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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.2012 7点 こちら殺人課!
エドワード・D・ホック
(2018/06/14 17:00登録)
(ネタバレなしです) 数多くのシリーズ探偵を生み出したホックですがその中でもレオポルド警部シリーズが最も多く、100作を超す作品で活躍しています。それでいながら生前に米国で短編集としてまとめられたのが1985年出版の1冊のみ(但し19作も収められてますが)というのは意外です。国内では1981年に独自編集で8作を集めた本書が最初だと思います。2人の対照的な警察官の捜査が印象的な「サーカス」、無差別連続殺人の「港の死」、倒叙本格派にひねりを加えた「フリーチ事件」、観覧車からの人間消失の「ヴェルマが消えた」などが私のお気に入りです。死人の運転する自動車の「不可能犯罪」はホックは車を運転したことがあるのかと問いたいぐらい目茶苦茶なトリックに唖然としましたが(あのトリックでは普通はまともに走れないし奇跡的に走ったとしても目だってどうしようもない)、全般的には短編本格派推理小説としてプロットがしっかりしていてアイデア豊かな作品が多かったので十分満足できました。


No.2011 6点 空の幻像
アン・クリーヴス
(2018/06/12 08:50登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表のジミー・ペレスシリーズ第6作の本格派推理小説です。過去のシリーズ作品を読んでいる読者にはペレスの回復具合がどう進んだかを興味を持って読めるでしょうし、そうでない読者でも楽しめる内容です。夏のシェトランドを舞台にしていますが雰囲気はひんやり感を伴っています。この作者らしく重厚な人間ドラマを描いていますが、そこに幽霊談を織り込んでいるのが本書の特徴です。幽霊談といってもジョン・ディクスン・カーやポール・アルテのオカルト演出とも少し毛色が違い、幽霊の正体についてもきちんと結末が用意されています。地味な展開ながら霧と闇の中で登場人物たちが様々な動きを見せる終盤はサスペンスをはらんでいます。謎解きとしては46章の最後で犯人を疑った理由についてのペレスの説明が曖昧なのがちょっと残念ではありますが。


No.2010 5点 醜聞の館-ゴア大佐第三の事件
リン・ブロック
(2018/06/09 09:36登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表のゴア大佐シリーズ第3作の本格派推理小説です。英国初版は「ゴア大佐第三の事件」というそっけないタイトルで、「The Kink」(「醜聞の館」はかなりの意訳で第19章でゴアが語る「歪み」が直訳に近いです)というタイトルは米国版で付けられました。いきなりゴアが行方不明事件を捜査している場面で幕開けしますがこれはわずか2章で(すっきりしない部分もありますが)解決してしまいます。3章からは盗難事件の解決を依頼されます。地味な文章で地味な事件の捜査を描くので盛り上がりに乏しいプロットです。事件の背景にかなり乱れた人間関係があることが明らかになるのですがあまりにも抑制された文章なので、注意力の足りない私は一読では理解しきれませんでした。使用人階級の人物も(公平に?)容疑者にしたり殺人事件の謎解きをゴアが意図的に説明を避けたりと、同時代のミステリーと比べて作品個性は確かにありますがどちらかといえば通の読者向けではという気がします。


No.2009 4点 100人館の殺人
山口芳宏
(2018/06/05 05:50登録)
(ネタバレなしです) 2010年発表の本格派推理小説ですがかなりの問題作で、読者の好き嫌いが分かれそうな気がします。登場人物リストに並んだ人数が実に118人!これでは何度本文とリストを(確認のために)往復することになるのやらと危惧しながら読みましたが、案外とすらすら読めました。主要な人物数はかなり限られていて、それどころか(きちんとチェックしたわけではありませんけど)リストのかなりの人物が作中では名前さえも紹介されない、「その他大勢」扱いです。まあ本当に全員をちゃんと描き分けしたら「水滸伝」(108人の英雄の冒険談)並みの大河小説になったでしょうけど。100人超えリストがある意味こけおどしだったのは個人的にはむしろ助かったのですが、問題は真相の方です。ネタバレにならないように紹介するのが難しいのですが、作中人物が「人間は似た種類の者同士で集まる傾向がある」と説明していますが、あまりにも特殊な種類があまりにも都合よく集まったという設定は私の乏しい想像力の範疇を越えていてすっきり納得できませんでした。


