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ミステリの祭典

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螺鈿の四季
ディー判事 別題『四季屏風殺人事件』

作家 ロバート・ファン・ヒューリック
出版日1999年05月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 nukkam
(2016/05/08 15:12登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のディー判事シリーズ第8作で、私は「四季屏風殺人事件」という邦題の中公文庫版で本書を読みました。一つの長編で三つの事件が絡み合うのがシリーズでよく見られる特徴ですが、本書でもディー判事は、「謎の自殺事件」、「漆の四季屏風事件」、そして「だまされやすい商人事件」を鮮やかに解決します(中公文庫版の登場人物リストでは「謎の自殺事件」の替わりに「偽りの弁明事件」と紹介されていますが、どうもぴんと来ません)。しかし本当のクライマックスは三つの事件が解決した後の最終章で、実に強烈な印象を残します。

No.1 5点 mini
(2010/01/29 10:15登録)
今年はヒューリック生誕100周年で、案外と今年が生誕100周年のミステリー作家は少ない
前期5部作で言うと「黄金」と同じ狄判事の最初の赴任地時代の事件で、州庁会議に出席した後に赴任地へ戻る途中に立ち寄った県で巻き込まれた事件
そこには当然ながら同等の立場の他県の知事が居るので、判事は副官の喬泰と共に客人として非公式の立場で捜査する
今回は馬栄(マーロン)は登場せず喬泰(チャオタイ)だけがお供、ってことは助さん抜きで格さん単独だな

「螺鈿の四季」で早川書房の和邇桃子訳での中短篇集を除く長編の新訳刊行は全部出揃ったことになる
「螺鈿」は後期の中では早い原著刊行順でしかも最初の赴任地での話なのだから、本来はかなり早い段階で新訳を出すべき作だったと思うが、これが最も後回しにされたのは旧訳があったからなのかな
前期5部作には三省堂版などが過去に存在していたが、後期作で他社の旧訳有りはこれだけだったはず、その旧訳である中公文庫版『四季屏風殺人事件』で既読だった読者も居るんじゃないかな、私も古本屋で見かけたけど、新訳が出るはずだからと思って中公文庫版には手を出さなかった
中公文庫で読んだ人の間では名作との噂があったが、いざこうして後期作まで含めた新訳が全作出揃ってしまうとどうだろう、まあ普通の出来なんじゃないかな
中期作の中では最も早い時期の作なので、前期5部作風の三つの事件が一応絡む体裁になっているが、それが上手く機能しておらず個々の事件が印象的に浮かび上がってこない、読者によっては三つ事件が有る事に気付かないかも
またミステリーに怪奇性が必ずしも必要とは思わないが、「螺鈿」はシリーズの特色の一つでもある怪奇色が弱い
それと犯人の正体も基本的には平凡で、平凡過ぎて逆にミスリードなんじゃね?と疑ってしまったくらい
もっとも「白夫人の幻」のように意外性を狙ったが裏目に出て見え透いてしまっているのもあるから一長一短か
「螺鈿」の肝はやはり最終章でのあるサプライズだろうな
ただし最終章で事件そのものがひっくり返るようなドンデンがあるわけでもないので、その手の期待はしないように
最終章である価値判断の印象ががらりと変わるほろ苦い結末となるのだが、まあこの余韻でかろうじて凡作を免れたというところか

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