nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2810件 |
No.2690 | 6点 | 幽霊は殺人がお好き 筑波耕一郎 |
(2023/10/03 07:39登録) (ネタバレなしです) 「オリエント急行よ、止まれ」(1995年)から久しぶりの2001年に発表された本格派推理小説です。筑波孔一郎名義にしたのは初心に帰るつもりだったのでしょうか、しかし本書が筑波の最終作となった模様です。幽霊が出没すると噂の旧家に起きる連続殺人を扱っており、オカルト要素はそれほど濃厚ではありませんがとても読みやすい作品です。小説家で幽霊研究家の夕礼六郎(もちろん本名ではありません)とその女性助手との間に繰り広げられる通俗的な会話は好みは分かれでしょうけど(島田一男の南郷弁護士シリーズみたい)。かなりぎりぎりまで謎が解けないプロットのため解決場面は短くなっており、ここはもう少し演出を盛り込んでもいいのではという気もします。真相はアガサ・クリスティーの1950年代の某作品を連想させますが、色々なトリックを散りばめているところは作者の工夫です。 |
No.2689 | 6点 | 焼きたてマフィンは甘くない リヴィア・J・ウォッシュバーン |
(2023/10/02 13:15登録) (ネタバレなしです) 2010年発表のフィリス・ニューサムシリーズ第5作のコージー派の本格派推理小説で、収穫祭の準備でてんてこまいのフィリスとキャロリン(友人)が飾り用の案山子が奥まった場所に置いてあったのを発見して移動させようとしたところ中身が死体だったという事件の謎解きです。最有力の容疑者として逮捕された被害者の妻が犯人とは思えないフィリスが真犯人を探すことになります。容疑者の数は多くないものの決め手らしい決め手がないまま終盤に突入しますが、キャロリンのちょっとした一言がきっかけであっという間に真相にたどり着きます。推理説明があっさりなので説得力が微妙なところもありますが、一応は消去法で唯一の犯人条件を満たす人を特定してつじつまを合わせた謎解きにしています。 |
No.2688 | 5点 | 脱サラリーマン殺人事件 藤村正太 |
(2023/10/01 05:55登録) (ネタバレなしです) 1978年発表の社会派推理小説です。作中で「現代は"脱"の時代だと学者やマスコミがさわいでいる」と述べられていますが、脱サラリーマンだけでなく脱家庭、脱都会、脱日本など様々な「脱***」が見え隠れしています。タイトルからは想像できませんがトラベルミステリー要素が濃いのも作品個性です。アリバイ崩しがメインになる謎解きは本格派推理小説風で、あともう少しでアリバイが崩せないのですがそのもう少しに大掛かりなトリックが使われていたのに驚きました。1990年代の巨匠作家の作品アイデアを先取りしていたのですね。 |
No.2687 | 5点 | 濡衣を着る男 大谷羊太郎 |
(2023/09/30 01:52登録) (ネタバレなしです) 大谷の作品では前半をサスペンス小説、後半を本格派推理小説という構成の作品がいくつかありますが、1990年発表の本書は主人公が探偵役でないためか彼(と読者)の知らないところで謎解きが進むプロットで、最後までサスペンス小説でした。謎解き伏線を回収しながらの推理説明があれば本格派としても評価できたかと思いますが、後出しの手掛かりに基づく説明に留まっています(個人的には残念)。父親の急死で若くして事業を継いだ主人公は目先の資金繰りに苦しむ羽目になり、資産家の留守宅に侵入して金を盗むことに成功します。それから事業が好転して十年が経過し成功者となった主人公があの事件で身代わりに逮捕されて有罪となった男に何とかして償おうとするのが前半の展開で、大きな事件が起きるのは後半になってからです。作中で主人公が根は善人で世間知らずのお人好しであることが何度も示唆されますが、この作者の人物描写力では読者の共感を得られるかは微妙な気がします(悪人はそれらしく描かれていますけど)。 |
No.2686 | 6点 | 桜島1000キロ殺人空路 本岡類 |