No.2008 5点 知っているのは死体だけ
島久平
(2018/06/03 22:27登録)
(ネタバレなしです) イメージチェンジを狙ったか「そのとき一発!」(1965年)、「ダブルで二発!」(1966年)と(私は未読ですが)いかにも通俗サスペンス風な作品を発表した島久平(1911-1983)が続いて1967年に発表した伝法義太郎シリーズ第3作(そして多分シリーズ最終作)の本書は何とも言い難い怪作です。まずサブタイトルが凄いです、「女魔ドコ」。魔女ではありません、女魔です。そしてやはりというか作中で「ドコから来たのか」と駄洒落が炸裂(笑)、でもユーモアミステリーではありませんけど。しかしこのドコ、とんでもない女性です。登場人物から化け物呼ばわりされる面相、大の男の首や腕の骨を片手で折ってしまう怪力、そして何度も不可能状況下で出現と消失を繰り返して伝法や警察を翻弄、まさに女魔です。夜の世界の組織同士の対決を描いたスリラー系ミステリーですが、「第一の密室」、「第二の密室」、「第三の密室」という章があるように本格派推理小説の要素もあり、結構丁寧に推理しています。「十字架の前」の章で明かされるトリックはまじめな読者が怒りかねないようなとんでもない代物ですが、その一方で心情の描写や舞台となる神戸の風景描写など印象に残る場面もあります。読者を選ぶ作品ではありますが決していい加減に書かれた作品ではないと擁護しておきます。


No.2007 5点 阿蘇惨劇道路
西東登
(2018/06/03 21:03登録)
(ネタバレなしです) この作者の作品はジャンル区分に悩むことが多いのですが1972年発表の本書も色々な要素が混じっており、社会派が一番強いかなと思います。ちなみに作者のトレードマークである動物ミステリーではありません。前半は手形をパクラれてしまい窮地に陥る中小企業の社長(何か松本清張の「眼の壁」(1957年)を連想しますね)、過去に保険金詐欺に加担した保険セールスマン、売上金横領をたくらむ男などあちこちに犯罪の火種がくすぶっていることが示唆され、ここまでは社会派と犯罪小説の色合いが濃いです。そして6章でついに死亡事件が発生して後半に突入します(タイトル通り阿蘇で起きますがトラベルミステリー要素はありません)。一応真相は最後まで伏せているので後半は犯罪小説から離脱します。読者に対して謎解き伏線を十分に張っている作品ではありませんが真相は予想の範疇ではないでしょうか。事件解決もそうですが犯罪に手を染めるに至った経緯も運命のいたずらに翻弄された感があるのが印象的です。


No.2006 5点 モリアーティ
アンソニー・ホロヴィッツ
(2018/06/01 09:40登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表のコナン・ドイル財団公認シャーロック・ホームズシリーズ第2作ですが外伝的性格が強い作品です。なぜなら作中時代がドイル原作の「シャーロック・ホームズの回想」(1894年)の「最後の事件」の直後という設定なのですから。ホームズは会話の中にしか登場せず、代わって主役を演じるのはフレデリック・チェイス(米国のピンカートン探偵社の探偵という役柄)とアセルニー・ジョーンズ警部(こちらはドイルの「四人の署名」(1890年)に登場しています)です(ホームズが最後まで登場しないのかについてはここでは明言しません)。「四人の署名」ではホームズの引き立て役に過ぎなかったジョーンズが推理で頑張っているのが印象的です。ジョーンズ以外にもドイル原作の人物が何人か登場していますが第14章で登場した人物にはびっくりしました。アメリカの犯罪組織一味との対決を描いたプロットで、冒険スリラーとしてなかなか読ませます。角川文庫版の巻末解説で有栖川有栖がフェアプレイについてコメントしていますが、(第21章で伏線についての説明がありますが)読者に対してこの謎解けますかと要求する本格派推理小説ではないので、作者に騙されたかどうかという感覚はなかったです。


No.2005 4点 <稲妻>連鎖殺人
吉岡道夫
(2018/05/29 19:10登録)
(ネタバレなしです) シナリオライターや劇画家として活躍していた吉岡道夫(1933年生まれ)がミステリー作家に転身して1990年発表したデビュー作の本格派推理小説です(当初のタイトルは「メビウスの魔魚」です)。発表時期は綾辻行人を筆頭とする新本格派推理小説全盛時代ですが、講談社文庫版の巻末解説はむしろ1960年代の「新本格派」と共通性があると評価しています。私は国内ミステリーをあまり読んでいないので2つの「新本格派」の違いもよくわからないのですが、本書は読者が犯人やトリックを自力で当てるパズル要素はほとんどない本格派です。錦鯉の愛好家の失踪と錦鯉の生産者の殺人事件、被害者が手塩にかけて育てた不世出の錦鯉「稲妻」と錦鯉を巡っての謎解きですが、多彩な人間関係描写や政治家の捜査への横槍など他にも色々な要素を詰め込んでいます。その割にすっきりして読みやすいのはよいのですが、それぞれの要素がメリハリなく並べられただけという印象が拭えません。通俗描写も好き嫌いが分かれそうです。


