| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2900件 |
| No.2100 | 6点 | T型フォード殺人事件 広瀬正 |
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(2019/02/08 23:45登録) (ネタバレなしです) SF作家として注目を浴び、これからの飛躍が期待されたところで路上を歩いている最中に突然の心臓発作で亡くなってしまった広瀬正(1924-1972)、その遺作の1つとして1972年に発表されたのが本書です。日本にわずか数台しかないT型フォードが披露され、その車にまつわる46年前の殺人事件が語られ、それに続く謎解き議論と意外な展開が楽しめる本格派推理小説です。他の方々のご講評にもあるように当時としては斬新であったろうアイデアが光る作品です。現代ミステリーに馴染んだ読者には荒削りの作品に感じられるかもしれませんけど。それよりも発表当時はSF作品でなかったことに面食らった読者が多かったそうですが。 |
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| No.2099 | 5点 | 奥方は名探偵 アシュリー・ウィーヴァー |
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(2019/02/08 23:29登録) (ネタバレなしです) 英国の女性作家アシュリー・ウィーヴァーの2014年発表のエイモリー・エイムズシリーズ第1作のコージ-派ミステリーです。本格派推理小説黄金時代であった1930年代英国を作品舞台にしていますが時代描写はあまりありません。エイモリーの衣装描写には凝っていて、もしかしたら当時の流行ファッションかもしれませんが。夫のマイロが遊び人で不在がちなことに振り回されるところは同情の余地があるものの、それにしたって昔の恋人の誘いに簡単に応じてしまうとは(浮気とか不倫とかは全く考えていないにしろ)エイモリーも浅はかとしか言いようがないですね。まあこれがプロットにメリハリをつけていてロマンチック・サスペンス風な展開になってはいますが。人物個性はきちんと描けているしミステリーの雰囲気も程々ありますが、ほぼ運任せの解決になってしまうのが(悪い意味で)コージー派らしく、日本語タイトルの「名探偵」らしさが感じられませんでした(ちなみに英語原題は「Murder at the Brightwell」です)。 |
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| No.2098 | 5点 | 模型人形殺人事件 楠田匡介 |
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(2019/02/08 23:12登録) (ネタバレなしです) 戦前の1930年代に執筆開始していますが本格的な活動は戦後になってからの楠田匡介(くすだきょうすけ)(1903-1966)はトリックメーカーとして知られ、特に脱獄を扱ったユニークな短編ミステリーは高く評価されています。1949年発表の本書は初の長編作品の本格派推理小説です。開始わずか2ページで起こった殺人事件の現場は準密室状態で、死体をマネキン人形が見つめているだけでなく凶器と思われるピストルにはその人形の指紋が付いているという異常な事件です。その後も人形の首が盗まれたり、人形そっくりの謎の女性が登場したりとプロットは変化に富みますが展開が急過ぎて読みづらい一面もあります。トリックメーカーらしくトリックを沢山用意してはいますが、こちらの説明も駆け足気味で整理不十分に感じてしまいました。名探偵役かと思われた田名網警部は犯人の正体はつかんでいたようですが主人公らしさに欠けており、真相の大半を語る別の人物に「負け」を意識する有様です。 |
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| No.2097 | 5点 | 検事卵を割る E・S・ガードナー |
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(2019/02/08 22:58登録) (ネタバレなしです) 1949年発表の検事ダグラス・セルビイシリーズ第9作の本格派推理小説です。公園で発見された女性の死体事件に宝石泥棒や交通事故が絡む複雑なプロットです。またしても宿敵A・B・カーに翻弄されます。セルビイは「A・B・C老」などと呼んでいますが、本書のカーはセルビイに遜色ないフットワークの軽さが光ります。第8章で驚きの展開があってセルビイの捜査は暗礁に乗り上げ、彼の失脚を狙うメディアから批判記事の攻勢を受けてしまいます。残念ながらここからの逆転劇はペリイ・メイスンシリーズほどの鮮やかさがなく、非合法まがいの逮捕で強引に解決というのが物足りません。本書がシリーズ最終作(特に最終作らしい演出はなし)となってシリーズ打ち切りになったのもやむなしかなと思います。 |
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| No.2096 | 5点 | 壷中美人 横溝正史 |