(2023/09/28 08:38登録) (ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。妻は東京で殺され、容疑者の夫は殺害時刻には鹿児島にいたというアリバイが成立します。アリバイ崩しではありますが関係者たちが人徳者と称える容疑者を殺人に走らせるほどの動機があるのかを調べることにプロットの大半が費やされています。犯行現場から遠方の地にいたというアリバイならあらゆる交通手段を丹念にチェックするのが常套だと思いますが、本書はそういう展開にはなりません。その分読みやすくて時刻表が苦手な私にはありがたかったですが、アリバイ崩しが好きな読者の受けは微妙かもしれません。トリックの基本的アイデアはシンプルで、あっさり目のプロットにふさわしいものだと思います。 |
No.2685 | 8点 | 厳冬之棺 孫沁文 |
(2023/09/26 13:50登録) (ネタバレなしです) 中国の孫沁文(スン・チンウェン)(1987年生まれ)は2008年に推理小説家デビューして2021年までに57作の短編を発表していますが何とその内44作で密室の謎解きがあるそうで、これは米国のエドワード・D・ホックを連想しますね。長編第1作となるのが2018年発表の本格派推理小説の本書で、やはり密室の謎解きがあります。天才漫画家の安縝(あんしん)が第6章で「恐ろしい伝説がつきまとう薄暗い屋敷、男児しか生まれない不思議な一族、胎児の形をした怪しい湖、幽霊のような連続殺人犯。漫画にしたら絶対に面白くなりますよ」と興味深々で語ってますが、推理小説としても面白い内容でした。密室の謎も非常に凝っているしトリックも独創的(特に水没密室トリックは漫画化や映像化したらインパクトありそうです)、犯人当てとしても充実の推理を楽しめます。解決後の終章では名探偵役だった安縝をしびれさせる推理が突き付けられ、続編への期待を高めて締めくくられます。 |
No.2684 | 5点 | 村でいちばんの首吊りの木 辻真先 |
(2023/09/23 22:26登録) (ネタバレなしです) 雪さんのご講評で詳しく紹介されていますが、最初のミステリー作品「仮題・中学殺人事件」(1972年)を筆頭に子供向けミステリーが続いた辻真先の最初の大人向けミステリーが1979年発表の中編「村でいちばんの首吊りの木」で、これだけでは単行本には短過ぎるということで1986年に「街でいちばんの幸福な家族」と「島でいちばんの鳴き砂の浜」を追加した短編集として出版されました。実業之日本社文庫版で200ページに満たないコンパクトな短編集で、大人向けであっても読みやすいです。タイトルが「いちばん」で統一されていますが登場人物は共通しません。作者が自薦ベスト5に挙げた「村でいちばんの首吊りの木」は書簡小説スタイルを採用し、右手首を切り落とされた女性の死体と失踪した恋人の事件の謎解きの本格派推理小説ですが、なかなかひねりの効いた真相です。推理でなく自白での解決が個人的にちょっと物足りませんが、地方と都会の違い、親と子の考え方の違いまで描いているのが個性です。独白合戦のプロットの「街でいちばんの幸福な家族」は本格派どころかミステリーかどうかさえ微妙な内容のプロットですが、クリスチアナ・ブランドの短編「メリーゴーランド」をちょっと連想させるどんでん返しが印象的です。「島でいちばんの鳴き砂の浜」は波、家、テントなど非生物を語り手にしているアイデアがオルハン・パムクの「わたしの名は赤」(1998年)を先取りしてユニークですが、やはり自白に頼った真相で終わっています。 |
No.2683 | 5点 | 夜叉神山狐伝説 岩崎正吾 |
(2023/09/21 08:45登録) (ネタバレなしです) 1990年発表の「風よ、緑よ、故郷よ」シリーズ第3作の本書は、あとがきで作者が「ミステリとして形式の違うものを書きながら」と説明しているように過去のシリーズ作とは大きく作風を変えての冒険スリラー小説です。峰の湯へ向かった源じいがいつまでも戻らないので刈谷正雄は探しに跡を追います。源じいは峰の湯には1泊しかしておらず、正雄は山へと踏み込みます。シリーズ第1作の「風よ、緑よ、故郷よ」(1988年)は田園ミステリーと評価されていますが本書は山岳ミステリーで、シリーズ第2作の「恋の森殺人事件」(1989年)以上に山の自然描写に力が入っています。山に出没する連続殺人鬼(正体は最初から明かされます)との対決をサスペンス豊かに描いていますが、里の人間である正雄と山の衆との間に育まれる交流が物語に潤いを与えています。 |
No.2682 | 6点 | 昔むかしの物語 アリサ・クレイグ |
