nukkamさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:5.44点 | 書評数:2812件 |
No.1892 | 5点 | 天国は遠すぎる 土屋隆夫 |
(2017/06/24 03:02登録) (ネタバレなしです) 1959年発表の第2長編で、光文社文庫版で300ページに満たない短めの作品です。本格派推理小説ですが早い段階で犯人はこの人しかありえない状況になります(そもそも他の容疑者が登場しないのです)。自信満々の犯人が用意した鉄壁のアリバイを崩すのがメインの謎解きです。佐野洋が「刑事の描き方がリアル」と賞賛しており、捜査と推理が地道に描かれているのは同時代の鮎川哲也の鬼貫警部シリーズとも共通していますが刑事の執念描写は鮎川作品にはない個性だと思います。但し刑事以外の登場人物では犯人の心情発露は終盤の逮捕以降のみ、被害者については全くといってもいいほど性格描写がないので小説としての膨らみが足りない気がします。推理小説が文学足りえるか否かについて常に意識した作者ですが、本書についてはまだ道半ばといったところでしょうか。 |
No.1891 | 5点 | 殺人作家同盟 ピーター・ラヴゼイ |
(2017/06/22 10:02登録) (ネタバレなしです) ピーター・ダイヤモンドシリーズの「漂う殺人鬼」(2003年)で名脇役ぶりが印象的だったヘン・マリン主任警部を探偵役にした2005年発表の本格派推理小説です。ちなみに一瞬だけですがダイヤモンドも登場しています(捜査には加わりません)。出版社の経営者が放火で殺され、彼から作品を批判されたりいい加減な約束で迷惑を受けていたアマチュア作家サークルの面々が主要容疑者になります。前半はサークルの新会員で被害者と面識のないボブ・ネイラーがアマチュア探偵として事件を捜査します。ヘンの登場は中盤近くからで、部下の刑事たちと手分けしての捜査となるためプロットが一気に複雑になります。作中でアガサ・クリスティーを引き合いに出したりして本格派推理小説としての謎解きに期待がかかりましたが、どのように推理して犯人を特定したかを論理的に説明していないのがちょっと消化不良に感じました。 |
No.1890 | 6点 | 錯誤のブレーキ 中町信 |
(2017/06/17 22:33登録) (ネタバレなしです) 2000年発表の和南城夫妻シリーズ第4作の本格派推理小説です。この後の中町信(1935-2009)は最晩年の2008年に中編をリメイクして長編化した「三幕の殺意」を発表したのが最後なので新作として書かれたのは本書が最終作だったわけです。交通事故(1名死亡)で幕を開け、その事故で生き残った者が殺されます。動機を探して過去の病死(心臓麻痺)や自殺事件までもが調査され、密室、アリバイ調べ、ダイイングメッセージと謎解きは多岐に渡ります。人物描写に精彩がない中で自信満々の割に推理が暴走気味、でもたまに有能な時もある二本柳警部が異彩を放ってます。地味で暗めの文章のため盛り上がりを欠くきらいがあるものの、安定したレベルの本格派を40作以上も提供してくれた作者には大いに感謝です。 |
No.1889 | 5点 | バートラム・ホテルにて アガサ・クリスティー |
(2017/06/16 11:18登録) (ネタバレなしです) 1965年発表のミス・マープルシリーズ第10作の本格派推理小説です。プロットがちょっと風変わりで、殺人事件の謎解きはかなり遅めに開始されます。それまではロンドンの名門ホテルに宿泊したミス・マープルがホテルの雰囲気にどこか違和感を覚える場面が多く、どこかもやっとした展開です。その違和感の正体についてはスコットランドヤードのデイビー主任警部によって説明され、なかなか大胆な真相が印象的ではありますが推理としてはかなり粗いと思います。後味の悪さを残す幕切れはかなりのインパクトがあります。 |
No.1888 | 2点 | エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件 ジョン・ディクスン・カー |
