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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1872 6点 ディオゲネスは午前三時に笑う
小峰元
(2017/05/04 22:57登録)
(ネタバレなしです) 1976年発表の長編第5作はどこか松本清張の「黒い樹海」(1960年)を連想させる作品です。清張作品では主人公の姉が事故死し、本書では主人公の姉の恋人が事故死します。どちらも事故であることは間違いないこと、姉の行動に謎があり主人公が何があったのかを追求するというプロットが共通しています。清張作品の主人公が大人の女性であるのに対して本書では主人公が男子高校生であるところは大きな違いで、小峰得意の青春本格派推理小説要素が見られます。ユーモラスな場面もありますがかなり悲劇色が濃いのも本書の特徴です。謎解きが終わった後の主人公の(最後の)決断には共感できないという意見も多いかと思いますが人間ドラマとして強い印象を残していることは確かです。


No.1871 6点 灰色の季節 ギョライ先生探偵ノート
梶龍雄
(2017/05/03 12:42登録)
(ネタバレなしです) 「ギョライ先生探偵ノート」という副題を持つ1983年発表の短編集です。作中時代は1940年前後、旧制中学生の正彦が実質的な主人公で登場場面も多く、ギョライ先生(頭が魚雷の弾頭に似ているからつけられた渾名の担当教師)は名探偵役ですが活躍は控え目です。作者が得意とした時代小説要素と青春小説要素を併せ持つ本格派推理小説の短編を6作収めています。謎解きとしては「イソップとドイルと・・・」と「夜から来た女」がまずまず楽しめました。長編作品ほどの奥行きのあるドラマではありませんがそれでも戦争の暗い影が随所でちらつきます。


No.1870 4点 超能力者が多すぎる
パトリック・A・ケリー
(2017/05/02 17:58登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表のハリー・コルダーウッドシリーズ第3作の本格派推理小説です。かつてハリーと敵対関係だった超能力者のオズボーンが窮地に陥ってハリーに助けを求めるのですが、その前にハリーを困らせる嫌がらせをいくつも仕掛けていて人に物を頼む態度とは到底思えません。ハリー、お人よしにも程がありませんか(笑)?メインの事件は私の苦手の一つである失踪事件で、やはりというかなかなか犯罪性が見えてこない展開なのがちょっと辛かったです。しかも失踪した学生やその家族の描写もほとんどないので事件の与えたインパクトも伝わってきません。ハリーの捜査は行き当たりばったり感が強く、真相は説明しますが推理の過程を十分説明していないので本格派推理小説としての謎解きの面白さはあまり感じられませんでした。このシリーズ、全5作中第3作までが翻訳紹介されて後の2作は未訳のままになりましたが、本格派好きの私から見てもあまり残念に感じませんでした。


No.1869 5点 赤の殺意
長井彬
(2017/04/28 10:48登録)
(ネタバレなしです) 作者の生前に出版された短編集としては最後のものとなった1992年発表の第3短編集で、6作品が収められています。「千利休殺意の器」(1989年)や「白馬岳の失踪」(1990年)と違って寄せ集め感が強く、「赤」のタイトルが2作、トラベルミステリー風タイトルが3作、どちらでもないのが1作、各短編の発表時期も1982年から1991年までとばらばらです。いずれも本格派推理小説ですがこの作者は長編の方が力を発揮できるタイプだと思います。トリッキーな作品が多く、平凡なトリックでもトリックを成立させるために細かくフォローしているのは好感が持てますがトリックの謎解きで精一杯で、犯人当てとしてはかなり粗さが目立ってしまいました。特に8章から構成される「赤いスーツの女」で最終章になって初めて「誰この人?」を登場させてはまずいでしょう。好き嫌いは分かれそうですがスリラー色濃厚な結末の「オホーツク殺人事件」が異彩を放っています。


