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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2940件

プロフィール| 書評

No.1640 6点 囁く影
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/29 00:17登録)
(ネタバレなしです) 1946年発表のフェル博士シリーズ第16作は作品全体を覆う暗いトーンと不気味さ、そして悲哀を帯びた結末が印象に残ります。但し「仮面劇場の殺人」(1966年)では本書の意外な後日談が語られていますが。会話中心の展開なのにサスペンスが強烈な地下鉄の場面など演出が巧いです。トリック的には(実際に使われたトリックの流用だそうですが)ロンドンの事件のトリックが珍しいです(読者が解決前に予測するのは難しいと思いますけど)。あと本筋とは関係ありませんが冒頭で紹介されている「殺人クラブ」が結局名前のみの出番だったのはちょっと残念でした。


No.1639 6点 究極の推論
レックス・スタウト
(2016/08/28 02:20登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表のネロ・ウルフシリーズ第24作の本格派推理小説で、ミステリー雑誌「EQ」118号(1997年)で国内紹介されました。家族を誘拐されたという依頼人の登場というのが珍しいですが、身代金を犯人に渡すまではウルフにほとんど情報を提供しないという依頼人の態度が事態をややこしくします。そんな制約下でもウルフはそれなりに手を打って何と誘拐犯の共犯者の目星までつけるところがさすが名探偵です。しかしそこからプロットは二転三転して殺人事件まで発生し、癖のある容疑者たちとのやりとりもあってあっという間に終盤です。推理が容疑者の性格分析に拠るところが多くて説得力はやや弱いですがウルフが容疑者を1人ずつ犯人でないと消去していき、最後に残った容疑者を犯人だと指摘する場面はサスペンスに富んでます。


No.1638 6点 武家屋敷の殺人
小島正樹
(2016/08/28 01:47登録)
(ネタバレなしです) 海老原浩一シリーズの「十三回忌」(2008年)に次いで2009年に発表された那珂邦彦シリーズ第1作の本格派推理小説で、この作者が(謎とトリックの詰め込み方が)「やり過ぎ」という評価が定着した作品と言われてます。講談社文庫版で550ページを越す大作です。第1章で早くも武家屋敷探しと数多くの不可解な謎が解決されるという密度の濃い展開です。ところが第2章では狂気を帯びた犯罪小説風になるのには唖然としました(これはこれで読み応えがあります)。第3章から再び本格派の世界に戻りますが話があちこちに飛んで江戸時代の謎解きまで挿入されたのにはついていくのが大変でした。真相を知ると実に「やり過ぎ」らしく色々な仕掛けがあったことがわかるのですが、そこに至るまでの謎の提示はもう少し整理してほしかったです。


No.1637 6点 チャーリー・チャンの活躍
E・D・ビガーズ
(2016/08/28 01:09登録)
(ネタバレなしです) ニューヨークを出発し各国経由でロス・アンジェルスへ向かう世界一周旅行団の人々が次々に殺されるという派手な展開の1930年発表のチャーリー・チャンシリーズ第5作となる本格派推理小説で、エラリー・クイーンがフェアな謎解きを誉めたことでも知られます。もっともジョン・ディクスン・カーが指摘したように犯人につながる手掛かりがあまりに少ないのは弱点でしょう。とはいえ明快なプロットと連続殺人のサスペンスが相まって読みやすく、チャン警部と部下のカシマとの微笑ましいやりとりもいいアクセントになっています(当人たちは真剣なのかもしれませんが)。


No.1636 5点 翡翠の家
ジャニータ・シェリダン
(2016/08/28 00:54登録)
(ネタバレなしです) 米国のジャニータ・シェリダン(1906-1974)がミステリー作家として活躍したのは1940年代から1950年代で、米国では本格派推理小説の人気が低落していく時期にあたります。ヘレン・マクロイやパトリック・クェンティンなどは作風をサスペンス小説路線に変えて執筆活動を続けましたがシェリダンは早々とミステリー作家としてのキャリアに終止符を打ってしまいました。1949年発表の本書はジャニス・キャメロンシリーズの第1作です。創元推理文庫版では本書をコージー派の本格派として紹介していますが少なくとも前半部はコージー派によく見られる優雅さやユーモアの類は感じられず、むしろジャニスの孤立感が漂うサスペンス小説的な息苦しささえ感じさせます。後半になると雰囲気は多少明るくなり、推理議論などもあって本格派推理小説らしさもでてきますが論理的な解決になってないのは残念。舞台となるアパートの見取り図も欲しかったです。最後はそれまでの展開が嘘のように幸福感溢れる締めくくりになっており、次回作はもっとコージー派らしくなるのかもしれません。それにしても殴られて気絶するシーンが多いのは当時流行していたハードボイルド小説の影響でしょうか?


