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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2901件

プロフィール| 書評

No.1981 6点 ハンサムな狙撃兵
シャルル・エクスブライヤ
(2018/03/08 11:05登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のロメオ・タルキニーニシリーズ第2作のユーモア本格派推理小説です。前作の「チューインガムとスパゲッティ」(1960年)ではアメリカ人の目を通してイタリア人(タルキニーニ)のエキセントリックぶりを強調していましたが、本書では同じイタリア人ながらトリノ人(ツァンポール刑事)にとってヴェローナ人(タルキニーニ)がいかに変人に見えるかを面白おかしく描いています。tider-tigerさんがご講評で「ミステリを枠としたユーモア小説にして愛の賛歌」と評価されていますがなるほどと納得です。犯罪の謎解きはやってはいますがほとんど感覚的にこの容疑者は犯人ではないと決めつけていたりして、まともな捜査を期待する読者はあきれてしまうかも。タルキニーニは探偵役ではありますが愛の伝道師の方で目立ってます。ツァンポールは結構辟易してますが、タルキニーニは堂々と愛を語りまくります。


No.1980 4点 雪の上の血
ヒルダ・ローレンス
(2018/03/03 22:18登録)
(ネタバレなしです) ミステリー作品は1940年代の短い期間に4つの長編と1つの中編集を発表しただけの米国の女性作家ヒルダ・ローレンス(1906-1976)。その作風はサスペンス濃厚な本格派推理小説のようです。1944年発表のマーク・イーストシリーズ第1作の本書がデビュー作です。降り積もった雪のことを「母なる自然の毛布」と表現するなど光る描写もあるのですが、世界推理小説全集版が半世紀以上前の古い翻訳のためか非常に読みにくく感じました。私立探偵であるマークが秘書として雇われた家では人々が何かを恐れている様子で、やがて1人が謎の死を遂げます。その後も色々な事件が起きるプロットですが、時に誰が話しているのかわからないほど読みにくくてサスペンスが盛り上がりません。最後は容疑者全員を集めてのマークの謎解きがありますが複雑な人間関係の説明が中心で、犯人にたどり着く推理としては物足りませんでした。


No.1979 6点 死者の贈物
中町信
(2018/02/26 08:34登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の和南城夫妻シリーズ第3作の本格派推理小説です。殺されそうになった女性は一命を取りとめ、殺そうとした男性は自殺するという無理心中未遂らしき事件が発生します。どこか不自然感もあるものの他に有力な意見が出るわけでもなく一応解決したかと思われますが、その後も事件関係者たちが次々と殺されたり自殺のような死を遂げます。残った容疑者ももちろんですが死者も怪しい行動をとったりしているので謎は複雑化します。密室ありアリバイ崩しありダイイングメッセージありとこの作者らしいサービスぶりで、(ネタバレ防止のため詳細を書きませんが)珍しい手掛かりが印象に残りました。犯人当てとしては不満を抱く読者もいそうな設定ですが、その不満をできるだけ解消するような配慮をしているプロットです。犯人が証拠に気づきながらそれを隠滅せずに証拠に小細工を施すなどはいささかやり過ぎにも感じますが、まあそれも作者の過剰サービスでしょうか(笑)。タイトルの由来が終盤で明かされるのも効果的です。


No.1978 4点 フードワゴン・ミステリー 死を呼ぶカニグラタン
ペニー・パイク
(2018/02/24 02:33登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ペニー・ワーナー(1947年生まれ)がペニー・パイク名義で2014年に発表したフードフェスティバル・ミステリーシリーズ第1作のコージー派ミステリーです。主人公は新聞社から解雇されたグルメ記事担当(但し自身は料理が苦手の模様)のダーシー・バーネットで、フードワゴンを経営する叔母の手伝いをすることになりますが叔母の同業者が殺される事件に巻き込まれます。自分に不利な言動でどんどん容疑を深めてしまう家族に頭の痛いダーシーですがそういうご本人も決してしっかり者ではなく、ひやひやシーンには事欠きません。犯人から「素人とはいえつくづく無能な探偵」と馬鹿にされる始末ですが、その犯人もダーシー言うところの「いくつかのミス」を犯している模様。そのミスをちゃんと読者に説明してくれれば謎解き本格派推理小説として一本芯が通ったのですけど。


