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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2929件

プロフィール| 書評

No.1629 7点 こびと殺人事件
クレイグ・ライス
(2016/08/26 09:39登録)
(ネタバレなしです) 1942年に発表されたマローンシリーズ第6作は本格派推理小説として謎解きのまとまりもよく、本来なら入門編としてお勧めしたいところですが第16章でのヘレンの爆笑せりふは過去の5作品を先に読んでおいた方が楽しさが全然違います。あのせりふはデビュー作の時から構想していたのでしょうか?大勢の登場人物が入り乱れてどたばた劇になっているところは相変わらずですが、結末では一人ずつ小粋に退場させているのが憎い演出です。その中で一番印象に残るのは最後に残ったマローンの場面で、何ともしんみりします。


No.1628 6点 死の舞踏
ヘレン・マクロイ
(2016/08/26 09:07登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ヘレン・マクロイ(1904-1993)は本格派推理小説とサスペンス小説の両分野で傑作を残しています。1938年発表の本書が第1作となるベイジル・ウィリング博士を探偵役にしたシリーズは心理分析を推理に絡めた本格派推理小説です。特に本書はそれが顕著で、心理学に素人の私にはやや難解な面もありますがミステリーとしての面白さにも十分配慮されています。謎解きとしては雪の中から発見された死体が熱を帯びていてまるで熱中症で死んだかのようだったというユニークな謎がありますが、この真相は意外と他愛もありません。またminiさんやkanamoriさんがご講評で指摘されているように手掛かりに英語原文でないとわかりにくいものがあるのはちょっと辛かったです。しかし最終章で明らかになる動機は実に印象的でした。犯罪のきっかけになったある出来事は現代社会特有のものと思ってたのですが既にこの時代にもあったんですね。それだけ米国が世界の先進国だったということなんでしょうが。


No.1627 4点 死んでもいきたいアルプス旅行
マディ・ハンター
(2016/08/26 08:48登録)
(ネタバレなしです) ロマンス作家出身の米国のマディ・ハンターによる2003年発表のエミリー・アンドルーシリーズ第1作です。特徴はまずユーモアとどたばたで、特に第12章はここまでやるのはクレイグ・ライスぐらいではと思わせるはちゃめちゃぶりです。それから観光小説にもなっていて随所で風景描写が見られます。但しどたばたのせいか光景がしみじみと目に浮かぶとまではいきませんでしたけど。ミステリーとしてはあいつも怪しいこいつも怪しいと本格派推理小説の謎解きっぽい場面もありますが解決は(コージー派にありがちの)推理が活きていないパターンなのが残念。あとコージー派としては下半身ネタがやや多いので(過激ではなくユーモアまじりの描写ですが)、優雅に紅茶を飲みながらの読書用としては推薦できないです。


No.1626 5点 杉の柩
アガサ・クリスティー
(2016/08/26 08:36登録)
(ネタバレなしです) 1940年に発表されたエルキュール・ポアロシリーズ第18作ですがハヤカワ文庫版の「文学的探偵小説」という紹介がまさにぴったりの作品です。特に前半部はロマンス小説の香りが強く漂う展開です。ヒロイン役であるエリノアの内心をわざと表に出さないことによってかえって読者に印象づけることに成功していると思います。専門知識が必要な手掛かりがあるので本格派推理小説としての謎解きはあまり高く評価できませんが前年の「そして誰もいなくなった」(1939年)とはまるで異なる作風になっていて、クリスティーの作家としての懐の深さを実感しました。


No.1625 5点 赤い鎧戸のかげで
カーター・ディクスン
(2016/08/26 08:21登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表のH・M卿シリーズ第21作の本書では何とモロッコのタンジールを舞台にしています。珍しくも殺人事件ではなく神出鬼没の怪盗をテーマにしていますが本格派推理小説の謎解きとしては手抜きなし、豊富な手掛かりに基づく推理が楽しめます。但し非常に残念なことが2つあって、第4章の最後で紹介された不可能犯罪がその後は詳細に検討されることもなく風呂敷を広げただけで終わってしまったような印象を残していることと、第15章でのH・M卿の行動があまりにも彼のキャラクターにそぐわず、大幅なイメージダウンになってしまっていることです。