No.1635 4点 野鳥の会、死体の怪
ドナ・アンドリューズ
(2016/08/28 00:46登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表のメグ・ラングスローシリーズ第2作はどたばたぶりはデビュー作に比べると多少落ち着いた感はあるものの、ユーモア溢れる会話や快調なストーリーテンポは相変わらずのコージー派の本格派に仕上がっています。ただリアリズムにそれほどこだわらない私でもさすがに本書の状況設定には不自然さを感じてしまいました。だってバードウォッチャーがそこらじゅうにいるということは、どこで双眼鏡で見られているかわからないということですよね。そんな中で犯人は敢えて殺人を実行するかなあ。そういう不信感を抱きながら読んでしまったので、前作ほどには無条件で楽しめませんでした。


No.1634 6点 葬儀を終えて
アガサ・クリスティー
(2016/08/27 09:12登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のポアロシリーズ第25作はポアロの出番を控え目にしてアバネシー家の人々が織り成すドラマを中心にしたプロットになっています。謎解きとしても凝っていて、メイントリックにはちょっと無理もあるかなとは思いますがこのトリックが成立することによってある前提条件が大きく変わってしまうのが見事なアイデアです。多くの方がご講評で賞賛されていますがまさにミスリーディングの見本と言えるでしょう。1950年代のクリスティー作品の中で高く評価されているのも納得できます。


No.1633 10点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/27 08:49登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のフェル博士シリーズ第6作で、最高傑作とも評価されることもある本格派推理小説です。これでもかといわんばかりの謎の提示と圧倒的なまでにスケールの大きな謎解きの前にはため息が出るばかりです。確かに問題点も多いです。アンフェアっぽいところもある、ご都合主義もある、証拠として弱い手掛かりもあるなど気になる点がぞろぞろです。これが合わないという読者がいるのも納得です。しかしながらよくぞここまで考えたものだと私は感心しました。完成度の高いミステリーはもちろん大好きですが、本書のように完成度を超越した魅力をたたえた作品も私は大好きです。


No.1632 5点 日本庭園の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/08/27 08:18登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のエラリー・クイーンシリーズ第11作で、日本人が登場して日本の文化風習(作者の勘違いっぽいところもありますがそこはご愛嬌)が紹介されていますが国名シリーズではなく、英語原題は「The Door Between」です。密室状態の現場に被害者と有力容疑者(エヴァ)の二人きりという状況が設定されており、エヴァが無実かどうかに謎解きの重点を置いたストーリーになっていますので伝統的な犯人探し本格派のプロットを期待していると違和感を覚えるかもしれません。(類似例はありますが)珍しい密室トリックが印象的です。(ネタバレぎりぎりですが)でもあの道具では本来の目的の確実性を損ってしまうのではないかという矛盾も感じました。ハードボイルド小説を意識したような私立探偵の登場、ある意味密室トリック以上に大胆なトリック、単なる名探偵役にとどまらなかったエラリーなど意欲作であり問題作でもあります。


No.1631 10点 シャーロック・ホームズの冒険
アーサー・コナン・ドイル
(2016/08/27 07:44登録)
(ネタバレなしです) 私ごときが改めて主張する必要もないのですが仮にもミステリー好きならシャーロック・ホームズシリーズは出来不出来に関係なく全作品読んでおくべきだとは思います。とはいえその中の最高作を推薦するならやはり1892年に出版された第1短編集の本書でしょう。独創的な着想の「赤髪連名」やホラー小説にひけをとらないスリルの「まだらの紐」などの何物にも代え難い古典中の古典ももちろん素晴らしいですし、事件は単純ながらもメロドラマ的面白さがある「独身の貴族」も個人的には好きな作品です。ホームズは皮肉交じりに同情してますがサイモン卿の態度は大変立派だと思います。よく考えるとトリックが相手に通じたのが信じ難い「花婿の正体」も結構お気に入りです。