No.2004 5点 ロードシップ・レーンの館
A・E・W・メイスン
(2018/05/26 23:08登録)
(ネタバレなしです) 19世紀にデビューしたA・E・W・メイスン(1865-1948)の最後の作品となったのが1946年発表の本書でアノーシリーズ第5作でもあります。このシリーズで唯一イギリスを舞台にした作品でフランス人のアノーがとんちんかんな英語を何度も披露しているのが特徴の一つですが、都筑道夫の「キリオン・スレイの敗北と逆襲」(1983年)でのキリオンの怪しげな日本語と同じく度が過ぎて物語のテンポを悪くしてしまったように思います(論創社版でこれを再現しようとかなり苦労しているのは努力賞ものですけど)。失踪と出現を繰り返す謎の人物と殺人事件の関係が整理不十分で、会話も時に誰が話しているのかわかりにくく(私の読解力の弱さもいけないのですが)どうにも読みにくかったです。冒険スリラー風になったり終盤に犯人視点での事件再現場面を挿入しているところはこの作者らしいですが、本格派推理小説としては回りくどいと感じる読者もいるかもしれません。


No.2003 5点 キプロスに死す
M・M・ケイ
(2018/05/26 21:57登録)
(ネタバレなしです) インド生まれの英国の女性作家メアリー・マーガレット・ケイ(1908-2004)は歴史小説、児童書(何作かはイラストも自作です)、ラジオドラマ脚本なども書いていますが、軍人の夫に帯同して海外諸国で生活した経験を基に外国を舞台にしたミステリーを1953年から1960年の間に6作残しました。1956年発表の本書(英語原題は「Death Walked in Cyprus」)はミステリー第2作です(ハヤカワミステリ文庫版では1984年出版と記載されていますがこれは「Death In Cyprus」に改題出版された年です)。ロマンチック・サスペンスと本格派推理小説のジャンルミックスタイプです。人物描写や舞台描写は上手いし(個人的には主人公にいまひとつ共感しにくかったですけど)、謎解き伏線も意外と豊富に用意されていてなかなか楽しめました。とはいえ本格派推理小説としてはジュリア殺しのあまりにも残念なトリック(ピーター・ラヴゼイも使っていたと思う)に減点評価せざるを得ませんが。


No.2002 6点 吠える犬
E・S・ガードナー
(2018/05/26 21:09登録)
(ネタバレなしです) 1934年発表のペリイ・メイスンシリーズ第4作の本格派推理小説です。隣家の犬が吠えてうるさい、いや吠えていないというミステリーネタとして食指が動きそうにない問題で幕開けしますがメイスンは結構大真面目に取り組んでます。依頼人が駆け落ち(?)でいなくなってしまいメイスンは新たな依頼人を見つけてきますが、最初の依頼人の利益を損ねる可能性があるからと複数の依頼を引き受けるのに慎重な後年作品のメイスンとは少し違いますね。また弁護士の信条についてメイスンが何度も熱く語っているのが印象的ですが、依頼人を守るためとはいえ相当過激な手法をとってます。謎解きはかなり粗く、18章でメイスンが語る真相の一部には驚かされますが推理の根拠をほとんど説明していないので合理的とは言えても論理的とは言えないように思います。なお最後に生きるか死ぬかの問題を抱えているらしい女性の訪問で「奇妙な花嫁」(1934年)へ続くという幕切れにしていますがこの場面、新潮文庫版では読めますが創元推理文庫版とハヤカワポケットブック版では削除されています(創元推理文庫版ではその場面は「義眼殺人事件」(1935年)に挿入されています。でもそれだと出版順と矛盾してるんですけどね)。