(2023/09/18 19:25登録) (ネタバレなしです) 作者名を伏せたらミステリー作品とは思えない日本語タイトル(英語原題は「The Wrong Rite」)の本書は1992年発表のジェネット&マドック シリーズ第5作で、シリーズ最終作となったコージー派本格派推理小説です。カラドックおじさん(マドックにとっては大伯父)の90歳の誕生日を祝うためにマドックとジェネット、そして2人の赤ん坊も一緒にウエールズへ旅します。舞台描写はほとんどがカラドックの屋敷及び敷地内ですが、ケルト民族の祭礼であるベルテインの準備描写で独特の雰囲気を出しています。殺人事件が起きるミステリーなので(殺人方法がユニークです)、終始祝祭的というわけにはいきませんけど。それにしてもシリーズ第1作の「殺人を一パイント」(1980年)と比べるとジェネットは随分変わりましたね。幸福感に溢れているだけでなく、積極的に会話するようになりマドックを助けて謎解きへの貢献度も上がっています。 |
No.2681 | 6点 | ナイフをひねれば アンソニー・ホロヴィッツ |
(2023/09/17 20:14登録) (ネタバレなしです) 2022年発表のダニエル・ホーソーンシリーズ第4作の本格派推理小説です。ホーソーンとのコンビ解消を宣言するトニーですが、殺人事件に巻き込まれるだけでなく自身が最有力容疑者になってしまって結局ホーソーンを頼ることになります。トニーに目をつけたのが「その裁きは死」(2018年)で恥をかかされたグランショー警部とミルズ巡査で、トニーの窮地を明らかに楽しんでいる様子がいやらしく描かれています。とはいえトニーに不利な状況は明らかなので不当な容疑ではないし、ホーソーンと交わした約束は守ってはいますけど。真犯人は誰かという謎解きだけでなく、誰がなぜどのようにトニーを犯人に仕立てようとしたのかの謎解きもありますが後者についてのホーソーンの推理は鮮やかで印象に残ります。なぜ真犯人に気づいたかについてはやや説明不足の感もありますが、きっちりと伏線を回収して様々な疑問点を余すことなく解き明かしています。 |
No.2680 | 6点 | 化身 愛川晶 |
(2023/09/11 22:38登録) (ネタバレなしです) 谷原秋桜子(たにはらしょうこ)名義でも作品を発表している男性作家の愛川昌(1957年生まれ)の1994年発表のデビュー作の本格派推理小説です。同じ年にはあの京極夏彦もデビューしていますね。ヒロインの女子大生に次々と謎の写真が送られ、調べていくと保育園の誘拐事件が浮かび上がります。自分は誘拐された児童なのか、誘拐犯は両親なのか、展開は非常に地味なのですがヒロインの混乱と疑惑が丁寧に描かれていて退屈しませんでした。ただ苦悩のあまり思考停止までしてしまうので、謎解きも時に停滞気味になるのは諸刃の剣ですね。戸籍に関する謎解きは非常に珍しく、複雑に考え抜かれていますがここは本格派というより社会派推理小説風に感じられました。終盤のどんでん返しが鮮やかで、アレが(ネタバレ防止のため詳細は書きませんけど)1つでなく2つだったのには驚かされました。 |
No.2679 | 5点 | 少女探偵の肖像 スーザン・カンデル |
(2023/09/09 21:02登録) (ネタバレなしです) 2005年発表のシシー・カルーソーシリーズ第2作のコージー派です。伝記作家のシシーが今回取り組んでいるのはキャロリン・キーンです。作中でも説明されていますがキャロリン・キーンは単独作家ではなく複数のゴーストライターによる共同ペンネームで、1930年に第1作が出版された少女探偵ナンシー・ドルーシリーズが現在でも書き続けられています。このゴーストライターの仕組みが世間に知られるようになったのはデビューしてから50年経過した1980年で、ゴーストライター間の揉め事が裁判沙汰にまで発展したからというのを私は本書で知りました。「E・S・ガードナーへの手紙」(2004年)同様にマニアックな知識が随所で披露されていて、ナンシー・ドルーシリーズに興味のない読者だとちょっと辛いかも。シシーが警察や容疑者たちを質問攻めにする一方で「何でそんなことを聞くんだ」と問われるとはぐらかすやり取りはどこかちぐはぐで微妙に読みにくいです。動機については何となく見当がつく謎解き展開ですが、犯人については推理での指摘でないのが個人的にちょっと残念です。 |
No.2678 | 5点 | 逆光のブルース 黒木曜之助 |