No.1624 6点 寝ぼけた妻
E・S・ガードナー
(2016/08/25 11:25登録)
(ネタバレなしです) 私の読んだハヤカワポケットブック版では本書は1965年の作品と記載されているのに国内初版は1957年と矛盾していました。調べると正解は1945年発表のペリイ・メイスンシリーズ第27作でした。土地の売買とその土地の石油採掘権はどちらの権利が優先されるのかという、ちょっと難解な契約問題で始まりますがこれがメイスンも参加することになるヨット旅行、そして死体なき殺人事件へと発展するといつもの快調なストーリーテリングが楽しめます。非常に手ごわい容疑者が登場して、メイスンの推理を打ち砕くだけでなくメイスン自身までが訴えられるという大ピンチです。(ネタバレなしなので)紹介はここまで、後は読んでのお楽しみです。


No.1623 6点 さまよえる未亡人たち
エリザベス・フェラーズ
(2016/08/25 11:05登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表の本書はフェラーズ流トラベル・ミステリーとでも言いたいような本格派推理小説です。スコットランド旅行中の4人の中年女性グループの1人がホテルで急死するのですが単に犯人は誰かという謎だけでなく本当に被害者が狙われたのかそれとも誤って殺されたのかという謎も提示され、二転三転する推理にさりげない伏線から明らかになる真相とよくできた謎解き作品です。但し終盤はサスペンスに富んだ謎解きになっていますが中盤までは雲をつかむような展開です。容疑者の女性たちの描き分けももう少し深彫りしてほしかったです(自分の読解力のなさは棚上げ)。


No.1622 6点 シャーロック・ホームズの回想
アーサー・コナン・ドイル
(2016/08/25 10:45登録)
(ネタバレなしです) 1892年から1893年にかけて出版された11の短編を収めたシャーロック・ホームズシリーズの第2短編集です。私の読んだハヤカワ文庫版巻末解説によればドイルは当初はホームズの短編をわずか6作しか書くつもりがなかったらしく、それが「シャーロック・ホームズの冒険」(1892年)で12作、さらに1894年出版の本書と続くわけですが世間での人気上昇とは裏腹にホームズシリーズを書き続けることが苦痛になってきたようで、そのせいか本書は「冒険」に比べると作品の質が落ちてきた感は否めません。とはいえホームズが探偵をするようになった背景が紹介されたりホームズの兄マイクロフトが登場しているのでファン読者には見落とせないでしょう。名作中の名作「シルヴァー・ブレイズ号事件」が読めるのも本書のセールスポイントの一つです。なおおっさんさんのご講評で紹介されているように「ボール箱」(1893年)という短編はドイルが当初単行本化を拒否したという経緯があり、国内版では本書に収めているのと「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」(1917年)(ドイルが単行本化を公認)に収めているのとがありますのでこれから購入する場合はダブリに気をつけて下さい。


No.1621 6点 にぎやかな眠り
シャーロット・マクラウド
(2016/08/25 10:22登録)
(ネタバレなしです) カナダ出身で米国に帰化した女性作家シャーロット・マクラウド(1922-2005)はコージー派を代表する人気作家で、本書は1978年に発表したピーター・シャンディ教授シリーズの第1作です。もともとは非ミステリーの短編小説だったものを長編ミステリー化しています(原型短編は短編集「お楽しみが一杯!」(1987年)で読めます)。若い人よりも中高年の登場人物がやたら元気に活躍しているのがこのシリーズの特徴で、ユーモアも豊富です。初期作品のためか本格派推理小説としての謎解き部分にも結構力を入れており、この作者にしてはトリッキーな作品です。


No.1620 5点 影の斜坑
草野唯雄
(2016/08/25 10:09登録)
(ネタバレなしです) 本格派推理小説も書いてはいますがサスペンス小説の名手として名高い草野唯雄(そうのただお)(1915-2008)は鉱業会社出身の作家で、1971年発表の本書は「北の廃坑」(1970年)と共に鉱山経験を活かした初期代表作と評価されています。閉山目前の炭鉱町で密室殺人事件が発生し、本社から派遣された調査官の主人公が推理でトリックの謎解きをしていますが本格派らしさを見せているのはここだけで、鉱山を舞台に悪事を働くグループとその秘密に迫る主人公との対決をメインプロットにしたサスペンス小説です。鉱山や斜陽化している石炭産業の描写には並々ならぬ力が入っており、角川文庫版の巻末解説で紹介されているように社会派推理小説要素も持ち合わせています。ハードボイルドに通じるような荒々しい雰囲気が作品世界と上手くマッチしています。