No.2001 6点 人体密室の犯罪
由良三郎
(2018/05/21 09:05登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説で、病院を舞台にして登場人物の大半も医療関係者にしているところは医学者だった作者らしいですね。当初のタイトルは「円周率πの殺人」でしたが改題したのは正解だと思います。外傷は見つからないのに胃と腸が切り離されて死んでしまうという前代未聞のトリックに挑戦です。とても自然死では押し通せそうになく、実行可能な人間が絞られるなど犯人にデメリットしかなさそうなトリックですが作者の挑戦意欲を買いましょう。トリックが(当時としては)先進的なアイデアなのに対して動機が泥臭いまでに古典的(というか通俗的)なのが印象的です。犯人当てとしては自白便りになっているところが少々物足りないですが。


No.2000 5点 ムッシュウ・ジョンケルの事件簿
M・D・ポースト
(2018/05/19 02:22登録)
(ネタバレなしです) 1923年発表の本書は中編「異郷のコーンフラワー」(短編2作分の分量です)と11作の短編から成る短編集で、パリ警視総監のジョンケル氏が活躍します(もっとも警察官としての捜査描写はほとんどありませんが)。舞台はフランスだけでなくイギリス、スイス、ベルギー、そして真相が有名な「大暗号」(1921年)ではアフリカのコンゴと多岐に渡ります。舞台以上に多彩なのがプロットで、何が起きているのかさえわからない作品も少なくありません。本格派推理小説として明快な筋立ての多かったアンクル・アブナーシリーズとは対照的で、チェスタトンのブラウン神父シリーズほどではないにしろ回りくどくて読みにくさを覚える時がありました。何の伏線もなく真相が明らかになるので意外というより唐突感の方が強かったです。


No.1999 5点 人喰い
笹沢左保
(2018/05/15 00:57登録)
(ネタバレなしです) 1960年発表の長編ミステリー第4作の本格派推理小説です。企業における労使の対立を描いたり、失踪して殺人容疑者となった姉の無実を証明しようとする妹を主人公にしたりと当時人気の高かった社会派推理小説の影響が色濃くにじみ出ています。この作者らしくトリックもありますが、アマチュア探偵となった主人公の推理が時にミスディレクションの役割を果たしているところが工夫になっていてトリックよりもプロットで勝負した作品だと思います。1960年の初期4作の中では謎解きの出来では劣るように感じますが、物語性では1番充実していると思います(主人公の不幸が強調された物語ですが)。


No.1998 5点 雪の夜は小さなホテルで謎解きを
ケイト・ミルフォード
(2018/05/11 09:05登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ケイト・ミルフォードが2014年に発表した本書は創元推理文庫版の巻末解説で紹介されているように色々な要素を詰め込んでいますが、個人的には冒険小説とファンタジー小説の要素が強いように思います。アメリカ探偵作家クラブ賞のジュブナイル部門で最優秀賞を獲得したそうですが、雰囲気はライトながらどうもごちゃごちゃして読みにくかったです。主人公のマイロとメディがロールプレイイングゲームのキャラクター(ネグレとサイリン)を演じるのですが、4つの名前が入り乱れるのは無用な混乱を招いただけに感じました。ホテルの見取り図も欲しかったですね。ミステリーとしては小さな謎を小出しにされていて焦点が定めにくく、11章の終わりのマイロの推理説明はまずまず読ませますが12章での驚愕の事実の前に謎解き興味は吹っ飛びます。日本語タイトルから謎解きにあまり期待をかけるとがっかりするかもしれません(英語原題は「Greenglass House」です)。


No.1997 6点 卑弥呼の殺人
篠田秀幸
(2018/04/27 09:41登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表の弥生原公彦シリーズ第9作の本格派推理小説で、歴史の謎解きと現代事件の謎解きの二本立てというのは「法隆寺の殺人」(2001年)以来です。歴史の謎は高木彬光の「邪馬台国の秘密」(1973年)でも扱われていた「邪馬台国はどこにあったか」という謎で、高木説に松本清張説まで引用して考証しています。作中に20以上の図表が登場しますが現代事件に関する図表はわずか2つですので歴史の謎解きに相当力が入っていることがわかりますが、付随的に見える現代事件の謎解きもある意味「究極のミステリー」を狙った大胆な仕掛けが用意されていました。この仕掛けと「読者への挑戦状」が両立しているのか微妙な気もしますが、往々にして読者が馬鹿にされたと感じてしまうところを馬鹿にされたのはワトソン役であると感じさせるように工夫していてそれほど不満は覚えませんでした。但し弥生原が「究極の密室トリック」と自賛しているトリックが先輩作家トリックのもろパクリなのは許さん(笑)。


