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ミステリの祭典

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暗い鏡の中に
ベイジル・ウィリングシリーズ

作家 ヘレン・マクロイ
出版日1955年11月
平均点6.00点
書評数16人

No.16 6点 レッドキング
(2024/09/01 23:05登録)
生霊ホラーとドッペルゲンガートリックと”死せる愛の社交界”ロマンの融合、素晴らしい。

No.15 7点 クリスティ再読
(2022/08/21 09:16登録)
マクロイという作家の立ち位置って結構ややこしい。今回久々に本作を読んだわけだけど、昔ってアメリカのサスペンス派の代表作みたいな扱いを受けてたわけだ。でも最近は本格マニアの間での人気の高い作家に化けてしまった...そういうあたりを本作に即して考えてみたいとも思う。

本作のテーマのドッペルゲンガーって、パズラーのネタとすると合理的な解釈がかなり限られるから、そこでの驚きを追求できるわけではない。だからこそ最後の直接対決で精緻に犯人の行動を再構成していくわけで、そういう精緻さがパズラーマニアにとってのポイントになるんだろう。
とはいえ、単純に「カー風の怪奇趣味」というのもどうか。カーって語り口は上手だが、古いミステリの類型的な展開で一本調子でつまらない。そんなあたりを踏襲するいわれはないから、叙述の視点変化・場面転換や描写を改善した結果、サスペンスに近づいてくる。アメリカのパズラー、という面で言えば「ワイルダー一家の失踪」とかああいったアメリカ新本格の傾向に寄せつつも、小説的な充実感によって「小手先の工夫」という印象をなくした作品、という風に見るのがいいのではないか。

まあもちろん真相が「そんなにうまくいくかよ!」はあるんだけども、それは小説のお約束。咎めても仕方がない。それよりも理不尽な現象とそれによる迫害に悩まされるフォスティーナの苦悩を軸に、姉御肌のギゼラや奔放なアリス、堅物のライトフット校長などの女性キャラに生彩があって、面白い小説になっているのを買うべきだろう。
また女性作家らしく女性のファッションへの観察が行き届いているのがとくに本作では「ミステリとしてのリアリティ」に繋がっているとも思う。

No.14 7点 YMY
(2021/10/03 23:04登録)
一人の人間が同時に二つの場所に出現するという不可能現象を扱っており、合理的に解決するにもかかわらず、幻想的でもある特異な結末に驚かされる。
エレガントな文章が紡ぐ繊細極まる恐怖の世界に魅了された。