No.1630 7点 ビロードの爪
E・S・ガードナー
(2016/08/27 07:08登録)
(ネタバレなしです) 米国のE・S・ガードナー(1889-1970)は130冊以上の作品を残した大変な多作家です。350冊以上のカーター・ブラウン、400冊以上のジョルジュ・シムノン、550冊とも600冊ともいわれるジョン・クリーシーなどの怪物的作家もいますけど、ガードナーはほとんどの作品が国内に翻訳紹介されているのが凄いです。82冊も書かれた弁護士ペリイ・メイスンシリーズは依頼人のためには権力にも屈しない姿勢と行動力が描かれてハードボイルド風な要素もありますが過激な暴力シーンやエログロシーンはなく、本格派推理小説の謎解きの面白さも楽しめることが幅広い人気の秘密だと思います。1933年発表の本書は記念すべきシリーズ第1作です。第1作ゆえかメイスンと秘書のデラの信頼関係は後年の作品群と比べると微妙な距離感がありますね。どんでん返しの逆転がシリーズ通じての特徴の一つですが本書は特に印象的、あそこまで決定的だと思われる容疑にまさかあんなひっくり返し方があるのかとびっくりしました。


No.1629 7点 こびと殺人事件
クレイグ・ライス
(2016/08/26 09:39登録)
(ネタバレなしです) 1942年に発表されたマローンシリーズ第6作は本格派推理小説として謎解きのまとまりもよく、本来なら入門編としてお勧めしたいところですが第16章でのヘレンの爆笑せりふは過去の5作品を先に読んでおいた方が楽しさが全然違います。あのせりふはデビュー作の時から構想していたのでしょうか?大勢の登場人物が入り乱れてどたばた劇になっているところは相変わらずですが、結末では一人ずつ小粋に退場させているのが憎い演出です。その中で一番印象に残るのは最後に残ったマローンの場面で、何ともしんみりします。


No.1628 6点 死の舞踏
ヘレン・マクロイ
(2016/08/26 09:07登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ヘレン・マクロイ(1904-1993)は本格派推理小説とサスペンス小説の両分野で傑作を残しています。1938年発表の本書が第1作となるベイジル・ウィリング博士を探偵役にしたシリーズは心理分析を推理に絡めた本格派推理小説です。特に本書はそれが顕著で、心理学に素人の私にはやや難解な面もありますがミステリーとしての面白さにも十分配慮されています。謎解きとしては雪の中から発見された死体が熱を帯びていてまるで熱中症で死んだかのようだったというユニークな謎がありますが、この真相は意外と他愛もありません。またminiさんやkanamoriさんがご講評で指摘されているように手掛かりに英語原文でないとわかりにくいものがあるのはちょっと辛かったです。しかし最終章で明らかになる動機は実に印象的でした。犯罪のきっかけになったある出来事は現代社会特有のものと思ってたのですが既にこの時代にもあったんですね。それだけ米国が世界の先進国だったということなんでしょうが。


No.1627 4点 死んでもいきたいアルプス旅行
マディ・ハンター
(2016/08/26 08:48登録)
(ネタバレなしです) ロマンス作家出身の米国のマディ・ハンターによる2003年発表のエミリー・アンドルーシリーズ第1作です。特徴はまずユーモアとどたばたで、特に第12章はここまでやるのはクレイグ・ライスぐらいではと思わせるはちゃめちゃぶりです。それから観光小説にもなっていて随所で風景描写が見られます。但しどたばたのせいか光景がしみじみと目に浮かぶとまではいきませんでしたけど。ミステリーとしてはあいつも怪しいこいつも怪しいと本格派推理小説の謎解きっぽい場面もありますが解決は(コージー派にありがちの)推理が活きていないパターンなのが残念。あとコージー派としては下半身ネタがやや多いので(過激ではなくユーモアまじりの描写ですが)、優雅に紅茶を飲みながらの読書用としては推薦できないです。


No.1626 5点 杉の柩
アガサ・クリスティー
(2016/08/26 08:36登録)
(ネタバレなしです) 1940年に発表されたエルキュール・ポアロシリーズ第18作ですがハヤカワ文庫版の「文学的探偵小説」という紹介がまさにぴったりの作品です。特に前半部はロマンス小説の香りが強く漂う展開です。ヒロイン役であるエリノアの内心をわざと表に出さないことによってかえって読者に印象づけることに成功していると思います。専門知識が必要な手掛かりがあるので本格派推理小説としての謎解きはあまり高く評価できませんが前年の「そして誰もいなくなった」(1939年)とはまるで異なる作風になっていて、クリスティーの作家としての懐の深さを実感しました。