(2017/06/12 17:16登録) (ネタバレなしです) 1936年発表の歴史ミステリーで実際に17世紀の英国で起こったゴドフリー卿暗殺事件(犯人は不明)に作者が挑戦した作品です。本書に影響を受けてリリアン・デ・ラ・トーレが「消えたエリザベス」(1945年)を、ジョセフィン・テイが「時の娘」(1951年)を書いたことでも有名で、ミステリー史上の重要作ではあるのですが感想に悩んだ作品でした。登場人物がやたら多いうえに彼らの直接的な言動描写も物語としての展開もほとんどなく、小説というよりも研究論文というべき内容です。後年のトーレは本書よりも小説としての趣向を増やし(但しまだ論文要素の方が強い)、テイに至ると小説といえる内容に発展しているのがわかります。とても低い採点にしているのは小説としての面白さを放棄していることが理由です(おまけに私の知能水準では論文としてどうかという評価もできません)。できれば別名義で発表してほしかったですね(推理「小説」を期待する読者ががっかりしないように)。 |
No.1887 | 6点 | 雪盲 ラグナル・ヨナソン |
(2017/06/11 01:48登録) (ネタバレなしです) アイスランドの弁護士兼作家であるラグナル・ヨナソン(1976年生まれ)のダーク・アイスランドシリーズ第1作である2010年発表の本格派推理小説です。原作は当然アイスランド語で書かれてますが海外向けに翻訳された版が出回って各国で好評、日本でも英訳版からの翻訳で読めるようになりました。余談ですが主人公のアリ=ソウル(本書では24歳の新米警官)の登場する作品にはダーク・アイスランドシリーズに属しない作品もあるそうです。さて本書は玄関に鍵をかけないのが日常の静かな漁師町シグルフィヨルズルに警官として採用され、よそ者(首都レイキャヴィークから移住)であることを意識せざるを得ないアリ=ソウルが描かれます。文章は簡潔にして要を得ており、人物描写にも配慮されていて謎解きだけでなく人間ドラマとしても充実しています。これで厳しい冬の描写に(オーストラリアの)アーサー・アップフィールドのような雄大なスケール感があればなあと思いましたがこれはぜいたくな注文でしょうね。もうひとつ余談ですが本書の小学館文庫版の巻末解説で作者のことを(男性作家なのに)「アイスランドのアガサ・クリスティ」と紹介していますが、細かい伏線を張ってある本格派推理小説であるところは共通していますが内面描写の多い本書の個性はクリスティの作風とはかなり異なるように感じました。 |
No.1886 | 5点 | お嬢さま学校にはふさわしくない死体 ロビン・スティーヴンス |
(2017/06/09 09:08登録) (ネタバレなしです) アメリカ生まれで英国在住の(両国のパスポートを持っているそうです)女性作家ロビン・スティーヴンス(1988年生まれ)の2014年発表のデビュー作が本書です。本書の英語原題は「Murder Most Unladylike」ですがこれが好評で続編が書かれるとシリーズ名も「Murder Most Unladylike」シリーズと呼ばれるようになりました。本書の作中時代は1934年、舞台は英国の女子寄宿学校、主人公は3年生(13歳)のデイジーとヘイゼルです。デイジーがホームズ役(本人もかなり意識しています)、ヘイゼルがワトソン役ですがデイジーの推理は必ずしも完璧ではなく(中盤で早々と犯人はこの人だと断言しますがまだまだどんでん返しがあります)、ヘイゼルも単なる観察者にはとどまってはいません。後半になると冒険スリラー色が濃くなってはらはらどきどきの展開となります。読者が事前に犯人を推理するデータを十分に提供できていないのと主人公以外の人物描写が弱いのが少々惜しまれますが、推理と捜査に傾注してミステリーらしいプロットにはなっており最後は容疑者を一堂に集めての犯人指摘場面が用意されています。 |
No.1885 | 6点 | 死刑台へどうぞ 飛鳥高 |
(2017/06/07 08:41登録) (ネタバレなしです) 作者が印象に残る作品の1つと評価していた1963年発表の長編第9作の本書は本格派推理小説、社会派推理小説、サスペンス小説のジャンルミックス型で、謎解きの妙よりも終盤の悲劇から浮かび上がる登場人物の非情さの方が記憶に残ります。純然たる謎解きを追及するならあの悲劇はストーリー上不要だったと思いますが、そうではないところが作品としての個性です。事件解決したのにどこか不満そうな刑事の描写にも共感しました。 |