(2023/09/09 19:46登録) (ネタバレなしです) 新聞記者出身で1967年に社会派推理小説家としてデビューした黒木曜之助(1928年生まれ)が1970年に発表した本書は桃園書房新書版では本格派推理小説と紹介されていました。演奏中にエキサイトすると意識を失ってステージに卒倒してしまうことで有名な音楽バンドのリードヴォーカルが、武道館でのコンサートで前のめりに倒れてしまいます。警備中の刑事は演出だと思ってましたが実は毒殺されていました。誰がどのようにして殺したのか、有力な容疑者が次々と浮かび上がっては反証のために逮捕にまで至れない展開の連続で読ませる作品です。原爆の被爆者が抱える問題が語られるなど社会派推理小説的な要素もあります。最後のどんでん返しは伏線らしい伏線がなく、唐突で後出し感の強い謎解きになっているのは残念です。 |
No.2677 | 5点 | 処刑台広場の女 マーティン・エドワーズ |
(2023/09/09 08:02登録) (ネタバレなしです) 私が英国のマーティン・エドワーズ(1955年生まれ)を知ったのは評伝「探偵小説の黄金時代」(2005年)が国内で翻訳出版された時です。黄金時代の本格派推理小説は私が1番好きなミステリーですし、当サイトで人並由真さんのご講評を読むとますます読みたい気持ちはありますが未読のミステリー小説を多数抱えている身分のため後回ししている内に2018年発表のレイチェル・サヴァナクシリーズ第1作である本書が翻訳出版されました。作中時代を1930年に設定していることから黄金時代を彷彿させる本格派を期待していたのですが全く違いました。ハヤカワ文庫版の巻末解説では本格ミステリと紹介されてますが、少なくとも読者が犯人当てに挑戦できるタイプの作品ではありません。レイチェルは名探偵の設定ですが捜査や推理している場面はほとんどなく、見つけた犯人を破滅に追い込んでいるのではと疑われる人物として描かれています。事件を捜査している新聞記者や私立探偵も被害者になり、雇われた(らしい)ならず者による暴力場面もあったりしています。はじめはばらばらの単独事件と思わせて後半になると複雑でスケールの大きい悪意が浮かび上がるところはジョン・ディクスン・カーの1940年代の某作品を連想させます。但しカーは本格派向きと思えないネタを謎解き伏線を張って強引に本格派として仕上げましたが、本書は推理でなく主に自白で真相を説明しているスリラー作品として着地しています。 |
No.2676 | 6点 | 殺人オンライン 長井彬 |
(2023/09/05 18:07登録) (ネタバレなしです) 1982年発表の曽我明シリーズ第2作で、デビュー作の「原子炉の蟹」(1981年)では「曾我」表記だった苗字が改められました。発表時には新社会派推理小説と宣伝されていましたが、作中でコンピューター犯罪は1971年に始まりシステム普及につれて件数がうなぎ登りと紹介されていて、オンライン犯罪を扱った本書は当時としてはモダンな作品かと思います。発端は銀行の現金支払機が複数回人為的に攪乱させられる事件です。やがてもっと被害の大きい事件や殺人事件にまで発展します。第4章でコンピューターを使って犯人を割り出せばいいと言う同僚記者に曽我が「コンピューターというやつは人間が教えてやらないと何もできないバカなんだぞ。記憶と計算と制御、この三つの機能しかないんだ」と諫めているのが面白いですね。多少の(当時の)コンピューター用語はありますが理系でない読者にもわかりやすい謎解きです。社会派と本格派推理小説のジャンルミックス型として、コンピューター技術が進歩した現代でも楽しめる内容だと思います。横溝正史の某作品で使われたトリックの応用があったのにはびっくりです。 |
No.2675 | 5点 | ウェッジフィールド館の殺人 エリカ・ルース・ノイバウアー |
(2023/09/05 17:17登録) (ネタバレなしです) 2021年発表のジェーン・ヴンダリーシリーズ第2作の本格派推理小説で、1926年の英国が作品舞台です。第34章で図書室にドロシー・L・セイヤーズの本があることが記述されていますが、この年だとまだ2作目の「雲なす証言」(1926年)が出版されたばかりですね。アガサ・クリスティーの「アクロイド殺害事件」(1926年)は置いてないのかな?前作と同じくレドヴァースとコンビを組んでのアマチュア探偵活動が楽しめます。警察にも顔が利くレドヴァースとは対照的に、警察から捜査に顔を突っ込まないようとの扱いを受けて不満たらたらのジェーンの描写も面白いです。謎解きは推理で伏線を回収というよりは捜査で証言や証拠を集めての解決で、アガサ・クリスティー風の読みやすさで書かれたF・W・クロフツといった感じです。映像映えしそうな追跡劇が印象的です。 |
