| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2901件 |
| No.1961 | 6点 | 罪の女の涙は青 日下圭介 |
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(2018/01/20 22:07登録) (ネタバレなしです) 「奥飛騨山荘の怪火」という副題を持つ1984年発表の本格派推理小説です。恋人からのプロポースを断って自殺した女性は3人もの人間の命を奪ったと遺書に書き残していました。それを信じられない主人公が真偽を確かめるために事件を調べていくプロットです。講談社ノベルス版で作者は「この物語に登場する者達はほとんど全員が罪人である」と紹介していますがどの証言にも嘘や隠し事らしきものが見え隠れして、何を信じればいいのかもどかしい謎解きが続きます。探偵役の主人公が真相の一部を知りながら最終章までずっと隠していたというのは本格派としては読者に対してアンフェアなように感じますが、感情を抑制した描写ながら悲哀感に満ちた人間ドラマとしてなかなかよく出来ていると思います。 |
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| No.1960 | 5点 | 古都の殺人 高柳芳夫 |
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(2018/01/12 03:55登録) (ネタバレなしです) 法月綸太郎の本格派推理小説「頼子のために」(1990年)がニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」(1938年)の影響のもとに書かれたことは有名ですが、全体の1/5にあたる第1章が殺人を犯そうとする男の日記である1980年発表の本書も「野獣死すべし」を意識して書かれたのではと思います。どんでん返しが連続する謎解きがある本格派推理小説ですが最後の2章を読むと推理が微妙に詰めが甘く、どちらが犯人でもよかったような印象を受けました。もう少し深堀りされた人物描写なら虚しさを残す結末がよりドラマチックになったのではと感じました。 |
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| No.1959 | 5点 | 三つの栓 ロナルド・A・ノックス |
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(2018/01/06 22:15登録) (ネタバレなしです) 本格派推理小説でありながら当時としてはかなり規格外的な異色作の「陸橋殺人事件」(1925年)でデビューしたノックス、その後は保険会社の調査員(本書の論創社版では探偵と表記)であるマイルズ・ブリードンのシリーズを5長編発表します。その第1作が1927年出版の本書ですが何とも風変わりな本格派推理小説です。医者から残された寿命は2年と宣言されたと資産家のモットラムが保険会社に契約の見直しを要求します。保険会社はその要求を拒否しますが今度はモットラムが密室状態の部屋でガス中毒死します。ここまではまあ普通の展開ですが、ブリードンが(保険会社の立場として)自殺ではないかと調査するのが異色です。普通のミステリーは殺人を前提として話が進みますから。リーランド刑事は殺人を疑いますが誰が犯人かを絞り込んでおらず何とも緩い筋運びです。怪しい行動をとる事件関係者がいてようやく進展しますけど。結末は図解入りで説明されるのですがわかりにくく(論創社版の巻末解説の補足説明は助かります)、しかも偶然性の強い真相であったことに不満を覚える読者もいるかもしれません。真相がどうかというよりもどのように決着させるかについては結構配慮されていますが。 |
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| No.1958 | 6点 | 敗者の告白 深木章子 |
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(2018/01/05 22:48登録) (ネタバレなしです) 2014年発表の睦木怜シリーズ第1作の本格派推理小説ですが本書を読んで探偵役の睦木怜がどういう人物なのかはほとんどわかりません。なぜなら非常に独創的な構成の物語で、会話もなければ地の文もないのです。あるのは手記だったり供述書だったり、決して味気ない報告でなくその中で感情の発露や告発もあるのですが全てが一方通行の形で読者に伝えられます。聞き上手の読者なら受け入れられるでしょうし、話し上手の読者だと読んでて窮屈な思いをするかもしれません。アガサ・クリスティーの名作「五匹の子豚」(1943年)でも事件関係者たちの手記が効果的に使われていますが、全編告白と言っていい本書の意欲的な取り組みは一読の価値ありです。 |
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| No.1957 | 5点 | 迷路の花嫁 横溝正史 |