No.1884 | 5点 | 宿命は待つことができる 天城一 |
(2017/05/31 15:15登録) (ネタバレなしです) 作者の自作解説によると第2長編である本書は「エラリー・クイーンのスタイルで」1947年頃に書き上げられ、作家仲間から「小説の下手なのに寒心した」と批判されたそうです。そこから改訂を重ねて1990年に私家版(当時は「Destiny Can Wait」という英字のタイトル)で出版されたのは実に第6稿です。その私家版の解説によれば作者は「悪の社会の階層性」を描こうとしていたようで、悪の存在とその悪を上回る悪の存在、悪事の連鎖による悲劇性と虚無感の描写の前には本格派推理小説としての謎解きは(探偵役の島崎が一部の謎解きしか貢献できず自白頼りなこともあって)印象薄に感じられてしまいます。ただ感情描写にかなり力を入れていることもあって個人的には3作の長編の中では1番読み易かったです(あくまでも天城作品の中ではという意味で、一般的には本書も難解な作品だと思いますが)。 |
No.1883 | 6点 | 殺戮者 下村明 |
(2017/05/28 20:29登録) (ネタバレなしです) 下村明(1922年生まれ)は1950年代後半から1960年代前半の短い期間に活動していた作家で著書の多くは柔道小説やアクション小説のようですが、1959年発表の本書を皮切りに3作の本格派推理小説と1作のスリラー小説を書きました。構成が非常に独特で、五瓶高彦を主人公にして彼を取り巻く時代と境遇の変遷を描いた小説に3つの独立した謎解きを絡めています(そのため「長編というより3編の連作中編」と評価する向きもあります)。最初の謎解きは第二次世界大戦が終わり中国で復員を待ち続ける高彦たち兵隊の間で起こった殺人事件、2番目の謎解きは故郷である大分の天堂村へ復員した高彦の周囲で起こった殺人事件、3番目の謎解きは柔道講師(警察の技術職員)として1948年に大分の別府に着任した高彦がまた巻き込まれる殺人事件と続きます。どの謎解きでも高彦が推理していますが全部が彼の手柄で解決しているわけではなく、中には手掛かり不十分のまま場当たり的に解決してしまう事件もあって本格派推理小説としては未熟に感じるところもあります。しかし時代と社会の描写、その中での人間ドラマが謎解きの不満を補う魅力となっています。 |
No.1882 | 5点 | エレヴェーター殺人事件 ジョン・ロード&カーター・ディクスン |
(2017/05/27 22:46登録) (ネタバレなしです) ジョン・ロード(1884-1964)とカーター・ディクスン(1906-1977)、本格派推理小説黄金時代を代表する作家の2人が1度だけ共同で執筆した成果が1939年発表の本書です。6階建ての建物で容疑者たちが各階に散らばる中、エレヴェーターで降下中の被害者が射殺され、犯人も凶器も見つからない不可能犯罪を扱っているのはトリックメーカーとして評価の高い2人の共作なら当然の流れでしょうか。どのような分担で書かれたかはわかりませんが文章表現はディクスンらしさを、機械設備の細かな説明はロードらしさを感じます。トリックはクレイトン・ロースンの某作品を連想させるもので(本書の方が早く書かれてます)図解付きで説明されますが、どうせなら現場図もほしかったです。細かいところまで謎解き複線を張ってあるのは評価できますが、ごちゃごちゃを整理しきれなくて少々読みにくい印象を受けました。 |
No.1881 | 4点 | 一角獣の繭 篠田真由美 |