No.1625 5点 赤い鎧戸のかげで
カーター・ディクスン
(2016/08/26 08:21登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表のH・M卿シリーズ第21作の本書では何とモロッコのタンジールを舞台にしています。珍しくも殺人事件ではなく神出鬼没の怪盗をテーマにしていますが本格派推理小説の謎解きとしては手抜きなし、豊富な手掛かりに基づく推理が楽しめます。但し非常に残念なことが2つあって、第4章の最後で紹介された不可能犯罪がその後は詳細に検討されることもなく風呂敷を広げただけで終わってしまったような印象を残していることと、第15章でのH・M卿の行動があまりにも彼のキャラクターにそぐわず、大幅なイメージダウンになってしまっていることです。


No.1624 6点 寝ぼけた妻
E・S・ガードナー
(2016/08/25 11:25登録)
(ネタバレなしです) 私の読んだハヤカワポケットブック版では本書は1965年の作品と記載されているのに国内初版は1957年と矛盾していました。調べると正解は1945年発表のペリイ・メイスンシリーズ第27作でした。土地の売買とその土地の石油採掘権はどちらの権利が優先されるのかという、ちょっと難解な契約問題で始まりますがこれがメイスンも参加することになるヨット旅行、そして死体なき殺人事件へと発展するといつもの快調なストーリーテリングが楽しめます。非常に手ごわい容疑者が登場して、メイスンの推理を打ち砕くだけでなくメイスン自身までが訴えられるという大ピンチです。(ネタバレなしなので)紹介はここまで、後は読んでのお楽しみです。


No.1623 6点 さまよえる未亡人たち
エリザベス・フェラーズ
(2016/08/25 11:05登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表の本書はフェラーズ流トラベル・ミステリーとでも言いたいような本格派推理小説です。スコットランド旅行中の4人の中年女性グループの1人がホテルで急死するのですが単に犯人は誰かという謎だけでなく本当に被害者が狙われたのかそれとも誤って殺されたのかという謎も提示され、二転三転する推理にさりげない伏線から明らかになる真相とよくできた謎解き作品です。但し終盤はサスペンスに富んだ謎解きになっていますが中盤までは雲をつかむような展開です。容疑者の女性たちの描き分けももう少し深彫りしてほしかったです(自分の読解力のなさは棚上げ)。


No.1622 6点 シャーロック・ホームズの回想
アーサー・コナン・ドイル
(2016/08/25 10:45登録)
(ネタバレなしです) 1892年から1893年にかけて出版された11の短編を収めたシャーロック・ホームズシリーズの第2短編集です。私の読んだハヤカワ文庫版巻末解説によればドイルは当初はホームズの短編をわずか6作しか書くつもりがなかったらしく、それが「シャーロック・ホームズの冒険」(1892年)で12作、さらに1894年出版の本書と続くわけですが世間での人気上昇とは裏腹にホームズシリーズを書き続けることが苦痛になってきたようで、そのせいか本書は「冒険」に比べると作品の質が落ちてきた感は否めません。とはいえホームズが探偵をするようになった背景が紹介されたりホームズの兄マイクロフトが登場しているのでファン読者には見落とせないでしょう。名作中の名作「シルヴァー・ブレイズ号事件」が読めるのも本書のセールスポイントの一つです。なおおっさんさんのご講評で紹介されているように「ボール箱」(1893年)という短編はドイルが当初単行本化を拒否したという経緯があり、国内版では本書に収めているのと「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」(1917年)(ドイルが単行本化を公認)に収めているのとがありますのでこれから購入する場合はダブリに気をつけて下さい。


No.1621 6点 にぎやかな眠り
シャーロット・マクラウド
(2016/08/25 10:22登録)
(ネタバレなしです) カナダ出身で米国に帰化した女性作家シャーロット・マクラウド(1922-2005)はコージー派を代表する人気作家で、本書は1978年に発表したピーター・シャンディ教授シリーズの第1作です。もともとは非ミステリーの短編小説だったものを長編ミステリー化しています(原型短編は短編集「お楽しみが一杯!」(1987年)で読めます)。若い人よりも中高年の登場人物がやたら元気に活躍しているのがこのシリーズの特徴で、ユーモアも豊富です。初期作品のためか本格派推理小説としての謎解き部分にも結構力を入れており、この作者にしてはトリッキーな作品です。

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