No.1868 5点 移行死体
日影丈吉
(2017/04/26 11:53登録)
(ネタバレなしです) 第6長編の「女の家」(1961年)は個人的にはミステリーに分類するのがためらわれるような内容でしたが、1963年発表の第7長編である本書は間違いなくミステリーです。ただどうも突っ込みどころが多すぎて困った作品でした(笑)。最初は犯罪小説風に幕開けします。ビルオーナーから立ち退きを迫られている2人の住人がオーナーを殺そうとするのですがオーナーが死んだって問題解決が保証されているわけではなく動機として弱いと思います。第4章で「それくらいのことでオレが殺すとは誰も思わないだろう」とコメントしているのには「それくらいのことで殺そうとしてたじゃないか」と切り返したくなりました。しかし犯行の詰めが甘く、被害者の死亡を確認しなかった上に死体が消失、そして思わぬところでの死体発見となり2人が今度は探偵役となって真相を追究する本格派推理小説のプロットになります。もっとも後ろめたい2人が探偵する目的があやふやな上に捜査と推理が(アマチュア探偵とはいえ)あまりにも行き当たりばったりで、巧妙なミスリーディングがあるとはいえ謎解きプロットとしては読みにくかったです。


No.1867 6点 不死蝶
横溝正史
(2017/04/23 22:40登録)
(ネタバレなしです) 1953年に雑誌連載された中編作品を加筆修正して1958年に長編作品として発表された金田一耕助シリーズ第15作の本格派推理小説です。鍾乳洞での殺人を扱っていることから名作「八つ墓村」(1951年)を連想する人もいるでしょうが雰囲気はかなり異なります。和風「ロメオとジュリエット」的な恋愛悲劇と仇討ちをモチーフにしてロマンチックな人間ドラマを意識しています。ミステリーですから冷酷な殺人事件はありますし、結末がハッピーエンドかというと微妙なところではありますが。金田一耕助が激情に駆られる場面があるのが珍しいですね。


No.1866 5点 空っぽの罐
E・S・ガードナー
(2017/04/22 23:10登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のペリー・メイスンシリーズ第19作の本格派推理小説です。もともとスピーディーな展開でサスペンス豊かなのはこのシリーズの特色ですが本書の場合は同じサスペンスといってもかなり異色の部類です。何が待ち構えているかわからない場所へ乗り込むメイスンを描いた第8章や第15章はどちらかといえば冒険スリラー的などきどき感を生み出しています。その15章でのデラの「悪人の陰語」に1番びっくりしました。


No.1865 6点 舞台稽古殺人事件
フランセス&リチャード・ロックリッジ
(2017/04/22 22:22登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のノース夫妻シリーズ第4作の本格派推理小説です。劇場での舞台稽古中に客席で殺人事件が発生します。ウェイガン警部が文字通り分刻みで容疑者たちのアリバイを地道に調べますが殺人時刻がはっきりしないこともあって前半は停滞感が強く、少々退屈に感じるかもしれません。しかしノース夫人のパムの行動が目立つようになる8章あたりからサスペンスが盛り上がります。特に終盤で犯人を(まだ正体を隠しつつ)登場させながら同時に容疑者たちに犯人と同じ行動をとらせて読者に誰が犯人なんだとやきもきさせる演出は出色の出来栄えです。


No.1864 5点 ベルリンの柩
高柳芳夫
(2017/04/19 19:58登録)
(ネタバレなしです) 高柳芳夫はシリーズ作品への関心はそれほど高くなかったように思いますが、その中では4つの短編集で活躍する草葉宗平のシリーズが記憶に残ります。本格派推理小説の作品が多いですが時にはスパイスリラー要素が混じります。草葉はドイツ(当時は西ドイツ)やオーストリアの外交官という設定で、外交官出身の作者ならではのプロットが楽しめます。一般の日本人と比べて東ドイツへの出入国が容易であるなどの外交官特権の描写もありますが、むしろ苦労人描写の場面の方が多いですね。また探偵役として快刀乱麻の活躍を見せるかと言えば必ずしもそうではなく、4つの短編を収めた1981年発表の第1短編集である本書ではどちらかといえば草葉以外の人物のお手柄だったり、国際的な事件ゆえに最後は組織的にうやむやにされてしまったりと主人公としてはやや心もとない面も見せています。等身大の人物として読者の共感を得やすいですが、華やかなヒーローを期待する読者には物足りなく映るかもしれません。