No.1977 5点 黒影の館
篠田真由美
(2018/02/21 09:59登録)
(ネタバレなしです) 2009年発表の桜井京介シリーズ第14作です。過去のシリーズ作品でもシリーズキャラクターである蒼や深春と桜井京介の出会いを描いた作品がありましたけど、全15作のシリーズの大詰めとなる本書でまさか神代教授と桜井京介の出会いの物語を読むことになろうとは意表を突かれました。シリーズ前作の「一角獣の繭」(2007年)の思わせぶりの幕切れがどのように本書で進展するのかを期待していた読者は待ちぼうけを食わされます(笑)。作中時代は1980年、まだ教授でなかった神代が殺人容疑者になってしまい、かくまわれた(軟禁された?)館で浮世離れした体験をします。「あとがき」で作者はこのシリーズは本格派推理小説のシリーズとしてスタートしたがやがて本格派離れするようになったとコメントしていますけど、本書もいくつかの謎が最後に解かれるプロットではありますが巻き込まれ型サスペンス小説だと思います。本格派好きの私には好みの作風ではありませんが、講談社文庫版で600ページを超す大作ながら巧妙なストーリーテリングで退屈せずに読めました。


No.1976 5点 リトモア少年誘拐
ヘンリー・ウエイド
(2018/02/17 22:47登録)
(ネタバレなしです) ヘンリー・ウエイド(1887-1969)最後の作品となった1957年発表の本書は誘拐事件を扱った珍しい本格派推理小説です。少年が誘拐され、家族の不安や慎重に行動せざるを得ない警察を丁寧に描いていますが、この作者の手堅い文章だと誘拐ミステリーとしてはややサスペンスが不足気味に感じます。少年が無事戻るのか最悪の結果になるかはここでは紹介しませんが中盤で一応の決着を見せます。もっともその後の警察の捜査も依然として石橋を叩くように慎重です。まあ容疑者たちを片っ端からぎゅうぎゅう締め上げるなんてこの作者の作風では想像も出来ませんけど。登場人物リストに警察官が7人もいて何を考えているかも読者に対してかなりの部分をオープンにしているので意外性はありません。犯罪の謎解きと関係のない最後のオチが1番意外だったかも(笑)。


No.1975 5点 夜間病棟
ミニオン・G・エバハート
(2018/02/15 08:53登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ミニオン・G・エバハート(1899-1996)はメアリー・ロバーツ・ラインハートと共にHIBK(「もしも知ってさえいれば」)派のサスペンス小説の巨匠として名高く、作品数も60作近くあります。1929年発表の本書がデビュー作で、7作書かれたサラ・キート(本書ではセント・アン病院の看護婦長)シリーズ第1作です。本格派推理小説としての謎解きも意識している作品で、盗まれたラジウム、エーテルのかおり、注射器、カフスボタンなど様々な小道具を謎づくりに使っています。しかし論創社版の巻末解説で評価されているようにプロットがぎこちなくて読みづらいです。サスペンス小説としての怖さや不気味さといった雰囲気よりも読みにくさの方が上回ってしまった感があります。謎解き説明も回りくどくてわかりにくいです。


No.1974 6点 霧の島のかがり火
メアリー・スチュアート
(2018/02/12 22:14登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家メアリー・スチュアート(1916-2014)は1955年に作家デビューして約40年間活躍しましたが書かれた作品は約20作と多くはありません。しかしロマンチック・サスペンスと歴史ファンタジーの2つのジャンルにおいて重要作家と評価されているようです。ミステリーに絞れば前者ということになりますが1990年にCWA(英国推理作家協会)が人気投票した際にはロマンチック・サスペンス部門の上位10作でスチュアート作品が3作も選ばれました。さて本書は1956年発表の長編第2作であり、舞台はスコットランドのスカイ島です(トラベルミステリー要素もスチュアートの特徴です)。既に地元の少女が何者かに殺されている設定ではありますが、主人公がスカイ島に上陸してからの序盤の展開は少しもたつき気味です。しかし旅行客が登山に出かけたまま戻らない事件が起きてからサスペンスが増していきます。暴雨風、夜の暗闇、霧といった自然現象の使い分けも巧妙です。犯人を示す手掛かりもちゃんと用意されていてユニークな動機(単なる殺人願望ではない)が印象的ですが、やはり本格派推理小説よりはサスペンス小説として評価されるべき作品でしょう。


