螺旋階段 |
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作家 | M・R・ラインハート |
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出版日 | 1955年02月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | nukkam | |
(2019/01/07 21:58登録) (ネタバレなしです) 米国の女性作家メアリ・ロバーツ・ラインハート(1876-1958)は借金苦の家計を助けるために作家業に手を染めましたがこれが大当たり、何作もベストセラー作品になりました。非ミステリー作品もありますがロマンチック・サスペンスの先駆者であり、また「もしも知っていたら(HIBK)」派の始祖として名高いです。1908年発表の長編第2作である本書は最初の成功作で、戯曲版が書かれたり映画化されたりと最も有名です。もっとも主人公は50歳前後の女性でロマンスの中心人物でないところから本書はロマンチック・サスペンスとは言えないでしょう。またHIBK(「Had I But Known」)の手法もそれほど目立っていないようですが、これは多用するとプロットの水増しと批判されるらしいので本書の場合は適量レベルかと思います。主人公をスーパーヒロインタイプでなく、さりとて怖がってばかりの弱者でもない設定にしていること、執事、家政婦、メイド、庭師などにも重要な役割を与えていること、ゴシック・スリラー風ながら過度に暗く重くしていないところなど個性を感じさせます。21章で主人公が14の疑問点を整理するなど本格派推理小説的な要素もあります(推理で解決されるわけではありませんが)。誰もが怪しい行動をとるところは不自然で古臭さもありますが、書かれた時代を考えると洗練されたサスペンス小説だと思います。 |
No.1 | 8点 | mini | |
(2013/10/18 09:55登録) 先行情報によると、来年のいつになるか分からないが、論創社からM・R・ラインハートの中編集「The Amazing Adventures of Letitia Carberry」が予定されている 長編は細々とではあるが一応翻訳されていたラインハートだが実は未訳の中短編集の数はかなり多く、未知の分野に着目した論創社スゲ~な HIBK(もしも私が知っていたら)派と言うと、各ネット書評などでも否定的意見ばかりである、やれ苦手だ、登場人物が知っている事を隠しているのがフェアじゃない、とかさ これら否定的意見を眺むるに気付くのは、ほとんどが本格派視点、つまり本格を期待したが裏切られたみたいな言い分なのだ はっきり言うが、これはHIBK派が悪いのではない、本格派視点で読む読者側が悪いのである ではそもそもHIBK派って何なのか? 大まかに言えば、1910~20年代にかけてアメリカだけで大流行した扇情的大衆向けロマンティックサスペンス風ミステリー小説である しかいこう書くともうそれだけで敬遠する読者も多そうだから少々説明が必要だろう HIBK派で前提として知っておくべき要素が2つ有る 1つはHIBK派は本格派ではない、あくまでもサスペンス小説の一種であり、例の森事典でもラインハートは『サスペンス編』の方に収録されている もう1つは、HIBK派の初期の作は主に新聞雑誌連載小説として書かれたものが多いという点だ、これについては説明が必要だから「螺旋階段」の書評と合わせて書いてみよう HIBK派の中心作家メアリ・ロバーツ・ラインハートの初期代表作「螺旋階段」であるが、頁数も少ない短い長編である しかし短い割にはおそろしく章の数が多い、異常に多い、当然ながらその分1章あたりの分量が極めて少ない どう考えてもこれは各1章分が新聞連載時の1回分に相当するものであろう ところで以前に聞いた事が有るのだが、俳優と脚本家とでは連続ドラマと単発ドラマとで、新人とベテランとに反比例の関係があるのだと言う 名前と顔の売れていない新人俳優・女優でも連続ドラマなら何とかなると言う 毎回視聴者が見ているうちに覚えてもらえるわけだ、例えば宮本信子と小泉今日子は知っていても、女優の能年玲奈を『あまちゃん』放送開始以前に知ってた人がどれだけ居るだろうか ところが単発ドラマでは事情が違う、一回限りの放送で観る人に印象付けられる新人俳優と言うのは余程の魅力が無いと無理だ、やはり名の通った大物俳優じゃないと演じきれない 一方の脚本家は全く逆である、新人脚本家であっても単発ドラマなら何とか書ける、脚本一般募集コンテストも単発だから新人が応募出来るのだ しかし連続ドラマの脚本はベテランじゃないと難しい、何故ならただ単に全体を各放送回分に切り分ければ良いというものではないからだ 各放送回毎にいわゆる”ヤマ場”というものを設けて、しかも連続ドラマ全体を通して纏めていかなければならない、これには脚本家としてかなりの腕前が必要なのである 新聞連載小説という発表形式は連続ドラマの脚本作業と似ている、飽きられないように毎度単発的にヤマ場を用意しなければならない 「螺旋階段」では各章毎に次章へ読者の興味を繋ぐ工夫がされており、全体の分量を考えたら事件が次から次に起こって多過ぎるくらいだ こんなのを長編第2作目で書いちゃうラインハートって恐るべきテクニシャンである サスペンス小説として高得点を付けざるを得ない理由がここにある |