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(2018/01/04 17:18登録) (ネタバレなしです) 1954年から1955年にかけての金田一耕助シリーズは「幽霊男」(1954年)、「三つ首塔」(1955年)、「吸血蛾」(1955年)と本格派推理小説というより通俗スリラー小説に分類すべきではという作品が並ぶのですが、1955年発表のシリーズ第10作である本書もまた異色の作品です。序盤で殺人事件が起きて金田一や警察が捜査に乗り出すところは普通に本格派推理小説風の展開なのですがいつの間にか謎解きは脇に置かれてしまい、主人公の松原(小説家)が悪の心霊術師を退治する物語に置き換わるのです。これがなかなかの読ませ物で、悪人が典型的な弱者いじめ型ということもあってじわじわと追い詰められていく描写にはつい心の中で喝采を贈りたくなります。こちらの物語の方が全体の半分以上を占めており、最後の最後になって唐突に殺人事件が解決されるのですがそういえばそんな事件もあったけなという感じです(笑)。金田一の影が薄い作品なら例えば「八つ墓村」(1951年)もそういう作品ですがあちらはまだ謎解きを放り出してはいません。本書は非ミステリーの物語がメイン(出来もいい)でミステリーはおまけ程度(出来もいまいち)です。 |
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| No.1956 | 4点 | 満潮に乗って アガサ・クリスティー |
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(2018/01/02 06:42登録) (ネタバレなしです) 第二次世界大戦中も安定した創作を続けていたクリスティー、戦時中の作品でも娯楽に徹した作品が多いのですが1948年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第23作の本書は珍しくも戦争の影響が作品背景に見え隠れしている本格派推理小説です。戦中戦後の混乱を巧妙に織り込んだプロットではありますが、りゅうさんや青い車さんのご講評でも指摘されているように複雑に過ぎて読者が完全正解するのは無理ではと思わせる真相なのが辛いです。また本国イギリスでは誰でも知っているのでしょうけどアルフレッド・テニスンの「イノック・アーデン」(1864年)を作品内容の紹介もなしに物語に絡ませているのも個人的には感心できませんでした。せっかく築き上げた重く暗い雰囲気とミスマッチのような幕切れもシリーズ前作の「ホロー荘の殺人」(1946年)と比べると少々見劣りするように思います。 |
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| No.1955 | 7点 | 陽気な容疑者たち 天藤真 |
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(2018/01/01 00:49登録) (ネタバレなしです) 千葉県で開拓農民をしていた天藤真(1915-1983)は高木彬光や鮎川哲也よりも年長ながら作家デビューは遅く作品数も多くはありません。おまけに作風がユーモアミステリーと喧伝されることもあってか知名度では大きく劣ります。しかしその実力は非常に高く、ユーモアの影に複雑な仕掛けを潜ませた作品があります。1963年発表の長編第1作である本書でもその実力は十分に発揮されています。三重密室の中で発見された死体を扱った本格派推理小説ですが、殺人の証拠も自殺の証拠もなく自然死としか考えられません。しかしある人物がこれは殺人だと事件関係者たちを告発してからサスペンスが高まります。真相だけを評価すると感心できない読者もいるかもしれませんが、意外なところに謎解き伏線を忍ばせてあったことに気づかされるプロットは軽妙でありながら計算高いです。 |
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| No.1954 | 6点 | 過去からの声 マーゴット・ベネット |
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(2017/12/30 22:32登録) (ネタバレなしです) 本格派推理小説の名作「飛ばなかった男」(1955年)がCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞(当時はクロスド・レッド・ヘリング賞)の最終候補まで到達しながら惜しくも受賞を逃したベネット、次作である1958年発表の本書で見事受賞に成功します。主人公ナンシーの友人で恋愛経歴の派手なサラが婚約を伝えると同時に過去に関わった男の誰かから殺すと脅かされていると語ります。そしてサラは殺されるのですが、ナンシーの恋人でかつてサラの恋人だったドナルドが死体発見者であったことからナンシーはドナルドをかくまうために探偵役というより事後従犯的な行動に出るという、通常の謎解きプロットパターンから外れる展開を見せます。作者はナンシーのことを「親切でいて容赦がなく、高潔でいて意地が悪い」と評していますが、共感するにしろしないにしろ読者は複雑な性格のナンシーから目が離せません。ナンシーの嘘や証拠隠しのために謎解きがかなり回り道しているところは好き嫌いが分かれるでしょうけど。 |