No.1973 5点 過去、現在、そして殺人
ヒュー・ペンティコースト
(2018/02/12 21:45登録)
(ネタバレなしです) 16の長編が書かれたジュリアン・クィストシリーズの1982年発表の第12作です。夜中にクィストに電話をかけてきたのは友人のダンで、彼の恋人ジェリが殺され、犯人を探して殺してやると告げて電話を切ります。ダンが見当違いの人間を殺しかねないと心配するクィストはダンと犯人探しに乗り出します。生々しい描写はありませんがジェリは殴られ、性的暴行を加えられ、刺され、そして頭部に銃弾を撃ち込まれるという残虐極まりない仕打ちを受けています。事件関係者の1人が同じ拳銃の銃弾で瀕死の重傷を負わされ、さらには6年前にジェリの故郷でジェリの両親も同じ凶器で襲われていたことがわかり(母親は死亡、父親は身体障害者になります)、事件は混迷の度合いが深まります。サスペンス豊かな展開で読ませる作品ですがハヤカワポケットブック版の裏表紙の粗筋紹介で「本格推理」とあるのは首肯できません(ハードボイルドに分類できると思います)。凶悪性がエスカレートする犯行の前にクィストが犯人の心当たりが全くつかないまま終盤を迎えたかと思うとあまりに突然の解決が待っています(読者は当てやすいかも)。そこには推理による謎解き要素はありません。


No.1972 5点 三十九号室の女
森下雨村
(2018/02/10 22:36登録)
(ネタバレなしです) 代表作の一つと評価される1933年発表の本格派推理小説です。東京駅で呼び出しを受けた弁護士の須藤(主人公の1人)が電話に出ると女の悲鳴が聞こえて電話は切れてしまいます。電話をかけた場所が東京ホテルとわかり駆けつけるとそこの三十九号室で女の死体が発見されます。須藤は新聞記者の幡谷(もう1人の主人公)と一緒に謎解きに取り組みます。物語のテンポが早く、謎が深まる展開もなかなか魅力的です。人間関係もどんどん複雑化するので登場人物リストを作って整理した方がいいかもしれません。ただ本格派といっても論理的に整理された推理説明を期待してはいけません。幡谷が最終章で「一つの仮定の上に立った僕の直感的な解釈に過ぎない」と語っているレベルなのはこの時代の国内ミステリーとしては仕方ないのかもしれません。


No.1971 5点 門番の飼猫
E・S・ガードナー
(2018/02/10 22:08登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のペリー・メイスンシリーズ第7作ですが充実作の多い初期作品の中ではちょっと劣るように個人的には思います。それでも複雑なプロットとサスペンス豊かな展開の組み合わせはまずまず楽しめます。第15章でメイスンが大胆な工作を次々に準備し、これは後でどのような劇的効果を挙げるのかとわくわくさせます。悪徳弁護士が登場したり法廷場面では思わぬ人物が証人になるなど本書ならではの見せ場もいくつかあります。しかし本格派推理小説としての謎解きは真相をひねり過ぎて犯人当てとしては納得しづらいものがあります(気の利いた手掛かりは印象的ですが)。なお最後は夢遊病者が眠ったまま殺人を犯したら犯罪責任は成立するかという謎を提示してシリーズ次作の「夢遊病者の姪」(1936年)が予告されて締めくくられます。