No.13 7点 弾十六
(2020/01/12 03:20登録)
同題の短篇版(初出EQMM1948-9、年間コンテスト第二席)を元に[New York] Daily News紙に連載(1949-11-6〜1950-1-15、日曜版?とすると11回分載)、出版1950年。ウィリング第8作。本作もDellのMapbackになっています。
冒頭からの謎が良い。女子校の幽霊話… 興味深い女子内輪ネタが垣間見れられるか… と思ったら、マクロイさんは結構男っぽいので、そーゆー点が薄いのが残念。
発端の謎、中盤の怪奇現象の盛り上げ、過去の因縁話などはJDC/CD風味。若い頃のフランス体験、というのも共通点。ちょいエロ風味はそこから来てるのかも。JDCはマクロイさんをどう評価してたのでしょう。(Webでは拾えませんでした…)
全体的には、事件の解明シーンまで素晴らしかったのですが、最後の最後でコレジャナイ感がありました。最後をあーゆー形にしたいのなら、もっと上手にやって欲しいところ。だいたい殺意の出所が弱い気がするんです…
ところでウィリングは何をグズグズしてたんでしょう。1940年から長いことギゼラをほっといてます。戦争があったから仕方ないのか。
以下、トリビア。原文は入手してません。(2022-8-21追記: 原文入手しました!)
作中時間は、十一月十七日木曜日(p138)と明記。直近は1949年。
現在価値は米国消費者物価指数基準(1949/2020)で10.81倍、1ドル=1179円で換算。
タイトルは『コリント人への第1の手紙』13:12から。
献辞は一人娘クロエに。「春に顔を出す小さな緑の新芽」というのが可愛いですね。(2022-8-21追記: 原文は“For Chloe / ‘Little green shoot that came up in the Spring”)
p91 エミリー・サジェ(Emilie Sagee)◆ 何故か日本語版以外のWikiに項目なし。怪しいなあ…
p108 石鹸会社が人々に気にさせようとさかんに広告で強調している体臭◆ 当時からすでにそう言うやり口だったのですね。
p121 整形手術で頰のたるみを取った◆ お金持ちのご婦人。当時から行われてたのですね。
p122 ラジオで<ギャングバスターズ>を聴いている◆ Gang Busters, 放送1936-1-15〜1957-11-27の警察が活躍する犯罪実話もの。
p124 少女パレアナ◆ Eleanor Hodgman Porter(1868-1920)作の小説Pollyanna(1913)&Pollyanna Grows Up(1915)、後者は「大幅にギャグ要素が追加された恋愛小説」とwikiにある。Pollyannaは、当時米国中の店やホテルの名前になる等のブームとなった。1920年メアリー・ピックフォード主演で映画化。
p124 あしながおじさん◆ Daddy-Long-Legs(1912)、Jean Webster(1876-1916)著。こちらも1919年メアリー・ピックフォード主演で映画化。
p173 世界最古の職業と初めて呼んだのはキプリング◆ wiki “Oldest profession (phrase)”によるとKiplingの短篇On the City Wall (January 1889)のLalun is a member of the most ancient profession in the world. という一節が最初か。(2021-8-21追記: it was Mr Kipling who first called it the “oldest profession in the world”)
p178 二、三万ドル◆ 2300万〜3500万円。
p187 イギリスでいえばローディーン校◆ Roedean Schoolは1885年創設の女子校。
p196 フランスの風変わりな道化芝居◆ これは強烈、そしてとってもフランスらしい。
p205 ディケンズの小説にも“ギャンプ夫人に生き写しの姿”◆ the “very fetch and image of Mrs Gamp”, Martin Chuzzlewit(Chapter XIX)からの引用。
p208 昔の諺… これもまた過ぎゆくものなり◆ 調べつかず。Sic transit gloria mundi (Thus passes the glory of the world)が思い浮かびましたが… (2022-8-21追記: 原文は“old sayings: This, too, will pass . . .”、調べるとWiki ”This too shall pass“ に詳細あり。へえー!)
p215 ロッテルダムやコヴェントリーやヒロシマで◆ German bombing of Rotterdam(1940-5-14)、Coventry Blitz(1940-11-14)、Atomic bombings of Hiroshima(1945-8-6)
p228 三人は1940年からのつきあいなのだ◆ フォイルとギゼラとウィリング『月明かりの男』事件のこと。
p229 コーラ・パール◆ Cora Pearl(1835?-1886) 本名Emma Elizabeth Crouch、英国生まれ。パリで活躍。
p237 ルトゥール・ドートウイユ◆ Retour d'Auteuil? 帽子の名前らしいが調べつかず。(2022-8-21追記: オートゥイユ競馬場からの帰り道、という意味ですね。ここら辺の原文は“a black hat with the uncurled ostrich feathers that were called retour d’Auteuil because women returning from the races in open carriages were once caught in a summer rain… ”)
p238 アンドリュー・マーヴェルの詩◆ Andrew Marvell(1621-1678)、The grave’s a fine and private place, /But none, I think, do there embrace. は1681年出版の詩To His Coy Mistressから。
p238 チップは10セントしか(only… a ten-cent tip)◆ 118円。タクシーの運転手に。
p262 快適に暮らすには最低でも月に1000ドルは必要◆ 118万円。
p263 九千五百ドル◆ 1120万円。
p269 霊媒スラッジ氏◆ Mr. Sludge, “The Medium”、Robert Browningの詩集Dramatis Personae(1864)より。

No.12 7点 あびびび
(2017/12/14 23:21登録)
序盤、中盤と読みごたえは十分だった。自分は通勤と、寝る前の数十分を読書タイムにしているが、いつも本を手に取るのにワクワクした。

確かに結末は予測できないものであり、驚きもなかったが、サスペンスの妙を十分に楽しめた。香り高い佳作と思う。

同じ感覚のカーの「火刑法廷」よりはこちらの方が好みである。

No.11 5点 あい
(2017/06/07 13:37登録)
ストーリーは面白かった。ただ謎の真相があまりにそのままだったのでがっかりした。

No.10 7点 HORNET
(2017/04/08 16:57登録)
 ここまでの書評を読んで、サスペンスと本格が融合しているというのが本作の特徴とのこと。なるほど。ジャンルには疎いというか無頓着なので(作品の追加の時にもいつも困っている(笑))…
 ただ結局、マクロイが基本は本格の作家ということを知っているので、物語の核となる不可思議現象も、はじめから現実的解釈を考えてしまい、サスペンスの雰囲気を味わったとは言い難かった。
 作品は普通に面白かった。真相は、トリックについてはちょっと拍子抜けだったが、それ以上に背後にあった人間関係が面白かった。何気ない場面でそのことの伏線が張られていることも、さすがのお手並みと感じた。