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(2019/02/08 22:43登録) (ネタバレなしです) 「壺の中の女」(1957年)という金田一耕助シリーズ短編を改訂長編化して1960年に発表したシリーズ第22作の本格派推理小説です(短編版は短編集の「金田一耕助の帰還」(1996年)で読めます)。少女が身体をくねらせながら小さな壺の中に収まる壺中美人という芸が紹介され、それをテレビ鑑賞していた金田一が後の事件解決につながるヒントに気づくという序盤(等々力警部は気づきません)、そして殺人現場でこの芸を試みる少女が目撃されるという不思議な謎(見られていることに気づいて芸を中断して逃亡します)という展開はなかなか魅力的ですが中盤以降は地味過ぎてだれてしまいます。動機がかなり後出し気味ですし、何よりもなぜわざわざあの芸をしようとしたのかという説明がきちんとされていません。 |
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| No.2095 | 5点 | 「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶 マーサ・グライムズ |
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(2019/01/29 22:40登録) (ネタバレなしです) 1984年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第4作の本格派推理小説です。文豪シェイクスピアの故郷ストラトフォードを観光中のアメリカ人ツアーで連続殺人事件と少年の失踪事件が起きます。個人個人の描写はよく描けていますが、人同士の結びつきはあまり描かれずドラマとして散漫な印象を受けます。集団行動どころか一同が顔を合わせる場面さえないのでツアーの雰囲気がまるで感じられません。終盤近くになっての唐突な展開と唐突な解決、推理の説得力が十分とは思えません。一番意外だったのは少年がどこにどうやって連れ去られたかでしたが(生きていることは随所で読者に知らされます)、こちらについても説明があっさり過ぎて実現性には疑問が増すばかりです。 |
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| No.2094 | 5点 | 「能登モーゼ伝説」殺人事件 荒巻義雄 |
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(2019/01/29 22:28登録) (ネタバレなしです) 1990年発表の埋宝伝説シリーズ第5作の本格派推理小説ですが、財宝探し的な趣向はありません。北海道の巨大迷路で発見された角のある男の死体の事件はやがて能登のモーゼ伝説の謎に発展し、最後は探偵役の荒尾十郎がフランスにまで乗り込みます。アリバイ崩しに力を入れていて第7章では荒尾が見破った時刻表トリックの解答は巻末にありますという、ちょっと変わった「読者への挑戦状」があります。もっとも肝心の時刻表(1989年9月号)が掲載されておらず、現代の読者はこの謎解きに挑戦できないのですが。まあ載っていたとしても時刻表を見ると頭痛が起きる私は敬遠しちゃうんですけどね(笑)。講談社文庫版の作者あとがきでは、現代社会におけるミステリーの在り方について色々と思い悩んでいるような記述がありますが方向性を見つけられなかったのか結局本書が作者最後のミステリー作品になりました。この後の作者は架空戦記小説の艦隊シリーズで大成功するのですからミステリーから離れたのは正解ということになるのでしょう。 |
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| No.2093 | 6点 | 素性を明かさぬ死 マイルズ・バートン |
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(2019/01/29 22:12登録) (ネタバレなしです) 犯罪研究家のデズモンド・メリオンとアーノルド警部のコンビが活躍するシリーズを中心に63作もの長編を残した英国作家のマイルズ・バートンの正体がジョン・ロード(1884-1964)であることが判明したのは作者の死後だったそうです。ロード名義でも70作以上の長編があるのですから大変な多作家です。1939年発表の本書はシリーズ第19作の本格派推理小説ですが、異色なのはメリオンは登場せずアーノルド単独で事件を解決しています(第7章でメリオンが流感でダウンしていることが説明されます)。全61作のシリーズでアーノルド単独作品が4作、メリオン単独作品が1作あるようです。異色作にもかかわらず本書がシリーズ代表作として高く評価されているのはミスディレクションの巧妙さが光るからではないでしょうか。密室の怪死事件の謎解きはトリックメーカーとして知られるこの作者らしいですが、殺人トリックが明かされた後のどんでん返しこそが本書の白眉でしょう。個人的にはロード名義の「見えない凶器」(1938年)に匹敵する作品だと思います。その代わり「見えない凶器」がお気に召さない読者には本書も勧めにくいのですけど。 |