No.1970 5点 死体は沈黙しない
キャサリン・エアード
(2018/02/10 15:15登録)
(ネタバレなしです) 1979年発表のスローン警部シリーズ第8作の本格派推理小説です。定年間近の化学教師(女性)の糖尿病による(と思われる)死、銀行口座には謎の大金があり、さらに行方不明の彼女の飼い犬、逃亡する彼女の甥など色々な謎をばら撒いていますがこの作者らしく展開は地味です。地味といっても例えばF・W・クロフツの地味さとも異なります。クロフツは徒労や失敗に終わった捜査までも緻密に描写しますが本書ではむしろ捜査描写はしばしば省略され、リーエス署長にスローンが随時簡潔に捜査結果のみ報告しています。結構大事な証拠がさらりと語られたりするので油断なりません。動機がかなり持って回ったようなところがありますがこれは後出し気味に説明されており、読者が事前に予想するのは困難でしょう。


No.1969 5点 孤独の罠
日影丈吉
(2018/02/08 23:22登録)
(ネタバレなしです) 1963年発表の本書は「女の家」(1963年)と同じく文学志向を強めた作品です。「冬」に始まり「秋」で終わる4章構成をとりますが「冬」の章で妻と生後6ヶ月の子供を相次いで失った主人公の描写は非常に読者の共感を得やすいと思います。2人の死には犯罪性はなく、この章の終盤で子供の火葬の後に遺骨が2人分になっていたという不思議な事件が起きるまでミステリーらしさがありません。「春」の章になっても謎解きは進まず妹の結婚願望に対する主人公の複雑な思いが描かれ、またもミステリーから離脱するような展開となります(この章の終盤で新たな事件が起きますが)。主人公が推理する場面もありますが基本的には探偵役とは言えないでしょう。最後には謎は解かれるのですが、本格派推理小説でありながら謎解きの面白さを極力抑えることを目指したようなプロットは確かに文学風ではありますが読者の好き嫌いが分かれそうです。


No.1968 5点 邪悪なグリーン
アーロン&シャーロット・エルキンズ
(2018/02/07 11:50登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表のリー・オフステッドシリーズ第3作です。今回のリーはプロ競技には参加せず(できないというのが正確)、アマチュアゴルファー相手のインストラクターという役割ですがその直接描写は多くなく、当然ながら登場人物もほとんどがゴルフ関係者ではないのでゴルフミステリーらしさはこれまでのシリーズ作品で最も希薄です。登場人物たちと被害者の秘密の関係が次々に明らかになる展開はそれなりに盛り上がりますが、ちょっと好都合過ぎる設定という気もします。終盤に犯人の不注意な発言にリーが気づくのですがこの発言では決め手として弱く、後は犯人が勝手に暴走しての解決で推理によって謎解き伏線を回収する解決になっていないのが本格派推理小説好きの私としては不満です。


No.1967 5点 空白の逆転殺人
筑波耕一郎
(2018/02/03 14:56登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。3ヶ月前に失踪した女性から謎の電話がかかってくるところが幕開けです。失踪の1ヶ月前には彼女の妹が湖で自殺、さらに妹の恋人が密室で自殺しており最初からややこしい状況です。おまけに雪の上の足跡のない殺人まで起こります。文章は読みやすいですが複数の人間が捜査に参加するのでプロットはますますややこしいです。犯人の正体は早い段階で見えてきますが多くの謎が最終章まで残ります。トリックは小粒な上にこんなに手間をかける必要性があるのか疑問です。これまで作品内容と全く関連のないタイトルをつける傾向の多かった作者ですが本書に関しては内容に合致したタイトルで、これは進歩とみなしていいのかな(笑)。