No.9 5点 nukkam
(2016/05/08 14:00登録)
(ネタバレなしです) 初期作品では正当な本格派推理小説を書いていたマクロイですが、米国での本格派の人気凋落を意識したのかベイジル・ウィリングシリーズであってもサスペンス小説の雰囲気が漂うようになり、中期の代表作として名高い1950年発表のシリーズ第8作はその典型だと思います。ジョン・ディクスン・カーを髣髴させるような怪奇演出が特色で、本格派とサスペンス小説のジャンルミックスとしてはそれなりによく出来ていると思います。ただ解決の付け方はすっきりしないというか、読者によってはベイジル・ウィリングの失敗と解釈する人もいるのではないでしょうか。異色ぶりを高く評価する人もいるでしょうが、ビギナー読者には勧めにくい作品だと思います。

No.8 6点 ボナンザ
(2014/07/08 17:51登録)
埋もれていたヘレン・マクロイの傑作が復活したことがまず喜ばしい。
作品自体も傑作とよんで差し支えない。

No.7 6点
(2014/07/07 23:03登録)
再読だから特にそう感じたということを割り引いても、本作はハウダニットとは言えないでしょう。超常現象を起こす方法は、事件の詳細が目撃者によって語られた時点であまりに明らかとしか言えず、むしろ誰がなぜ、ということの方が謎の中心でしょう。
女学校の教員が突然解雇された理由をすぐには説明せず、読者を焦らせるところとか、その教員の以前の職場のことを途中で明かしてみせるタイミングとかは、さすがです。また、匂いに関するアイディアや、超常現象のきっかけなども、なかなかいいと思います。
ベイジル・ウィリング・シリーズの1冊で、ジャンルとしてはサスペンスよりカー系統の本格派と見るべきでしょうね。ただ、その解決部分に盛り込まれた趣向については、某有名作との共通点が、創元版の解説では指摘されているらしいですが、本作はその趣向のためかえって幕切れの鮮やかさに欠けると思いました。

No.6 5点
(2013/05/06 14:26登録)
書き出しは抜群、中盤もなかなかのもの。でも真相にはイマイチ納得いかず。
本格ミステリーとして期待しすぎたわけではありませんが、あまりにも呆気ないというか。。。
とはいえ、この種のテーマだから、最初から真相には期待はしていなかったし、仕方がないようにも思います。そもそもこの種のテーマをはらんだ怪奇性と、論理性とを融合するには無理がありますから。
中途まで楽しめただけでもよろこぶべきでしょう。

「幻のように美しく不可解な謎をはらむ、著者の最高傑作」というキャッチ・フレーズ。
うまくまとめましたね。最高傑作というのはちょっと褒めすぎのようですが。。。

No.5 5点 touko
(2012/01/12 23:08登録)
うーん、もったいぶっていたわりに中味はたいしたことなかったという感想にどうしてもなってしまいます。

ただ古きよき時代のアメリカの風俗等の描写はよかったので、他の作品も読んでみたいと思わせられる筆力はあります。

No.4 6点 E-BANKER
(2011/12/03 21:42登録)
精神科医ウィリング博士が登場する作者の第11長編。
オカルト的題材を扱った有名作。

~ブレアトン女子学院に勤めてまだ間もない女性教師フォスティーナは、校長から突然解雇を申し渡される。理由を尋ねるも、校長は口を濁して語らない。彼女に何の落ち度があったのか。彼女への仕打ちに憤慨した同僚のギゼラと、その恋人で精神科医のウィリングは事情を調べ始めるが、関係者が明かした原因の全貌は想像を絶するものだった。ウィリングは謎の解明に挑むが、その矢先に学院で死者が出てしまう・・・~

なるほど、マクロイっぽい作品だなと思いました。
いわゆる「ドッペルゲンガー」現象を事件の背景に取り込んだことで有名な作品ですが、本格志向の読者にとっては、このトリックや真相ではちょっと不満が残りそうですねぇ。
たまたま同時期に書評した泡坂妻夫の「湖底のまつり」もそうなのですが、要は「取り違え」、簡単にいえば「錯誤」によるトリック。でもちょっと現実的には「ありえないだろっ」的な感想になってしまうわけなのです。
それに、真犯人がここまでオカルト現象の創出に拘った理由が今一つ分からないというのもあるかな・・・

ただ、本作はいわゆるトリックやドンデン返しといった、インパクトの大きさで評価すべき作品ではなく、怪奇性とロジックをうまい具合に融合させた、その美しさを評価すべき作品なのでしょう。
そういう意味では、さすがにマクロイらしい、繊細な筆致や細やかな心理描写を味わえる佳作という評価でもいいんじゃないかな。
(「暗い鏡」というのが象徴的で、なかなかいいね)