No.1996 5点 間に合わせの埋葬
C・デイリー・キング
(2018/04/20 09:10登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のABC三部作(出版はCABの順)の最終作となった本格派推理小説で、ミステリー作家としてのキング(1895-1963)はこの後は短編を散発的に発表したのみでした。英語原題が「Bermuda Burial」とあるように舞台は北大西洋のバミューダで、情景描写はそれほどでもありませんがプロットの中でバミューダを選んだ理由づけがしっかりしています。誘拐予告に端を発していますが事件がなかなか起きない展開はやや冗長に感じました。論創社版の巻末解説は不可能犯罪、フェアプレイ、多重解決を期待する読者には不満の残る内容と厳しい論調ですが、確かに殺人事件に関する説明があまりに短くて推理説明として不十分だったりしてますが「いい加減な遺骸」(1937年)のように(トリックの)ひどさが突出しているほどではありません。ロード警視が女性にめろめろになって捜査に冴えがないのが印象的で、探偵役の恋愛を絡めたミステリーの先駆的作品であるE・C・ベントリーの「トレント最後の事件」(1913年)が頭に浮かびました。


No.1995 4点 二十世紀鉄仮面
小栗虫太郎
(2018/04/15 12:24登録)
(ネタバレなしです) 法水麟太郎シリーズは長編2作と短編数作が書かれましたが、1936年発表の本書がシリーズ長編第2作です。奇書と評価されている「黒死館殺人事件」(1935年)はヴァン・ダインの影響が明らかな本格派推理小説ですが本書は「探偵小説から極力離れようとして」書かれた冒険スリラー系で、作者は「新伝奇小説」と銘打っています(但し推理による謎解きも少しあります)。冒頭で伝染病による死亡事件が発生しますが法水はこれをある人物による人為的な事件であると断じます。その手段についてはほとんど説明されませんが動機のとてつもなさには驚かされ、巨大な悪の存在であることが早い段階で印象づけられます。もっともこの悪の主人公、それなりの数の部下がいますが結構自ら前面に出て法水と直接対決しているし、時に二人が休戦状態になったりと単純な敵対関係でないところがユニークです。また法水が感情的になる描写がかなりあることも「黒死館殺人事件」と大きく異なります。「黒死館殺人事件」に比べれば読みやすい作品ですが、それでも癖のある文章のおかげで物語の変化についていくのは非常に苦労しました。


No.1994 5点 葬儀屋の次の仕事
マージェリー・アリンガム
(2018/04/12 08:25登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第12作の本格派推理小説で、後期のシリーズ作品で活躍するルーク(本書ではロンドン警視庁分区暑の署長)が初登場します。論創社版の巻末解説で非常に適切に説明されているように「文体や表現が単純でない」「会話はちぐはぐ」「読者にとってなじみのない固有名詞がいきなり出てくる」など私には難解な作品でした。一方でミステリー雑誌「EQ」の「代表作採点簿」で「プロット」8点、「登場人物描写」9点、「読みやすさ」9点と高く評価する向きもあり、読者を選ぶ作品のようです。馬車を自動車で追跡する場面や毒殺の機会についてのキャンピオンの説明などレトロと(当時の)モダンが入り混じったような何とも不思議な印象を残します。


No.1993 4点 殺意の絆
島田一男
(2018/04/07 22:26登録)
(ネタバレなしです) 8冊の長編と1冊の短編集が発表された南郷弁護士シリーズの最後の長編として「去来氏曰く」(後に「夜の指揮者」に改題」)(1960年)から大分間を開けて1970年に出版されました。このシリーズには「上を見るな」(1955年)や「その灯を消すな」(1957年)といった命令形のタイトルが印象的な作品がありますが、本書も発表時には「ふざけるな」という唖然とするようなタイトルでした。そのタイトルに見合った内容かというと微妙なのですが。光文社文庫版の巻末解説(家系図が親切です)で「軽佻な風俗性を背景にしている」と評価しているように(用語が時代の古さを感じさせますが)フーテン、ゲバルト学生、アングラ喫茶、(直接的な摂取描写はないものの)阿片、大麻、シンナーが登場し、高級人形制作の名門一族を登場させながらその当主(9代目)が後継者候補のフリーセックスを容認しているという乱れた人間関係です。本格派推理小説ではありますが通俗色があまりにも濃いのは好き嫌いが分かれそうです。締め括りはシリアスかつ重苦しく終わらせていますが。

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