No.2674 | 5点 | 私立医大殺人事件 幾瀬勝彬 |
(2023/09/03 03:10登録) (ネタバレなしです) 1973年に「死のマークはX」というタイトルで発表され、1977年に「私立医大殺人事件」に改題された推理実験室シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ第1作の「声優密室殺人事件」(旧題「北まくら殺人事件」)(1971年)の人並由真さんのご講評で、雑誌で酷評されて作者が心外だと反論したら酷評の理由を挙げられて恥の上塗りになってしまったと紹介された作品は本書のことらしいです。被害者が残した「X」のようなダイイングメッセージを始め、様々な角度から謎を解こうと推理実験室の6人のメンバーが手分けして推理する展開ですが各自の活躍が均等に描き分けられていてそれなりに面白く読めますし、「声優密室殺人事件」での無意味な官能描写が本書では排除されているのも好ましく感じます。ダイイングメッセージの謎解きは可能性を羅列しただけで中途半端に放り出されたような感もありますし、犯人当てとしては十分な証拠もなしに唐突に解決しているように思いますが。 |
No.2673 | 5点 | 公爵さま、いい質問です リン・メッシーナ |
(2023/09/03 02:19登録) (ネタバレなしです) 2018年発表のベアトリス・ハイドクレアシリーズ第2作です。シリーズ前作の「公爵さまが、あやしいです」(2018年)でベアトリスがでっちあげた恋愛話が家族の注目を浴びてしまい、何とか収束させようとする細工が裏目に出て殺人事件に巻き込まれる展開が面白いです。ベアトリスの内気は随分と改善された感がありますが、代わりにずけずけと毒舌を吐く場面が増えたような(笑)。ケスグレイブ公爵と再会しての探偵コンビ活動も楽しいですが、本格派推理小説としても充実の前作と比べると手掛かりは十分でなくしかも後出し気味での謎解きで、平凡なコージー派ミステリーになってしまった感があるのが個人的には残念です。 |
No.2672 | 6点 | 八角関係 覆面冠者 |
(2023/09/01 22:59登録) (ネタバレなしです) 正体不明の作家によって1951年に雑誌連載されて2023年に初めて単行本化された幻の本格派推理小説です。連載中には愛慾推理小説とか愛慾変態推理小説とか宣伝されていたそうですが、主役である4組の夫婦の間に繰り広げられる乱れに乱れた人間関係がこれでもかとしつこく描かれ、時に謎解きの興味を削いでしまっています。しかし終盤のどんでん返しの謎解きはなかなか気合の入ったもので、特にYの章で説明される足跡トリックはインパクトがあります(無理矢理なトリックですが成立させる伏線をきちんと用意しています)。論創ノベルス版の巻末解説で「噴飯物」と酷評している最後の落としどころも確かに好き嫌いは分かれるでしょうけど強く印象に残ります(しかしこの解説、2回も登場人物の名前を間違えているのはなぜ?)。無難な出来栄えの王道的本格派にはもう飽きた、怪作系でも読んでみるかと考えている読者ならお気に召すかもしれません。 |
No.2671 | 6点 | あの血まみれの男は誰だ? サイモン・ブレット |
(2023/08/31 22:45登録) (ネタバレなしです) シェークスピア劇の「マクベス」が絡む本格派推理小説といえばアレックス・アトキンスンの「チャーリー退場」(1955年)やナイオ・マーシュの「闇が迫る」(1982年)が知られますが、1987年発表のチャールズ・パリスシリーズ第12作の本書もその系列に連なる作品で、タイトルからしてマクベス劇の台詞を引用したものです。すぐに事件が起きるわけではありませんが、無能な演出家や個性の異なる俳優たちが様々な人間ドラマを繰り広げながら上演に向けて稽古を積み重ねていく展開が面白いです。酔いつぶれた挙句に死体発見者となったチャールズが大反省して、何と禁酒して捜査する羽目になるのも読ませどころです。もちろん劇の稽古も続けられ、演劇ミステリーとして最後まで楽しめました。謎解きも伏線のカモフラージュとチャールズが真相に気づくきっかけがよく考えられていると思います。 |