No.3 6点 mini
(2011/06/21 09:57登録)
本日21日に創元文庫から駒月雅子の新訳により「暗い鏡の中に」が復刊される
「幽霊の2/3」は元々が創元の自社ものだったんだけど、「暗い鏡」は元々は早川文庫
「暗い鏡」は実はそれほどレアだったってわけじゃなく、一応古書市場で高値は付いていたにしても時々古本屋で見かけたし、実物を見ることすら稀だった「幽霊の2/3」に比べたら遥にレア度は低かった、私も早川版で既読だったくらいだから

さて「暗い鏡の中に」は大変気の毒な作品だと思うのだよな
そもそもさ、マクロイという作家をどう捉えるか
マクロイと言えばさぁ、"アメリカ三大女流サスペンス作家"の1人と喧伝されるけど、あとの2人はマーガレット・ミラーとC・アームストロング
ミラーとアームストロングなら誰が見たってサスペンス作家だけど、マクロイだけは微妙
1950年代がハードボイルドと警察小説の時代だとすれば、1940年代はサスペンス小説の時代である、ウールリッチの活躍もほぼこの頃だし
そこで30年代後半に本格でデビューした作家達がサスペンス調に作風を変化させる風潮があった
英国作家だがE・フェラーズなどもそんな1人だが、アメリカ作家なら代表格がマクロイとなる
従って戦後のマクロイ中期作がサスペンス風本格に転向したのは事実だが、やはり純粋にサスペンス作家かというと違和感は有る、マクロイは根は本格だからね
私は以前から”アメリカ三大女流サスペンス作家”という肩書きからマクロイは外すべきなんじゃないかと思っているのだ
じゃぁ代わりに誰を入れるんだと問われたら、そうだな
大物だったらM・H・クラークなんだがずっと後の時代のデビューだから他の2名と活躍時期が合わない、駄目だ
私的な好みだとヒルダ・ローレンスだけど作品数が少な過ぎるし作風もマクロイ同様本格寄りだし、もう一歩大物感に欠ける
迷った挙句そうだ1人居た、ヴェラ・キャスパリだ、彼女なら活躍時期・作品数・大物感など各要素をクリア
と、話が脱線してしまったので戻そう

「暗い鏡の中に」はネット上の書評を見るに、やれトリックがちゃちだの散々な言われようだけど、この作品に対しトリックだけを抜き出して吟味するのは適当では無いだろう
どうも我が国でのマクロイ評で可哀想に思えてしまうのは、一面で”アメリカ三大女流サスペンス作家”の1人というレッテルを貼られ、その一方で「暗い鏡」に対しては本格としてどうかという観点だけで語られがち
マクロイのサスペンス風作品には初期の作風転換過渡期の作「ひとりで歩く女」もあるが、あれはサスペンス調に話は進むが基本は本格だ
それに比べてマクロイ作品中でも特にサスペンス小説寄りに書かれた中期作「暗い鏡」をトリックだけで語られるのは不公平感は感じるのだよなぁ

No.2 6点 文生
(2010/01/21 13:53登録)
ヒロインのドッペルゲンガーが出没するという怪奇性はなかなかのもの。
しかし、その謎に対する解答はちょっと無理があって、オーソドックスな本格ミステリーとしては失格かなと思うけれど真相をぼやかせることでこの作品をミステリーとオカルトの中間的な作品に仕上げ、その無理をうまく中和している。

ただし、事件の発端となる部分は容疑者がその事実を認めちゃってるからそこに関してはオカルト的解釈はできないんだよな。
あのトリックも突っ込みどころ満載だと思うんだけど。

No.1 5点 こう
(2008/08/17 03:25登録)
 有名なドッペルゲンガーを扱ったミステリです。
女教師が突然赴任早々に解雇を言い渡される。本人も理由が全くわからないが、周囲の人間は彼女が同じ時間に2か所にいるのを目撃し学生、職員が次々に辞めてゆくための処置だとわかる。そして彼女が退職後同僚の女教師が学校で不可解な死亡を遂げ、他の場所にいたはずの彼女を見た、という目撃者があらわれて、というストーリーです。
 ドッペルゲンガーを扱っていることが作品途中で示されておりこれをどうまとめるのかが非常に興味がありましたが明らかにアンフェアな真相でした。
 詳細は控えますが作品中の人物に通用したと説明されても納得できない真相です。またメインキャストの女教師の経歴も事件の鍵となり事前に少し伏線もありますが根本的な真相が実現不可能なため話がうまくつながっていると納得することはできません。前半の部分の雰囲気が良かっただけに残念でした。

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