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| No.2092 | 6点 | 名探偵の証明 市川哲也 |
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(2019/01/29 21:57登録) (ネタバレなしです) 鮎川哲也に私淑して漢字1字違いのペンネームで登場した市川哲也(1985年生まれ)の2013年発表のデビュー作である本格派推理小説です。往年の名探偵である屋敷啓次郎と今をときめく名探偵である蜜柑花子の謎解き競演を描いています。屋敷は高齢化による探偵能力の喪失をかなり意識していますが、私の読んだ創元推理文庫版の表紙イラストは結構若く見えるぞ(笑)。そして蜜柑花子の描写は思ったよりも控え目です。事件の謎解きが意外と早く終結し、後日談がかなり長いです。もっとも後日談もミステリー要素はあるのでマーサ・グライムズの「『乗ってきた馬』亭の再会」(1996年)の後日談のように無駄に長いとは感じません。ただこの後日談があった方がよかったのかは微妙だと思います。名探偵の生きざま、名探偵を取り巻く人々の名探偵への思い、そして名探偵を意識している犯人と様々な角度で名探偵の存在を描いているのですが、もっと謎の魅力と謎解きの面白さの方に傾注してほしかったと思うのは身勝手な感想でしょうか? |
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| No.2091 | 6点 | 探偵サミュエル・ジョンソン博士 リリアン・デ・ラ・トーレ |
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(2019/01/15 22:57登録) (ネタバレなしです) アメリカの女性作家リリアン・デ・ラ・トーレ(1902-1993)は作品数は多くはありませんが歴史ミステリーのパイオニアの1人として高く評価されている存在です。3作書かれた長編作品はいずれも史実の事件を扱っており、短編作品では英国文学者のサミュエル・ジョンソン博士を探偵役、彼の伝記作家のジェームズ・ボズウェルをワトソン役にした本格派推理小説で知られています。後者については4つの短編集が出版されましたが、論創社版の本書は第1短編集(1946年)から5作、第2短編集(1960年)から3作、第3短編集(1985年)から1作の計9作を収めた国内独自編集版です。長編作品の「消えたエリザベス」(1945年)は小説というより研究レポート調で、かなり読者を選びそうですが本書はちゃんと小説になっていてもっと一般受けすると思います。短編ながら時代描写が実に丁寧で、おっさんさんのご講評で説明されているように謎解きとしてはそれほど凝った作品はありませんが読み重ねていくほど作品世界にのめりこんでいきます。謎解きとして劇的な「消えたシェイクスピア原稿」が個人的なお気に入りですが、(本格派ではありませんが)植民地だった米国の独立を支援する女性との知恵比べがコナン・ドイルの「ボヘミアンの醜聞」を連想させる「博士と女密偵」も印象的です。結末はこの作者が米国人女性であることを再認識させられます。 |
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| No.2090 | 6点 | 探偵の秋あるいは猥の悲劇 岩崎正吾 |
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(2019/01/15 22:39登録) (ネタバレなしです) 1990年発表の探偵の四季シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズと言いながら登場人物はシリーズ第1作の「探偵の夏あるいは悪魔の子守唄」(1987年)とは総入れ替えで、探偵役まで別人になっているのが意外です。もっと意外だったのは前作が横溝正史作品のパロディーとして書かれたのに対して本書は海外ミステリーのエラリー・クイーン作品のパロディーを狙っていたこと。舞台も登場人物も和風でそこは全くクイーン風ではありませんが、謎解きプロットにはあちこちでクイーン作品を連想させる場面があります(クイーン作品を読んだことのない読者でも楽しめますが、読んでいた方がいいと思います)。本格派として充実した内容ですが、乱れた人間関係やよこしまな性格の描写が時にくど過ぎるところはクイーン風というよりは横溝正史風で、そこは好き嫌いが分かれるかもしれません。 |
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| No.2089 | 5点 | サンダルウッドは死の香り ジョナサン・ラティマー |
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(2019/01/15 22:27登録) (ネタバレなしです) 1938年発表のビル・クレインシリーズ第4作である軽ハードボイルドです。クレインの推理で殺人犯が指摘される場面もありますが複数犯による誘拐事件はアクションシーンが豊富、これはこれで読み応え十分ですが本格派推理小説を期待している読者に受けるかは微妙かもしれません。とはいえ退屈させない展開で読みやすく、舞台となる南国の楽園の雰囲気がカラフルに描写されています。論創社版の登場人物リストは重要人物が何人も抜けているのが不満です。 |