No.1863 6点 渇きと偽り
ジェイン・ハーパー
(2017/04/16 21:53登録)
(ネタバレなしです) イギリス生まれのオーストラリアの女性作家ジェイン・ハーパー(1980年生まれ)の2016年発表のデビュー作が本書ですが、デビュー作ながらとても緻密で完成度の高いプロットに驚きました。20年前に起きた少女の怪死事件で友人ルークのアリバイ証言によって(実は嘘の証言なのですが)警察の容疑が晴れたにもかかわらず町の人々から犯人扱いされて父親と共に故郷を追われたアーロン・フォークが主人公で、ルークが家族を殺して自殺した(らしい)ことがきっかけで再び故郷に戻ります。フォークの捜査は現代の事件と過去の事件が何度も交差しますが無用に読者を混乱させることはありません。依然としてフォークに白い目を向ける人々の存在やオーストラリアならでの干魃によって荒廃した社会の雰囲気が息詰まるようなサスペンスを盛り上げます。本格派推理小説としては犯人指摘がそれほど論理的な謎解き説明でなく、特に20年前の事件については証拠不十分だと思いますが現代の事件でのジル・マゴーンの某作品を連想させるような巧妙なミスリーディングは実に印象的でした。


No.1862 5点 殺意は砂糖の右側に
柄刀一
(2017/04/15 02:39登録)
(ネタバレなしです) 長らく離島で祖父と2人暮らし、その祖父が死去して後見人探しに上京してきた生活力や社会常識については疑問符のつく天才、天地龍之介シリーズの2001年発表のデビュー作が本書です(本書では28歳)。全7章で構成されていますが長編ではなく、各章が独立した物語の第1短編集です。この作者らしくトリック重視の本格派推理小説が揃ってますが一般的な読者には予想しにくい専門知識に頼ったトリックが多いのが難点でしょうか。巻末の作者のあとがきで隠し場所トリックの謎解きの「ダイヤモンドは永遠に」は「黄金期の密室ものの大家が著した傑作へのささやかなオマージュ」として書かれたそうですが、なるほどちょっとしたアレンジとしては悪くはないと思います。しかし「あかずの扉は潮風の中に」の密室に侵入して室内を荒らすトリックはアレンジどころか大家の作品トリックをそのままパクっただけにしか感じられませんでした。


No.1861 5点 浮かんだ男
シャーロット・マクラウド
(2017/04/11 19:37登録)
(ネタバレなしです) おそらくシャーロット・マクラウド(1922-2004)の(アリサ・クレイグ名義作品も含めて)最後の作品となったのが1998年発表のセーラ・ケリングシリーズ第12作の本書です。この作者らしく次から次に色々な出来事が起きますが、シリーズ第1作の「納骨堂の奥に」(1979年)で行方知れずになった宝石が突然見つかることからセーラが当時のことを(決していい思い出ではないのですが)回想することになります。「納骨堂の奥に」では殺人犯が逮捕されて一応の決着を見せてはいますが本書はその後日談の役割を果たしており、シリーズ完結にふさわしいプロットです。作中で「納骨堂の奥に」のネタバレをやっていることからも先にあちらを読んでおくことを勧めます。謎解きは本格派推理小説の推理要素が少なく、ほとんどの真相は犯人自滅によって明らかになります(個人的にはちょっと残念)。


No.1860 6点 盗作・高校殺人事件
辻真先
(2017/04/08 23:03登録)
(ネタバレなしです) 1976年発表のスーパー&ポテトシリーズ第2作の青少年向け本格派推理小説です。松本清張の「高校殺人事件」(1961年)を意識していることが作中でちょっと触れられていますが別に清張作品を「盗作」しているわけではありません(笑)。連作短編集風な構成のシリーズ前作「仮題・中学殺人事件」(1972年)と違いこちらは普通に長編作品となっていますが、幽霊トリックや最初の密室トリックなどいくつかの謎が早い段階で解明される展開は似ていますね。本書も「仮題・中学殺人事件」と同じく大胆な仕掛けを用意していますが「終幕」の説明のインパクトが弱く、蛇足にしか感じられませんでした(私の理解力が弱いんでしょうけど)。個人的には「終幕」の前まで読んだところで終了です。