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| No.1953 | 6点 | 切られた首 クリスチアナ・ブランド |
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(2017/12/30 00:17登録) (ネタバレなしです) 長編作品として2作目にあたる1941年発表の本書は6作の長編といくつかの短編で活躍するコックリル警部シリーズの第1作でもある本格派推理小説です。タイトル通り首を切られる死体が登場するのですが描写はむごたらしさを感じさせません。首切り手段はさりげない説明ながら印象的でしたし、巧妙なミスディレクションもあります。但しブランドの後年の作品を先に読んでいた立場から言わせてもらいますと、本書はブランドならではの謎解きの切れ味がまだ散発的です。コックリル警部が事件関係者と以前からの知り合いだったという設定も上手く活かされていないし、暗く不気味な雰囲気の中に性格の明るい登場人物を配しているのも(容疑者という立場なので難しいところもあるのですけど)十分な対照効果を上げてはいないように感じます。本格派の良作と評価するには値する作品ですが、ブランドの真の実力が発揮されるのはやはり次作の「緑は危険」(1944年)からだと思います。 |
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| No.1952 | 5点 | いつ殺される 楠田匡介 |
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(2017/12/24 00:32登録) (ネタバレなしです) 作者は「模型人形殺人事件」(1949年)を忘れてしまったのか「あとがき」でなぜか「初めての長編」と紹介している1957年発表の本格派推理小説です。田名網警部シリーズ第2作でもありますが彼の登場は物語の中盤からで、しかも探偵役としては他の人物の方が目立っています。大金を横領した役人が恋人と心中して病院の四号室に担ぎ込まれ男は死亡、女は病室から失踪して後に水死体となって発見されます。その後この病院では幽霊の目撃、自殺事件、トイレからの人間(幽霊?)消失、備品の盗難などが相次ぎ、四号室に入院していた作家の津野田は妻の悦子や友人の石毛警部と共に謎を解こうとします。力作ではありますが整理が上手くできておらずプロットが散漫に感じられます。トリックメーカーとして名高い作者らしさも十分に発揮されてはいますが、謎がとらえどころがないためか説明されてもいまひとつすっきり感を得られませんでした(病院の見取り図は欲しかった)。でも第10章のスリラー色濃い雰囲気や最終章での探偵役と犯人との息詰まるような舌戦など随所で印象的な場面があります。 |
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| No.1951 | 4点 | ロシアン・ティーと皇帝の至宝 ローラ・チャイルズ |
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(2017/12/22 09:35登録) (ネタバレなしです) 2016年発表の「お茶と探偵」シリーズ第17作のコージー派ミステリーで、英語原題の「Devonshire Scream」は12章でドレイトンが説明しているデヴォンシャー・クリームにひっかけています。扱われているのは普通の殺人事件ではなく宝石強盗です(しかも集団犯行)。巻き添えで死者も出ますが被害者は登場人物リストに載せてもらえないというあまりな仕打ちです。とてもアマチュア探偵が手を出すような事件に思えないところは「アール・グレイと消えた首飾り」(2003年)を髣髴させますが、セオドシアは根拠薄弱な理由で容疑者を増やしていきます。FBIまで捜査に参加しますが、これに不満なティドウェル刑事がいつになくセオドシアに協力的な態度ですね(笑)。盗み聞きに家宅不法侵入と違法な捜査を繰り返すセオドシア、最後はおとり捜査まがいのことまでやってます。今回はとても名探偵とは思えませんが、それでも事件が解決されるのはとてつもない強運なのか犯人グループがあまりにお馬鹿なのでしょうか(ほとぼりが冷めるのを待つことができないのか)? |
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| No.1950 | 5点 | イフからの手紙 湯川薫 |
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(2017/12/16 08:54登録) (ネタバレなしです) 2000年発表の湯川幸四郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。多くの謎が提示されますが墜落したはずの人間が消える、電車が消える(しかも時刻表に載っていないという、登場からして謎めいてます)、沼が消えるなど消失事件が印象的です。秘境めいた地方を舞台として主人公たちによそよそしい村人たちを登場させているのがこれまでの作品にない特徴ですが、人物描写や雰囲気描写があっさり過ぎなのは少々惜しいですね。その分洗練されて読みやすいとも言えますけど。2つのメイントリックはミステリー的に時代遅れのトリックではと思わせるものですが、科学的な考証を加えることによって成立可能ではという説得力を強めています。ただ5章で説明されるトリックは図解が欲しかったし、6章で説明される(エラリー・クイーンの某作品を連想させる)トリックについては成立条件が特殊な上に隠された動機とも関連しており、読者が事前に予測できそうには到底思えませんでした。 |