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| No.2088 | 7点 | 赤い指 東野圭吾 |
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(2019/01/15 22:18登録) (ネタバレなしです) 2006年発表の加賀恭一郎シリーズ第6作です。前半は犯罪小説で犯人が誰かも読者にすぐ伝えられます。犯罪小説といっても犯人描写は少なく、事後従犯者となった犯人の家族たちが右往左往する場面が連続します。犯人には同情の余地はありませんし、家族も身勝手で読んでて気分が悪くなります。でも自分が仮に当事者だったら正義を貫けるのかと自問すると自信がありません。自分もゲス野郎の資格十分なことに気づかされてますます気分が悪いです(笑)。後半になると加賀の鋭い推理が印象的な倒叙本格派推理小説になりますが、家族ドラマの行く末のほうが気になるプロットです。講談社文庫版で300ページ少々の分量ですがとても重くて暗い作品、もしこれで被害者側の不幸描写をもっと丁寧に描かれていたらつらくて読了できなかったかも。 |
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| No.2087 | 6点 | 解かれた結び目 バロネス・オルツィ |
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(2019/01/15 22:08登録) (ネタバレなしです) 1925年発表の隅の老人シリーズ第3短編集で、最後に収められた「荒地の悲劇」では再会を期待させるような場面がありますが結局シリーズ最終作になりました。発表された時期は本格派推理小説の黄金時代で、過去の「ミス・エリオット事件」(1905年)や「隅の老人」(1909年)と内容的に大差ないのでは時代遅れと評価されてしまうのも仕方ないのかもしれませんが、このシリーズはこれでよいような気もします。推理の説得力の高い「メイダ・ヴェールの守銭奴」が個人的なお気に入りです。それにしても語り手の婦人記者がテーブルの上に投げ出した紐に喜々として飛びつくとは、「あんたはおもちゃを与えられた子犬ですかっ」と突っ込みたくなります(笑)。 |
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| No.2086 | 5点 | 螺旋階段 M・R・ラインハート |
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(2019/01/07 21:58登録) (ネタバレなしです) 米国の女性作家メアリ・ロバーツ・ラインハート(1876-1958)は借金苦の家計を助けるために作家業に手を染めましたがこれが大当たり、何作もベストセラー作品になりました。非ミステリー作品もありますがロマンチック・サスペンスの先駆者であり、また「もしも知っていたら(HIBK)」派の始祖として名高いです。1908年発表の長編第2作である本書は最初の成功作で、戯曲版が書かれたり映画化されたりと最も有名です。もっとも主人公は50歳前後の女性でロマンスの中心人物でないところから本書はロマンチック・サスペンスとは言えないでしょう。またHIBK(「Had I But Known」)の手法もそれほど目立っていないようですが、これは多用するとプロットの水増しと批判されるらしいので本書の場合は適量レベルかと思います。主人公をスーパーヒロインタイプでなく、さりとて怖がってばかりの弱者でもない設定にしていること、執事、家政婦、メイド、庭師などにも重要な役割を与えていること、ゴシック・スリラー風ながら過度に暗く重くしていないところなど個性を感じさせます。21章で主人公が14の疑問点を整理するなど本格派推理小説的な要素もあります(推理で解決されるわけではありませんが)。誰もが怪しい行動をとるところは不自然で古臭さもありますが、書かれた時代を考えると洗練されたサスペンス小説だと思います。 |
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| No.2085 | 5点 | 幽霊殺人事件 大谷羊太郎 |
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(2019/01/07 21:35登録) (ネタバレなしです) 1994年発表の八木沢警部補シリーズ第12作の本格派推理小説です。プロローグで複数の男が1人の女性を集団暴行するという痛ましい事件が示唆されます。それから13年後、暴行事件の容疑者と思われる男とその恋人の周辺で怪事件が相次ぐというプロットで、タイトル通り幽霊が目撃されます。プロットはシンプルで底が浅そうですが、最終章では結構複雑なひねりを効かせています。もっとも読者に対してフェアに謎解き伏線を張ってはいないように思えますが。トリックよりも人の心の移り変わりが1番印象に残る作品でした。 |
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| No.2084 | 4点 | 駒さばき ウィリアム・フォークナー |