No.1619 6点 魔女が笑う夜
カーター・ディクスン
(2016/08/24 09:54登録)
(ネタバレなしです) 1950年発表のH・M卿シリーズ第20作にあたる本格派推理小説で、色々な書評でトリックの無茶苦茶ぶりが取り上げられています。面白いことに本書と同年発表の某女性作家の作品でも類似のトリックが使われているのですが、そちらはその作家の代表作として高評価を得ています(無論トリックが誉められているのではありませんが)。トリックメーカーとして評価されている作家は辛いですね(笑)。トリック以外にもファルス(笑劇)ミステリーとしてのどたばたぶりや匿名者の中傷の手紙についての心理分析など読ませるポイントは結構多い作品だと私は思っていますが。


No.1618 5点 落着かぬ赤毛
E・S・ガードナー
(2016/08/24 09:40登録)
(ネタバレなしです) 1954年発表のペリイ・メイスンシリーズ第45作は読者が共感しやすい依頼人(女性)と弱者の味方メイスンという図式のわかりやすい物語です。メイスンの大胆な手腕が捜査陣を大混乱させて楽しいですけど、本当にあれって(結果オーライとはいえ)捜査妨害にならないのかな?謎解きはやや強引というか20章での重要証人(ハヤカワ文庫版の登場人物リストには載っていません)の登場があまりにも唐突な感じがします(名前だけは実は結構早い段階で登場してますが)。まあこのシリーズはスマートなメイスンが描けてればそれでいいのかも(笑)。


No.1617 5点 アメリカ銃の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/08/24 09:29登録)
(ネタバレなしです) 1933年発表の国名シリーズ第6作となる「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説です。大都市ニューヨークの中に西部劇を持ってくるという設定はなかなか面白いアイデアですが登場人物の個性のなさは相変わらずで、カウボーイ、カウガール、女優、ボクサーなど職業的には派手なラインアップなのにまるで印象に残りません。動機がわからなくても犯人を特定できるプロットが多いためか国名シリーズは動機を極端に軽視することがありますが本書はその中でも最悪に近く、思わず「何その動機?」とつぶやきたくなりました。決して駄作ではなく、図解入り解説や意表をつく隠し場所トリックなどの工夫はありますが推理が何度もひっくり返る「ギリシャ棺の秘密」(1932年)や猟奇的連続殺人とスリリングな追跡劇の「エジプト十字架の秘密」(1932年)に比べると「ここが凄い」と言えるだけのセールスポイントに欠けるように思えます。


No.1616 7点 死の殻
ニコラス・ブレイク
(2016/08/24 08:41登録)
(ネタバレなしです) ブレイクのミステリーは文学性豊かと評されることも多いのですが1936年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第2作である本書で早くもその本領を発揮していると思います。後半で語られる冒険記や昔の思い出話には読み手の心に訴えるものがあります。本格派推理小説の謎解きプロットも大変緻密に構成されており、(足跡トリックは大したことありませんけど)心理分析と推理が無理なく両立しているのが評価できます。


No.1615 6点 ブラウン神父の醜聞
G・K・チェスタトン
(2016/08/24 08:35登録)
(ネタバレなしです) ブラウン神父シリーズ第5の、そして最後の短編集である本書を最晩年のチェスタトン(1874-1936)が出版したのは本格派黄金時代の真っ只中の1935年です。この年にはクイーンは国名シリーズ最終作の「スペイン岬の秘密」を、カーは最高傑作といわれる「三つの棺」を、クリスティーも代表作の一つ「ABC殺人事件」を発表しています。本書はそれらと比べると目新しいものは何一つありません。過去のチェスタトン作品と水準的に大差なく、これを「進歩がなく時代遅れ」とネガティブに評価するか「最後まで自分のスタイルに忠実」とポジティブに評価するかは読者の気分次第でしょう(笑)。短編なのに実に次々と事件が起きる「古書の呪い」やある意味他愛もない目的のためにあそこまで凝った準備するアイデアが結構笑えた「とけない問題」が個人的なお気に入りです。なお本書のオリジナル版は8作品から構成されていますが、創元推理文庫版では短編集に未収録だった「村の吸血鬼」(オカルトミステリーかと思ってたら全然違いました)が追加編集されています。


