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ミステリの祭典

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疑惑の渦
改題『一本の万年筆ー県立D高校殺人事件ー』

作家 左右田謙
出版日1978年04月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/12/08 18:32登録)
(ネタバレなし)
 その年の十月下旬。千葉県立D高校の三年生が修学旅行を楽しむさなか、学校が在する千葉の地元で、家庭科教師の鳥山安子が絞殺された。現場に残されていた万年筆の頭文字「M・K」から嫌疑は被害者の周辺で唯一そのイニシャルを持つ同僚の国語教師・釘本充に向けられるが、当人は三百人の生徒とともに修学旅行に同道していたという鉄壁のアリバイがあった。やがて被害者の周辺の状況が次第に明らかになり、所轄の木俣刑事、そしてD高校の三年生・宍倉次朗はそれぞれの捜査と調査を進めるが……。

 春陽文庫の1986年9月20日初版の版で読了。エピローグまでで本文は全286頁。次の頁が奥付。
 現状でAmazonにも登録されてない一冊だが、先に読んだ同じ作者の二冊がなかなか手応えがあったので、これもwebで存在を知って興味をもって、取り寄せて読んでみた(春陽文庫以前に、この作品の旧版・旧題版があるのかどうかは知らない)。

 作者おなじみの教育現場の周辺で事件が起きる謎解きパズラーだが、評者が先に読んだ二冊『狂人館の惨劇』(これは学校ものではないが)や『殺人ごっこ(県立S高校事件)』に比べて今回はちょっと不調。それぞれに独自のひねった工夫(少なくともそれらしきもの)があった両作に比べて、悪い意味で本当にフツーの昭和B級パズラーである。
 あえていえば本作の売りは、ある種の専門知識に拠った(中略)トリックのオリジナリティだろうが、今回は良くも悪くもそのネタが見つかったから、長編を一本書いちゃった、という感じが強い。
 犯行の動機とその背後の事情も終盤でいきなり明らかにされるが、そこでの犯人の心情吐露も、大声をあげることで事件そのものの立脚の弱さを糊塗しようという印象。あまりよろしくないね。
 まあ珍しい本だろうから、古本屋で安く出会えたら、購入することはお勧めする。

【2019年2月27日追記】
本日、1978年4月に幻影城ノベルズから出た書下ろし長編『疑惑の渦』が元版で、春陽堂文庫の『一本の万年筆ー県立D高校殺人事件ー』はその改題版だと判明しました。元版は結構、古書店などに出回ってるので、大して珍しい作品じゃなかったですね(汗・涙)。

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