリックは多いのですが、船ものも同じくらい多いですね。最後の犯人追求の段階で鉄道トリックらしい小ネタがちょっと入るのは(図面付きで)サービスでしょうか。
本格ものとして、手がかりを多く示し論理で進めたり消したりするスタイルは、「樽」や本作では希薄なのでクロフツは非本格と思われているかもしれませんが、「死の鉄路」あたり以降の作品では、本作と近いスタイルながら本格ものにもなっていて、作者の技量に感動します。
ビッグ4の中ではなかなか作品が手に入りにくく、古本屋、オークションを日々チェックが欠かせませんねえ。

No.4 6点 斎藤警部
(2015/12/03 07:06登録)
むかし実家の近所に製材所があって、この題名には萌えたもんだ。
後年のフレンチもの「紫の鎌」にも通ずる”何をしているんでしょうか?”の謎を追うストーリー。やってる悪事の内容とトリックは蓋を開けてみると(文字通り?なんちゃって)単純至極だがなかなか強力なワンパンチ。しかし安易に推理クイズ市場に流れそうな超シンプルさ加減ではある。 探偵役が死んで次の人にバトンタッチしたり、なかなか命を賭けた展開。 みんな、ナンバープレートはむやみに付け替えないようにしようぜ! 

No.3 5点 ボナンザ
(2015/08/16 14:18登録)
クロフツ初期の隠れた良作。
冒険小説としての面が強く、クロフツ=アリバイ崩しという図式を持っている人には斬新だろう。

No.2 6点 E-BANKER
(2012/12/06 20:35登録)
1922年に発表された、クロフツの第三長編作品。
処女長編「樽」、第2作「ポンスン事件」に続く作品だが、探偵役は著名なフレンチ警部(警視)ではなくウイリス警部。
最近、創元文庫で復刊されたものを読了。

~商用でフランスに出掛けた旅行中のメリマンは奇妙なトラックに出会った。はじめに道ですれ違った時と、数分後に製材所で見た時とではナンバープレートの番号が違っているのだ。そればかりか、この発見に運転手は敵意に満ちた目で彼を見つめ、製材所の主任は顔を曇らせ、主任の娘はみるまに青ざめたのだ。ここではいったい何が行われているのか?~

これもやはりクロフツらしさ満載の作品と言っていいだろう。
殺人事件こそ発生するものの、作品のメインテーマはずばり「脱税事件」。
紹介文のとおり、ある英国の若者が、旅先のフランス・ボルドーで不思議な製材所とその関係者に出くわすところが出発点。興味を抱いた若者が友人を巻き込み、捜査を進めていくが頓挫するところまでが作品の前段として描かれる。
・・・って、この展開はクロフツの十八番ともいえるもの。
有名な「樽」もそうだし、フレンチ警部登場作品でもたびたびお目にかかる。
要は、素人探偵がある複雑な事件のからくりを解明しようとするのだが中途に終わり、真の探偵役が登場すると瞬く間に真相解明までのスピードが上がっていく・・・という奴だ。

訳者あとがきを読んでると、本作と「樽」のプロットの共通性について言及されている。イギリス・フランスの両国に跨って大きな陰謀が跋扈するという構図は確かに共通しているが、やっぱりスケールでは「樽」に軍配が上がるだろう。
本作は、「謎解き」というよりは探偵たちの冒険譚、サスペンス性が重視されているので、その辺りが好みに合うかどうかというところがあるのだ。

まぁ、でもクロフツらしく一つ一つ丁寧な捜査シーンや盛り上げ方には一定の評価を差し上げたい。
(訳がやや硬い。せっかく復刊したのだから新訳にして欲しかったなぁ・・・)

No.1 5点 kanamori
(2010/07/15 18:04登録)
フレンチが登場しない初期4作の3作目。
クロフツの作風として、英国冒険小説の影響を受けた様なものがいくつかあり、本書もその一つです。
ある青年が旅先で見かけた製材所の怪しげな事象から、危難に巻き込まれるというサスペンス重視のプロットで、捜査小説としてはあまり読みどころがなかった。クロフツの代表作と言われた時期もあったようですが、嗜好的にはハズレでした。

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