No.1966 5点 青春迷路殺人事件
梶龍雄
(2018/02/02 22:53登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の旧制高校シリーズ第4作の本格派推理小説でシリーズ最終作となりました。過去のシリーズ舞台が三高、二高、四高と続き、満を持しての一高生の登場ですが三高生も一緒に活躍するのが本書の特徴です(但し学校の直接描写はほとんどありません)。本書の作中時代は1936年で、「リア王密室に死す」(1982年)(こちらの作中時代は1948年)に登場する三高生とは共通する人物はいません。両校のアマチュア探偵が謎解きに挑む2人探偵のスタイルで、競争を期待する周辺人物もいますが主人公2人はそういう意識は全くなく互いに情報を公開し協力しながら捜査します。三高の英彦がモダンな(モダーンとも表記)東京の文化風俗に気圧される描写が印象的です(京都の街灯はガス灯なのに東京(銀座)は電灯という説明があります)。細かいアリバイ調査の地味な展開ですがトリックにはかなり大胆なアイデアが採用されています。容疑者の描写があっさり気味なので動機に関する丁寧な説明が後付けに感じられてしまうのが惜しまれます。


No.1965 5点 スリップに気をつけて
A・A・フェア
(2018/01/31 09:50登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第17作です。泥酔して気がついたら女性の部屋にいて、そのことを脅迫されたという情けない男(でも金は持っている)が依頼人になります。身を隠した脅迫者の行方を追ってドナルドがモダン・アートの画家から情報を集めるやり取りがとても印象的でした。一方では色々な意味で手ごわい女性たちとのかけ引きに苦労していますね。ついにはくんずほぐれつ状態になって(笑)、バーサに援護してもらってます。謎解きは巧妙なミスリードが光りますし推理説明は大胆だけどもう少し丁寧さが欲しかったです。最後は犯人自滅で解決してまうのも物足りません。


No.1964 6点 完全犯罪に猫は何匹必要か?
東川篤哉
(2018/01/29 14:24登録)
(ネタバレなしです) 2003年発表の烏賊川市シリーズ第3作の本格派推理小説です。容疑者のほとんどにアリバイが成立する事件ですが、犯人の計画はタイトルに使われている「完全犯罪」を狙ったものとは思えませんでした。とはいえ第4章で砂川警部が列挙する8つの疑問点など謎づくりと謎解きはとても充実しています。ユーモアも一部はすべっていますけどまずまず好調、しかもその中にも謎解き伏線が忍ばせてあったりと油断なりません。


No.1963 5点 無音の弾丸
アーサー・B・リーヴ
(2018/01/27 02:25登録)
(ネタバレなしです) 科学者探偵クレイグ・ケネディが「アメリカのシャーロック・ホームズ」と絶賛され、いくつかの作品が映画化されるほどの成功を得ながら急速に忘れ去られてしまった米国のアーサー・B・リーヴ(1880-1936)。作品に使われている科学知識が時代の進歩と共に古臭くなってしまったことが顧みられなくなった理由とされています。1912年発表のシリーズ第1短編集で出世作でもある本書は12作が収められていますが、犯人のトリックよりもクレイグが捜査で駆使する科学的手法の方が目立つ作品もあって結構バラエティーに富んでいることがわかります。同時代の英国のオースティン・フリーマンの科学者探偵ソーンダイク博士シリーズと比べてもトリック依存度の強い本格派推理小説でプロットがシンプルな分読みやすいのですが、トリックが(当時は読者に驚きを提供したかもしれませんが)陳腐化して救いようがなくなったしまった作品も確かにありますね。でも「瑠璃の指輪」のトリックは後年の某作家の名作を先取りしていて印象的でした。


No.1962 5点 幻の屋敷
マージェリー・アリンガム
(2018/01/23 22:08登録)
(ネタバレなしです) 2016年に日本独自編集された、アルバート・キャンピオンシリーズ第2短編集です。第1短編集の「窓辺の老人」(2014年)が1930年代の作品をまとめていたのに対して本書に収められた短編11作とエッセイ1作は1930年代から1950年代までと時期的に幅広いです。ミステリーと言い難い作品や結末がすっきりしない作品もありますが「窓辺の老人」に比べると本格派推理小説の作品が増えています。家屋消失というエラリー・クイーンの中編「神の灯」(1935年)を連想させる魅力的な謎にクイーンとは全く異なる真相を用意した「幻の屋敷」(1940年)やショート・ショートながら鮮やかな推理が印象的な「キャンピオン氏の幸運な一日」(1945年)などが私の好みです。

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