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| No.1949 | 5点 | コルト拳銃の謎 フランク・グルーバー |
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(2017/12/12 10:17登録) (ネタバレなしです) 1941年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第4作のユーモアハードボイルドです。このコンビはいつだって生活苦がつきまとうのですが、特に本書では上手く大金を稼ぐ場面もあるけれど次から次へと金を支払う羽目になってその自転車操業ぶりが印象的です。厳冬の寒さが身にしみてもいるのですが、それでもこの作者ですからそれほどシリアスには感じませんけど。ある人物をこらしめてほしいと(もちろん報酬付きで)依頼された2人が成功の証拠としてコルト拳銃を奪い取るのですが、これが殺人事件の凶器らしくなったことから(そして当然2人は容疑者となります)どたばたが始まります。しかもこの拳銃、実在した伝説のガンマン、ジェッシイ・ジェームズ(1847-1882、世界初の銀行強盗犯だそうです)の遺品らしいことからプロットがますます複雑化し、さらには13章で作中作まで登場します(何と執筆者はサム・クラッグ)。それでも軽快なテンポでどんどん読ませます。犯人当て本格派推理小説としても読めますが推理が粗いのは残念(事前の手掛かりが不十分)。それもこのシリーズらしいのではありますが。 |
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| No.1948 | 5点 | 木乃伊の仮面 下村明 |
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(2017/12/09 17:23登録) (ネタバレなしです) 1962年に発表された本格派推理小説で、わずか1年後に「花の遠景」という全く異なる印象のタイトルに改題されています。別の作品と勘違いして2度買いしてしまった読者が多くないことを祈るばかりです。前半は私立探偵が三角関係のもつれにからむ素行調査に取り組むという非常に地味な内容です。ターゲットの過去に何かの秘密があるらしいことが少しずつ見えてくるとはいえ、ミステリーとして面白いプロットかというと微妙なところです。殺人事件が起きるのはようやく後半になってからで、しかもメインの謎解きは依然として過去に何があったのかの方です。一応殺人犯が誰かも探偵が終盤に説明するのですが、想像で補足している部分が多くて推理が物足りません。本格派の謎解きよりも悲劇が悲劇を呼ぶ人間ドラマの部分の方が印象に残ります。 |
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| No.1947 | 5点 | 雪どけの死体 ロバート・バーナード |
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(2017/12/05 08:43登録) (ネタバレなしです) 1980年発表の本格派推理小説で舞台はノルウェーの北極圏にある田舎町トロムソです。バーナード自身ノルウェーで約10年間暮らしたことがあり最初のミステリー作品もそこで書かれたようです。12月のトロムソに逗留していた外国人が失踪し、雪解けを迎えた3月に死体となって発見されます。捜査担当のファーゲルモ警部が被害者の素性や彼と接触のあった人物を地道に調べていくプロットで盛り上がりに乏しいです。第14章での推理説明も謎解き伏線を十分に回収しているとは思えず、ファーゲルモ自身が「おそまつな証拠だ。じつに心もとない暗示だけしかない」と認めるぐらいのレベルなのも物足りなさを感じます。 |
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| No.1946 | 5点 | 天使の傷痕 西村京太郎 |
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(2017/12/01 08:42登録) (ネタバレなしです) 「寝台特急殺人事件」(1978年)を皮切りにトラベルミステリーの大ブームを起こした西村京太郎(1930-2022)ですが、そこに至るまでには社会派推理小説、スパイ・スリラー、本格派推理小説など試行錯誤の時代が続いています。1965年発表の長編第2作である本書は本格派推理小説と社会派推理小説のジャンルミックス型です。プロローグとエピローグを挟む全12章構成で講談社文庫版で300ページに満たない短さです。警察による地道な捜査によって犯人を絞り込む10章までが本格派で、読者が推理に参加する余地がない上にトリックはかなり無理があるように思えてあまり感心できません。しかし残り2章での社会派要素は非常に印象的です。登場人物たちの沈黙の何と重苦しいことでしょう。 |