No.1859 5点 ショック
ハリイ・オルズカー
(2017/04/08 08:20登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表の本書は終盤に推理によって殺人犯が明らかになるので本格派推理小説に分類しても間違いではありませんが、そこに至るまでの展開は典型的なサスペンス小説のプロットです。殺人事件が関係者に与えたショック(英語原題は「Impact」です)の大きさが不安定に揺れ動く心理描写によって読者に伝わってきます。ある者は証拠を隠したりまたある者は嘘の証言をしたりしますが、本当に(かばわれた人物を)無実だと信じての行動なのかはっきりしません。私はジル・マゴーンの「牧師館の死」(1988年)をちょっと連想しました。マゴーンほど重厚ではありませんが暗くひりひりした雰囲気に満ちており、「殺人をしてみませんか」(1958年)や「死の退場」(1959年)の軽妙な作風とはかなり趣が違います。


No.1858 6点 黒猫の三角
森博嗣
(2017/04/06 10:19登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表のVシリーズ第1作です。Vって何のVだったのか最初は全くわかりませんでしたが、シリーズ主人公の1人である瀬在丸紅子が「夢・出会い・魔性」(2000年)でイニシャルをV・Cと自己紹介しており、VenikoのVだったのですね。真相は賛否両論分かれそうで、途方もない動機とか途方もない偶然の成立とかつっこみどころ満載ではありますがE-BANKERさんのご講評で説明されているようにS&Mシリーズが後期になると本格派推理小説としては問題作が増えていったので、新シリーズは果たしてどうなるかと心配していた私としては本書がストレートな謎解き小説であったことにまずはほっとしました。


No.1857 5点 特製チリコンカルネの殺人
ナンシー・ピカード
(2017/04/02 23:13登録)
(ネタバレなしです) 本書のハヤカワ文庫版はナンシー・ピカード(1945年生まれ)の単独執筆作品であるかのような表装ですが、ヴァージニア・リッチ(1914-1985)によるミセス・ポッターシリーズ第4作の未完の遺稿をピカードが完成させて1993年に出版した1種の合作というのが正しいです(詳細は作者による「結びの言葉」で説明されてます)。舞台はアリゾナにあるミセス・ポッターが経営者である1万5千エーカーの牧場で、(メキシコとの国境近くの)南部アメリカの雰囲気が濃厚なのが本書の個性でもあります。タイトルにも使われている27種類の材料のチリコンカルネを筆頭にメキシコ料理描写の数々が作品世界を彩ります。もっともスペイン語と(和訳された)英語がごちゃ混ぜになる会話は凝り過ぎで、物語の流れを妨げ気味ですけど。牧場管理人親子の失踪事件、彼が掴んでいた(らしい)秘密とは何かの謎、そして物語後半にエスカレートする悲劇とサスペンスには優れていますがその一方でコージー派ならではの明るいユーモアは犠牲になっています。リッチの「料理上手は殺しの名人」(1982年)と比べて本格派推理小説の謎解き要素が弱いのも個人的には残念。巻末解説では「アガサ・クリスティーの作品にどこか似ている」と持ち上げていますが、個人的にはいくらなんでも過大評価ではと思います。


No.1856 4点 金色の喪章
佐野洋
(2017/03/26 02:44登録)
(ネタバレなしです) 1964年発表の本格派推理小説です。妻と別居中の大学助教授の紀原が、髪をブロンドに染め英語と日本語両方を操る謎の女性と一夜を共にする関係となりますが、やがて彼女を殺害した容疑者として警察から事情聴取されるプロットです。私の読んだ角川文庫版の巻末解説では文章のわかりやすさを誉めており、「初心者から読み馴れた読者まで誰が読んでも満足する」とまで持ち上げていますが個人的にはかなり疑問に感じます。主人公の紀原(夢遊病の疑惑あり)のキャラクターが捉えどころがなくて読者の共感を得にくい上に人間関係もわかりづらく、決して読みやすい作品ではありません(私の読解力の低さはまあ置いとくとして)。真相説明も回りくどい上に犯行計画がかなりご都合主義的なのも謎解きの魅力を引き下げています(早い段階から大胆な伏線を張ってあることは評価できますけど)。