(2017/05/24 18:25登録) (ネタバレなしです) 2007年発表の桜井京介シリーズ第13作です。このシリーズのラスト5作(第3期)については作者から出版順に読むよう示唆されていますが、本書はシリーズ前作の「聖女の塔」(2006年)と密接な関連があり、あちらを読まずに本書を読むと読みづらい部分があります(しかも「聖女の塔」についてのネタバレ満載)。またこのシリーズは蒼の成長物語要素が強いのですが、これまで被保護者的な立場で描かれていた蒼がある人物と出会い、保護者へと変容しているのが印象的です(といっても急に強く頼もしくなったりはしないのですが)。桜井京介はあまり登場せず謎解き説明さえほとんどしないのですが、最後に驚きの行動をとります。しかしその続きは次作を読んで下さいという締めくくりで、何とも商売上手なこと(笑)。「聖女の塔」よりは本格派推理小説らしさがあるものの(一角獣の角で刺されたような死体が登場!カーター・ディクスンの「一角獣の殺人」(1935年)を意識したのでしょうか?)、真相の説得力は弱いです(説明が不十分で無理なトリックにしか感じられない)。 |
No.1880 | 6点 | 斧でもくらえ A・A・フェア |
(2017/05/18 11:55登録) (ネタバレなしです) 1944年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第9作の本格派推理小説です。第二次世界大戦に従軍していたドナルドがマラリアを患って帰国するところから物語が始まります。探偵として復帰して精力的に活動しますが体調がまだ本調子でない描写もあって読者をはらはらさせます。全体的には読みやすいのですがプロットは結構複雑で、交通事故詐欺による結婚疑惑に始まり殺人事件も発生します。この殺人捜査がメインの謎解きになるかと思いきや、バーサが巻き込まれた交通事故の謎解きの方が脚光を浴びてきたりして実に目まぐるしいです。殺人の凶器が手斧というのが珍しいですが残虐な描写はありませんので安心下さい。 |
No.1879 | 5点 | 殺意のわらべ唄 風見潤 |
(2017/05/14 01:07登録) (ネタバレなしです) 1987年発表の神堂賢太郎シリーズ第1作の本格派推理小説です。童謡が書かれた手紙が相次いで送られ、その詩に見立てたような事件が起きるという派手なネタがある一方で、製薬会社の複雑な人間関係(そして個人描写は不十分なのでますます誰が誰だかわかりにくい)、薬品の開発から製造に至るまでのプロセス紹介とお堅く地味な企業ミステリー要素が融合します。後半には丹念なアリバイ調査もあって意外と物語のテンポは遅めです。そのアリバイトリックが小粒なのはともかく、かなりご都合主義的な偶然に頼っている真相が(悪い意味で)気になります。 |
No.1878 | 4点 | 毒殺はランチタイムに ホートン・マーフィー |
(2017/05/11 10:14登録) (ネタバレなしです) 30年近く企業の法律顧問としてのキャリアを経たアメリカのホートン・マーフィーが1986年に発表したデビュー作のルービン・フロストシリーズ第1作です。年齢が70歳代のルービンは法律事務所の元エグゼクティブ・パートナーで今は閑職の地位にあるようです。本書はその法律事務所の所員の1人が急死し、毒殺であることがわかります。ルービンは警察への協力はしますが探偵役として積極的に活動しているかというと微妙です。そのためか洗練された都会的な文章で書かれているのはいいのですが、本格派推理小説のプロットとしては淡白過ぎて盛り上がりを欠いています。真相も動機があって犯行機会があって(毒殺の)手段を持ち合わせていたというのだけでは、疑わしいとは言えても犯人はこの人だと断定するのには弱いと思います(刑事のあの説明でよく犯人が自白しましたね)。 |
No.1877 | 5点 | 虹の悲劇 皆川博子 |
(2017/05/07 01:04登録) (ネタバレなしです) 1982年発表のサスペンス小説と社会派推理小説のジャンルミックス型です(こういうのを社会派サスペンスと呼ぶのでしょうか?)。祭りに参加した観光客が将棋倒しの群集に押し潰されて死亡します。被害者が事件前から何かに怯えていたことを知ったツアーコンダクターと被害者の息子が調査を始めます。すると場面は大きく変換し、復讐のための殺人を企てる女性(既に1人を殺した模様)が登場してきます。見事に目指す相手を殺害して現場を去りますが後に発見されたのは何と別人の死体です。これは一体どうなっているんだ、殺したはずの相手はどこに行ったのかと(読者と共に)混乱します。もつれにもつれた2つのプロットは絡み合い、戦時中の社会問題を読者に突きつけるという、予想を超越した展開を見せます。複雑な因縁が悲劇の連鎖を生み出すこの物語、一体どこに正義はあったのでしょうか? |