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| No.1945 | 5点 | イモジェーヌに不可能なし シャルル・エクスブライヤ |
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(2017/11/29 09:31登録) (ネタバレなしです) 1963年発表のイモジェーヌ・マッカーサリーシリーズ第4作の本格派推理小説です。謎解きとしてはシリーズ主人公が殺人の相談を耳にするところはアガサ・クリスティーの「死との約束」(1938年)、事件の真相はやはりクリスティーの某作品を連想します。とはいえこの作者らしくパズル要素よりもユーモア、いえどたばた要素の方が強いです。但し例えばクレイグ・ライスなどは探偵活動とどたばたを上手く絡ませているのですが、本書では探偵活動と関係のないどたばた場面もかなり多いので謎解き重視派の読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。キャランダーの町が親イモジェーヌ派と反イモジェーヌ派に分かれて喧騒を繰り広げるのがめっぽう楽しいです(もちろんイモジェーヌ自身も騒ぎを拡大させます)。ちょっと不思議なのがハヤカワポケットブック版の日本語タイトルで、仏語原題の「Imogene, vous etes impossible」(仏語独特のアクセント記号が付きます)とは逆の意味ではないでしょうか? |
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| No.1944 | 5点 | 現代忍者考 日影丈吉 |
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(2017/11/26 20:02登録) (ネタバレなしです) 1963年に発表された当時かなり不評だったらしい風変わりなタイトルの本格派推理小説です。忍術に興味があって日本語は流暢だが時々変な言葉づかいになるアメリカ人の探偵(都筑道夫のシリーズ探偵キリオン・スレイに影響を与えたかも?)を登場させてユーモア本格派を意識したようなところがあります。この探偵の他に警察や新聞記者たちがそれぞれ謎解きに挑戦し、他にもアジアのV国人やアマチュア奇術師や女流推理小説家など個性的な登場人物を揃えてます。謎の方もビルの8階から墜落したはずの人間が地面に激突することなく消えたり密室殺人事件が起きたり幽霊が目撃されたりとこの作者の作品では最も派手なプロットではないでしょうか。しかしながら犯人当てとしては「それはあんまりだ」と言いたいし、トリックについても「それはあんまりだ」と言いたいです。kanamoriさんのご講評で指摘されているように江戸川乱歩を連想させるグロテスクなスリラー風結末でユーモアも破綻しています。結末が全てではないのでしょうけど、本書に関してはあまりにも着地の減点要素が大きいように思います。 |
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| No.1943 | 5点 | 猫とねずみ クリスチアナ・ブランド |
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(2017/11/26 05:59登録) (ネタバレなしです) 1950年発表の本書はハヤカワポケットブック版の裏表紙粗筋紹介では本格派推理小説と紹介されていますがかなりスリラー色の強い作品です。特に前半でヒロイン役の女性記者カティンカが自分の言うことを誰からも否定されて孤独感を強めていく場面はゴシック・スリラーに通じるところがあるように思います。第6章で謎の一部が明らかにされて風通しはよくなりますがまだまだ物語りは二転三転、登場人物はそれほど多くないのに誰もが怪しく見えてくるところはこの作者らしい巧さが光ります。劇的な結末も印象的です。色々な伏線を張っているところは本格派の名手である作者らしいのですが、サスペンス重視のためか謎解き説明が整理不十分に感じられてしまうのが惜しいところです。 |
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| No.1942 | 6点 | 夜明け 笹沢左保 |
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(2017/11/25 23:50登録) (ネタバレなしです) 1990年発表のタクシードライバー夜明日出夫シリーズ第2作の本格派推理小説です。講談社文庫版で約250ページというコンパクトな作品で、登場人物も多くなくシリーズ前作の「アリバイの唄」(1990年)と同様、犯人当てではなくアリバイ崩しの謎解きです。そのアリバイはシンプルにして鉄壁、何しろ犯人と思われる容疑者が犯行推定時刻には夜明の運転するタクシーに乗っていたというものなのです。「アリバイの唄」のような大掛かりなトリックではありませんが、逆転の発想が印象的なトリックが使われています。なお本筋とは関係ありませんが元敏腕警部補だった夜明がなぜ警察を辞職したのかの理由が本書で説明されています。 |
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