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(2019/01/07 21:20登録) (ネタバレなしです) ウィリアム・フォークナー(1897-1962)は20世紀米国を代表する作家の1人でノーベル賞を獲得しています。ミステリーにも手を染めていて、1949年発表の本書は群検事のギャヴィン・スティーヴンスを探偵役にした短編集で、6作を収めています。純文学者のミステリーというと福永武彦の「加田伶太郎全集」(1957年)という立派な短編集もありますが、本書は残念ながらミステリーとしては微妙な出来に感じました。「紫煙」が1番ミステリーらしいプロットですが推理は弱く、はったりで解決しているのが物足りません。「水をつかむ手」は手掛かりが印象的ですが一般的読者には馴染みにくそうです。最も評価の高い「調合の誤り」は悪くはありませんがせっかくの証拠の提示のタイミングが遅過ぎで、読者が推理する間もない唐突な解決になってしまうのが惜しいです。中編「駒さばき」はスティーヴンスの家族ドラマの回想が長々と続いてミステリーとしてはぐだぐだになってしまっています。長文が多用されて読みにくく、私にはノーベル賞作家は敷居が高過ぎたことが証明される結果になりました。 |
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| No.2083 | 4点 | 中庭の出来事 恩田陸 |
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(2019/01/07 20:58登録) (ネタバレなしです) 私はネタバレにならないように感想を書いていますが、仮にネタバレありで書こうとしても本書に関しては書けません。それほどまでに2006年発表の本格派推理小説の本書は難解で、どこまで正しく理解できたか自信がありません。現実の場面と芝居の場面が交錯する構成ですが境界線が曖昧だし、「男」、「女優1」、「女優2」、「女優3」と表記される登場人物(名前はあるのですがほとんど使われません)は誰が誰だか混乱するし、時系列もあやふやです。似たような場面を微妙に異なる視点で何度も読まされ、鏡に映った鏡を見ているような気分になりました。 |
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| No.2082 | 6点 | 精神病院の殺人 ジョナサン・ラティマー |
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(2018/12/29 21:44登録) (ネタバレなしです) ハードボイルド作家としての活動時期がレイモンド・チャンドラーと重なる(友人でもありました)米国のジョナサン・ラティマー(1906-1983)ですが知名度が大きく劣るのは作風が軽ハードボイルド(通俗ハードボイルド)と評価されているからでしょうか、それとも本格派推理小説としての謎解きも重視していることがガチのハードボルド読者から敬遠されるのでしょうか?全5作のビル・クレインシリーズ第1作で作者のデビュー作でもある1935年発表の本書はどうかと言うと、まず冒頭の「冷酷無比な殺人者が私設サナトリウムの中をうろついていた。三人を殺し、まんまと逃げおおせるかと思われたが、庭の噴水が復讐の女神ネメシスとなって立ちはだかった」が衝撃的です。これは当時人気絶頂のM・R・ラインハートの「ドアは語る」(1930年)を意識したのでしょうか?読み進めていくとハードボイルド要素もありますが、クレインが演繹的推理や消去法推理について語る場面は本格派以外の何物でもありません。同時期のエラリー・クイーンの国名シリーズにも遜色ない謎解き伏線が用意されています。クレインの推理で犯人が逮捕された後の展開もまさかの驚きです。サナトリウムを舞台にした本格派としてパトリック・クエンティンの「迷走パズル」(1936年)と読み比べるのも面白いと思います。 |
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| No.2081 | 6点 | 眼球堂の殺人~The Book~ 周木律 |
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(2018/12/29 21:24登録) (ネタバレなしです) 元素の周期律に因むと思われるペンネームの周木律の2013年発表のデビュー作で、堂シリーズ第1作です。このシリーズは本格派推理小説の枠を外れたような作品もあるそうですが本書は森博嗣が「懐かしく思い出した。本格ミステリィの潔さを」と絶賛しているようにガチガチの本格派で、「読者への挑戦状」まで付いています。読んでみると綾辻行人の館シリーズからの影響は隠すべくもありませんが、他にも歌野晶午の信濃譲二シリーズ、霧舎巧の《あかずの扉》研究会シリーズ、果ては島田荘司や森博嗣のあの作品やこの作品が次々に思い出され、そういう意味では確かに「懐かしさ」を感じました。主人公である放浪の数学者の十和田只人は時々難解な用語を使いますが数字や数式が飛び出るわけではないのでこの私でも安心して読めました。 |
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