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ミステリの祭典

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精神病院の殺人
ビル・クレイン

作家 ジョナサン・ラティマー
出版日2018年12月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2019/01/24 11:24登録)
(ネタバレなし)
 クレインが作中でデュパンの名を連呼したり、演繹的推理・消去法を語るあたりは、だからといってことさらミステリ的なギミックが増した訳ではないのだけれど、これって作者から編集者や読者に向けた「ハードボイルド(風)私立探偵小説を書け、読ませろ、というニーズだけど、自分はパズラー度の高い作品を書きたい(でもハードボイルド(風)私立探偵小説もちゃんとこなししますヨ)」という主張だったんだろうねえ。そんな気概のとおり、非常にまとまりの良い謎解きフーダニットになりました。
 殺人の動機の決め手となるある部分に関して、虚実を測る振幅の針が揺れ続けるあたりも、大設定の精神病院という舞台を機能させていて抜かりはない。

 ただ一編の一流半のパズラーとしての完成度はかなり高いと思うんだけど、一方で、のちのラティマー作品(とりあえず自分が読んだ分だけだけど)に普遍的に通底するどっか破格なハミ出した部分が希薄な感。そこがちょっと物足りない。その意味では、まだまだ一皮剥ける前の習作感もないではなかったり。
 登場人物の描き方は総じて早くも達者だね。入院患者やスタッフ連中の差別化したキャラ付けもさながら、本職の保安官である父親に随伴してやってくる息子クリフなんか、短い台詞回しでしっかり印象づけている。翻訳の演出もうまいのだろうけれど。 
 あと酒に対するクレインその他の登場人物の執着ぶりは、さすがに愉快。

No.1 6点 nukkam
(2018/12/29 21:44登録)
(ネタバレなしです) ハードボイルド作家としての活動時期がレイモンド・チャンドラーと重なる(友人でもありました)米国のジョナサン・ラティマー(1906-1983)ですが知名度が大きく劣るのは作風が軽ハードボイルド(通俗ハードボイルド)と評価されているからでしょうか、それとも本格派推理小説としての謎解きも重視していることがガチのハードボルド読者から敬遠されるのでしょうか?全5作のビル・クレインシリーズ第1作で作者のデビュー作でもある1935年発表の本書はどうかと言うと、まず冒頭の「冷酷無比な殺人者が私設サナトリウムの中をうろついていた。三人を殺し、まんまと逃げおおせるかと思われたが、庭の噴水が復讐の女神ネメシスとなって立ちはだかった」が衝撃的です。これは当時人気絶頂のM・R・ラインハートの「ドアは語る」(1930年)を意識したのでしょうか?読み進めていくとハードボイルド要素もありますが、クレインが演繹的推理や消去法推理について語る場面は本格派以外の何物でもありません。同時期のエラリー・クイーンの国名シリーズにも遜色ない謎解き伏線が用意されています。クレインの推理で犯人が逮捕された後の展開もまさかの驚きです。サナトリウムを舞台にした本格派としてパトリック・クエンティンの「迷走パズル」(1936年)と読み比べるのも面白いと思います。

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