No.1614 6点 死時計
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/23 19:14登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のフェル博士シリーズ第5作の本格派推理小説で作品全体を重く暗い雰囲気が覆っています。この時期によく書いていたオカルト・ミステリーの要素は全くないのですがほとんどの登場人物が悪意を秘めているように描かれていてオカルト・ミステリー以上に息詰まるようなサスペンスを生み出しています。ボナンザさんのご講評で指摘されているように整理が上手くないとか、読者に対してアンフェア気味の箇所が目だってしまったとかの問題もありますが非常に緻密に考えられた謎解きで、中でもフェル博士とハドリー首席警部の二人法廷の場面は本書の白眉ともいうべき面白さです。できれば現場見取り図は添付してほしかったですが。


No.1613 6点 骨と髪
レオ・ブルース
(2016/08/23 19:00登録)
(ネタバレなしです) レオ・ブルースのミステリーはビーフ巡査部長シリーズが大胆なプロットや奇抜な結末など技巧を凝らした本格派、キャロラス・ディーンシリーズはオーソドックスな本格派というのが私のイメージでしたが、1961年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第9作である本書は結構技巧派ぶりを発揮しています。失踪人探しが中心の物語なのでサスペンスには乏しいですが、失踪したラスボーン夫人の容姿が背が高かったり低かったり、太ってたり痩せていたりと証言がバラバラという変わった謎を用意して退屈の一歩手前で何とか踏みとどまっています。


No.1612 7点 火曜クラブ
アガサ・クリスティー
(2016/08/23 18:54登録)
(ネタバレなしです) クリスティーのシリーズ名探偵でエルキュール・ポアロの次に有名なのがミス・マープルで、編み物好きの物静かな老婦人という、まるで名探偵らしくない名探偵です。長編12作と短編20作で活躍していますがシリーズ作品だけでまとめられた短編集は1927年から1931年にかけて発表された13作を収めて1932年に出版された本書のみです。未解決事件または真相が公表されていない事件の謎を火曜クラブに参加した面々が推理する作品が6作、同じ趣向でバントリー家に集まった面々が推理する作品が6作(バントリー夫人が実にいい味出しています)、1作だけは普通に捜査描写のある謎解きです。アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズに影響を与えた作品としても有名な短編集です。初期の短編だけあって内容濃厚な作品が多く、私のお気に入りは神秘的なオカルト・ミステリーの「アスタルテの祠」、ごく普通の行動が謎解きの決め手になった「クリスマスの悲劇」、(推理をちゃんと披露していないのは残念ですが)ユニークきわまりない結末が印象的な「バンガロー事件」です。


No.1611 6点 風の向くまま
ジル・チャーチル
(2016/08/23 18:18登録)
(ネタバレなしです) 1930年代を舞台にしたグレイス&フェイヴァーシリーズの第1作で1999年に出版されました。グレイス&フェイヴァーは人名ではなく、主人公であるロバートとリリーのブルースター兄妹が大伯父からの遺産として相続した屋敷に付けた名前です。チャーチルは(本名名義で)歴史小説も書いているので時代描写に不自然さは感じません。エラリー・クイーンの国名シリーズの読者を意識したかのようにデューセンバーグ(車の名前)を登場させてるのには心をくすぐられました。生活面で色々難題を抱えている中でも前向きに生きているロバートとリリーはなかなかいいキャラクターです。謎解きでは〇〇がXXというのは見抜いていたのですが、それが殺人事件に関係していたとは全く考えていなかった自分が情けなかったです(負け惜しみ)。


No.1610 8点 シャーロック・ホームズの帰還
アーサー・コナン・ドイル
(2016/08/23 18:08登録)
(ネタバレなしです) 13の短編を収容したシャーロック・ホームズシリーズの第三短編集(1905年出版)です。第二短編集「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)中の「最後の事件」で一度はホームズシリーズの筆を折ったドイルですがこれに対する世間の反響がすさまじく、長編「バスカヴィル家の犬」(1902年)と本書に収容されている「空家事件」(1903年)でホームズシリーズを再開しました。「最後の事件」で退場させたホームズを復活させる「空家事件」のストーリーはかなり苦しい出来栄えだと思いますが、またホームズの新作が読めるという喜びの前には些細な問題でしょう。本格派推理小説要素の濃い「ノーウッドの建築業者」や「金ぶち鼻めがね」、暗号小説の傑作「踊る人形」、ユニークな犯罪の「六つのナポレオン胸像」など読み応えある作品が多数揃っています。

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