No.1855 6点 ポッターマック氏の失策
R・オースティン・フリーマン
(2017/03/25 06:50登録)
(ネタバレなしです) 犯人の正体をあらかじめオープンにする倒叙本格派推理小説の創設者として有名なフリーマンですがその種の作品は案外と多くなく、長編2作と短編7作しかありません。1930年発表のソーンダイク博士シリーズ第12作の本書はその希少な長編の1つです。これが倒叙本格派の原典であり、後発のF・W・クロフツやヘンリー・ウエイドがどのような新趣向の倒叙本格派を書いたのかを比較してみるのも面白いかもしれません。長編なので事件が発生するまでをじっくり書くのかと予想していたら意外と早く事件が起き、犯行に至る経緯については中盤での回想シーンで後から語られるという構成を採用しています。事件後のポッターマック氏の犯行隠蔽工作が実に細かく描かれるところはフリーマンならではです。人物描写はどちらかといえば苦手な作者ですが本書では主役であるポッターマック氏の境遇描写に結構力を入れており、読者がどこまで共感できるか(或いは反感を抱くか)によって作品評価が分かれそうです。ソーンダイクのまるで物語を聞かせるかのような終盤の推理説明が不思議なサスペンスを生み出して印象的です。


No.1854 4点 木蓮荘綺譚 伊集院大介の不思議な旅
栗本薫
(2017/03/19 22:33登録)
(ネタバレなしです) 栗本薫(1953-2009)が2008年に発表した「伊集院大介の不思議な旅」という副題を持つ伊集院大介シリーズ第25作でシリーズ最終作となった本格派推理小説です。「旅」といっても近所を散歩している大介が木蓮の花咲く古い家に興味を抱き、そこの住人である老婦人と知り合いとなるプロットで一般的なトラベル・ミステリーとは異なります。過去に起きた1件の幼児殺害事件と2件の幼児失踪事件の影がちらつくところがかろうじてミステリーらしさを醸し出していますが、老婦人のとりとめもない長話を聞かされる大介という場面が非常に多くてそこが冗長に感じる読者も少なくないと思います。その長話を謎解き真相と関連づけているのは巧妙と言えなくもないですけど。余談になりますが私の読んだ講談社文庫版の巻末解説でシリーズ作品リストを付けているのはとても親切だと思いますがなぜかシリーズ第4作の「猫目石」(1984年)が脱けていました。


No.1853 5点 ラスキン・テラスの亡霊
ハリー・カーマイケル
(2017/03/14 19:23登録)
(ネタバレなしです) 1950年代から1970年代にかけて活躍した英国のハードボイルド作家であるハートリー・ハワード(1908-1979)はハリー・カーマイケルという別名義で本格派推理小説を発表しています。ハワード名義で長編44作、カーマイケル名義で長編41作というかなりの多作家です。本書は1953年発表のジョン・バイパー&クインシリーズ第3作の本格派推理小説です。海外本格派推理小説の黄金時代は1920年に始まり第二次世界大戦の終結と共に終わったという説がありますがなるほどカーマイケルの作品はプロットは地味だし文章表現も抑制が効いていてしかもやや暗めで(論創社版の巻末解説では「内省的でウエット」な作風と評価しています)、黄金時代の派手なミステリーとは対照的です。自殺の可能性も十分ある怪死事件を保険会社の調査員であるバイパーが丹念に調べていきます(新聞記者のクインの出番は案外と少ないです)。秘められた悪意を探り出すようなバイパーの尋問と感情の爆発をぎりぎりこらえているような容疑者たちの態度が不思議なサスペンスを生み出しています。謎解き伏線はそれなりに揃っているようですがバイパーが推理の過程をそれほど詳細には説明しないので、謎解きパズル要素を求める読者は少し消化不良を感じるかもしれません。

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