No.1876 | 5点 | 密室の木霊 筑波耕一郎 |
(2017/05/07 00:18登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説です。親子3人の家庭に送られた赤ん坊の写真に夫は動揺し、後に毒死します。過去にこの家庭では前妻の自殺、子供の誘拐(無事に解放されます)と事件が相次いでいたことがわかります。さらに密室殺人事件の発生や複雑な人間関係、アリバイ調査と謎解きネタは充実、警察とアマチュア探偵の競争趣向まであります。トリックが小粒で特に密室トリックが古典的トリックの使い回しなのは残念。タイトルに使うからには少しは創意工夫が欲しかったです。 |
No.1875 | 5点 | 秘密だらけの危険なトリック ジョン・ガスパード |
(2017/05/06 23:57登録) (ネタバレなしです) 2014年発表の奇術師探偵イーライ・マークスシリーズ第2作の本格派推理小説です。英語原題の「Bullet Catch」はクレイトン・ロースンの「帽子から飛び出した死」(1938年)でも紹介されている、失敗が死亡事件につながりかねない危険な奇術で、この奇術に挑戦する映画撮影にイーライが巻き込まれます。それとは別にイーライが出席した同窓会で再会した同窓生の1人が殺されるという事件にも巻き込まれます。イーライの高所恐怖症との闘い、名作映画の登場人物の名を名乗る謎の人物の登場なども描かれ、話があっちに飛んだりこっちに飛んだりとまとまりを欠いたプロットですが、それでもこの作者の語り口の上手さでぐいぐいと読ませるのはさすがです。謎解きはエラリー・クイーンの某作品を連想させる大胆な真相が印象的ですが、読者がこの真相を見抜くには推理のための手掛かりが十分与えられていないように思います。 |
No.1874 | 3点 | 声優密室殺人事件 幾瀬勝彬 |
(2017/05/06 23:07登録) (ネタバレなしです) 1971年発表の「北まくら殺人事件」を1977年に改題した本格派推理小説です。推理小説の同人誌発行を目指す「推理実験室」の6人がアマチュア探偵として謎解きに挑戦という設定はアントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」(1929年)の二番煎じ感が拭えないもののなかなか面白そうな趣向です。もっともバークリー作品のような多重解決パターンではありません。事故死か自殺か殺人かを見極めるだけでも結構なページを費やしており、時に中途半端な疑惑報告に留まってしまうのもアマチュアの捜査ならではです。死者の性行為分析までも謎解きに絡めているところは読者の好き嫌いが分かれそうで、最後をベッドシーンで締めくくっているのに至っては通俗に過ぎているような気がします。 |
No.1873 | 5点 | モンキー・パズル ポーラ・ゴズリング |
(2017/05/05 00:48登録) (ネタバレなしです) ポーラ・ゴズリング(1939年生まれ)はイギリスに住んでいるアメリカ人女性作家です。作風は幅広く、サスペンス、ハードボイルド、果ては(別名義で)SF小説まで書いています。1985年発表の長編第6作でストライカー警部補シリーズ第1作である本書(舞台はアメリカです)は作者初の本格派推理小説とハヤカワ文庫版の巻末解説で紹介されています。タイトルに「パズル」が使われ、作中でエラリー・クイーンやアガサ・クリスティーの名前が登場していますが本格派黄金時代の巨匠たちのような論理的な推理を前面に出した謎解きではありません。この作者はパズル性よりはサスペンスの方が持ち味のようで、登場人物同士のやり取りの中に随所で電気が走ります。犯人の正体が明かされる終盤の場面も実にスリリングで劇的です。それでいて猟奇的で残虐な殺人をそれほど生々しく描写していないところは節度を感じさせます(もっともあのような殺害方法をとる必要性がいまひとつ釈然としませんけど)。 |